特許第6688069号(P6688069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688069柱の接合構造、及び、それを用いた建造物の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688069
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】柱の接合構造、及び、それを用いた建造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20200421BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   E04B1/24 P
   E04B1/58 503H
   E04B1/24 C
   E04B1/58 503C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-254019(P2015-254019)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-115500(P2017-115500A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】田原 桂太
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】門司 陽二郎
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−049900(JP,A)
【文献】 特開平08−189092(JP,A)
【文献】 特開2012−057430(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105369892(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面での大きさが異なる下柱と上柱とを接合する柱の接合構造であって、
前記上柱と前記下柱の外周部を接合するテーパー部材を備え、そのテーパー部材の内部には、内部側伝達部材が配設され、
鉄骨鉄筋コンクリート造の前記下柱の上方部分の鉄筋の上方に鉄筋を接続し、その鉄筋及び前記テーパー部材が隠れるように、当該鉄筋と前記テーパー部材の上方まで、前記下柱のコンクリート部分の上方に連続させてコンクリートを打設し、前記テーパー部材の外周に鉄筋コンクリートが配設されている柱の接合構造。
【請求項2】
前記テーパー部材の外周の鉄筋コンクリートは、それの外周面が前記下柱の外周面と面一となる状態で配設されている請求項1記載の柱の接合構造。
【請求項3】
前記内部側伝達部材は、前記テーパー部材の対向する内壁部に亘って前記テーパー部材の内部空間を複数の空間に区画する状態で配設され、前記内部側伝達部材の上端が、前記テーパー部材の前記上柱側の端面より下方に位置している請求項1又は2記載の柱の接合構造
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の柱の接合構造を用いた建造物の構築方法であって、
既存の建造物の鉄筋鉄骨コンクリート造の柱の下方部分を残して上方部分を切断して除去し、残存する既存の前記柱の下方部分を前記下柱とし、その下柱の上方部分のコンクリートを剥離除去して前記下柱の上方部分の前記鉄筋を露出させ、その前記下柱の上に、その下柱の横断面より小さな横断面を有する新たな前記上柱を前記接合構造にて接合し、前記下柱の上に新たな建造物を構築する建造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横断面での大きさが異なる下柱と上柱とを接合する柱の接合構造、及び、それを用いた建造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような横断面での大きさが異なる上下の柱どうしを接合する場合、従来、上柱と下柱の外周部を接合する特殊な部材、具体的には、鋼板製の中空角錐台形状や中空円錐台形状に形成した中空のテーパー部材を使用し、その中空のテーパー部材を介在して上柱と下柱を接合する構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平7−51524号公報(特に、第15図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の従来技術では、上下の柱を接合するためのテーパー部材が、鋼板により構成された完全な中空構造であるため、上柱側からの全荷重が、テーパー部材を介して下柱の外周部に集中的に伝達されることになる。
そのため、下柱の外周部に応力が集中し、上柱側からの荷重を下柱へ効率よく伝達することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、上柱側からの荷重
を下柱へ効率よく伝達することが可能な柱の接合構造、及び、それを用いた建造物の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
