(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲインスイッチング法で種光源から出力されたパルス光をファイバ増幅器及び固体増幅器で順次増幅し、増幅後のパルス光を非線形光学素子で波長変換して出力するレーザパルス光生成方法であって、
前記非線形光学素子からのパルス光の出力を停止する場合に、
前記固体増幅器に対する励起光のパワーを維持した状態で、前記種光源をゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードから、前記固体増幅器に対する励起光のパワーを前記パルス発振モードと同じ値に維持した状態で、前記種光源を連続発振させる連続発振モードに切り替えて駆動するとともに、
前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが、前記非線形光学素子からのパルス光の出力を許容する場合に前記固体増幅器から出力される光の平均パワーと等しくなるように、前記連続発振モードで前記種光源から前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整するレーザパルス光生成方法。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光は様々な加工に用いられている。波長が532nmから1064nm付近のレーザ光はエネルギー強度が大きく、金属やガラス等の切断または溶接等の各種の加工に好適に用いられている。また、波長が200nmから350nm付近の深紫外領域のレーザ光は電子材料や複合材料の加工に用いられている。
【0003】
近赤外領域よりも短い波長のレーザ光を出力するレーザ光源装置は、近赤外領域の波長のレーザ光を出力する種光源と、種光源から出力されるレーザ光を増幅する光増幅器と、光増幅器で増幅されたレーザ光の波長を目的とする波長に変換する非線形光学素子を備えて構成されている。
【0004】
そして、パルス幅が数ナノ秒以下、好ましくは数百ピコ秒以下で繰返し周波数が数百メガヘルツ以下のピークパワーが大きなレーザパルス光を得ることができるように様々な種光源が選択されて、様々な光増幅器等が用いられている。
【0005】
従来、このような種光源として繰返し周波数が数十メガヘルツのモード同期レーザを用い、当該種光源から出力されたパルス光を分周することにより数キロヘルツのパルス光を得るように構成されたものがあった。
【0006】
しかし、モード同期レーザの発振周波数は温度や振動等の環境的な要因で変動し、その値を適正に制御することが困難であるため、受光素子等を用いて検出したレーザパルス光の発振周波数に同期して分周する必要があり、そのための回路構成が複雑になるという問題や、モード同期レーザの構成部品である過飽和吸収体が劣化し易く、長期安定駆動が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、パルス光の発振周波数の制御が可能な半導体レーザを種光源に用いることが考えられるが、このような半導体レーザから出力される近赤外のパルス光のパルスエネルギーは数ピコジュールから数百ピコジュールと非常に小さく、最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光を得るためには、従来の種光源を使用する場合よりも大幅に増幅する必要がある。
【0008】
そのための光増幅器として、エルビウム・ドープト・ファイバ増幅器やイッテルビウム・ドープト・ファイバ増幅器等のファイバ増幅器や、イットリウム・アルミニウム・ガーネットにネオジウムを添加したNd:YAG、イットリウム・バナデートにネオジウムを添加したNd:YVO4等の固体増幅器が好適に用いられる。
【0009】
特許文献1,2には、このようなファイバ増幅器と固体増幅器を組み合わせた光増幅器が開示されている。当該特許文献1,2に示されているように、ファイバ増幅器及び固体増幅器の何れも、レーザ活性領域でのポンプ作用で増幅対象となるレーザ光と同じ波長の光を増幅するために、励起用の光源を備える必要がある。そして、通常、このような励起用の光源として半導体レーザが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したレーザ光源装置から出力されるパルス光を用いて加工作業を行なう際に、一時的にパルス光の出力を停止させたい場合がある。そのような場合に種光源の発振を停止させ、或いは光増幅器へのパルス光の伝播を阻止すると、光増幅器に備えた励起用のレーザ光源によって各光増幅器のレーザ活性領域が励起され続けて過度な反転分布状態に到る。そのため、次に種光源を発振させ、或いは光増幅器へのパルス光の伝播を許容したときに、通常よりも極めて大きなピークパワーのパルス光(以下、「ジャイアントパルス」とも表記する。)が出力されて、固体増幅器や非線形光学素子等の破損を招くという問題があった。
【0012】
また、励起用のレーザ光源を駆動した状態で一時的にパルス光の出力を停止し、その後にパルス光の出力を再開する場合に、出力の停止中に励起光により過剰にエネルギーが蓄積されて光増幅器の過剰な温度上昇を招き、例えばファイバ増幅器であれば、ASEノイズのパワーが上昇し、或いはファイバ長の変動で出力光の周波数が変動するという問題や、固体増幅器であれば、固体レーザ媒体に現れる熱レンズ効果に起因して、ビーム伝播特性が劣化するという問題があった。そのため、出力を再開した後に温度が安定するまでの間は、レーザパルス光を用いた加工対象の品質に悪影響を与える虞もあった。
【0013】
そこで、一時的にパルス光の出力を停止する間、例えば固体増幅器の励起用のレーザ光源から出力されるパルス光のパワーを抑制して、固体レーザ媒体に過剰にエネルギーが蓄積しないように調整することも考えられる。
