【文献】
PAN H. et al.,Environmental Microbiology,10(5) (2008),p.1158-1164
【文献】
ZHANG T. et al.,Environmental Microbiology,12(4)(2010),p.1011-1020
【文献】
ROWE A.R. et al.,Front. Microbiol. [online],Vol.5 (2015.01),Article 784
【文献】
HANDLEY K.M. et al.,ISME J.,4 (2010),p.1193-1205
【文献】
KODAMA Y. et al.,Int. J. Syst. Evol. Microbiol.,58 (2008),p.711-715
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
細菌は一群として、広範な供給源から呼吸代謝用の電子を得、そして同様に、同じくらい多種多様のアクセプター分子にこれらの電子を伝達する。発電性であること、すなわち外部固体電子アクセプターを還元できることが認められている細菌は増加している。生物工学的観点からは、発電細菌は、微生物燃料電池(MFC)の嫌気性の環境で効率的に化合物を酸化でき、これに伴い電流を発生させるので関心対象となる。
【0003】
発電細菌の間では、外部電子アクセプターを還元するために様々な機構が採用されている。2種の「ナノ細線」、すなわち、Geobacter spp.に認められるIV型線毛と、Shewanella spp.に認められる外膜ヘムタンパク質伸長体(extensions)とが同定されており、これらにより細胞は細胞膜呼吸タンパク質から電子を伝達することができる。細菌は、付着したバイオフィルムとして固体電子アクセプター表面に安定に関連しうるか、又は細菌が電子を渡すこととアクセプター近傍で遊泳することの間を循環する動的プロセスである「エレクトロキネシス」によって一過性的に関連しうる。いくつかの細菌は、拡散性電子担持シャトル分子(これらのうちのいくつかは種間で交換可能である)を介して外部固体電子アクセプターを還元することもできる。外部に電子を伝達するための機構は、他にも未同定のものがほぼ確実に存在する。電子生成細菌(electrogen)をスクリーニング及び単離するための手段の開発は、このような機構の発見の一助となるはずである。
【0004】
本発明者らは、いくつかの外部アクセプターが磁性である(たとえば、酸性条件下のマグネタイト)ので、発電細菌は磁気粒子に伴って見出され得ると推論した。本明細書において、本発明者らは海洋潮堆積物(marine tidal sediment)の磁気粒子濃縮(magnetic particle-enriched)部分由来の発電細菌Thalassospira sp. HJ株の単離及び部分的特性解析を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<定義>
本願明細書で使用する場合、「Thalassospira」の用語は、Rhodospirillaceae科に含まれる細菌の属をいう。
【0018】
本願明細書で使用する場合、「電気発生」又は「発電性」の用語は、生命体による電気の発生をいう。
【0019】
本願明細書で使用する場合、「炭素基質」の用語は、所望の炭素最終生成物へと引き続き変換されるための中間体に、酵素により変換されることのできる少なくとも1つの炭素原子を含有する物質をいう。炭素基質の例としては、バイオマス、デンプン、デキストリン類、糖類、炭化水素、石油、及び放流排水が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい例は、炭化水素、石油及び放流排水である。
【0020】
本願明細書で使用する場合、「炭化水素」の用語は広く、主に且つ/又は実質的に炭素及び/又は水素原子を含む物質をいう。炭化水素はさらに、窒素、酸素、硫黄及び/又は金属などの他の原子を含むことができる。炭化水素の供給源としては、化石燃料、原油、バイオマス、石油、及び放流排水、合成反応及び/又は任意の他の好適な材料の供給源を含むが、これらに限定されない。
【0021】
本願明細書で使用する場合、「石油」の用語は、鉱物又は地質学的供給源から得られた炭化水素をいう。
【0022】