断面での大きさが異なる下柱と上柱とを接合する柱の接合構造であって、
前記上柱と前記下柱の外周部を接合するテーパー部材を備え、そのテーパー部材の内部には、内部側伝達部材が配設されているとよい
【0007】
上記構成によれば、上柱と下柱の外周部を接合するテーパー部材を備えているので、上柱側からの荷重は、テーパー部材を介して下柱の外周部に伝達される。それに加えて、テーパー部材の内部に内部側伝達部材が配設されているので、上柱側からの荷重は、その内部側伝達部材を介して下柱の内部側にも伝達される。
すなわち、上柱側からの荷重は、下柱の外周部のみならず内部側にも伝達されることになり、下柱の一部に応力が集中するのを回避して、上柱側からの荷重を下柱へ効率よく伝達することができる。
【0008】
記内部側伝達部材は、前記テーパー部材の対向する内壁部に亘って配設されていてもよい
【0009】
上記構成によれば、内部側伝達部材がテーパー部材の対向する内壁部に亘って配設されているので、この内部側伝達部材が、テーパー部材の補強機能を有するとともに、上柱側からの荷重を下柱の内部側へ一層確実に伝達することができる。
【0010】
記テーパー部材の内部には、硬化性充填材が充填され、前記下柱の外周と前記テーパー部材の外周とに亘って鉄筋コンクリートが配設されていてもよい
【0011】
上記構成によれば、テーパー部材の内部に硬化性充填材が充填されているので、上柱側からの荷重は、この硬化性充填材をも介して下柱側へ伝達され、更に、下柱の外周とテーパー部材の外周とに亘って鉄筋コンクリートが配設されているので、上柱側からの荷重は、この鉄筋コンクリートをも介して下柱側へ伝達される。
このように、上柱側からの荷重は、上述したテーパー部材や内部側伝達部材のみならず、硬化性充填材や鉄筋コンクリートによっても下柱側へ伝達されるので、上柱側からの荷重を下柱側へきわめて効率よく伝達することが可能となる。
〔1〕本発明の第1特徴構成は、横断面での大きさが異なる下柱と上柱とを接合する柱の接合構造であって、
前記上柱と前記下柱の外周部を接合するテーパー部材を備え、そのテーパー部材の内部には、内部側伝達部材が配設され、
鉄骨鉄筋コンクリート造の前記下柱の上方部分の鉄筋の上方に鉄筋を接続し、その鉄筋及び前記テーパー部材が隠れるように、当該鉄筋と前記テーパー部材の上方まで、前記下柱のコンクリート部分の上方に連続させてコンクリートを打設し、前記テーパー部材の外周に鉄筋コンクリートが配設されている点にある。
〔2〕本発明の第2特徴構成は、前記テーパー部材の外周の鉄筋コンクリートは、それの外周面が前記下柱の外周面と面一となる状態で配設されている点にある。
〔3〕本発明の第2特徴構成は、前記内部側伝達部材は、前記テーパー部材の対向する内壁部に亘って前記テーパー部材の内部空間を複数の空間に区画する状態で配設され、前記内部側伝達部材の上端が、前記テーパー部材の前記上柱側の端面より下方に位置している点にある。
〔4〕本発明の第4特徴構成は、第1〜第3特徴構成のいずれかに記載の柱の接合構造を用いた建造物の構築方法であって、
既存の建造物の鉄筋鉄骨コンクリート造の柱の下方部分を残して上方部分を切断して除去し、残存する既存の前記柱の下方部分を前記下柱とし、その下柱の上方部分のコンクリートを剥離除去して前記下柱の上方部分の前記鉄筋を露出させ、その前記下柱の上に、その下柱の横断面より小さな横断面を有する新たな前記上柱を前記接合構造にて接合し、前記下柱の上に新たな建造物を構築する点にある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】柱の接合構造を示す縦断正面図
図2】柱の接合構造を示す分解斜視図
図3】柱の接合手順を示す縦断正面図
図4】柱の接合手順を示す縦断正面図
図5】柱の接合手順を示す縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による柱の接合構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、例えば、既存の建造物において、各柱の下方部分を残して上方部分を切断して除去し、図1及び図5に示すように、残存する既存の下柱1上に、その下柱1の横断面より小さな横断面を有する新たな上柱2を接合し、既存の下柱1上に新たな建造物を構築する場合などに適用される。
この実施形態では、図1及び図2に示すように、下柱1が、横断面視において、一辺の長さをL1とし中心部にクロスH型鋼3を備え、周囲に多数の鉄筋4を備えたほぼ正方形の中実の鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の柱である。上柱2は、横断面視において、一辺の長さをL2とし下柱1の横断面の面積より小さな面積を有するほぼ正方形の鋼管からなる鉄骨造(S造)の柱である。そして、この下柱1と上柱2とが、両柱1、2の外周部を接合するテーパー部材5を介在し、必要に応じて鋼板製の下板6と上板7を介在させた状態で接合される。
【0014】
