特許第6687850号(P6687850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687850
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】イヤホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   H04R1/10 104B
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-124029(P2016-124029)
(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公開番号】特開2017-228951(P2017-228951A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大内 貴史
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−318702(JP,A)
【文献】 特開2008−193449(JP,A)
【文献】 特開昭55−061194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を音波に電気音響変換するスピーカーユニットと、
その内部に該スピーカーユニットを取り付けて、該スピーカーユニットの振動板の少なくとも一方側に音響空間を規定するハウジングと、を備えるイヤホンであって、
該ハウジングが、該音響空間に連通して音波をユーザーの外耳道に導く音響通路を形成するノズル部を備え、
該ノズル部が、第1の金属材料で形成されて該ノズル部の外殻を規定するベース部材と、その外壁面が該ベース部材の内壁面に固着して内側に該第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で形成される該音響通路を形成する筒状材と、を含む、
イヤホン。
【請求項2】
前記ベース部材の前記内壁面と、前記筒状材の前記外壁面と、が接着層を介して固着される、
請求項1に記載のイヤホン。
【請求項3】
前記ベース部材の前記内壁面および/または前記筒状材の前記外壁面が、前記音響通路に沿った方向に形成されて、前記接着層を形成する接着剤が溜まる溝を有する、
請求項2に記載のイヤホン。
【請求項4】
前記ノズル部が、前記筒状材の開口端部に通気性を有する保護部材を更に備え、該保護部材の周囲部が、前記ベース部材と該筒状材との間に挟持されて固定される、
請求項1から3のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項5】
前記ベース部材を形成する前記第1の金属材料と、前記筒状材を形成する前記第2の金属材料とが、アルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金、チタン合金、マグネシウム合金、または、鉄合金、のいずれかから異なる2つが選択される、
請求項1から4のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項6】
前記ベース部材を形成する前記第1の金属材料がアルミニウム合金であり、前記筒状材を形成する前記第2の金属材料が黄銅または真鍮である、
請求項1から5のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項7】
前記ハウジングが、前記スピーカーユニットに前記音声信号を供給するコードを接続するコード接続部をさらに備える、
請求項1から6のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項8】
前記ハウジングが、前記ノズル部の先端に前記ユーザーの前記外耳道に挿入されるイヤピースを取り付けるイヤピース取付部を備え、
該イヤピース取付部に取り付ける該イヤピースをさらに備える、
請求項1から7のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項9】
前記ハウジングは、
前記スピーカーユニットの一方側に第1音響空間を規定するハウジング部材と、
前記スピーカーユニットが取り付けられ、前記スピーカーユニットの他方側に第2音響空間を規定し、前記ノズル部を構成する前記ベース部材と、を含む、
請求項1から8のいずれかに記載のイヤホン。
【請求項10】
前記ハウジング部材は、樹脂材料から構成される、
請求項9に記載のイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーの耳に装着されて音声再生するイヤホンに関して、特に、再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるイヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホン並びにイヤホンは、ユーザーの耳に当接するように近接配置されるスピーカーユニットに音声信号を印加することにより音を再生する。ユーザーの耳に装着されるイヤホンの中には、様々な形態のものがある。
【0003】
