【実施例】
【0012】
Zrで表面のSn原子の一部を置換したSnO2ナノ粉体(Zr表面修飾SnO2ナノ粉体)を、以下のようにして作成した。SnCl4水溶液(濃度1M)をNH4HCO3により中和し、撹拌後に遠心分離により沈殿を分離し、遊離のCl
-イオンを除去した。200℃で2時間水熱処理し、乾燥後に空気中700℃で焼成し、1次粒子が単分散しているSnO2粉体を得た。SnO2の平均一次粒子径は16nmであった。
【0013】
HFとZrO(NO3)2の混合水溶液と上記のSnO2粉体とを混合し、1時間撹拌した。HF濃度は約5mass%とし、ZrO(NO3)2濃度は0.05M,0.1M,0.4Mの3種類とした。撹拌後に脱イオン水を加えて遠心分離し、遊離のZrイオン、フッ素イオンを除去した。次いで乾燥を施し、空気中600℃で焼成し、Zr表面修飾SnO2ナノ粉体とした。比較例として、ZrO(NO3)2を含まないHF水溶液により同様に処理し、遠心分離と焼成とを施したSnO2ナノ粉体を調製した。
【0014】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体と比較例のSnO2ナノ粉体のX線回折パターンを測定したが、いずれもSnO2のピークのみが検出され、ZrO2のピークは検出できなかった。原子発光法により、各SnO2粉体のZr原子濃度(Sn原子濃度とZr原子濃度の合計を100at%とする)を測定した。Zr塩の仕込み濃度とZr原子濃度の関係を表1に示す。Zr原子濃度は仕込み濃度に比例せず、またHFとZrO(NO3)2の混合水溶液中のZr原子の一部しか、SnO2中に移行していなかった。さらにZr表面修飾SnO2ナノ粉体を電子顕微鏡で観察しても、ZrO2に相当する粒子は観察できなかった。調製方法の点からは、Zr塩の水溶液との接触後に遠心分離を施しているので、Zr溶液の液滴は存在せず、ZrO2粒子を形成できないはずである。
【0015】
これらのことは、ZrがZrO2として担持されているのではなく、ZrがSnO2粒子表面のSn欠陥を置換する、あるいはSnO2表面の酸素欠陥をZr原子と結合した酸素で置換してSnO2粒子表面に存在することを示している。表面修飾前のSnO2は700℃で焼成されていることから、その後のHFによる処理と600℃の再焼成で、Zr原子がSnO2粒子の中心部まで拡散することは考えにくいので、Zr原子は主としてSnO2粒子の表面に存在すると考えられる。なおZr表面修飾SnO2ナノ粉体の調製方法は任意で、特に用いるZr塩の種類は任意である。
【0016】
表1
Zr塩の仕込み濃度(M) Zr原子濃度(at%)
0.05 0.03
0.1 0.046
0.4 0.13
【0017】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体を用いて、
図1のガスセンサ2を作成した。アルミナ等の基板4にヒータ6と電極8とを設け、電極8を覆うようにSnO2膜10をスクリーン印刷し、空気中580℃で焼成し、ガスセンサ2とした。なおSnO2膜10の膜厚は約40μmである。12,13はヒータ4と電極8のパッドである。ガスセンサの構造は任意で、例えばMEMSタイプでも良く、ヒータ6を基板4の表面に露出させて電極8を兼用させても良い。
【0018】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体にはPd,Pt,Au等の貴金属をさらに担持させても良く、SnO2膜10にアルミナ、シリカ等の第3成分を混合しても良い。またSnO2膜10は厚膜でも薄膜でも良い。Zr表面修飾SnO2ナノ粉体を用いたガスセンサをZr-SnO2で、Zrを含有しないHF水溶液で処理したSnO2ナノ粉体を用いたガスセンサをHF-SnO2で表す。
【0019】
図2,
図3は、Zr-SnO2(Zr原子濃度0.03at%)とHF-SnO2との、300℃及び350℃での抵抗値の酸素分圧依存性を示す。発明者らが既に発表したように、SnO2表面の酸素の吸着種がO
-であれば抵抗値は酸素分圧の1/2乗に線形で、O
2-であれば抵抗値は酸素分圧の1/4乗に線形である。300℃ではZr-SnO2、HF-SnO2共に酸素の吸着種はO
-(
図2)、350℃ではZr-SnO2での吸着種はO
2-に変化するが、HF-SnO2ではO
-のままであった(
図3)。350℃で酸素がO
2−として吸着することは、Zr原子濃度が0.046at%、0.13at%でも同様であった。なおZrO2粒子表面に、350℃で酸素がO
2-として吸着することはない。従って
図3の結果は、ZrがZrO2粒子として存在しているとすると、説明不能である。
【0020】
図3は、SnO2粒子表面のSn原子の一部をZr原子により置換すると、酸素の吸着状態が変化することを示している。O
-をより活性なO
2-により置き換えると、ガス感度も変化する。
図4に、湿潤雰囲気(H2O 3vol%)での、水素とCOへの感度を示す。Zr-SnO2はZr原子濃度が0.046at%であったが、他のZr原子濃度でも同様であった。水素、CO共に、Zr原子で表面修飾することにより感度が増し、特にCO感度は大きく増加した。