特許第6688102号(P6688102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688102電鋳により型を製造することを有する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688102
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】電鋳により型を製造することを有する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/38 20060101AFI20200421BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20200421BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   B29C33/38
   B29C59/02 B
   H01L21/30 502D
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-36894(P2016-36894)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154273(P2017-154273A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】株式会社nittoh
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】八町 利一
(72)【発明者】
【氏名】安田 尚司
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−190305(JP,A)
【文献】 特開2012−162765(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 53/00−53/84
B29C 57/00−59/18
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造を含む第1のモールドからUV硬化樹脂を用いたインプリント法により前記微細構造が転写された第1の樹脂モールドを製造することと、
前記第1の樹脂モールドから電鋳により前記微細構造を含む金型を製造することとを有する方法であって、
前記金型を製造することは、前記第1の樹脂モールドの表面にドライ方式またはウェット方式により導電膜を形成することと、
前記導電膜を用いて電鋳めっきすることと、
前記導電膜を形成することの前に、前記第1の樹脂モールドの表面を、ヒドロキシルラジカルを含む水であるラジカル水により表面処理することとを含み、
前記表面処理することは、前記ヒドロキシルラジカルの濃度Cr、温度Trの前記ラジカル水に時間Hrだけ前記第1の樹脂モールドを浸漬することを含み、
さらに、前記金型はエッチング対象物のレジストに前記微細構造を転写する第2の樹脂モールドを生成するためのスタンパーであり、前記第1の樹脂モールドは前記スタンパー用のマスターであり、前記スタンパーを前記マスターから剥離することを含む、方法。
9 ≦ Cr ≦ 21
15≦ Tr ≦ 25
10≦ Hr ≦ 40
ただし、濃度の単位は、μmol/リットル、温度の単位は℃、時間の単位は分である。
【請求項2】
請求項1において、
前記微細構造は、1nmから10μmの凹凸構造を含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記微細構造はフォトニック結晶構造を含む、方法。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記導電膜を形成することは、前記第1の樹脂モールドの表面にウェット方式により導電膜を形成することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記金型からインプリント法により前記微細構造が転写された前記第2の樹脂モールドを製造することと、
前記第2の樹脂モールドからインプリント法により前記エッチング対象物である基板上に設けられた前記レジストに前記微細構造を転写することと、
エッチングにより前記基板に前記微細構造を形成することとを有する方法。
【請求項6】
請求項において、
