(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のストレーナ及び前記第1のポート油路の合計の容積が、前記第2のストレーナ及び前記第2のポート油路の合計の容積よりも小さい、請求項1に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記変速機が、前記駆動力源としてのエンジンに対して車体の前後方向の後方側に配置される場合、前記所定方向の一方側が、前記前後方向の前方側である、請求項1又は2に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記変速機が、前記駆動力源としてのエンジンに対して車体の車幅方向に配置される場合、前記所定方向の一方側が、前記車幅方向の前記エンジン側である、請求項1又は2に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記制御装置は、前記オイル吸入装置が前記所定方向の一方側に傾く場合、前記第1のポート油路と前記オイルポンプとを連通させ、前記第2のポート油路と前記オイルポンプとを遮断させる、請求項5に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記制御装置は、前記オイル吸入装置が前記所定方向の他方側に傾く場合、前記第1のポート油路と前記オイルポンプとを遮断させ、前記第2のポート油路と前記オイルポンプとを連通させる、請求項5又は6に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記制御装置は、前記オイル吸入装置が傾いていない場合、前記第1のポート油路及び前記第2のポート油路をともに前記オイルポンプに連通させる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の変速機のオイル吸入装置。
前記制御装置は、前記オイルポンプの非駆動時には、前記第1のポート油路及び前記第2のポート油路をともに遮断させる、請求項5〜8のいずれか1項に記載の変速機のオイル吸入装置。
【背景技術】
【0002】
車両に備えられた変速機等においては、作動油の油圧を用いてクラッチや変速機を制御したり、内部に作動油を循環させて、ギヤの噛合面や他の摺動部分の潤滑性を向上させたりしている。かかる作動油は、変速機の下部に設けられたオイルパンに貯留され、オイルストレーナを介してオイルポンプにより吸入される。吸入された作動油は、オイルストレーナの濾材により濾過された後、オイルポンプにより吐出される。
【0003】
車両の加速時、減速時あるいは旋回時等、車両の加速度が変化する場合や、坂道走行時等、車両が傾く場合に、作動油がオイルパン内で一方に片寄る場合がある。このとき、
図7に示すように、オイルストレーナの吸入口の少なくとも一部が油面Oよりも上方に露出すると、作動油とともに空気が吸入されることになる。空気が吸入されると、異音が発生したり、油圧の低下に伴って変速機を正常に動作させることができなかったり、さらには、変速機の故障に繋がったりするおそれがある。
【0004】
これに対して、作動油が一方に片寄った場合においてもオイルストレーナのオイル吸入口から空気が吸い込まれないようにするためには、変速機への作動油の充填量を増やすことが考えられる。ただし、作動油の充填量を増やすと、変速機内でのギヤの回転や作動油の掻き上げに対する抵抗が大きくなって、回転効率が低下するおそれがある。また、作動油の充填量の増加は、変速機の質量の増加や、コストの上昇にもつながり得る。
【0005】
そのため、作動油が一方に片寄った場合においても、オイルストレーナのオイル吸入口が油面よりも上方に露出しにくくなるようにする技術が提案されている。例えば、特許文献1には、オイルパン内の油溜室を、オイルストレーナが配置されるストレーナ室と、ストレーナ室の少なくとも両側に隣接する室とにより仕切り、かつ仕切壁に、連通路を設けるとともに各隣接する室内の作動油がストレーナ室内に流入する方向にのみ連通路を開く開閉体を設けたオイルパンの構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、スリットを介して隣接する複数の可倒部材を円錐台状に配列し、可倒部材の付け根部を固定用シート部に連接させてなる可倒式バルブシートを備え、可倒式バルブシートをオイルパンとオイルパンに配設したオイルストレーナとの間に介在するとともに円錐台状に配列した各可倒部材にてオイルストレーナの吸入口を囲うように配設したオイル吸入装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、オイルパンの底面に対面した磁性体からなる上部壁と、上部壁よりオイルパンの底面に向かって延出したオイル吸入筒と、オイル吸入筒の外周側に間隔をおいて配置され、かつ上端部が上部壁に吸着された筒状マグネットとを備えるオイル貯留装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されたオイルパンの構造は、オイルパン内の作動油が一方に片寄った場合に、オイル吸入口の周囲の油面の高さを高くすることのみによって、オイル吸入口からの空気の吸込みを防止しようとするものである。