特許第6687930号(P6687930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NEC東芝スペースシステム株式会社の特許一覧 ▶ 東京エレクトロニツクシステムズ株式会社の特許一覧

特許6687930人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法
<>
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000002
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000003
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000004
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000005
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000006
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000007
  • 特許6687930-人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687930
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法
(51)【国際特許分類】
   G04R 40/02 20130101AFI20200421BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20200421BHJP
   G04R 20/02 20130101ALI20200421BHJP
   G04G 5/00 20130101ALI20200421BHJP
【FI】
   G04R40/02
   B64G1/66 A
   G04R20/02
   G04G5/00 J
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-30940(P2016-30940)
(22)【出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-150834(P2017-150834A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593115769
【氏名又は名称】東芝エレクトロニックシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100147809
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 順一
(72)【発明者】
【氏名】栗林 充伸
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 哲也
【審査官】 池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−177081(JP,A)
【文献】 特開2012−004914(JP,A)
【文献】 特開2010−263503(JP,A)
【文献】 特開2009−294007(JP,A)
【文献】 特開平11−153680(JP,A)
【文献】 米国特許第06633590(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64B 1/00− 1/70
B64C 1/00−99/00
B64D 1/00−47/08
B64F 1/00− 5/60
B64G 1/00−99/00
G04G 3/00−99/00
G04R20/00−60/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロックを送出する水晶発振器と、
少なくとも参照クロックを送出するGPS受信機と、
前記水晶発振器から送出される基準クロック 及び 前記GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを出力するオンボードコンピュータと、
前記基準クロックの変化を識別するクロック補正データを取得するクロック補正データ取得手段と、
前記オンボードコンピュータから前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミング を受け付ける衛星内部機器と、
相手局と通信するテレメトリ通信部と、
を備え、
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ 衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力しつつ、加えて、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、
更に、前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する
ことを特徴とする人工衛星。
【請求項2】
前記クロック補正データ取得手段は、クロック補正データに前記水晶発振器の温度を用いることを特徴とする請求項1記載の人工衛星。
【請求項3】
前記クロック補正データ取得手段は、クロック補正データに前記水晶発振器の出力パルス列の安定度を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の人工衛星。
【請求項4】
前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性を示す健全性情報を、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して前記相手局に通信することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項5】
前記オンボードコンピュータは、参照クロックと内部クロックとの同期状態を示す同期情報を、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して前記相手局に通信することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項6】
前記GPS受信機は、時刻情報と少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックを送出し、
