【実施例1】
【0026】
図1〜
図3は、本発明の好ましい実施形態によるイヤホン1について説明する図である。具体的には、
図1は、ユーザーの片耳に装着するイヤホン1の斜視図である。また、
図2は、イヤホン1の内部構造を説明する断面図である。また、
図3は、ベース部材11およびノズル部材13の断面図である。なお、本発明の説明に不要な他のイヤホン1の構成については、図示及び説明を省略する。
【0027】
本実施例のイヤホン1は、再生する音波の出口がユーザーの耳介の外耳道孔に挿入されるカナル型のイヤホンである。イヤホン1は、ユーザーの左右耳にそれぞれ装着する略左右対称形状のイヤホンを備えて、ステレオ再生に対応することができる。以下では、イヤホン1の片方の耳に対応する構成を説明する。もちろん、イヤホン1の形態は、本実施例の場合に限定されない。
【0028】
イヤホン1は、そのハウジング2に、コード5を介して音声信号を供給することで音を再生するスピーカーユニット3が取り付けられている。スピーカーユニット3は、磁気空隙を有する磁気回路を備え、磁気空隙に挿入されて音声信号が供給されるボイスコイルに連結した振動板を振動させる動電型の電気音響変換器である。スピーカーユニット3は、(図示しない)振動板の前面側および背面側に、逆位相の関係となる音波を放射する。したがって、ハウジング2は、スピーカーユニット3の振動板の一方側と他方側とを分離するように、スピーカーユニット3を取り付ける必要がある。
【0029】
本実施例のハウジング2は、ユーザーの耳介の外耳道孔の大きさに相当するような口径のスピーカーユニット3を取り付けることができる。ハウジング2は、ノズル部を含む略円筒形状のベース部材11と、ベース部材11の後方側に連結してキャビティを構成するハウジング部材12を含む。ハウジング2のベース部材11およびハウジング部材12は、スピーカーユニット3の振動板の前方側に音響空間17を規定し、スピーカーユニット3の磁気回路が存在する後方側に、音響空間17とは分離した音響空間18を形成する。
【0030】
ベース部材11は、アルミニウムを含む金属材料から構成され、スピーカーユニット3を内壁部に取り付けるスピーカーユニット取付部を備える。スピーカーユニット3の外径フレームは、略円筒形状のベース部材11のスピーカーユニット取付部の内径寸法にほぼ一致する外形寸法を有する。ベース部材11は、ユーザーの耳介の外耳道孔に挿入されるように、スピーカーユニット取付部よりも先端側が細く形成されるノズル部11aを含む。ノズル部11aは、音響空間17に連通して音波をユーザーの外耳道に導く音響通路を、その内部側に形成する。
【0031】
ベース部材11のノズル部11aには、その内部側に真鍮材により形成される筒状のノズル部材13が取り付けられている。ノズル部材13は、その外壁面がベース部材11のノズル部11aの内壁面に固着して、内側に上記の音響通路を形成する。ベース部材11のノズル部11aの端部には、内径寸法がノズル部材13の外形寸法よりも小さくなる係止部11bが設けられている。
【0032】
したがって、ノズル部材13は、ベース部材11の音響空間17を規定する直径が大きい内部側からノズル部11aに挿入される。なお、ノズル部11aの開口端部には、通気性を有する保護部材としての保護ネット14が取り付けられている。保護ネット14は、ノズル部11aの開口端部から内部に異物が混入して音響通路が閉じてしまう、などの不具合を防止する。保護ネット14は、ベース部材11の係止部11bと、ノズル部材13の端面13bとの間に挟持されて、固定される。
【0033】
ベース部材11の内壁面と、ノズル部材13の外壁面と、は、接着剤による接着層を介して固着される。接着剤は、例えば、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、シリコン系接着剤、ブチル系接着剤、または、これらの接着剤を含む両面テープが使用可能である。ベース部材11のノズル部11aの内壁面およびノズル部材13の外壁面には、それぞれ音響通路に沿った方向に溝11cまたは13cが形成される。したがって、ベース部材11の内壁面とノズル部材13の外壁面との接着層を形成する接着剤が余った場合に、外側にはみ出すことが無いように溜めることができ、強固に接着固定が可能になる。
【0034】
ノズル部材13は、短冊状の真鍮材を筒状に丸めて形成する筒状体であってもよい。この場合には、ノズル部材13には軸に沿った方向にスリットが出現するので、筒状のノズル部材13の直径を、ベース部材11のノズル部11aの内壁面に対して取り付ける際に一時的に小さくして挿入することができる利点がある。ノズル部材13の長さは、ノズル部11aの長さに相当する長さであればよいが、必ずしも一致する長さでなくてもよく、ノズル部11aの長さよりも長くても短くてもよい。
【0035】
