(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687842
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】鉄バクテリア担持体とその作成方法およびこれに用いた塩基性溶液のpH調整方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/10 20060101AFI20200421BHJP
C02F 1/66 20060101ALI20200421BHJP
C02F 3/34 20060101ALI20200421BHJP
C12P 3/00 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
C02F1/66 510R
C02F1/66 520
C02F1/66 530B
C02F1/66 530L
C02F3/34 Z
C12P3/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-69849(P2016-69849)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-177027(P2017-177027A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】396020132
【氏名又は名称】株式会社システック
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241474
【氏名又は名称】トヨタT&S建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 利彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 博和
(72)【発明者】
【氏名】後藤 伸介
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−073687(JP,A)
【文献】
特開平03−278890(JP,A)
【文献】
特開平01−266897(JP,A)
【文献】
特開2006−136799(JP,A)
【文献】
特開2007−075817(JP,A)
【文献】
特開2016−002501(JP,A)
【文献】
特開昭60−122098(JP,A)
【文献】
八木正一,特集2・鉄バクテリア法など高効率生物処理 鉄バクテリアの除鉄機構とその応用の紹介,環境技術,2004年,Vol33, No.4,p278-283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/34
C12P 1/00−41/00
C02F 1/66
C12N 1/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過材と前記ろ過材の表面に付着した酸化鉄泥と、を有し、前記酸化鉄泥は鉄バクテリアが生成したものであり、前記酸化鉄泥中には前記鉄バクテリアが仮眠状態で存在するように乾燥され、前記乾燥後の前記酸化鉄泥の表面を、紫外線吸収剤を含む水溶性の被覆膜で覆ったことを特徴とする鉄バクテリア担持体。
【請求項2】
鉄バクテリアを含む酸化鉄泥又は鉄バクテリアを含む酸化鉄泥を表面に付着したろ過材と、新規のろ過材を培養槽内で接触させ培養し、前記鉄バクテリアにより新規のろ過材の上にも新たな酸化鉄泥を形成させたのち、前記鉄バクテリアが仮眠状態となるように乾燥し、
前記乾燥の後、前記ろ過材及び前記新規のろ過材に付着した前記酸化鉄泥及び前記新たな酸化鉄泥の表面を、紫外線吸収剤を含む水溶性の被覆膜で覆うことを特徴とする鉄バクテリア担持体の作成方法。
【請求項3】
塩基性廃液の中性方向へのpH調整において、前記塩基性廃液を、鉄バクテリア担持体に通過させ、又は、逆に、前記塩基性廃液に前記鉄バクテリア担持体を投入し、前記鉄バクテリア担持体の有する鉄バクテリアに、前記廃液又は前記鉄バクテリア担持体において
