(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[歯科用処置材]
本発明の一態様による歯科用処置材は、ガラス粉末の分散液(A液)と無機リン酸水溶液(B液)とを含み、ガラス粉末が、亜鉛、ケイ素及びフッ素を含み且つアルミニウムを実質的に含まないものである。
【0010】
一般に、歯質が一定時間以上、酸性環境に晒された場合、歯質の成分が溶出する現象、つまり歯質脱灰が起こることが知られており、この歯質脱灰が過剰に起こると、う蝕等の歯科疾患に進行し得る。そのため、歯科医療分野では、優れた歯質脱灰効果を奏する歯科用処置材が望まれている。そこで、本発明者らは、歯質脱灰抑制効果を向上させることが可能な歯科用処置材について鋭意検討を行った結果、ガラス粉末の分散液(A液)と無機リン酸水溶液(B液)とを含み、ガラス粉末の分散液(A液)が特定の組成のガラス粉末を含有する歯科用処置材が、歯質の脱灰を効果的に抑制できることを見出した。
【0011】
上記A液及びB液は混合して使用することができるものであり、その混合物により上記効果を発揮できる。以下、各液について説明する。
【0012】
(ガラス粉末の分散液(A液))
本発明の一態様において、A液中のガラス粉末は、亜鉛、ケイ素及びフッ素を含み、アルミニウムを実質的に含まない。
【0013】
ガラス粉末が亜鉛を含むことにより、歯質の結晶を強化し、酸に対する耐性を付与することができるので、歯質脱灰を効果的に抑制することができる。また、歯科用処置材に抗菌作用が付与されるので、口腔内での細菌の増殖を抑制することもできる。
【0014】
ガラス粉末中の亜鉛の含有量は、酸化亜鉛(ZnO)で換算した量で10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末中の亜鉛の含有量が、酸化亜鉛(ZnO)で換算した量で10質量%以上であることにより、歯科用処置材の歯質脱灰抑制効果をさらに向上させることができる。一方、60質量%以下であることにより、透明性の高いガラス粉末が得られやすくなるので、歯科用処置材の透明性も向上させることができる。
【0015】
ケイ素は、ガラス中で網目形成の役割を果たす。ガラス粉末中のケイ素の含有量は、酸化ケイ素(SiO
2)で換算した量で15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末中のケイ素の含有量が、酸化ケイ素(SiO
2)で換算した量で15質量%以上であることにより、透明性の高いガラス粉末が得られやすくなる。
【0016】
ガラス粉末がフッ素を含むことにより、歯質を強化することができる。ガラス粉末中のフッ素(F)の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末中のフッ素(F)の含有量が1質量%以上であることにより、歯質を強化する作用がさらに向上する。
【0017】
また、ガラス粉末がアルミニウムを実質的に含まないことにより、歯科用処置材の歯質脱灰を効果的に抑制することができる。ここで、ガラス粉末がアルミニウムを実質的に含まないとは、成分として積極的に添加(配合)しないことを意味し、アルミニウムの含有量が、酸化アルミニウム(Al
2O
3)で換算した量で1質量%以下であることを意味する。
【0018】
これは、ガラス粉末の原料組成物にアルミニウム化合物を配合しない場合でも、ガラス粉末の製造工程において、不純物として、アルミニウム化合物が混入する場合や、ガラス粉末の組成を評価する蛍光X線分析装置の検出誤差等を考慮したものである。通常、ガラス粉末の原料にアルミニウム化合物を配合しなければ、ガラス粉末中のアルミニウムの含有量が、酸化アルミニウム(Al
2O
3)で換算した量で1質量%を超えることはない。
【0019】
ガラス粉末中のアルミニウムの含有量は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)で換算した量で0質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
ガラス粉末は、任意の成分をさらに含むことができる。例えば、カルシウム、リン、ストロンチウム、ランタン、ナトリウム、カリウム等から選択される1種以上をさらに含んでいてよい。
【0021】
ガラス粉末中のカルシウムの含有量は、酸化カルシウム(CaO)で換算した量で0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
ガラス粉末中のリンの含有量は、酸化リン(V)(P
2O
5)で換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
