(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素を有する反応槽に、七フッ化ヨウ素を供給して、ヨウ素と七フッ化ヨウ素とを反応させて、五フッ化ヨウ素を製造する工程を含む、五フッ化ヨウ素の製造方法。
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素は、溶解しているヨウ素を含む溶液状態、または液相中に固体のヨウ素が分散及び沈殿している状態である、請求項1または請求項2に記載の五フッ化ヨウ素の製造方法。
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素中に、ヨウ素と五フッ化ヨウ素の総量に対する含有率で表して、ヨウ素を0.01質量%以上、70質量%以下含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の五フッ化ヨウ素の製造方法。
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素中に、五フッ化ヨウ素と七フッ化ヨウ素の総量に対する含有率で表して、七フッ化ヨウ素が0.001質量%以上、91質量%以下含まれる、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の五フッ化ヨウ素の製造方法。
前記五フッ化ヨウ素ガスと前記フッ素ガスが反応する際の前記金属フッ化物の温度が、150℃以上、350℃以下である、請求項7または請求項8に記載の七フッ化ヨウ素の製造方法。
【背景技術】
【0002】
フッ素化剤や含フッ素化合物の中間体製造の原料として有用な五フッ化ヨウ素を製造する方法としては、ヨウ素とフッ素を反応させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「溶融沃素の直接弗素化による五弗化沃素の製造方法」が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「(1)(イ)液状のヨウ素にフッ素ガスを通じて反応させ五フッ化ヨウ素とヨウ素とを含む蒸気混合物を生成させ、(ロ)既に生成されていた液状の五フッ化ヨウ素の存在下で該蒸気混合物と新たなフッ素ガスとを反応させてさらに五フッ化ヨウ素を生成させる、ことを特徴とする五フッ化ヨウ素の製造方法。」が開示されている。
【0005】
フッ素とヨウ素を反応させて五フッ化ヨウ素を生成する反応は、生成熱が800kJ/molを超え、大きな発熱を伴う。そのため、固体(非特許文献1)、液体(特許文献1)、気体(特許文献2)を問わず、純粋なヨウ素とフッ素を反応させると、局所的に反応し発熱し、反応を制御し難いという懸念があった。
【0006】
以上を鑑みて、特許文献3には「フッ素とヨウ素との反応を穏やかに実施して、結果的に、より安全に、また、より生産性に優れた五フッ化ヨウ素の製造方法を提供する」ために「フッ素とヨウ素とを反応させて五フッ化ヨウ素を製造する方法であって、ヨウ素を含む五フッ化ヨウ素の液相に隣接する気相にフッ素を供給することを特徴とする五フッ化ヨウ素の製造方法」が開示されている。
【0007】
特許文献3に記載の五フッ化ヨウ素の製造方法は、液相の五フッ化ヨウ素に分散または溶解させたヨウ素に、フッ素ガスを含む気相を接触させてヨウ素とフッ素ガスを反応させることで五フッ化ヨウ素を製造する方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載の液相の五フッ化ヨウ素に分散または溶解させたヨウ素に、フッ素ガスを含む気相を接触させてヨウ素とフッ素ガスを反応させることで五フッ化ヨウ素を製造する五フッ化ヨウ素の製造方法において、気相中のフッ素と、液相から気化したヨウ素または液相中のヨウ素とを接触させる限りにおいては、気相のフッ素ガスは液相の五フッ化ヨウ素に溶解し難く、フッ素ガスとヨウ素との反応が進み難いという懸念があった。
【0011】
即ち、本発明は、五フッ化ヨウ素を温和な反応により、局所反応および急な発熱を発生させることなく、五フッ化ヨウ素の生成速度が高い製造方法、言い換えれば、単位時間当たりの五フッ化ヨウ素の生成量が多い製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、得られた五フッ化ヨウ素から七フッ化ヨウ素を簡便に製造する七フッ化ヨウ素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素を有する反応槽中の反応系に、七フッ化ヨウ素ガスを溶解または分散させて、ヨウ素と七フッ化ヨウ素を接触させ反応させることで五フッ化ヨウ素の生成速度が高い製造をすることが可能となることを見出し、本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法を完成させるに至った。
