(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合において、所定の周波数帯域の範囲の前記第3ゲインの値のみを制限すること
を特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合において、周波数に応じて制限するゲインの値に重み付けを行うことにより、制限される前記第3ゲインの値を変化させること
を特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
前記第2フィルタ係数算出ステップにおいて、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合に、所定の周波数帯域の範囲の前記第3ゲインの値のみを制限すること
を特徴とする請求項4に記載の音響処理方法。
前記第2フィルタ係数算出ステップにおいて、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合に、周波数に応じて制限するゲインの値に重み付けを行うことにより、制限される前記第3ゲインの値を変化させること
を特徴とする請求項4に記載の音響処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的なグラフィックイコライザには、各帯域の設定ゲインを表示するための設定画面が設けられており、各帯域に設定されたゲインが棒グラフにより視認可能に表示される。ユーザは、設定画面の棒グラフ表示を参照しながら、各帯域のゲインを調整・変更することによって、低音や高音の周波数特性を変化させることが可能になっている。
【0009】
また、一般的なグラフィックイコライザには、ボリューム設定機能やその他の音響機能等が併設されている。このため、ユーザは、グラフィックイコライザにより任意の周波数帯域のゲインを調整・変更することができ、さらにボリュームレベルの調整・変更を行うことが可能になっている。一方で、グラフィックイコライザによって任意の帯域のゲインを増幅したまま、ボリュームレベルを最大値付近まで上昇させると、オーディオ信号がフルスケール値を超えてオーバーフローしてしまい、歪みやクリップが発生するおそれがある。
【0010】
ここでフルスケール値とは、音響処理装置において処理可能(表現可能)な信号レベルの範囲の上限を意味している。例えば、処理可能(表現可能)な振幅の範囲を、−2から+2までの範囲とすると、−2未満の振幅や+2より大きい振幅のオーディオ信号が、音響処理装置において処理される場合に、処理されるオーディオ信号の振幅がフルスケール値を超えることになる。このように振幅がフルスケール値を超える場合には、処理対象となるオーディオ信号の振幅の上限が+2、下限が−2に制限されることになり、この制限によって、歪みが発生するおそれが生じる。
【0011】
オーディオ信号の信号レベルがフルスケール値を超えないように、ボリュームレベル(音量)が高い値に設定された場合に、グラフィックイコライザの+側のゲインの効果を抑圧する方法が考えられる。しかしながら、近接する帯域間でゲインが増幅される場合には、近接するゲイン同士が互いに影響(干渉)を及ぼし合うため、各帯域において設定されたゲインの値を超えた高いゲインに、フィルタ係数全体としてのゲインが増大・増幅されてしまうおそれがある。このように近接された帯域間の影響によりゲインが増大される場合には、最終的なフィルタ特性のピーク値が一意に決まらないため、ゲインの制限(抑圧)量を適切に決定することが困難であるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、グラフィックイコライザにより設定された帯域毎のゲインが高い値に設定される場合であっても、また、ボリュームレベルが高いゲインに設定される場合であっても、音響処理装置において処理され得るオーディオ信号の信号レベル(振幅)を効果的に抑制することにより、オーディオ信号のクリップや歪みの発生を防止することが可能な音響処理装置および音響処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る音響処理装置は、オーディオ信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換させるフーリエ変換手段と、該フーリエ変換手段により周波数領域の信号に変換されたオーディオ信号に対して、第2フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行うフィルタ処理手段と、該フィルタ処理手段によりフィルタ処理が行われた前記オーディオ信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換させる逆フーリエ変換手段とを有する音響処理装置であって、前記オーディオ信号に対して前記フィルタ処理を行うための第1ゲインを、帯域毎に入力設定することが可能な帯域別ゲイン入力手段と、前記オーディオ信号の音量を増減させるための第2ゲインを設定することが可能な音量設定手段と、前記帯域別ゲイン入力手段により入力設定された帯域毎の前記第1ゲインに対応させて、各帯域のゲインの増減を行うことが可能な第1フィルタ係数を算出する第1フィルタ係数算出手段と、前記第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値と、前記音量設定手段により設定された前記第2ゲインの絶対値とを比較して、帯域毎の前記第3ゲインの値が前記第2ゲインの絶対値よりも大きい場合に、帯域毎の前記第3ゲインの値を前記第2ゲインの絶対値に制限することにより、前記第2フィルタ係数を算出する第2フィルタ係数算出手段とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る音響処理方法は、フーリエ変換手段が、オーディオ信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換させるフーリエ変換ステップと、周波数領域の信号に変換された前記オーディオ信号に対して、フィルタ処理手段が、第2フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行うフィルタ処理ステップと、前記フィルタ処理ステップにおいてフィルタ処理が行われた前記オーディオ信号を、逆フーリエ変換手段が、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換させる逆フーリエ変換ステップとを有する音響処理装置の音響処理方法において、ユーザによって帯域毎に入力設定された第1ゲインに対応させて、第1フィルタ係数算出手段が、各帯域のゲインの増減を行うことが可能な第1フィルタ係数を算出する第1フィルタ係数算出ステップと、前記第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値と、オーディオ信号の音量を増減させるためにユーザによって設定された第2ゲインの絶対値とを比較して、帯域毎の前記第3ゲインの値が前記第2ゲインの絶対値よりも大きい場合に、第2フィルタ係数算出手段が、帯域毎の前記第3ゲインの値を前記第2ゲインの絶対値に制限することにより、前記第2フィルタ係数を算出する第2フィルタ係数算出ステップとを有することを特徴とする。
