特許第6687982号(P6687982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687982
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F16D 1/06 20060101AFI20200421BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20200421BHJP
   F04B 9/02 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   F16D1/06 210
   F16D1/02 110
   F16D1/02 210
   F04B9/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-61890(P2017-61890)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162876(P2018-162876A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田和 尚泰
(72)【発明者】
【氏名】海野 豪
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124816(JP,A)
【文献】 特開2009−210086(JP,A)
【文献】 特開平7−301304(JP,A)
【文献】 特開平1−279120(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第3508687(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/02,1/06
F04B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータが設けられた下部走行体と、
旋回モータが設けられた上部旋回体と、
前記上部旋回体の前側に取り付けられ、ブーム、アーム、バケット、ブームシリンダ、アームシリンダ、およびバケットシリンダを有するフロント装置と、
前記上部旋回体の支持構造体を形成する旋回フレームと、
前記旋回フレームの左前側に設けられたキャブと、
前記旋回フレームの後端部に取り付けられたカウンタウエイトと、
前記旋回フレーム上に配設され、前記キャブと前記カウンタウエイトとの間に機械室を形成する外装カバーと、
前記機械室に収容され、前記走行モータ、前記旋回モータ、前記ブームシリンダ、前記アームシリンダ、および前記バケットシリンダに圧油を供給する油圧ポンプと、
前記機械室に収容されたエンジンと、
前記機械室に収容され、前記エンジンの出力軸と前記油圧ポンプの入力軸とを連結する弾性体軸継手と、
前記機械室に収容され、前記エンジンの一端側に取り付けられた冷却ファンと、
前記機械室に収容され、前記冷却ファンに対面するように配置された熱交換器とを備え、
前記入力軸の外周部には、軸方向に延びる複数の外スプライン歯からなる外スプライン部が設けられ、
前記弾性体軸継手は、前記外スプライン部とスプライン結合される内スプライン部が内周側に設けられたハブを備え、
前記入力軸は、その端部に一体に形成され、前記外スプライン部の歯底円半径よりも小さい半径を有する第1ガイド軸部を備えた建設機械において、
前記入力軸は、前記外スプライン部が設けられた軸部分と前記第1ガイド軸部との間に位置する第2ガイド軸部を備え、
前記第2ガイド軸部は、その外周側に、前記外スプライン部と同一の歯数及び歯底円半径を有し、前記外スプライン部の歯先円半径よりも小さくかつ前記内スプライン部の歯先円半径よりも大きい歯先円半径を有する複数のガイド歯を備え
前記複数の内スプライン歯は、その角部に第1の所定の径方向幅を有する面取り部を備え、
前記複数のガイド歯は、その歯先円半径を前記第1の所定の径方向幅内に収めたことにより、前記複数の内スプライン歯と噛み合ったときに前記内スプライン部との間に周方向の間隙を有することを特徴とする建設機械
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記複数のガイド歯は、その角部に第2の所定の径方向幅を有する面取り部を有し、
前記内スプライン部の歯先円半径は、前記第2の所定の径方向幅内に収まることを特徴とする建設機械
