特許第6688183号(P6688183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688183
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】無電解めっき用前処理液
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   C23C18/18
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-140515(P2016-140515)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-9232(P2018-9232A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正浩
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−023323(JP,A)
【文献】 特開2016−051758(JP,A)
【文献】 特開2016−151056(JP,A)
【文献】 特開平10−140363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表のIB族またはVIIIB族の金属ナノ粒子、糖アルコールおよび水とからなる無電解めっき用前処理液において、当該前処理液は、pH=6.5〜8.0、ゼータ電位=−50〜−80mVであり、当該金属ナノ粒子は、平均粒径=10〜40ナノメートル、金属濃度(X)=50〜200mg/Lであり、かつ、当該糖アルコール濃度が0.05〜10g/Lであることを特徴とする無電解めっき用前処理液。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項3】
前記糖アルコールがトリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールからなる群のうちの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が白金(Pt)ナノ粒子であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトール、イノシトールまたはペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子がパラジウム(Pd)であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトールまたはマンニトールのうちの少なくとも1種以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子が金(Au)であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトール、マンニトールまたはペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項7】
前記pH=6.8〜7.7であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の無電解めっき用前処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解めっきを施すに際し、コロイド触媒を付与するための無電解めっき用前処理液、特にコロイド状の金属ナノ粒子を用いた無電解めっき用前処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無電解めっきは、基材の表面にニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)などの卑金属または卑金属合金、あるいは、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの貴金属または貴金属合金の被膜を直接形成する方法として工業的に広く用いられている。無電解めっきの基材には、金属、プラスチックス、セラミックス、有機化合物、セルロース、布地やこれらの複合体等など様々な組成物がある。
【0003】
これらの基材のうち絶縁性を示し、無電解めっき被膜の析出が困難な場合には、通常、絶縁性基材の表面に前もって触媒核を形成し、無電解めっきの金属を析出しやすくする、すなわち、無電解めっき処理を行う前に絶縁性基材を前処理液に浸漬し、基材の必要部分に無電解めっき用触媒を付着させるのが一般的である。
【0004】
この前処理液に使用される無電解めっき用触媒としては、特許4649666号公報(後述する特許文献1)に示されているような金(Au)粒子、特開平1−319683号公報(後述する特許文献2)に示されているような白金(Pt)粒子等の貴金属粒子が知られている。あるいは、特開昭61−019782号公報(後述する特許文献3)に示されているような銅金属粒子のコロイドを用いることが知られている。その他ニッケル(Ni)、錫(Sn)等の卑金属の化合物塩が前処理液中の金属イオンとして用いられることが多い。また、パラジウム(Pd)等の貴金属コロイドを用いる方法も知られている。
