特許第6687943号(P6687943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687943
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】無線通信システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/08 20090101AFI20200421BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20200421BHJP
   H04W 72/08 20090101ALI20200421BHJP
【FI】
   H04W74/08
   H04W84/12
   H04W72/08 110
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-121154(P2016-121154)
(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-225091(P2017-225091A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年5月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】マ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラーデイ ガブリエル ポルト
(72)【発明者】
【氏名】石津 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】 石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/028032(WO,A1)
【文献】 Jing Ma,Further consideration on receive behaviour based on the cascading structure and the BSS color scheme,IEEE 802.11-15/1081r0,IEEE,2015年 9月13日,インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/15/11-15-1081-00-00ax-further-consideration-on-receive-behaviour-based-on-the-cascading-structure-and-the-bss-color-scheme.pptx>
【文献】 Jing Ma,Further consideration on receive behaviour based on the cascading structure and the BSS color scheme,IEEE 802.11-15/1081r2,IEEE,2015年 9月15日,インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/15/11-15-1081-02-00ax-further-consideration-on-receive-behaviour-based-on-the-cascading-structure-and-the-bss-color-scheme.pptx>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 − 99/00
H04B 7/24 − 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信システムにおいて、
上記一の無線通信ネットワークにおける第1の基地局は、
上記一の無線通信ネットワークにおける第1の無線端末との間でデータの送受信を行うためのチャネルの空き状況を確認する際に、他の無線通信ネットワークから無線信号を検知した場合、当該無線信号が上記一の無線通信ネットワークと電波のカバーエリアが重複し、かつ同一の周波数帯域で無線通信を行う他の無線通信ネットワークによるOBSSトラフィックであるか否かを判別するOBSS判別手段と、
上記OBSS判別手段により、OBSSトラフィックである旨が判別された場合には、その無線信号が当該他の無線通信ネットワーク内における第2の無線端末から第2の基地局へ送信する上りデータ送信であるか否かを判別する送信方向判別手段と
記第1の無線端末に対してデータを送信する下りデータ送信を開始するように制御する通信制御手段と
上記OBSS判別手段によりOBSSトラフィックである旨が判別された場合に、上記無線信号の受信電力レベルと、受信感度より高くなるように設定したキャリアセンスレベルとを比較する比較手段と、
を備え、
上記通信制御手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベル以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、
