特許第6687931号(P6687931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6687931-SnO2系ガスセンサ 図000002
  • 6687931-SnO2系ガスセンサ 図000003
  • 6687931-SnO2系ガスセンサ 図000004
  • 6687931-SnO2系ガスセンサ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687931
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】SnO2系ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
   G01N27/12 B
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-164568(P2016-164568)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-31696(P2018-31696A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年4月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名 CHEMICAL SENSORS Vol.32,Supplement A(2016) 発行者名 公益社団法人 電気化学会 化学センサ研究会 該当箇所 第96〜98ページ 発行年月日 平成28年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】内野 穂高
(72)【発明者】
【氏名】西堀 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
【審査官】 北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−033696(JP,A)
【文献】 特開昭59−026043(JP,A)
【文献】 特開2003−065989(JP,A)
【文献】 米国特許第05047214(US,A)
【文献】 特開2004−158340(JP,A)
【文献】 特開2008−128773(JP,A)
【文献】 特開2005−017182(JP,A)
【文献】 特開平7−174725(JP,A)
【文献】 特開平11−094786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 −27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnO2とヒータと電極とを備えるガスセンサにおいて、
SnO2表面のSn原子の一部がZr原子により置換され、あるいはSnO2粒子表面の酸素欠陥がZr原子と結合した酸素で置換され、
SnO2での、Zr原子とSn原子の合計に対する、Zr原子の濃度が0.01at%以上0.2at%以下であることを特徴とする、SnO2系ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、SnO2系ガスセンサの高感度化に関する。
【背景技術】
【0002】
SnO2は代表的なガスセンサ材料であり、さらなる高感度化が求められている。これに関して発明者は、SnO2粒子表面のSn原子欠陥を他の金属原子で置換する、あるいはSnO2粒子表面の酸素欠陥を金属原子と結合した酸素で置換することを検討し、この発明に至った。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1(特許3146111)は、ZrO2をSnO2に0.01〜0.5mol%の割合で担持させと、ガス感度が向上することを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3146111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、新たな手法によりSnO2系ガスセンサを高感度化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のSnO2系ガスセンサでは、SnO2とヒータと電極とを備えるガスセンサにおいて、SnO2粒子表面のSn原子欠陥をZr原子で置換すること等により、SnO2表面のSn原子の一部をZr原子により置換し、あるいはSnO2粒子表面の酸素欠陥をZr原子と結合した酸素で置換する。Zr原子とSn原子の合計に対する、Zr原子の濃度は0.01at%以上0.2at%以下である。この発明では、ZrO2粒子がSnO2粒子の表面に担持されているのではない。SnO2粒子表面のSn原子欠陥をZr原子で置換すると、SnO2表面のSn原子の一部をZr原子により置換したことになる。あるいはまた、SnO2粒子表面の酸素欠陥をZr原子と結合した酸素で置換しても、SnO2粒子表面にZr原子を導入することができる。このようにして、SnO2粒子の表面にZr原子を導入し、SnO2粒子表面をZr原子で表面修飾する。Zr原子は主としてSnO2粒子の表面に存在する。SnO2粒子表面でのZr原子の濃度を正確に測定することは困難なので、SnO2全体に対する割合でZr原子の濃度を定める。Zr原子とSn原子の合計に対する、Zr原子の濃度を0.01at%以上0.2at%以下とし、例えば0.02at%以上0.1at%以下とする。
【0007】
ZrO2粒子をSnO2粒子が担持しているのではなく、Zr原子によりSn原子が置換されている、あるいはSnO2粒子表面の酸素欠陥をZr原子と結合した酸素で置換されていることは、
・ XRDでZrO2のピークが検出できないこと、及び
・ Zr原子の導入によりSnO2への酸素の吸着種が変化することにより、裏付けられている。即ち、Zr原子の導入により、空気中350℃での酸素の吸着種はOからO2-へ変化する(図3)。この温度でZrO2表面に酸素がO2−として吸着することはないので、ZrO2粒子がSnO2粒子に担持されているとすると説明が不能である。
【0008】