ベース部材11のノズル部11aには、イヤピース6を取り付けるイヤピース取付部が、外周面に形成されている。弾性を有する笠形状のイヤピース6を取り付ければ、イヤピース6が外耳道孔に密着するカナル型のイヤホンを実現できる。イヤピース6により、ユーザーは耳介にイヤホン1を安定して装着することができる。
【0036】
一方で、ハウジング部材12は、音響空間17とは分離して形成される音響空間18を規定する。ハウジング部材12は、金属材料又は樹脂材料から構成され、スピーカーユニット3に音声信号を供給するコード5を固定するコードブッシュ4が連結される。
【0037】
コードブッシュ4は、内部にコード5を含むように柔軟なゴム材料で形成されて、その一方側がハウジング部材12の取付孔に取り付けられている。ハウジング2にプラグ接続用のジャックを設けるイヤホン1の場合には、ハウジング部材12には、スピーカーユニット3に音声信号を供給するコード5を接続するコード接続部として、コードブッシュ4に代えてコード5の先端のプラグが差し込まれるジャックを備えていてもよい。
【0038】
ハウジング2を構成する部材の材質は、イヤホン1の再生音質に影響を与える。ただし、ハウジング2を構成するベース部材11は、ユーザーの外耳孔に挿入されるノズル部11aを含むので、その材質が再生音質に与える影響は、ハウジング部材12よりも比較的に大きくなる。したがって、ベース部材11のノズル部11aは、スピーカーユニット3において発生する振動に起因する振動が、抑制されているのが好ましい。
【0039】
図4は、本実施例のイヤホン1、並びに、比較例のイヤホン10のハウジング2を構成する部材の振動減衰特性について説明するグラフである。部材の振動減衰特性は、板状の所定形状の試験片をインパクトハンマーで加振し、試験片の所定位置の加速度を加速度ピックアップで測定する。横軸は加振後の経過時間を示し、縦軸は基準化した加速度の値を示す。
【0040】
本実施例のイヤホン1に相当する試験片では、アルミニウムの板材と、黄銅つまり真鍮の板材を両面テープで接着している。一方で、比較例のイヤホン10に相当する試験片では、アルミニウムの板材のみである。これらの結果から、本実施例のイヤホン1の場合には、比較例のイヤホン10の場合に比べて、真鍮製のノズル部材13を備えるハウジング2のノズル部11の振動が、遙かに短い時間で減衰して収束することがわかる。一方で、比較例のイヤホン10の場合には、固有の共振周波数の振動が長く持続することがわかる。
【0041】
イヤホン1のハウジング2において、ノズル部材13の有無により、イヤホンの再生音質は変化する。比較例の(図示しない)イヤホン10の場合は、本実施例のイヤホン1のハウジング2において、ベース部材11のノズル部11aが、ノズル部材13を内部に備えない場合に相当する。したがって、
図4は、カナル型のイヤホン1における真鍮製のノズル部材13の作用効果を表している。
【0042】
つまり、本実施例のイヤホン1の場合には、ハウジング2のノズル部11の振動に起因する付帯音の発生が、比較例のイヤホン10の場合よりも少なく、再生音声の明瞭度を向上させることができる。ハウジング2を構成する複数の部材において、異なる金属材料を用いる場合には、耳道入り口に挿入されるノズル部の材料と、その内部に挿入されるノズル部材13の材料とを異なるようにするのが最も好ましい。再生する音波の出口がユーザーの外耳道入り口に挿入されるカナル型のイヤホン1としては、比較例のイヤホン10に比べて自然で好ましい音声再生を実現することができる。
【0043】
ここで、特にノズル部材13が黄銅材または真鍮材である場合には、製造コストが比較的に低くて効果的に振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。ただし、ノズル部材13は、ベース部材11を構成するアルミニウム材と異なれば、黄銅材または真鍮材でなくてもよい。なお、ベース部材11およびノズル部材13は、それぞれ材質が異なる異種金属の組合せであればよい。
【0044】
例えば、ベース部材11がアルミニウム材の場合には、ノズル部材13は、黄銅材または真鍮材の他に、チタン、マグネシウム合金、亜鉛合金、鉄材、鋼材、ステンレス材、等が採用可能である。また、ベース部材11とノズル部材13の材料を入れ替えてもよく、これら2つの部材を構成する金属材料が相互に異なればよい。ハウジング2のノズル部11aの振動に起因する付帯音などの発生を抑えることができる。
【0045】
なお、上記の通り、ベース部材11の内壁面と、ノズル部材13の外壁面と、は接着層を介して固着されるのが好ましい。ベース部材11およびノズル部材13は、振動モードの異なる二種類の金属を接合されているので、スピーカーユニット3からの振動によってそれぞれが振動する場合に、それらの間で摩擦が生じてもその間に形成される接着層で、振動を著しく減衰させることができる。その結果、本実施例のカナル型のイヤホン1では、ノズル部11aにおける振動が適切に抑制されるので、ハウジング2の振動に起因する付帯音などの発生を抑えて、自然で好ましい音声再生を実現することができる。