上記送信方向判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベルを超える場合には、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始し、
上記通信制御手段は、上記送信方向判別手段による判別の結果、上記上りデータ送信である旨が判別された場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記比較手段は、上記無線信号の受信電力レベルと、上記キャリアセンスレベルよりも高い最高臨界値とを比較し、
上記送信方向判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記最高臨界値以下の場合に、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始すること
を特徴とする請求項記載の無線通信システム。
【請求項3】
上記OBSS判別手段は、上記無線信号のプリアンブルに記述されたOBSSトラフィックであるか否かを示すビットデータを読み取ることにより、OBSSトラフィックであるか否かを判別すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
上記送信方向判別手段は、上記無線信号のプリアンブルに記述された上りデータ送信であるか否かを示すビットデータを読み取ることにより、上りデータ送信であるか否かを判別すること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
上記比較手段は、上記OBSS判別手段による判別の前に、上記受信電力レベルと上記受信感度とを更に比較し、
上記通信制御手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記受信感度以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、
上記OBSS判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記受信感度を超える場合には、上記OBSSトラフィックであるか否かを判別すること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
2以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信方法において、
上記一の無線通信ネットワークにおける第1の基地局は、
上記一の無線通信ネットワークにおける第1の無線端末との間でデータの送受信を行うためのチャネルの空き状況を確認する際に、他の無線通信ネットワークから無線信号を検知した場合、当該無線信号が上記一の無線通信ネットワークと電波のカバーエリアが重複し、かつ同一の周波数帯域で無線通信を行う他の無線通信ネットワークによるOBSSトラフィックであるか否かを判別し、
記OBSSトラフィックである旨を判別した場合には、その無線信号が当該他の無線通信ネットワーク内における第2の無線端末から第2の基地局へ送信する上りデータ送信であるか否かを判別し、
上記OBSSトラフィックである旨が判別された場合に、上記無線信号の受信電力レベルと、受信感度より高くなるように設定したキャリアセンスレベルとを比較し、
上記比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベル以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、
上記比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベルを超える場合には、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始し、
上記判別の結果、上記上りデータ送信である旨が判別された場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御すること
を特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末と基地局間で無線通信を行う2以上の無線通信ネットワークが共存する無線通信システム及び方法に関し、特に無線通信ネットワーク間において通信干渉が生じるのを防止する上で好適な無線通信システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット端末が急速に普及している。これに伴い、移動通信トラフィック量は爆発的に増加している。今後も4K解像度の高精細動画の伝送需要の増大や、モバイルとクラウド・コンピューティングサービスとの連携拡大等も期待できることから、移動通信トラフィック量の増加が更に継続するものと予想される。特にソーシャルネットワークサービスやネットワークを介した触覚通信、拡張現実感等のサービスやアプリケーションの高度化および多様化を考慮し、新たな無線アクセス技術を盛り込んだ第5世代移動通信システム(5G)の研究開発が急務となっている。その中で低コストかつ柔軟性をもつ無線通信ネットワークは、携帯電話回線のトラフィックをデータオフロードする用途や、屋内の位置推定、緊急時の通信等において幅広く用いられている。