【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ここで、実施例はあくまで本発明の理解を助けるためのものであって、本発明を限定するものでないことに注意すべきである。
【0042】
[実験例1]
Siナノ結晶から蛍光を得るためには、ナノ結晶を8nmより小さな粒子径範囲で制御し、ダイヤモンド構造をもつSi結晶単相を得る必要がある。そこで、フッ化水素酸水溶液(48%)によるエッチング時間を0〜5時間の間で制御し、Si結晶単相が得られる範囲を見積もった。結晶相の定性には粉末X線回折法を用いた。
【0043】
<実施例1>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2粉末を得た。フッ化水素酸水溶液中(48%)で当該粉末を撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。撹拌時間は、70〜120分の間で制御した。遠心分離処理を通じて得た粉末を乾燥後に粉末X線回折により定性分析した。
【0044】
<比較例1>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2粉末を得た。フッ化水素酸水溶液中(48%)で当該粉末を撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。撹拌時間は、25〜70分、120〜300分の間でそれぞれ制御した。遠心分離処理を通じて得た粉末を乾燥後に粉末X線回折により定性分析した。
【0045】
<実施例1と比較例1との比較・検討>
図2に、実施例1と比較例1から得た粉末X線回折図形を示す。フッ化水素酸水溶液中で粉末を撹拌することでSiO
2を除去した。SiO
2の存在は2シータ=22°附近に現れる回折ピークの有無で判断した。一方、Siの存在は、2シータ=28°、45°、56°附近に現れる(111)、(220)、(311)面のX線回折に基づいて判断した。25分のエッチング時間では両者とも存在しており、エッチング時間が長くなるほどSiO
2の存在を示す2シータ=22°のピークは小さくなった。そして70〜120分の間では、ダイヤモンド構造をもつSiに由来する回折ピークだけになった。この範囲内で、エッチング時間に伴う各々の回折ピークのブロードニングは、Siナノ粒子のサイズダウンに基づく。一方、120分を超えると、2シータ=17°付近にSi−F−O系の副次生成物が形成する。それゆえ、当該濃度のフッ化水素酸水溶液を用いてエッチングを行う際には、70〜120分の間でSiナノ粒子のサイズを制御するのが良いと考えられる。
【0046】
[実験例2]
本発明で提案した水溶性蛍光標識材はダブルシェル構造をもつSiナノ結晶で構成される。具体的には、1つ以上のSiナノ結晶をコアにもち、各ナノ結晶は発光特性を安定化させるために炭化水素膜で終端されている。そして水溶性を付与するブロック共重合体を外殻にもつ。実施例2では水溶性蛍光標識材(ダブルシェル構造により水溶化したSiナノ粒子)の典型的な合成方法と水系溶媒中での可溶性及び安定性を議論し、実施例3では、外殻の存在が発光特性を減じないことを実証する。
【0047】
<実施例2>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。乾燥することで生成物を得た。生成物を純水、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液へ、各々分散させた後に静置した。所定の時間静置し分散性および安定性を評価した。評価は目視および蛍光分光光度計にもとづき行った。
【0048】
<実施例3>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に、無蛍光水に再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。また励起極大で励起した時のPL量子収率を絶対法で見積もった。
【0049】
<実施例4>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃〜1250℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に、無蛍光水に再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。
【0050】
<比較例2>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。当該ナノ結晶を乾燥後、無蛍光ジクロロメタンに再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。また励起極大で光励起した時のPL量子収率を絶対法で見積もった。
【0051】
<比較例3>
本発明で作製したサンプルの蛍光量子収率は絶対法により測定した。同一の装置を使用し、2種類の蛍光色素を絶対法で見積もった。Cy7(商品コード15020,フナコシ株式会社)を測定したところ蛍光量子収率は30.3%、HiLyte Fluor 750,Amine(商品コード81267,フナコシ株式会社)の蛍光量子収率は10.8%と見積もられた。これらの値は、それぞれの色素の販売会社が公開している蛍光量子収率30%および12%とほぼ一致した。
【0052】