ガラス粉末中のストロンチウムの含有量は、酸化ストロンチウム(SrO)で換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末がストロンチウムを含有することにより、歯科用処置材を歯質に塗布した場合のX線造影性が向上する。
【0024】
ガラス粉末中のランタンの含有量は、酸化ランタン(La
2O
3)で換算した量で0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末がランタンを含有することにより、歯科用処置材の耐酸性が向上する。
【0025】
ガラス粉末中のナトリウムの含有量は、酸化ナトリウム(Na
2O)で換算した量で0質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末がナトリウムを含有することにより、ガラス粉末の屈折率を下げ、透明性の高いガラス粉末が得られやすくなり、歯科用処置材の透明性を向上させることができる。
【0026】
ガラス粉末中のカリウムの含有量は、酸化カリウム(K
2O)で換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末がカリウムを含有することにより、ガラス粉末の屈折率を下げ、透明性の高いガラス粉末が得られやすくなり、歯科用処置材の透明性を向上させることができる。
【0027】
ガラス粉末は、上述の各成分に対応する原料を混合した原料組成物を溶融させて均質化した後、冷却し、粉砕することにより製造することができる。
【0028】
亜鉛に対応する原料としては、特に限定されないが、酸化亜鉛、フッ化亜鉛等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0029】
ケイ素に対応する原料としては、特に限定されないが、無水ケイ酸等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0030】
フッ素に対応する原料としては、特に限定されないが、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ナトリウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0031】
カルシウムに対応する原料としては、特に限定されないが、フッ化カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0032】
リンに対応する原料としては、特に限定されないが、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸二水素ナトリウム、五酸化二リン等の酸化リン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0033】
ストロンチウムに対応する原料としては、特に限定されないが、フッ化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酸化ストロンチウム、リン酸ストロンチウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0034】
ランタンに対応する原料としては、特に限定されないが、フッ化ランタン、酸化ランタン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0035】
ナトリウムに対応する原料としては、特に限定されないが、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0036】
カリウムに対応する原料としては、特に限定されないが、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0037】
本発明の一態様によるガラス粉末の粒子の数平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.02μm以上1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末粒子の数平均粒子径が0.02μm以上であることにより、ガラス粉末の良好な分散状態が得られる。数平均粒子径が1μm以下であることにより、患部である歯面への歯科用処置材の確実な塗布が可能になり(確実な歯面塗布性が得られ)、また象牙細管のような細長い細管や孔も良好に封鎖することが可能になる。
【0038】
なお、上記数平均粒子径は、レーザ回折散乱式粒度分布計によって測定されたメジアン径を指す。
【0039】