前記基板上に半導体層を積層して半導体発光素子を製造することを有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳により金型を製造することを有する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異なる屈折率を持つ2つの系(構造体)からなる周期構造であって、前記2つの系(構造体)の界面がブラッグ散乱の条件を満たし、かつ、フォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶周期構造を、光取出し層に有することを特徴とする半導体発光素子が開示されている。
【0003】
特許文献2には、広い波長帯域において、高い光取出し効率あるいは波長変換効率を有する波長変換素子およびそれを用いた発光装置を提供することが記載されている。この文献に開示された波長変換素子は、光源からの光で励起される複数の蛍光体粒子と、複数の蛍光体粒子の間に配置されたマトリックスとを有する蛍光体層と、蛍光体層に接しており、高さ及び太さの何れか少なくとも一方が異なる少なくとも2種類の複数の柱状体が周期的に配置された柱状構造体とを備え、少なくとも2種類の複数の柱状体が周期的に配置された柱状構造体はフォトニック結晶である。
【0004】
特許文献3には、長波長における光の吸収率を高めると共に、厚さを抑えた太陽電池を提供することが記載されている。この文献の太陽電池は、光の入射側の面に複数の凹部が規則的に形成された光電変換層と、上記凹部を少なくとも満たすことによって、複数の凸部が形成された第1透明導電膜との間での屈折率差に周期性を持たせたことによって、フォトニック結晶を構成している。
【0005】
特許文献4には、フォトリソグラフィー法により、一次凹凸と該一次凹凸の凸面に微細な二次凹凸を備えた階層構造面を有するスタンパ形成用マスタを作製し、該マスタを用いての電鋳法により、一次凹凸と該一次凹凸の凹部底面に微細な二次凹凸を有する階層構造面を賦形面とするスタンパを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2013/008556
【特許文献2】特開2015−8278号公報
【特許文献3】特開2015−28959号公報
【特許文献4】特開2015−80931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトニック結晶(フォトニッククリスタル)は、凹凸または屈折率などの構造が周期的に変化するナノサイズの構造体であり、半導体発光素子、太陽電池などの半導体および光学素子に多く用いられている。フォトニック結晶などナノサイズの構造体あるいはサブミクロンサイズの構造体を効率よく、また精度よく製造する方法が求められている。
【0008】
微細構造を持ったインプリントモールド(マザー)としては通常電子線描画装置にて石英やシリコンに直接加工されたものが使用されている。マザーは、高価な装置を使い、長時間掛けて加工するためコストは非常に高く、数百回のインプリントで目詰まりを起こし易い量産方法は経済的ではない。ミクロンサイズの構造体を製造する方法として、電鋳法によりスタンパーを作製する方法が知られているが、インプリントと組み合わせてサブミクロンあるいはナノサイズの微細構造を製造する方法は確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様の1つは、以下のステップを有する方法である。
1.微細構造を含む第1のモールドからUV硬化樹脂を用いたインプリント法により微細構造が転写された第1の樹脂モールドを製造すること。
2.第1の樹脂モールドから電鋳により微細構造を含む金型を製造すること。
この金型を製造することは、以下のステップを含む。
・第1の樹脂モールドの表面にドライ方式またはウェット方式により導電膜を形成すること。
・導電膜を用いて電鋳めっきすること。
・導電膜を形成することの前に、第1の樹脂モールドの表面を、ヒドロキシルラジカルを含む水であるラジカル水により表面処理すること。表面処理することは、ラジカル水に第1の樹脂モールドを浸漬することを含んでもよい。
【0010】
プラスチックめっきの密着性を確保するために前処理として酸化被膜を取って濡れ性を出す処理が設けられる。従来、クロム酸処理が行われているが、UV硬化樹脂に対しては効果が認められていない。プラズマ処理やUV処理では、UV硬化樹脂の表面が荒れすぎて、転写対象とである微細構造の形状に変化が生じる。これに対し、本願の発明者らは、ヒドロキシルラジカルを含む水である、ラジカル水で処理することにより、微細構造に影響をほとんど与えずに、電鋳による金型を製造するために適した密着性が得られることを見出した。