【0015】
一般的な音響処理装置には、予め処理可能(表現可能)な信号レベル(振幅範囲)が決められている。音響処理装置で処理されるオーディオ信号の信号レベル(振幅)が、処理可能(表現可能)な信号レベルを超える場合には、強制的に信号レベル(振幅)が制限される。このような信号レベルの制限処理を行う機能は、多くの音響処理装置に対して一般的に備えられており、処理可能な範囲は有限なものとなっている。
【0016】
このため、一般的な音響処理装置において、音量設定(ボリューム設定)を比較的高い音量(ゲイン)に設定し、さらにイコライザ設定で特定帯域のゲインを高い値に設定した場合には、オーディオ信号の振幅が、許容され得る振幅範囲を超えてしまうおそれが大きい。このように、ユーザによる音量設定(ボリューム設定)およびイコライザ設定により、オーディオ信号の振幅が許容範囲を超えてしまうと、振幅が制限されてしまうため、信号波形が変形されてしまってクリップが発生し、音が歪んでしまう場合がある。
【0017】
しかしながら、本発明に係る音響処理装置および音響処理方法では、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対して、ユーザによって帯域毎に入力設定された第1ゲインに対応させた第2フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う。この処理を行う場合に、まず、帯域毎に入力設定された第1ゲインに対応させて、各帯域のゲインの増減を行うことが可能な第1フィルタ係数を算出する。次に、第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値と、オーディオ信号の音量(ボリューム)を増減させるためにユーザによって設定された第2ゲインの絶対値とを比較する。第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値が、第2ゲインの絶対値よりも大きい場合には、帯域毎の第3ゲインの値を第2ゲインの絶対値に制限することによって、第2フィルタ係数を算出する処理を行う。
【0018】
このように、音量設定(ボリューム設定)用の第2ゲインに応じて帯域毎の第3ゲインの値を抑制した第2フィルタ係数を用いて、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対してフィルタ処理を行う。この処理によって、フィルタ処理後に時間領域に変換されたオーディオ信号の信号レベル(振幅範囲)を、音響処理装置において処理可能(表現可能)な信号レベル(振幅範囲)に制限することが可能になる。このため、フィルタ処理されたオーディオ信号の信号波形が変形されてしまうことを防止することができ、クリップの発生を抑制して、音の歪みの発生を防ぐことが可能になる。
【0019】
また、第2ゲインの絶対値に制限される第1フィルタ係数の第3ゲインは、全ての帯域のゲインではなく、第2ゲインの絶対値よりも大きい値となる一部の帯域のゲインのみであるため、制限される第3ゲインの影響は限定的なものとなり、全体としてのオーディオ信号の音質を損なうものではない。
【0020】
さらに、ゲインが制限された第2フィルタ係数を用いるフィルタ処理は、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対して実行され、フィルタ処理されたオーディオ信号は、その後に時間領域に変換される。このため、時間領域に変換されたオーディオ信号は、音響処理装置において表現可能(処理可能)な信号レベル(振幅範囲)の範囲内に振幅が収まるだけでなく、変換後のオーディオ信号の波形を円滑な波形形状に維持することができ、波形が矩形的形状等に変形されるおそれもない。また、クリップの発生を抑制することにより音の歪みの発生を防ぐことができ、さらに音質の維持・向上およびフィルタ処理による音響処理効果をより効果的なものにすることが可能になる。
【0021】
また、上述した音響処理装置において、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合において、所定の周波数帯域の範囲の前記第3ゲインの値のみを制限するものであってもよい。
【0022】
さらに、上述した音響処理方法の前記第2フィルタ係数算出ステップにおいて、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合に、所定の周波数帯域の範囲の前記第3ゲインの値のみを制限するものであってもよい。
【0023】
本発明に係る音響処理装置および音響処理方法では、第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値を、第2ゲインの絶対値に制限する場合に、所定の周波数帯域の範囲の第3ゲインの値のみを制限することによって、第3ゲインの値が制限される帯域を狭めることができる。このため、第2フィルタ係数を算出する処理に伴う演算負荷等の軽減を図ることが可能になる。
【0024】
また、一般的な音楽(オーディオ信号)では、低音域に大きなエネルギーが含まれているため、低音域側のゲインの増幅(振幅の増大)によって、クリップが発生しやすい傾向がある。また、このクリップの発生によって可聴帯域に高調波が生じるため、聴感的に大きな影響を与えやすいという傾向がある。一方で、高音域側のゲインの増幅(振幅の増大)に対しては、聴感的に大きな影響を与えにくいため、比較的許容される傾向がある。
【0025】
このため、第3ゲインの値が制限される周波数帯域を低帯域とすることにより、聴感的な音質低減を抑制しつつ、クリップおよび音の歪みの発生を防ぐことが可能になる。
【0026】
また、上述した音響処理装置において、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合において、周波数に応じて制限するゲインの値に重み付けを行うことにより、制限される前記第3ゲインの値を変化させるものであってもよい。
【0027】
さらに、上述した音響処理方法の前記第2フィルタ係数算出ステップにおいて、前記第2フィルタ係数算出手段は、帯域毎の前記第3ゲインの値を、前記第2ゲインの絶対値に制限する場合に、周波数に応じて制限するゲインの値に重み付けを行うことにより、制限される前記第3ゲインの値を変化させるものであってもよい。
【0028】
本発明に係る音響処理装置および音響処理方法では、第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値を、第2ゲインの絶対値に制限する場合に、周波数に応じて制限するゲインの値に重み付けを行う。この重み付けにより、制限される第3ゲインの値を変化させることが可能となり、帯域に応じて制限される第3ゲインの値を少なくすることができる。このため、一律に一定のゲインが抑制される場合に比べて、第2フィルタ係数を算出する処理に伴う演算負荷等の軽減を図ることが可能になる。