特許文献1〜3においては、いずれも、オイルストレーナのオイル吸入口と、開閉体、可倒部材又は筒状マグネットとが離間して設けられている。そのため、作動油が一方に片寄ることによって油面がオイル吸入口の近傍に位置するような場合には、作動油の吸入に伴って空気が巻き込まれて吸い込まれるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、作動油の吸入口からの空気の吸込みをさらに抑制可能な、新規かつ改良された変速機のオイル吸入装置及び変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両に搭載され、駆動力源から出力される駆動力を変速して伝達する変速機のオイル吸入装置であって、作動油を吸入して吐出するオイルポンプと、第1の吸入口及び第1の送出口を有する第1のストレーナと、第2の吸入口及び第2の送出口を有する第2のストレーナと、第1のストレーナを介して吸入される作動油をオイルポンプに導く第1のポート油路と、第2のストレーナを介して吸入される作動油をオイルポンプに導く第2のポート油路と、第1のポート油路及び第2のポート油路とオイルポンプとの連通及び遮断を切り替える切替弁と、を備え、第1のストレーナが第2のストレーナよりも所定方向の一方側にずらされて配置され、第1の吸入口が第1の送出口よりも所定方向の他方側にずらされて配置され、第2の送出口が第2の吸入口よりも所定方向の一方側にずらされて配置され、第1の吸入口が第2の吸入口よりも低い位置にある、変速機のオイル吸入装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0012】
第1のストレーナ及び第1のポート油路の合計の容積が、第2のストレーナ及び第2のポート油路の合計の容積よりも小さくてもよい。
【0013】
変速機が、駆動力源としてのエンジンに対して車両の前後方向の後方側に配置される場合、所定方向の一方側が、前後方向の前方側であってもよい。
【0014】
変速機が、駆動力源としてのエンジンに対して車両の車幅方向に配置される場合、所定方向の一方側が、車幅方向のエンジン側であってもよい。
【0015】
切替弁が、制御装置により制御される制御弁であり、車両の所定方向の傾きに関連する所定の状態量に基づいて切替弁を制御する制御装置を備えてもよい。
【0016】
制御装置は、オイル吸入装置が所定方向の一方側に傾く場合、第1のポート油路とオイルポンプとを連通させ、第2のポート油路とオイルポンプとを遮断させてもよい。
【0017】
制御装置は、オイル吸入装置が所定方向の他方側に傾く場合、第1のポート油路とオイルポンプとを遮断させ、第2のポート油路とオイルポンプとを連通させてもよい。
【0018】
制御装置は、オイル吸入装置が傾いていない場合、第1のポート油路及び第2のポート油路をともにオイルポンプに連通させてもよい。
【0019】
制御装置は、オイルポンプの非駆動時には、第1のポート油路及び第2のポート油路をともに遮断させてもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両に搭載され、駆動力源から出力される駆動力を変速して伝達する変速機であって、作動油を吸入して吐出するオイルポンプと、第1の吸入口及び第1の送出口を有する第1のストレーナと、第2の吸入口及び第2の送出口を有する第2のストレーナと、第1のストレーナを介して吸入される作動油をオイルポンプに導く第1のポート油路と、第2のストレーナを介して吸入される作動油をオイルポンプに導く第2のポート油路と、第1のポート油路及び第2のポート油路とオイルポンプとの連通及び遮断を切り替える
切替弁と、を備え、第1のストレーナが第2のストレーナよりも所定方向
の一方側にずらされて配置され、第1の
吸入口が第1の
送出口よりも所定方向
の他方側にずらされて配置され、第2の送出口が第2の吸入口よりも所定方向
の一方側にずらされて配置され、第1の吸入口が第2の吸入口よりも
低い位置にある、変速機が提供される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、作動油の吸入口からの空気の吸込みをさらに抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<オイル吸入装置の構成例>
図1を参照して、本実施形態にかかるオイル吸入装置1の構成例について説明する。