【0014】
しかし、励起光のパワーを可変に調整すると固体レーザ媒体の温度上昇を抑制できるが、励起光のパワー変動を原因とする熱レンズ効果に起因して、パルス光の出力を再開したときにパルス光のビーム中心がずれる虞があるという問題があった。固体レーザ媒体に入射する励起光の光軸を精度よく調整するのが困難なため、励起光のパワーが変動すると固体レーザ媒体の熱分布状態が変動し、それに伴って熱レンズ効果の影響を受けるためである。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、装置から一時的にパルス光の出力を停止させる場合に、励起用光源を停止または調整しなくても増幅器の破損を回避でき、出力再開直後のビーム伝播特性の劣化を回避することができるレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ光源装置の第一特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅する増幅器と、を備えているレーザ光源装置であって、前記増幅器に対する励起光のパワーが維持された状態で、前記レーザ光源装置からパルス光の出力を許容する出力許容状態のときに前記種光源をゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードで駆動し、
前記増幅器に対する励起光のパワーが前記出力許容状態と同じ値に維持された状態で、前記レーザ光源装置からパルス光の出力を停止する出力停止状態のときに前記種光源を連続発振させる連続発振モードで駆動するとともに、前記出力停止状態で前記増幅器から出力される光の平均パワーが、前記出力許容状態で前記増幅器から出力される光の平均パワー
と等しくなるように、前記連続発振モードで前記種光源から前記増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する制御部を備えている点にある。
【0017】
制御部によって、出力許容状態ではゲインスイッチング法で種光源から出力されるパルス光が増幅器で増幅されて、例えば加工対象物の加工に十分な大きなピークパワーのパルス光が得られ、出力停止状態では連続発振モードで種光源から出力される連続光が増幅器で増幅されても加工対象物を加工可能なパワーより十分に低い連続光が出力されるように制御される。このとき、増幅器に対する励起光のパワーが維持された状態で出力許容状態から出力停止状態に切り替わっても、連続発振モードで種光源から出力される連続光によって、励起光によって増幅器に蓄積された励起エネルギーが消費される。従って、増幅器に対する励起光のパワーを切り替えるような煩雑な制御を行なわなくても、増幅器が過剰に発熱して増幅特性が変化するような事態が生じることなく、その後再度出力許容状態に切り替わったときでも安定した増幅特性でパルス光を出力することができる。
【0018】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記制御部は、前記出力停止状態で前記増幅器から出力される光の平均パワーの目標値を、前記出力許容状態で前記増幅器から出力される光の平均パワーに設定して、前記連続発振モードで前記種光源から前記増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する点にある。
【0019】
増幅器に対する励起光のパワーを切り替えるような煩雑な制御を行なわなくても、出力停止状態で増幅器から出力される光の平均パワーが、出力許容状態で増幅器から出力される光の平均パワーになるように制御することで、増幅器が過剰に発熱して増幅特性が変化するような事態が生じることなく、その後再度出力許容状態に切り替わったときでも安定した増幅特性でパルス光を出力することができる。
【0020】
同第
三の特徴構成は、同請求項
3に記載した通り、上述の第一
または第二の特徴構成に加えて、前記増幅器は少なくとも固体増幅器を含み、前記制御部は、前記出力停止状態で前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが、前記出力許容状態で前記固体増幅器から出力される光の平均パワー
と等しくなるように、前記連続発振モードで前記種光源から前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整するように構成されている点にある。
【0021】
種光源から出力されるパルス光を増幅する増幅器として固体増幅器を用いる場合、励起光による固体増幅器の励起状態が変動すると、熱レンズ効果等の影響で固体増幅器から出力されるパルス光の光軸が微妙に変動し、例えば加工対象物の加工精度に重大な影響を与える虞がある。そのため、出力許容状態から出力停止状態に切り替わっても固体増幅器の熱的状態が安定的に維持されることが望まれる。出力許容状態から出力停止状態に切り替えたときに、種光源から連続発振モードで出力される連続光で固体増幅器に蓄積された励起エネルギーを消費するように構成すれば、固体増幅器に対する励起光のパワーが維持された状態であっても固体増幅器の熱的状態が安定的に維持される。その結果、再度出力許容状態に切り替えても、固体増幅器の温度特性の変化に起因するビーム伝播特性の劣化が生じることがないので、例えば加工対象物の加工精度を好的に維持できるようになる。
【0022】
同第
四の特徴構成は、同請求項
4に記載した通り、上述の第
三の特徴構成に加えて、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子をさらに備え、前記出力許容状態のときにのみ前記非線形光学素子から所定パワーの波長変換光が出力されるように構成されている点にある。