【0011】
表面処理することは、ヒドロキシルラジカルの濃度Cr、温度Trのラジカル水に時間Hrだけ浸漬することを含んでもよい。ただし、濃度の単位は、μmol/リットル、温度の単位は℃、時間の単位は分である。
9 ≦ Cr ≦ 21 ・・・(1)
15≦ Tr ≦ 25 ・・・(2)
10≦ Hr ≦ 40 ・・・(3)
【0012】
この範囲を下回ると、電鋳めっきの工程における第1の樹脂モールドと金型との密着性が不足し、電鋳めっきの工程で皮膜が破れ、めっき液が浸み込む可能性がある。この範囲を上回ると、密着性が強すぎて、第1の樹脂モールドから金型(電鋳金型)を剥離する際に、金型側に樹脂モールドの一部が付着してしまう可能性がある。
【0013】
微細構造は、1nmから10μmの凹凸構造を含むものである。微細構造のサイズは、10nm以上であることが望ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。微細構造のサイズは、1μm以下であることがさらに好ましい。微細構造の典型的なものはフォトニック結晶構造である。
【0014】
導電膜を形成することは、樹脂モールドの表面にウェット方式により導電膜を形成することが望ましい。低コストで、微細構造に影響を与え難い。
【0015】
金型の一例はエッチング対象物のレジストに微細構造を転写する第2の樹脂モールドを生成するためのスタンパーであり、第1の樹脂モールドの一例はスタンパー用のマスターである。
【0016】
この方法は、基板に微細構造を形成する方法であってもよい。すなわち、方法は、以下の工程を含んでいてもよい。
・金型からインプリント法により微細構造が転写された第2の樹脂モールドを製造すること。
・第2の樹脂モールドからインプリント法によりエッチング対象物である基板上に設けられたレジストに微細構造を転写すること。
・エッチングにより基板に微細構造を形成すること。
【0017】
この方法は、半導体発光素子を製造する方法であってもよい。すなわち、方法は、以下の工程を含んでいてもよい。
・基板上に半導体層を積層して半導体発光素子を製造すること。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電鋳を用いてスタンパーを作成する工程を含む、LEDの製造に関するプロセスを説明するフローチャート。
図2】マスターからスタンパーを作成する様子を示す図。
図3】ラジカル水により表面処理をするシステムの構成を示す図。
図4】表面改質の方法を示す表。
図5】導電膜形成方法を示す表。
図6】いくつかの実験例を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、フォトニッククリスタル(フォトニック結晶)が転写された基板(サファイア基板)を備えた半導体発光素子(LED)を製造するプロセスをフローチャートにより示している。
【0020】
ステップ1において微細構造の形状を設計する。本例の微細構造はフォトニッククリスタルである。フォトニッククリスタルは、屈折率が周期的に変化するナノ構造体である。その中の光(波長が数百〜数千nmの電磁波)の伝わり方はナノ構造によって制御が可能である。すなわち、本例の微細構造体は、1μm以下の凹凸構造を含み、サブミクロン、たとえば、10μm以下の凹凸構造を含んでもよい。以下のプロセスにおいてスタンパーとなるニッケル電鋳は、一般に表面粗さが0.050μm(50nm)程度の面を精度よく複製可能である。したがって、微細構造体は、50nm以上の凹凸構造であることが適している。
【0021】
具体的に、本例における微細構造は、直径が約260nm、ピッチが460nm、高さが200nmのピラー構造(円柱構造)である。発明者らがこの構造を備えたサファイア基板に半導体層、たとえば、窒化ガリウム(GaN)を積層した半導体発光素子(LED)の可視光領域の透過率をシミュレーションで評価したところ、微細構造がないサンプルと比較して透過率は向上しているという結果が得られた。
【0022】
ステップ2において、微細構造を含む母型(マザー)を製造する。マザーは、石英やシリコン基板に電子描画装置にて微細構造を加工することにより製造される。マザーは、高価な装置を使って長時間掛けて加工することにより製造される。このため、完成した母型(マザー)は非常に高価なものになる。このため、数百回あるいはそれ以上のインプリントを繰り返す量産に使用することは、目詰まりを起こし易く、マザーをそのまま使うことは現実的ではない。