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油圧ショベル等の建設機械では、エンジン(原動機)の出力軸と油圧ポンプの入力軸とが弾性体軸継手を介して連結されている。油圧ポンプの入力軸は、エンジンからの回転力により弾性体軸継手のハブを介して回転駆動される。ここで、油圧ポンプの入力軸は、弾性体軸継手のハブとスプライン結合され、このハブと入力軸とによりスプライン結合装置が構成されている。このようなスプライン結合装置を開示するものとして、例えば特許文献1がある。
【0003】
特許文献1には、内周側に雌スプライン部(内スプライン部)が設けられた円筒状のハブと、外周側に前記雌スプライン部とスプライン結合される雄スプライン部(外スプライン部)が設けられた回転軸とを備えてなるスプライン結合装置が記載されている。
【0004】
一方、車両用動力伝達装置の回転軸などに用いられるスプライン結合体を開示するものとして、例えば特許文献2がある。
【0005】
特許文献2には、内周に内スプライン歯を有する環状部材(ハブ)と、外周に外スプライン歯を有しかつ一軸端側から歯高が徐々に増加するとともに外スプライン歯に同一ピッチで連係するガイド歯を有する軸部材(入力軸)とからなるスプライン結合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−124816号公報
【特許文献2】特許第5202041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のスプライン結合装置では、ハブの内周側に設けられた内スプライン部と入力軸の外周側に設けられた外スプライン部とをスプライン結合する際に、軸芯出しや位相合わせに労力を要する。
【0008】
一方、特許文献2に記載のスプライン結合体では、環状部材(ハブ)を挿入する過程でガイド歯と内スプライン歯との間隙が徐々に狭まり、環状部材と軸部材との相対的な姿勢が矯正されて、周方向の位相が揃えられ、また軸心が一致するように傾斜が規制される。これにより、軸芯出しや位相合わせを容易に行うことができる。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のスプライン結合体では、ガイド歯と内スプライン歯との接触面積が小さく、ガイド歯と内スプライン歯とが噛み合う部分と外スプライン歯と内スプライン歯とが噛み合う部分とで歯面圧の不均一が生じる。そのため、高トルクを伝達する油圧ポンプのスプライン結合装置に適用した場合、内スプライン歯又は外スプライン歯の破損のリスクが生じる。
【0010】
これに対し、外スプライン歯の軸方向長を内スプライン歯の軸方向長よりも大きくし、内スプライン歯と噛み合わない外スプライン歯の軸端部分を加工してガイド歯を形成することが考えられるが、その場合は入力軸が長尺になるという課題が生じる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、油圧ポンプの入力軸の長尺化を防ぐと共に、油圧ポンプの入力軸とハブとの位相合わせを容易に行うことができる油圧ポンプのスプライン結合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、走行モータが設けられた下部走行体と、旋回モータが設けられた上部旋回体と、前記上部旋回体の前側に取り付けられ、ブーム、アーム、バケット、ブームシリンダ、アームシリンダ、およびバケットシリンダを有するフロント装置と、前記上部旋回体の支持構造体を形成する旋回フレームと、前記旋回フレームの左前側に設けられたキャブと、前記旋回フレームの後端部に取り付けられたカウンタウエイトと、前記旋回フレーム上に配設され、前記キャブと前記カウンタウエイトとの間に機械室を形成する外装カバーと、前記機械室に収容され、前記走行モータ、前記旋回モータ、前記ブームシリンダ、前記アームシリンダ、および前記バケットシリンダに圧油を供給する油圧ポンプと、前記機械室に収容されたエンジンと、前記機械室に収容され、前記エンジンの出力軸と前記油圧ポンプの入力軸とを連結する弾性体軸継手と、前記機械室に収容され、前記エンジンの一端側に取り付けられた冷却ファンと、前記機械室に収容され、前記冷却ファンに対面するように配置された熱交換器とを備え、前記入力軸の外周部には、軸方向に延びる複数の外スプライン歯からなる外スプライン部が設けられ、前記弾性体軸継手は、前記外スプライン部とスプライン結合される内スプライン部が内周側に設けられたハブを備え、前記入力軸は、その端部に一体に形成され、前記外スプライン部の歯底円半径よりも小さい半径を有する第1ガイド軸部を備えた建設機械において、前記入力軸は、前記外スプライン部が設けられた軸部分と前記第1ガイド軸部との間に位置する第2ガイド軸部を備え、前記第2ガイド軸部は、その外周側に、前記外スプライン部と同一の歯数及び歯底円半径を有し、前記外スプライン部の歯先円半径よりも小さくかつ前記内スプライン部の歯先円半径よりも大きい歯先円半径を有する複数のガイド歯を備え、前記複数のガイド歯は、その歯先円半径を前記第1の所定の径方向幅内に収めたことにより、前記複数の内スプライン歯と噛み合ったときに前記内スプライン部との間に周方向の間隙を有するものとする。