【0023】
波長変換素子により波長変換されるパルス光のパワーは入射光のパワーと正の相関がある。そのため、高いピークパワーのパルス光が得られるパルス発振モードで種光源が駆動され、固体増幅器で十分な強度に増幅される必要がある。しかし、連続発振モードで駆動された種光源から出力される連続光のパワーは低いため、固体増幅器で増幅されても波長変換素子から十分なパワーの波長変換光が得られない。そこで、非線形光学素子からパルス光の出力を停止する出力停止状態のときに、種光源をパルス発振モードから連続発振モードに切り替えて駆動すると、固体増幅器の熱的状態を安定的に維持しながらも実質的な出力停止状態を実現することができる。つまり、非線形光学素子は、発振波長の異同を問わず、種光源10から出力されたパルス光のみを選択的に波長変換して、加工対象物を加工可能なパワーで出力するフィルタ素子として機能する。
【0024】
同第
五の特徴構成は、同請求項
5に記載した通り、上述の第一から第
四の何れかの特徴構成に加えて、前記種光源がDFBレーザで構成さ
れている点にある。
【0025】
種光源としてDFBレーザを用い、ゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードで駆動することによ
り、単一縦モードのパルス光を容易に生成することができるようになる。
【0026】
本発明によるレーザパルス光生成方法の第一の特徴構成は、同請求項
6に記載した通り、ゲインスイッチング法で種光源から出力されたパルス光をファイバ増幅器及び固体増幅器で順次増幅し、増幅後のパルス光を非線形光学素子で波長変換して出力するレーザパルス光生成方法であって、前記非線形光学素子からのパルス光の出力を停止する場合に、前記固体増幅器に対する励起光のパワーを維持した状態で、前記種光源をゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードから、
前記固体増幅器に対する励起光のパワーを前記パルス発振モードと同じ値に維持した状態で、前記種光源を連続発振させる連続発振モードに切り替えて駆動するとともに、前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが、前記非線形光学素子からのパルス光の出力を許容する場合に前記固体増幅器から出力される光の平均パワー
と等しくなるように、前記連続発振モードで前記種光源から前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する点にある。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した通り、本発明によれば、装置から一時的にパルス光の出力を停止させる場合に、励起用光源を停止または調整しなくても増幅器の破損を回避でき、出力再開直後のビーム伝播特性の劣化を回避することができるレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明によるレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法の実施形態を説明する。
図1には、本発明によるレーザ光源装置1の一例となる構成が示されている。レーザ光源装置1は、光源部1Aと、ファイバ増幅部1Bと、固体増幅部1Cと、波長変換部1Dとが光軸Lに沿って配置され、さらに光源部1A等を制御する制御部100を備えて構成されている。
【0030】
光源部1Aには、種光源10と、ドライバD1と、光アイソレータISL1と等を備えている。ファイバ増幅部1Bには、それぞれレーザダイオードで構成される励起用光源21,31及び合波器22,32を備えた二段のファイバ増幅器20,30と、光アイソレータISL2,ISL3と、光スイッチ素子40等を備えている。
【0031】
固体増幅部1Cには、固体増幅器50と、励起用光源51と、反射ミラーM1,M2,M3と、レンズL1,コリメータCL2等を備えている。波長変換部1Dは、第1波長変換部1E及び第2波長変換部1Fで構成され、それぞれに非線形光学素子60,70を備えている。
【0032】
パルス発振モードで種光源10から出力された波長1064nmのレーザパルス光(以下、単に「パルス光」とも記す。)が二段のファイバ増幅器20,30で増幅され、さらに一段の固体増幅器50で所望のレベルまで増幅される。固体増幅器50で増幅されたパルス光は非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換されて出力される。
【0033】
尚、ファイバ増幅器及び固体増幅器の数は特に限定されることはなく、パルス光に対する所望の増幅率を得るために適宜設定されればよい。例えば三つのファイバ増幅器を縦続接続し、その後段に二つの固体増幅器を縦続接続してもよい。
【0034】
種光源10として単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられ、制御部100から出力される制御信号によって、パルス発振モードと連続発振モードの何れかのモードで駆動される。パルス発振モードでは単発または数メガヘルツ以下の所望の周波数で、数ナノ秒以下、好ましくは数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光が出力され、連続発振モードではパワーの低い連続光(CW光)が出力される。
【0035】
パルス発振モードで種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、ファイバ増幅器20,30及び固体増幅器50によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅された後に、二段の非線形光学素子60,70に入力されることによって波長266nmの深紫外線に波長変換される。
