特許第6688142号(P6688142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688142
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】充填材及び充填材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   E21D11/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-84342(P2016-84342)
(22)【出願日】2016年4月20日
(65)【公開番号】特開2017-193861(P2017-193861A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 高明
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−266342(JP,A)
【文献】 特開2006−265426(JP,A)
【文献】 特表2009−517251(JP,A)
【文献】 米国特許第05645375(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及びスラグの少なくともいずれか一方、並びに水が配合されたA液と、
水ガラス及び過炭酸ナトリウムが配合されたB液とが混合されてなり
前記過炭酸ナトリウムの配合量が0.5〜20kg/m3とされてゲルタイムが2分以下とされている、
ことを特徴とする充填材。
【請求項2】
前記A液に、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムの少なくともいずれか一方が配合されている、
請求項1に記載の充填材。
【請求項3】
前記A液に、カタラーゼが前記過炭酸ナトリウム100質量部に対して10〜800容量部配合されている、
請求項1又は請求項2に記載の充填材。
【請求項4】
前記A液に、酸化マンガンが前記過炭酸ナトリウム100質量部に対して10〜1000質量部配合されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項5】
セメント及びスラグの少なくともいずれか一方、並びに水を配合したA液と、
水ガラス及び過炭酸ナトリウムを配合したB液とを混合するにあたり
前記過炭酸ナトリウムの配合量を0.5〜20kg/m3としてゲルタイムを2分以下にする、
ことを特徴とする充填材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工体や擁壁、護岸等の背面空洞を充填するために使用することができる充填材及び充填材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル覆工体の背面空洞充填(裏込め)等に使用する充填材としては、モルタルを有効成分とするもの、発砲ウレタンを有効成分とするもの等がある。しかしながら、モルタルを有効成分とする充填材は、強度の点では優れるが、充填前の充填材が重くなる、容量が大きくなる等の欠点を有している。他方、発砲ウレタンを有効成分とする充填材は、重さや容量の点では優れるが、強度が不十分になる、高価になる等の欠点を有している。
【0003】
そこで、近年では、モルタルに発泡剤たるアルミニウム粉を混合してなる充填材が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。アルミニウム粉は、セメントと反応して発泡する性質を有する。したがって、アルミニウム粉を使用することで、充填する前の充填材を軽くすることができ、また、容量を小さくすることができる。
【0004】
しかしながら、アルミニウム粉は、危険物第2類に指定されている材料である。したがって、取扱いに危険が伴う。また、アルミニウム粉は、水に溶けない材料である。したがって、反応させるためには細かい粉体状にする必要がある。結果、空気中に舞い易くなり、取扱いが難しくなる。さらに、アルミニウム粉から発生するガスは、水素ガスである。したがって、燃焼の危険を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−051232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、十分な強度を有し、かつ取扱いが容易な発泡性を有する充填材及び充填材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の態様)
セメント及びスラグの少なくともいずれか一方、並びに水が配合されたA液と、
水ガラス及び過炭酸ナトリウムが配合されたB液とが混合されてなり
前記過炭酸ナトリウムの配合量が0.5〜20kg/m3とされてゲルタイムが2分以下とされている、
ことを特徴とする充填材。
【0008】
(請求項2に記載の態様)
前記A液に、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムの少なくともいずれか一方が配合されている、