図1は、本実施形態にかかるオイル吸入装置1の構成例を示す模式図である。
図1において、オイル吸入装置1は、例えば、車両に搭載された自動変速機に適用され得るものであり、オイルポンプ10と、吸入ポート45と、第1のオイルストレーナ20と、第2のオイルストレーナ30と、第1のポート油路41と、第2のポート油路43と、切替弁50とを備える。
【0025】
本実施形態にかかるオイル吸入装置1は、例えば、車両に搭載されたエンジンに対して、車両の前後方向の後方側に連設された変速機に適用された装置である。図示の左側が車体の前方側であり、図示の右側が車体の後方側である。車両の前後方向の前方側にエンジンが配置され、当該エンジンの後方側に変速機が配置された場合、エンジンの重量又は車両の加速時及び減速時の挙動などによって、車体が後方側に傾く機会が多いとも言える。
【0026】
かかるオイル吸入装置1において、第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30は、図示しないオイルパン内に貯留された作動油8に、少なくとも一部が浸漬される。オイルパンは、図示しない自動変速機のハウジングの底部にボルト等により取り付けられたオイルパンであってもよい。オイルポンプ10は、例えば、車両のエンジンの駆動力、あるいは、駆動輪の回転力を利用して駆動され、第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30のうちの少なくとも一方を介して作動油を吸入し、吐出する。あるいは、オイルポンプ10は、モータにより駆動される電動ポンプであってもよい。
【0027】
第1のオイルストレーナ20は、例えば、厚さ(高さ)が小さい中空の容器とすることができる。第1のオイルストレーナ20の平面形状は、矩形、楕円形、又は円形等、特に限定されず、オイルパンの形状に応じて適宜選択されてもよい。第1のオイルストレーナ20は、内部を上下に区画するように配設された図示しないフィルタを有する。フィルタは、例えば、メッシュや不織布等により形成され、オイルパン内の作動油に混入した異物を捕集する。第1のオイルストレーナ20は、底部に設けられた第1の吸入口21を有する。第1の吸入口21の大きさ及び形状は、オイルパン内での第1の吸入口21の位置や、車両ごとの油面Oの片寄り方等に応じて、適宜の大きさ及び形状に設定されてよい。第1の吸入口21の平面形状は、例えば、円形、楕円形、又は矩形等、適宜選択され得る。
【0028】
第1のオイルストレーナ20は、上面に設けられた第1の送出口23を有する。第1の送出口23は、第1のオイルストレーナ20の上面から突出する筒状に形成され、第1のポート油路41に接続される。第1のポート油路41は、切替弁50に接続されている。第1の送出口23は、筒状でなくてもよく、上面に形成された開口であってもよい。
【0029】
第2のオイルストレーナ30は、第1のオイルストレーナ20と同様、厚さ(高さ)が小さい中空の容器とすることができる。第2のオイルストレーナ30の外形は、第1のオイルストレーナ20と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2のオイルストレーナ30も、内部を上下に区画するように配設された図示しないフィルタを有する。第2のオイルストレーナ30は、底部に設けられた第2の吸入口31を有する。第2の吸入口31の大きさ及び形状は、オイルパン内での第2の吸入口31の位置や、車両ごとの油面Oの片寄り方等に応じて、適宜の大きさ及び形状に設定される。第2の吸入口31の平面形状は、例えば、真円形、楕円形、矩形、角丸矩形又はその他異形であってもよい。
【0030】
第2のオイルストレーナ30は、上面に設けられた第2の送出口33を有する。第2の送出口33は、第2のオイルストレーナ30の上面から突出する筒状に形成され、第2のポート油路43に接続される。第2のポート油路43は、切替弁50に接続されている。第2の送出口33は、筒状でなくてもよく、上面に形成された開口であってもよい。なお、第2のオイルストレーナ30は、第1のオイルストレーナ20と同一のものであってもよく、あるいは、異なるものであってもよい。本実施形態にかかるオイル吸入装置1では、第1のオイルストレーナ20と第2のオイルストレーナ30とは同一のものが用いられている。
【0031】
かかる構成を有するオイル吸入装置1では、オイルポンプ10が作動することにより、オイルパン内に貯留された作動油が、第1のオイルストレーナ20の第1の吸入口21及び第2のオイルストレーナ30の第2の吸入口31の少なくとも一方から吸入される。吸入された作動油は、フィルタで濾過されて金属粉や塵等の異物が除去された後、第1の送出口23あるいは第2の送出口33を経てオイルポンプ10に至り、変速機内の各部に供給される。例えば、作動油は、変速機内のクラッチやトルクコンバータの作動油圧として供給され得る。また、変速機がCVT(Continuously Variable Transmission)を備える場合、作動油は、CVTのバリエータの作動油圧として供給され得る。