Zr原子によるSn原子欠陥の置換や、Zr原子と結合した酸素による表面酸素欠陥の置換が生じていることは、ガスセンサの製造方法からも推定できる。発明者は、HFとZrO(NO3)2の混合物水溶液を700℃で焼成した単分散のSnO2粉体と接触させた後に、洗浄と焼成を施すことにより、Zr原子あるいはZr原子と結合した酸素をSnO2表面に導入した。ZrO(NO3)2をSnO2粉体と接触させた時に、HFによりSnO2粒子表面のSn原子および不定比の酸素原子が溶出し、Zr原子あるいはZr原子と結合した酸素により置換されるはずである。また洗浄を施したため、Zr塩の水溶液が除去され、SnO2表面にZrO2粒子は形成されないはずである。
【0009】
ガス感度として、湿潤空気(3vol%H2O)でのCO感度とH2感度を、ガスセンサ温度が300℃及び350℃で測定した。COに対してもH2に対しても、Zr原子によるSn原子の表面置換により、感度は著しく向上した(図4)。以上のように、この発明ではSnO2粒子表面のSn原子の一部をZr原子で置換することにより、湿潤雰囲気下においてガスセンサの感度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例のガスセンサの断面図
図2】300℃での比較例(HF-SnO2)と実施例(Zr-SnO2)での、抵抗値の酸素分圧依存性を示す特性図
図3】350℃での比較例(HF-SnO2)と実施例(Zr-SnO2)での、抵抗値の酸素分圧依存性を示す特性図
図4】実施例と比較例の、300℃及び350℃での、H2及びCOへの感度を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
Zrで表面のSn原子の一部を置換したSnO2ナノ粉体(Zr表面修飾SnO2ナノ粉体)を、以下のようにして作成した。SnCl4水溶液(濃度1M)をNH4HCO3により中和し、撹拌後に遠心分離により沈殿を分離し、遊離のCl-イオンを除去した。200℃で2時間水熱処理し、乾燥後に空気中700℃で焼成し、1次粒子が単分散しているSnO2粉体を得た。SnO2の平均一次粒子径は16nmであった。
【0013】
HFとZrO(NO3)2の混合水溶液と上記のSnO2粉体とを混合し、1時間撹拌した。HF濃度は約5mass%とし、ZrO(NO3)2濃度は0.05M,0.1M,0.4Mの3種類とした。撹拌後に脱イオン水を加えて遠心分離し、遊離のZrイオン、フッ素イオンを除去した。次いで乾燥を施し、空気中600℃で焼成し、Zr表面修飾SnO2ナノ粉体とした。比較例として、ZrO(NO3)2を含まないHF水溶液により同様に処理し、遠心分離と焼成とを施したSnO2ナノ粉体を調製した。
【0014】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体と比較例のSnO2ナノ粉体のX線回折パターンを測定したが、いずれもSnO2のピークのみが検出され、ZrO2のピークは検出できなかった。原子発光法により、各SnO2粉体のZr原子濃度(Sn原子濃度とZr原子濃度の合計を100at%とする)を測定した。Zr塩の仕込み濃度とZr原子濃度の関係を表1に示す。Zr原子濃度は仕込み濃度に比例せず、またHFとZrO(NO3)2の混合水溶液中のZr原子の一部しか、SnO2中に移行していなかった。さらにZr表面修飾SnO2ナノ粉体を電子顕微鏡で観察しても、ZrO2に相当する粒子は観察できなかった。調製方法の点からは、Zr塩の水溶液との接触後に遠心分離を施しているので、Zr溶液の液滴は存在せず、ZrO2粒子を形成できないはずである。
【0015】
これらのことは、ZrがZrO2として担持されているのではなく、ZrがSnO2粒子表面のSn欠陥を置換する、あるいはSnO2表面の酸素欠陥をZr原子と結合した酸素で置換してSnO2粒子表面に存在することを示している。表面修飾前のSnO2は700℃で焼成されていることから、その後のHFによる処理と600℃の再焼成で、Zr原子がSnO2粒子の中心部まで拡散することは考えにくいので、Zr原子は主としてSnO2粒子の表面に存在すると考えられる。なおZr表面修飾SnO2ナノ粉体の調製方法は任意で、特に用いるZr塩の種類は任意である。
【0016】
表1
Zr塩の仕込み濃度(M) Zr原子濃度(at%)
0.05 0.03
0.1 0.046
0.4 0.13
【0017】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体を用いて、図1のガスセンサ2を作成した。アルミナ等の基板4にヒータ6と電極8とを設け、電極8を覆うようにSnO2膜10をスクリーン印刷し、空気中580℃で焼成し、ガスセンサ2とした。なおSnO2膜10の膜厚は約40μmである。12,13はヒータ4と電極8のパッドである。ガスセンサの構造は任意で、例えばMEMSタイプでも良く、ヒータ6を基板4の表面に露出させて電極8を兼用させても良い。
【0018】
Zr表面修飾SnO2ナノ粉体にはPd,Pt,Au等の貴金属をさらに担持させても良く、SnO2膜10にアルミナ、シリカ等の第3成分を混合しても良い。またSnO2膜10は厚膜でも薄膜でも良い。Zr表面修飾SnO2ナノ粉体を用いたガスセンサをZr-SnO2で、Zrを含有しないHF水溶液で処理したSnO2ナノ粉体を用いたガスセンサをHF-SnO2で表す。
【0019】
図2図3は、Zr-SnO2(Zr原子濃度0.03at%)とHF-SnO2との、300℃及び350℃での抵抗値の酸素分圧依存性を示す。発明者らが既に発表したように、SnO2表面の酸素の吸着種がO-であれば抵抗値は酸素分圧の1/2乗に線形で、O2-であれば抵抗値は酸素分圧の1/4乗に線形である。300℃ではZr-SnO2、HF-SnO2共に酸素の吸着種はO-図2)、350℃ではZr-SnO2での吸着種はO2-に変化するが、HF-SnO2ではO-のままであった(図3)。350℃で酸素がO2−として吸着することは、Zr原子濃度が0.046at%、0.13at%でも同様であった。なおZrO2粒子表面に、350℃で酸素がO2-として吸着することはない。従って図3の結果は、ZrがZrO2粒子として存在しているとすると、説明不能である。
【0020】
図3は、SnO2粒子表面のSn原子の一部をZr原子により置換すると、酸素の吸着状態が変化することを示している。O-をより活性なO2-により置き換えると、ガス感度も変化する。図4に、湿潤雰囲気(H2O 3vol%)での、水素とCOへの感度を示す。Zr-SnO2はZr原子濃度が0.046at%であったが、他のZr原子濃度でも同様であった。水素、CO共に、Zr原子で表面修飾することにより感度が増し、特にCO感度は大きく増加した。
【符号の説明】
【0021】
2 ガスセンサ
4 基板
6 ヒータ
8 電極
10 SnO2膜
12,13 パッド
図1
図2
図3
図4