(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
波線状パターンを有し且つ軸線方向に並んで配置される複数の波線状パターン体と、隣り合う前記波線状パターン体の間に配置され軸線周りに螺旋状に延びる複数のコイル状要素とを備え、隣り合う前記波線状パターン体が前記コイル状要素によって接続されている高柔軟性ステントであって、
軸線方向に対して垂直な径方向に視たときに、前記波線状パターン体の環方向は、前記径方向に対して傾斜しており、
前記波線状パターン体は、2つの脚部を頂部で連結した略V字形状の波形要素が環方向に複数接続されて、形成されており、
略V字形状の前記波形要素の前記頂部は、軸線方向において、前記2つの脚部における前記頂部とは反対側の端部同士の間に位置し、
前記コイル状要素は、一の前記波線状パターン体の前記頂部と、一の前記波線状パターン体と隣り合う他の前記波線状パターン体における前記2つの脚部のうちの一方の脚部における前記反対側の端部とを、接続しており、
前記波線状パターン体に対して軸線方向一方側に位置する一方の前記コイル状要素の巻き方向と、軸線方向他方側に位置する他方の前記コイル状要素の巻き方向とは、逆であることにより捻れ負荷に対するステント径方向の変形量を抑制した、
高柔軟性ステント。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明による高柔軟性ステントの第1実施形態を説明する。まず、
図1から
図6を参照して、本発明の第1実施形態による高柔軟性ステント11の全体構成を説明する。
図1は、無負荷状態の本発明の第1実施形態の高柔軟性ステントの斜視図である。
図2は、無負荷状態の本発明の第1実施形態の高柔軟性ステントを仮想的に平面に展開して示す展開図である。
図3は、
図2に示すステントの部分拡大図である。
図4は、
図3に示すステントの部分拡大図である。
図5は、
図4に示すステントの部分拡大図である。
図6は、
図5に示すステントの部分拡大図である。
【0024】
図1に示すように、ステント11は略円筒形状である。ステント11の周壁は、ワイヤ状の材料で囲まれた合同な形状を有する複数のクローズドセルが周方向に敷き詰められたメッシュパターンの構造を、有している。
図2では、ステント11の構造の理解を容易にするために、ステント11は平面に展開した状態で示されている。また、
図2では、メッシュパターンの周期性を示すために、仮想的に、実際の展開状態よりもメッシュパターンを繰り返した形で示している。本明細書において、ステント11の周壁とは、ステント11の略円筒構造の円筒の内部と外部とを隔てる部分を意味する。また、セルとは、開口又は隔室ともいい、ステント11のメッシュパターンを形成するワイヤ状の材料で囲まれた部分をいう。
【0025】
ステント11は、ステンレス鋼、又はタンタル、プラチナ、金、コバルト、チタン若しくはこれらの合金のような生体適合性を有する材料から形成されている。
【0026】
ステント11は、軸線方向(すなわち中心軸線方向)LDに並んで配置される複数の波線状パターン体としての環状体13と、軸線方向LDに隣り合う環状体13の間に配置されている複数のコイル状要素15と、を備える。
図3に示すように、環状体13は、二つの脚部17aを頂部17bで連結した略V字形状の波形要素17を周方向に複数接続して形成される波線状パターンを、有する。
【0027】
詳細には、頂部17bを軸線方向LDに同じ方向に向けた状態で、略V字形状の波形要素17は接続される。
図4及び
図5に示すように、
環方向に隣接する2つの脚部17aにおいては、頂部17bとは反対側の端部171c,172c同士は、連結され
ている。
【0028】
軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体13の環方向CDは、径方向RDに対して傾斜している。径方向RDに対して環状体13の環方向CDが傾斜する角度θ3は、例えば30度〜60度である。
【0029】
なお、径方向RDは、軸線方向LDに対して垂直な方向であり、そのため、無数に存在する。
図3、
図4、
図5等において「径方向RDに視たときに、」における径方向RDは、
図3、
図4、
図5等の紙面を貫く方向であり、一方、「径方向RDに対して・・・・傾斜する」における径方向RDは、
図3、
図4、
図5等の紙面に沿う方向である。
【0030】
本出願人は、本発明の基本的な内容について特許出願:特願2014−165104を行っている。特願2014−165104に記載されている内容は、本発明にも適宜に適用又は援用されることができる。