【0029】
また、低音域側のゲインの増幅(振幅の増大)によって、クリップが発生しやすい傾向がある。このクリップの発生によって可聴帯域に高調波が生じるため、聴感的に大きな影響を与えやすいという傾向がある。一方で、高音域側のゲインの増幅(振幅の増大)に対しては、聴感的に大きな影響を与えにくいため、比較的許容される傾向がある。
【0030】
このため、周波数帯域が低域から高域へと移行するに従って、制限する第3ゲインの値が減少するように重み付けを行って、制限される第3ゲインの値を変化させることにより、低域のゲインを効果的に制限してクリップの発生を低減させると共に、音の歪みの発生を抑制することができる。さらに、高域側のゲインの制限を低域側に比べて減少させることによって、聴感的に大きな影響を与えにくい高域のゲインが抑制されることを抑えることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る音響処理装置および音響処理方法では、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対して、ユーザによって帯域毎に入力設定された第1ゲインに対応させた第2フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う。この処理を行う場合に、まず、帯域毎に入力設定された第1ゲインに対応させて、各帯域のゲインの増減を行うことが可能な第1フィルタ係数を算出する。次に、第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値と、オーディオ信号の音量(ボリューム)を増減させるためにユーザによって設定された第2ゲインの絶対値とを比較する。第1フィルタ係数における帯域毎の第3ゲインの値が、第2ゲインの絶対値よりも大きい場合には、帯域毎の第3ゲインの値を第2ゲインの絶対値に制限することによって、第2フィルタ係数を算出する処理を行う。
【0032】
このように、音量設定(ボリューム設定)用の第2ゲインに応じて帯域毎の第3ゲインの値を抑制した第2フィルタ係数を用いて、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対してフィルタ処理を行う。この処理によって、フィルタ処理後に時間領域に変換されたオーディオ信号の信号レベル(振幅範囲)を、音響処理装置において処理可能(表現可能)な信号レベル(振幅範囲)に制限することが可能になる。このため、フィルタ処理されたオーディオ信号の信号波形が変形されてしまうことを防止することができ、クリップの発生を抑制して、音の歪みの発生を防ぐことが可能になる。
【0033】
また、第2ゲインの絶対値に制限される第1フィルタ係数の第3ゲインは、全ての帯域のゲインではなく、第2ゲインの絶対値よりも大きい値となる一部の帯域のゲインのみであるため、制限される第3ゲインの影響は限定的なものとなり、全体としてのオーディオ信号の音質を損なうものではない。
【0034】
さらに、ゲインが制限された第2フィルタ係数を用いるフィルタ処理は、周波数領域に変換されたオーディオ信号に対して実行され、フィルタ処理されたオーディオ信号は、その後に時間領域に変換される。このため、時間領域に変換されたオーディオ信号は、音響処理装置において表現可能(処理可能)な信号レベル(振幅範囲)の範囲内に振幅が収まるだけでなく、変換後のオーディオ信号の波形を円滑な波形形状に維持することができ、波形が矩形的形状等に変形されるおそれもない。また、クリップの発生を抑制することにより音の歪みの発生を防ぐことができ、さらに音質の維持・向上およびフィルタ処理による音響処理効果をより効果的なものにすることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る音響処理装置に関して、
図1に示すような概略構成を備えた音響処理装置を一例として示して、詳細に説明を行う。音響処理装置1は、
図1に示すように、操作部10と、ボリューム処理部20と、イコライザ処理部30と、リミッタ部40とを有している。音響処理装置1に入力されたオーディオ信号は、ボリューム処理部20およびイコライザ処理部30を介して音響処理が行われた後に、リミッタ部40において、所定のゲイン(所定の振幅、フルスケール値)に信号レベルが制限される。リミッタ部40より出力されたオーディオ信号は、図示を省略したアンプ部を介して増幅された後に、図示を省略したスピーカより出力される。
【0037】
[操作部]
操作部10は、ボリューム調整(音量設定)を行うために、ユーザによって操作されるボリューム設定部(音量設定手段)11と、帯域毎のゲイン調整を行うために、ユーザによって操作されるイコライザ設定部(帯域別ゲイン入力手段)12とを有している。
【0038】
[ボリューム設定部]
ボリューム設定部11には、音響処理装置1の筐体等に設けられた回転可能な操作つまみ(回転操作部)11aと、この操作つまみ11aの回転量に基づいてゲイン(第2ゲイン)を決定するボリュームカーブ算出部11bとが設けられている。操作つまみ11aをユーザが回転させることによって、ボリューム設定部11において設定可能なボリュームステップを、例えば、0〜40までの41段階に変更・調整することが可能となっている。
【0039】
ボリュームカーブ算出部11bは、
図2に示したボリュームカーブ図に基づいて、操作つまみ11aの回転量(ボリュームステップ)に対応するゲイン[dBFS](第2ゲイン)を決定する。
図2に示すボリュームカーブ図に基づいて、ボリュームカーブ算出部11bは、ボリュームステップが0の場合に、ゲインを−100[dBFS]に決定し、ボリュームステップが40の場合に、ゲインを0[dBFS]に決定する。ボリュームカーブ算出部11bは、決定されたゲイン[dBFS](第2ゲイン)を、ボリューム設定情報として、ボリューム処理部20およびイコライザ処理部30へと出力する。
【0040】
[イコライザ設定部]
イコライザ設定部12は、
図3に示すようなイコライザ設定画面を有しており、例えば、タッチ操作等によって、イコライザ設定画面における周波数帯域およびゲインを変更・設定することが可能になっている。イコライザ設定画面には、帯域分割された複数(
図3においては、28個)の縦長矩形画像が左右に並べられており、各縦長矩形画像の下部分に、分割された帯域の中心周波数(
図3においては、31.5Hz〜16kHz)が表示されている。また、縦長矩形画像には、それぞれゲインを示す水平棒状の印(棒状印)が表示されており、この棒状印を上下に移動させることによりゲイン[dB](第1ゲイン)を設定・変更することが可能(
図3の場合には、−10dB〜+10dBで変更可能)になっている。各縦長矩形画像の上部分には、各帯域において設定されたゲイン[dB]が表示されている。
【0041】