<実施例2、3、4と比較例2、3との比較・検討>
実施例2で得たサンプルは純水中に容易に分散したが、ジクロロメタンやアルカン系溶媒には分散しなかった。一方で、比較例2で得たサンプルはジクロロメタンやアルカン系溶媒には容易に分散したが、純水には分散しなかった。この違いは目視で容易に判別できた。これらの結果から比較例2で作製されたサンプルは、オクタデカンで終端されたSiナノ結晶であり、オクタデカン単分子膜の存在により油溶性を示した。実施例2で作製したサンプルは、オクタデカン単分子で終端されたSiナノ結晶をブロック共重合体で被覆することで、親水基が外に配設されたナノ構造を有していると考えられた。
図3にこれら2つのサンプルの典型的な透過型電子顕微鏡像を示す。いずれのナノ結晶を見てもナノ結晶間距離が一定である。そして、ナノ結晶同士が結合した領域がない。以上より、オクタデカン単分子膜の被覆密度は高いと考えられる。また、ブロック共重合体の一つであるプルロニック水溶液中で処理したサンプルの透過型電子顕微鏡では、単一ナノ結晶で存在している粒子、複数個のナノ結晶が凝集している粒子、数十個のナノ結晶が凝集している粒子がそれぞれ観察された。オクタデカン単分子膜の存在ゆえに、各凝集体を構成するナノ結晶は互いに一定のナノ結晶間距離を保っていた。それゆえ、本発明の水溶性蛍光標識材は
図1に示すようなナノ構造で構成されていると考えられる。具体的には、コアは1個以上のSiナノ結晶で構成されている。各ナノ結晶表面は炭化水素鎖で終端されており、当該炭化水素膜の分子密度は高い。1個以上のナノ結晶から構成される油溶性ナノ粒子はブロック共重合体で覆われている。本発明ではプルロニックをブロック共重合体の一例として用いた。炭化水素膜で修飾されたナノ結晶表面へはプルロニック分子の低親水性ブロックが疎水性相互作用を通じて化学吸着し、一方プルロニック分子の親水性ブロックが外側に向くことで水溶性を与えている。
【0053】
プルロニックで保護された水溶性ナノ粒子は、純水だけでなく、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液にも容易に分散し、目視する限りにおいて半年以上の長期にわたって分散性に変化はなかった。また、PLスペクトルにも変化のないことから、光学特性を決定するコアを内殻及び外殻が廃れることなく被覆した結果、発光機能が劣化しないと結論できる。
【0054】
実施例3で得たサンプルのPLスペクトル及び励起スペクトルを
図4に示す。励起極大で光励起した時にPL極大は985nmに観察された。励起極大は386nmに観察された。励起−発光間のストークスシフトは約600nmであった。このような大きなストークスシフトはダイヤモンド構造結晶をもつシリコンナノ結晶に特徴付けられる特性である。PLスペクトルの半値幅は168nm(220meV)と見積もられた。蛍光量子収率は31.3%であった。一方、比較例1で取得されたPLスペクトルの蛍光極大は985nmにあった。PLスペクトルの半値幅は167nm(218meV)であった。また、蛍光量子収率は31.0%であった。0.3%は実験誤差に含まれることから、本発明において用いたブロック共重合体で構成される外殻は発光特性に影響を及ぼさないことが分かった。
【0055】
実施例4を通じて作製された水溶性ナノ粒子の典型的なPLスペクトルを
図5に示す。熱処理時間は3価のSiが、0価と4価のSiに不均化した際の0価Siナノ結晶のサイズを決定する。熱処理温度が高く時間が長い方が初期の結晶径が大きくなる。同条件で熱処理した各サンプルにおいて、フッ化水素酸水溶液中での撹拌時間が長いほどシリコン結晶もエッチングされ、粒子径が小さくなる。結果として、撹拌時間が長くなるに従い、ナノ結晶からのPLスペクトルは短波長側へシフトする。1.9〜6.1nmの範囲で粒子径を制御することで700〜1000nmの波長範囲でPLスペクトルを連続的に制御できる。Siのナノ結晶において粒度分布とPLスペクトルの半値幅は相関するので、作製されたSiナノ結晶を遠心分離およびカラムクロマトグラフィープロセスを通じて分級することで単分散性を上げることでPLスペクトル半値幅の小さいものが得られる。
図5に典型的なPLスペクトル特性を示す。発光の量子収率は30%より高く、スペクトルの半価幅は、
図7に示す通り、全てのPLスペクトルにおいて150〜300meVの範囲であった。なお、
図7には蛍光極大波長が1050nm付近までしかプロットされていないが、1050〜1100nmの範囲でも1050nm付近とほぼ同じであった。
【0056】
[実験例3]
本発明の蛍光標識材が従来のシングルシェル構造に比べ水溶系溶媒中で高い安定性を示すことを実証するために、pH依存性を調べた。各pHにおける水溶性粒子の安定性は、励起光として365nmのUV光を照射しながら蛍光を目視で観察することで判断した。
【0057】
<実施例5>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に超純水に再分散させた後に、石英セルへ封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色発光を得た。
【0058】
<比較例4>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気したアクリル酸を含むメシチレン中で150℃熱処理することで、カルボキシル基で終端されたSiナノ結晶を得た。超純水に再分散させた後に、石英セルに封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色発光を得た。