テーパー部材5は、図2に示すように、その形状が下方ほど大きく、上方ほど小さなテーパー状の中空体、つまり、中空の四角錐台形状で、例えば、鋼材などで形成される。テーパー部材5の下柱1側の端面5aは、下柱1のクロスH型鋼3の横幅方向の長さL3と一致する一辺長さL3を有する正方形に形成されて、クロスH型鋼3のフランジ3a上に配置可能に構成され、上柱2側の端面5bは、上柱2の一辺長さL2とほぼ一致する一辺長さL2を有する正方形に形成される。
このテーパー部材5の内部には、上柱2側からの荷重を下柱1側へ伝達するための内部側伝達部材8が、例えば、鋼材などで形成されて配設されている。この内部側伝達部材8は、下柱1のクロスH型鋼3のウェブ3b上に配置可能なように、横断面視でウェブ3bとほぼ同一形状の十字状に形成されるとともに、図4から明確なように、正面視において、その上端がテーパー部材5の上柱2側の端面5bより下方に位置するように形成され、互いに対向するテーパー部材5の内壁部に亘って、かつ、互いに対向する内壁部に溶接されて配設されている。
【0015】
次に、この柱の接合構造についての施工手順を説明するが、あくまでも基本的な施工手順であり、したがって、実際の実施に際して手順が相前後することはあり得る。
まず、図3に示すように、所定のフロアラインFL(図1参照)から上方に立設された既存の柱において、必要な下方部分を残して上方部分(図3において仮想線で示す)を切断除去し、残った下方部分を下柱1として、その下柱1の上方部分のコンクリートを必要な量だけ剥離除去し、クロスH型鋼3と鉄筋4の一部を露出させ、必要な場合には、鉄筋4の上方部分を切断除去する。
次に、図4に示すように、下柱1の上面(実際には、クロスH型鋼3の上端面)の上に下板6を載置し、その下板6とクロスH型鋼3とを溶接して接合し、下板6の上にテーパー部材5を載置する。テーパー部材5の載置に際しては、テーパー部材5の下柱1側の端面5aが、クロスH型鋼3のフランジ3a上に位置し、内部側伝達部材8が、クロスH型鋼3のウェブ3b上に位置するように載置して、テーパー部材5と下板6とを溶接して接合する。
【0016】
その後、図5に示すように、テーパー部材5内に硬化性充填材の一例である無収縮モルタル9を充填し、テーパー部材5の上柱2側の端面5bの上に上板7を載置し、テーパー部材5と上板7とを溶接して接合する。この無収縮モルタル9の充填に際しては、テーパー部材5の内部空間が、十字状の内部側伝達部材8によって複数の空間に区画されているが、内部側伝達部材8の上端が、テーパー部材5の上柱2側の端面5bより下方に位置しているので、区画された複数の空間内に無収縮モルタル9を万遍なく容易に充填することができる。
次に、上柱2がテーパー部材5の上柱2側の端面5b上に位置するように、上柱2を上板7の上に載置し、上板7と上柱2を溶接して接合する。そして、図1に示すように、下柱1の鉄筋4の上方に新たな鉄筋10を接続するとともに、新たな鉄筋10を配筋し、テーパー部材5が完全に隠れるように、下柱1の上方部分のコンクリート除去部分を含めて上板7の上方までコンクリートを打設し、下柱1の外周とテーパー部材5の外周とに亘って鉄筋コンクリートを配設した状態で接合を完了する。
【0017】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、下柱1としてクロスH型鋼3からなる鉄骨を備えたSRC造の柱を示したが、クロスH型鋼3以外にも、例えば、H型鋼、溝型鋼、山形鋼等の各種の型鋼やラチスで補強したものなど、各種形状の鉄骨を備えたSRC造の柱にも適用可能である。更に、SRC造の柱以外にも、例えば、鉄筋コンクリート造(RC造)の柱やコンクリート充填鋼管構造(CFT造)の柱などにも適用可能である。
同様に、上柱2に関しても、先の実施形態で示したS造の柱に限るものではなく、RC造、SRC造、CFT造の柱などでも適用可能である。
【0018】
(2)先の実施形態では、テーパー部材5として四角錐台形状のものを示したが、テーパー部材5の形状は、下柱1と上柱2の横断面形状によって適宜変更される。例えば、両柱1、2の横断面形状が共に円形であれば、円錐台形状となり、下柱1が円形で上柱2が四角であれば、下柱1側の端面5aが円形で上柱2側の端面5bが四角、逆の場合には、下柱1側の端面5aが四角で上柱2側の端面5bが円形の錐台形状となる。
テーパー部材5に配設する内部側伝達部材8に関しては、先の実施形態のように、テーパー部材5の対向する内壁部に亘って配設するのが好ましいが、内壁部から中心部に向かって突出する状態で配設することも可能である。
【0019】
(3)先の実施形態では、下柱1とテーパー部材5との間に下板6を介在させ、テーパー部材5と上柱2との間に上板7を介在させた例を示したが、例えば、テーパー部材5を有底にすることで下板6をなくすことができ、また、テーパー部材5の上柱2側の端面5bに上柱2を直接接合することもできるので、これら下板6と上板7については必要不可欠なものではない。
【符号の説明】
【0020】
1 下柱
2 上柱
5 テーパー部材
8 内部側伝達部材
9 硬化性充填材


図1
図2
図3
図4
図5