【0005】
しかしながら、従来の金属コロイド溶液は、酸やアルカリに影響されやすいものが多く、金属コロイド溶液中でのナノ粒子の凝集、あるいは無電解めっき中へ触媒核が離脱することにより、めっき被膜が異常析出するとともに、無電解めっき浴が1回で暴走して壊れてしまうという問題が指摘されていた。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決するため、あらゆるpH領域で貴金属コロイドが安定的に分散され、基材表面に均一に吸着させることができ、無電解めっきにより広い範囲に均一な膜厚のめっき皮膜を形成することができる前処理液を開発した(特開2016−023323号公報(後述する特許文献4))。
【0007】
特開2016−023323号公報(後述する特許文献4)には、「貴金属コロイドナノ粒子、糖アルコールおよび水とからなる無電解めっき用前処理液において、当該コロイドナノ粒子は、金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)のいずれかであり、当該コロイドナノ粒子の平均粒径が5〜80ナノメートルであり、当該コロイドナノ粒子は金属質量として前処理液中に0.01〜10g/L含有し、当該糖アルコールは、トリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールからなる群のうちの少なくとも1種以上を合計で前処理液中に0.01〜200g/L含有し、残部が水であることを特徴とする無電解めっき用前処理液」の発明が記載されている。
【0008】
そして、この発明の無電解めっき用前処理液は、糖アルコールが貴金属ナノ粒子を保護し、水中で均一に分散させることができ、また、ナノ粒子を取りまく所定の糖アルコールが安定しているので、長期間安定であり、無電解めっきが始まるまで貴金属ナノ粒子の形状を保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4649666号公報
【特許文献2】特開平1−319683号公報
【特許文献3】特開昭61−019782号公報
【特許文献4】特開2016−023323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2016−023323号公報(特許文献4)に記載された前処理液は、あらゆるpH領域の無電解めっき浴であっても基材上にしっかりと吸着し、安定な触媒核として作用することができる利点がある。前処理液中の貴金属ナノ粒子がコロイド状で安定しているのは、この貴金属ナノ粒子は微細なナノ微粒子が無数に凝集して球状の凝集体となっており、これが液中のファンデアワアールス力、金属ナノ粒子間の静電エネルギーや熱エネルギー(ブラウン揺動力)などで平衡状態を保っているからであると考えることができる。
【0011】
しかしながら、特開2016−023323号公報(特許文献4)に記載された前処理液では、触媒核の形成において不都合が生じることがある。たとえば、基材に触媒核が吸着したとき、この触媒核が液中の金属ナノ粒子を誘引し、触媒核が成長して粗大化することがある。
【0012】
この粗大化は基材の不特定箇所で発生するため、触媒核を付与したい面に均一に触媒核を形成し、触媒核の分布をコントロールすることができないという課題があった。このため無電解めっきの膜厚が厚い場合は問題とならないが、広い面を薄めっきする場合や微細なくし型回路をめっきする場合など、うまくめっきができないという問題が発生した。
【0013】
詳述すると次のようになる。金属ナノ粒子が基材に吸着すると、ナノ微粒子の凝集体が1個の触媒核となる。そして、その周囲の金属ナノ粒子が引き寄せられ、先の触媒核に新たな金属ナノ粒子が加わり、やがて触媒核が不規則に成長をする。つまり、基材上の成長しやすい箇所には増強触媒核が形成される。他方、成長しにくい箇所には貧弱触媒核が形成される。これらの増強触媒核と貧弱触媒核とが不規則に分布することにより、基材上にまだら模様を形成する。
【0014】
このため、導電性基材や非導電性基材に従来の触媒液で触媒付与した後、無電解めっきを施すと、貧弱触媒核によりめっき金属の析出が困難であったり、部分的に皮膜析出しないめっき欠けが発生したりすることから、めっき皮膜にムラが生じる。結果的に広い面に薄めっきをする場合や細いくし型回路にめっきをする場合、無電解めっき金属の膜厚の均一性が劣るという課題があった。
【0015】