第一鉄を酸化させ第二鉄イオンを生成せしめ、前記第二鉄イオンが前記塩基性廃液中のOH−イオンと結合し沈澱を生じることで、前記塩基性廃液中のOH−イオンを減少させることにおいて、前記鉄バクテリア担持体は、請求項1に記載の鉄バクテリア担持体であるか、又は、請求項2に記載の鉄バクテリア担持体の作成方法により作成された鉄バクテリア担持体であることを特徴とするpH調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄バクテリア担持体とその作成方法と、これを用いて酸を用いない塩基性溶液の中性化へのpH調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、pH調整方法又は装置として、酸又は塩基の中和の方法がよく知られている。その中で、塩基の酸による中和を取り上げてみると、
図4に示すような方法又は装置でpH調整が行われている。これを説明するに、中和槽410に塩基(塩基)を含む塩基性廃液420とこれを中和するための酸430が導入され中和されてpHが中性付近になるように処理される。中性にするためには、もとになる塩基性廃液420のpHと液量と酸430のpHと液量が、OH
−イオンとH
+イオンの量が当量になる必要があることは化学の常識であり、そのため、各々のpHと液量を計測モニタして、塩基性廃液420に対応するように酸430を加えなければならない。pHと液量のモニタが間違っていると、処理後の廃液のpHが中性からずれることになる恐れがある。また、モニタの設置だけでなく、維持も面倒な対応を要求される。このような従来の中和装置として、多くの例があるが、特許文献1、特許文献2を掲げることができる。また、酸と塩基同志の中和では、中和熱が発生するため、徐々に反応させないと突沸状態になり危険であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−29103
【特許文献2】特許第4577608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、取扱いと保存が容易な鉄バクテリア担持体とその作成方法を提供し、その結果、pHの調整をする場合に、pHと液量のモニタの必要性を省いて簡易な調整でもpHが酸性側にはずれず、且つ、一気に混ぜても徐々に反応するため中和熱による突沸的危険性がなく、加えて、高濃度塩基性廃液の中和が可能なpH調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかるpH調整方法では、塩基のpH調整に酸を使用せずに、鉄バクテリア担持体を使い、これに、塩基性廃液を通過させる、又は、塩基性廃液に鉄バクテリア担持体を投入することで、鉄バクテリアの酸化作用又は自然酸化作用(Fe
2+→Fe
3++e
−)で形成されたFe
3+が塩基性を示すOH
−イオンと結合して沈澱することで、OH
−が廃液から減少するようにしたもので、pHは中性に近づくが、酸を使った場合に比べて、酸性に行くことはなく、従って、pHと液量のモニタが不要となる。特に、鉄バクテリア担持体は、ろ過材に鉄バクテリアの生成した酸化鉄の泥が鉄バクテリアを仮眠状態で含んだ形で付着した形態で得られている。そのために、鉄バクテリア担持体は、培養槽から引き出す際に、ゆっくりと乾燥される。水分を抜かれた鉄バクテリアは、仮眠状態で存在するが、水中に再度投入すれば、又、増殖を開始する。更に長期の保存をする場合に対応して、乾燥後に水溶性の被覆膜で覆う。被覆膜は、酸素の侵入を制限し、紫外線を遮蔽するものが仮眠の維持に適している。
以下、請求項に沿って記述する。
【0006】
請求項1記載の発明は、鉄バクテリア担持体であって、ろ過材と前記ろ過材の表面に付着した酸化鉄泥と、を有し、前記酸化鉄泥は鉄バクテリアが生成したものであり、前記酸化鉄泥中には前記鉄バクテリアが仮眠状態で存在するように乾燥され、前記乾燥後の前記酸化鉄泥の表面を、
紫外線吸収剤を含む水溶性の被覆膜で覆ったことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、鉄バクテリア担持体の作成方法であって、鉄バクテリアを含む酸化鉄泥又は鉄バクテリアを含む酸化鉄泥を表面に付着したろ過材と、新規のろ過材を培養槽内で接触させ培養し、前記鉄バクテリアにより新規のろ過材の上にも新たな酸化鉄泥を形成させたのち、前記鉄バクテリアが仮眠状態となるように乾燥し、
前記乾燥の後、前記ろ過材及び前記新規のろ過材に付着した前記酸化鉄泥及び前記新たな酸化鉄泥の表面を
、紫外線吸収剤を含む水溶性の被覆膜で覆うことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、pH調整方法であって、