【0031】
各コイル状要素15の両端部は、それぞれ、隣り合う二つの環状体13の対向する側の頂部17bに接続されている。なお、隣り合う環状体13の対向する側の頂部17bの全ては、相互にコイル状要素15によって接続されている。ステント11は、いわゆるクローズドセル構造を有している。すなわち、隣り合う環状体13の一方において波線状パターンに沿って脚部17aによって互いに接続される三つの頂部17bのうちの波線状パターンに沿って隣りに位置する二つの頂部17bは、それぞれコイル状要素15によって、隣り合う環状体13の他方において波線状パターンに沿って脚部17aによって互いに接続される三つの頂部のうちの波線状パターンに沿って隣りに位置する二つの頂部に接続されて、セルを形成する。そして、各環状体13の波線状パターンの全ての頂部17bは、三つのセルに共有される。
【0032】
複数のコイル状要素15は、環状体13の環方向CDに沿って等間隔で配置されている。各コイル状要素15は、中心軸線周りに螺旋状に延びている。
図3に示すように、環状体13に対して軸線方向LDの一方側に位置する一方のコイル状要素15(15R)の巻き方向(右巻き)と、軸線方向LDの他方側に位置する他方のコイル状要素15(15L)の巻き方向(左巻き)とは、逆である。一方のコイル状要素15Rの長さは、他方のコイル状要素15Lの長さよりも短い。
【0033】
図6に示すように、波形要素17の頂部17bには、瘤状部19が形成されている。瘤状部19は、軸線方向LDに直線状に延びる延長部分19aと、その先端に形成された略半円形部分(先端部分)19bと、を含む。延長部分19aは、コイル状要素15の幅よりも大きい幅を有している。さらに、波形要素17の頂部17bには、内側周縁部から軸線方向LDに延びるスリット21が、形成されている。このため、二つの脚部17aは、軸線方向LDに概略平行に延びる直線部分を介して、延長部分19aにおけるスリット21が設けられていない領域、及び瘤状部19の略半円形部分19bに接続される。なお、先端部分19bは、略半円形の略半円形部分であることが好ましいが、略半円形でなくてもよい(不図示)。
【0034】
各コイル状要素15の両端部には、湾曲部15aが形成されている。各コイル状要素15の両端部は、それぞれ、湾曲部15aを介して、隣り合う二つの環状体13の対向する側の頂部17b(詳細にはその瘤状部19)に接続されている。
図6に示すように、コイル状要素15の両端部の湾曲部15aは、円弧形状を有している。コイル状要素15と環状体13の波線状パターンの頂部17bとの接続端におけるコイル状要素15の接線方向は、軸線方向LDに一致する。
【0035】
コイル状要素15の端部の幅方向中心と環状体13の頂部17bの頂点(幅方向中心)とは、ずれている(一致していない)。コイル状要素15の端部の幅方向の一方の端縁と環状体13の頂部17bの幅方向の端縁とは、一致している。
【0036】
ステント11は、以上のような構造を備えることにより、優れた形状追従性や縮径性を実現すると共に、金属疲労によるステントの破損を生じにくくしている。ステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bに設けられた瘤状部19は、金属疲労を軽減する効果を奏する。ステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bの内側周縁から延びるスリット21は、ステント11の縮径性を向上させる効果を奏する。
【0037】
従来のクローズドセル構造のステントは、構造上、柔軟性に欠けるので、屈曲血管において座屈を生じて血流の阻害を招く危険性があった。また、ステントが局所的に変形すると、その変形の影響がステントの径方向RDだけでなく、軸線方向LDにも伝播され、ステントは局所的に独立して変形できない。これに起因して、ステントは、動脈瘤のような複雑な血管構造に適合できずにステントの周壁と血管壁との間に隙間を生じてしまい、血管の拍動に伴う変形でステントが血管内腔で滑りやすくなって、留置後のステントの移動(マイグレーション)を生じる恐れもあった。
【0038】
これに対して、本実施形態のステント11は、展開(拡張)状態から縮径(クリンプ)状態に変形させるとき、環状体13の波線状パターンが折り畳まれるように圧縮した状態になると共に、コイル状要素15がコイルバネのように軸線方向LDに寝て軸線方向LDに引っ張られたような状態になる。ステント11の環状体13の波線状パターンの波形要素17の一つを取り出して考えると、波形要素17は、ステント11の縮径及び拡張の際に、ピンセットの開閉のように変形する。