【0014】
ヨウ素(I
2)と七フッ化ヨウ素(IF
7)から五フッ化ヨウ素(IF
5)を得る際の反応式は、以下の通りである。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明者らは、フッ素ガスは液相の五フッ化ヨウ素に溶解し難いが、七フッ化ヨウ素ガスは液相の五フッ化ヨウ素に容易に溶解することに着目した。フッ素ガスは液相の五フッ化ヨウ素に難溶なので、液相の五フッ化ヨウ素中でのフッ素ガスとヨウ素との反応は、気液反応または気固反応であり、五フッ化ヨウ素の生成速度を高くすることが期待できない。しかしながら、七フッ化ヨウ素ガスは液相の五フッ化ヨウ素に易溶であり、液相の五フッ化ヨウ素中での七フッ化ヨウ素とヨウ素との反応は、気液反応、気固反応だけでなく、七フッ化ヨウ素とヨウ素との液固反応または液液反応で進行し、五フッ化ヨウ素の生成速度は高い。
【0017】
本明細書の実施例1および比較例2に示すように、本発明に係る「ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素を有する反応槽に、七フッ化ヨウ素ガスを供給して、ヨウ素と七フッ化ヨウ素とを反応させる五フッ化ヨウ素の製造方法」では速やかに進行し五フッ化ヨウ素が得られたのに対し(実施例1)、従来の方法「ヨウ素を含む五フッ化ヨウ素の液相に隣接する気相にフッ素を供給し、ヨウ素とフッ素を反応させる五フッ化ヨウ素の製造方法」では進行し難かった(比較例2)。
【0018】
また、本発明者らは、得られた五フッ化ヨウ素から七フッ化ヨウ素を簡便に製造する七フッ化ヨウ素の製造方法を見出した。
【0019】
即ち、本発明は、以下の発明1〜9を含む。
[発明1]
ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素を有する反応槽に、七フッ化ヨウ素を供給して、ヨウ素と七フッ化ヨウ素とを反応させて、五フッ化ヨウ素を製造する工程を含む、五フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明2]
ヨウ素と七フッ化ヨウ素との反応中に、反応槽内を攪拌しつつ七フッ化ヨウ素を供給する、発明1の五フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明3]
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素は、溶解しているヨウ素を含む溶液状態、または液相中に固体のヨウ素が分散及び沈殿している状態である、発明1または発明2の五フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明4]
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素中に、ヨウ素と五フッ化ヨウ素の総量に対する含有率で表して、ヨウ素を0.01質量%以上、70質量%以下含む、発明1〜3の五フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明5]
前記ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素中に、ヨウ素と五フッ化ヨウ素及び七フッ化ヨウ素との総量に対する含有率で表して、七フッ化ヨウ素が0.001質量%以上、91質量%以下含まれる、発明1〜4の五フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明6]
発明1〜5の五フッ化ヨウ素の製造方法で、
ヨウ素と七フッ化ヨウ素を反応させて五フッ化ヨウ素を得る工程と、
得られた五フッ化ヨウ素にフッ素ガスを反応させて七フッ化ヨウ素を得る工程を含む、七フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明7]
前記七フッ化ヨウ素を得る工程において、
金属フッ化物を含有する充填物を内部に有する反応器に、五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを供給して反応させる、発明6の七フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明8]