例えば、イヤホンの中には、ヘッドホンのように比較的に大きなスピーカーユニットを備えて、耳介に本体を載せるように装着する耳掛部を備えるものがある。また、本体部を耳介の内側に収めるように装着し、本体部の放音面から外耳道に向け音を放出して使用するインナーイヤー型がある。また、本体部を耳介の内側
に収めるように装着し、さらに本体部から突出する音筒部をそれに装着されたイヤピースと共に外耳道内に挿入して使用するカナル型と称されるタイプのイヤホンが普及している。
【0004】
スピーカーユニットは、小型なものになるほど、高い音圧レベルを得て、かつ、音声再生周波数帯域を十分に広げて良好な再生音質を確保するのが難しくなる。ユーザーの耳に装着されるインナーイヤー型またはカナル型のイヤホンにおけるスピーカーユニットでも、同様の問題が生じる。特に、再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるカナル型のイヤホンでは、スピーカーユニットを取り付けるハウジングが小さく、必要十分な音声再生能力を有する振動板口径が大きいスピーカーユニットを採用するのが難しく、ハウジングの構造による影響を受けやすいという問題がある。
【0005】
従来には、内部に音響空間が形成され、前面に筒状の導音部が突設された筐体と、前記導音部に装着され、外耳道に挿入されるイヤーパッドと、第1通気孔を有し、前記筐体内に設けられて前記音響空間を第1音響空間と第2音響空間とに分離するフレームと、前記フレームに取り付けられ、電気信号を第1音波に変換して前記導音部へ出力する電気音波変換部と、前記フレームに取り付けられた音圧調整部と、を備え、前記音圧調整部は、前記第1通気孔に連通する第3音響空間と、前記第2音響空間及び前記第3音響空間に連通する筒状の第2通気孔と、前記第2通気孔内に挿入され、この挿入位置の調整によって所定の周波数帯域の音圧を低減する第1音響抵抗と、を有することを特徴とするカナル型イヤホンがある(特許文献1)。
【0006】
さらに、従来には、インナーイヤー型電気音響変換装置のスピーカー側に備えるアタッチメントであって、前記アタッチメントは、少なくとも硬度及び/又は密度の異なる2種以上の可撓性を有する素材から構成され、電気−音響変換を行う振動子に対し少なくとも音響的に結合された耳挿入部からなり、前記耳挿入部は、前記振動子からの音響出力を耳内部に伝達する通音孔を備えていることを特徴とするインナーイヤー型電気音響変換装置のアタッチメントがある(特許文献2)。ここでは、前記耳挿入部の前記通音孔の周囲に、前記可撓性を有する素材よりも高硬度及び/又は高密度の金属からなる内壁を形成し、前記金属がTi,Al,Au若しくはPt又は真鍮の何れか或いはそれらの組合せからなることが記載されている。しかし、複数の金属を用いる場合の具体的な構成が明確でなく、イヤホンの再生音質の改善および製造コストの低減を両立させるには、従来技術では不十分な点がある。
【0007】
【特許文献1】特許第5696249号公報
【特許文献2】特開2008―48303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるイヤホンに関し、再生音質の改善および製造コストの低減を両立させて、自然で好ましい音声再生を実現するイヤホンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のイヤホンは、音声信号を音波に電気音響変換するスピーカーユニットと、その内部にスピーカーユニットを取り付けて、スピーカーユニットの振動板の少なくとも一方側に音響空間を規定するハウジングと、を備えるイヤホンであって、ハウジングが、音響空間に連通して音波をユーザーの外耳道に導く音響通路を形成するノズル部を備え、ノズル部が、第1の金属材料で形成されてノズル部の外殻を規定するベース部材と、その外壁面がベース部材の内壁面に固着して内側に第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で形成される音響通路を形成する筒状材と、を含む。
【0010】
好ましくは、本発明のイヤホンは、ベース部材の内壁面と、筒状材の外壁面と、が接着層を介して固着される。
【0011】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ベース部材の内壁面および/または筒状材の外壁面が、音響通路に沿った方向に形成されて、接着層を形成する接着剤が溜まる溝を有する。
【0012】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ノズル部が、筒状材の開口端部に通気性を有する保護部材を更に備え、保護部材の周囲部が、ベース部材と筒状材との間に挟持されて固定される。
【0013】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ベース部材を形成する第1の金属材料と、筒状材を形成する第2の金属材料とが、アルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金、チタン合金、マグネシウム合金、または、鉄合金、のいずれかから異なる2つが選択される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ベース部材を形成する第1の金属材料がアルミニウム合金であり、筒状材を形成する第2の金属材料が黄銅または真鍮である。