本発明は、析出させる面の広さや析出回路の複雑さとは無関係に、均一でムラのない触媒核を形成することができる無電解めっき用前処理液を提供することを目的とする。本発明は、基材に触媒核を形成する工程において、基材を浸漬するとコロイド状金属ナノ粒子が基材に自発的に誘引されて、触媒核を形成することを利用するものである。また、本発明は、特開2016−023323号公報(特許文献4)に記載された前処理液と同様に、無電解めっき用前処理液を使用するまでの間は、液の経時安定性を維持することができる前処理液を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の無電解めっき用前処理液は、周期律表のIB族またはVIIIB族の金属ナノ粒子、糖アルコールおよび水とからなる無電解めっき用前処理液であって、当該前処理液が、pH=6.5〜8.0、ゼータ電位=−50〜−80mVであり、当該金属ナノ粒子が、平均粒径=10〜40ナノメートル、金属(X)濃度=50〜200mg/Lであり、かつ、当該糖アルコール濃度が0.05〜1.0g/Lであることを特徴とする。
【0017】
本発明の実施態様項は次のとおりである。
本発明の無電解めっき用前処理液における金属ナノ粒子は、金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)のいずれかであることが好ましい。また、糖アルコールは、トリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールからなる群のうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0018】
また、好ましい組み合わせは次のとおりである。コロイドナノ粒子が白金(Pt)ナノ粒子であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトール、イノシトールまたはペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。また、コロイドナノ粒子がパラジウム(Pd)であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトールまたはマンニトールのうちの少なくとも1種以上であるであることが好ましい。また、コロイドナノ粒子が金(Au)であり、かつ、前記糖アルコールがグリセリン、エリスリトール、キシリトール、マンニトールまたはペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0019】
(ゼータ電位)
本発明者は、前処理液のゼータ電位により液中の金属ナノ粒子が基材上の金属ナノ粒子に吸着する誘発反応を抑制できることを知見し、基材に吸着した直後に発生する触媒核の金属ナノ粒子による成長反応を、金属ナノ粒子の粒子径と濃度、および、前処理液中のゼータ電位を調整することにより抑制することに成功した。ゼータ電位は、例えばゼータ電位測定装置等の装置を用いて測定することができる。この装置を用いて金属ナノ粒子の電気泳動を行い、その移動速度からゼータ電位を求めることができる。
【0020】
本発明の前処理液中のゼータ電位をマイナスの高い値に保つと、金属ナノ粒子が基材の表面で自己配列し、金属ナノ粒子が薄く均一に基材に吸着する。そこで、前処理液中のゼータ電位の範囲を−50mV以下から−80mV以上とした。すなわち、前処理液のゼータ電位をマイナスの高い値に保った。
【0021】
ゼータ電位の範囲が下限値未満では上記の誘発反応を抑制することができにくいから、ゼータ電位の下限値を−80mVとした。また、ゼータ電位の範囲が上限値を超えると、前処理液の組成が大きく異なったものとなるから、ゼータ電位の上限値を−50mVとした。好ましくは、−60〜−70mVの範囲である。ゼータ電位が−50〜−80mVの範囲内であれば、触媒核を形成しない糖アルコールに囲まれた金属ナノ粒子が基材に付着したとしても、その後の水洗で簡単に洗い流すことができる。
【0022】
本発明の前処理液には自然分解してガスを発生する成分がないので、吸着した触媒核にガス成分が含まれることはない。また、金属ナノ粒子が吸着した後の使用済み廃液も安定している。なお、本発明の無電解めっき用前処理液を微調整するための伝導塩や界面活性剤を含めてもよい。たとえば、微量の界面活性剤はより小さな金属ナノ粒子の凝集体ボールを形成することができるからである。
【0023】
(pH)
ゼータ電位は、無電解めっき用前処理液の酸性やアルカリ性によって大きく変動する。また、溶液中の金属ナノ粒子や糖アルコールの濃度以外にも、伝導塩や界面活性剤の濃度などによっても影響する。そこで、ゼータ電位が比較的影響を受けにくい領域であるpH=6.5〜8.0の中性領域を選択した。好ましくは、pH=6.8〜7.7である。
【0024】
(金属ナノ粒子)
本発明の金属ナノ粒子は、周期律表のIB族またはVIIIB族の元素であり、具体的には、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru),ニッケル(Ni),コバルト(Co)および鉄(Fe)である。これらの金属は糖アルコールによって安定したコロイド状態で液中に分散することができる。金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)のいずれかであることが好ましい。これらは析出した触媒核が小さいので、大気中のガス成分による変質を避けることができる。