前記金属フッ化物が、NiF
2、FeF
3、及びCoF
2からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含む、発明7の七フッ化ヨウ素の製造方法。
[発明9]
前記五フッ化ヨウ素ガスと前記フッ素ガスが反応する際の前記金属フッ化物の温度が、150℃以上、350℃以下である、発明7または発明8に記載の七フッ化ヨウ素の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法によれば、五フッ化ヨウ素の生成速度を高くすることが可能であり、さらに当該製造方法で製造された五フッ化ヨウ素から七フッ化ヨウ素を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.五フッ化ヨウ素の製造方法
本発明は、ヨウ素を含む液相の五フッ化ヨウ素を有する反応槽に、七フッ化ヨウ素ガスを供給して、ヨウ素と七フッ化ヨウ素とを反応させて、五フッ化ヨウ素を製造する工程を含む、五フッ化ヨウ素の製造方法である。
【0023】
本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法の実施形態の一例を、
図1を用いて説明する。本発明は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
尚、本発明において、液相とは物質が液体の状態である相を言い、気相とは物質が気体の状態にある相を言う。
【0025】
[反応装置]
本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法の実施形態に係る反応装置10を
図1に示す。反応装置10は、反応槽11内にヨウ素12が沈殿、分散または溶解している液相(液状)の五フッ化ヨウ素13を有する。反応槽11内の液相15中に七フッ化ヨウ素を供給し、液相15中で七フッ化ヨウ素とヨウ素12を反応させて五フッ化ヨウ素を生成することができる。
【0026】
その際、七フッ化ヨウ素は液相15中に供給してもよく、気相14中に供給してもよい。七フッ化ヨウ素を液相15中に供給した場合、七フッ化ヨウ素は気相14中にある割合で移動し、七フッ化ヨウ素を気相14に供給した場合、七フッ化ヨウ素は液相15中にある割合で移動する。七フッ化ヨウ素を、ヨウ素12を含む五フッ化ヨウ素である液相15中に吹き込む方が、七フッ化ヨウ素ガスを液相15中に速やかに溶解させることができ、七フッ化ヨウ素とヨウ素12の反応が効率よく進行し、五フッ化ヨウ素の生成速度を高めることができる。
【0027】
七フッ化ヨウ素は、好ましくは反応槽11に付設された七フッ化ヨウ素供給源16から液相15中に供給される。五フッ化ヨウ素の蒸気圧は低いので、反応槽11の圧力制御を容易にするため並びにポンプ19の駆動圧力を確保するため、緩衝ガス(バッファー)として不活性ガスを、反応槽11に付設される不活性ガス供給源18から反応槽11中に、好ましくは気相14中に供給してもよい。不活性ガスとしては、ヨウ素、七フッ化ヨウ素、五フッ化ヨウ素に反応しないガス、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスを挙げることができる。好ましくは、入手が容易な窒素ガスである。
【0028】
ヨウ素12と七フッ化ヨウ素の反応中、反応槽11内の液相15は、ポンプ19または攪拌器20によって攪拌される。
【0029】
[ヨウ素と七フッ化ヨウ素の反応]
ヨウ素と七フッ化ヨウ素の反応は、気相14中において、液相15中において、または気相14と液相15との界面において起こる。すなわち、液相15において、五フッ化ヨウ素13中に存在するヨウ素12は蒸気圧相当の気体となって気相14に移動し、気相14中に存在する七フッ化ヨウ素と反応する。また、気相14中に存在する七フッ化ヨウ素は、気相14から液相15に移動して、液相15中に存在するヨウ素12と反応する。また、気相14中に存在する七フッ化ヨウ素は、液相15において五フッ化ヨウ素13中に存在するヨウ素12と、気相14と液相15の界面で反応する。また、液相15中において七フッ化ヨウ素が、五フッ化ヨウ素13中に存在するヨウ素12と反応する。
【0030】