【0015】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ハウジングが、スピーカーユニットに音声信号を供給するコードを接続するコード接続部をさらに備える。
【0016】
また、好ましくは、本発明のイヤホンは、ハウジングが、ノズル部の先端にユーザーの外耳道に挿入されるイヤピースを取り付けるイヤピース取付部を備え、イヤピース取付部に取り付けるイヤピースをさらに備える。
【0017】
以下、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明のイヤホンは、音声信号を音波に電気音響変換するスピーカーユニットと、その内部にスピーカーユニットを取り付けて、スピーカーユニットの振動板の少なくとも一方側に音響空間を規定するハウジングと、を備える。ハウジングは、音響空間に連通して音波をユーザーの外耳道に導く音響通路を形成するノズル部を備える。したがって、ハウジングが、スピーカーユニットに音声信号を供給するコードを接続するコード接続部をさらに備え、ハウジングのノズル部が、ユーザーの外耳道に挿入されるイヤピースを取り付けるイヤピース取付部をさらに有していれば、イヤピースが外耳道に密着するカナル型のイヤホンを実現できる。
【0019】
このイヤホンのハウジングのノズル部は、第1の金属材料で形成されてノズル部の外殻を規定するベース部材と、その外壁面がベース部材の内壁面に固着して内側に第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で形成される音響通路を形成する筒状材(スリットを有していてもよい)と、を含む。ベース部材の内壁面と、筒状材の外壁面と、は接着層を介して固着されるのが好ましい。つまり、イヤホンの音響通路を形成するノズル部は、振動モードの異なる二種類の金属を接合して形成されているので、ベース部材の内壁面と筒状材の外壁面との間の摩擦熱およびその間の接着層で、スピーカーユニットからの振動を著しく減衰させることができる。その結果、カナル型のイヤホンであっても、ノズル部における振動を適切に抑制して、ハウジングの振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【0020】
好ましくは、このイヤホンは、ノズル部を振動モードの異なる二種類の金属を接合して形成するのに、ベース部材の内壁面および/または筒状材の外壁面が、音響通路に沿った方向に形成されて、接着層を形成する接着剤が溜まる溝を有するようにすればよい。ベース部材の内部に筒状材を挿入して接着する場合に、音響通路が接着剤で塞がってしまうというような不具合を防いで、接着力を発揮する接着層を形成することができる。なお、筒状材がスリットを有している場合には、その外径を小さくしてベース部材の内壁面側に挿入することができるので、筒状材の外壁面に両面テープを貼り付けて接着することもできる。
【0021】
また、このイヤホンは、ノズル部が、筒状材の開口端部に通気性を有する保護部材を更に備え、保護部材の周囲部が、ベース部材と筒状材との間に挟持されて固定されるようにすれば、二種類の金属を接合して音響通路を形成する構造を実現した上で、開口端部から筒状材の内部に異物が混入して第2音響通路が閉じてしまう、または、狭くなるといった不具合を防止することができる。
【0022】
イヤホンは、ベース部材を形成する第1の金属材料と、筒状材を形成する第2の金属材料とが、アルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金、チタン合金、マグネシウム合金、または、鉄合金、のいずれかから異なる2つが選択される場合に、特にハウジングのノズル部の振動に起因する付帯音などの発生を抑えることができる。具体的には、ベース部材を形成する第1の金属材料がアルミニウム合金であり、筒状材を形成する第2の金属材料が黄銅または真鍮である場合には、製造コストが比較的に低くて効果的に振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のイヤホンは、再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるイヤホンに関し、再生音質の改善および製造コストの低減を両立させて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の好ましい実施形態によるイヤホンについて説明する図である。(実施例1)
図2】本発明の好ましい実施形態によるイヤホンの内部構造について説明する図である。(実施例1)
図3】本発明の好ましい実施形態によるイヤホンの内部構造について説明する図である。(実施例1)
図4】本発明の好ましい実施形態によるイヤホンのハウジングを構成する部材の振動減衰特性について説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態によるイヤホンについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0026】
図1図3は、本発明の好ましい実施形態によるイヤホン1について説明する図である。具体的には、図1は、ユーザーの片耳に装着するイヤホン1の斜視図である。また、図2は、イヤホン1の内部構造を説明する断面図である。また、図3は、ベース部材11およびノズル部材13の断面図である。なお、本発明の説明に不要な他のイヤホン1の構成については、図示及び説明を省略する。