【0025】
本発明のコロイド状金属ナノ粒子は、次のようにして形成される。すなわち、金属塩が溶解した水溶液中で化学還元すると、金属ナノ粒子を構成する微細なナノ微粒子が液中に浮遊する。このナノ微粒子は凝集して球状の緻密な凝集体を形成する。そして、この凝集体の周りに糖アルコールが取り囲み、安定した立体構造をつくる。
【0026】
このような構造の金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子間に静電エネルギーが働き,溶液からはファンデアワアールス力を受け、また、単体粒子は熱エネルギー(ブラウン揺動力)をもつ。このようにして液中で平衡状態を保ち、コロイド状態で安定している。なお、糖アルコールが取り囲んだコロイド状金属ナノ粒子は、酸からアルカリまであらゆるpHで安定している。また、この触媒液は経時劣化もなく長期間の保存に耐える。
【0027】
本発明の金属ナノ粒子の平均粒径を10〜40ナノメートルとしたのは、前処理液中のゼータ電位とのバランスを保ち、安定したコロイド状態を維持しておくためである。液中の金属ナノ粒子には、上述したようにファンデアワアールス力、金属ナノ粒子間の静電エネルギーや熱エネルギー(ブラウン揺動力)など複雑な力が作用するので、金属ナノ粒子の平均粒径を上記の範囲とした。平均粒径が10ナノメートル未満では触媒核の均一な分布が困難である。また、40ナノメートルを超えると、基材への吸着力が弱くなりすぎるからである。15〜35ナノメートルが好ましい。より好ましくは20〜30ナノメートルである。
また、平均粒径±10ナノメートル以外の粒径をもつ微粒子の全金属中に占める割合が5質量%未満であることが好ましい。金属ナノ粒子の平均粒径範囲外の粒径をもつ微粒子の全金属中に占める割合が5質量%未満であることとしたのは、このような微粒子が5質量%以上になると、このような微粒子は熱エネルギー(ブラウン揺動力)によって液中を不規則に動き回り、触媒核の吸着・形成に悪影響をもたらし、ひいては無電解めっきまでも影響を及ぼすからである。
【0028】
本発明の金属ナノ粒子の金属(X)濃度を50〜200mg/Lとしたのは、前処理液中のゼータ電位とのバランスを保ち、安定したコロイド状態を維持しておくためである。触媒核の成長がないように溶液濃度を薄くした。金属ナノ粒子の金属(X)濃度の下限値を50mg/Lとした。この下限値未満では、分散性は良くなるが、基材へ触媒核として吸着することが困難になる。また、上限値を200mg/Lとしたのは、上限値を超えると触媒核の異常な成長が起こりやすくなるからである。
【0029】
(糖アルコール)
本発明の糖アルコールの濃度を0.05〜1.0g/Lの範囲としたのは、金属ナノ粒子を安定的に分散させ、安定したコロイド状態を維持しておくためである。また、液中のゼータ電位とのバランスを保つためである。0.07〜0.7g/Lが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5g/Lである。
【0030】
(界面活性剤)
本発明の前処理液には界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は1ppm未満でも微粒子の表面活性を著しく弱めるからである。他方、ゼータ電位には影響しない。界面活性剤の種類には、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤および両性界面活性剤がある。ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0031】
カチオン界面活性剤には、テトラアルキルアンモニウムハライド、アルキルトリメチルアンモニウムハライド、ヒドロキシエチルアルキルイミダゾリン、アルキルベンザルコニウムハライド、アルキルアミン酢酸塩、アルキルアミンオレイン酸塩およびアルキルアミノエチルグリシンなどがある。
【0032】
ノニオン性界面活性剤には、アルコールアルコキシラートのような脂肪族アルコールなどがある。これらの脂肪族アルコールは分子内にポリオキシエチレンまたはポリオシプロピレン鎖を有する化合物、言い換えれば、(−O−CH−CH−)または(−O−CH−CH(CH)−)の繰り返し基から構成される鎖、またはその組み合わせによって形成された、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、またはこれらの組み合わせを有する。典型的には、これらのアルコールアルコキシラートは、線状または分岐の7から15の炭素からなる炭素鎖を有するアルコールエトキシラートであり、4から20モルのエトキシラート、典型的には5から40モルのエトキシラート、さらに典型的には5から15モルのエトキシラレートである。
【0033】
アニオン性界面活性剤には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルコキシナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸エステル、高級アルコールリン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸(フォスフェート)およびスルホコハク酸アルキル塩などがある。