ユーザは、いずれかの縦長矩形画像をタッチ選択することにより帯域を選択することができる。選択された帯域の棒状印を上下に動かすことによって、ゲイン(第1ゲイン)を変更することが可能になっている。また、縦長矩形画像の上下に表示される矢印をタッチすることによってもゲイン(第1ゲイン)を変更することができる。
【0042】
イコライザ設定部12は、ユーザによって設定された帯域情報とゲイン情報とを、イコライザ設定情報として、イコライザ処理部30へ出力する。
【0043】
[ボリューム処理部]
ボリューム処理部20は、ボリューム設定部11より受信したボリューム設定情報に基づいて、入力されたオーディオ信号の信号レベルの調整を行う役割を有している。具体的に、ボリューム処理部20は、
図4(a)に示すようにゲイン部21を有している。入力されたオーディオ信号は、ゲイン部21において、ボリューム設定情報に基づいて信号レベルの減衰処理が行われる。例えば、ボリューム設定情報が−6[dB]である場合には、信号レベルが約0.5倍(−6[dB]≒0.5倍)に調整される。ボリューム設定情報に基づいて、ボリューム処理部20で信号レベルの調整が行われたオーディオ信号は、イコライザ処理部30へ出力される。
【0044】
[リミッタ部]
リミッタ部40は、音響処理装置1において表現可能な信号レベルに、音響処理されたオーディオ信号の信号レベルを制限する役割を有している。一般的な音響処理装置には、予め表現可能な信号レベル(振幅範囲)、つまり、処理可能な信号レベル(振幅範囲)が決められている。音響処理装置で処理されるオーディオ信号の信号レベル(振幅)が、表現可能な信号レベルを超える場合には、強制的に信号レベル(振幅)が制限される。このような信号レベルの制限処理を行う機能は、多くの音響処理装置に対して一般的に備えられた機能であり、表現可能な範囲は有限なものとなっている。この機能を具体的に機能部として説明するために、本実施の形態に係る音響処理装置1では、この機能部をリミッタ部40として示している。従って、一般的な音響処理装置では、このリミッタ部40の機能に該当する信号レベルの制限機能が設けられ、この制限機能によって表現可能な範囲が有限なものに限定されることになる。
【0045】
なお、一般的な音響処理装置では、表現可能な信号レベルの範囲(振幅範囲)が有限なものに限定されるため、イコライザ処理部30やボリューム処理部20に該当する処理部によって、オーディオ信号の信号レベルが増大されてしまうと、リミッタ部の制限機能によって信号レベルが強制的に制限(抑圧)されてしまう。このような強制的な信号レベルの制限(抑圧)によって、オーディオ信号にクリップが発生し、音に歪みが発生する場合がある。
【0046】
本実施の形態に係る音響処理装置1では、一例として、振幅が−1〜+1の範囲を表現可能な信号レベルの範囲として設定する。従って、音響処理装置1において、−1〜+1の範囲を超えた振幅のオーディオ信号に対して音響処理を行う場合には、強制的に振幅の上限が+1に制限され、振幅の下限が−1に制限された(打ち切られた)オーディオ信号が、リミッタ部40より出力される。
【0047】
[イコライザ処理部]
イコライザ処理部30は、ボリューム処理部20で信号レベル(ゲイン)の変更・調整が行われたオーディオ信号に対して、イコライザ設定部12で設定された帯域に応じてゲインの変更・調整を行う役割を有している。
【0048】
イコライザ処理部30は、
図5に示すように、ゲイン係数生成部(第1フィルタ係数算出手段)31と、ゲイン係数抑圧部(第2フィルタ係数算出手段)32と、ゲイン係数格納部33と、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換、フーリエ変換手段)部34と、周波数フィルタ部(フィルタ処理手段)35と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆フーリエ変換手段)部36とを有している。
【0049】
また、ゲイン係数生成部31は、ボリューム設定部11よりボリューム設定情報を取得した場合、あるいはイコライザ設定部12よりイコライザ設定情報を取得した場合をトリガーとして、後述する制限(抑圧)前のフィルタ係数(第1フィルタ係数:帯域スペクトル毎のゲイン係数(第3ゲイン))を算出する処理を行う。また、ゲイン係数抑圧部32は、ボリューム設定部11よりボリューム設定情報を取得した場合をトリガーとして、後述する制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数:帯域スペクトル毎のゲイン係数)を算出する処理を行う。
図6は、ゲイン係数生成部31およびゲイン係数抑圧部32の処理内容を示したフローチャートである。
【0050】
FFT部34、周波数フィルタ部35およびIFFT部36は、常時(リアルタイムに)、入力されるオーディオ信号に対して短時間フーリエ変換処理(高速フーリエ変換処理)、FIRフィルタを用いたフィルタ処理、短時間逆フーリエ変換処理(高速逆フーリエ変換処理)を継続して実行する。
【0051】
[FFT部]
FFT部34は、イコライザ処理部30に入力されるオーディオ信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換する(フーリエ変換ステップ)。より詳細に説明すると、FFT部34は、入力されるオーディオ信号に対してオーバーラップ処理と窓関数による重み付けを行った後に、短時間フーリエ変換処理を行うことによって、時間領域から周波数領域に変換し、実数と虚数からなる周波数スペクトル信号を生成する。
【0052】
本実施の形態に係るFFT部34では、サンプリング周波数を96kHz、フーリエ変換長を16,384サンプル、オーバーラップ長を12,288サンプル、窓関数をハニング窓として、処理を行う。FFT部34において、4,096サンプルずつ時間シフトしながら、短時間フーリエ変換を行うことにより、16,384ポイントの周波数スペクトル信号を得ることが可能となる。本実施の形態に係るFFT部34では、16,384ポイントのうち、0Hzから48kHzまでのナイキスト周波数に該当する8,193ポイントの周波数スペクトル信号を生成する。生成された周波数スペクトル信号は、FFT部34から周波数フィルタ部35へ出力される。
【0053】
[ゲイン係数生成部]
ゲイン係数生成部31は、イコライザ設定部12からイコライザ設定情報を受信した場合に、または、ボリューム設定部11からボリューム設定情報を受信した場合に、FIRフィルタ用の制限(抑圧)前のフィルタ係数(第1フィルタ係数)を算出する。また、ゲイン係数生成部31は、内部メモリ31aを有している。
【0054】
ゲイン係数生成部31は、イコライザ設定部12からイコライザ設定情報を受信したか否か、あるいは、ボリューム設定部11からボリューム設定情報を受信したか否かを判断する(
図6におけるステップS1)。イコライザ設定情報も、ボリューム設定情報も受信しなかった場合(
図6のステップS1においてNoの場合)、ゲイン係数生成部31は、フィルタ係数を算出する処理を終了する。
【0055】
一方で、イコライザ設定情報またはボリューム設定情報を受信した場合(