【0027】
本実施例のイヤホン1は、再生する音波の出口がユーザーの耳介の外耳道孔に挿入されるカナル型のイヤホンである。イヤホン1は、ユーザーの左右耳にそれぞれ装着する略左右対称形状のイヤホンを備えて、ステレオ再生に対応することができる。以下では、イヤホン1の片方の耳に対応する構成を説明する。もちろん、イヤホン1の形態は、本実施例の場合に限定されない。
【0028】
イヤホン1は、そのハウジング2に、コード5を介して音声信号を供給することで音を再生するスピーカーユニット3が取り付けられている。スピーカーユニット3は、磁気空隙を有する磁気回路を備え、磁気空隙に挿入されて音声信号が供給されるボイスコイルに連結した振動板を振動させる動電型の電気音響変換器である。スピーカーユニット3は、(図示しない)振動板の前面側および背面側に、逆位相の関係となる音波を放射する。したがって、ハウジング2は、スピーカーユニット3の振動板の一方側と他方側とを分離するように、スピーカーユニット3を取り付ける必要がある。
【0029】
本実施例のハウジング2は、ユーザーの耳介の外耳道孔の大きさに相当するような口径のスピーカーユニット3を取り付けることができる。ハウジング2は、ノズル部を含む略円筒形状のベース部材11と、ベース部材11の後方側に連結してキャビティを構成するハウジング部材12を含む。ハウジング2のベース部材11およびハウジング部材12は、スピーカーユニット3の振動板の前方側に音響空間17を規定し、スピーカーユニット3の磁気回路が存在する後方側に、音響空間17とは分離した音響空間18を形成する。
【0030】
ベース部材11は、アルミニウムを含む金属材料から構成され、スピーカーユニット3を内壁部に取り付けるスピーカーユニット取付部を備える。スピーカーユニット3の外径フレームは、略円筒形状のベース部材11のスピーカーユニット取付部の内径寸法にほぼ一致する外形寸法を有する。ベース部材11は、ユーザーの耳介の外耳道孔に挿入されるように、スピーカーユニット取付部よりも先端側が細く形成されるノズル部11aを含む。ノズル部11aは、音響空間17に連通して音波をユーザーの外耳道に導く音響通路を、その内部側に形成する。
【0031】
ベース部材11のノズル部11aには、その内部側に真鍮材により形成される筒状のノズル部材13が取り付けられている。ノズル部材13は、その外壁面がベース部材11のノズル部11aの内壁面に固着して、内側に上記の音響通路を形成する。ベース部材11のノズル部11aの端部には、内径寸法がノズル部材13の外形寸法よりも小さくなる係止部11bが設けられている。
【0032】
したがって、ノズル部材13は、ベース部材11の音響空間17を規定する直径が大きい内部側からノズル部11aに挿入される。なお、ノズル部11aの開口端部には、通気性を有する保護部材としての保護ネット14が取り付けられている。保護ネット14は、ノズル部11aの開口端部から内部に異物が混入して音響通路が閉じてしまう、などの不具合を防止する。保護ネット14は、ベース部材11の係止部11bと、ノズル部材13の端面13bとの間に挟持されて、固定される。
【0033】
ベース部材11の内壁面と、ノズル部材13の外壁面と、は、接着剤による接着層を介して固着される。接着剤は、例えば、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、シリコン系接着剤、ブチル系接着剤、または、これらの接着剤を含む両面テープが使用可能である。ベース部材11のノズル部11aの内壁面およびノズル部材13の外壁面には、それぞれ音響通路に沿った方向に溝11cまたは13cが形成される。したがって、ベース部材11の内壁面とノズル部材13の外壁面との接着層を形成する接着剤が余った場合に、外側にはみ出すことが無いように溜めることができ、強固に接着固定が可能になる。
【0034】
ノズル部材13は、短冊状の真鍮材を筒状に丸めて形成する筒状体であってもよい。この場合には、ノズル部材13には軸に沿った方向にスリットが出現するので、筒状のノズル部材13の直径を、ベース部材11のノズル部11aの内壁面に対して取り付ける際に一時的に小さくして挿入することができる利点がある。ノズル部材13の長さは、ノズル部11aの長さに相当する長さであればよいが、必ずしも一致する長さでなくてもよく、ノズル部11aの長さよりも長くても短くてもよい。
【0035】
ベース部材11のノズル部11aには、イヤピース6を取り付けるイヤピース取付部が、外周面に形成されている。弾性を有する笠形状のイヤピース6を取り付ければ、イヤピース6が外耳道孔に密着するカナル型のイヤホンを実現できる。イヤピース6により、ユーザーは耳介にイヤホン1を安定して装着することができる。
【0036】
一方で、ハウジング部材12は、音響空間17とは分離して形成される音響空間18を規定する。ハウジング部材12は、金属材料又は樹脂材料から構成され、スピーカーユニット3に音声信号を供給するコード5を固定するコードブッシュ4が連結される。
【0037】