【0036】
種光源10から出力されたパルス光は、光アイソレータISL1を介して、初段のファイバ増幅器20で増幅される。ファイバ増幅器20,30として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源21で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。このようなファイバ増幅器20の反転分布の寿命はミリ秒の位数であるため、励起用光源21で励起されたエネルギーは1キロヘルツ以上の周波数のパルス光に効率的に転移されるようになる。
【0037】
初段のファイバ増幅器20で約30デシベル増幅されたパルス光は、光アイソレータISL2を介して後段のファイバ増幅器30に入力されて約25デシベル増幅される。後段のファイバ増幅器30で増幅されたパルス光は、コリメータCL1によってビーム整形され、光アイソレータISL3,ISL4を通過した後に固体増幅器50に導かれて約25デシベル増幅される。
【0038】
コリメータCL1と固体増幅器50との間には、音響光学素子が組み込まれ光スイッチ素子40として機能する音響光学変調器AOM(Acousto-Optic Modulator)、一対の反射ミラーM1,M2が配置され、反射ミラーM1,M2間には固体増幅器50で増幅されたパルス光を非線形光学素子60に導く光アイソレータISL4が配置されている。
【0039】
尚、上述の光アイソレータISL1〜ISL4は、何れも磁気光学効果を利用して光の伝播方向の順方向と逆方向で偏光面を逆方向に回転させることで戻り光を遮断する偏光依存型の光アイソレータであり、光軸に沿って上流側に配置された各光学素子が、高いパワーの戻り光によって熱破壊されることを回避する等のために設けられている。
【0040】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源51から出力され、コリメータCL2によってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0041】
光スイッチ素子40を通過したパルス光は、反射ミラーM1,M2を経由して固体増幅器50に入射して増幅された後に、さらに反射ミラーM3で反射されて固体増幅器50に再入射して再度増幅される。つまり、固体増幅器50の往路及び復路でそれぞれ増幅されるように構成されている。尚、レンズL1はビーム整形用である。
【0042】
固体増幅器50で増幅されたパルス光は反射ミラーM2、光アイソレータISL4で反射されて波長変換部1Dの非線形光学素子60,70に入射して所望の波長に変換された後に出力される。
【0043】
第1波長変換部1Eには非線形光学素子60であるLBO結晶(LiB
3O
5)が組み込まれ、第2波長変換部1Fには非線形光学素子70であるCLBO結晶(CsLiB
6O
10)が組み込まれている。種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換される。
【0044】
反射ミラーM4,M8は非線形光学素子60から出力される波長1064nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、反射ミラーM6は非線形光学素子70から出力される波長532nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、分離されたパルス光はそれぞれ光ダンパで減衰される。
【0045】
第2波長変換部1FにはCLBO結晶(CsLiB
6O
10)を光軸と直交する面内で移動させる走査機構であるステージ71が設けられている。紫外線が長時間同一箇所に照射されるとCLBO結晶(CsLiB
6O
10)に光学損傷が生じて強度分布の劣化と波長変換出力の低下を招くため、所定時期にCLBO結晶(CsLiB
6O
10)へのパルス光の照射位置をシフトするためである。
【0046】
制御部100はFPGA(Field Programmable Gate Array)及び周辺回路等を備えた回路ブロックで構成され、予めFPGA内のメモリに記憶したプログラムに基づいて複数の論理素子が駆動されることにより、レーザ光源装置1を構成する各ブロックが例えばシーケンシャルに制御される。尚、制御部100はFPGAで構成される以外に、マイクロコンピュータとメモリ及びIO等の周辺回路で構成されていてもよいし、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)等で構成されていてもよい。
【0047】
具体的に、レーザ光源装置1から波長変換パルス光を出力するパルス発振モードでは、制御部100は種光源10であるDFBレーザのドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号を出力する。当該駆動回路からDFBレーザにトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0048】
レーザ光源装置1から波長変換パルス光の出力を一時的に停止する連続発振モードでは、制御部100は種光源10であるDFBレーザのドライバD1に備えた連続発振用の駆動回路に駆動信号を出力する。当該駆動回路からDFBレーザに直流電流が印加されて、その電流値に基づくパワーの連続光が出力される。
【0049】