【0023】
したがって、本例では、高価なマザーの代替え品としてマザーをインプリント法にて微細構造を転写したマスターを作成し(ステップ3)、そのマスターから、ニッケル電鋳にて再度、微細構造を転写したスタンパーを作成する(ステップ10)。
【0024】
図2に示すように、マスター20はPETフィルム21の上にUV硬化樹脂22を使って微細構造(フォトニッククリスタル)100を転写したものである。スタンパー30は、ニッケル電鋳にて微細構造100を再度転写した金型(ニッケルモールド)である。インプリント(インプリント法、UVインプリント)とは、微細な構造を持った金型からUV硬化樹脂を使って構造を反転させる技術であり、マイクロサイズおよびナノサイズの構造を転写させる技術である。
【0025】
VU硬化樹脂は、紫外光を照射することで硬化する樹脂であり、導電性はなく、絶縁体のマスター20が形成される。このため、電鋳にてスタンパー(金型)30を作成(製造)する工程10は、絶縁体のマスター(第1の樹脂モールド)20の表面にドライ方式またはウェット方式により導電膜を形成する工程12と、導電膜を用いて電鋳めっきする工程13とを含む。さらに、導電膜を形成する工程12の前に、マスター(第1の樹脂モールド)20の表面を、ヒドロキシルラジカル(ヒドロラジカル)を含む水であるラジカル水により表面処理する工程11を含む。
【0026】
図3に、ラジカル水によりマスター20の表面を処理するシステムの概要を示している。この処理は、マスター20の酸化被膜を取って濡れ性を出すことを主な目的としている。図4に、表面改質の主な方法を示している。クロム酸処理はUV硬化樹脂に対しては効果が認められておらず、環境負荷も大きい。プラズマ処理は効果が認められず、また、UV硬化樹脂の表面が荒れすぎて、転写対象である微細構造の形状に変化が生じる。UV処理はUV硬化樹脂の処理としては有効であるが、UV硬化樹脂の表面が荒れすぎて、転写対象である微細構造の形状に変化が生じる。オゾンナノバルブ水で処理したが、密着性の向上に至る結果は得られなかった。これに対し、ラジカル水による処理を行ったところ、所定の条件でマスター20に対する電鋳金型(スタンパー)30の密着性を向上できることが見いだされた。
【0027】
表面処理システム50は、ラジカル水供給装置51を含む。ヒドロキシラジカルを含む水(ラジカル水)を供給する装置(ラジカル水供給装置)51については、国際公開WO2010/140581およびWO2015/125739などに開示されている。ラジカル水供給装置51は、純水または水道水にオゾンを予め溶解させたオゾン水52に対し、添加物質水溶液53および過酸化水素水54を混合するミキサー55と、ヒドロキシルラジカル濃度計56とを含む。添加物質の一例は、ヒドラジン、無機酸の塩、無機酸、水溶性有機物である。ラジカル水供給装置51においては、オゾン出力によりオゾン水52のオゾン濃度、添加物質水溶液53の添加量、過酸化水素水54の添加量が定められ、ヒドロキシルラジカル濃度計56により、出力されるラジカル水57のラジカル濃度が測定される。
【0028】
表面処理システム50は、さらに、ラジカル水57の温度を制御するチラー58と、ラジカル水57を溜めるチャンバー59とを含み、チャンバー59にマスター20を浸漬してマスター20の表面を処理(改質)する。ラジカル水57は、ヒドロキシラジカル(・OH)を含む。このヒドロキシラジカルは樹脂表面に水酸基(-OH)を導入する。OH基は親水性を持つため、濡れ性が上がり且つ化学反応が起こり易くなると考えられる。
【0029】
図5に、絶縁体のマスター20に導電膜を形成する工程(ステップ12)における処理を示している。導電膜を形成する方法としてはドライ方式(ドライコーティング)と、ウェット方式(ウェットコーティング)とを挙げることができる。ドライコーティングは、スパッタ法や蒸着法にて絶縁体の上に導電膜を形成する方法であり、コストが高いことと、マスター20を傷つけたり、微細構造のアスペクト比によっては導電膜を形成し難いという欠点がある。ウェットコーティングは、無電解めっきにより導電膜を形成する方法であり、低コストで安定した導電膜を絶縁体のマスター20の表面に形成できる。本例では、無電解ニッケルリンめっきを採用した。
【0030】
具体的には、ラジカル水でマスター20を処理した後に、水酸化カリウムおよびエタノールを含む水によりアルカリ脱脂を行い、コンディショナーで処理した後、塩化スズの水溶液および塩化パラジウムの水溶液に交互に浸漬し、その後、無電解ニッケルリンめっきにより導電膜を形成した。その後、導電膜を用いてニッケル電鋳めっきを行い、スタンパー30となるニッケル電鋳モールド(金型)を作成(製造)した。