反応槽11は、図示しない水冷装置により冷却されてもよい。ヨウ素と七フッ化ヨウ素の反応中に反応槽11中の液相15を温度10℃以上、95℃以下に保つことで、液相の状態を維持することが好ましい。液相15を10℃未満で維持した場合、五フッ化ヨウ素13が凝固する懸念があり、冷却に必要なエネルギー消費も大きくなる。一方で、液相15を95℃よりも高い温度で維持した場合、反応中に反応槽11内の圧力が高くなる上に、液相15において、五フッ化ヨウ素13に溶解している七フッ化ヨウ素の量が減少し、五フッ化ヨウ素の生成速度が低下するなどの問題が生じる虞がある。液相15の維持される温度は、好ましくは15℃以上、75℃以下であり、より好ましくは20℃以上、50℃以下である。
【0031】
反応中における反応槽11内の気相14の圧力は、好ましくは絶対圧で40kPa以上、133kPa以下であり、より好ましくは67kPa以上、101kPa以下である。反応槽11内の圧力が40kPa未満であると、五フッ化ヨウ素13に溶解する七フッ化ヨウ素の量が減少し、五フッ化ヨウ素の生成速度が低下する。反応槽11内の圧力が133kPaより高いと、反応槽11を圧力に耐える構造とする必要がある。圧力は、七フッ化ヨウ素ガス16の供給速度、反応槽11の冷却、不活性ガスの添加等によって調整することができる。七フッ化ヨウ素の供給速度は、反応装置の大きさおよび反応のスケールによるが、反応中において、反応槽11内の気相14の圧力が上記範囲内に収まることが好ましい。
【0032】
[反応時のヨウ素および七フッ化ヨウ素の含有率]
ヨウ素12は、反応開始前に反応槽11内に仕込んでもよいし、反応開始時および反応中に間欠的または連続的にヨウ素供給源17から反応槽11中に供給してもよい。本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法において、反応槽11中のヨウ素12の含有率は、反応槽11中のヨウ素と五フッ化ヨウ素の総量を100質量%とする含有率で表して、好ましくは0.01質量%以上、70質量%以下である。
【0033】
ヨウ素の含有率が0.01質量%より少ないと、生成する五フッ化ヨウ素の量が少ない。ヨウ素の含有率が70質量%より多いと、反応熱を除去できずに局所反応や反応暴走を引き起こす虞がある。なお、五フッ化ヨウ素の生産量を高めるため、ヨウ素12の濃度は高いほうが好ましく、より好ましくは、1質量%以上、60質量%以下である。
【0034】
尚、温度圧力等の条件にもよるが、液相15において、液状の五フッ化ヨウ素13中にヨウ素12は約1質量%以上溶解することができない。五フッ化ヨウ素13中に溶解できないヨウ素12は固体の状態で液相15中に分散および沈殿することになる。
【0035】
反応において、反応槽11の液相15中に七フッ化ヨウ素供給源16から七フッ化ヨウ素ガスを供給することが好ましい。気相14中に七フッ化ヨウ素を供給することによってもヨウ素12と七フッ化ヨウ素の反応は進み、五フッ化ヨウ素を製造することができる。しかしながら、ヨウ素12と七フッ化ヨウ素の反応効率を高め、五フッ化ヨウ素の生成速度が高い製造を行うためには、液相15中に七フッ化ヨウ素を供給することが好ましい。
【0036】
反応中、反応槽11中の液相15における七フッ化ヨウ素の含有率は、反応槽11中の五フッ化ヨウ素13と七フッ化ヨウ素の総量を100質量%とする含有率で表して、好ましくは0.001質量%以上、91質量%以下である。液相15中の七フッ化ヨウ素の含有率が0.001質量%より少ないと、生成する五フッ化ヨウ素の量が少なくなる。七フッ化ヨウ素の濃度が91質量%より多いと、反応槽11の温度と圧力が上昇し、局所反応や反応暴走を引き起こす虞がある。より好ましくは、七フッ化ヨウ素の含有率0.01質量%以上、64質量%以下である。
【0037】
液相15中に供給する七フッ化ヨウ素ガスの純度は、好ましくは純度98質量%以上であり、より好ましくは純度99質量%以上である。七フッ化ヨウ素ガスの純度が低い場合、生成物である五フッ化ヨウ素の純度が低下する虞がある。
【0038】
[攪拌]
液相15中におけるヨウ素12と七フッ化ヨウ素を反応させ五フッ化ヨウ素を得る反応中、局所的に反応が進む不均一反応が生じたり、過度の反応熱が生じることを避けるため、液相15を攪拌することが好ましい。反応槽11内の液相15の攪拌方法としては、ポンプ19で液相15を循環させることによる攪拌、または回転翼を有する攪拌機20による攪拌を例示することができる。ポンプ19で液相15を攪拌する場合、ポンプ19の駆動圧力を確保するために、反応槽11内に所定圧力の不活性ガスを導入することが好ましい。例えば、不活性ガスは不活性ガス供給源18から供給される。不活性ガスとしては、ヨウ素、七フッ化ヨウ素、五フッ化ヨウ素に反応しないガス、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスを挙げることができる。不活性ガスの純度としては、生成物である五フッ化ヨウ素の純度に影響を及ぼすため、高い純度が好ましく、純度99質量%以上が好ましい。好ましくは、入手が容易な窒素ガスである。