前記オンボードコンピュータは、常時的に少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックに内部クロックを同期させ、参照クロックの健全性に異常があれば、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、内部クロックを同期停止時の基準クロックの数量に基づいた内部クロック周期で刻む
ことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項7】
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、前記水晶発振器から送出された基準クロックのクロック数を用いて計測すると共に、その計測結果に基づき、内部クロックの周期を 基準クロック数を加減することにより 増減させて、同期させることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項8】
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、生成した内部クロックを用いて計測すると共に、その計測結果の位相差量に基づき、粗追尾処理 又は 細追尾処理の何れで位相差を減ずるか定めた後に、内部クロックの周期を参照クロックに近づけ、
この粗追尾処理は、クロックパルス周期単位で位相差を揃え、また細追尾処理はクロックパルス数単位で位相差を揃える、
ことを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項9】
基準クロックを送出する水晶発振器と、少なくとも参照クロックを送出するGPS受信機と、前記水晶発振器から送出される基準クロック 及び 前記GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを出力するオンボードコンピュータと、前記基準クロックの変化を識別するクロック補正データを取得するクロック補正データ取得手段と、前記オンボードコンピュータから前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミング を受け付ける衛星内部機器と、相手局と通信するテレメトリ通信部と、を備え、
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ 衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力しつつ、加えて、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、
更に、前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する
人工衛星と、
前記人工衛星から送出されたクロック補正データを取得するクロック補正データ収集部と、前記クロック補正データに基づいて、前記人工衛星の内部処理で用いられた衛星内部時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングをオフライン補正処理する衛星刻時タイミング補正部と、を具備する補正局と、
を含むことを特徴とする衛星システム。
【請求項10】
水晶発振器から送出される基準クロック 及び GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを生成しつつ、
前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 出力する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを衛星内機器に出力しつつ、加えて、基準クロックの変化を識別したクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、
参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する
ことを特徴とする人工衛星の内蔵コンピュータによる内部時刻確定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部時刻を管理する人工衛星、衛星システム、及びその人工衛星の内部時刻確定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星は、その内部に時計を有するものが多い。また、人工衛星は、その時計が刻む時刻を利用するものが多い。この時計は、衛星システム内で求める精度に応じた装置が適宜採用されている。
【0003】
衛星に搭載される時計は、原子時計や水晶発振子を利用した時計、GPS(Global Positioning System)信号に同期させる時計、これらの複合させた時計などがある。
【0004】
例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)の衛星の様に高精度な時刻を用いる衛星では、原子時計を利用している。一方、中軌道衛星や低軌道衛星などの周回衛星では、GPS電波を利用して精度のよい時計を実現している衛星も多くある。
【0005】
衛星の内部時刻に関連する技術は、例えば以下の文献に開示している。
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、クロック信号を生成する衛星内部発振器(基準クロック生成回路)を含む人工衛星の内部時刻システムを開示する。
【0007】
特許文献1の内部時刻システムは、衛星内部発振器と、GPS受信機と、GPS受信機で受信した時刻情報を衛星内部発振器のクロック信号に同期させて内部機器に供給する同期手段(リタイミング回路)を含んでいる。この同期手段を含むことで、この内部時刻システムは、GPS受信機で受信した時刻情報を衛星内部発振器のクロック信号の生成分解能で衛星内部の各要素に提供できる。
【0008】
一方、特許文献2の1秒信号取得装置は、装置内基準発振器(1秒クロック生成器)と、GPS受信機と、GPS受信機から受け付けた1秒信号(パルス列)か 装置内基準発振器で生成した1秒信号か を切り替えて内部機器に供給する切替手段(タイミング取込回路)を含んでいる。また、この1秒信号取得装置は、1PPS妥当性判定部と状態判定部を具備して、GPS受信機から受け付けた1秒信号の不具合を判定した際に切替手段を稼働させる。このため、1秒信号取得装置は、GPS受信機から出力された1秒信号に不具合を判定した際に、1秒信号の源を、GPS受信機から装置内基準発振器に切り替えることが可能になる。
【0009】
また、GPS受信機の健全性を判定する仕組みは、特許文献3にも記載されている。特許文献3の時刻管理装置は、GPS受信機からのパルス列と内部時計が刻むパルス列とを比較して、そのズレを識別する判定部を具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−177081号公報