【0031】
図1に戻って、電鋳モールドのスタンパー30を用いて、ステップ4において、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いて常温インプリントによりエッチング用のマスター(PDMSモールド)を作成する。ステップ5において、PDMSモールドを用いてサファイア基板上に塗布されたレジストに微細構造100をインプリントする。そして、ステップ6において、エッチングを行い、フォトニッククリスタル(微細構造)を備えたサファイア基板を作成する。ステップ7において、サファイア基板に窒化ガリウムなどの半導体層を積層し、LEDを製造する。
【0032】
図6に、ステップ11においてラジカル水により表面処理する際の条件を変えたいくつかのケースにおいて、電鋳めっきによりスタンパー30を作成したときの密着性の評価を示している。実験は、ラジカル水供給装置51のオゾン出力を変えてラジカル水中のラジカル濃度(μmol/リットル)を変えるとともに、ラジカル水の温度(℃)をチラー58で制御した。また、マスター20の浸漬時間を制御した。また、浸漬前と後とで、マスター20の表面粗さを、レーザー顕微鏡(オリンパス社製LESXTOLS4000)を用いて0.001μm(nm)単位で測定した。
【0033】
密着性の評価は目視にて行い、スタンパー30に膨れや割れが発生したケースは密着性が不足していると判断した(評価は×)。また、スタンパー30をマスター20から剥離した際に、スタンパー30に樹脂が付着しているか、マスター20の側の樹脂が脱落していると認められたケースは密着性が強すぎると判断した(評価は×)。いずれの現象も見られないケースは適当な密着性が得られたとして評価は○とした。なお、目視では膨れが見られないが、浸漬前と後とでマスター20の表面粗さに差が見られないケースは、表面改質効果が十分ではない可能性があるとして評価は△とした。
【0034】
これらの評価より、浸漬時間が40分を超えると、密着性が強くなりすぎて剥離し難くなる傾向があり、浸漬時間が10分を下回ると密着性が不足する傾向があることが分かった。また、ラジカル濃度が21μmol/リットルを超えると、マスター20の表面が荒れてしまい密着性が強くなりすぎて密着性の制御が難しくなり、9μmol/リットル以下になると洗浄効果が不十分で密着性が不足する可能性があることが分かった。ラジカル水温度については、図6に示した以外のケースで温度が低いほど反応が強くなり、温度が高いと処理時間が長くなる傾向があることが分かった。このため、ラジカル水温度は25℃を超えると処理時間が長くなりすぎて、15℃を下回ると反応が強すぎて処理時間の調整が難しいことが分かった。このため、ラジカル水の処理は以下の条件(1)〜(3)を満たすことが望ましいことが分かった。この範囲内であれば、表面粗さも適切であり微細構造の転写も良好に行える。
【0035】
9 ≦ Cr ≦ 21 ・・・(1)
15≦ Tr ≦ 25 ・・・(2)
10≦ Hr ≦ 40 ・・・(3)
ただし、ヒドロキシルラジカルの濃度Cr、濃度の単位は、μmol/リットル、温度Tr、温度の単位は℃、ラジカル水の浸漬時間(処理時間)Hr、時間の単位は分である。
【0036】
密着性の制御の容易さを考えると、条件(1)の下限は14μmol/リットルであることが好ましく、上限は19μmol/リットルであることが好ましい。また、条件(2)の下限は18℃であることが好ましく、上限は23℃であることが好ましく、19〜22℃であることがさらに好ましく、20〜21℃であることがさらに好ましい。条件(3)の下限は15分であることが好ましく、上限は30分であることが好ましい。
【0037】
また、ラジカル水供給装置51については、チャンバー59からの排水を循環させる方式よりもかけ流しの方が、ラジカル濃度が高くなりやすく、蒸留水よりも水道水の方が密着性が向上しやすいという結果が得られた。
【0038】
以上のように、高価なマザーの代替え品としてマザーをインプリント法にて転写したマスターから、ニッケル電鋳にて再度転写したスタンパーを作製するためにマスターをラジカル水処理することは適度な密着性を得るために有効であることが分かった。
【符号の説明】
【0039】
20 マスター(樹脂モールド)、 30 スタンパー(電鋳金型)
図1
図2
図3
図4
図5
図6