図6のステップS1においてYes場合)、ゲイン係数生成部31は、内部メモリ31aから、全ての帯域における最新のゲイン(第1ゲイン)を読み出す処理を行う(
図6におけるステップS2)。
【0056】
内部メモリ31aは、イコライザ設定情報に基づいて求められる、ユーザにより設定・変更された帯域別のゲイン(第1ゲイン)を、全ての帯域毎に対応付けて記録することが可能となっている。イコライザ設定情報は、イコライザ設定部12によって、いずれかの帯域のゲインが変更・設定された場合に、イコライザ設定部12からゲイン係数生成部31へ出力される構成となっている。従って、ユーザによりいずれかの帯域のゲインも変更されなかった場合には、ゲイン係数生成部31に、新たなイコライザ設定情報が入力されることはない。
【0057】
ゲイン係数生成部31は、イコライザ設定情報を受信した場合、受信したイコライザ設定情報の帯域情報と、そのゲイン(第1ゲイン)とに基づいて、内部メモリ31aに記録される帯域別のゲインを変更(更新)する。この変更によって、内部メモリ31aに、全ての帯域の変更後のゲインが記録されることになる。
【0058】
このため、イコライザ設定情報またはボリューム設定情報を受信した場合(
図6のステップS1においてYes場合)、ゲイン係数生成部31は、内部メモリ31aから全ての帯域の最新のゲイン情報を読み出す処理を行うことによって、イコライザ設定部12の操作に伴って、ユーザにより変更された最新のゲイン情報を取得することが可能になる。
【0059】
また、ゲイン係数生成部31の内部メモリ31aには、各帯域の中心周波数が頂点となるピーキング(peaking)型の2次のIIRフィルタ(一般的にPEQ(パラメトリックイコライザ)として用いられる:ピーキングフィルタ)と同じ振幅特性を備えたゲイン係数が、帯域毎に個別に記録されている。
【0060】
ゲイン係数生成部31は、内部メモリ31aから全ての帯域における最新のゲインを読み出した場合(
図6におけるステップS2)に、読み出した帯域毎のゲインの情報と、ピーキング型の2次のIIRフィルタの振幅特性とに基づいて、FIRフィルタ用のフィルタ係数(第1フィルタ係数:このフィルタ係数における周波数スペクトル毎のゲイン係数(第3ゲイン)をCoef1とする)を算出する処理を行う(
図6におけるステップS3:第1フィルタ係数算出ステップ)。より具体的には、内部メモリ31aより読み出された各帯域のゲインに該当するピーキングフィルタを帯域毎に加算していくことによって、FIRフィルタ用のフィルタ係数(制限(抑圧)前のフィルタ係数:第1フィルタ係数)を算出する。
【0061】
例えば、
図3に示したイコライザ設定部12の設定画面のように、カットオフ周波数が800[Hz]、1000[Hz]、1250[Hz]の隣接する3つの帯域のピーキングフィルタに対して、+6[dB]のゲインを設定した場合を考える。ゲイン係数生成部31は、3つの帯域において、ゲインが+6となる3つのピーキングフィルタ(
図7の点線で示すフィルタ)のフィルタ係数(ゲイン係数)を適用することにより求められるフィルタの周波数特性(
図7において実線で示すような周波数特性(合算された全体のフィルタ係数))を算出する。なお、各帯域のピーキングフィルタにおけるQ値(Shape factor)は、各帯域共通で6とする。Q値は、帯域毎の中心周波数をfc[Hz]、帯域幅をBW[Hz]とした場合に、fc/BWによって計算される。
【0062】
図7に示したように、800[Hz]、1000[Hz]および1250[Hz]のそれぞれのピーキングフィルタのピークは+6[dB]となるが、800[Hz]、1000[Hz]および1250[Hz]は隣接しているため、それぞれのピーキングフィルタのフィルタ特性が影響してしまう。このため、全体としてのフィルタ特性は、それぞれの帯域のフィルタ特性(バンド特性)が合成された状態となる。
図7に示すように、フィルタ全体の周波数特性では、中央の1000[Hz]におけるゲイン(ピーク)の値が、約8.7[dB]になっている。
【0063】
ゲイン係数生成部31により算出された全帯域のフィルタ係数(第1フィルタ係数:
図7において実線で示されるフィルタ全体のフィルタ係数)は、ゲイン係数抑圧部32へ出力される。
【0064】
[ゲイン係数抑圧部]
ゲイン係数抑圧部32は、ボリューム設定情報として受信したゲイン(第2ゲイン)と、ゲイン係数生成部31より受信した全帯域のフィルタ係数(第1フィルタ係数:周波数スペクトル毎のゲイン係数(第3ゲイン)をCoef1とする制御(抑圧)前のフィルタ係数)とに基づいて、ゲイン係数生成部31より受信したフィルタ係数のそれぞれの周波数におけるゲイン係数Coef1の抑圧を行う(
図6におけるステップS4:第2フィルタ係数算出ステップ)。
【0065】
具体的には、ボリューム設定情報として受信したゲイン(第2ゲイン)をvol[dBFS]とし、抑圧されたゲイン係数をCoef2[dB]とすると、ゲイン係数抑圧部32は、ゲイン係数生成部31によって算出された周波数スペクトル毎のゲイン係数(第3ゲイン)Coef1[dB]を用いて、Coef2を、次の式1によって算出する。
【0066】
Coef2=min(Coef1,|vol|) ・・・式1
式1の処理は、各周波数に相当する8,193ポイントに対して適用される。
【0067】
式1に基づいて、ゲイン係数抑圧部32は、ゲイン係数生成部31により算出されたフィルタ係数Coef1[dB]の値(第3ゲイン)が、ボリューム設定情報として受信したゲインvol[dBFS]の絶対値(第2ゲインの絶対値)より大きい場合に、フィルタ係数Coef1の値をゲインvol[dBFS]の絶対値を上限として制限(飽和演算処理)する。この制限(抑圧)処理によって、ゲイン係数抑圧部32は、ゲイン係数の値が制限(抑圧)されたCoef2を生成する。
【0068】
つまり、イコライザ設定部12においてユーザにより設定された各周波数(対応するポイント数)のゲイン係数Coef1[dB]の値が、ボリューム設定部11においてユーザにより設定されたゲインvol[dBFS]の絶対値より大きい場合に、イコライザ設定部12において設定されたゲイン係数Coef1[dB]が制限されて、Coef2が算出される。
【0069】
例えば、ボリューム設定部11においてユーザにより設定されたゲインvol[dBFS]が−3[dBFS]であった場合、ゲイン係数抑圧部32は、イコライザ設定部12において設定された帯域のゲイン係数Coef1[dB]の値が+3[dB]を超えたときに、その値を+3[dB]に制限することによって、Coef2を算出する。
【0070】
図8に示すフィルタ係数(周波数特性)は、
図7に示したフィルタ係数を、+3[dB]で制限(抑圧)した場合を示している。
図8において、+3[dB]で制限(抑圧)する前のフィルタ係数の変化状態は、破線で示されており、制限(抑圧)した後のフィルタ係数の変化状態は、実線で示されている。実線部分のゲイン係数では、
図8に示すように+3dBが上限になっている。ゲイン係数抑圧部32は、式1に基づいて算出されたCoef2[dB]に基づいて、最終的に対数から線形の値に変換させた係数を求めて、求められた係数に基づくフィルタ係数(第2フィルタ係数)を、ゲイン係数格納部33へ出力する(