【0039】
波形要素17の根本の谷側部分(頂部17bの内側周縁部)にスリット21が設けられていない場合、ステント11を縮径させるときに波形要素17を閉じるように変形させると、脚部17aの中央部は、樽状に外側に膨らんで変形しやすい。波形要素17がこのように樽状に膨らんで変形すると、ステント11を縮径する際に、環状体13において周方向に隣り合う波形要素17の脚部17aの樽状に膨らんだ部分同士は、接触する。
【0040】
この接触は、ステント11(特にその環状体13)が縮径することを妨げ、縮径率を低くする要因となる。これに対して、本実施形態のステント11では、環状体13の波形要素17の根本部分にスリット21が設けられている。そのため、ステント11を縮径する際に、ステント11は変形して、環状体13において周方向に隣り合う波形要素17の脚部17a同士は、接触しにくくなり、縮径率を高めることができる。
【0041】
ステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bにスリット21が設けられている場合に、頂部17bに設けられた瘤状部19の延長部分19aの長さがスリット21を越える長さを有するように構成することにより、負荷時にスリット21の周辺部においてマルテンサイト相へ相変態する体積比率が高まる。したがって、ステント11が頂部17bを有する波形要素17を備えるように構成されることにより、ステント11の直径の変化に対する拡張力の変化が緩やかで、異なる血管径でも拡張力の変化の少ないステント11を実現することができる。
【0042】
ステント11のコイル状要素15の両端部に設けられた湾曲部15aは、環状体13との接続部におけるコイル状要素15の変形を一層円滑にさせ、ステント11の縮径性を高める効果を奏する。
【0043】
ステント11を縮径させる際には、コイル状要素15が軸線方向LDに引き伸ばされるように変形する。そのため、ステント11の柔軟性を高めるためには、環状体13の頂部17bとコイル状要素15との接続部分が柔軟となる設計にする必要がある。ステント11では、コイル状要素15の両端部に円弧形状を有する湾曲部15aを設け、湾曲部15aを介して環状体13の頂部17bとコイル状要素15とを接続している。ステント11の縮径時に、湾曲部15aが曲げを受けて変形することにより、コイル状要素15の柔軟な変形を可能にし、縮径性を向上させている。
【0044】
また、コイル状要素15と環状体13の頂部17bとが接続する接続端における湾曲部15aの接線方向が軸線方向LDに一致する構成は、ステント11の縮径及び拡張に伴う変形を容易にすると共に、ステント11の直径の変化に対する拡張力の変化を緩やかにする効果を奏する。
【0045】
コイル状要素15は、コイルバネのように変形して、軸線方向LDに伸長することにより、ステント11の縮径に伴う径方向RDの変形を可能にしている。したがって、環状体13とコイル状要素15とが接続する接続端における湾曲部15aの接線方向を軸線方向LDに一致させることにより、コイル状要素15の軸線方向LDへの変形特性を効果的に発揮できるようになる。コイル状要素15が軸線方向LDに円滑に変形できるようになる結果、ステント11の縮径及び拡張が容易になる。また、コイル状要素15の軸線方向LDの自然な変形が促されることによって、予期しない変形抵抗が発生することを防ぐことができ、ステント11の直径の変化に対する拡張力の応答が緩やかになる効果を奏する。
【0046】
ステント11は、縮径された状態でカテーテル内に挿入され、プッシャーなどの押出機で押されてカテーテル内を移動し、病変部位に展開される。このとき、押出機により付与される軸線方向LDの力は、ステント11の環状体13及びコイル状要素15の間で相互作用を及ぼしながらステント11の全体に伝達されていく。
【0047】
上記のような構造のステント11は、例えば生体適合性材料を、特に好ましくは超弾性合金から形成されたチューブを、レーザ加工することにより作製される。超弾性合金チューブから作製する場合、コストを低減させるため、2〜3mm程度のチューブを、レーザ加工後、所望する径まで拡張させ、チューブに形状記憶処理を施すことにより、ステント11は作製されることが好ましい。しかしながら、ステント11の作製は、レーザ加工によるものに限定されるものではなく、例えば切削加工など他の方法によって作製することも可能である。
【0048】