本発明の一態様による歯科用処置材においては、上記のガラス粉末は、分散媒に分散させた形態で用いられる。分散液(A液)中のガラス粉末の含有量、すなわちA液の濃度は、1質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であるとより好ましい。分散液中のガラス粉末の濃度が1質量%以上であることにより、歯質脱灰抑制効果をさらに向上させることができ、また確実な歯面塗布性も発揮される。また、50質量%以下であることにより、使用に良好な粘性を確保することができ、操作性を向上させることができる。
【0040】
分散媒としては、ガラス粉末を良好に分散させるものであって、ガラス粉末とB液中の無機リン酸との反応を妨げないものであれば、特に限定はなく、水、水溶液、有機溶媒等が挙げられるが、水が好ましい。分散媒として水を用いる場合、水に可溶な2種以上の別の媒体を併用することもできる。
【0041】
また、ガラス粉末の分散液(A液)は、防腐剤、抗菌剤、分散助剤、pH調整剤、顔料等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0042】
(無機リン酸水溶液(B液))
本発明の一態様における無機リン酸水溶液(B液)は、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ポリリン酸等を、単独で又は2種以上組み合わせて、水に溶解又は水で希釈して得ることができる。無機リン酸水溶液は、濃リン酸を蒸留水で希釈することによって調製することが好ましい。また、追加的に又は単独で、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カルシウム、リン酸一カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸アンモニウム、及びオルトリン酸カルシウム、並びにこれらの組合せを使用してもよい。
【0043】
無機リン酸水溶液(B液)中の無機リン酸の含有量、すなわちB液の濃度は、0.5質量%以上40質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上30質量%であるとより好ましい。無機リン酸の濃度が0.5質量%以上であることにより、A液と混合した場合に優れた歯質脱灰抑制効果を得ることができる。また、40質量%以下とすることにより、歯質が過剰に脱灰されることを防止することができる。
【0044】
無機リン酸水溶液(B液)は、防腐剤、抗菌剤、分散助剤、pH調整剤、顔料等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0045】
本実施態様の歯科用処置材は上述のA液とB液とを含み、両液は混合して用いることができる。この際、上記のガラス粉末の分散液(A液)の質量の、無機リン酸水溶液(B液)の質量に対する比の値(A液の質量/B液の質量)は、0.4以上2.5以下とすることが好ましく、0.5以上2以下とするとより好ましい。上記範囲とすることで、歯質脱灰抑制効果をさらに向上させることができる。0.4以上とすることで、確実な歯面塗布性を確保することができ、2.5以下とすることで、使用に良好な粘性を確保し、また歯質の過剰脱灰を防止することができる。
【0046】
本発明の一態様による歯科用処置材においては、A液中のガラス粉末とB液中の無機リン酸とが混合された際に凝集物(析出物)が生じ、この凝集物が歯質の細管、細孔、キズ等を封鎖するよう働く。そのため、本発明の一態様による歯科用処置材は、象牙細管封鎖材として好適に使用することができ、知覚過敏抑制材として特に好適に使用することができる。また、知覚過敏抑制材以外にも、被覆処置若しくは充填処置を行う前に患部に塗布するためのプライマー、又は根管及び/若しくは根尖孔を封鎖するための根管充填材等としても用いることができる。
【0047】
なお、歯科用処置材は、ガラス粉末の分散液(A液)と無機リン酸水溶液(B液)との混合物を含む形態であってもよいし、ガラス粉末の分散液(A液)と無機リン酸水溶液(B液)とが混ざり合わないよう互いに分離された形態であってもよい。後者の場合には、別々の容器に各液が収容されている形態とすることができる。また、内部に膜や壁等が設けられた容器に収容され、その膜や壁等によって両液が直接接触することのないように隔てられている形態とすることもできる。内部に膜や壁等が設けられた容器に収容されている場合には、使用時に膜や壁等を除去することにより、又は除去せずに各液を採取して両液を混合して用いることができる。
【0048】
上記のいずれの形態であっても、本発明の一態様の歯科用処置材は、A液の成分とB液の成分とを混合するのみで使用でき、光や熱による硬化が必要な従来の歯科用処置材と比較して、操作性が高い。また、使用に際しては混練等の工程も不要である。