図6におけるステップS5)。例えば、ゲイン係数抑圧部32は、
図8の実線で示したゲイン係数の上限の値+3[dB]を、線形値に変換した約1.4125の値(振幅に該当。3[dB]≒1.4125)に変換させたフィルタ係数を求めて、ゲイン係数格納部33に出力する。
【0071】
また、別の例として、
図9に示すようなゲインにユーザがイコライザ設定画面を設定した場合の周波数特性を、
図10(a)(b)に示す。
図10(a)は、ボリューム設定部11においてユーザにより設定されたゲインvol[dBFS]が−4[dBFS]であった場合であって、ゲイン係数抑圧部32により、イコライザ設定部12において設定されたゲイン係数Coef1[dB]の値が+4[dB]に制限された場合(Coef2=+4[dB])を、一例として示している。
【0072】
また、
図10(b)は、ボリューム設定部11においてユーザにより設定されたゲインvol[dBFS]が−2[dBFS]であった場合であって、ゲイン係数抑圧部32により、イコライザ設定部12において設定されたゲイン係数Coef1[dB]の値が+2[dB]に制限された場合(Coef2=+2[dB])を、一例として示している。なお、
図10(a)(b)に示すように、マイナス側のゲイン係数(Coef2)の値は、ユーザにより設定されたゲインvol[dBFS]の影響を受けず、ゲイン係数の値が変化することはない。
【0073】
さらに、
図8および
図10では、フィルタ係数の値を、帯域に拘わらず(周波数の値に依存することなく)一様に同じ値で制限(抑圧)する場合を示した。しかしながら、
図11(a)(b)および
図12(a)(b)に示すように、ゲイン係数の上限の制限(抑圧)を、周波数に応じて変更したり、重み付けすることも可能である。
【0074】
図11(a)に示すフィルタ係数では、400[Hz]以下の周波数のみゲイン係数を制限(抑圧)し、400[Hz]より大きい周波数では、ゲイン係数の制限(抑圧)を行わない場合を示している。
【0075】
また、
図11(b),
図12(a)(b)に示すフィルタ係数では、低音域になるに従ってゲイン係数を制限(抑圧)し、高音域になるに従ってゲイン係数の増幅を許容する(制限(抑圧)を低減させる)ようにして、周波数に応じてゲイン係数の値に重み付けする場合を示している。なお、
図11(b),
図12(a)(b)に示すゲイン係数の制限(抑圧)に関して、ゲイン係数生成部31において算出されたフィルタ係数のゲイン係数をCoef1[dB]、ボリューム設定部11においてユーザにより設定されたゲインをvol[dBFS]とし、ゲイン係数が制限(抑圧)された値をCoef2[dB]とすると、周波数fにおけるCoef2[dB]のゲイン係数は、次の式2によって算出することができる。
【0076】
Coef2(f)=min(Coef1(f),|vol|+(log
10f)−2)
・・・式2
図11(b)は、式2においてゲインvolが0[dBFS]の場合を示し、
図12(a)は、式2においてゲインvolが−2[dBFS]の場合を示し、
図12(b)は、式2においてゲインvolが−4[dBFS]の場合を示している。
【0077】
一般的な音楽(オーディオ信号)では、低音域に大きなエネルギーが含まれているため、低音域側の増幅(振幅の増大)によって、クリップが発生しやすい傾向がある。また、このクリップの発生によって可聴帯域に高調波が生じるため、聴感的に大きな影響を与えやすいという傾向がある。一方で、高音域側の増幅(振幅の増大)に対しては、聴感的に大きな影響を与えにくいため、比較的許容される傾向がある。
【0078】
従って、
図11(a)(b)や
図12(a)(b)のように、周波数毎に重み付けをしてゲインの制限(抑圧)を行うことによって、本来の増幅の効果をできるだけ保ちながら、クリップの発生を防ぐことが可能となる。また、
図11(a)においては、制限(抑圧)されるゲインの帯域を狭めることができるので、制限(抑圧)処理に伴う演算負荷等の軽減を図ることが可能になる。
【0079】
[ゲイン係数格納部]
ゲイン係数格納部33は、ゲイン係数抑圧部32によって出力された、制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)を記録するメモリとして機能する。また、ゲイン係数格納部33は、ゲイン係数抑圧部32より新たなフィルタ係数(第2フィルタ係数)を取得した場合に、ゲイン係数格納部33に記録された古いフィルタ係数を新たなフィルタ係数に更新することにより、最新の制限(抑圧)後のフィルタ係数を記録する。さらに、ゲイン係数格納部33は、周波数フィルタ部35による読み取り処理により、記録される制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)を、いつでも周波数フィルタ部35へと出力することが可能になっている。
【0080】
既に説明したように、ユーザにより、ボリューム設定部11またはイコライザ設定部12においてゲインの変更が行われたことをトリガーとして、ゲイン係数生成部31およびゲイン係数抑圧部32において新たなフィルタ係数が算出される。このため、ユーザによるゲインの設定・変更がなければ、ゲイン係数格納部33に記録される制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)は更新されない。つまり、継続して更新されるとは限らない。
【0081】
一方で、次述する周波数フィルタ部35では、FFT部34によってフーリエ変換処理されたオーディオ信号がリアルタイムに入力されるため、継続的にフィルタ係数を用いてオーディオ変換処理(音響処理、フィルタ処理)を行う必要が生じる。このため、ゲイン係数生成部31およびゲイン係数抑圧部32によって、非継続的にしかフィルタ係数が更新されない場合であっても、常に最新の制限(抑圧)後のフィルタ係数を、ゲイン係数格納部33に常時読み出し可能に記録することによって、継続的に周波数フィルタ部35へ、制限(抑圧)後のフィルタ係数を提供することが可能になる。
【0082】
[周波数フィルタ部]
周波数フィルタ部35は、FFT部34によって周波数帯域の信号に変換されたオーディオ信号に対して、ゲイン係数格納部33に記録される制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)を用いてフィルタ処理を行う。具体的に、周波数フィルタ部35は、
図4(b)に示すように、乗算部35aを有している。入力された周波数領域のオーディオ信号は、乗算部35aにおいて、ゲイン係数格納部33より取得されたフィルタ係数(周波数スペクトル毎のゲイン係数)により乗算処理が行われる。この乗算処理によって、オーディオ信号は、周波数領域のフィルタ処理が行われることになる(フィルタ処理ステップ)。周波数フィルタ部35は、乗算部35aの乗算処理によって、周波数領域において重み付け処理が行われたオーディオ信号を、IFFT部36へ出力する。
【0083】