請求項1に記載の充填材。
【0009】
(請求項3に記載の態様)
前記A液に、カタラーゼが前記過炭酸ナトリウム100質量部に対して10〜800容量部配合されている、
請求項1又は請求項2に記載の充填材。
【0010】
(請求項4に記載の態様)
前記A液に、酸化マンガンが前記過炭酸ナトリウム100質量部に対して10〜1000質量部配合されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の充填材。
【0011】
(請求項5に記載の態様)
セメント及びスラグの少なくともいずれか一方、並びに水を配合したA液と、
水ガラス及び過炭酸ナトリウムを配合したB液とを混合するにあたり
前記過炭酸ナトリウムの配合量を0.5〜20kg/m3としてゲルタイムを2分以下にする、
ことを特徴とする充填材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、十分な強度を有し、かつ取扱いが容易な発泡性を有する充填材及び充填材の製造方法になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、この実施形態は、本発明の一例であり、本発明はこの実施形態に限定されない。
【0014】
本形態の充填材は、セメント及びスラグの少なくともいずれか一方、並びに水が配合されたA液と、水ガラス及び過炭酸ナトリウムが配合されたB液と、を混合してなる。
【0015】
(セメント)
セメントは、水硬性を有する物質である。セメントは、通常、粉体である。
【0016】
セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等を混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、各種産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント(いわゆるエコセメント)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0017】
(スラグ)
スラグは、鉱石から金属を製錬する際に、当該金属から溶融によって分離した鉱物成分を含む物質等である。スラグは、自然界に存在するものであり、その化学組成は、普通ポルトランドセメントに類似する。スラグは、アルカリ刺激があると硬化する性質を有する。
【0018】
スラグとしては、鉄鋼スラグ、製鋼スラグ等を使用することができる。鉄鋼スラグは、酸化カルシウム(CaO,石灰)及びシリカ(SiO2)を主成分とする。特に高炉スラグは、アルミナ(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、硫黄(S)等も成分とする。高炉スラグの中でも、高炉水砕スラグは、アルカリ刺激により硬化する潜在水硬性を有し、土木用途で広く用いられているので、好適に使用することができる。一方、製鋼スラグは、酸化鉄(FeO)、酸化マグネシウム(MgO)等を成分とする。
【0019】
セメントとスラグ(合計量)の配合割合は、配合薬液1m3あたり、例えば50kg〜800kg、好ましくは100kg〜700kg、特に好ましくは200kg〜600kgである。
【0020】
(水ガラス)
水ガラスとしては、例えば、JIS1号珪酸ソーダ、JIS2号珪酸ソーダ、JIS3号珪酸ソーダ、特殊高モル比珪酸ソーダ等を使用することができる。ただし、好ましくは、モル比(SiO2/Na2O)が3以上、例えば、JIS3号珪酸ソーダ又は特殊高モル比珪酸ソーダである。水ガラスのモル比が2.0未満であると、ゲルタイムが長くなり、地下水で充填材が流されるおそれがある。
【0021】
水ガラスのSiO2濃度は、質量基準で、40%以下、好ましくは15〜30%である。水ガラスのSiO2濃度が前記範囲であると、流動性が確保され、作液時に計量、混合がしやすい。
【0022】
水ガラスの配合量は、配合薬液1m3あたり、含有シリカ量として10kg〜200kg、好ましくは15kg〜80kg、特に好ましくは20kg〜50kgである。
【0023】
(過炭酸ナトリウム)
過炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウム過酸化水素付加物、過炭酸ソーダ)は、炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)及び過酸化水素が2:3の割合で混合された化合物である。過炭酸ナトリウムの化学式は、2Na2CO33H22又はNa2CO31.5H22である。
【0024】
A液及びB液を混合すると、過炭酸ナトリウムが分解して過酸化水素が生成される。また、この過酸化水素が分解して酸素が生成される。したがって、過炭酸ナトリウムは、発泡剤として機能する。また、発泡剤として過炭酸ナトリウムを使用すると、発泡ガスとして酸素が生成されることになるため、安全性に優れる。さらに、過炭酸ナトリウムは水溶性であるため、反応させるためには細かい粉体状にする必要がない。したがって、取扱いが容易である。
【0025】