【特許文献2】特開平08−105984号公報
【特許文献3】特開2009−294007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
人工衛星を運用するに当たり、意図したタイミングでの的確な動作や観測結果に真の観測時間により近い時刻情報を付与するために、衛星システム内で より高精度な内部時刻の把握を望む。
【0012】
昨今の中低軌道衛星の多くは、衛星内で用いるシステム時刻(時刻情報、計時クロック)をGPS受信機から得られる参照クロックを利用して規定している。
【0013】
一方で、GPS不可視時やGPS受信機の故障などにより、参照クロック等が使用不能になった場合、人工衛星内でシステム時刻の維持を図らなければならない。
【0014】
現状の多くの中低軌道用人工衛星では、システム時刻の精度を高く維持するためにTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)やOCXO(Oven Controlled Crystal Oscillator)を実装している。他方で原子時計を採用するものは少ない。
【0015】
また、上記特許文献1や特許文献2に記載されたシステム時刻を維持する仕組みでは、GPS受信機の故障時等に発振器若しくは装置内基準発振器(1秒クロック生成器)の精度で時刻を刻むことが可能になる。この発振器や装置内基準発振器からの基準クロックは、短期的にはある程度の精度を維持できるものの、GPS受信機から出力される参照クロックのように永続的に精度を維持できていない。
【0016】
換言すれば、GPS受信機から出力される参照クロックを使用不能な期間は、システム時刻の精度を水晶発振器(素子)の周波数精度に依存している。このため、GPS受信機から参照クロックを正常に利用できていた区間と比較して、発振器のクロック精度が相対的に低下する。この結果、人工衛星の動作や付与時刻にも微妙な影響が生じている。
【0017】
この影響を最小限にするため、衛星に搭載する発振器として、高精度水晶発振器であるTCXO やOCXO等の補償機能を具備する水晶発振器を採用することが多い。
【0018】
人工衛星の動作や観測データ等に付与する時刻は、GPS受信機から出力される参照クロックを用いた精度と同等の高い精度を常時的に要求したい。そこで、発明者は、GPS受信機の参照クロック等に異常が生じた場合に、衛星システム内で時刻の精度を保ちつつ、観測データ等の時刻の正確性をより担保可能な仕組みを検討した。
【0019】
本発明は、上記背景の元に、GPS受信機から送出される参照クロックに異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持可能に動作する人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施形態に係る人工衛星は、基準クロックを送出する水晶発振器と、少なくとも参照クロックを送出するGPS受信機と、前記水晶発振器から送出される基準クロック 及び 前記GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを出力するオンボードコンピュータと、前記基準クロックの変化を識別するクロック補正データを取得するクロック補正データ取得手段と、前記オンボードコンピュータから前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミング を受け付ける衛星内部機器と、相手局と通信するテレメトリ通信部と、を備え、前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ 衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力しつつ、加えて、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、更に、前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力することを特徴とする。
【0021】
本発明の一実施形態に係る衛星システムは、基準クロックを送出する水晶発振器と、少なくとも参照クロックを送出するGPS受信機と、前記水晶発振器から送出される基準クロック 及び 前記GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを出力するオンボードコンピュータと、前記基準クロックの変化を識別するクロック補正データを取得するクロック補正データ取得手段と、前記オンボードコンピュータから前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミング を受け付ける衛星内部機器と、相手局と通信するテレメトリ通信部と、を備え、前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ 衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力しつつ、加えて、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、更に、前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する人工衛星と、前記人工衛星から送出されたクロック補正データを取得するクロック補正データ収集部と、前記クロック補正データに基づいて、前記人工衛星の内部処理で用いられた衛星内部時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングをオフライン補正処理する衛星刻時タイミング補正部と、を具備する補正局と、を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態に係る人工衛星の内蔵コンピュータによる内部時刻確定方法は、水晶発振器から送出される基準クロック 及び GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを生成しつつ、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 出力する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを衛星内機器に出力しつつ、加えて、基準クロックの変化を識別したクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、GPS受信機から送出される参照クロックに異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持可能に動作する人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明にかかる一実施形態の人工衛星1の内部構造を示すブロック図である。