本願明細書で使用する場合、「油流出」の用語は、保持されていた一定量(contained volume)の液体ベース炭化水素が環境中へ放出されることをいう。油流出の例としては、タンカーの船倉の破裂又は貯蔵タンクの破損開放が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本願明細書で使用する場合、「還元すること」の用語は、原子又はイオンに電子が付加されるプロセス(たとえば、酸素除去又は水素添加によるもの)をいう。
【0024】
本願明細書で使用する場合、「海洋潮堆積物」の用語は、潮河又は浅海沿岸領域内の堆積物をいう。海洋潮堆積物は、砂浜を含む地球の表面(砂浜を含む)下に位置し得、又は海域の下にも存在し得る。
【0025】
本願明細書で使用する場合、堆積物の「磁気粒子濃縮部分」の用語は、磁気引力により陽性選択された堆積物の部分をいう。磁気引力による選択の例示的な方法は詳細に後述する。
【0026】
本願明細書で使用する場合、「微生物燃料電池」の用語は、細菌を使用することにより電流を流す装置又はシステムをいう。典型的な微生物燃料電池において、生体触媒として作用する微生物の代謝により生じる電子が獲得又は抽出され、当該電子は電力発生のために電極に伝達される。微生物燃料電池を組み立てるために使用される技術は、当業者に公知である。
【0027】
本願明細書で使用する場合、「培地」の用語は、長期間にわたって細菌を増殖させるために使用されることができる栄養素の水溶液をいう。
【0028】
<堆積物サンプリング及び調製>
日本の沖縄の海中道路ビーチ(北緯26°19’56.1”、東経127°54’0”;2013年10月)からの砂質堆積物を25cmの深さまでサンプリングして、およそ半分の収容量まで500mLのビンに入れ、ビンの残部に海水を満たした。実験室で、その試料を激しく撹拌し、撹拌前の堆積物表面の高さより上の位置において容器の外側に磁石を押し付けた状態で、沈降させた。堆積物が沈降した後、磁石に最も近い領域から4mLの液体及び付着磁気粒子を滅菌パスツールピペットを用いてサンプリングした。次いで「毛細管レーストラック(capillary racetrack)法」を使用して、試料から磁石に関連した(magnet-associated)細菌を濃縮させた。10mLの培地(Difco Marine Broth 2216)に50mg L
-1 FeCl
3を追加したもの(マリン−Feブロス)を含む試験管に、毛細管からの液体を接種し、振盪せずに23℃で一晩増殖させた。試料をマリン−Feアガーに画線し、2日間インキュベーションして、得られた螺旋状細菌のコロニー(「HJ 6.03.15」株と命名、以下、略して「HJ」という)をマリン−Feブロスに継代培養した。毛細管レーストラック由来の元の混成群集及びHJ株の両方の継代培養物50mLを、別々のMFC(1g L
-1酢酸ナトリウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水培地で一杯に満たされている)の中へ注ぎ込んだ。
【0029】
単離された細菌株は、Thalassosp. HJ 6.03.15として、製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(#122, 2-5-8 Kazusakamatari, Kisarazu-shi, Chiba 292-0818, Japan)へ2015年3月25日に寄託され、受領番号NITE ABP−02028(受託番号:NITE BP−02028)で登録された。
【0030】
<堆積物由来の培養物が接種された微生物燃料電池の作動>
2つのMFC(高さ10cm;長さ12cm;幅10cm)を、内部作業容量が175mLになるように調製した。内部MFCチャンバーは、2つのアノード(およそ6×8cm)(チャンバーの底から2〜3mm離して吊されており、より大きな表面積を有するように平均サイズ2mmの活性炭顆粒が導電性接着剤で結合された導電性炭素布の層からなっている)を備えていた。顆粒は、カバ材前駆体から調製され、中性赤触媒で前処理された。2つのカソードはグラファイトプレート(厚さ3mm;多孔度60%)であり、液体に面する側に水性5%フミオン膜ポリマー(Fumatech, Bietigheim-Bissingen, Germany)がスプレーされており、一方、空気に面する側には活性炭顆粒(フタロシアニン鉄(II)で処理)がネットフレームを使用して機械的に押圧されていた。カソードは、電解質溶液(1N HClの規則的な添加で、pH2に維持)を含む槽の中にまで延長していた。
【0031】