【0013】
以上のように構成した本発明によれば、入力軸の端部に一体に形成され、外スプライン歯及びガイド歯のいずれも設けられておらずかつ内スプライン部の歯先円半径よりも小さい半径を有する第1ガイド軸部を備えたことにより、この第1ガイド軸部をハブに挿入する過程で、外スプライン部と内スプライン部との位相のずれを許容したまま入力軸の軸心とハブの軸心とのずれを所定の範囲に収めることができるため、後の軸芯出しが容易となる。
【0014】
また、第2ガイド軸部の外周側に、外スプライン部と同一の歯数及び歯底円半径を有し、内スプライン歯と噛み合ったときに内スプライン歯に対して周方向の間隙を有するガイド歯を形成したことにより、この第2ガイド軸部をハブに挿入する過程で、周方向の間隙によって位相のずれが許容されるため、軸芯出しを容易に行うことができる。さらに、軸芯出しが完了した後の位相のずれが周方向の間隙に収まる程度に制限されるため、後の位相合わせが容易となる。
【0015】
また、第2ガイド軸部は入力軸にハブを取り付けたときにハブの端面から突出するため、外スプライン歯よりも歯面の面積が小さいガイド歯は内スプライン歯と噛み合うことがない。これにより、外スプライン歯と内スプライン歯とが噛み合うときの歯面圧の不均一化を防止することができる。さらに、ガイド歯の軸方向長は大きくしなくても上述した第2ガイド軸部としての作用効果が得られるため、第2ガイド軸部の軸方向長を小さくすることにより、入力軸の長尺化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油圧ポンプのスプライン結合装置において、油圧ポンプの入力軸の長尺化を防ぐと共に、油圧ポンプの入力軸とハブとの位相合わせを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施例に係るスプライン結合装置を適用した油圧ショベルの側面図である。
図2】フロント装置と上部カバーとを取り外した状態にある油圧ショベルを上方から見た平面図である。
図3】油圧ポンプとエンジンとの連結構造を示す図である。
図4】弾性体軸継手を油圧ポンプ側から見た平面図である。
図5】弾性体軸継手をエンジン側から見た平面図である。
図6】ハブの内周側形状を拡大して示す平面図である。
図7】油圧ポンプの入力軸を拡大して示す側面図である。
図8】入力軸の第1ガイド軸部をハブに挿入する直前の状態にあるスプライン結合装置の断面図である。
図9】入力軸の第1ガイド軸部の一部をハブに挿入した状態にあるスプライン結合装置の断面図である。
図10図9のA方向から見たスプライン結合装置の部分断面図である。
図11】入力軸の第2ガイド軸部の一部をハブに挿入した状態にあるスプライン結合装置の断面図である。
図12図11のB方向から見たスプライン結合装置の部分断面図である。
図13】入力軸の外スプライン部の一部をハブに挿入した状態にあるスプライン結合装置の断面部である。
図14図13のC方向から見たスプライン結合装置の部分断面図である。
図15】本発明の第2の実施例に係るスプライン結合装置を図12と同様の状態で示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る油圧ポンプのスプライン結合装置を、油圧ショベルに搭載されたエンジンと油圧ポンプとの連結部に適用した場合を例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1の実施例について、図1図14を用いて説明する。
【0020】
図1は、本実施例に係るスプライン結合装置を適用した油圧ショベルの側面図である。
【0021】
図1において、油圧ショベル100は、自走可能な下部走行体101と、下部走行体101上に旋回輪102を介して旋回可能に搭載された上部旋回体103と、上部旋回体103の前側に上下方向に回動可能に取り付けられ土砂の掘削作業等を行うフロント装置104とを備えている。
【0022】