また、制御部100は光スイッチ素子40である音響光学変調器AOMを駆動するRFドライバD2にゲート信号を出力する。RFドライバD2から高周波信号が印加されたトランスジューサ(ピエゾ変換素子)によって音響光学素子を構成する結晶に回折格子が生成され、音響光学素子に入射するパルス光の回折光が反射ミラーM1に入射する。RFドライバD2が停止すると音響光学素子に入射したパルス光は回折せずにそのまま通過し、反射ミラーM1に入射することはない。尚、RFドライバD2の停止時に音響光学素子を通過した光は光ダンパによって減衰されるように構成されている。
【0050】
ゲート信号によって光スイッチ素子40がオンすると音響光学素子によって回折された光がファイバ増幅器30から固体増幅器50へ伝播し、ゲート信号によって光スイッチ素子40がオフするとファイバ増幅器30から固体増幅器50へ光の伝播が阻止される。
【0051】
図2(a),(b),(c)には、レーザ光源装置1の各部を伝播するパルス光の周波数特性が左側に示され、それらパルス光の時間軸特性が右側に示されている。これらの図で示す符号Sn(nは整数)は、
図1に示すレーザ光源装置1の各部の出力ノードの光信号Sn(n=1,2,・・・)に対応する。
【0052】
パルス発振モードで制御部100から出力されるトリガ信号によって、種光源10であるDFBレーザから中心波長1064nmの狭帯域のレーザパルス光が所定の周期で出力される(
図2(a),
図3(a)参照)。種光源10から出力されたパルス光がファイバ増幅器20に導かれて増幅される過程で自己位相変調やラマン散乱等によって不必要にスペクトル幅が広がり、さらには自然放出光ノイズ(以下、「ASEノイズ(amplified spontaneous emission noise)」と記す。)が発生して光パルスのS/N比が低下する(
図2(b)参照)。そのようなパルス光が後段のファイバ増幅器30に導かれて増幅される過程でさらに広帯域化され、ASEノイズレベルが増大する(
図2(c),
図3(b)参照)。
【0053】
所望の強度の深紫外のパルス光を得るために、ファイバ増幅器20,30で増幅されたパルス光を後段の固体増幅器50でさらに大きなピークパワーに増幅する必要がある。しかし、波長変換部1Dで波長変換可能な波長範囲が各非線形光学素子60,70の特性によって制限されることから、増幅に要したエネルギーが効率的に波長変換に寄与しない。つまり波長変換効率が低下することになる。
【0054】
固体増幅器50の励起エネルギーがASEノイズの増幅や広帯域化したパルス光に無駄に消費される結果、エネルギー効率が大きく低下するという問題や、そのために励起エネルギーを大きくすると、発熱による素子の破損を回避するために大掛かりな冷却装置が必要となり、徒にレーザ光源装置1が高価になるという問題がある。パルス光の周波数がメガヘルツの位数より大きければ、ASEノイズは極僅かであるためさほど問題とならないが、パルス光の発振周波数が1メガヘルツよりも低い領域ではASEノイズの影響が顕著になる。
【0055】
そこで、制御部100は、パルス発振モードで駆動される種光源10からのパルス光の出力期間に光の伝播を許容し、種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を阻止するように光スイッチ素子40を制御することにより、非線形光学素子60,70からパルス光の出力を許容する出力許容状態を生成するように構成されている。
【0056】
当該出力許容状態で、制御部100によって種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に光スイッチ素子40がオフされると、その間は、後段の固体増幅器50へのASEノイズの伝播が阻止されるようになり、固体増幅器50の活性領域のエネルギーが無駄に消費されることが回避されるようになる(
図3(c)の区間Toff参照)。
【0057】
そして、種光源10からパルス光が出力される期間に制御部100によって光スイッチ素子40がオンされると、ファイバ増幅器30から固体増幅器50へパルス光が伝播するので(
図3(c)の区間Ton参照)、エネルギー効率よくパルス光が増幅されて(
図3(d)参照)、非線形光学素子から大きなピークパワーのパルス光が出力されるようになる。つまり、当該光スイッチ素子40を時間領域でASEノイズを除去するフィルタとして機能させるのである。
【0058】
出力許容状態で、制御部100によって光スイッチ素子40がオン制御される「種光源からのパルス光の出力期間」とは、種光源10からパルス光が出力されている全期間のみを意味するのではなく、非線形光学素子60,70により波長変換されたパルス光のピーク強度が適切な値を示す範囲であれば一部期間であってもよく、また種光源10からパルス光が出力されている期間の前後の僅かな期間も含まれるような概念である。
【0059】
出力許容状態で、制御部100によって光スイッチ素子40がオフ制御される「種光源からのパルス光の出力期間と異なる期間」とは、複数のパルス光の各出力期間の間の全期間、つまりパルス光が存在しない全期間のみを意味するのではなく、励起用光源によって励起された固体増幅器50の活性領域のエネルギーがASEノイズで無駄に消費されることが低減できる範囲であれば、その一部期間も含まれるような概念である。
【0060】
一方、レーザ光源装置1から出力される深紫外域の波長のパルス光を各種のレーザ加工に用いる場合に、一時的にパルス光の出力を停止する必要があるときも多くある。そのような場合に種光源10の発振を停止させ、或いは光増幅器20,30,50へのパルス光の伝播を阻止すると、その間も光増幅器20,30,50に備えた励起用のレーザ光源によって各レーザ活性領域が励起され続けて過度な反転分布状態に到る。
【0061】
その結果、次に種光源を発振させたいとき、或いは光増幅器50へのパルス光の伝播を許容したときにジャイアントパルスが出力されて、固体増幅器50や後段の非線形光学素子等の破損を招くという問題がある。
【0062】