化学的酸素要求量(COD)分析のために週1回混成内容物1mLを取り出した後、COD分析が基質涸渇を示した場合は、1g L
-1酢酸ナトリウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)およそ5mLをMFCに供給した。カソード膜を通した蒸発に起因する損失を補うのにこの追加容量の供給が必要であった。作動の第65日目にモニタリング期間が終了したら、MFCを解体した。アノード物質(anode material)をサンプリングし、HJ株が接種されたMFCから細菌が単離され、HJ株の存在を確認した。
【0032】
<細菌の単離及び初期特性解析>
HJ株からのDNAを単離して、ゲノム配列決定に付した(L. Kiseleva, S. Garushyants, and I. Goryanin、未公開結果)。Phylogeny.frプラットフォームを用いて、16S rRNA遺伝子(GenBank受託番号KP704219)の系統発生解析を行った。増殖のための最低及び最高温度をマリンアガープレート上での培養によって決定した。標準の微生物学的方法を用い、カタラーゼ及びオキシダーゼ活性を調べ、グラム染色を実施した。
【0033】
<透過電子顕微鏡法>
JEOL JEM−1230R電子顕微鏡にて、100KVの加速電圧で透過電子顕微鏡(TEM)イメージングを実施した。50mLのマリン−Feブロス中で室温(23℃)においてOD
600が1.0になるまで増殖させた培養物からHJ株細胞を調製した。ペレット状の細胞を0.1Mカコジル酸緩衝液(cacodilate buffer)(pH=7.2)中1%四酸化オスミウム(osmium tetraoxide)で30分間固定し、水で5分間3回洗浄した。固定された細菌細胞の一滴を、カーボン膜付きHF34 200メッシュ銅グリッド上に載せ、蒸留水で1回洗浄して1%酢酸ウラニルで3〜5秒間染色した。
【0034】
<細菌純粋培養物を接種した微生物燃料電池の接種及びモニタリング>
3つの4cmマイクロチャンバーを備えたPlexiglas2パーツからマイクロ−MFCアレイを作成し、3種の細菌純粋培養物による電流発生について試験した。各チャンバーは、カチオン交換膜Nafion 117(19.6cm
2;Dupont Co., Delaware USA)によって分離されたアノード及びカソード区画(8mm深さ)から構成されていた。アノード及びカソード電極(3mm厚グラファイトプレート;多孔度45〜50%、Xinghe County Muzi Carbon Co., Ltd, China)を、毎日の電圧測定のためにマルチチャンネルデータロガー(Graphtech midi LOGGER GL820、Japan)に繋げた。アノード及びカソード区画間の封止のために、1mm厚のゴムガスケットを使用した。チタンネジが電極を膜に固定し、そして、電気コネクタとして作用した。各マイクロMFCチャンバーには、培地及び電解質を供給するために、底部に内径(ID)2.5mmのポリウレタンインレットチューブ(FESTO, Germany)が一つ取り付けれ、バイオガス排出及び枯渇した電解質の置換のために、上端部にもう一つ取り付けた。マイクロMFCは、開路モードで作動させ、接種の時間から開始して24時間毎に電流測定をデジタルマルチメータ(Yokogawa TY530, Japan)で実施した。N
2スパージングは行わず、50mMフタロシアニン鉄(II)をカソード電解質溶液として使用した。
【0035】
細菌純粋培養物(Thallasospira sp. HJ、Geobacter daltonii、Desulfamplus magnetomortis)を、1リットルあたり4.58g Na
2HPO
4、2.45g NaH
2PO
4・H
2O、0.31g NH
4Cl、0.13g KCl、5gグルコース、5g酵母エキス、及び5gペプトンを含有するPBS培地において嫌気的に37℃で1日間増殖させた。細菌細胞を回収し、16mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で洗浄して、新鮮な嫌気性PBS培地50mLに再懸濁させた。初期細胞濃度は、濾過された無細胞培地を参照として用い、Spectronic GENESYS 5分光光度計(Milton Roy Company, Rochester, NY, USA)によって測定して、600nmでの光学密度0.3に調整された。
【0036】