【0032】
ここで、第1のオイルストレーナ20は、第2のオイルストレーナ30よりも、車体前方側に配置されている。また、第1のオイルストレーナ20において、第1の吸入口21は、第1の送出口23よりも車体後方側に設けられている。また、第2のオイルストレーナ30において、第2の送出口33は、第2の吸入口31よりも車体前方側に設けられている。「車体前方側に配置される」、あるいは、「車体後方側に配置される」とは、必ずしも車両の前後方向に沿う直線上に配置されることのみを意味するものではなく、互いの配置が車幅方向にずらされつつ、前後方向にずらされている場合も含む。
【0033】
また、第1のオイルストレーナ20は、第2のオイルストレーナ30よりも低い位置に配置されている。したがって、同じ構成の第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30が用いられるオイル吸入装置1では、第1の吸入口21が、第2の吸入口31よりも低い位置に配置される。
【0034】
また、第1のオイルストレーナ20及び第1のポート油路41(以下「第1の吸入経路」ともいう。)の合計の容積V1は、第2のオイルストレーナ30及び第2のポート油路43(以下「第2の吸入経路」ともいう。)の合計の容積V2よりも小さくされている。本実施形態にかかるオイル吸入装置1では、第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30として同じストレーナが用いられており、第1のポート油路41の長さが第2のポート油路43の長さより短いことによって、第1の吸入経路の容積V1が第2の吸入経路の容積V2よりも小さくされている。
【0035】
切替弁50は、第1のポート油路41及び第2のポート油路43と、吸入ポート45との連通及び遮断を切り替える。切替弁50は、制御装置100により駆動される。制御装置100は、車両に備えられた加速度センサ101のセンサ信号、及び、エンジンの運転状態の情報を取得可能になっている。エンジンの運転状態の情報は、例えば、エンジンの制御装置を介して取得することができる。また、制御装置100は、加速度センサ101のセンサ信号を直接取得する以外に、他の制御装置を介して加速度センサ101により検出される情報を取得してもよい。
【0036】
加速度センサ101のセンサ信号は、車体の傾きを検出するために用いられる。本実施形態にかかるオイル吸入装置1においては、特に車体の前後方向への傾きを検出するために加速度センサ101のセンサ信号が用いられる。例えば、車両が急加速している場合、又は、車両が登り坂を走行している場合には、加速度センサ101によって、車体の後方側への傾きが検出される。また、車両が急減速している場合、又は、車両が下り坂を走行している場合には、加速度センサ101によって、車体の前方側への傾きが検出される。ただし、車体の傾きを検出する方法は、加速度センサ101を用いる方法に限られない。制御装置100は、車体の前後方向の傾きに関連する適宜の状態量に基づいて、車体の傾きを検出することができる。
【0037】
制御装置100は、加速度センサ101のセンサ信号、及び、エンジンの運転状態の情報に基づいて、切替弁50を駆動させる。切替弁50は、第1のポート油路41及び第2のポート油路43と、吸入ポート45との連通状態を、第1の状態、第2の状態、第3の状態、及び、第4の状態のいずれかにする。第1の状態では、第1のポート油路41及び第2のポート油路43がともに吸入ポート45に連通する。第2の状態では、第1のポート油路41及び第2のポート油路43がともに吸入ポート45に対して遮断される。第3の状態では、第1のポート油路41と吸入ポート45とが連通する一方、第2のポート油路43が吸入ポート45に対して遮断される。第4の状態では、第1のポート油路41が吸入ポート45に対して遮断される一方、第2のポート油路43と吸入ポート45とが連通する。
【0038】
例えば、切替弁50は、非通電時において、第2の状態とされる切替弁であってもよい。つまり、エンジンの停止時においては、切替弁50が、油圧あるいは電気的な制御によることなく、機械的に第2の状態にされ、第1のポート油路41及び第2のポート油路43がともに吸入ポート45に対して遮断されてもよい。かかる切替弁50であれば、例えば、車両を使用しない状態において、第1のポート油路41及び第2のポート油路43がともに吸入ポート45に対して遮断されることになり、停車中において、作動油がオイルパンに落下しづらくなる。
【0039】
切替弁50は、例えば電磁スプール弁により構成され、電磁コイルへの通電量を制御することによってスプール(