ここで、下部走行体101には走行モータ(図示せず)が設けられると共に、上部旋回体103には旋回モータ(図示せず)が設けられている。下部走行体101は走行モータによって前進、後進等の走行動作を行い、上部旋回体103は旋回モータによって旋回動作を行う。
【0023】
フロント装置104は、ブーム105、アーム106、バケット107によって構成され、これらブーム105、アーム106、バケット107には、ブームシリンダ108、アームシリンダ109、バケットシリンダ110が取り付けられている。これらのシリンダ108〜110は、走行モータ、旋回モータと共に、後述する油圧ポンプ2から吐出される圧油により駆動される。
【0024】
旋回フレーム111は、上部旋回体103の支持構造体を形成する支持フレームであり、下部走行体101上に旋回可能に搭載されている。旋回フレーム111には、後述するキャブ112、カウンタウエイト113、エンジン1、油圧ポンプ2、熱交換器117等が搭載されている。
【0025】
キャブ112は、旋回フレーム111の左前側に搭載されている。キャブ112の内部には、オペレータが着座する運転席、走行用の操作レバー、作業用の操作レバー等が配設されている。
【0026】
カウンタウエイト113は、旋回フレーム111の後端部に取り付けられている。カウンタウエイト113は、フロント装置104との重量バランスをとるものであり、略円弧状をした重量物として形成されている。
【0027】
旋回フレーム111上には、キャブ112とカウンタウエイト113との間を覆う外装カバー114が配設されている。外装カバー114は、カウンタウエイト113と共に、エンジン1、油圧ポンプ2、後述する熱交換器117等の搭載機器が収容される機械室115を形成している。外装カバー114は、搭載機器の上方を覆う上面カバー114a、搭載機器の側方を覆う側面カバー114b等により構成されている。
【0028】
図2は、フロント装置104と上面カバー115aとを取り外した状態にある油圧ショベル100を上方から見た平面図である。
【0029】
エンジン1は、カウンタウエイト113の前側に位置して旋回フレーム111の後端側に設けられている。エンジン1は、例えばディーゼルエンジンとして構成され、その出力軸3が左右方向に延在する横置き状態で上部旋回体103に搭載されている。エンジン1の出力軸3の一端側(図2の右側)には、後述の熱交換器117に冷却風を供給するための冷却ファン116が取り付けられている。エンジン1の左側(図2の右側)には、冷却ファン116に対面するように熱交換器117が配置されている。熱交換器117は、温度上昇した各種の流体を冷却風により冷却するもので、例えば、油圧アクチュエータ(走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ108、アームシリンダ109、バケットシリンダ110等)からの戻り油の冷却を行うオイルクーラ、キャブ112内の室内機(図示せず)から供給される冷媒の冷却を行うコンデンサ等を含んで構成されている。エンジン1の出力軸3の他端側(図2の左側)には、動力伝達装置118を介して油圧ポンプ2が取り付けられている。
【0030】
図3は、動力伝達装置118の構造を示す図である。
【0031】
図3において、動力伝達装置118は、フライホイール4と、弾性体軸継手5と、フライホイールハウジング6とを含んで構成されている。
【0032】
エンジン1の出力軸3の他端側で後述するフライホイールハウジング6内に突出した端部(図示せず)には、円板状のフライホイール4が設けられている。フライホイール4には、後述する弾性体軸継手5のエンジン側ブロック9(図4に示す)が取り付けられる。
【0033】
エンジン1の出力軸3の他端側(図2の右側)には、短尺な円筒状のフライホイールハウジング6が設けられている。フライホイールハウジング6内には、フライホイール4と弾性体軸継手5とが配置されている。フライホイールハウジング6の開口端には、後述するポンプケーシング7のフランジ部7aが取り付けられる。
【0034】
油圧ポンプ2は、例えば斜軸式油圧ポンプ、斜板式油圧ポンプにより構成されるポンプ機構(図示せず)と、ポンプ機構を収容するポンプケーシング7と、ポンプ機構に接続されポンプケーシング7から突出して設けられる後述する入力軸8とを含んで構成されている。また、ポンプケーシング7の入力軸8が突出する側(図3の右側)には、フランジ部7aが設けられている。このフランジ部7aは、油圧ポンプ2をエンジン1に取り付けるための取付板となるもので、フライホイールハウジング6にボルト等を用いて取り付けられる。油圧ポンプ2は、エンジン1によって駆動されることにより、油圧ショベル100に搭載された各種の油圧アクチュエータに向けて作動用の圧油を吐出する。