中でもIEEE 802.11無線LANは自律分散的なアクセス方式(CSMA/CA:Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)を具備し、ISM(Industrial, Scientific and Medical)帯等のアンライセンスバンドでの使用が基本であるため、簡単な構成であれば他方式の無線技術と比較して低コストでしかも簡易に設置することができる利点がある。このIEEE 802.11無線LANによれば、伝送速度は数Mbps〜数Gbpsと用途や状況に応じて選択でき、歩行者程度の速度であれば移動通信に利用することも可能である。更にこのIEEE 802.11無線LANによれば、業務用途には十分な安全性を有するセキュリティ機能を持ち、数千台に達するアクセスポイントからなるネットワークを構築できる柔軟なスケーラビリティもある。このため、近年ではオフィスや学校等においても普及が進んできている。
【0003】
ところで、このようなIEEE 802.11等に基づく無線通信ネットワークでは、通信トラフィック量の増大に伴い、基地局や無線端末が密に設置される場合が多くなる。これに伴い、通信干渉や、スループット・接続性の悪化、帯域不足などの問題が顕在化している。このため、無線通信ネットワークが過密に設置された環境下で干渉を回避し、高効率な無線通信を行うことが強く求められている。
【0004】
従来において、基地局が過密に設置された環境下において、干渉を回避しつつ高効率に無線通信を行うための研究が各種行われている。中でも非特許文献1には、データの衝突をできるだけ回避するために、無線チャネルの使用状況を確認してからデータを送信するか否かを決定するCSMA/CAアクセス方式が提案されている。このCSMA/CAアクセス方式によれば、データの送信を試みようとする基地局が事前にキャリアセンスを行うことで無線チャネルの使用状況を確認し、他の無線端末からのデータの送信が行われている間、基地局からの送信を待機することで衝突を回避する。一方、キャリアセンスを行った結果、一定期間未使用であるIDLE状態である場合には、他の無線端末によりデータが送信されていない旨を判別し、基地局からの送信を開始する。仮にその無線チャネルが使用中であることを意味するBUSY状態である場合には、IDLE状態になるまで送信を延期する。
【0005】
図9は、従来のCSMA/CAアクセス方式の動作例を示すタイムチャートである。先ずデータの送信を試みるデバイス71、73は、一定期間(DIFS)に亘りチャネルがIDLE状態になっていることを確認したあと、所定のCWの範囲内において乱数を発生させ、その乱数値に基づいてランダムな時間(backoff time)が決定される。図9の例では、送信デバイス71が受信デバイス72に対してデータを送信する機会が付与されたこととなる。
【0006】
送信デバイス71が受信デバイス72にデータを送信している間は、チャネルがBUSY状態であることから、他のデバイス73は送信を延期する。送信デバイス71から受信デバイス72にデータを送信した後、受信デバイス72は送信デバイス71へACKを送信する。他のデバイス73は、一定期間(DIFS)に亘りIDLE状態になった後、1回目においてカウントしたbackoff timeの残りをカウントダウンする。
【0007】
ちなみにキャリアセンスは、予めキャリアセンスレベル(CCA threshold)と、受信信号の電力レベル(Rx power)とを比較する。このRx powerがCCA thresholdを超える場合には、チャネルがBUSY状態である旨を判別し、送信待機状態となる。一方、Rx powerがCCA threshold以下の場合には、チャネルがIDLE状態である旨を判別し、キャリアセンスをランダム時間(DIFS+backoff time)に亘り行う。
【0008】
非特許文献1の開示技術によれば、上述したCSMA/CAアクセス方式に基づいて、衝突を回避しつつ、同一チャネルを共有した無線通信が実現できる。
【0009】
しかしながら、基地局や無線端末が更に高密度に設置された場合には、同一周波数チャネルを用いて通信を行うセルが多数重複する状態(Overlapping Basic Service Set:OBSS)となる。かかる場合には、干渉や接続性の悪化などの状況が増え、IEEE 802.11に基づくCSMA/CAアクセス方式が対応しきれなくなる。このため、このような基地局や無線端末が更に高密度に設置される環境下において、CSMA/CAアクセス方式を改善し、無線通信ネットワーク間の干渉を回避しつつ、同時送信によるシステム容量拡大するための検討が更に進められている。
【0010】
非特許文献2には、OBSSトラフィックに対して、キャリアセンスレベルを高く設定することによって、多く送信機会を与えるコンセプトが提案されている。しかしながら、キャリアセンスレベルを高く設定すると送信機会が増えることにより、通信干渉・通信衝突の可能性も高くなる。このため、キャリアセンスレベル調整による送信機会の増加と、通信干渉・通信衝突の増加のトレードオフを検討する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】IEEE 802.11, " Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications" 2012