マイクロMFCは先ず、細菌細胞を含有する培地15mL(多孔性グラファイトがある程度の液体を吸収するので、アノードチャンバーの約10mL容量を上回る)で接種した。0.1%NaN
3を含有する無細菌PBS培地をコントロール実験用に使用した。すべての実験が、二度の技術的反復及び二度の生物学的反復で構成された。実験は23℃で実施した。
【0037】
<結果と考察>
磁気粒子に関連した細菌(それらの一部は発電性であろう)を得るために、本発明者らは潮汐浜堆積物を、
図1に示す濃縮手順に付した。一方のMFCには磁気粒子濃縮された堆積物由来の混合培養物を接種し、他方のMFCには濃縮された堆積物から単離された螺旋状細菌であるHJ株の純粋培養物を接種した。両方のMFCが電力を生成することが見出され、混合培養物MFCから発生した電流及び電圧の方がかなり高かった(
図2)。HJ株で観察された比較的低い電力密度は、細菌純粋培養物をそれらの由来もとである群集の電力密度と比較した場合に典型的なものである。実験の終わりにHJ株をMFCから再度単離して、その保持を確認した。
【0038】
HJ株は、顕微鏡解析(
図3)及び16S rRNA遺伝子配列比較(
図4)によって、Thalassospira属のものであると同定された。TEM画像は、Thalassospira属に典型的である、単一の極鞭毛を有する0.5〜0.7μmの幅及び1.5〜5.7μmの長さの細胞を示し、対称性及び非対称性細胞分裂の両方のエビデンスがある(
図3)。一以上の電子高密度染色領域を、ほとんどの細胞内に認めることができる(
図3)。細胞は運動性であり、グラム染色に陰性で、またカタラーゼ及びオキシダーゼ活性に対して陽性の試験結果を示した。12℃〜39℃の範囲の温度にて、マリンアガー上で増殖が起こった。GenBankデータベースにおいて最近接にマッチングする16S rRNA遺伝子配列は、Thalassospira sp. MACL12B株のもの(1477/1488、同一性99.3%)であった。
【0039】
Thalassospira sp. HJ株、並びに比較のためのGeobacter daltonii及びDesulfamplus magnetomortisの純粋培養物を接種したMFCチャンバーは、接種後直ちに電流生産を示したが、引き続いての生産曲線の強度及び形状は異なっていた(
図5)。Thalassospira sp. HJ株及びD. Magnetomortisは、開始後電流の漸増を示したが、G. Daltoniiからの電流生産は経時的に減少した。172時間後、すべての純粋培養物に対する電流は5〜8mAに減少したが、これは炭素源の枯渇が原因であると考えられた。電圧の降下がHJ株がマイクロMFCに接種されてから144時間後に観察され、一方G. daltonii及びD. Magnetomortis MFCは、48時間後に電圧損失を示した。コントロールとして、電流及び電圧生産への増殖培地成分の寄与を調べるために、マイクロMFCを無菌培地で満たした。観察可能な電流発生のバックグラウンドはなかったものの、電圧は観察された(
図5)。マイクロMFCからの最大の単一評価(single−value)電力読み取り値は、Thalassospira sp. HJ株については2.6W m
-2(96時間経過時)、D. magnetomortis については5.5W m
-2(144時間経過時)、及びG. Daltoniiについては4.6W m
-2(24時間経過時)のものであった。
【0040】
Geobacterは、発電細菌のよく特徴付けられた属であるが、本発明者らは走磁性細菌D. Magnetomortisによる発電性の先行する報告を認知していない。本発明者らは、マグネトソームは、細菌が強磁性の外部電子アクセプターに焦点を合わせることを可能ならしめることにより、選択的利益をもたらし得るという仮説を立てている。発電性(electrogenecity)についての走磁性(magentotactic)細菌のさらに広い調査が必要とされるであろう。
【0041】
最近、海成堆積物由来のThalassospria sp.単離物が硫黄カソードから電子を受け取ることによって発電挙動を呈することが報告された;この研究では、この株の(Thalassospria sp. HJ株に関して本発明者らが本明細書において見出したような)アノードを還元する能力は、調べられなかった。
【0042】
本願は、2015年4月1日出願の米国仮出願第62/141,600号に基づく優先権を主張しており、この特許文献の内容全体が参照によって本願明細書に組み込まれる。