【0035】
弾性体軸継手5は、エンジン1の出力軸3(より具体的には、出力軸3に設けられたフライホイール4)と油圧ポンプ2の入力軸8とを連結し、後述する高弾性体10の弾性変形によって、エンジン1の出力軸3(フライホイール4)と油圧ポンプ2の入力軸8との間のトルク変動、回転中心軸線のずれ等を吸収するものである。弾性体軸継手5は、フライホイールハウジング6の内部(弾性体軸継手室)に、フライホイール4と軸方向に隣り合って配置(収容)されている。
【0036】
図4は、弾性体軸継手5を油圧ポンプ2側から見た平面図であり、図5は、弾性体軸継手5をエンジン1側から見た平面図である。
【0037】
図4又は図5において、弾性体軸継手5は、複数(4個)のエンジン側ブロック9と、高弾性体10と、複数(4個)のポンプ側ブロック11と、ハブ12とを備えている。
【0038】
エンジン側ブロック9は、略扇状のブロック体として形成されており、エンジン1の出力軸3側となるフライホイール4に、周方向(回転方向)に間隔をもって取り付けられている。エンジン側ブロック9には、外径側に位置して周方向の両側に延びる鍔部9aが設けられている。これら各鍔部9aは、後述するポンプ側ブロック11の鍔部11aと共に、高弾性体10の径方向の変位を規制するものである。すなわち、エンジン側ブロック9の鍔部9aとポンプ側ブロック11の鍔部11aは、高弾性体10の外周面と当接することにより、それ以上高弾性体10が径方向外側に変位するのを阻止するものである。
【0039】
高弾性体10は、例えば弾性を有する樹脂材料、ゴム材料を用いて厚肉な円筒状に形成され、後述するハブ12を取り囲んで配置されている。高弾性体10の中央には、ハブ12を収容するハブ収容部10cが形成されており、高弾性体10の外周側には、エンジン側ブロック9を収容するエンジン側ブロック係合溝部10aと後述するポンプ側ブロック11を収容するポンプ側ブロック係合溝部10bとが周方向に交互に形成されている。各エンジン側ブロック係合溝部10aと各ポンプ側ブロック係合溝部10bとの間は、それぞれエンジン側ブロック9とポンプ側ブロック11とにより周方向に圧縮(挟持)される圧縮部10dとなっている。
【0040】
ポンプ側ブロック11は、略扇状のブロック体として形成され、後述するハブ12の外周側に、周方向に間隔をもって取り付けられている。ポンプ側ブロック11には、外径側に位置して周方向の両側に延びる鍔部11aが設けられている。これら各鍔部11aは、エンジン側ブロック9の鍔部9aと同様に、高弾性体10の径方向の変位を規制している。
【0041】
次に、油圧ポンプ2の入力軸8と弾性体軸継手5のハブ12とを含んで構成されるスプライン結合装置200について説明する。
【0042】
スプライン結合装置200は、エンジン1と油圧ポンプ2との間で回転力を伝達するものであり、弾性体軸継手5のハブ12と、油圧ポンプ2の入力軸8とを含んで構成されている。
【0043】
ハブ12は、厚肉な円筒体として形成され、高弾性体10のハブ収容部10cに収容されている。ハブ12は、入力軸8と共にスプライン結合装置200を構成し、エンジン1からの回転力により入力軸8を回転駆動する。
【0044】
図6は、図4及び図5に示すハブ12の内周側形状を示す拡大図である。
【0045】
図6において、ハブ12の内周側には、軸方向に延びる複数の内スプライン歯15からなる内スプライン部16が設けられている。内スプライン部16は、後述する入力軸8の外スプライン部18にスプライン結合される。
【0046】
図7は、油圧ポンプ2の入力軸8を拡大して示す側面図である。
【0047】
図7において、入力軸8の外周側には、軸方向に延びる複数の外スプライン歯17からなる外スプライン部18が設けられている。外スプライン部18は、ハブ12の内スプライン部16にスプライン結合される。
【0048】
入力軸8の端部は、外スプライン歯17及び後述するガイド歯21のいずれも有しておらず、外スプライン歯17又は後述するガイド歯21を有するその他の軸部分よりも小径に形成されており、第1ガイド軸部19を構成している。
【0049】
入力軸8のうち外スプライン部18が設けられた軸部分と第1ガイド軸部19との間には、第2ガイド軸部20が設けられている。この第2ガイド軸部20の外周側には、複数の外スプライン歯17の歯先を切削した形状を有する複数のガイド歯21が設けられている。
【0050】
以上のように構成されたスプライン結合装置において、入力軸8にハブ12を取り付ける際の手順を、図8図13を用いて説明する。
【0051】
