特許第6688009号(P6688009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688009
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】酸化変性LDL複合体抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20200421BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20200421BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   A61K31/12
   A61P9/10 101
   A61P11/00
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-83312(P2015-83312)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-204264(P2016-204264A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509128719
【氏名又は名称】長谷川 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩二
(72)【発明者】
【氏名】森本 達也
(72)【発明者】
【氏名】今泉 厚
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 Cracinogenesis,2009年,Vol.30,No.11,pp.1949-1956
【文献】 Biochem Biophys Res Commun,2012年,Vol.417,No.1,pp.256-261
【文献】 PLOS ONE,2012年,Vol.7,No.12,e.51753
【文献】 FASEB Journal,2012年,Vol.26,Meeting Info: Experimental Biology Meet
【文献】 Mol.Nutr.Food Res,2008年,Vol.52,No.9,pp.987-994
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 36/00−36/9068
A61P 9/10
A61P 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミン、デスメトキシクルクミン、ビスデスメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンから選ばれる1種以上を有効成分とする、COPD患者の虚血性心疾患発症抑制のための血清アミロイドA/LDL複合体及び/又はα1−アンチトリプシン−LDL複合体の抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな酸化変性LDL複合体抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、喫煙習慣を主な原因とする肺の生活習慣病であり、虚血性心疾患の独立した危険因子の一つでもある。しかしながら、COPDと虚血性心疾患を結びつけるメカニズムは明らかでなかった。
【0003】
COPDは、肺胞隔壁の損傷を伴う炎症性疾患であり、肺抹梢でCRP、IL−6,IL−1βやTNFαなどの炎症性メディエーターが増加する。これらが体循環に波及して全身性炎症を引き起こし、心血管疾患などの併存症が引き起こされる可能性が示唆され、近年、COPDが全身性疾患としての側面を有することが注目されるようになった。
【0004】
しかしながら、COPDに対する薬物療法としては、気管支拡張薬による症状の軽減や増悪を防ぐ対症療法が中心であり、COPD患者における肺・気道の炎症や、それに伴う閉塞性障害の進展に有効な薬剤はないのが現状である。
【0005】
一方、酸化LDLが動脈硬化の発症と進展に重要な役割を果たしており、最近、そのうち血清アミロイドA/LDL複合体(SAA−LDL)及びα−アンチトリプシン−LDL複合体(AT−LDL)が同定され、これら2つのマーカーが動脈硬化の発症と進展に重要であることが判明した(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Atheroscler. Thromb., 19:47-58.2012
【非特許文献2】Anti-Aging Medicine 9:51-60.2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、COPD患者における虚血性心疾患の発症を抑制する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、喫煙によって血清中には酸化変性LDLの一種である(SAA−LDL)と(AT−LDL)が有意に上昇することを見出し、これら複合体がCOPDの病態に関連していると考えた。そこで、これら複合体の血中濃度を抑制する物質の探索を行ったところ、驚くべきことにクルクミンを経口摂取することによってSAA−LDLやAT−LDLの血中濃度を減少させるとともに、肺機能を改善させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
【0010】
〔1〕クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上を有効成分とする血清アミロイドA/LDL複合体及び/又はα−アンチトリプシン−LDL複合体の抑制剤。