次に、本発明の特徴部分について詳述する。
図4及び
図5に示すように、略V字形状の波形要素17の頂部17bは、軸線方向LDにおいて、2つの脚部17a(171,172)における頂部17bとは反対側の端部171c,172
c同士の間に位置する。
図4及び
図5には、これらの位置関係の理解の便宜上、一方の反対側の端部171c、頂部17b及び他方の反対側の端部172cそれぞれから径方向RDに平行な1点鎖線を引いている。
【0049】
略V字形状の波形要素17において、2つの脚部17aのうちの一方の脚部171は、その中間部171dが一方の脚部171における反対側の端部171cよりも、軸線方向LDの外側(
図4及び
図5では右側)まで突出するように湾曲している。つまり、軸線方向LDにおいて、中間部171d、反対側の端部171c、頂部17bの順で配列している。一方の脚部171の中間部171dが突出する方向は、カテーテルからのステントの押し出し方向であってもよく、あるいはカテーテルへの引き戻し方向(回収方向)であってもよいが、好ましくは押し出し方向である。
【0050】
略V字形状の波形要素17の頂部17bにおいて、2つの脚部17a(171,172)は、尖端を形成するように連結されている。他方の脚部172は、一方の脚部171に突き刺さるように連結されている。詳細には、他方の脚部172は、一方の脚部171に軸線方向LDに突き刺さるように連結されている。他方の脚部172は、その両端部近傍を除き、略直線状に延びている。
環状体13において、一方の脚部171と他方の脚部172とは交互に配列している。
【0051】
次に、「軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体13の環方向CDは径方向RDに対して傾斜している」構成による作用効果について説明する。まず、径方向RDに視たときに環状体13の環方向CDが径方向RDに沿っている(径方向RDに対して傾斜していない)構造のステントについて説明する。
【0052】
環状体13の環方向CDが径方向RDに対して傾斜していない構造のステントは、頭蓋内の屈曲の強い血管においては、ステントの断面の中心軸がズレやすい。
これに対し、本実施形態のステント11では、波線状パターンを有する環状体13が容易に周方向に変形できるので、ステント11は、径方向RDへの収縮や拡張に柔軟に対応することができる。また、隣り合う環状体13,13を接続するコイル状要素15は、中心軸線周りに螺旋状に延びており、コイルバネのように変形する。そのため、ステント11が屈曲された際に、屈曲部の外側でコイル状要素15が伸長すると共に、屈曲部の内側でコイル状要素15が収縮する。これにより、ステント11の全体として、軸線方向LDの柔軟な曲げ変形を可能にしている。
【0053】
さらに、ステント11に局所的に与えられた外力や変形は、波線状パターンの環状体13によって径方向RDに伝達されると共に、コイル状要素15によって周方向に伝達される。そのため、環状体13及びコイル状要素15は、各部位でほぼ独立して変形することが可能となる。これにより、ステント11は、脳動脈瘤のような特殊な血管の病変部位に適用された場合でも、病変部位の血管構造に適合して留置され得る。例えば、脳動脈瘤の部位にステント11を留置する場合、波線状パターンの環状体13を瘤のネック部分に配置する。これにより、環状体13が径方向RDに拡張して瘤の空間内にせり出し、この部位に安定してステント11を留めることができる。
【0054】
さらに、コイル状要素15は、瘤のネック部の周辺の血管壁に血管壁の形状に沿って接触し、アンカーのような役割を果たす。そのため、ステント11が移動するリスクも軽減される。さらに、ステント11は、クローズドセル構造を有しているので、屈曲部位に適用された場合でも、ステント11のストラットがフレア状に外側に突出して血管壁を損傷したり、ステント11のストラットが血流疎外を発生させるリスクを軽減させることができる。
【0055】
また、ステント11が左巻きに捻れを受けた場合、一方のコイル状要素15がバネの素線断面に対してその垂直方向に引っ張られるように、力が働く。そのため、素線は、その円周方向に巻き付くように変形し、径方向RDに縮径する挙動を示す。しかし、他方のコイル状要素15は、バネの素線断面に対してその垂直方向に圧縮されるように力が働く。そのため、その素線は、その円周方向に引き離されるような変形を起こし、結果的に径方向RDに外径が拡大する挙動を示す。その結果、各ユニットにおける一方のコイル状要素15,他方のコイル状要素15の変形が互いに相殺されるため、ステント11の全体におけるコイル状要素15の径方向RDの変形量は抑制される。