【非特許文献2】H.M. Alnuweiri, Y. Pourmohammadi Fallah, P. Nasiopoulos and S. Khan, "OFDMA-Based Medium Access Control for Next-Generation WLANs," EURASIP Journal on Wireless Communications and Networking 2009:512865 DOI: 10.1155/2009/512865
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、2以上の無線通信ネットワークが共存する無線通信システム及び方法において、送信機会の増加を図るとともに、通信干渉・通信衝突を減少させることが可能な無線通信システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係る無線通信システムは、2以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信システムにおいて、上記一の無線通信ネットワークにおける第1の基地局は、上記一の無線通信ネットワークにおける第1の無線端末との間でデータの送受信を行うためのチャネルの空き状況を確認する際に、他の無線通信ネットワークから無線信号を検知した場合、当該無線信号が上記一の無線通信ネットワークと電波のカバーエリアが重複し、かつ同一の周波数帯域で無線通信を行う他の無線通信ネットワークによるOBSSトラフィックであるか否かを判別するOBSS判別手段と、上記OBSS判別手段により、OBSSトラフィックである旨が判別された場合には、その無線信号が当該他の無線通信ネットワーク内における第2の無線端末から第2の基地局へ送信する上りデータ送信であるか否かを判別する送信方向判別手段と、上記第1の無線端末に対してデータを送信する下りデータ送信を開始するように制御する通信制御手段と、上記OBSS判別手段によりOBSSトラフィックである旨が判別された場合に、上記無線信号の受信電力レベルと、受信感度より高くなるように設定したキャリアセンスレベルとを比較する比較手段と、を備え、上記通信制御手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベル以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、上記送信方向判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベルを超える場合には、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始し、上記通信制御手段は、上記送信方向判別手段による判別の結果、上記上りデータ送信である旨が判別された場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御することを特徴とする。
【0014】
第2発明に係る無線通信システムは、第1発明において、上記比較手段は、上記無線信号の受信電力レベルと、上記キャリアセンスレベルよりも高い最高臨界値とを比較し、上記送信方向判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記最高臨界値以下の場合に、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始することを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る無線通信システムは、第1発明又は第2発明において、上記OBSS判別手段は、上記無線信号のプリアンブルに記述されたOBSSトラフィックであるか否かを示すビットデータを読み取ることにより、OBSSトラフィックであるか否かを判別することを特徴とする。
【0016】
第4発明に係る無線通信システムは、第1〜第3発明のうち何れかにおいて、上記送信方向判別手段は、上記無線信号のプリアンブルに記述された上りデータ送信であるか否かを示すビットデータを読み取ることにより、上りデータ送信であるか否かを判別することを特徴とする。
【0017】
第5発明に係る無線通信システムは、第1〜第4発明のうち何れかにおいて、上記比較手段は、上記OBSS判別手段による判別の前に、上記受信電力レベルと上記受信感度とを更に比較し、上記通信制御手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記受信感度以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、上記OBSS判別手段は、上記比較手段による比較の結果、上記受信電力レベルが上記受信感度を超える場合には、上記OBSSトラフィックであるか否かを判別することを特徴とする。
【0018】