【0039】
[ヨウ素と七フッ化ヨウ素の純度]
本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法に使用するヨウ素および七フッ化ヨウ素の純度は、本発明を実施する上で特に制約されることはない。しかしながら、ヨウ素及び、七フッ化ヨウ素の純度は、生成する五フッ化ヨウ素の純度に影響する。例えば99質量%以上の五フッ化ヨウ素を得るためには、純度99質量%以上のヨウ素及び、七フッ化ヨウ素を用いることが好ましい。
【0040】
また、七フッ化ヨウ素供給源16から供給される七フッ化ヨウ素に不活性ガスが含まれる場合、不活性ガスは反応槽11における液相15をバブリングによって撹拌し、ヨウ素12と七フッ化ヨウ素を反応させて五フッ化ヨウ素を得る際の反応熱を除去する効果がある。しかしながら、反応槽11の圧力は不活性ガスの分圧の増加によって経時に従い増加するため、圧力調整弁を設置するなどして、圧力を制御する必要が生じる。
【0041】
2.七フッ化ヨウ素の製造方法
本発明は、前記五フッ化ヨウ素の製造方法で、ヨウ素と七フッ化ヨウ素を反応させて五フッ化ヨウ素を得る工程と、得られた五フッ化ヨウ素にフッ素ガスを反応させて七フッ化ヨウ素を得る工程を含む、七フッ化ヨウ素の製造方法である。
【0042】
本発明の前記五フッ化ヨウ素の製造方法で得られた五フッ化ヨウ素に、フッ素ガスを反応させることで、七フッ化ヨウ素を製造することができる。
【0043】
五フッ化ヨウ素とフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る方法の例としては、五フッ化ヨウ素の液にフッ素ガスを吹き込んで得られる五フッ化ヨウ素ガスと同伴するフッ素ガスを反応器に導入し、五フッ化ヨウ素とフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る方法を挙げることができる。あるいは、五フッ化ヨウ素を加熱により気化して五フッ化ヨウ素ガスとし、反応器に供給する方法や、液相の五フッ化ヨウ素を反応器に直接供給する方法も考えられる。
【0044】
五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを反応器に供給反応させて七フッ化ヨウ素を得る方法を採用した場合、その工程において金属フッ化物を含有する高温の充填物を内部に有する反応器に、五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを供給することが好ましい。充填物を使用することで、五フッ化ヨウ素を基準とした七フッ化ヨウ素の収率を高くすることができ、例えば、収率70%以上に向上させることができる。
【0045】
本発明の七フッ化ヨウ素の製造方法で使用される充填物に含有する金属フッ化物は、金属をフッ素化したものであればよく、特に限定されない。例えば、金属フッ化物として、NiF
2、FeF
3、CoF
2、LiF、NaF、KF、CsF、MgF
2またはCaF
2を挙げることができ、これらの2種以上が混合されていてもよい。安価且つ収率向上の寄与が大きいことを考慮すると、遷移金属のフッ化物であるNiF
2、FeF
3、およびCoF
2のいずれか1種類以上を含む充填物を用いることが好ましい。
【0046】
使用する充填物の形状は、五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスが効率よく接触し、且つ、流通させる際に、これらガスが閉塞しなければ特に限定されない。充填物は、例えば、メッシュ状の金属片をフッ素ガス、三フッ化塩素ガス、七フッ化ヨウ素等によりフッ素化することにより、金属表面に金属フッ化物が生成した形で得る、または粉体状の金属フッ化物をペレット形状に成型して得ることができる。
【0047】
五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る際の充填物の温度は、150℃以上、350℃以下が好ましい。充填物の温度が150℃未満では、五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスから七フッ化ヨウ素を製造する際の生成速度が低下する虞があり、350℃を超えると、生成した七フッ化ヨウ素が五フッ化ヨウ素とフッ素に分解する逆反応が進行する虞がある。特に好ましい充填物の温度は、200℃以上330℃以下である。例えば、充填物を充填した状態で反応器を電気ヒータや蒸気などで加熱することにより、充填物を所望の温度にすることができる。