【0056】
一方、ステント11が右巻きに捻れを受けた場合、他方のコイル状要素15がバネの素線断面に対してその垂直方向に引っ張られるように、力が働く。そのため、素線は、その円周方向に巻き付くように変形し、径方向RDに縮径する挙動を示す。しかし、一方のコイル状要素15は、バネの素線断面に対してその垂直方向に圧縮されるように、力が働く。そのため、その素線は、その円周方向に引き離されるような変形を起こし、結果的に径方向RDに外径が拡大する挙動を示す。その結果、一方のコイル状要素15の変形と,他方のコイル状要素15の変形とが互いに相殺されるため、ステント11の全体におけるコイル状要素15の径方向RDの変形量が抑制される。
このように、互いに巻き方向が逆であるコイル状要素15R,15Lを導入することで、左右の捻り変形に対し、径方向RDへの変形量の差を軽減することができる。
【0057】
ステントの材料は、材料自体の剛性が高く且つ生体適合性が高い材料が好ましい。このような材料としては、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、アルミニウム、モリブデン、マンガン、タンタル、タングステン、ニオブ、マグネシウム及びカルシウム又はこれらを含む合金が挙げられる。また、このような材料としては、PE、PP等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリエーテル、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂材料を用いることもできる。さらに、このような材料としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリεカプロラクトン等の生分解性樹脂(生分解性ポリマー)を用いることもできる。
【0058】
ステントは、薬剤を含んでいてもよい。ここで、ステントが薬剤を含むとは、薬剤が溶出し得るように、ステントが薬剤を放出可能に担持していることをいう。薬剤は、限定されないが、例えば、生理活性物質を用いることができる。
【0059】
薬剤をステントに含ませるには、例えば、ステントの表面を薬剤で被覆すればよい。この際、ステントの表面を薬剤で直接被覆してもよいし、薬剤をポリマー中に含ませ、該ポリマーを用いてステントを被覆してもよい。また、ステントに薬剤を貯蔵するための溝や孔部などをリザーバーとして設け、その中に薬剤や、薬剤とポリマーとを混合したものを貯蔵してもよい。貯蔵するためのリザーバーは、例えば特表2009−524501号公報に記載されている。
【0060】
ステントの表面には、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon)層(DLC層)を被膜させることができる。DLC層は、フッ素を含むDLC層(F−DLC層)であってもよい。その場合、抗血栓性及び生体適合性に優れたステントとなる。
【0061】
次に、ステント11の使用方法を説明する。患者の血管内にカテーテルが挿入され、カテーテルを病変部位まで到達させる。次に、ステント11は、縮径(クリンプ)されてカテーテル内に配置される。ステント11は、環状体13の波線状パターン、環状体13の頂部17bに形成されたスリット21、コイル状要素15の湾曲部15a、接続端における湾曲部15aの接線方向が軸線方向LDに一致する構成の複合的及び相乗的効果により、縮径性が高められている。そのため、従来のステントと比較してより細いカテーテル内にステント11を挿入することを容易にし、より細い血管へのステント11の適用を可能にする。
【0062】
次に、プッシャーなどの押出機を用いてカテーテルの内腔に沿って縮径した状態のステントを押し、病変部位でカテーテルの先端からステント11を押し出して展開させる。ステント11は、複数の環状体13をコイル状要素15によって接続した構成、コイル状要素15の湾曲部15a、接続端における湾曲部15aの接線方向が軸線方向LDに一致する構成の複合的及び相乗的効果により、輸送時の柔軟性が高められている、そのため、ステント11は、カテーテルが蛇行した血管内に挿入されている場合でも、カテーテルに沿って柔軟に変形し、病変部位へステント11を輸送することが容易である。
【0063】
第1実施形態のステント11によれば、例えば以下の効果が奏される。