図2のスプール51を参照)の位置が変化し、第1のポート油路41及び第2のポート油路43と、吸入ポート45との連通状態が切り替えられる。ただし、切替弁50の構成は、かかる例に限定されない。
【0040】
<オイル吸入装置の作用>
次に、
図2〜
図5を参照して、本実施形態にかかるオイル吸入装置の作用について説明する。
図2は、車両が平坦路を走行している場合のオイル吸入装置1の様子を示す。
図3は、オイルポンプ10の非駆動時のオイル吸入装置1の様子を示している。
図4、車体が後方側に傾いている場合のオイル吸入装置1の様子を示す。
図5は、車体が前方側に傾いている場合のオイル吸入装置1の様子を示す。
【0041】
図2に示すように、車両が平坦路を走行している場合、切替弁50は第1の状態に設定される。車両が走行中である場合には、オイルポンプ10が駆動され、変速機内へと作動油が供給される。車両が平坦路を走行している場合には、車体の傾きが比較的小さい状態となる。このため、第1のオイルストレーナ20の第1の吸入口21、及び、第2のオイルストレーナ30の第2の吸入口31が、ともに作動油の油面Oよりも下方に位置する。したがって、第1のポート油路41及び第2のポート油路43をともに吸入ポート45に連通させてオイルポンプ10を駆動させることにより、作動油が、第1の吸入口21及び第2の吸入口31から空気を吸い込むことなく吸入され、吐出される。
【0042】
図3に示すように、オイルポンプ10が駆動されていない場合、切替弁50は第2の状態に設定される。例えば、エンジンが停止し、駆動輪が停止している場合には、オイルポンプ10が駆動されず、変速機内への作動油の供給が停止される。オイルポンプ10による作動油の吸入が停止することから、第1のポート油路41及び第2のポート油路43と吸入ポート45とが遮断され、第1のポート油路41及び第2のポート油路43からオイルパン内への作動油の落下が抑制される。このとき、第1の吸入口21及び第2の吸入口31は、作動油の油面Oよりも下方に位置することから、第1の吸入経路及び第2の吸入経路内に空気が混入されにくくなっている。したがって、次にオイルポンプ10を駆動させるときに、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0043】
図4に示すように、車体が後方側に傾いている場合、切替弁50は第3の状態に設定される。車体が後方側に傾いている場合とは、例えば、車両が登り坂を走行している場合、又は、車両が急加速した場合等が挙げられる。この場合、第2のオイルストレーナ30はオイルパン内の作動油内へとさらに深く浸漬されるため、第2の吸入口31からの空気の吸入が確実に防止される。したがって、第2のポート油路43と吸入ポート45とが連通されて、第2の吸入口31を介して作動油が吸入される。なお、第2のオイルストレーナ30においても、第2の吸入口31が車体後方側に設けられていることから、第2の吸入口31が油面Oよりも上方に位置する可能性が極めて低くされている。
【0044】
一方、車体が後方側に傾いている場合、第1のオイルストレーナ20がオイルパン内の作動油の油面Oよりも上方に位置しやすくなる。したがって、第1の吸入口21が油面Oよりも上方に位置する可能性があることから、第1のポート油路41が吸入ポート45に対して遮断され、第1の吸入口21からの空気の吸入が防止される。また、第1のオイルストレーナ20において、第1の吸入口21が車体後方側に設けられていることから、第1のポート油路41及び第1のオイルストレーナ20内の作動油がオイルパン内に落下することが抑制されている。
【0045】
また、上述のとおり、第1の吸入経路の容積V1が第2の吸入経路の容積V2よりも小さくされている。したがって、仮に、第1の吸入口21が油面Oよりも上方に位置して、第1のポート油路41及び第1のオイルストレーナ20内の作動油がオイルパン内に落下した場合であっても、第1の吸入経路内に混入する空気の量が少なくなる。したがって、次に第1のポート油路41と吸入ポート45とを連通させて、作動油を吸入させたときに、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0046】
図5に示すように、車体が前方側に傾いている場合、切替弁50は第4の状態に設定される。車体が前方側に傾いている場合とは、例えば、車両が下り坂を走行している場合、又は、車両が急減速した場合等が挙げられる。この場合、第1のオイルストレーナ20はオイルパン内の作動油内へとさらに深く浸漬されるため、第1の吸入口21からの空気の吸入が確実に防止される。したがって、第1のポート油路41と吸入ポート45とが連通されて、第1の吸入口21を介して作動油が吸入される。
【0047】