【0049】
[歯科用処置材キット]
本発明の一態様によれば、亜鉛、ケイ素及びフッ素を含み且つアルミニウムを実質的に含まない上述のガラス粉末の分散液(A液)が収容された容器と、上述の無機リン酸水溶液(B液)が収容された容器とを含む歯科用処置材キットを提供することができる。
【0050】
歯科用処置材キットは、使用の直前に、ガラス粉末の分散液が収容された容器からガラス粉末の分散液(A液)を採取し、無機リン酸水溶液が収容された容器から無機リン酸水溶液(B液)を採取し、これらを混和して、その混和液を患部に塗布することによって使用することができる。また、順序はどちらからでもよいが、A液、B液を順に患部へ塗布することによって、患部において両液を混和することもできる。
【0051】
塗布の際には、ブラシ、綿状材料、多孔質材料等が先端に設けられたアプリケータを使用することができる。ガラス粉末の分散液(A液)及び無機リン酸水溶液(B液)は、液体状又はスラリー状であるので、混和の操作は容易である。また、患部にも容易に塗布することができる。
【0052】
なお、歯科用処置材キットの各液を収容するための容器としては、特に限定されることはないが、例えば、収容される各液を変性させることなく、光等の外環境の影響から各液を保護可能なものであることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1〜12]
(1)ガラス粉末の調製
酸化亜鉛(ZnO)、無水ケイ酸(SiO
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)、リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)、フッ化ストロンチウム(SrF
2)、酸化リン(P
2O
5)、酸化ランタン(La
2O
3)、フッ化ナトリウム(NaF)及び炭酸水素カリウム(KHCO
3)を所定の比率で配合した後、乳鉢を用いて、充分に混合撹拌した。得られた混合物である原料組成物を白金るつぼに入れ、電気炉内に設置した。電気炉を1300℃まで昇温し、溶融させて十分均質化した後、水中に流し出し、塊状のガラスとした。得られた塊状のガラスを、アルミナ製のボールミルを用いて20時間粉砕した後、120メッシュの篩を通過させ、さらに70時間湿式粉砕し、ガラス粉末を得た。
【0055】
得られたガラス粉末の組成及び粒径を、次の方法により測定した。
【0056】
<ガラス粉末の組成>
蛍光X線分析装置ZSX Primus II(リガク社製)を用いて、ガラス粉末を分析し、組成を求めた。
【0057】
表1に、ガラス粉末の組成(単位:質量%)の測定結果を示す。なお、Zn、Al、Si、Ca、P、Sr、La、Na及びK、すなわちF以外の成分については、それぞれZnO、Al
2O
3、SiO
2、CaO、P
2O
5、SrO、La
2O
3、Na
2O及びK
2Oで換算したときの質量%である。
【0058】
なお、実施例1〜12においては、ガラス粉末の原料組成物にアルミニウム化合物を配合していないが、アルミニウムが、ガラス粉末全量に対して、酸化アルミニウム(Al
2O
3)で換算した量で0.1質量%以上0.5質量%以下検出された。この原因は、粉砕時に使用したアルミナ製のボールやアルミナ製のポット由来のアルミナが混入したか、或いは、蛍光X線分析装置の検出誤差によるものと考えられる。
【0059】
<ガラス粉末の粒径>
レーザー回折散乱式粒度分布計LA−950(堀場製作所製)を用いて、ガラス粉末の粒度分布を測定した。各実施例、比較例で用いられたガラス粉末の数平均粒子径(メジアン径)を、表1に示す。
【0060】
(2)ガラス粉末の分散液(A液)の調製
上記で得られたガラス粉末を蒸留水に分散させ、表1に示す濃度のガラス粉末の分散液(A液)を得た。
【0061】
(3)無機リン酸水溶液(B液)の調製
濃リン酸を蒸留水で希釈して無機リン酸の水溶液とし、表1に示す濃度の無機リン酸水溶液(B液)を得た。
【0062】
[比較例1〜6]
(1)ガラス粉末の調製
酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、フッ化アルミニウム(AlF
3)、無水ケイ酸(SiO
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)、リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)、フッ化ストロンチウム(SrF
2)、酸化リン(P
2O
5)、酸化ランタン(La
2O
3)、フッ化ナトリウム(NaF)及び炭酸水素カリウム(KHCO