図2】衛星システムの制御シーケンス例を示すフローチャートである。
図3】一構成例に係る衛星システムを示すブロック図である。
図4】OBC_1MppsをREF_1Mppsに同期する同期フロー例を示したタイミングチャートである(OBC_1Mpps側位相遅れ処理)。
図5】OBC_1MppsをREF_1Mppsに同期する同期フロー例を示したタイミングチャートである(OBC_1Mpps側位相進み処理)。
図6】OBC_1ppsをREF_1ppsに同期する同期フロー例を示したタイミングチャートである(粗追尾処理 後の 細追尾処理 による同期処理)。
図7】REF_1ppsを基準とした基準クロックの安定度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。各図は、発明に係る構成要素や制御タイミングを概略的に示す図である。
【0026】
[実施形態]
図1は、一実施形態の人工衛星1の内部構造を示すブロック図である。
【0027】
人工衛星1は、図示するように、オンボードコンピュータ10、GPS受信機20、水晶発振器30、クロック補正データ取得手段40、衛星内部機器50、及びテレメトリ/テレコマンド通信部60を含み構成されている。また、人工衛星1は、衛星用電源装置(図示せず)なども必要に応じて搭載している。
【0028】
オンボードコンピュータ10は、衛星内時刻の計時手段、内部クロックの基準とするクロックを切り替えるクロック切替手段、内部クロックを参照クロックに同期させるクロック同期手段、参照クロックの健全性を判定する健全性判定手段を機能させる。また、オンボードコンピュータ10は、一般的なカウンタ回路等を具備して、クロック間の位相差検出やカウントアップ/ダウン等も行える。
【0029】
オンボードコンピュータ10は、GPS受信機20から送出される参照クロックと 水晶発振器30から送出される基準クロック を常時的に受け付けるように構成されている。また、オンボードコンピュータ10は、計時手段を用いて、平時は参照クロックに基づいて、参照クロックの異常時は基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むように構成されている。この衛星内時刻は、衛星内機器50や後述するクロック補正データへの紐付けに使用される。
【0030】
また、オンボードコンピュータ10は、クロック同期手段を用いて内部クロックを、平時はGPS受信機20から送出される参照クロックに、参照クロックの異常時はクロック切替手段によって切り替えられた水晶発振器30から送出される基準クロックに、同期させるように構成されている。
【0031】
また、オンボードコンピュータ10は、健全性判定手段を用いて常時的に参照クロックの健全性を判定するように構成されている。この参照クロックの健全性を判定する手法は、どのような手法を使用してもよい。健全性を判定する手法の例は、一構成例を用いて後述する。
【0032】
また、オンボードコンピュータ10は、健全性判定手段を用いて判定した参照クロックの健全性を示す健全性情報を、クロック補正データ取得手段40から得たクロック補正データに関連付けて、健全性情報が対応付いたクロック補正データをテレメトリ/テレコマンド通信部60に通知するようにしてもよい。
【0033】
同様に、オンボードコンピュータ10は、参照クロックと内部クロックとの同期状態を示す同期情報を、クロック補正データ取得手段40から得たクロック補正データに関連付けて、同期情報が対応付いたクロック補正データをテレメトリ/テレコマンド通信部60に通知するようにしてもよい。
【0034】
同様に、オンボードコンピュータ10は、内部クロック周期を示す基準クロックのカウンタ値を、クロック補正データ取得手段40から得たクロック補正データに関連付けて、このカウンタ値が対応付いたクロック補正データをテレメトリ/テレコマンド通信部60に通知するようにしてもよい。
【0035】
オンボードコンピュータ10は、これらの健全性情報、同期情報、カウンタ値の何れか又は組み合わせを、各クロック補正データに紐付けることで、オフライン処理により、衛星(オンボードコンピュータ)が参照クロックに同期せずに刻んだ時刻の期間を識別でき、より精確に補正することが可能になる。
【0036】
GPS受信機20は、航法信号を取得し、少なくとも参照クロックを送出する。昨今のGPS受信機20からは、GPS時刻(時刻情報)と共に、一般に参照クロックとして、1秒周期のパルス列と1マイクロ秒周期のパルス列を取得できる。
【0037】
水晶発振器30は、基準クロックの発振源であり、基準クロックを送出する。水晶発振器30としては、例えばSPXOを使用できる。
【0038】
クロック補正データ取得手段40は、水晶発振器30の状態や安定度をクロック補正データとして常時的に取得する。クロック補正データには、水晶発振器30の温度、水晶発振器30の出力パルス列の安定度の両方が含まれることが望ましい。クロック補正データを参照することで、基準クロックの変化を識別することが可能になる。また、水晶発振器30がVCXOであれば制御電圧値も含めることが望ましい。クロック補正データ取得手段40としては、所望する情報(温度等)に合わせたセンサやマイコンを実装して、所望する情報を取得すればよい。
【0039】
衛星内部機器50は、例えば放送機器、通信機器、観測機器などであり、衛星の用途に合わせて設けられる。これらの機器で生成される信号(例えば衛星送出信号)や情報(例えば観測データ)には、適宜 時間情報やタイムコードなどが付与される。また、これらの機器は、オンボードコンピュータ10で指定される特定タイミングで動作ものもある。本実施形態にかかる衛星内部機器50は、衛星内時刻又は内部クロックに対応付く動作タイミングの少なくとも一方を受け付けて、用途に合わせて使用する。
【0040】
テレメトリ/テレコマンド通信部60は、衛星外の通信機器(通信相手局:地上局や宇宙機、他の衛星など)からテレコマンドを受ける受信部(図示せず)、他の通信機器にテレメトリを送る送信部(図示せず)を含む。
【0041】
上記構成によって、人工衛星1は、GPS受信機20から送出される参照クロックに異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持可能に動作する。
【0042】
上記構成を衛星に搭載することで、衛星システムは、人工衛星1で生成された信号や情報を、衛星外で高精度にオフライン補正することで、参照クロックに異常が生じた際でも 例えば衛星内部時刻体系を他の時刻系統に精確に同期させ得る。また、例えば、衛星内で参照クロックの異常が復旧しない場合に、人工衛星1への時刻合わせフィードバック量をクロック補正データに基づいて最終的に基準クロック単位でテレコマンドで指示することが可能になる。