一方、車体が前方側に傾いている場合、第1のオイルストレーナ20よりも高い位置に配置されている第2のオイルストレーナ30は、オイルパン内の作動油の油面Oよりも上方に位置しやすくなる。したがって、第2の吸入口31が油面Oよりも上方に位置する可能性が高いことから、第2のポート油路43が吸入ポート45に対して遮断され、第2の吸入口31からの空気の吸入が防止される。
【0048】
また、上述のとおり、第2のオイルストレーナ30において、第2の吸入口31が車体後方側に設けられ、第2の送出口33が車体前方側に設けられていることから、第2のオイルストレーナ30が油面Oよりも上方に位置する場合であっても、第2のオイルストレーナ30内及び第2のポート油路43内には作動油が保持される。したがって、第2の吸入経路内に混入する空気の量が少なくなり、次に第2のポート油路43と吸入ポート45とを連通させて、作動油を吸入させたときに、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0049】
<切替弁の制御方法>
以下、制御装置100による切替弁50の制御方法の一例について説明する。
図6は、制御装置100によって実行される切替弁50の制御方法のフローチャートを示す。かかるフローチャートは、車両のキースイッチがオンにされた後、常時実行され得る。
【0050】
まず、制御装置100は、ステップS10において、エンジンが停止しているか否かを判別する。つまり、制御装置100は、オイルポンプ10が非駆動状態であるか否かを判別する。例えば、制御装置100は、エンジンの制御装置を介してエンジンが停止しているか否かを判別してもよい。あるいは、制御装置100は、駆動輪の回転が停止しているか否かを判別してもよい。エンジンが停止している場合(S10:Yes)、制御装置100は、ステップS50に進み、切替弁50を第2の状態にする。本実施形態では、切替弁50を非通電状態にすることによって、切替弁50は第2の状態とされる。これにより、第1のポート油路41及び第2のポート油路43が吸入ポート45に対して遮断され、吸入ポート45内の作動油がオイルパン内に落下しづらくなる。したがって、次にオイルポンプ10が駆動されたときに、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0051】
一方、エンジンが運転中である場合(S10:No)、制御装置100は、ステップS20に進み、車体の傾きを検出する。本実施形態にかかるオイル吸入装置1では、制御装置100は、加速度センサ101のセンサ信号を読み込み、車両の前後方向の加速度の情報に基づいて車体の傾きを検出する。次いで、制御装置100は、ステップS30において、後方側への車体の傾きが大きいか否かを判別する。例えば、制御装置100は、後方側への車体の傾きが、あらかじめ設定された閾値以上であるか否かを判別してもよい。
【0052】
後方側への車体の傾きが大きい場合(S30:Yes)、制御装置100は、ステップS60において、切替弁50を第3の状態にする。これにより、第2のポート油路43と吸入ポート45とが連通する一方、第1のポート油路41が吸入ポート45に対して遮断される。したがって、オイルパン内の作動油の油面Oよりも上方に位置するおそれがある第1の吸入口21からの作動油の吸入が停止され、オイルパン内の作動油に確実に浸漬されている第2の吸入口31を介して作動油が吸入される。その結果、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0053】
一方、後方側への車体の傾きが小さい場合(S30:No)、制御装置100は、ステップS40に進み、前方側への車体の傾きが大きいか否かを判別する。例えば、制御装置100は、前方側への車体の傾きが、あらかじめ設定された閾値以上であるか否かを判別してもよい。前方側への車体の傾きが大きい場合(S40:Yes)、制御装置100は、ステップS70において、切替弁50を第4の状態にする。これにより、第1のポート油路41と吸入ポート45とが連通する一方、第2のポート油路43が吸入ポート45に対して遮断される。したがって、オイルパン内の作動油の油面Oよりも上方に位置するおそれがある第2の吸入口31からの作動油の吸入が停止され、オイルパン内の作動油に確実に浸漬されている第1の吸入口21を介して作動油が吸入される。その結果、空気の混入による異音や、油圧の低下が抑制される。
【0054】