ただし、過炭酸ナトリウム中の炭酸ナトリウムは、セメントやスラグと反応し、炭酸カルシウムを生成する。したがって、過炭酸ナトリウムをA液に配合するとゲルタイムが長くなる。したがって、過炭酸ナトリウムは、B液に配合するのが好ましい。
【0026】
過炭酸ナトリウムの配合量は、配合薬液1m3あたり、好ましくは0.5〜20kg、より好ましくは0.8〜15kg、特に好ましくは1〜10kgである。
【0027】
(水酸化カルシウム・水酸化マグネシウム)
A液には、水酸化カルシウム(消石灰)及び水酸化マグネシウムの少なくともいずれか一方を配合するのが好ましい。水酸化カルシウムや、水酸化マグネシウム、あるいは両者の混合物であるドロマイトを配合すると、ゲル化が促進される。つまり、水酸化カルシウムや、水酸化マグネシウム、ドロマイトは、ゲルタイム調節剤として機能する。
【0028】
ただし、水酸化カルシウムよりも水酸化マグネシウムの方がゲル化促進性能が小さい。したがって、例えば、水酸化カルシウムを配合した場合とドロマイトを配合した場合とでは、同量であってもドロマイトを配合した場合の方がゲル化時間が長くなる。
【0029】
充填材のゲルタイムは、数秒〜1,2分に調節するのが好ましい。ゲルタイムが短すぎるとトンネル覆工体の背面空洞に充填材が行きわたらなくなる可能性がある。他方、ゲルタイムが長過ぎると、充填材が水で流されてしまう可能性がある。
【0030】
水酸化カルシウムの配合量は、配合薬液1m3あたり、好ましくは10〜200kg、より好ましくは20〜150kg、特に好ましくは30〜120kgである。
【0031】
(カタラーゼ)
A液には、カタラーゼを配合するのが好ましい。カタラーゼは、過炭酸ナトリウムを分解する酵素として機能する。したがって、カタラーゼを配合すると、発泡が促進される。この点、充填材がゲル化した後に発泡すると、固結部の縁切れにより硬化体の強度が低下する可能性がある。したがって、カタラーゼを配合することで、充填材がゲル化する前に一気に発泡させるのが好ましい。
【0032】
カタラーゼの配合量は、過炭酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは10〜800容量部、より好ましくは50〜500容量部、特に好ましく200〜400容量部である(カタラーゼ溶液酵素活性 50000u/g)。
【0033】
(酸化マンガン)
A液には、酸化マンガンを配合するのが好ましい。酸化マンガンは、過炭酸ナトリウムを分解する触媒として機能する。したがって、酸化マンガンを配合すると、発泡が促進される。発泡を促進すると好ましいとするのは、上記カタラーゼの場合と同様である。
【0034】
酸化マンガンの配合量は、過炭酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは100〜800質量部、特に好ましくは250〜500質量部である。
【0035】
(整泡剤)
B液には、整泡剤を配合するのが好ましい。整泡剤を配合することで、泡(酸素)が充填材内に留められ、また、細かくなる。
【0036】
整泡剤としては、例えば、界面活性剤等を使用することができる。
【0037】
界面活性剤としては、アルカリ性での界面活性効果、流出した場合の環境影響の点から、ツイーン20を使用するのが好ましい。
【0038】
整泡剤の配合量は、配合薬液1m3あたり、好ましくは0.01〜10L、より好ましくは0.1〜3L、特に好ましくは0.5〜3Lである。
【0039】
(混合方法)
A液及びB液は、トンネル覆工体の背面空洞等に充填する際に混合する。つまり、本形態の充填材は、2液混合型である。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例を説明し、本発明による効果を明らかにする。
(試験例1)
表1に示す配合のA液及びB液を混合して充填材を得た。得られた硬化体(充填材)の一軸圧縮強度及び体積膨張を調べた。結果は、表2に示した。
【0041】
なお、表中の「体積膨張」は、φ52塩ビ管(長さ1m)に薬液(充填材)を充填して、28日後にどの程度長さになったかを示すものである。例えば、1mの供試体が1.01mになった場合は、10mm/1m供試体ということになる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(試験例2)
表3に示す配合のA液及びB液を混合して充填材を得た。得られた硬化体(充填材)の発泡率、ゲルタイム、一軸圧縮強度、発泡経時変化を調べた。結果は、表4に示した。
【0045】
なお、表中の発泡率とは、φ52mm塩ビ管内に250mlの薬液(充填材)を充填し、薬液が充填された長さを、250ml体積が充填された場合の長さ(118mm)と比較したものである。例えば、長さが130mmであった場合は、「((130−118)÷118)×100=10%」となる。また、発泡経時変化の時間(分)は、A液及びB液を混合してからの時間である。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、トンネル覆工体や擁壁、護岸等の背面空洞を充填するために使用することができる充填材及び充填材の製造方法として利用することができる。