コードブッシュ4は、内部にコード5を含むように柔軟なゴム材料で形成されて、その一方側がハウジング部材12の取付孔に取り付けられている。ハウジング2にプラグ接続用のジャックを設けるイヤホン1の場合には、ハウジング部材12には、スピーカーユニット3に音声信号を供給するコード5を接続するコード接続部として、コードブッシュ4に代えてコード5の先端のプラグが差し込まれるジャックを備えていてもよい。
【0038】
ハウジング2を構成する部材の材質は、イヤホン1の再生音質に影響を与える。ただし、ハウジング2を構成するベース部材11は、ユーザーの外耳孔に挿入されるノズル部11aを含むので、その材質が再生音質に与える影響は、ハウジング部材12よりも比較的に大きくなる。したがって、ベース部材11のノズル部11aは、スピーカーユニット3において発生する振動に起因する振動が、抑制されているのが好ましい。
【0039】
図4は、本実施例のイヤホン1、並びに、比較例のイヤホン10のハウジング2を構成する部材の振動減衰特性について説明するグラフである。部材の振動減衰特性は、板状の所定形状の試験片をインパクトハンマーで加振し、試験片の所定位置の加速度を加速度ピックアップで測定する。横軸は加振後の経過時間を示し、縦軸は基準化した加速度の値を示す。
【0040】
本実施例のイヤホン1に相当する試験片では、アルミニウムの板材と、黄銅つまり真鍮の板材を両面テープで接着している。一方で、比較例のイヤホン10に相当する試験片では、アルミニウムの板材のみである。これらの結果から、本実施例のイヤホン1の場合には、比較例のイヤホン10の場合に比べて、真鍮製のノズル部材13を備えるハウジング2のノズル部11の振動が、遙かに短い時間で減衰して収束することがわかる。一方で、比較例のイヤホン10の場合には、固有の共振周波数の振動が長く持続することがわかる。
【0041】
イヤホン1のハウジング2において、ノズル部材13の有無により、イヤホンの再生音質は変化する。比較例の(図示しない)イヤホン10の場合は、本実施例のイヤホン1のハウジング2において、ベース部材11のノズル部11aが、ノズル部材13を内部に備えない場合に相当する。したがって、図4は、カナル型のイヤホン1における真鍮製のノズル部材13の作用効果を表している。
【0042】
つまり、本実施例のイヤホン1の場合には、ハウジング2のノズル部11の振動に起因する付帯音の発生が、比較例のイヤホン10の場合よりも少なく、再生音声の明瞭度を向上させることができる。ハウジング2を構成する複数の部材において、異なる金属材料を用いる場合には、耳道入り口に挿入されるノズル部の材料と、その内部に挿入されるノズル部材13の材料とを異なるようにするのが最も好ましい。再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるカナル型のイヤホン1としては、比較例のイヤホン10に比べて自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【0043】
ここで、特にノズル部材13が黄銅材または真鍮材である場合には、製造コストが比較的に低くて効果的に振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。ただし、ノズル部材13は、ベース部材11を構成するアルミニウム材と異なれば、黄銅材または真鍮材でなくてもよい。なお、ベース部材11およびノズル部材13は、それぞれ材質が異なる異種金属の組合せであればよい。
【0044】
例えば、ベース部材11がアルミニウム材の場合には、ノズル部材13は、黄銅材または真鍮材の他に、チタン、マグネシウム合金、亜鉛合金、鉄材、鋼材、ステンレス材、等が採用可能である。また、ベース部材11とノズル部材13の材料を入れ替えてもよく、これら2つの部材を構成する金属材料が相互に異なればよい。ハウジング2のノズル部11aの振動に起因する付帯音などの発生を抑えることができる。
【0045】
なお、上記の通り、ベース部材11の内壁面と、ノズル部材13の外壁面と、は接着層を介して固着されるのが好ましい。ベース部材11およびノズル部材13は、振動モードの異なる二種類の金属を接合されているので、スピーカーユニット3からの振動によってそれぞれが振動する場合に、それらの間で摩擦が生じてもその間に形成される接着層で、振動を著しく減衰させることができる。その結果、本実施例のカナル型のイヤホン1では、ノズル部11aにおける振動が適切に抑制されるので、ハウジング2の振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のイヤホンは、図示するようなカナル型のイヤホンに限らず、さらに別の耳掛け部を備えるイヤホンであってもよい。また、イヤホンに限らず、ヘッドバンドにより左右両耳に対応するイヤホンを連結して、オーバーヘッドタイプのイヤホンを構成してもよい。イヤホンは、家庭用のステレオ再生、もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に限られず、車載用のオーディオ機器や、映画館等の音響再生設備にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1、10 イヤホン
2 ハウジング
3 スピーカーユニット
4 コードブッシュ
5 コード
6 イヤピース
11 ベース部材
12 ハウジング部材
13 ノズル部材
14、15 保護ネット
17、18 音響空間
図1
図2
図3
図4