第6発明に係る無線通信方法は、2以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信方法において、上記一の無線通信ネットワークにおける第1の基地局は、上記一の無線通信ネットワークにおける第1の無線端末との間でデータの送受信を行うためのチャネルの空き状況を確認する際に、他の無線通信ネットワークから無線信号を検知した場合、当該無線信号が上記一の無線通信ネットワークと電波のカバーエリアが重複し、かつ同一の周波数帯域で無線通信を行う他の無線通信ネットワークによるOBSSトラフィックであるか否かを判別し、記OBSSトラフィックである旨を判別した場合には、その無線信号が当該他の無線通信ネットワーク内における第2の無線端末から第2の基地局へ送信する上りデータ送信であるか否かを判別し、上記OBSSトラフィックである旨が判別された場合に、上記無線信号の受信電力レベルと、受信感度より高くなるように設定したキャリアセンスレベルとを比較し、上記比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベル以下の場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御し、上記比較の結果、上記受信電力レベルが上記キャリアセンスレベルを超える場合には、上記上りデータ送信であるか否かの判別を開始し、上記判別の結果、上記上りデータ送信である旨が判別された場合には、上記チャネルにて上記第1の無線端末に対して上記下りデータの送信を開始するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上述した構成からなる本発明によれば、基地局や無線端末が更に高密度に設置された場合において、OBSSが多数重複する状態となっていた場合においても、CSMA/CAアクセス方式の下で、無線通信ネットワーク間の通信干渉・通信衝突の可能性を低くすることができ、送信機会の増加を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を適用した無線通信システムの構成例を示す図である。
図2】本発明を適用した無線通信システムにおける基地局の動作を示すフローチャートである。
図3】本発明を適用した無線通信システムにおける無線端末の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明において無線信号の受信電力レベル(Rx_power)との間で比較を行う比較対象のレベルの関係を示す図である。
図5】データの構成例について説明するための図である。
図6】電波のカバーエリアが重複する各無線通信ネットワークにおけるデータ送信によるタイムチャートを示す図である。
図7】本発明の効果を確認するために行ったシミュレーションの条件について説明するための図である。
図8】ネットワークのスループットのシミュレーション結果を示す図である。
図9】従来のCSMA/CAアクセス方式の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明をする。図1は、本発明を適用した無線通信システム1の構成例を示している。この無線通信システム1は、2つの無線通信ネットワーク10a、10bから構成されている。無線通信ネットワーク10aは、複数の無線端末2aと、無線端末2aとの間で情報を送受信する基地局3aとを備えている。また無線通信ネットワーク10bは、複数の無線端末2bと、無線端末2bとの間で情報を送受信する基地局3bとを備えている。
【0022】
上述した図1に示す無線通信システム1では、あくまで2つの無線通信ネットワーク10a、10bから構成されている場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、3以上の無線通信ネットワーク10からなるものであってもよい。
【0023】
これら無線通信ネットワーク10は、IEEE 802.11無線LANのCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)アクセス方式を基調とした無線通信を無線端末2と基地局3との間で行わせる。
【0024】
無線端末2は、例えばノート型のパーソナルコンピュータ(PC)、携帯端末、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末等の無線通信可能な端末装置で構成されている。このような無線端末2は、基地局3に対してデータを無線通信により送信する。以下、この無線端末2から基地局3に対してデータを送信することを上りデータ送信という。また無線端末2は基地局3から無線通信により送信されてくるデータを受信する。以下、この基地局3から無線端末2に対してデータを送信することを下りデータ送信という。
【0025】
基地局3は、無線通信ネットワーク10内の無線端末2との間において無線アクセスポイントとしての役割を果たし、インターネット等を始めとした公衆通信網との間においてインターフェースとしての役割を果たすものである。即ち、基地局3は、これを介して無線端末2がインターネット等を始めとした公衆通信網との間でデータの送受信を行うことを可能とするための中継手段を担うものである。
【0026】
次に、本発明を適用した無線通信システム1の動作について説明をする。
【0027】