【0043】
次に、衛星システムのオフライン補正オペレーションに関連する動作を説明する。
【0044】
この説明では、人工衛星で生成されたクロック補正データを使用するセクターを補正局として説明する。この補正局は、人工衛星1と通信可能であり、テレメトリでクロック補正データを常時的に取得して管理する。なお、補正局は、テレメトリ以外の手法で、クロック補正データを収集する構成としてもよい。
【0045】
具体的な一構成例では、地上局に、クロック補正データ収集部と、衛星刻時タイミング補正部とを設けて補正局とすればよい。このクロック補正データ収集部は、人工衛星1から送出されたクロック補正データを取得するように構成されている。また、この衛星刻時タイミング補正部は、クロック補正データに基づいて、人工衛星1の内部処理で用いられた内部時刻及び/又は内部クロックに伴う動作タイミングをオフライン補正処理するように構成されている。必要に応じて、地上局に、補正結果を人工衛星1にテレコマンドでフィードバックする仕組みを設けてもよい。また、地上局に、補正結果を人工衛星1の生成信号/情報を使用する利用端末に向けて通信回線を介して提供する補完情報を提供する仕組みを設けることとしてもよい。また、地上局に、人工衛星1の生成信号/情報を使用する利用端末に向けて通信回線を介して補正結果そのものを提供する仕組みを設けることとしてもよい。
【0046】
図2は、衛星システムのオフライン補正オペレーションに関する制御シーケンス例を示すフローチャートである。
【0047】
オフライン補正オペレーションは、人工衛星1の運用工程と、人工衛星1で生成されたクロック補正情報を用いる補正局の補正工程とを含む。
【0048】
人工衛星1の運用工程では、オンボードコンピュータ10とその周辺回路(GPS受信機20等)は、人工衛星1の用途に合わせた運用中に、平時はGPS受信機20からの参照クロックを用いて、衛星内部時刻と内部クロックを供給する(S11)。
【0049】
また、人工衛星1の運用工程では、並列動作で、オンボードコンピュータ10とその周辺回路(クロック補正データ取得部40等)は、クロック補正データを取得し、テレメトリ通信で地上局にクロック補正データを常時的に通知する(S21)。この通知には、健全性情報、同期情報、カウンタ値をクロック補正データに関連付けて通知するが望ましい。
【0050】
この通知の頻度は、衛星システムの構成や用途、補正対象信号/データの種別ごとに適宜定めれば良い。例えば、1秒ごとに地表をスキャンする衛星であれば、クロック補正データを通知するテレメトリ頻度も1秒に設定すればよい。また、リアルタイム性を要求されない観測用衛星であれば、ある程度のクロック補正データをまとめて通知することとしてもよい。
【0051】
人工衛星1の運用工程では、オンボードコンピュータ10は、GPS受信機20からの参照クロックの健全性を監視し(S12)、参照クロックの異常時は基準クロックに基づいて、衛星内部時刻と内部クロックを供給する(S13)。この状態(S13)は、参照クロックの健全性が正常に戻れば、S11に移行する。
【0052】
なお、この状態(S13)に移行したことにより、衛星内部機器50で生成される各種信号/情報に付与される時刻情報/内部クロックや衛星内部機器50の動作は、S11の状態よりも、僅かに精度が低減する。特に、S13の状態が継続すると、一般的には精度の乖離が増大する傾向がある。
【0053】
補正局の補正工程では、地上局は、人工衛星1で生成されたクロック補正情報と、補正対象となる信号/データを収集する(B11)。
【0054】
次に、地上局は、クロック補正情報を用いて、補正対象となる信号/データをオフライン補正する(B12)。
【0055】
オフライン補正は、水晶発振器30の特性パラメータや健全性情報、同期情報、カウンタ値を用いることで、より正確な時刻やタイミングを補正できる。
【0056】
このように各部を動作させることで、GPS受信機から得る参照クロックが得られない状態で取得された信号/データの正確な時刻や取得タイミングが判別可能になる。
【0057】
この結果、GPS受信機から送出される参照クロックに異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持できる。
【0058】
次に、上記 実施形態をより具現化した一構成を示して本発明を説明する。
【0059】
[構成例]
図3は、一構成例に係る衛星システムを示すブロック図である。図3は、観測衛星と地上局を合わせて記載している。なお、観測衛星の観測機器に関連する説明は省略する。
【0060】
図中のA部は、GPS受信機20である。このGPS受信機20は、参照クロック(REF_1pps、REF_1Mpps)と時刻情報(基準時刻データ)を出力する。この時刻情報には時刻データの健全性を示すステータス情報が含まれている。
【0061】
図中のB部は、衛星全体の管理を行う衛星管理系のオンボードコンピュータ10(OBC)である。この構成例のオンボードコンピュータ10は、衛星時刻を生成・維持・管理し、衛星内の各機器へ時刻配信を行う。このことで、高精度な衛星の軌道・姿勢制御や観測センサの観測時刻タグ付与等を実現する。
【0062】
図中のC部(HCE:Heater Control Electronics)、D部(観測機器)、E部(テレメトリ/テレコマンド部)は、観測衛星の一般的な構成と同様である。この、C部、D部、E部は、それぞれ クロック補正データ取得手段40、衛星内部機器50、テレメトリ/テレコマンド通信部60に該当する。
【0063】
オンボードコンピュータ10は、内部に搭載しているASIC(Application Specific Integrated Circuit)の主要ロジックとして、時刻同期処理を実施する時刻同期部(B-1)を備えている。また、オンボードコンピュータ10は、ASICを動作させる原振クロックとして、50MHzの水晶発振器30(B-2)が実装されている。更に、オンボードコンピュータ10には、クロック補正データ取得手段40となる、水晶発振器30の近傍に配設された温度モニタ用の白金センサ(B-3)が実装されている。この白金センサ(B-3)は、本構成例ではオンボードコンピュータ外でHCEに接続されている。本構成例では、白金センサ(B-3)の温度情報は、HCEで収集される他の温度テレメトリとともに衛星内部機器I/F部(B-5)介してテレメトリ/テレコマンド処理部(B-6)で収集され、テレメトリ/テレコマンド通信部60に送付される。なお、衛星内部機器I/F部(B-5)は、SpaceWire(衛星システム内の汎用通信規格:SpW)ネットワークを介して、観測機器(D部)等に64HzのTickを供給する。64HzのTickは、時刻同期部(B-1)で生成され、1周期の各パルスに0〜63までの番号を付与したタイムコードである。SpWネットワーク上の各機器はこのタイムコードによって各処理を実施するタイミングが定められている。また、オンボードコンピュータ10は、プロセッサ(B-4)を搭載しており、このプロセッサ(B-4)上で衛星内部機器の制御や時刻同期処理の設定等を行うソフトウェアを稼働させる。