〔2〕慢性閉塞性肺疾患患者における血清アミロイドA/LDL複合体及び/又はα−アンチトリプシン−LDL複合体の抑制剤である〔1〕記載の血清アミロイドA/LDL複合体及び/又はα−アンチトリプシン−LDL複合体の抑制剤。
〔3〕クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上を有効成分とする肺機能改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SAA−LDL及び/又はAT−LDLの抑制剤、特にCOPD患者におけるSAA−LDL及び/又はAT−LDLの抑制剤が提供でき、COPD患者の虚血性心疾患の発症抑制剤が提供できる。また、肺機能改善剤が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のSAA−LDL及び/又はAT−LDLの抑制剤、肺機能改善剤の有効成分は、クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上である。
【0013】
クルクミンは、ウコン色素に含まれるクルクミノイドの主成分であり、下記構造式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明に用いられるクルクミンは、化学合成されたクルクミンを用いてもよいし、ウコン色素として流通しているものを用いてもよい。ウコン色素としては、ショウガ科ウコン(Curcuma longa LINNE)の根茎の乾燥物を粉末にしたウコン末、該ウコン末を適当な溶媒(例えば、エタノール、油脂、プロピレングリコール、ヘキサン、アセトンなど)を用いて抽出して得られる粗製クルクミン或いはオレオレジン(ターメリックオレオレジン)、および精製したクルクミンを挙げることができる。
なお、クルクミンには、互変異性体であるケト型及びエノール型のいずれも含まれる。
【0016】
クルクミン類縁体としては、デスメトキシクルクミン、ビスデスメトキシクルクミン、テトラヒドロクルクミン、ジヒドロキシテトラヒドロクルクミン等が挙げられる。なお、ウコン色素には、クルクミン、デスメトキシクルクミン及びビスデスメトキシクルクミンが含まれている。クルクミン類縁体としては、デスメトキシクルクミン、ビスデスメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0017】
クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上としては、ウコン抽出物を用いるのが好ましく、クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上を含有するウコン色素を用いるのがより好ましい。クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上を含有するウコン色素の市販品としては、クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上が含有されていれば特に制限はないが、体内への吸収性が高いものが好ましく、セラクルミン(セラバリューズ社製)が特に好ましい。
【0018】
後記実施例に示すように、クルクミン又はその類縁体は、経口投与によって、COPD患者における血中SAA−LDL及びAT−LDLの増加を顕著に抑制し、また肺機能、特に一秒率を有意に改善する。
ここで、SAA−LDLとは、HDLと結合して存在する急性相反応性蛋白の血清アミロイドA(SAA)が血管内炎症の場で、活性化した炎症細胞由来の活性酸素によって酸化され、低比重リポ蛋白(LDL)と結合した複合体をいう。また、AT−LDLとは、酸化されたαアンチトリプシン(AT)と低比重リポ蛋白(LDL)が複合体形成したものをいう。SAA−LDLもAT−LDLも動脈硬化を促進する作用があり、心筋梗塞症などの重症の虚血性心疾患発症の原因になると考えられている。従って、クルクミン又はその類縁体は、COPD患者のSAA−LDL及びAT−LDLの増加を顕著に抑制し、動脈硬化の発症、ひいては虚血性心疾患の発症を抑制する。
また、一秒率は、スパイロメーターによる肺機能検査の重要な要素であり、70%以上が基準値となっており、これを70%以上に改善することは肺機能を顕著に改善する。
【0019】
本発明のSAA−LDL及び/又はAT−LDLの抑制剤及び肺機能改善剤は、経口投与するのが好ましく、経口投与製剤とするのが好ましい。
【0020】
経口投与製剤の例としては、錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等が挙げられる。経口投与製剤を製造するには、薬学的に許容される担体、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を配合することができる。
【0021】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム及びこれらの混合物等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール及びこれらの混合物等が挙げられる。結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウム及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0022】
崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖及びこれらの混合物等が挙げられる。希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びこれらの混合物等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0023】
本発明のSAA−LDL及び/又はAT−LDLの抑制剤、肺機能改善剤におけるクルクミン及びその類縁体の投与量は、成人1日投与量として10mg〜10gが好ましく、30mg〜10gがより好ましい。クルミクン及びその類縁体を1日1回〜数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0024】
1.ヒト臨床試験(二重盲検無作為化群間並行比較試験)について
(1)被験者
被験者は、京都医療センターに通院中のかつ、日本呼吸器学会による分類基準によって0期〜II期(COPD予備群〜中等症)に分類された慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者であり、かつ、禁煙後4ヶ月以上が経過した者とした。なお、本試験には48名が登録されたが、脱落やデータ欠損によって被験者39名(実薬投与群22名(平均年齢69.6歳)及びプラセボ薬投与群17名(平均年齢69.9歳)、両群間の年齢及び性分布に差はなし)が解析対象者となった。
【0025】
(2)試験薬
実薬は、高吸収性クルクミン製剤であるセラクルミン(登録商標)と、賦形剤である二酸化ケイ素及びステアリン酸カルシウムとを配合したカプセルであり、該カプセル1粒中にはクルクミンが30mg含有したものである。なお、前記セラクルミン(登録商標)は、ウコン色素(主にクルクミン、僅かにクルクミン類縁体も含む)、デキストリン、マルトース、ガディガム及びクエン酸からなるものである。
一方、プラセボ薬は、上記セラクルミン(登録商標)からウコン色素をとり除き、かつ、色調を実薬と同じにするために着色料(食用黄色4号)を添加したもの、すなわち、デキストリン、マルトース、ガディガム、クエン酸、二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウム及び着色料(食用黄色4号)からなるカプセルであり、該カプセル中にはクルクミンを全く含まない。
【0026】
(3)投与方法
上記1.の被験者を無作為に2群に分けて、上記2.に記載の実薬3カプセル(クルクミンとして90mg)又はプラセボ薬3カプセルを朝食後及び夕食後に服用(1日あたり6カプセル、すなわち、実薬の場合では1日あたりクルクミンを180mg摂取)し、これを24週間(6ヶ月)継続して行った。なお、被験者の症状は、試験薬投与開始前の観察期(3ヶ月以上)から安定していたことを確認した。
【0027】
(4)観察・検査項目及び時期
被験者に対して、試験検体投与前、投与12週間後及び24週間後に、a)自覚症状、b)血圧、脈拍数、体重及びc)臨床検査(血液学的検査、生化学的検査、尿検査、その他)の観察及び検査を実施した。
なお、血液学的検査では赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、白血球数、血小板数及びフィブリノーゲンを、生化学的検査では総蛋白、総ビリルビン、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al−P、LDH、BUN、クレアチニン、尿酸、LDL−コレステロール、HDL−コレステロール、CPK、空腹時血糖、中性脂肪、Na、K、Cl及びCRPを、尿検査では蛋白、潜血及び糖(いずれも定性)を常法に従って測定した。
【0028】
(5)SAA−LDL及びAT−LDLの測定方法
SAA−LDL及びAT−LDLは、これらの測定を受託して実施する会社の株式会社いかがくに委託した。
【0029】
(6)肺機能の測定方法
肺機能は、常法に従い、スパイロメーターを用いて測定した。
【0030】
2.結果
被験者の年齢及び性分布について、プラセボ群(17名、69.9歳)とクルクミン群(22名、69.6歳)との間には差を認めなかった。なお、本試験には被験者48名が登録され、脱落やデータ欠損により39名の被験者を解析の対象とした。
また、両群とも、内服前後で、BMI、体重、血圧、HbA1c、LDL−C、TG、HDL−Cの変化は認めなかった。
【0031】
しかしながら、SAA−LDLについて、ベースラインに対する6ヶ月間での%変化率を調べたところ、SAA−LDLの%変化率は、プラセボ投与群では10.8±47.4%増加したのに対して、クルクミン投与群では2.0±41.9%低下していた。
また、AT−LDLの%変化率についても同様に調べたところ、プラセボ投与群(14.8±23.8%増加)と比較して、クルクミン投与群では(1.6±16.7%減少)と有意に後者で低値であった(p=0.020)。
さらに、クルクミン投与群では、予測一秒率が投与前(67.5±5.0%)から投与6ヶ月後(71.3±8.8%)にかけて有意に(p=0.034)改善した。投与前後での変化につき相関を検討すると、クルクミン群では予測一秒率とAT−LDLに負の相関関係が認められた(r=−0.592、p=0.008)。
以上の結果から、クルクミンを経口摂取することによって、SAA−LDL及びAT−LDLの血中濃度が減少し、かつ、肺機能が改善することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のクルクミン及び/又はその類縁体を有効成分とする酸化変性LDLを抑制する製剤は、経口摂取することによって血中のSAA−LDLやAT−LDL濃度を減少させるとともに、COPD患者の肺機能を改善する効果を有する。また、将来の虚血性心疾患発症を抑制することに結び付き得る。