無線通信システム1は、図2、3に示すフローチャートに基づいて処理動作を実行する。図2は、基地局3の動作フローを示しており、図3は、無線端末2の動作フローを示している。
【0028】
基地局3は、自身のバッファーに蓄積されているデータを無線端末2へ送信することを試みる場合において、先ず無線チャネルの空き状況を確認するためのキャリアセンスを行う。具体的には、先ずステップS11においてデータの生成を行う。次にステップS12へ移行し、基地局3は、実際にキャリアセンスを行うために、所定のCW(Contention Window)の範囲内で乱数を発生させる。次にステップS13へ移行し、基地局3は、一定期間(DIFS)に亘りIDLE状態で待機する。次にステップS14に移行し、ステップS12において発生させた乱数値に基づいてランダムな時間(backoff time)が決定される。
【0029】
次にステップS15へ移行し、基地局3は、ステップS14において設定したbackoff timeの期間に亘りカウントダウンを行いつつキャリアセンスを行う。その結果、このキャリアセンスの過程で無線端末2からの無線信号を検知した場合、基地局3は、この無線信号の受信電力レベル(Rx_power)と受信感度(CCA_SD)とを比較する。図4は、本発明において無線信号の受信電力レベル(Rx_power)との間で比較を行う比較対象のレベルの関係を示している。Rx_powerがCCA_SDよりも高い場合には、ステップS16へ移行する。これに対して、Rx_powerがCCA_SD以下の場合には、ステップS24へ移行する。
【0030】
ステップS16に移行した場合おいて、基地局3は、無線信号の受信を継続して行い、受信すべきデータのプリアンブルをデコードして解析する。この解析では、プリアンブルのデコードエラーが発生したか否かを解析する。その結果、ステップS17へ移行し、デコードエラーが発生したものと判別した場合には、ステップS19へ移行する。これに対して、デコードエラーが発生していないものと判断した場合には、ステップS18へ移行する。
【0031】
ステップS18へ移行した場合には、OBSS(Overlapping Basic Service Set)トラフィックであるか否かを判別する。ここでOBSSトラフィックとは、基地局3や無線端末2が高密度に設置された結果、同一の周波数帯域で無線通信を行う他の無線通信ネットワークによる無線通信を示すものである。例えば図1に示すように無線通信ネットワーク10bにおける基地局3bは、自らのネットワーク内にある各無線端末2との間で無線通信を行う。このとき、無線通信ネットワーク10a、10bが近接している場合を仮定した場合、基地局3bは、電波のカバーエリアが重複する他の無線通信ネットワーク10a内にある無線端末2aからの無線信号が到達する場合もある。この無線通信ネットワーク10a、10bが同一周波数チャネルを用いて通信を行う場合、このような基地局3bが受信する無線端末2aからの無線信号をOBSSトラフィックという。
【0032】
このステップS18におけるOBSSトラフィックであるか否かの判断は、周知のいかなる手法を用いるようにしてもよいが、例えば図5に示すデータ構成に示すように、主データ42の前段に設けられたプリアンブル41内にあるBSS color bits43を介して判断するようにしてもよい。このBSS color bits43には、無線通信ネットワーク10に応じたIDが記述されている。つまり、このBSS color bits43に記述されているIDを読み取ることにより、受信した無線信号がOBSSトラフィックであるか否かを判別することが可能となる。このステップS18においてOBSSトラフィックである旨を判別した場合には、ステップS20へ移行する。一方、OBSSトラフィックでないものと判断した場合には、ステップS23へ移行する。
【0033】
ステップS17においてステップS19に移行した場合、又はステップS18においてステップS20に移行した場合、受信電力レベル(Rx_power)と、キャリアセンスレベル(PD_th)よりも高い最高臨界値(CCA_ED)とを比較する。CCA_EDは、これを超えると明らかにBUSY状態になる場合のレベルに相当し、一般的には固定値とする。例えば使用するチャネルが20MHzを前提としたとき、IEEE802.11標準に基づき、このCCA_EDを-62dBmに設定するようにしてもよい。ステップS17においてRx_power>CCA_EDである場合には、ステップS23へ移行する。つまり明らかにBUSY状態になりえるレベルの無線信号については、ステップS23へ移行し、その後の中断処理を実行する。これに対して、ステップS20においてRx_power≦CCA_EDの場合には、ステップS21へ移行する。
【0034】
ステップS21に移行した場合、Rx_powerとPD_thとを比較する。ここでいうPD_thは、図4に示すようにCCA_SDよりも高くなるように設定されている。Rx_power>PD_thである場合には、ステップS22へ移行する。これに対して、Rx_power≦PD_thの場合には、ステップS24へ移行する。OBSSトラフィックである場合において、Rx_powerが受信感度(CCA_SD)よりも高い場合であってもPD_thよりも低い場合には、ステップS24のIDLE状態に移行してもほぼ滞りなく無線通信を行うことができためである。PD_thをCCA_SDよりも高くなるように設定することで、OBSSトラフィックの場合においてデータの送信機会を多くすることができ、ネットワークの通信容量の拡大を図ることが可能となる。