【0034】
両性界面活性剤には、2−アルキル−N−カルボキシメチルまたはエチル−N−ヒドロキシエチルまたはメチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチルまたはエチル−N−カルボキシメチルオキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−アルキル−β−アミノプロピオン酸またはその塩および脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインなどがある。
【発明の効果】
【0035】
本発明の無電解めっき用前処理液によれば、金属ナノ粒子が基材の表面で自己配列し、薄く析出する。このため広い面の基材でも均一に分散して触媒核を形成することができ、また、細い回路であっても均一に分散して触媒核を形成することができる。したがって、基材に析出した触媒核の金属に液中の金属が誘発されて触媒核の集合体を形成することはない。つまり、触媒核は時間が経過しても吸着密度の増大はほとんど観察されない。また、触媒核は高濃度浴でも低濃度浴でも析出量が変化しない。さらに、無電解めっきにおける析出結晶を均一化するので、基材上で未析出部分や外観上のめっきムラをなくすとともに、密着性の良好なめっき皮膜を得ることができる。また、パターンの境界が明瞭なものが得られる。
【0036】
加えて、金属ナノ粒子の全周を糖アルコールが取り巻いているので、使用開始前は前処理液が劣化することはなく、長期保存をすることができる。さらに、このような金属ナノ粒子、特に貴金属ナノ粒子は耐熱性および強酸や強アルカリ等の薬品に対する耐性があるという効果がある。
【0037】
〔実施例〕
さまざまな粒径の金属・糖アルコール溶液を化学還元法により作製した。
〔実施例1〕
テトラクロロ金(III)酸ナトリウム・四水和物を金(Au)換算濃度で90mg/L、マンニトール:0.55g/Lおよびエチルアルコール:1.0g/Lを90℃の水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)に溶解した。次いで、クエン酸三ナトリウム・二水和物:3.0g/Lで還元して金(Au)コロイド溶液を得た。
【0038】
このコロイド溶液を粒度分布測定装置(大塚電子株式会社、型式ELSZ−2000)により測定したところ、金(Au)ナノ粒子の平均粒径24ナノメートル(d=24±5ナノメートル)のものが得られた。塩酸および水酸化カリウムを用いてこの金(Au)ナノ粒子のコロイド溶液をpH=7.0に調整し、実施品1とした。
【0039】
この実施品1のコロイド溶液についてゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、型式ELSZ−2000)によりゼータ電位を測定したところ、−67.2mVであった。基材は、熱酸化により表層に酸化シリコン(SiO)が形成されたシリコンウェハーのカットピースを用いた。
【0040】
実施品1のコロイド溶液にカットピース(30mm×30mm×2mm)5枚を浸漬し、1分間、10分間および100分間浸漬した。その後、無電解金めっき液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製プレシャスファブACG3000WX)に3種類のカットピースを5分間浸漬し、それぞれ金(Au)を析出させた。この金(Au)膜厚を測定したところ、いずれも平均膜厚48ナノメートル、ばらつき度合3σ=4ナノメートルであった。
【0041】
〔実施例2〕
塩化パラジウムをパラジウム(Pd)換算濃度で0.1g/Lおよびグリセリン:0.5g/Lを90℃の塩酸水溶液(pH=3)に溶解した。次いで、次亜リン酸ナトリウム:10g/Lで還元してパラジウム(Pd)コロイド溶液を得た。このパラジウム(Pd)コロイド溶液を遠心分離機にかけ分級した。このパラジウム(Pd)ナノ粒子の平均粒径は28ナノメートル(d=28±9ナノメートル)であった。このパラジウム(Pd)ナノ粒子を0.07g/Lおよびグリセリンを0.3g/L含む水溶液を作製し、塩酸および水酸化カリウムを用いてpH=7.6に調整し、実施品2とした。
【0042】
実施例1と同様にしてこの実施品2のコロイド溶液のゼータ電位を測定したところ、−58mVであった。ついで、この実施品2のコロイド溶液にポリエチレンテレフタレート製のテストピース(30mm×30mm×1mm)にくし形回路(50μm幅×2mm長さ×100μm幅ピッチのものが100本整列したもの)を設けたもの2枚を浸漬し、1分間、10分間および100分間浸漬した。その後、3種類の基材のそれぞれを無電解銅めっき液(硫酸銅5水和物:25g/L EDTA-4Na:65g/L NaOH:40g/L ホルマリン:7.8g/L)に浸漬し、20分間銅(Cu)を析出させた。この表面形状を観察したところ、いずれも急峻な中実のトンネル形状を示し、平均膜厚305ナノメートル、ばらつき度合3σ=15ナノメートルであった。また、ピールテスト(クロスカット法)でめっき膜のはがれはなかった。