【0048】
上記五フッ化ヨウ素とフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る反応において、逆反応が顕著とならない反応温度であれば、反応器内の五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの滞在時間の増加とともに七フッ化ヨウ素の収率は増加する。七フッ化ヨウ素の生産性は滞在時間の増加により低下する虞があり、反応器内の五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの滞在時間は、七フッ化ヨウ素の所望の収率と生産性を考慮し、種々選択できる。七フッ化ヨウ素の生産性を考慮する場合、反応器中の五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの滞在時間は短い方が望まれる。例えば、F
2/IF
5のモル比が1以上で五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る場合、金属フッ化物の温度が200℃以上、330℃以下であり、少なくとも五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの滞在時間は4秒以上あれば、収率は80%以上得ることができる。
【0049】
流通式反応器を用いて五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスを反応させ七フッ化ヨウ素を得る場合の五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの導入時の流量比、または密閉式反応器を用いる場合の五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの混合比は、いずれも五フッ化ヨウ素とフッ素のモル比(F
2/IF
5)で1以上が好ましい。特に、モル比が1.3以上では、五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスの滞在時間4秒以上で七フッ化ヨウ素の収率80%以上を得ることができるが、モル比(F
2/IF
5)を35以上とすると、七フッ化ヨウ素の収率の向上に対し、フッ素ガスの使用量増加による経済性の低下が顕著になるため好ましくない。またモル比(F
2/IF
5)が1未満では、未反応の五フッ化ヨウ素が増加するため七フッ化ヨウ素の収率が低下する虞がある。
【0050】
五フッ化ヨウ素ガスとフッ素ガスから七フッ化ヨウ素を得る反応時の反応器内の圧力は、フッ素、五フッ化ヨウ素、七フッ化ヨウ素に毒性があるために、漏洩を防止するために大気圧以下が好ましく、経済性を考慮すると40kPa(絶対圧)以上が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に本発明の実施例を比較例とともに挙げるが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0052】
実施例1
図1に示す様に、槽内雰囲気を窒素置換した容積2.3Lのステンレス鋼製の反応槽11に、液状の五フッ化ヨウ素13、質量3036gを入れ、次いで固体ヨウ素12、質量3710gを加えた。仕込み時の液状の五フッ化ヨウ素13中のヨウ素12の濃度は、五フッ化ヨウ素13中と固体ヨウ素12を合わせた質量に対し約55質量%であった。液相15における固体ヨウ素12を含む五フッ化ヨウ素13の攪拌方法として、ポンプ19を駆動し液相15を循環させた。七フッ化ヨウ素供給源16から七フッ化ヨウ素ガスを0.6L/minの流量で液相15中に供給して七フッ化ヨウ素ガスと、五フッ化ヨウ素13内の固体ヨウ素12を反応させ、五フッ化ヨウ素を得た。反応中は、反応槽11内の圧力を93kPa(絶対圧)に保持した。また、反応中の反応槽11の内温を30〜60℃になるように冷却しつつ、60分間反応させた。実験開始前に仕込んだ以外の五フッ化ヨウ素の新規生成量は499gであった。
【0053】
実施例2
攪拌方法として、実施例1で行ったポンプ19で液相15を循環させる替わりに、回転翼を備えた攪拌器20を回転数100rpmで回転させ液相15を攪拌する以外は、実施例1と同様に七フッ化ヨウ素ガスと固体ヨウ素12を反応させた。実験開始前に仕込んだ以外の五フッ化ヨウ素の新規生成量は499gであった。
【0054】
