特許第6687883号(P6687883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687883
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】電動車両の絶縁構造
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20200421BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20200421BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20200421BHJP
   H02K 5/04 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   B60L3/00 JZHV
   B60L15/20 J
   B60L9/18 J
   H02K5/04
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-250532(P2015-250532)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-118661(P2017-118661A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 譲二
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−201184(JP,A)
【文献】 特開2012−105391(JP,A)
【文献】 特開2013−023185(JP,A)
【文献】 特開2008−295268(JP,A)
【文献】 特開平08−065945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
H02K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に搭載される少なくとも回転電機の絶縁破壊を防止する電動車両の絶縁構造であって、
前記回転電機の内部の圧力を保持する密閉ケースと、
前記密閉ケース内の圧力を検出する圧力センサと、
大気圧を検出する大気圧センサと、
前記密閉ケースの密閉状態と大気との連通状態とを切り換える圧力調整弁と、
前記圧力調整弁を制御する圧力制御部と
を備え、
前記回転電機に接続されるインバータが第2の密閉ケースを具備すると共に前記第2の密閉ケースの密閉状態と大気との連通状態とを切り換える第2の圧力調整弁を具備し、
前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧以上の場合には前記圧力調整弁を閉とし、前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧より低い場合には前記圧力調整弁を開とするように制御し、前記第2の密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧以上の場合には前記第2の圧力調整弁を閉とし、前記回転電機の前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧より低い場合には前記第2の圧力調整弁を開とするように制御する
ことを特徴とする電動車両の絶縁構造。
【請求項2】
請求項に記載の電動車両の絶縁構造において、
前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が1気圧より高い第2所定圧力を超えた場合に前記圧力調整弁を開とするように制御し、前記第2の密閉ケースの内部の圧力が前記第2所定圧力を超えた場合に前記第2の圧力調整弁を開とするように制御する
ことを特徴とする電動車両の絶縁構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動車両の絶縁構造において、
前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が1気圧より低い第1所定圧力以下となった場合には前記電動車両が要求する目標電圧を低く制限するように制御する
ことを特徴とする電動車両の絶縁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としての走行用モータ(電動機)が搭載された電動車両の絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド車両等の電動車両は、駆動源としての走行用モータを備えている。このようなモータやインバータを収容するケース体には、ケース体内の圧力を調整する圧力調整弁が設けられている構造が知られている。このような構造では、車両が標高の高い場所に移動すると、ケース体内部の圧力が低下する。一般的に、モータに印加される電圧の常用域では圧力が、圧力が低いほど絶縁耐力低下することが知られている。ケース体内の圧力が低下すると、絶縁破壊を回避するためにモータに対する印加電圧を低下させなければならず、この結果、モータの出力の低下を招く。
【0003】
そこで、従来、標高の高い場所では、モータ等の絶縁抵抗が低下するので、モータへの電圧の印加を低下させるように制御することが提案されている(特許文献1参照)。また、このような制御では標高の高い場所では出力が制限されるので、標高が高いことが検出された際に、コンプレッサによりモータのケース体内部に空気を供給して圧力の低下を抑制することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−50174号公報