第1実施形態においては、環状体13は、2つの脚部17a(171,172)を頂部17bで連結した略V字形状の波形要素17が周方向に複数接続されて、形成されており、略V字形状の波形要素17の頂部17bは、軸線方向LDにおいて、2つの脚部17aにおける頂部17bとは反対側の端部171c,172c同士の間に位置する。
【0064】
そのため、第1実施形態のステント11によれば、略V字形状の波形要素17の頂部17bが、軸線方向LDにおいて、2つの脚部17aにおける頂部17bとは反対側の端部171c,172c同士の間に位置しない場合と比べて、
図7に示すように、軸線方向LDの柔軟な曲げ変形がしやすく、屈曲性を改善させることができる。
【0065】
また、第1実施形態のステント11においては、略V字形状の波形要素17において、2つの脚部17aのうちの一方の脚部171は、その中間部171dが一方の脚部171における反対側の端部171cよりも、軸線方向LDの外側まで突出するように湾曲している。そのため、一方の脚部171の中間部171dが湾曲していない場合と比べて、略V字形状の波形要素17についての径方向RDの幅(長さ)を短くすることができ、ステントの屈曲性を更に改善することができる。
【0066】
また、第1実施形態のステント11においては、略V字形状の波形要素17の頂部17bにおいて、他方の脚部172は、一方の脚部171に軸線方向LDに突き刺さるように連結されている。そのため、他方の脚部172が一方の脚部171に径方向RDに突き刺さるように連結されている場合と比べて、ステントをカテーテルに引き戻す(回収する)際の抵抗を小さくすることができる。
【0067】
本実施形態のステント11の周壁においては、周壁の仮想面積(メッシュパターンの開口部が無いと仮想した場合の面積)に対する、メッシュパターン(環状体13、コイル状要素15)の実存面積の比率(表面密度)の濃淡がはっきりと分かれている。詳細には、
図1に示すように、軸線方向LDにおいて、小さな開口部12aと、小さな開口部12aよりも例えば4倍以上の面積を有する大きな開口部12bとが、交互に配列している。そのため、ステントの屈曲性が高い。その一方で、表面密度の濃淡がはっきりしていると、不具合が生じる場合が有る。
【0068】
そこで、
図8に示すように、2つのステント11を周方向に半ピッチずらして2重に重ねるようにして、使用してもよい。この場合、表面密度の濃淡を均一に近くすることができ、表面密度の濃淡がはっきりしていることに起因する不具合を抑制することができると共に、高い屈曲性(柔軟性)を得ることができる。
【0069】
なお、重ねる数は、二重に限定されず、三重以上でもよい。ずらすピッチは、半ピッチ以外であってもよい。同じ形状のステントを重ねてもよい。また、異なる形状のステントを重ねてもよい。その場合、径方向RDに対する環状体13の環方向CDが互いに逆方向の2つのステントを重ねてもよい。
【0070】
二重に重ねたステントは、例えば、血管が二股(Y字)に分かれている箇所に適用されることができる。大径のステントの内側に小径のステントを配置しておく。大径のステントをY字の一方の血管に跨がるように配置する。大径のステントにおけるメッシュパターンの大きな開口部を介して、Y字の他方の血管に向けて小径のステントを押し出す。
なお、本実施形態のステントは、留置型及び回収型の両方のステントとして利用可能であるが、留置型として利用する方が好適である。
【0071】
ステント11は、環状体13の頂部17bに瘤状部19を設ける構成により、金属疲労の発生を抑制することができ、留置ミスによるステント11の縮径及び拡張の繰り返し、血流や血管壁の拍動によるステント11の繰り返し変形などによるステント11の破損を抑制することができる。
【0072】
加えて、ステント11は、環状体13の頂部17bにスリット21を設けることによりクリンプ時に変形部においてマルテンサイト相に相変態する領域を増加させる構成と、コイル状要素15の湾曲部15a、接続端における湾曲部15aの接線方向が軸線方向LDに一致する構成との複合的及び相乗的な効果により、柔軟性が向上すると共に、除荷過程においてステント11の直径の変化に対する拡張力の変化が緩やかになる。この結果、ステント11の形状追従性が向上されると共に、テーパー状の血管のように局所的に血管径が変化する部位においても、血管に過度な負荷を与えることなくステント11を留置することが可能となる。
【0073】
次に、本発明のステントの他の実施形態について説明する。他の実施形態について特に説明しない点については、第1実施形態についての説明が適宜援用される。他の実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