一方、前方側への車体の傾きが小さい場合(S40:No)、つまり、車体が前後方向に大きく傾いていない場合には、制御装置100は、ステップS80において、切替弁50を第1の状態にする。これにより、第1のポート油路41及び第2のポート油路43がともに吸入ポート45に対して連通する。したがって、空気の混入のおそれが小さい状態において、第1の吸入口21及び第2の吸入口31を介して作動油が効率的に吸入される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態にかかるオイル吸入装置1は、車体の傾きが生じやすい車両の前後方向にずらされて配置された第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30を備える。また、第1のオイルストレーナ20が、第2のオイルストレーナ30よりも前方側にずらされて配置され、第1のオイルストレーナ20に設けられた第1の吸入口21が、第2のオイルストレーナ30に設けられた第2の吸入口31よりも低い位置に配置される。これにより、車両の急加速時など、車体が後方側に傾きやすい前提の下、車体の傾きによって上方に移動しやすい第1のオイルストレーナ20の第1の吸入口21が、油面Oの上方に位置しづらくされている。
【0056】
また、第1のオイルストレーナ20において、第1の吸入口21が第1の送出口23よりも後方側にずらされて配置されている。これにより、車体が後方側に傾いたときに、第1の吸入口21から空気が吸入されるおそれが低減される。また、第2のオイルストレーナ30において、第2の送出口33が第2の吸入口31よりも前方側にずらされて配置されている。これにより、車体が前方側に傾いたときに、第2のオイルストレーナ30内に保持される作動油によって第2のポート油路43への空気の進入が防止される。
【0057】
また、オイル吸入装置1では、第1のオイルストレーナ20及び第1のポート油路41の合計の容積V1が、第2のオイルストレーナ30及び第2のポート油路43の合計の容積V2よりも小さくされている。これにより、車体が後方側に傾いたときに、第1の吸入経路に空気が混入した場合であっても、当該空気の混入量が比較的少なくされる。
【0058】
以上のようにして、オイル吸入装置1では、作動油とともに空気が混入されることが抑制される。これにより、異音の発生、及び、油圧の低下が抑制される。また、空気の混入が抑制されることから、変速機内の作動油の充填量を減らすことができ、変速機の質量を低下させたり、撹拌抵抗を低下させたりできるため、燃費を向上させることができる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
例えば、上記実施形態では、車体が、前後方向の後方側へと傾きやすいことを前提として、車両の前方側を、本発明の所定方向の一方側として構成していたが、本発明はかかる例に限られない。例えば、車両の後方側を、本発明の所定方向の一方側として、オイル吸入装置が構成されてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、車体の前後方向への傾きを考慮して、作動油の吸入時に空気が混入しないようにされているが、本発明はかかる例に限られない。例えば、車体の左右方向への傾きを考慮して、オイル吸入装置が構成されてもよい。具体的に、エンジン及び変速機が、車幅方向に連設されて配置される場合においては、エンジンが配置されている側への車体の傾きが生じやすい。この場合には、第1のオイルストレーナ20が第2のオイルストレーナ30よりも車幅方向のエンジン側にずらされて配置される。また、第1のオイルストレーナ20における第1の吸入口21が第1の送出口23よりも車幅方向のエンジン側とは反対側にずらされて配置され、第2のオイルストレーナ30における第2の送出口33が第2の吸入口31よりも車幅方向のエンジン側にずらされて配置される。そして、第1の吸入口21が第2の吸入口31よりも低い位置に配置される。これにより、車体の車幅方向の傾きに対して、作動油とともに空気が混入されることを抑制することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、第1のポート油路41及び第2のポート油路43の長さを異ならせることによって、第1の吸入経路の容積V1が第2の吸入経路の容積V2よりも小さくされていたが、本発明はかかる例に限られない。例えば、第1のポート油路41及び第2のポート油路43の直径を異ならせることによって、第1の吸入経路の容積V1が第2の吸入経路の容積V2よりも小さくされてもよい。あるいは、第1のオイルストレーナ20及び第2のオイルストレーナ30の形状を異ならせることによって、第1の吸入経路の容積V1が第2の吸入経路の容積V2よりも小さくされてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、自動変速機用のオイル吸入装置の構成について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。上記オイル吸入装置の構成は、例えばエンジン用オイルパン等、前後左右の重力を受け得る部分や、傾き得る部分に用いられるオイルパンからオイルを吸入するためのオイル吸入装置全般について適用可能である。