3)を所定の比率で配合した後、乳鉢を用いて、充分に混合撹拌した。得られた混合物である原料組成物を白金るつぼに入れ、電気炉内に設置した。電気炉を1300℃まで昇温し、溶融させて十分均質化した後、水中に流し出し、塊状のガラスとした。得られた塊状のガラスを、アルミナ製のボールミルを用いて20時間粉砕した後、120メッシュの篩を通過させ、さらに70時間湿式粉砕し、ガラス粉末を得た。
【0063】
次に、実施例1〜12のガラス粉末に対して行ったものと同様の方法により、ガラス粉末の数平均粒子径及び組成を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(2)ガラス粉末の分散液(A液)の調製
上記で得られたガラス粉末を蒸留水に分散させ、表1に示す濃度のガラス粉末の分散液(A液)を得た。
【0065】
(3)無機リン酸水溶液(B液)の調製
濃リン酸を蒸留水で希釈して無機リン酸の水溶液とし、表1に示す濃度の無機リン酸水溶液(B液)を得た。
【0066】
上記の各実施例、比較例の歯科用処置材について、象牙細管封鎖性及び歯質脱灰抑制効果を評価した。
【0067】
<象牙細管封鎖性の評価>
牛歯象牙質を注水下、耐水研磨紙#1200で研磨し、平坦にした研磨面に、15%EDTA水溶液で1分間処理し、疑似知覚過敏象牙質とした。各実施例、比較例について得られたA液とB液とを表1に示す質量比で採取し、アプリケータを用いて混合し、混合液(歯科用処置材)を得た。その混合液を、疑似知覚過敏象牙質に塗布した。20秒間放置後、水洗、乾燥し、走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し、象牙細管封鎖性を確認した。評価基準は以下の通りである。
【0068】
○:全て又はほぼ全ての象牙細管の封鎖が観察された場合
×:封鎖されていない象牙細管が目立っていた場合
<歯質脱灰抑制効果の評価>
牛歯象牙質を注水下、耐水研磨紙#1200で研磨し、平坦にした研磨面に、直径が3mmの穴が開いているポリテトラフルオロエチレン製のシールを貼り付けた。各実施例、比較例について得られたA液とB液とを表1に示す質量比で採取し、アプリケータを用いて混合し、混合液(歯科用処置材)を得た。その混合液を、シールが貼り付けられた面に、シールの穴全体が被覆されるように塗布した。20秒間放置し、続いて水洗、乾燥した。その後、37℃の脱灰液(50mM酢酸、1.5mM塩化カルシウム、0.9mMリン酸二水素カリウム、pH4.5)に18時間浸漬した。
【0069】
精密切断機を用いて、厚さが1mmとなるように、硬化層が形成された牛歯象牙質を切断し、試験体を得た。
【0070】
X線検査装置を用いて、透過法により試験体を撮影し、画像処理ソフトを用いて、撮影画像を解析し、ミネラルロス量を求め、歯質脱灰抑制効果を評価した。歯質脱灰抑制効果の判定基準は、以下の通りである。なお、ミネラルロス量が小さい程、歯質脱灰抑制効果が高くなる。
【0071】
○:ミネラルロス量が2500体積%・μm未満である場合
×:ミネラルロス量が2500体積%・μm以上である場合
[比較例7]
歯科用処置材を歯面に全く塗布しなかった以外は、上記と同様にして、象牙細管封鎖性及び歯質脱灰抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
表1より、亜鉛、ケイ素及びフッ素を含み、アルミニウムを実質的に含まないガラス粉末を用いた実施例1〜12の歯科用処置材は、歯質脱灰抑制効果が高いことが確認できた。これに対して、亜鉛を含まず且つアルミニウムを添加したガラス粉末を用いた比較例1〜3、5、6の歯科用処置材、及び亜鉛を少量含んでいるが、アルミニウムを添加したガラス粉末を用いた比較例4の歯科用処置材は、歯質脱灰抑制効果が低いことが明らかとなった。
【0073】
なお、歯質脱灰抑制効果の判定が「〇」であった実施例1〜12の中でも、アルミニウムの含有量が酸化アルミニウム(Al
2O
3)で換算した量で0.1質量%と低い実施例6においては、ミネラルロス量が特に低く、歯質脱灰抑制効果が高いことが確認できた。
【0074】
また、同じ組成のガラス粉末を含む例を比較した場合、A液濃度及びB液濃度がいずれも高い実施例10においては、実施例3、9、11、12と比較してミネラルロス量が低く、歯質脱灰抑制効果が高いことが分かる。
【0075】
実施例1〜12は、いずれも象牙細管封鎖性が高く、歯質の細管を封鎖する高い機能を備えていることも確認できた。
【0076】
本国際出願は2016年6月30日に出願された日本国特許出願2016−131018号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。