【特許文献2】特開2009−278849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2では、標高に応じて空気を常に供給しているので、モータのケース体内部に無駄に空気を供給している場合があるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、標高の高い場合でも出力の制限を受けることなく絶縁破壊を防止することができる電動車両の絶縁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、電動車両に搭載される少なくとも回転電機の絶縁破壊を防止する電動車両の絶縁構造であって、前記回転電機の内部の圧力を保持する密閉ケースと、前記密閉ケース内の圧力を検出する圧力センサと、大気圧を検出する大気圧センサと、前記密閉ケースの密閉状態と大気との連通状態とを切り換える圧力調整弁と、前記圧力調整弁を制御する圧力制御部とを備え、前記回転電機に接続されるインバータが第2の密閉ケースを具備すると共に前記第2の密閉ケースの密閉状態と大気との連通状態とを切り換える第2の圧力調整弁を具備し、前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧以上の場合には前記圧力調整弁を閉とし、前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧より低い場合には前記圧力調整弁を開とするように制御し、前記第2の密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧以上の場合には前記第2の圧力調整弁を閉とし、前記回転電機の前記密閉ケースの内部の圧力が前記大気圧より低い場合には前記第2の圧力調整弁を開とするように制御することを特徴とする電動車両の絶縁構造にある。
【0008】
かかる態様では、回転電機のケースを密閉構造とし、密閉ケースの内部の圧力が大気圧以上の場合には圧力調整弁を閉とし、密閉ケースの内部の圧力が大気圧より低い場合には圧力調整弁を開とするように制御することにより、外部の気圧変化に左右されることなく絶縁破壊を防止することができ、所望の目標電圧に制御することができる。また、インバータのケースを密閉構造とし、第2の密閉ケースの内部の圧力が大気圧以上の場合には第2の圧力調整弁を閉とし、第2の密閉ケースの内部の圧力が大気圧より低い場合には第2の圧力調整弁を開とするように制御することにより、外部の気圧変化に左右されることなく絶縁破壊を防止することができ、所望の目標電圧に制御することができる。
【0011】
本発明の第の態様は、第1の態様の電動車両の絶縁構造において、前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が1気圧より高い第2所定圧力を超えた場合に前記圧力調整弁を開とするように制御し、前記第2の密閉ケースの内部の圧力が前記第2所定圧力を超えた場合に前記第2の圧力調整弁を開とするように制御することを特徴とする電動車両の絶縁構造にある。
【0012】
かかる態様では、車両の高負荷運転などにより回転電機等の内部の圧力が第2所定電圧を超えて上昇した場合に、圧力調整弁を開として適正な圧力に調整することができる。
【0013】
本発明の第の態様は、第1又は2の態様の電動車両の絶縁構造において、前記圧力制御部は、前記密閉ケースの内部の圧力が1気圧より低い第1所定圧力以下となった場合には前記電動車両が要求する目標電圧を低く制限するように制御することを特徴とする電動車両の絶縁構造にある。
【0014】
かかる態様では、仮に、密閉ケースの内部の圧力が1気圧より低い第1所定圧力以下となった場合には、車両が要求する目標電圧を低く制限することより、絶縁破壊を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
かかる本発明の電動車両の絶縁構造によれば、回転電機のケースを密閉構造とし、密閉ケースの内部の圧力が大気圧以上の場合には圧力調整弁を閉とし、密閉ケースの内部の圧力が大気圧より低い場合には圧力調整弁を開とするように制御することにより、外部の気圧変化に左右されることなく絶縁破壊を防止することができ、所望の目標電圧に制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の概略構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁構造の概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明に係る絶縁構造の制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
まずは、本実施形態に係る電動車両の全体構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る電動車両1は、電気自動車(EV)であり、二次電池であるバッテリ2と、このバッテリ2の電力により作動する駆動源としての回転電機である走行用モータ(電動機)3と、を備える。バッテリ2と走行用モータ3とはインバータ4を介して接続されている。走行用モータ3は、例えば、図示しない自動変速機等を含む伝達系5を介して駆動輪(本実施形態では、前輪)6に連結されている。
【0018】
なお走行用モータ3は、通常走行時は、伝達系5を介して駆動輪6を駆動させる一方、いわゆる回生時には、駆動輪6からの回転を受けて発電し、その電力をバッテリ2に供給する。つまり走行用モータ3は、通常走行時にはプラス側のトルクを出力し、回生時にはマイナス側のトルクを出力する。
【0019】