なお、周波数フィルタ部35におけるフィルタ処理(乗算部35aによる乗算処理)は、連続的に入力されるオーディオ信号に応じて継続的に処理が行われることになる。このため、周波数フィルタ部35は、常時、ゲイン係数格納部33より最新の制限(抑圧)後のフィルタ係数を取得して、最新のフィルタ係数を用いて乗算部35aで乗算処理を行う。
【0084】
[IFFT部]
IFFT部36は、周波数フィルタ部35においてフィルタ処理(重み付け処理,乗算処理)が行われたオーディオ信号を、周波数領域から時間領域へと変換する(逆フーリエ変換ステップ)。具体的に、IFFT部36は、オーディオ信号に対して、短時間逆フーリエ変換処理を行うことによって、周波数領域から時間領域へと変換を行う。さらに、IFFT部36では、窓関数による重み付けとオーバーラップ加算とを行う。これらの処理により、IFFT部36は、ユーザによりボリューム設定部11で設定されたボリュームのゲイン(第2ゲイン)、および、イコライザ設定部12で設定された帯域別のゲイン(第1ゲイン)に基づいて周波数特性の補正(フィルタ処理)が行われた時間領域のオーディオ信号を生成する。IFFT部36により生成されたオーディオ信号は、リミッタ部40へと出力される。
【0085】
[リミッタ部による振幅制限について]
本実施の形態に係るリミッタ部40は、既に説明したように、オーディオ信号の振幅が、−1〜+1の範囲に制限される。従って、IFFT部36からリミッタ部40へと出力されたオーディオ信号は、リミッタ部40において振幅が−1〜+1の範囲に制限された後に、アンプ部(図示省略)を介してスピーカ部(図示省略)より、ユーザに聴取可能な音として出力されることになる。
【0086】
ここで、リミッタ部40においてオーディオ信号の振幅が制限されると、信号の波形が矩形に変形されてしまうおそれがある。例えば、
図13(a)に示すように、振幅が−2〜+2の範囲の正弦波からなるオーディオ信号が、リミッタ部40に入力された場合、振幅が−1〜+1に制限されてしまうため、
図13(b)に示すように、波形が矩形的形状に変形されてしまう。このように、信号の波形が矩形的形状に変形されてしまうことによって、波形のピークの部分が切り取られた波形状となるため、音が歪んでしまうクリップが発生する。
【0087】
特に、一般的な音響処理装置において、ボリューム設定部で比較的高い音量にゲインを設定し、さらにイコライザ設定部で特定帯域のゲインを高い値に設定した場合には、リミッタ部に入力されるオーディオ信号の振幅が、リミッタ部において許容され得る振幅範囲を超えてしまうおそれが大きい。このように、ユーザによるボリューム設定およびイコライザ設定により、オーディオ信号の振幅がリミッタ部の許容範囲を超えてしまうと、
図13(b)に示すように、信号波形が変形されてしまい、クリップが発生し音が歪んでしまう。
【0088】
しかしながら、本実施の形態に係る音響処理装置1では、FFT部34により周波数領域に変換されたオーディオ信号に対して、イコライザ設定部12でユーザにより設定されたゲインを帯域毎に増減させるにあたり、ゲイン係数生成部31で生成されたフィルタ係数におけるゲイン係数Coef1[dB]の上限を、ボリューム設定部11でユーザにより設定・変更されたゲインvol[dBFS]の絶対値に応じて制限(抑圧)させる処理を行う。このように、帯域毎のゲイン係数Coef1[dB]の上限を、ボリューム設定部11の操作に伴うボリュームのゲインの絶対値で制限することによって、周波数フィルタ部35においてフィルタ処理され、さらに、IFFT部36で時間領域に変換されたオーディオ信号の振幅(信号レベル)が、リミッタ部40の振幅の許容範囲を超えて増大してしまうことを防止することができる。従って、周波数フィルタ部35においてフィルタ処理されたオーディオ信号の振幅は、リミッタ部40の振幅範囲内に収まることになり、クリップの発生を防止すると共に、音の歪みの発生を防ぐことが可能になる。
【0089】
さらに、ゲイン係数生成部31で生成されたフィルタ係数におけるゲイン係数Coef1[dB]の上限を、ボリューム設定部11の操作に伴うボリュームのゲインの絶対値で制限する処理は、周波数領域において行われる制限処理であって、さらに、ボリュームのゲインの絶対値を超える帯域のゲイン係数の値のみが制限される処理であるため、ボリュームのゲインの絶対値を超えていない帯域では、ゲイン係数の制限が行われない。このため、ゲインが制限(抑圧)されるオーディオ信号の帯域は、一部の帯域のみに限定されることになり、全体としてのオーディオ信号の音質を損なうものではない。
【0090】
また、一部の帯域のゲインのみが制限(抑圧)されるものであって、大部分の帯域のゲインは制限されない。このため、IFFT部36を介して時間領域に変換されたオーディオ信号の波形は、振幅がリミッタ部40の許容範囲に制限されつつも、波形そのものは円滑な波形状を維持し、矩形的形状になってしまうことはない。このように、波形が矩形的形状になるおそれがないため、信号波形の矩形化に伴うクリップの発生を防ぐことが可能となり、音質の維持・向上を図りつつ、音の歪み発生等を防止することが可能になる。
【0091】
特に、
図11(a)に示すように所定帯域以下のゲイン係数の値のみを制限(抑圧)する場合や、
図11(b),
図12(a)(b)に示すように、帯域が高くなるに従って制限されるゲイン係数の値を少なくする場合には、制限(抑圧)されるゲイン係数の周波数範囲が狭くなるので、IFFT部36を介して時間領域に変換されたオーディオ信号の波形が矩形的形状に変形されてしまう可能性が低くなり、音質の維持・向上を図ることが可能になる。
【0092】
[イコライザ処理部に関する別の実施例について]
上述した音響処理装置1のイコライザ処理部30では、
図5に示すように、ゲイン係数生成部31で制限(抑圧)前のフィルタ係数(周波数スペクトル毎のゲイン係数Coef1:第1フィルタ係数)を算出し、さらにゲイン係数抑圧部32において、制限(抑圧)後のフィルタ係数(周波数スペクトル毎のゲイン係数Coef2:第2フィルタ係数)を算出してから、ゲイン係数格納部33に記録させる構成について説明した。
【0093】
しかしながら、イコライザ処理部30におけるゲイン係数生成部31、ゲイン係数抑圧部32およびゲイン係数格納部33におけるデータの処理手順、あるいは構成そのものは、
図5に示したものには限定されない。
【0094】
図14は、
図5に示したイコライザ処理部30と異なる構成からなるイコライザ処理部30aを示したブロック図である。イコライザ処理部30aは、イコライザ処理部30と同様に、ゲイン係数生成部31と、ゲイン係数抑圧部32と、ゲイン係数格納部33と、FFT部34と、周波数フィルタ部35と、IFFT部36とを有しており、
図5において説明したイコライザ処理部30の各機能部と同様の機能を有している。このため、ここでのゲイン係数生成部31〜IFFT部36の詳細な説明は省略する。
【0095】
イコライザ処理部30aでは、イコライザ処理部30と異なり、ゲイン係数格納部33が、ゲイン係数生成部31とゲイン係数抑圧部32との間に設けられている。