【0064】
オンボードコンピュータ10は、ASIC内に、内蔵した水晶発振器30(50MHz)から出力された基準クロックを基に1マイクロ秒周期パルス信号(OBC_1Mpps)を生成する回路を搭載している。また、オンボードコンピュータ10は、OBC_1Mppsを基に1秒周期パルス信号(OBC_1pps)と64Hzパルス信号(Tick)を生成する回路を搭載している。Tickは各搭載ソフトウェア、回路に動作タイミングを通知するための信号である。
【0065】
また、この観測衛星の内部時刻は、GPSシステム時刻に高い精度で同期させる。このために、オンボードコンピュータ10は、GPS受信機20が生成する参照クロック(1秒パルス信号、1マイクロ秒パルス信号)と時刻情報(タイムコード)を内部時刻の源泉タイミングとして受け付ける。
【0066】
オンボードコンピュータ10は、平常時、時刻同期部(B-1)でGPS受信機20から得た参照クロックと内部時刻を刻む内部クロックの位相差を低減して同期させる。プロセッサ(B-4)は、計測した結果が所定以上の差を検出した際に、以下に示す手法で両クロックを同期させる。この同期手法を用いることで、GPS受信機20の参照クロックと内部クロックの位相差が高精度で早期に近接させられる。
【0067】
時刻同期部(B-1)で実施する時刻同期は、以下に示すREF_1MppsとOBC_1Mpps、REF_1ppsとOBC_1ppsという順番で同期処理を実施すればよい。
なお、図4図5は、OBC_1MppsをREF_1Mppsに同期する同期フローを示したタイミングチャートである。また、図6は、OBC_1ppsをREF_1ppsに同期する同期フローを示したタイミングチャートである。
【0068】
(1)まず、プロセッサ(B-4)は、GPS受信機20(クロック信号)の健全性を確認する。プロセッサ(B-4)による健全性の確認は、時刻情報、1マイクロ秒周期パルス信号(REF_1Mpps)、及び1秒周期パルス信号(REF_1pps)の全てが健全と判断できれば、両参照クロック信号の監視処理を動作させつつ、時刻同期部の同期処理を実行する。
なお、参照クロックの健全性は下記条件により判定し、全ての条件を満たした場合に使用可能と判断する。
・基準時刻データに含まれるステータスが「正常」であること。
・REF_1pps周期を、REF_1Mppsのカウント数により計測した値が、判定値内であること。
・REF_1pps周期を、OBC_1Mppsのカウント数により計測した値が、判定値内であること。
【0069】
(2)次に、REF_1MppsとOBC_1Mppsを以下の流れで同期させる(図4及び図5参照)。
(2−1)REF_1MppsとOBC_1Mpps間の位相差を水晶発振器原振(50MHz)で計測する(クロック数をカウント)。
(2−2)両クロックの位相差に基づき、OBC_1Mppsの1周期に含ませる50MHzのクロック数を増減させ、位相差を0に近づける。このとき、OBC_1Mppsの周期が大きく崩さないように、1周期含ませるクロック数を45〜55クロックの範囲内で周期の調整を実施する。
(2−3)上記処理を位相差が0になるまで繰り返し、REF_1MppsとOBC_1Mppsを源振のクロック時間の精度で同期させる。
【0070】
(3)次に、REF_1ppsとOBC_1ppsを以下の流れで同期させる(図6参照)。このとき、ソフトウェア動作への影響を最小にするべく、急激な時間変動が発生しないようにするため、以下の流れで同期させる。
(3−1)REF_1ppsとOBC_1pps間の位相差をOBC_1Mppsで計測する(クロック数をカウント)。
(3−2)位相差が64マイクロ秒以上であれば、粗追尾処理として、Tickの周期をnクロック(nマイクロ秒)分増減させる。この処理を用いることで、粗追尾処理は、OBC_1ppsの周期を1秒±64×nマイクロ秒に変化させて、位相差を0に近づける。
(3−3)位相差が64マイクロ秒未満となった場合、精追尾処理として、OBC_1ppsのパルスと同時に出力されるTick(Tick0)から、次のTick(Tick1)の出力までの間隔をmクロック(マイクロ秒)分増減させる。この処理を用いることで、精追尾処理は、OBC_1ppsの周期を1秒±mマイクロ秒に変化させて、位相差をより0に近づける。
(3−4)上記処理を繰り返し、REF_1ppsとOBC_1ppsを同期させる。
【0071】
以上の同期処理を実施することで、時刻情報(GPS基準時刻)に衛星の内部時刻を高精度に同期させられる。この結果、GPS衛星が搭載する原子時計に間接的に同期でき、永続的な期間において安定的な動作クロックが得られる。
【0072】
(4)一方、GPS不可視時やGPS受信機故障等の理由により、参照クロック等の配信が途絶えた場合、観測衛星(OBC10)は、途絶を検知し自律的に水晶発振器30を基準とした時刻管理に移行する。この際、衛星時刻の精度を保つため、OBC_1ppsの1周期に含めるクロック数を、途絶直前の値(源振のクロック数値)に維持する。
【0073】
(5)また、上記の時刻同期処理とは別に、衛星システム内で、衛星内部時刻の高精度なオフライン補正を実施するために、観測衛星は、定期的にクロック補正データをテレメトリに含めて地上局に送信する。なお、観測衛星は、基準クロックの変化を可能識別する情報(例えばVCXOのコントロール電圧値など)も併せてクロック補正データとして地上局に通知することが望ましい。
(5−1)水晶発振器30の温度情報。この温度情報は、水晶発振器30近傍に実装された温度センサ(白金センサB-3)により測定されてHCT経由で取得する。
(5−2)水晶発振器30の周波数安定度情報。この周波数安定度情報は、水晶発振器30の源振クロック数を、REF_1ppsが所定回数入力される間(所定時間)カウントして理論値との誤差量の変化率を安定度の値とすることができる。例えば、REF_1ppsを16回(4bit)カウントする間の水晶発振器30の源振クロックカウント値を継続的に収集し、各区間の誤差のバラツキをオフライン処理で参照すればよい(図7参照)。
【0074】
上記クロック補正データを地上局で長期に収集し、その温度トレンドと経年トレンドを評価することにより、例えばTCXO等を使用せずとも一般的な水晶発振器のみを使用したとしても、GPS時刻との同期崩れ時に衛星内部時刻を高精度にオフライン補正することが可能となる。また、オンボードコンピュータ10は、健全性情報、同期情報、源振クロックカウント値を、各クロック補正データに紐付けて、通知することが望ましい。この情報を用いることで、オフライン処理上で、どのタイミングから参照クロックとの同期を外したか また同期(回復)させたかが高精度に判別可能になる。