図9は、本発明の第2実施形態の高柔軟性ステントを仮想的に平面に展開して示す展開図(
図5対応図)である。
【0074】
図9に示すように、第2実施形態のステント11Aにおいては、略V字形状の波形要素17の頂部17bにおいて、2つの脚部17a(171,172)は、丸みを形成するように連結されている。また、他方の脚部172は、一方の脚部171に径方向RDに突き刺さるように連結されている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0075】
前述の実施形態においては、波線状パターン体13は環状体を形成している。一方、本発明においては、周方向に非連続であり且つ環状体を形成しない波線状パターン体13を採用できる。環状体を形成しない波線状パターン体13は、環状体を形成する波線状パターン体と比べて、波線状パターン体を構成するストラット(脚部17a)が1本又は複数本抜けた形状を有する。抜くストラットの本数は、ステント11の形状が実現可能な範囲において、適宜に1本又は複数本を設定できる。
【0076】
また、環方向CDに隣接するコイル状要素15を繋ぐように、環方向CDに延びる追加ストラットを設けることができる。なお、追加ストラットの形状、設けられる位置、個数などは特に制限されない。
【0077】
一方のコイル状要素15Rに着目した場合に、隣り合う一方のコイル状要素15Rを異形にすることができ、また、隣り合う他方のコイル状要素15Lを異形にすることができる。
【0078】
図10は、コイル状要素15の各種変形例を示す展開図である。
図10に示すように、コイル状要素15−1は、
図3に示すコイル状要素15と比べて屈曲の程度(曲率)が大きくなっている。コイル状要素15−2は、コイル状要素15−1と比べて更に屈曲の程度(曲率)が大きくなっている。コイル状要素15−3は、環方向CDと直交する方向にも突出する曲線状を、有している。コイル状要素15−4は、4個の変曲点を有する曲線状である。
なお、
図10においては、略V字形状の波形要素17の頂部17bは、軸線方向LDにおいて、2つの脚部17aにおける頂部17bとは反対側の端部同士の間に位置していない。
【0079】
図10に示すコイル状要素15の形状に関する各種変形例は、波形要素17の脚部17aの形状に関する変形に適宜に適用又は援用されることができる。
【0080】
図11は、コイル状要素15と環状体13の頂部17bとの接続部の形状の変形例を示す図(
図6対応図)である。
図11に示すように、コイル状要素15の端部の幅方向中心と環状体13の頂部17bの頂点(幅方向中心)とは、一致している。コイル状要素15の端部の幅方向の一方の端縁と環状体13の頂部17bの幅方向の端縁とは、ずれている(一致していない)。
【0081】
一部のコイル状要素15を、他のコイル状要素15及び環状体13(波形要素17)よりも細くすることができる。
図12は、一部のコイル状要素の太さを細くした第1−1変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図13は、一部のコイル状要素の太さを細くした第1−2変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図14は、一部のコイル状要素の太さを細くした第1−3変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図15は、一部のコイル状要素の太さを細くした第1−4変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
【0082】
図12に示すように、第1−1変形例は、
図2に示す例と比べて、全ての他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細いが、全ての一方(右巻き)のコイル状要素15(15R)及び環状体13が細くないように、構成されている。
図13に示すように、第1−2変形例は、
図12に示す第1−1変形例と比べて、軸線方向LD方向に1列おきに他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細いが、他のコイル状要素15及び環状体13が細くないように、構成されている。
【0083】
図14に示すように、第1−3変形例は、
図13に示す第1−2変形例と比べて、細いコイル状要素15Lの位置が軸線方向LDにずれて構成されている。
図15に示すように、第1−4変形例は、