図8は、入力軸8の第1ガイド軸部19をハブ12に挿入する直前の状態にあるスプライン結合装置200を周方向から見た部分断面図である。
【0052】
まず、入力軸8の軸心とハブ12の軸心とが大よそ一致するようにそれぞれを配置し、入力軸8の第1ガイド軸部19をハブ12に挿入する。
【0053】
図9は、入力軸8の第1ガイド軸部19の一部をハブ12に挿入した状態にあるスプライン結合装置200を周方向から見た部分断面図であり、図10は、図9のA方向から見たスプライン結合装置200の部分断面図である。
【0054】
図9又は図10において、第1ガイド軸部19は外スプライン歯17又はガイド歯21を有しておらず、第1ガイド軸部19の半径R5は外スプライン部18の歯底円半径R2よりも小さい(すなわち、内スプライン部16の歯先円半径R0よりも小さい)ため、外スプライン部18に対して内スプライン部16の位相がずれていても、また、入力軸8の軸心に対してハブ12の軸心が多少ずれていても、第1ガイド軸部19をハブ12に挿入することができる。
【0055】
図11は、入力軸8の第2ガイド軸部20の一部をハブ12に挿入した状態にあるスプライン結合装置200を周方向から見た部分断面図であり、図12は、図10のB方向から見たスプライン結合装置200の部分断面図である。
【0056】
図12において、第2ガイド軸部20の歯先円半径R3は、内スプライン歯15の角部に形成された面取り部22の径方向幅W0内に収まるように設定されている。そのため、ガイド歯21と内スプライン歯15との間に周方向の間隙23が形成され、内スプライン部16と入力軸8の第2ガイド軸部20との間で円周方向に遊びが生じる。これにより、図9又は図10に示す状態において、入力軸8の軸心とハブ12の軸心とが一致していれば、位相が間隙23で規定される遊びの範囲内でずれていても、ハブ12に第2ガイド軸部20を挿入することができる。また、第2ガイド軸部20の歯底円半径R4は、後述する外スプライン部18の歯底円半径R2と一致しているため、第2ガイド軸部20を挿入することにより、軸芯出しが完了する。
【0057】
図13は、入力軸8の外スプライン部18の一部をハブ12に挿入した状態にあるスプライン結合装置200の部分断面部であり、図14は、図13のC方向から見たスプライン結合装置200の部分断面図である。
【0058】
図11に示す状態から更に入力軸8をハブ12に挿入していくと、内スプライン部16の位相が外スプライン部18の位相と一致している場合は、図13及び図14に示すように、外スプライン歯17を内スプライン歯15とが噛み合い、それ以降も入力軸8を挿入することができる。一方、内スプライン部16の位相と外スプライン部18の位相とが一致していない場合は、外スプライン歯17の軸端面と内スプライン歯15の軸端面とが突き当たり、それ以降の入力軸8の挿入が阻止される。このとき、既に軸芯出しは完了しており、入力軸8に対するハブ12の位相のずれは周方向の間隙23(図12に示す)の範囲に収まっている。そのため、周方向の間隙23の範囲内で内スプライン部16の位相を調整するだけで、図13及び図14に示すように、外スプライン歯17と内スプライン歯15とが噛み合い、それ以降の入力軸8の挿入が可能となる。
【0059】
外スプライン歯17と内スプライン歯15とが噛み合った後は、第1ガイド軸部19及び第2ガイド軸部20がハブ12から突き出るまで入力軸8をハブ12に挿入する。以上の手順により、入力軸8へのハブ12の取り付けが完了する。
【0060】
以上のように構成した本実施例によれば、入力軸8の端部に、外スプライン歯17及びガイド歯21のいずれも有しておらずかつ内スプライン部16の歯先円半径R1よりも小さい半径R5を有する第1ガイド軸部19を設けたことにより、この第1ガイド軸部19をハブ12に挿入する過程で、外スプライン部18と内スプライン部16との位相のずれを許容したまま入力軸8の軸心とハブ12の軸心とのずれを所定の範囲に収めることができるため、後の軸芯出しが容易となる。
【0061】
また、第2ガイド軸部20の外周側に、外スプライン部18と同一の歯数及び歯底円半径R4を有し、内スプライン歯15と噛み合ったときに内スプライン歯15に対して周方向の間隙23を有するガイド歯21を形成したことにより、この第2ガイド軸部20をハブ12に挿入する過程で、周方向の間隙23によって位相のずれが許容されるため、軸芯出しを容易に行うことができる。さらに、軸芯出しが完了した後の位相のずれが周方向の間隙23に収まる程度に制限されるため、後の位相合わせが容易となる。
【0062】