また、種光源10の発振を停止させる間に、固体増幅器50が過剰に発熱して温度上昇を招くため、種光源10の発振を再開しても、固体増幅器50の温度が定常温度に戻るまでの間はビーム伝播特性が劣化して、レーザパルス光を用いた加工対象の品質に悪影響を与える虞がある。
【0063】
そこで、制御部100は、固体増幅器50に対する励起光のパワーが維持された状態で、レーザ光源装置1からパルス光の出力を許容する出力許容状態のときに種光源10をゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードで駆動し、レーザ光源装置1からパルス光の出力を停止する出力停止状態のときに種光源10を連続発振させる連続発振モードで駆動するとともに、出力停止状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーが、出力許容状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーと略等しくなるように、連続発振モードで種光源10から固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整するように構成されている。
【0064】
固体増幅器50に対する励起光のパワーが維持された状態で出力許容状態から出力停止状態に切り替わっても、連続発振モードで種光源10から出力される連続光によって、励起光によって増幅器に蓄積された励起エネルギーが消費される。従って、固体増幅器50に対する励起光のパワーを切り替えるような煩雑な制御を行なわなくても、固体増幅器50が過剰に発熱して増幅特性が変化するような事態が生じることなく、その後再度出力許容状態に切り替わったときでも安定した増幅特性でパルス光を出力することができる。
【0065】
励起光による固体増幅器50の励起状態が変動すると、熱レンズ効果等の影響で固体増幅器50から出力されるパルス光の光軸が微妙に変動し、例えば加工対象物の加工精度に重大な影響を与える虞がある。そのため、出力許容状態から出力停止状態に切り替わっても固体増幅器の熱的状態が安定的に維持されることが望まれる。出力許容状態から出力停止状態に切り替えたときに、種光源10から連続発振モードで出力される連続光で固体増幅器50に蓄積された励起エネルギーを消費するように構成すれば、固体増幅器50に対する励起光のパワーが維持された状態であっても固体増幅器50の熱的状態が安定的に維持される。その結果、再度出力許容状態に切り替えても、固体増幅器50の温度特性の変化に起因するビーム伝播特性の劣化が生じることがないので、例えば加工対象物の加工精度を好的に維持できるようになる。
【0066】
波長変換素子60,70により波長変換されるパルス光のパワーは入射光のパワーと正の相関がある。そのため、高いピークパワーのパルス光が得られるパルス発振モードで種光源10が駆動され、固体増幅器50で十分な強度に増幅される必要がある。しかし、連続発振モードで駆動された種光源10から出力される連続光のパワーは低いため、固体増幅器50で増幅されても波長変換素子60,70から十分なパワーの波長変換光が得られない。
【0067】
そこで、非線形光学素子60,70からパルス光の出力を停止する出力停止状態のときに、種光源10をパルス発振モードから連続発振モードに切り替えて駆動すると、固体増幅器50の熱的状態を安定的に維持しながらも実質的な出力停止状態を実現することができる。つまり、非線形光学素子60,70は、発振波長の異同を問わず、種光源10から出力されたパルス光のみを選択的に波長変換して、加工対象物を加工可能なパワーで出力するフィルタ素子として機能する。
【0068】
図4には、出力許容状態から出力停止状態に到り、さらに出力許容状態に移行するときの固体増幅器50の特性が示されている。
図4の最上段(出力(S4)(CW光無)に示すように、時刻t1で出力許容状態から出力停止状態に切り替わり、出力停止状態で種光源10がオフされていると、出力停止状態から再度出力許容状態に切り替わった時刻t2から後の時刻t3までの時間Δtの間、ビーム伝播特性の劣化に起因する出力強度の低下ΔSが現れるのである。
【0069】
図4の上から二段目(固体増幅器の結晶温度)に示すように、時刻t1までの出力許容状態でほぼ定常状態であった固体増幅器の結晶温度が、出力停止状態の間に励起光により蓄積されるエネルギーにより次第に上昇し、出力停止状態に復帰した時刻t2から以前の定常状態での結晶温度に復帰するまでの時間Δtでの現象で、
図4の上から三段目(ビーム品質)に示すように、時間Δtの間はそれ以前の定常状態に比べてビーム品質が劣化するためである。時間Δtは、出力停止状態の長さにより変動し、0.5秒から60秒程度となる。
【0070】
そのため、
図4の上から四段目(種光源)に示すように、本発明によるレーザ光源装置1は、時刻t1から時刻t2の出力停止状態の間に、制御部100によって種光源10がパルス発振モードから連続発振モードに切り替えられ、時刻t2以降の出力許容状態でパルス発振モードに復帰するように構成されている。
【0071】
出力停止状態の間に種光源10から出力されるCW光が、光スイッチ素子40を介して固体増幅器50に伝播して、励起用の光源51によって励起状態にある固体増幅器50の活性領域のエネルギーが放出されるようになる。
【0072】
その結果、
図4の最下段(出力(S4)(CW光有)に示すように、固体増幅器50が励起エネルギーによって過剰に発熱して温度上昇するようなことがないので、当該出力停止状態の後の時刻t2に制御部100によりパルス発振モードに切り替えられ、種光源10から出力されたパルス光が固体増幅器50へ伝播して波長変換部1Dからの出力が再開された直後であっても、ビーム伝播特性が劣化することなく、加工対象の品質に悪影響を与えることなく安定的に加工を再開することができるようになる。