また電動車両1は、電動車両1を総合的に制御する制御部10を備えている。例えば、走行用モータ3は、制御部10が備えるモータ制御部20によって制御される。このモータ制御部20は、電動車両1に設けられた各種センサ、例えば、ブレーキペダル21のストローク(BPS)を検出するブレーキペダルストロークセンサ22、電動車両1の車速を検出する車速センサ23、電動車両1の加速度(減速度)を検出する加速度センサ24、走行用モータ3の出力トルクを検出するトルクセンサ25等からの信号に基づいてインバータ4を制御し、走行用モータ3から出力される出力トルクが適切な大きさとなるにようにする。
【0020】
このような電動車両に搭載される絶縁構造の概略構成を図2に示す。図2に示すように、本実施形態の絶縁構造は、回転電機である走行用モータ3及びインバータ4に適用されており、制御部10(図1参照)には、圧力制御部30が設けられている。
【0021】
走行用モータ3及びインバータ4のケース3a、4aのそれぞれには、ケース3a、4aの外側に密閉ケース3b、4bを設け、密閉ケース3b、4bの内部の圧力を調整するための圧力調整弁31A、31Bが設けられ、さらに、密閉ケース3b、4bの内部、すなわち、ケース3a、3bの内部の圧力を検出する圧力センサ32A、32Bが設けられている。また、圧力調整弁31A、31Bは、圧力制御部30により制御されるようになっており、圧力センサ32A、32Bが検出した圧力は圧力制御部30に送信されるようになっている。
【0022】
本実施形態では、絶縁破壊を防止する対象として走行用モータ3及びインバータ4に空気を供給するようにしているが、例えば、インバータ4には他の絶縁破壊対策を施し、走行用モータ3のみに本発明の絶縁構造を適用してもよい。また、本実施形態では、走行用モータ3及びインバータ4のそれぞれのケース3a、4aに圧力調整弁31A、31B及び圧力センサ32A、32Bを設けたが、ケース3a、4aを包含する密閉ケースを設け、両者の内部の圧力の調整及び検出を一つの圧力センサ及び圧力調整弁で行うようにしてもよい。
【0023】
また、密閉ケース3b、4bは、圧力調整弁31A、31Bを閉とした場合に、外気の影響を受けて中の圧力が実質的に変化しない程度の密閉性を有するものをいい、必ずしも本来のケース3a、4aの外側に別途設ける必要はない。図2では、判りやすくするために、密閉ケース3b、4bをケース3a、4aの外側に図示したが、ケース3a、4aのシール性を向上させて密閉性を高めたものを密閉ケース3b、4bとしてもよい。
【0024】
次に、本実施形態の絶縁構造の制御の一例について図3のフローチャートを参照して説明する。まず、ステップS1で、圧力センサ32A、32Bの圧力が第2所定圧力Bより高いかどうかを判断し、何れかの圧力が第2所定圧力Bより高い場合には(ステップS1;Yes)、圧力調整弁31A、31Bを開とし(ステップS2)、内部の9圧力が上昇しすぎるのを防止する。一方、何れかの圧力が第2所定圧力B以下となった場合には(ステップS1;No)、ステップS3に移行する。
【0025】
ステップS3では、圧力センサ32A、32Bの圧力が大気圧センサ33の出力以上かどうかを判断し、何れかの圧力が大気圧以上の場合には(ステップS3;Yes)、圧力調整弁31A、31Bを閉とし(ステップS4)、大気圧の影響で内部の圧力が低下するのを防止する。一方、圧力センサ32A、32Bの圧力が大気圧より低い場合には(ステップS3;No)、ステップS5に移行する。
【0026】
ステップS5では、圧力センサ32A、32Bの圧力が大気圧より低い第1所定圧力A以上かどうかを判断し、何れかの圧力が第1所定圧力A以上の場合には(ステップS5;Yes)、圧力調整弁31A、31Bを開とし(ステップS6)、大気圧の影響で内部の圧力が元に戻るようにする。一方、圧力センサ32A、32Bの圧力が第1所定圧力Aより低い場合には(ステップS5;No)、絶縁破壊が生じ易い状態であるので、絶縁に問題が無い目標電圧で運行するようにし、絶縁に問題があるような高い目標電圧の要求があった場合には、制限をかけて低い電圧とする(ステップS7)。これにより、密閉ケース3b、4b内の圧力が低下した場合にも、絶縁破壊が生じないように制御することができる。
【0027】
ここで、第1所定圧力Aは、1気圧より低い圧力であり、目標電圧が所定電圧を超えた場合に絶縁破壊を起こす可能性がある気圧である。例えば、標高3000m程度の気圧に対応した圧力とすればよいが、安全をみて、例えば、標高2000m程度、又は標高1500m程度の気圧に対応した圧力とすればよい。例えば、0.7〜0.9atm、好ましくは0.75〜0.85atm程度である。
【0028】
一方、第2所定圧力Bは、1気圧より高い圧力であり、それ以上高くしても絶縁破壊を防止する観点からは意味が無い圧力又はそれ以上高いと密閉ケース3b、4bの安全性が確保できない圧力を設定すればよい。例えば、1.1〜1.3atm程度、好ましくは1.2atm程度である。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
例えば、上述の実施形態では、電動車両の一例として、走行用モータを備える電気自動車(EV)を例示して本発明を説明したが、勿論、本発明は、各種の電動車両に適用可能であり、例えば、走行用モータと共にエンジン(内燃機関)を駆動装置として備えるハイブリッド車両等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 電動車両
2 バッテリ
3 走行用モータ
4 インバータ
5 伝達系
6 駆動輪
10 制御部
20 モータ制御部
21 ブレーキペダル
22 ブレーキペダルストロークセンサ
23 車速センサ
24 加速度センサ
25 トルクセンサ
30 圧力制御部
31A、31B 圧力調整弁
32A、32B 圧力センサ
33 大気圧センサ
図1
図2
図3