図12に示す第1−1変形例と比べて、軸線方向LDの両端部に位置する他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)は細くなっておらず、その他の他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細く、構成されている。
【0084】
図12〜
図15に示す第1−1変形例〜第1−4変形例のように一部のコイル状要素15が細く構成されることにより、ステント11は、径方向RDの剛性を維持したまま、曲げ剛性を高くすることができる(曲げ柔軟性を高めることができる)。
なお、前述の第1−1変形例〜第1−4変形例では、他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)を細くした例について説明したが、これに制限されない。一方(右巻き)のコイル状要素15(15R)を細くすることもできる。この場合においても、他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)を細くした場合と同様の効果が得られる。
【0085】
図9に示す第2実施形態についても、
図12〜
図15に示す第1実施形態に係る第1−1変形例〜第1−4変形例と同様に、一部のコイル状要素15を、他のコイル状要素15及び環状体13(波形要素17)よりも細くすることができる。
図16は、
図9に示す第2実施形態に係る、一部のコイル状要素の太さを細くした第2−1変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図17は、
図9に示す第2実施形態に係る、一部のコイル状要素の太さを細くした第2−2変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図18は、
図9に示す第2実施形態に係る、一部のコイル状要素の太さを細くした第2−3変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
図19は、
図9に示す第2実施形態に係る、一部のコイル状要素の太さを細くした第2−4変形例を示す展開図(
図2対応図)である。
【0086】
図16に示すように、第2−1変形例は、
図9に示す例と比べて、全ての他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細いが、全ての一方(右巻き)のコイル状要素15(15R)及び環状体13が細くないように、構成されている。
図17に示すように、第2−2変形例は、
図16に示す第2−1変形例と比べて、軸線方向LD方向に1列おきに他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細いが、他のコイル状要素15及び環状体13が細くないように、構成されている。
【0087】
図18に示すように、第2−3変形例は、
図17に示す第2−2変形例と比べて、細いコイル状要素15Lの位置が軸線方向LDにずれて構成されている。
図19に示すように、第2−4変形例は、
図16に示す第2−1変形例と比べて、軸線方向LDの両端部に位置する他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)は細くなっておらず、その他の他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)が細く、構成されている。
【0088】
図16〜
図19に示す第2−1変形例〜第2−4変形例のように一部のコイル状要素15が細く構成されることにより、ステント11は、径方向RDの剛性を維持したまま、曲げ剛性を高くすることができる(曲げ柔軟性を高めることができる)。
なお、前述の第2−1変形例〜第2−4変形例では、他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)を細くした例について説明したが、これに制限されない。一方(右巻き)のコイル状要素15(15R)を細くすることもできる。この場合においても、他方(左巻き)のコイル状要素15(15L)を細くした場合と同様の効果が得られる。
【0089】
以上、図示されている実施形態を参照して、本発明によるステントを説明したが、本発明は、図示されている実施形態に限定されるものではない。例えば、コイル状要素15の螺旋方向は、左巻きでもよく、右巻きでもよい。
本発明のステントは、脳血管、下肢の血管、その他の血管に適用されることができる。