【0073】
具体的に、
図1に示すように、分波器24からフォトダイオードPDに入力された光量に基づいて、連続発振モードで駆動される種光源10の出力強度をフィードバック制御するフィードバック制御回路がドライバD10に設けられ、ドライバD10を介して制御部100により種光源10の出力強度が調整される。分波器24の位置は後段のファイバ増幅器30の出力側に設けられていてもよい。
【0074】
尚、出力停止状態で固体増幅器50から出力される光の平均出力が、出力許容状態で固体増幅器50から出力される光の平均出力と略等しくなるように、連続発振モードで駆動される種光源10から出力されるレーザ光のパワーを調整することができれば、フィードバック制御回路は必須ではない。
【0075】
出力許容状態から出力停止状態へ移行する際に、種光源10がパルス
発振モードから連続発振モードに切り替えられる。このとき、パルス光の繰返し周期T1と同一周期で連続光が出力されるように連続発振モードに切り替えられることが好ましい(
図4の上から四段目(種光源)参照)。連続発振モードでレーザ光が出力される初期にパルス
発振モードと同様の緩和振動による大きなパワーのレーザ光が出力され、これが波長変換されて加工対象に照射される。このタイミングがパルス光の繰返し周期と異なると加工むらが発生するためである。
【0076】
図5には、制御部100によって実行される種光源10及び光スイッチ素子40に対する制御タイミングチャートが例示されている。
【0077】
出力許容状態では、基準とする時刻t0で光スイッチ素子40のRFドライバD2に対してゲート信号を出力し、所定の遅延時間の後、時刻t3で種光源10のドライバD1に対するトリガ信号をオン出力する。時刻t4で緩和振動が発生した後の所定時刻t5でトリガ信号をオフすることによって所定のパルス幅のパルス光S1が得られ、ファイバ増幅器20,30で増幅されたパルス光S3が得られる。このパルス光S3は広帯域化され、さらにASEノイズが重畳されている。
【0078】
尚、制御部100が時刻t5でトリガ信号をオフしてレーザ発振を停止させるのではなく、緩和振動が発生した種光源10に対してドライバD1が所定時刻t5で種光源10のレーザ発振を停止させるように構成されていてもよい。この場合、トリガ信号のオフタイミングは任意に設定すればよい。
【0079】
時刻t0でオン出力されたゲート信号によって光スイッチ素子40が時刻t2でオンし、時刻t1でオフされたゲート信号によって光スイッチ素子40が時刻t6でオフする。光スイッチ素子40がオンする時刻t2からt6の間に、ファイバ増幅器30で増幅され光スイッチ素子40を通過した出力S4が固体増幅器50に伝播する。
【0080】
従って、光スイッチ素子40がオンする時刻t2からt6の間に、ファイバ増幅器30で増幅され光スイッチ素子40を通過した出力光S4、つまり種光源10から出力されたパルス光S4が固体増幅器50に伝播する。そして、光スイッチ素子40がオフする時刻t6からt9の間には、ASEノイズの固体増幅器50への伝播が阻止されるので、固体増幅器50の活性領域に蓄積された励起エネルギーが無駄に消費されることが回避されるようになる。
【0081】
出力停止状態では、基準とする時刻t1で光スイッチ素子40のRFドライバD2に対してゲート信号を出力し、所定の遅延時間の後、時刻t3で種光源10のドライバD1に対する連続発振モードでの駆動信号をオン出力する。
【0082】
その後、種光源10から出力されたCW光がASEノイズとともに光スイッチ素子40を通過した出力光S4´が固体増幅器50に伝播する。
【0083】
尚、
図5では、RF信号が入力されて光スイッチ素子40に回折格子が形成され、回折された光が固体増幅器50へ伝播する状態をオンと表記し、光スイッチ素子40に回折格子が形成されず、光が固体増幅器50へ伝播することなく、零次光がダンパで減衰される状態をオフと表記している。光スイッチ素子40へ出力する制御信号の論理は正論理及び負論理の何れであってもよい。
【0084】
つまり、上述した制御部100によって、非線形光学素子60,70からのパルス光の出力を停止する場合に、固体増幅器50に対する励起光のパワーを維持した状態で、種光源10をゲインスイッチング法でパルス発振させるパルス発振モードから、種光源10を連続発振させる連続発振モードに切り替えて駆動するとともに、固体増幅器50から出力される光の平均パワーが、非線形光学素子60,70からのパルス光の出力を許容する場合に固体増幅器50から出力される光の平均パワーと略等しくなるように、連続発振モードで種光源10から固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整するレーザパルス光生成方法が実行される。
【0085】
本発明は、DFBレーザを含む半導体レーザに対して、数百メガヘルツ以下の周波数で、且つ、数百ピコ秒以下のパルス幅で駆動するように構成された種光源を備えたレーザ光源装置に広く適用可能である。
【0086】
以下、本発明の別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、出力停止状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーが、出力許容状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーと略等しくなるように、連続発振モードで種光源10から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整する例を説明したが、種光源10のパワーを一定に維持しつつ出力時間を調整するように間歇的に駆動してもよいし、パワーと出力時間の双方を調整してもよい。