【0035】
ステップS22に移行した場合には、Rx_powerがPD_thよりも高いため、このままステップS25のIDLE状態に移行してしまうと通信干渉が生じてしまうことを意味している。このため、このステップS22において以下に説明する処理動作を実行する。
【0036】
図6は、無線通信ネットワーク10aにおいて無線通信する無線端末2aと基地局3a、並びに無線通信ネットワーク10bにおいて無線通信する無線端末2bと基地局3bのデータ送信によるタイムチャートを示している。
【0037】
このタイムチャートでは、無線端末2aから基地局3aに向けて図中矢印に示すように上りデータ送信を行う場合を示している。この無線端末2aは図1に示すように、基地局3aとの通信範囲に含まれ、かつ基地局3bとの通信範囲に含まれる位置にあるものとする。このため、無線端末2aから基地局3aに向けて上りデータ送信が行われると、この無線端末2aからのデータは、基地局3aにより受信可能であると共に、基地局3bにより受信可能である。基地局3bは、このようなデータを上述した無線信号として受信し、ステップS11〜ステップS21までの各処理動作を実行し、更にステップS21における処理動作を実行することとなる。
【0038】
ステップS22では、基地局3bは、他の無線通信ネットワーク10a内における無線端末2aから基地局3aへ送信する上りデータ送信であるか否かを判別する。この上りデータ送信であるか否かの判別は、図5に示すプリアンブル41内にあるindication bit44を介して行うようにしてもよい。indication bit44には、上りデータ送信であるか、下りデータ送信であるかが記述されており、これを読み出すことによって何れの方向への送信であるかを容易に判別することが可能となる。特に従来のIEEE802.11では、MAC headerを解読することで上りデータ送信であるか、下りデータ送信であるかを判別することができるが、本発明では、単にプリアンブル41内にあるindication bit44を読むのみで送信方向を容易に判別することが可能となる。
【0039】
このステップS22において、基地局3bがindication bit44を読み出した結果、上りデータ送信である旨を判別した場合には、ステップS24へ移行する。これに対して、基地局3bがindication bit44を読み出した結果、下りデータ送信である旨を判別した場合には、ステップS23へ移行する。
【0040】
ステップS23に移行した場合には、チャネルがBUSY状態であることを前提とした各種処理動作を実行する。つまり、backoff timeのカウンタを一端停止するとともに新たなデータの受信を引き続き継続する。
【0041】
ステップS24以降では、基地局3bから無線端末2bに向けて下りデータ送信を行うための設定を行う。この基地局3bには、図6に示すように無線端末2aからの上りデータ送信を受信している。この期間においては、無線端末2aに対して基地局3bから下りデータ送信が到達することとなるが、無線端末2aは基地局3aに対して上りデータ送信を行っているため、この下りデータ送信を受信しても特段これが検知されることはない。つまり無線端末2aから基地局3aに向けた上りデータ送信が、基地局3bからの下りデータ送信により影響を受けることは無い。
【0042】
同様に基地局3bが下りデータ送信を行っている間は、無線端末2aからの上りデータ送信を受信した場合においても、その間においてはこれが基地局3bにより検知されることはない。つまり基地局3bから無線端末2bに向けた下りデータ送信が、無線端末2aからの上りデータ送信により影響を受けることは無い。
【0043】
従って、ステップS24以降では、無線通信ネットワーク10a内における無線端末2aから基地局3aに対する上りデータ送信と、無線通信ネットワーク10b内における基地局3bから無線端末2bに対する下りデータ送信とを互いに干渉することなく同時に行うことができる。また、このステップS24以降において、互いの無線通信ネットワーク10a、10b間において、共調動作を行うことができ、ネットワークのパフォーマンスを更に改善することが可能となる。
【0044】
ステップS24へ移行した場合、IDLE状態へ移行する。つまり、空きチャネルが存在するものと仮定し、基地局3bから無線端末2bに向けた無線通信を行う準備に移行する。
【0045】
次にステップS25へ移行し、ステップS14において決定し、backoff timeのカウントダウンを開始する。その結果、ステップS26に示すように、backoff timeのカウンタが0になった場合、ステップS27へ移行する。一方、backoff timeのカウンタが0にならない場合は、基地局3に対して他の無線端末2による無線通信が優先されたことを意味するため、一端ステップS15の処理に戻り、上述した処理動作を繰り返す。
【0046】