また、ガイド歯21は外スプライン歯17の歯先を切削した形状を有するため、外スプライン部18を成形する通常のスプライン加工の後に、外スプライン歯17の軸端側部分の歯先を削り取るだけで第2ガイド軸部20を成形することができる。これにより、第2ガイド軸部20の加工に伴う費用を低く抑えることができる。
【0063】
また、第2ガイド軸部20は、入力軸8にハブ12を取り付けたときにハブ12の端面から突出するため、外スプライン歯17よりも歯面の面積が小さいガイド歯21は内スプライン歯15と噛み合うことがない。これにより、外スプライン歯17と内スプライン歯15とが噛み合うときの歯面圧の不均一化を防止することができる。さらに、ガイド歯21の軸方向長を大きくしなくても上述した第2ガイド軸部としての作用効果が得られるため、第2ガイド軸部20の軸方向長を小さくすることにより、入力軸8の長尺化を防ぐことができる。
【実施例2】
【0064】
本発明の第2の実施例について、図15を用いて説明する。図15は、本実施例に係るスプライン結合装置200を図12と同様の状態で示す部分断面図である。以下、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0065】
図15において、本実施例に係る第2ガイド軸部20の各ガイド歯21の角部には、内スプライン歯15の面取り部22と対面するように面取り部24が形成されている。具体的には、面取り部24は、その径方向幅W1内に内スプライン部16の歯先円半径R0が収まるように形成されている。これにより、内スプライン歯15とガイド歯21との間に生じる周方向の間隙23が拡大する。
【0066】
以上のように構成した本実施例においても、第1の実施例と同様の効果が得られる。
【0067】
また、ガイド歯21の角部に面取り部22を設けたことにより、ハブ12の内スプライン歯15とガイド歯21との間に生じる周方向の間隙23が拡大することにより、ハブ12の内スプライン部16に対する第2ガイド軸部20の周方向の遊びが大きくなるため、第2ガイド軸部20をハブ12に挿入することが更に容易となる。
【0068】
なお、本実施例では、内スプライン歯15の面取り部22に加え、第2ガイド軸部20のガイド歯21に面取り部24を設ける構成としたが、本発明はこれに限られず、ガイド歯21にのみ面取り部24を設け、内スプライン歯15の面取り部22を省略しても良い。その場合でも、内スプライン歯15とガイド歯21との間に周方向の間隙23を確保することができるため、第1の実施例と同様の効果が得られる。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を油圧ポンプ2をエンジン1に連結する軸継手に適用したものであるが、本発明はこれに限られず、2つの油圧ポンプをタンデムに連結する軸継手にも適用できる。また、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…エンジン、2…油圧ポンプ、3…出力軸、4…フライホイール、5…弾性体軸継手、6…フライホイールハウジング、7…ポンプケーシング、7a…フランジ部、8…入力軸 、9…エンジン側ブロック、9a…鍔部、10…高弾性体、10a…エンジン側ブロック係合溝部、10b…ポンプ側ブロック係合溝部、10c…ハブ収容部、10d…圧縮部、11…ポンプ側ブロック、11a…鍔部、12…ハブ、15…内スプライン歯、16…内スプライン部、17…外スプライン歯、18…外スプライン部、19…第1ガイド軸部、20…第2ガイド軸部、21…ガイド歯、22…内スプライン歯の面取り部、23…周方向の間隙、24…ガイド歯の面取り部、100…油圧ショベル、101…下部走行体、102…旋回輪、103…上部旋回体、104…フロント装置、105…ブーム、106…アーム、107…バケット、108…ブームシリンダ、109…アームシリンダ、110…バケットシリンダ、111…旋回フレーム、112…キャブ、113…カウンタウエイト、114…外装カバー、114a…上面カバー、114b…側面カバー、115…機械室、116…冷却ファン、117…熱交換器、118…動力伝達装置、200…スプライン結合装置、R0…内スプライン部の歯先円半径、R1…外スプライン部の歯先円半径、R2…外スプライン部の歯底円半径、R3…第2ガイド軸部の歯先円半径、R4…第2ガイド軸部の歯底円半径、R5…第1ガイド軸部の半径、W0…内スプライン歯の面取り部の径方向幅(第1の所定の径方向幅)、W1…ガイド歯の面取り部の径方向幅(第2の所定の径方向幅)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15