【0059】
<比較例5>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気したアリルアミンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、カルボキシル基で終端されたSiナノ結晶を得た。超純水に再分散させた後に、石英セルに封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色フォトルミネッセンスを示さなかった。
【0060】
<実施例5と比較例4、5との比較・検討>
実施例5から得た水溶性ナノ粒子は、pH1.5〜12の範囲で変化させても蛍光赤色は石英セルに封入された溶液全面から均一に放射されており、pHの変化に依存せず安定に分散していると確かめられた。比較例4から得たカルボキシル基で終端されたSiナノ結晶は、
図6に示す通りpH1.7〜9.2の範囲では溶液全面から均一に蛍光が放射されたが、pH10を超えると粒子の凝集が始まり、pH12を超えると粒子は沈澱し溶液からの蛍光は見られなくなった。比較例5から得たアミノ基で終端されたSiナノ結晶は赤色蛍光を示さなかった。これは、アミノ基の窒素のローンペアが最表面Si原子と相互作用することで形成する分子軌道がSiナノ構造中に形成したエネルギー準位間に形成されたためであると考えられる。それゆえ、光励起により発生した電子―ホール対は、Siのナノ構造で規定されるHOMO−LUMO遷移ではなく、新たに形成された界面準位を経由して起こると考えられる。実証の一つとして、消光したと考えられたPLは850nmへレッドシフトしていた。
【0061】
[実験例4]
内殻を形成する炭化水素単分子膜の酸化抑制効果を調べるために、水素終端Siナノ結晶とオクタデセン終端Siナノ結晶の乾燥粉末を大気に暴露して、酸素に対する反応性を調べた。結晶相の同定は粉末X線回折法から調べた。
【0062】
<実施例6>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で90分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。2週間大気放置した後に粉末X線回折で分析したところ回折図形に変化はなかった。
【0063】
<比較例6>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で90分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。2週間大気放置した後に粉末X線回折で分析したところ、Siの結晶相を示す回折は見受けられず、代わりに、21°附近に酸化シリコンの形成を示すブロードなピークが見られた。
【0064】
<実施例6と比較例6との比較・検討>
実施例6で作製したオクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶は、2週間の大気暴露下においても粉末X線回折図形に変化無く、それゆえ、シェラーの式から見積もることのできる結晶サイズにも変化無かった。これは、
図3に示す透過型電子顕微鏡像から議論された通り、オクタデカン分子の末端炭素がナノ結晶最表面のSiと共有結合で強く結びつき、さらに、オクタデカン単分子膜内では炭化水素間で発生する疎水性相互作用を通じて高い密度のオクタデカン分子が結晶表面を覆っているために、酸素の侵入が阻害されたと考えられる。一方、比較例6の水素終端Siナノ結晶では容易に酸化が進んだ。水素原子はケイ素原子に比べると小さく、大気中に存在する酸素種の中でも特に反応性の高い活性酸素は容易にナノ結晶最表面まで接近できケイ素と反応、その後結晶内部へ拡散することで酸化が進んだと考えられる。通常、大気中に置かれた水素終端化Siの酸化はバルク結晶のウェハーでも起きる。酸化膜の厚さは季節によって多少の差があるが、室温下では1.7〜2.1nmであるので、蛍光発光特性を示すSiナノ粒子であれば酸化されて酸化シリコンナノ粒子になるのは納得できる。
【0065】
[実験例5]
本発明の蛍光標識材の細胞毒性を調べた。本発明で記載のナノ構造を用いた場合に高い細胞生存率が達成されることを示す。また二光子励起によるバイオイメージングを行った。
【0066】
<実施例7>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。当該水溶性蛍光標識材の細胞毒性試験は、Cell Counting Kit-8を用いておこなった。NIH3T3細胞の懸濁液をDulbecco's Modified Eagle Medium(通称:DMEM)培地へ分配した。尚、培地には、10%の fetal bovine serum、100units/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシンが添加された。これを37℃、5%二酸化炭素を含む加湿空気中で1日インキュベート後に、蛍光標識材を所定量添加して37℃、5%二酸化炭素を含む加湿空気中で1日インキュベートした。これに10μLのCCK−8溶液を添加し、24時間インキュベート後に、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度から細胞生存率を調べた。水溶性蛍光標識材の濃度を25〜500μg/mLまで増加させた時、300μg/mLまではNIH3T3細胞の生存率はほぼ100%、500μg/mLの高濃度下においても95%以上の生存率を示した。