ステップS27へ移行した場合、データの送受信を開始する。このとき、基地局3bから無線端末2bへの下りデータ送信を行う旨を設定した場合には、これに基づいて、先ずは基地局3bから無線端末2bへ下りデータ送信を行っていくこととなる。
【0047】
本発明を適用した無線通信システム1によれば、基地局3や無線端末2が更に高密度に設置された場合において、OBSSが多数重複する状態となっていた場合においても、CSMA/CAアクセス方式の下で、無線通信ネットワーク間の通信干渉・通信衝突の可能性を低くすることができ、送信機会の増加を図ることが可能となる。
【0048】
なお本発明は、上述した構成に限定されるものではなく、例えば上述したステップS20、21を省略し、ステップS18からステップS22へ直接移行するようにしてもよい。また、ステップS20を省略し、ステップS19からステップS21へ直接移行するようにしてもよい。
【0049】
無線端末2における動作フローは、図3に示すように先ずステップS31においてデータの生成を行う。次にステップS32へ移行し、SIFS期間に亘り、待機状態となる。またSIFS期間とは、データ送信間隔における最短の待ち時間を意味する。次にステップS33に移行し、受信した無線信号の受信電力レベル(Rx_power)と、上述したCCA_EDとを比較する。その結果、Rx_power>CCA_EDである場合にはステップS34へ移行する。これに対して、Rx_power≦CCA_EDの場合には、ステップS35へ移行する。
【0050】
ステップS34に移行した場合には、一端フリーズさせた上で再度ステップS33の判断を行う。またステップS35へ移行した場合、SIFS期間が満了したか否か判断する。SIFS期間が満了した場合、ステップS36へ移行する。これに対して、SIFS期間が満了していない場合には、ステップS33に戻る。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明の効果を確認するために行った株式会社構造計画研究所製のQualnetを用いてシミュレーションを行った結果について説明をする。シミュレーションでは5GHz帯における20MHz帯域幅と想定し、基地局3と無線端末2とが高密度で配置される条件設定とする。図7は、このシミュレーションシナリオを示している。周波数リユース=3を前提とし、実際に同じ周波数を利用する無線通信ネットワーク10を表している。一つの無線通信ネットワーク10には、中心に一台の基地局3を配置し、40台の無線端末2をランダムに配置しているものと仮定する。六角形からなる無線通信ネットワーク10の辺長は10mとし、電波のカバーエリアが重複する無線通信ネットワーク10間における基地局3間の距離は30mとされる。シミュレーションの条件について表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
シミュレーションは、ステップS21においてキャリアセンスレベル(PD_th)を−72dBmとしつつデータの送信方向制御を行わない比較例1、PD_thを−62dBmとしつつデータの送信方向制御を行わない比較例2、PD_thを−72dBmとしつつデータの送信方向制御を行う本発明例の3つのシミュレーションシナリオを作成した。シミュレーションシナリオ毎に行ったネットワークのスループットのシミュレーション結果を図8に示す。
【0054】
図8に示すように、比較例2は、PD_thを−62dBmであるため、PD_thを−72dBmとした比較例1と比較してスループットがやや低くなっているのが分かった。PD_thを高く設定することにより、OBSSトラフィックの場合においてデータの送信機会を多くすることができ、ネットワークの通信容量の拡大を図ることが可能となる。しかしながら、キャリアセンスレベル(PD_th)を高く設定することで、データの送信機会が多くなる分において衝突が増えてしまうため、ネットワークのパフォーマンスが却って劣化してしまう場合もある。このためキャリアセンスレベル(PD_th)の高低の設定は、データの送信機会の増大と、通信衝突との2つの事象間でいわゆるトレードオフの関係にある。
【0055】
本シミュレーションの結果において比較例2が比較例1よりもスループットが低くなっている原因としては、PD_thを高く設定することによる通信衝突が増えたことが大きく影響したものと考えられる。
【0056】
一方、本発明例におけるスループットが最も高いことが分かった。その原因としては、ステップS21におけるキャリアセンスレベル(PD_th)の調整を行うと共に、ステップS24における、異なる無線通信ネットワーク10間における送信方向の協調動作も行うためである。その結果、通信衝突が増加することなく多くの送信機会を得ることが可能となり、ネットワークのパフォーマンスをより改善することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 無線通信システム
2 無線端末
3 基地局
10 無線通信ネットワーク
41 プリアンブル
42 主データ
43 BSS color bits
44 indication bit
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9