【0043】
〔実施例3〕
ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウムを白金(Pt)換算濃度で0.3g/Lおよびキシリトール:1.5g/Lを90℃の水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)に溶解し、ヒドラジン(1g/L)で還元して白金(Pt)コロイド溶液を得た。このコロイド溶液を粒度分布測定装置(大塚電子株式会社、型式ELSZ−2000)により測定し、白金(Pt)ナノ粒子の平均粒径34ナノメートル(d=34±5ナノメートル)である事を確認した。硫酸および水酸化カリウムを用いて、このコロイド溶液のpH=6.6に調整し、実施品3とした。
【0044】
この実施品3のコロイド溶液についてゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社、型式ELSZ−2000)によりゼータ電位を測定したところ、−72.3mVであった。ついで、この実施品3のコロイド溶液にポリイミド製のテストピース(100mm×100mm×0.5mm)1枚を浸漬し、1分間、10分間および100分間間浸漬した。その後、無電解白金めっき液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製レクトロレスPt100)に浸漬し、40分で500ナノメートルの厚さまで白金(Pt)を析出させた。この白金(Pt)膜厚を測定したところ、いずれも平均膜厚520ナノメートル、ばらつき度合3σ=26ナノメートルであった。
【0045】
〔比較例1〕
金(Au)ナノ粒子の濃度を薄く5mg/Lとし、塩酸および水酸化カリウムを用いて、pH=4.0に調整した以外は実施品1と同様にして比較品1を得た。
【0046】
この比較品1のコロイド溶液についてゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社、型式ELSZ−2000)によりゼータ電位を測定したところ、−20.8mVであった。ついで、この比較品1のコロイド溶液に熱酸化により表層にSiOが形成されたSiウェハーのカットピース(30mm×30mm×2mm)5枚を浸漬し、1分間、10分間および100分間浸漬した。その後、無電解金めっき液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製プレシャスファブACG3000WX)に浸漬し、5分で50ナノメートルの厚さまで金(Au)を析出させた。この金(Au)膜厚を測定したところ、平均膜厚42ナノメートル、ばらつき度合3σ=20ナノメートルであった。
【0047】
〔比較例2〕
パラジウム(Pd)ナノ粒子の粒径がd=28±9ナノメートルに入っているものを80質量%、および遠心分離機で粒径10ナノメートル未満のものが20質量%混合したパラジウム(Pd)ナノ粒子の混合水溶液を得た。この混合水溶液中のパラジウム(Pd)ナノ粒子を0.1g/Lとし、グリセリンを多くして3.0g/Lとした以外は実施品2と同様にして比較品2を得た。
【0048】
この比較品2の混合水溶液について、実施例1と同様にしてゼータ電位を測定したところ、−30.6mVであった。ついで、この比較品2のコロイド溶液に、実施例2と同一のポリエチレンテレフタレート製のテストピース2枚を浸漬し、1分間、10分間および100分間浸漬した。その後、実施例2と同様にして無電解銅めっきを行い、20分間銅(Cu)を析出させた。
【0049】
この表面膜厚を測定したところ、コロイド溶液への浸漬時間の経過とともに無電解銅めっき膜厚が厚くなっていた。すなわち、平均膜厚は、コロイド溶液浸漬時間1分間で158ナノメートル、10分間で260ナノメートル、そして、100分間で308ナノメートルとなっていた。ばらつき度合はいずれも3σ=110ナノメートルであった。
【0050】
上記の実施品1〜3の結果から、本発明の金属ナノ粒子のコロイド溶液によれば、広い面に均一に触媒核を付与することができ、安定した無電解めっきの析出物が得られることがわかる。また、得られた無電解めっきの析出物は強固なめっき膜であることもわかる。
【0051】
他方、上記の比較品1および2の結果から、本発明の数値範囲外の水溶液は、基材に触媒核が付着するものの、その付着密度は不均一である。その結果、無電解めっきの析出物が不規則に分布したり、めっき膜の強度が弱くなったりすることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の無電解めっき用前処理液はあらゆる市販の無電解めっき液に適用することができる。また、無電解めっき方法は、光センサ、水素ガス検知センサ、気圧センサ、水深センサなどの各種センサや配線基材の電極などに適用できる。