【0087】
種光源10から出力されるレーザ光の出力時間を調整する場合には、種光源10からレーザ光が出力される駆動時間を制御する態様や、光スイッチ素子40を制御して種光源10から出力されるレーザ光が固体増幅器50に伝播する時間を制御する態様を採用することができる。
【0088】
上述した実施形態では、パルス発振モードで駆動される種光源10からのパルス光の出力期間に光の伝播を許容し、種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を阻止するように光スイッチ素子40を制御することにより、出力許容状態で固体増幅器50に蓄積される活性領域のエネルギーを有効活用する例を説明したが、出力許容状態で常時光スイッチ素子40をオン/オフ制御する必要はない。
【0089】
例えば、1メガヘルツ以下の繰返し周波数が低いときのみ光スイッチ素子40をオン/オフ制御し、繰返し周波数がそれ以上に高いときには、常時オン制御するように構成してもよい。
【0090】
図6に示すように、出力停止状態での固体増幅器50の特性変動を抑制するという目的のみであれば、出力許容状態で光スイッチ素子40をオン/オフ制御する必要はなく、ファイバ増幅器30からの出力光を常時反射ミラーM1に伝播させるように制御すればよい。この場合に光スイッチ素子40を設けなくてもよい。
【0091】
上述した実施形態では、制御部100が、固体増幅器50に対して出力停止状態で増幅器から出力される光の平均パワーが、出力許容状態で増幅器から出力される光の平均パワーと略等しくなるように、連続発振モードで種光源から増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する例を説明したが、ファイバ増幅器20,30に対して同様の制御を行なってもよい。
【0092】
上述した実施形態に加えて、ファイバ増幅器20,30の後段にチャーピング現象や光ファイバ内の自己位相変調やラマン散乱等によって広帯域化したパルス光を狭帯域化するバンドパスフィルタを設けてもよい。
【0093】
種光源10と光アイソレータISL1とファイバ増幅器20との間にバンドパスフィルタを設けて、種光源へのASEノイズの反射を回避するように構成してもよい。
【0094】
上述した実施形態では、光スイッチ素子40として超音波トランデューサのオンまたはオフによって1次回折光をオンまたはオフする音響光学素子を用いた例を説明したが、光スイッチ素子40としてEO変調の強度変調を利用して電界により光をオンオフする電気光学素子を用いることも可能である。
【0095】
さらに光スイッチ素子40としてマイクロマシーニング技術で製作した微少な搖動ミラー(MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で構成されたミラー)を用いて、ファイバ増幅器30の出力が固体増幅器50に伝播するか否かを微少な搖動ミラーの搖動角度によって切り替えるように構成してもよい。また、偏光状態を動的に切替えて光の透過と遮断を制御可能な偏光デバイスを用いてもよい。つまり、光スイッチ素子が動的光学素子で構成されていればよい。
【0096】
上述した実施形態では、種光源としてDFBレーザを用いて、パルス発振モードでDFBレーザにゲインスイッチング法を適用することによって、単一縦モードで定常状態よりも高強度のパルス光を生成する例を説明したが、本発明は種光源として半導体レーザを用いるものであればよく、DFBレーザ以外の一般的なファブリペロー型の半導体レーザを用いることも可能である。
【0097】
上述した実施形態では、増幅器に対する励起光のパワーを維持した状態で、出力停止状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーが、出力許容状態で固体増幅器50から出力される光の平均パワーと略等しくなるように、連続発振モードで種光源10から固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整するように構成された例を説明したが、本発明はファイバ増幅器20,30に適用することも可能である。
【0098】
その結果、出力許容状態から出力停止状態に切り替えたときに、増幅器に対する励起光のパワーを切り替えるような煩雑な制御を行なわなくても、増幅器が過剰に発熱して増幅特性が変化するような事態が生じることなく、その後再度出力許容状態に切り替わったときでも安定した増幅特性でパルス光を出力することができるようになる。
【0099】
また、本発明は、非線形光学素子60,70を備えていないレーザ光源装置にも適用可能である。この場合、例えば固体増幅器50の後段に光の出力を許容または阻止する光スイッチ素子をさらに備え、制御部100が当該光スイッチ素子を制御して出力停止状態でレーザ光源装置から光の出力を阻止し、出力許容状態でレーザ光源装置から光の出力を許容するように構成することも可能である。当該光スイッチ素子も、上述した光スイッチ素子40と同様の素子を用いることができる。
【0100】
また、本発明は、発振波長が1064nmとなる種光源に限定されるものでもなく、例えば、1030nm、1550nm、976nm等、用途によって適宜異なる波長の種光源を選択することが可能である。さらに、非線形光学素子を介してこれらの波長を基本波とする高調波、和周波、差周波を発生させることも可能である。非線形光学素子として、上述以外の非線形光学素子を用いることも可能である。例えば、CLBO結晶に代えて、BBO結晶、KBBF結晶、SBBO結晶、KABO結晶、BABO結晶等を用いることができる。
【0101】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。