塩基性廃液の中性方向へのpH調整において、前記塩基性廃液を、鉄バクテリア担持体に通過させ、又は、逆に、前記塩基性廃液に前記鉄バクテリア担持体を投入し、前記鉄バクテリア担持体の有する鉄バクテリアに、前記廃液又は前記鉄バクテリア担持体において
第一鉄を酸化させ第二鉄イオンを生成せしめ、前記第二鉄イオンが前記塩基性廃液中のOH
−イオンと結合し沈澱を生じることで、前記塩基性廃液中のOH
−イオンを減少させることにおいて、前記鉄バクテリア担持体は、請求項1に記載の鉄バクテリア担持体であるか、又は、請求項2に記載の鉄バクテリア担持体の作成方法により作成された鉄バクテリア担持体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の様に構成されているので、本発明によれば、pH調整で酸性に行くことはなく、pHと液量のモニタが不要であり、極めて処理が容易であり、かつ、酸と塩基との中和のような中和熱による突沸的な反応もなく、安全を確保でき、更に、鉄バクテリア担持体は、扱いやすく長期の保存が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明にかかる塩基性溶液のpH調整方法に用いる鉄バクテリア担持体の作成プロセスの一実施態様を示す図である。
【
図2】本発明にかかる鉄バクテリア担持体を用いたpH調整方法の一実施態様を示す図である。
【
図3】本発明にかかる鉄バクテリア担持体を用いたpH調整方法による水素イオン濃度の時間変化の概要を示す実施態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかるpH調整方法では、塩基を含む廃液の中和又はpH調整に酸又は二酸化炭素を用いることなく、鉄バクテリア担持体に廃液を通過させ、又は、逆に、廃液に鉄バクテリア担持体を投入して、廃液中のOH
−イオンを第二鉄イオンが捕獲し、沈殿することで、OH
−イオンを廃液中から除去するpH調整方法である。
上記の鉄バクテリア担持体は、培養槽の外に出し乾燥した状態では、ろ過材に鉄バクテリアの生成した酸化鉄の泥が付着し、その中に鉄バクテリアが仮眠状態で存在する。溶液中に投入すれば、再び鉄バクテリアが増殖できる。そのために、鉄バクテリア担持体は、培養槽の外に出した後、ゆっくり乾燥する。より効果的には、薄い水溶性の被覆膜で被覆すると保存性がよい。
ろ過材は、イオン交換樹脂、活性炭、ろ過砂、多孔質セラミックなどの市販のろ過材を使用可能である。
水溶性の被覆膜としては、中性で無毒のものが好ましいが、天然材では、マンナン、ペクチン、でんぷん、アルギン酸、ゼラチン、デキストリン、プルラン等が利用でき、合成材では、弱塩基性ではあるがアクリル酸系ポリマーが利用できる。又、北海道水替事業協同組合の販売する商品名ステラパウダーも凝集材ではあるが、単独或いは、前述の他の材料と混合して利用してもよい。
尚、鉄バクテリアは、鉄酸化バクテリアとしてよく知られている。
以下図に沿って説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかる塩基性溶液のpH調整方法に用いる鉄バクテリア担持体の作成プロセスの一実施態様を示す図である。
鉄バクテリア担持体の作成は以下の通りである。
a)新ろ過材供給:鉄バクテリアを含む酸化鉄泥又はこれらが付着したろ過材が入った培養槽に新しいろ過材を供給する。新ろ過材は、鉄バクテリアが増殖して新たな酸化鉄泥が付着する着床にする。
b)ろ過材と鉄バクテリア泥の混合
c)培養:鉄バクテリアが増殖する時間寝かせる。この前、又は、b)の工程前に、培養槽に水、鉄材、炭素源を供給すると培養効果がある。炭素源としては二酸化炭素を用いることができ、鉄バクテリアの菌体を構成する原料となる。又、培養では、電気的培養も可能である。培養槽の水は循環して使用できる。又、増殖した鉄バクテリアは、酸化鉄の泥に住みついてろ過材に付着しているので、a)に戻って新たなろ過材を供給すれば、培養が繰り返される。d)乾燥:培養で増えた鉄バクテリアを含む泥の一部を取り出してゆっくり乾燥する。ゆっくり水分を抜かれた鉄バクテリアは、仮眠状態で生存する。これで乾燥した扱いやすい状態の鉄バクテリア担持体を作成できる。
更にe)水溶性の遮蔽膜で被覆:被覆された鉄バクテリアは、更に酸素の影響を受けにくい状態となり、深い仮眠でより長い保存が可能となる。被覆材に紫外線吸収材を含ませると、紫外線による劣化を防止できる。