【0096】
より詳細に説明すると、ゲイン係数生成部31は、イコライザ設定部12よりイコライザ設定情報を受信したことをトリガーとして、制限(抑圧)前のフィルタ係数(周波数スペクトル毎のゲイン係数Coef1:第1フィルタ係数)を算出し、算出された制限(抑圧)前のフィルタ係数をゲイン係数格納部33に出力して、ゲイン係数格納部33に記録させる。ゲイン係数生成部31は、イコライザ設定情報を受信した場合にのみ、フィルタ係数を算出するため、イコライザ設定情報を受信していない場合には、最後に算出された制限(抑圧)前のフィルタ係数(周波数スペクトル毎のゲイン係数Coef1:第1フィルタ係数)がゲイン係数格納部33に記録されることになる。
【0097】
一方で、
図14に示すゲイン係数抑圧部32は、常時、ボリューム設定部11よりボリューム設定情報を取得する。ゲイン係数抑圧部32は、ゲイン係数格納部33より最後に算出された(最新の)制限(抑圧)前のフィルタ係数(第1フィルタ係数)を継続的に取得し、制限(抑圧)前のフィルタ係数の各周波数のゲイン係数Coef1[dB]の値を、ボリューム設定部11より取得したボリューム設定情報のゲインvol[dBFS]の絶対値で制限することにより、式1または式2に基づいて、Coef2を継続的(リアルタイム)に算出する。従って、
図14に示すように、ゲイン係数Coef1に基づくフィルタ係数の最大値を、ボリューム設定情報に基づくボリューム設定部11の設定値に基づいて、リアルタイムに制限することによって、制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)を算出して、周波数フィルタ部35へ出力する。
【0098】
そして、周波数フィルタ部35では、常時最新の制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)をゲイン係数抑圧部32から取得して、周波数フィルタ部35へ入力される周波数領域のオーディオ信号に対して、フィルタ処理(乗算処理)を行う。
【0099】
一般的に、ユーザによって設定・変更が行われるイコライザ設定情報は、一度、ユーザの好みのゲインに設定されると、その後の変更の頻度が低くなる傾向がある。一方で、ユーザにより設定・変更が行われるボリューム設定情報は、イコライザ設定部12によるイコライザの操作に比べて、頻繁に変更される傾向がある。
【0100】
このため、
図14に示したイコライザ処理部30aでは、変更頻度の低いイコライザ設定情報に基づいて算出される制限(抑圧)前のフィルタ係数(第1フィルタ係数)を、イコライザ設定情報を受信したときだけ算出して、ゲイン係数格納部33に記録させておく。このように処理を行うことによって、ゲイン係数生成部31におけるフィルタ係数の算出処理回数を低減させることが可能となる。従って、イコライザ処理部30aにおける処理負荷を、
図5に示したイコライザ処理部30よりも低減させることが可能になる。
【0101】
一方で、比較的、更新頻度が高いボリュームに関するゲインの変更に関しては、ゲイン係数抑圧部32が継続的にボリューム設定情報を取得して、ゲイン係数Coef1に基づく制限(抑圧)前のフィルタ係数(第1フィルタ係数)の値を、リアルタイムに制限して制限(抑圧)後のフィルタ係数(第2フィルタ係数)を算出して、周波数フィルタ部35へ出力する。このように処理を行うことによって、操作つまみ11aの操作に追従させてリニアに、制限(抑圧)前のフィルタ係数の値を制限(抑制)することが可能になる。従って、ユーザによるボリューム操作に対する追従性を高めることが可能になり、ユーザによるボリューム操作に迅速に連動させて制限(抑圧)後のフィルタ係数を算出して、周波数フィルタ部35でフィルタ処理を行うことが可能になる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態に係る音響処理装置1では、ユーザによりイコライザ設定部12で帯域別のゲインの設定・変更が行われた場合に、ゲイン係数生成部31で算出されたフィルタ係数の帯域毎のゲイン係数Coef1[dB]を、ボリューム設定部11で設定されたゲイン[dBFS]の絶対値を基準として制限(抑制)する処理を行う。このため、周波数フィルタ部35においてイコライザ設定部12の設定に基づいてフィルタ処理されたオーディオ信号が、時間領域の信号に変換された場合であっても、時間領域のオーディオ信号の振幅がリミッタ部40において許容される振幅範囲を超えてしまうことを防止することができる。従って、リミッタ部40によりフィルタ処理されたオーディオ信号のピークの振幅が制限されることが無くなり、クリップによる音の歪みの発生を防止することが可能になる。
【0103】
特に、イコライザ設定部12において、隣接する帯域のゲインが設定・変更された場合には、隣接する帯域のピーキングフィルタが影響してしまい、全体としてのフィルタ係数のピーク(ゲイン)が、ユーザによってイコライザ設定部12で設定された各帯域のゲインよりも高い(大きな)値となってしまうおそれがある。このような場合であっても、本実施の形態に係る音響処理装置1は、帯域毎のゲイン係数Coef1[dB]を、ボリューム設定部11で設定されたゲイン[dBFS]の絶対値を超えないように飽和演算処理によって制限(抑制)するため、隣接する帯域のピーキングフィルタによるゲイン係数の増大状況に拘わらず(増大されたゲイン係数の値等に影響されることなく)、帯域スペクトル毎のゲイン係数を効果的に抑制することができる。
【0104】
さらに、実施の形態に係る音響処理装置1は、イコライザ設定部12においてユーザにより設定された帯域毎のゲイン係数に基づいて制限(抑圧)前のフィルタ係数を算出する。次に、音響処理装置1は、ボリューム設定部11で設定されたゲイン[dBFS]の絶対値に基づいて、制限(抑圧)前のフィルタ係数に対して飽和演算処理を行う。そして、音響処理装置1は、周波数領域におけるオーディオ信号に対して、飽和演算処理が行われたフィルタ係数(制限(抑圧)後のフィルタ係数)を乗算させることによって、周波数フィルタ部35でフィルタ処理を行う。このように、制限(抑圧)前のフィルタ係数の算出処理、および、ボリューム設定情報に基づくゲイン[dBFS]の制限(抑圧)処理を周波数領域で行った後に、周波数領域のオーディオ信号に対してフィルタ処理を行うことにより、IFFT部36で時間領域に変換された後のオーディオ信号の波形を滑らかな波状態に維持しつつ、リミッタ部40の振幅範囲に振幅が収まるように、オーディオ信号の音響処理を行うことができる。このため、リミッタ部40によりオーディオ信号の波形が矩形的形状に変形されてしまうことがなく、聴感的に違和感のない音の出力を実現することが可能になる。
【0105】
以上、本発明に係る音響処理装置および音響処理方法について、音響処理装置1を一例として示して詳細に説明したが、本発明に係る音響処理装置および音響処理方法は、実施の形態に示した例には限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても実施の形態に示した例と同様の効果を奏することが可能である。