【0075】
上記動作を端的に説明すれば、平常時、観測衛星は、オンボードコンピュータ10に設けた時刻同期回路の働きによって、GPSの基準時刻に衛星内時刻を高精度に同期させ、且つ、クロック補正用データを定期的に地上局に送信する。また、GPSの基準時刻に衛星内時刻を高精度に同期させられない異常時に、観測衛星は、自律的に同期を解き、内部水晶発振器で高精度な時刻管理を継続しつつ、GPSの基準時刻が取得できるまで継続する。地上局は、この間に実行された動作や取得された観測結果について、観測衛星から通知されたクロック補正用データ等を参照して、衛星が刻んだ時刻をより正確な時間に補正する。換言すれば、観測衛星がGPSの基準時刻を取得できていない状態で刻んだシステム時刻とGPS基準時刻との差分を補正して、より精確なGPSシステム時刻に間接的に同期する。
【0076】
このことで、観測衛星は、例えば一般的なOCXOに替えてSPXOを搭載していたとしても、GPSの基準時刻の途絶後も自身の衛星時刻をSPXOの基準クロックを用いて維持し、加えて衛星システムとして高精度に衛星時刻を把握することが可能になる。
【0077】
これらの処理により、GPS受信機に異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持可能に動作する人工衛星を得られる。また、GPS受信機に異常が生じた間の人工衛星搭載オンボードコンピュータの内部時刻を精確に確定する方法を得られる。
【0078】
なお、本構成例は、観測衛星を例示したが、通信衛星なども同様の仕組みを実現して、内部時刻をより精確に把握可能にすればよい。
【0079】
なお、オンボードコンピュータの各部は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて適宜実現すればよい。ハードウェアは、FPGAやLSIで構成できる。また、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせた形態では、メモリーに衛星のメインプログラムやサブプログラムが展開され、これらのプログラムに基づいてプロセッサ等のハードウェアを動作させる。また、このプログラムは、記録媒体に非一時的に記録されて頒布されても良い。
【0080】
以上実施形態及び構成例を図示して説明したが、本発明の具体的な衛星内の内部構成は前述の実施形態、構成例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があってもこの発明に含まれる。
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、GPS受信機から送出される参照クロックに異常が生じた際に、衛星システム内で 衛星が刻んだ時刻の精度を維持可能に動作する人工衛星、衛星システム、及び人工衛星の内部時刻確定方法を提供できる。
【0082】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載されうる。尚、以下の付記は本発明をなんら限定するものではない。
[付記1]
基準クロックを送出する水晶発振器と、
少なくとも参照クロックを送出するGPS受信機と、
前記水晶発振器から送出される基準クロック 及び 前記GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを出力するオンボードコンピュータと、
前記基準クロックの変化を識別するクロック補正データを取得するクロック補正データ取得手段と、
前記オンボードコンピュータから前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミング を受け付ける衛星内部機器と、
相手局と通信するテレメトリ通信部と、
を備え、
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ 衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力しつつ、加えて、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、
更に、前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する
ことを特徴とする人工衛星。
【0083】
[付記2]
前記クロック補正データ取得手段は、クロック補正データに前記水晶発振器の温度を用いることを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0084】
[付記3]
前記クロック補正データ取得手段は、クロック補正データに前記水晶発振器の出力パルス列の安定度を用いることを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0085】
[付記4]
前記オンボードコンピュータは、参照クロックの健全性を示す健全性情報を、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して前記相手局に通信することを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0086】
[付記5]
前記オンボードコンピュータは、参照クロックと内部クロックとの同期状態を示す同期情報を、前記クロック補正データ取得手段から得たクロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して前記相手局に通信することを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0087】
[付記6]
前記GPS受信機は、時刻情報と少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックを送出し、
前記オンボードコンピュータは、常時的に少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックに内部クロックを同期させ、参照クロックの健全性に異常があれば、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、内部クロックを同期停止時の基準クロックの数量に基づいた内部クロック周期で刻む
ことを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0088】
[付記7]