ポンプ、攪拌機、いずれの攪拌によっても、五フッ化ヨウ素中のヨウ素と七フッ化ヨウ素とを反応させることで、効率よく除熱でき、安全且つ安定に五フッ化ヨウ素を製造できた。
【0055】
比較例1
槽内雰囲気を窒素置換した容積2.3Lのステンレス鋼製の反応槽11に、固体ヨウ素12、質量3710gを仕込み、七フッ化ヨウ素供給源16から七フッ化ヨウ素ガスを0.6L/minで供給して固体ヨウ素12と直接反応させた。反応中の反応槽内の圧力は93kPa(絶対圧)に制御したが、七フッ化ヨウ素ガスの供給開始から5分経過後、反応槽11の七フッ化ヨウ素ガスの供給口付近に反応熱による温度上昇がみられ、七フッ化ヨウ素ガスの供給を停止し、反応を中断せざるを得なかった。
各実施例の製造条件と結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
液体の5フッ化ヨウ素中で、七フッ化ヨウ素とヨウ素を反応させた実施例1〜2においては、液相15中への0.6L/minの七フッ化ヨウ素ガスの供給速度において、局所的な発熱を伴うことなく反応「5IF
7+I
2→7IF
5」が速やかに進行し、1時間当たり499gの五フッ化ヨウ素が得られた。このように、本発明の五フッ化ヨウ素の製造方法により、五フッ化ヨウ素が単位時間当たりの収量多く、高速度で生産できることが、確認された。
【0058】
ところが、本発明の範疇にない、七フッ化ヨウ素と固定ヨウ素を直接反応させる比較例1においては、反応「5IF
7+I
2→7IF
5」が局所的に起こる発熱を生じ、反応を中断させざるを得なかった。
【0059】
比較例2
槽内雰囲気を窒素置換した容積2.3Lのステンレス製反応槽11に、液状の五フッ化ヨウ素13、質量3036gを入れ、固体ヨウ素12、質量3710gを加えた。仕込み時の五フッ化ヨウ素13と固体ヨウ素12を合わせた質量に対する固体ヨウ素12の濃度は、約55質量%であった。液相15を、回転翼を備えた攪拌器により回転数100rpmで攪拌した。
【0060】
攪拌下、反応槽11の気相14に窒素ガスで70体積%に希釈したフッ素ガスを供給し、ヨウ素とフッ素ガスから五フッ化ヨウ素を得る反応を開始した。反応中の反応槽11内の圧力は圧力調整弁によって93kPa(絶対圧)に保たれた。また、反応中の反応槽11の温度は30〜60℃になるように冷却しつつ、60分間反応させた。
【0061】
圧力調整弁から排出されるフッ素ガスの濃度は、分光光度計UV−Vis(株式会社日立ハイテクサイエンス製、型番U2810)を用いた紫外・可視・近赤外分光法による分光分析の結果、約70体積%で推移し、フッ素ガスはほぼ消費されず、ヨウ素とフッ素ガスから五フッ化ヨウ素を得る反応は進行しなかった。実験開始前に仕込んだ以外の五フッ化ヨウ素の新規生成量は僅かに0.0025gであった。
【0062】
実施例3
実施例1で得られた五フッ化ヨウ素を用いて、七フッ化ヨウ素を合成した。具体的な製造手順は以下のとおりである。
【0063】
金属フッ化物としてのフッ化ニッケル(NiF
2)(純度99%、Apollo Sc
ientific Limited製)を加圧成型によりペレット状(大きさ、4mm×4mm×2mm)にした。反応器として用いる、電気ヒータおよび圧力計を備えたニッケル製の光輝焼鈍管(内径22.1mm、長さ0.3m)にペレット状のフッ化ニッケル48g(0.5モル)を充填した。電気ヒータにより光輝焼鈍管を加熱することにより充填物である前記ペレットの温度を270℃とした。この温度で、フッ素(F
2)と五フッ化ヨウ素(IF
5)の混合ガス(モル比(F
2/IF
5)=30.3(F
2濃度96.8体積%、IF
5濃度3.20体積%))を光輝焼鈍管の両端の一方(入口)から導入し、他方(出口)から排出させた。
【0064】
この際、光輝焼鈍管内の圧力を66.7kPa(絶対圧)とし、混合ガスの流量を1730cm
3/min(滞在時間4秒)で1時間流通させた。また、混合ガスの流通時に、反応器出口からのガスを冷却捕集器に導入した。冷却捕集器の冷媒として液体アルゴン(温度:−186℃)を用いて七フッ化ヨウ素と五フッ化ヨウ素を冷却捕集した。混合ガスの流通完了後、冷却捕集器内の捕集物の質量測定およびフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(株式会社島津製作所製、品名、Prestige21)による七フッ化ヨウ素と五フッ化ヨウ素の組成を分析した。質量測定および組成分析結果に基づき、五フッ化ヨウ素IF
5の供給量を基準とした七フッ化ヨウ素の理論捕集量に対する収率を算出したところ、五フッ化ヨウ素を基準とした七フッ化ヨウ素の収率は99.8%だった。