【0013】
図3は、本発明にかかる鉄バクテリア担持体を用いたpH調整方法による水素イオン濃度の時間変化の概要を示す実施態様を示す図である。
ビーカー310にpH13程度の塩基性廃液320を満たし、これに、
図1の工程で作成した鉄バクテリア担持体330を多めに投入して、pH(ペーハー)計340により、pHの変化を投入後からの時間に対して測定し、pHを水素イオン濃度に変換して、時間に対して目盛ると略3−Bのような変化であった。
初期(このときの例では、1時間程度)は、水素イオン濃度変化が、最初だけ変化が遅いがすぐ急激に変化し、中期(この例では1時間から3時間の間)では水素イオン濃度変化が緩やかになった。後期(この例では3時間以降)では、再び水素イオン濃度変化が急激なって中性に近づいて行った。
数回の実験では、このような傾向は同じであった。
考えられることは、初期の変化は、乾燥した鉄バクテリア担持体に水とOHイオンが浸透する過程で、最初からできていた酸化鉄イオンにOHイオンが捕獲されて、水酸化第二鉄として固体を構成し、前からあった酸化鉄と相まって、OHイオンの浸透に対して防護層となり、強い塩基廃液から鉄バクテリアを防護する。第二鉄イオンが十分供給されたので、水素イオン濃度の変化が急であったと考えられる。
中期では、利用できる第二鉄イオンがなくなると、自然酸化で第一鉄イオンから第二鉄イオンが形成される速度でOHイオンが捕獲されることになり、水素イオン濃度変化が緩やかになり、更に後期では、水の浸透と水素濃度が上がって塩基性が弱く中性側にシフトしたところで、鉄バクテリアが第一鉄イオンから第二鉄イオンを作る活動が活発になって再び水素イオン濃度変化が急激になっていくものと推測される。
尚、
図1の工程で作成した鉄バクテリア担持体は、水中では増殖を行えるので、乾燥状態の鉄バクテリアは、活動が活発でない仮眠状態にある。
【0014】
図2は、本発明にかかる鉄バクテリア担持体を用いたpH調整方法の一実施態様を示す図である。
図3で塩基性廃液(特に高塩基性廃液でも)の中性方向へのpHの調整が可能なので、
図2に示す装置を構成し、
pH調整を行った。中和槽110内に、塩基性廃液130と
図1で作成した鉄バクテリア担持体120を導入し、接触させた。それには、図のように鉄バクテリア担持体120の間を塩基性廃液130が通過するようにしてもよいし、塩基性廃液130中に鉄バクテリア担持体120をと移入して混合してもよい。
図を用いて詳述するに、中和槽110内には、上記の仕様の鉄バクテリア担持体120が内包されている。塩基性廃液130が中和槽110内に導入され、鉄バクテリア担持体120と接触する。前述したように、鉄バクテリア担持体120の鉄バクテリアは、鉄材由来の第一鉄を酸化して第二鉄イオンを生成し、第二鉄イオンは、OH
−イオンと合体して沈殿を作成する。そのため、塩基性廃液130中のOH
−イオンが減少し、廃液のpHは強い塩基性から中性に近づく。中性に近づいた廃液は、処理後廃液140として捨てられるか、又は、再利用される。
この説明で分かるように、ここでは、従来例と違って、塩基性廃液、及び酸のpHと液量とに関係性は必要がなく、適度に多い鉄バクテリア担持体120を投入しておけばよい。多くても酸性になる心配はない。従って、pHと液量のモニタは本質的には不要となっている。
尚、中和槽を多段に構成する、鉄バクテリア担持体120を撹拌する等は自由になされる。
尚、塩基性廃液、及び酸のpHと液量の関係はないので、必須ではないが、念の為に、処理後廃液のpHや処理の液量を計測モニタすることはしてもよいことは当然である。酸を使った中和と違い、突沸的過激な反応は起こらない安全な処理である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
以上のように本発明にかかる鉄バクテリア担持体とその作成方法およびこれに用いた塩基性溶液のpH調整方法では、pHと量のモニタ行わなくともpH調整で酸性に行くことはなく、極めて処理管理が容易であり、装置構成も簡略化でき、酸を使った中和のような突沸的反応は起こらないので、産業上利用して極めて好都合である。
【符号の説明】
【0016】
110、410 中和槽
120、330 鉄バクテリア担持体
130、320、420 塩基性廃液
140 処理後廃液
310 ビーカー
340 pH計
430 酸