【0067】
<実施例8>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO
1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO
2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO
2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。
【0068】
NIH3T3細胞を1mLあたり10
5個の細胞を含むように調製し、所定のガラス基板上へ配設した。これに100μg/mLの780nmに発光極大をもつ水溶性Siナノ粒子を作用させ、24時間インキュベートした。リン酸バッファーで数回洗浄したあとに、パラフォルムアルデヒドで固定化することで蛍光イメージング用試料とした。
【0069】
蛍光イメージングは二光子励起法を用いた。波長790nmのフェムト秒チタンサファイアレーザパルスを励起光源とし、二光子励起発光をダイクロイックミラー、フィルターによって分離し、試料を395nmに相当するフォトンエネルギーで励起したところ、蛍光コントラストの高いNIH3T3細胞のイメージング像を獲た。
【0070】
<比較例7>
近年の水溶性Siナノ粒子の細胞毒性試験の結果を記載することで比較例とする。
・リン脂質のミセルで保護されたSiナノ粒子の膵臓がん細胞毒性をMTT試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が4μg/mLを超えると細胞生存率は単調に減少を始め10μg/mLで80%、12μg/mLで60%を下回る(非特許文献9)
・リシンで修飾されたSiナノ粒子の膵臓がん細胞毒性をMTS試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が200μg/mLまでは細胞生存率100%であったが、500μg/mLでは60%まで減少した(非特許文献10)。
・エポキシ基、アミノ基、ジオール基で終端されたSiナノ粒子のA549細胞およびHepG2ヒト肝癌由来細胞に対する細胞毒性をMTT試験で評価したところ、50μg/mLまでは、ほぼ細胞生存率100%であったが、100μg/mLを超えると生存率が50〜60%まで減少し、200μg/mLを超えると20%以下になった(非特許文献11)。
・アミノ基、カルボキシル基で終端されたSiナノ粒子のHella細胞毒性をMTT試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が60μg/mLを超えると生存率が80%まで減少した(非特許文献12)。
・カルボキシ基で終端されたSiナノ粒子を分子量の高いポリエチレングリコールのミセルに封入した水溶性蛍光標識の膵臓がん細胞毒性をMTS試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が200μg/mLまでは細胞生存率100%であったが、500μg/mLでは60%以下になった(非特許文献13)。
【0071】
<実施例7、8と比較例7との比較・検討>
細胞毒性はこれまで単分子膜で構成されるシングルシェル形成により水溶性化したSiナノ粒子において研究されてきた。従来、Siナノ粒子を対象にした細胞毒性は、表面官能基に強く依存されると報告され、チオール基は細胞毒性を増加させ、アミノ基やエステル基などは低細胞毒性基と考えられてきた。ところが、比較例7から、ナノ粒子の高濃度環境下では、アミノ基やエステル基なども細胞毒性が高いことが明らかになった。生体親和性の高いことで知られ他のナノ粒子においても表面保護材に使われるポリエチレングリコールを高分子量で保護しても、本発明の蛍光標識材に比べると毒性がある。さらにリン脂質などの生体親和性の高い表面保護層を用いても本発明の水溶性蛍光標識材と比較すると細胞毒性が高いと言える。プルロニック系界面活性剤の生体親和性はよく知られているが、細胞毒性の低さはプルロニックのもつ分子化学的な性質だけに依存するのではなく、内殻の存在により外殻の薄膜構造が自己組織化的に制御され、その結果として緻密親水膜を粒子最表面へ露出できたことによると考えられる。
【0072】
実施例8において、二光子励起によって細胞の蛍光イメージングを行った。入射光は790nmであるので、395nmに相当するフォトンエネルギーで蛍光体を励起したことになる。
図3より395nmは励起極大に非常に近い波長であることから、蛍光体を効率良く励起したことになる。蛍光体には780nmに蛍光極大をもつナノ粒子であることから、本イメージングは生体分光窓に相当する波長範囲で行われたことを意味している。重要な点は、フェムト秒レーザーのなかでもっとも汎用される波長790nmは、本発明ナノ粒子全てを効率良く光励起できる波長に相当することである。たとえば、実施例8で使用したナノ粒子は、
図5に記載の通り、励起極大で光励起することで、絶対蛍光量子収率40%を超える効率で発光するため、励起強度が微弱で済み、コントラスの高い蛍光イメージングを提供できた。