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、前記水晶発振器から送出された基準クロックのクロック数を用いて計測すると共に、その計測結果に基づき、内部クロックの周期を 基準クロック数を加減することにより 増減させて、同期させることを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0089】
[付記8]
前記オンボードコンピュータは、前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、生成した内部クロックを用いて計測すると共に、その計測結果の位相差量に基づき、粗追尾処理 又は 細追尾処理の何れで位相差を減ずるか定めた後に、内部クロックの周期を参照クロックに近づけ、
この粗追尾処理は、クロックパルス周期単位で位相差を揃え、また細追尾処理はクロックパルス数単位で位相差を揃える、
ことを特徴とする上記付記記載の人工衛星。
【0090】
[付記9]
上記付記記載の人工衛星と、
前記人工衛星から送出されたクロック補正データを取得するクロック補正データ収集部と、前記クロック補正データに基づいて、前記人工衛星の内部処理で用いられた衛星内部時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングをオフライン補正処理する衛星刻時タイミング補正部と、を具備する補正局と、
を含む衛星システム。
【0091】
[付記10]
前記補正局は、更に、前記衛星刻時タイミング補正部でオフライン補正した前記人工衛星の衛星内部時刻 及び/又は 動作タイミングを前記人工衛星にフィードバックするフィードバック部を備えることを特徴とする上記付記記載の衛星システム。
【0092】
[付記11]
前記補正局は、更に前記衛星刻時タイミング補正部でオフライン補正した前記人工衛星の衛星内部時刻 及び/又は 動作タイミングを前記人工衛星の利用端末にフィードバックするフィードバック部を備えることを特徴とする上記付記記載の衛星システム。
【0093】
[付記12]
前記補正局は、更に、前記人工衛星から出力された生成信号又は生成情報の衛星内部時刻 及び/又は 動作タイミングを、前記衛星刻時タイミング補正部でオフライン補正した前記人工衛星の衛星内部時刻 及び/又は 動作タイミングに、補完するための補完情報を前記人工衛星の利用端末に送出するフィードバック部を備えることを特徴とする上記付記記載の衛星システム。
【0094】
[付記13]
水晶発振器から送出される基準クロック 及び GPS受信機から送出される参照クロックを受け付けて、前記基準クロック 又は 前記参照クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、前記衛星内時刻と内部クロックとを生成しつつ、
前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 出力する内部クロックを常時的に同期処理させつつ、前記GPS受信機から送出される参照クロックの健全性を監視し、且つ衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを衛星内機器に出力しつつ、加えて、基準クロックの変化を識別したクロック補正データを定期的にテレメトリ通信部に通知し、
参照クロックの健全性に異常があれば、前記水晶発振器からの基準クロックに基づいて衛星内時刻を刻むと共に、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、前記衛星内時刻 及び/又は 内部クロックに対応付く動作タイミングを前記衛星内機器に出力する
ことを特徴とする人工衛星の内蔵コンピュータによる内部時刻確定方法。
【0095】
[付記14]
前記クロック補正データは、前記水晶発振器の温度を用いることを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0096】
[付記15]
前記クロック補正データは、前記水晶発振器の出力パルス列の安定度を用いることを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0097】
[付記16]
参照クロックの健全性を示す健全性情報を、前記クロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して相手局に通信することを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0098】
[付記17]
参照クロックと内部クロックとの同期状態を示す同期情報を、前記クロック補正データに関連付けて、前記テレメトリ通信部を介して相手局に通信することを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0099】
[付記18]
前記GPS受信機から時刻情報と少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックを受け付け、
常時的に少なくとも1マイクロ秒オーダの参照クロックに内部クロックを同期させ、参照クロックの健全性に異常があれば、内部クロックと参照クロックとの同期処理を停止して、内部クロックを同期停止時の基準クロックの数量に基づいた内部クロック周期で刻む
ことを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0100】
[付記19]
前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、前記水晶発振器から送出された基準クロックのクロック数を用いて計測すると共に、その計測結果に基づき、内部クロックの周期を 基準クロック数を加減することにより 増減させて、同期させることを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【0101】
[付記20]
前記GPS受信機から受け付けた参照クロックに 生成する内部クロックを同期処理する際に、参照クロックと内部クロックとの位相差を、生成した内部クロックを用いて計測すると共に、その計測結果の位相差量に基づき、粗追尾処理 又は 細追尾処理の何れで位相差を減ずるか定めた後に、内部クロックの周期を参照クロックに近づけ、
この粗追尾処理は、クロックパルス周期単位で位相差を揃え、また細追尾処理はクロックパルス数単位で位相差を揃える、
ことを特徴とする上記付記記載の内部時刻確定方法。
【符号の説明】
【0102】
1 人工衛星
10 オンボードコンピュータ
20 GPS受信機
30 水晶発振器
40 クロック補正データ取得手段
50 衛星内部機器
60 テレメトリ/テレコマンド通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7