(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、B:0.002〜0.010%をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接用フラックス入りワイヤ。
成形された鋼製外皮の合わせ目が溶接されていることで鋼製外皮に継目を無くしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロスラグ溶接用フラックス入りワイヤ。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスラグ溶接は、大入熱溶接の1パス溶接により高能率な溶接が可能であるので、建築構造物、船舶、橋梁、海洋構造物、タンクなどの各種溶接構造物の建造に用いられている。
【0003】
特に、建築構造物においては、地震時における構造物の脆性破壊を防止する観点から、溶接欠陥が無く溶接金属の高靭性化の要望が極めて大きい。
【0004】
厚板の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接を高能率に行う方法として、例えば特許文献1に、ワイヤ径が1.4〜2.0mmの細径ワイヤを用いて溶融スラグ浴表面と溶接チップ先端間のワイヤ突き出し長さ(以下、ドライエックステンションという。)を一定に保持して溶接ノズルを自動上昇させながら溶接を行うという技術の開示がある。
【0005】
図3に非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法の概要を示す。建築物のボックス柱の製作において、スキンプレート21、ダイアフラム22及び当金23で囲まれた開先24の中央部に非消耗ノズル25を挿入して、通電と同時に溶接用ワイヤ26の先端と開先底部との間にアークを発生させ、溶融型フラックスを投入して溶融スラグ27を作り、エレクトロスラグ溶接を開始する。溶接が進行すると溶接用ワイヤ26のドライエクステンションLを設定値(30〜50mm)に保つように、溶接金属29の上昇に伴って溶接電流の変化を検出してノズル上昇用ローラ30が駆動され、非消耗ノズル25を引上げながら溶接用ワイヤ26が送給されることでエレクトロスラグ溶接を行う。なお、板厚が厚くなると図示しない搖動装置で非消耗ノズル25をダイアフラム22の板厚方向に搖動させる。
【0006】
溶接に供されるワイヤは、大入熱1パス溶接で溶接金属の強度及び靭性を確保するために、従来から種々の成分組成の溶接用ワイヤが用いられている。例えば特許文献2〜4には、大入熱で強度及び優れた靭性を得るためにワイヤ成分としてC、Si、Mn、Ni、Mo、Ti等を多く含有するソリッドワイヤの開示がある。
【0007】
一方、
図4に示すように非消耗ノズル25は、上部にワイヤ矯正装置が設けられており、図示しないペールパックに装填、またはスプールに巻かれた溶接用ワイヤの癖や捩りを矯正して非消耗ノズル25を経由して開先24の中央部に送給している。
図4中のガイド31は、図示しないペールパックやスプールからワイヤ送給装置を経て溶接用ワイヤを案内するコンジットライナを連結する。溶接用ワイヤは、ガイド31から送られて回転自在なワイヤガイド輪32(直径70〜100mm)と複数の溝付ローラ33によって一方向に屈曲され曲がり癖や捩りを取り除かれた後、第一矯正ローラ35a、35bによって前記屈曲を矯正している。
【0008】
次いで、第二矯正ローラ36a、36cと36bとの間を溶接ワイヤが屈曲しつつ通過するようにして前記矯正方向に対して90°の方向から真直ぐに矯正し、非消耗ノズル25内から給電チップ34を介して溶接部へ送給される。なお、第一矯正ローラ35bと、第二矯正ローラ36a、36cは軸が固定され、第一矯正ローラ35a及び第二矯正ローラ36bをそれぞれ調整つまみ37、38で押し付け量を変えてワイヤの矯正量が調整される。
【0009】
引用文献2〜引用文献4に記載のソリッドワイヤを用いて
図4に示すワイヤ矯正装置によって溶接する場合、ソリッドワイヤは、大入熱溶接においても溶接金属の十分な強度及び靭性を得るために比較的多くの合金を含んでいるので、ワイヤが硬く、溶接時にワイヤ矯正が十分にできない場合がある。このためワイヤガイド輪32と複数の溝付ローラ33間、第一矯正ローラ35及び第二矯正ローラ36でワイヤ送給抵抗が増してワイヤ送給速度が不安定となり、母材を十分に溶融することができない場合がある。また、この場合非消耗ノズル25の先端部の給電チップ34から溶接用ワイヤが曲がった状態で供給されるので溶接金属が片溶けして、溶融不良が生じる場合があった。
【0010】
このため、溶接用ワイヤの矯正が容易で送給抵抗を少なくすることを目的として、軟鋼の鋼製外皮に金属粉又は合金粉を充填したフラックス入りワイヤを用いる技術が、例えば特許文献5、6において提案されている。
【0011】
しかし、特許文献5及び特許文献6に記載のフラックス入りワイヤは、鋼製外皮内に充填した金属粉又は合金粉の表面積が大きいことから表面が酸化した多量の鉄酸化物を含んでおり、溶接が進むにつれて溶融スラグ中の鉄酸化物が多くなり、溶融スラグの粘性が高くなるという問題点があった。また、溶融スラグの流動性が低下して母材を十分に溶融できなくなるという問題点があった。さらに、これらのフラックス入りワイヤを用いて溶接した場合の溶接金属の溶接線方向の強度及び靭性が安定しないという問題点もあった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、490〜590MPa級鋼の大入熱のエレクトロスラグ溶接に用いる溶接用ワイヤにおいて、ワイヤ矯正装置部でワイヤ送給抵抗が少なくなる鋼製外皮を用いたフラックス入りワイヤについて、耐欠陥性及び安定した機械的性能を得るべく、それぞれの鋼製外皮成分及び充填フラックスの成分組成、並びにその作用効果について詳細に検討した。
【0020】
その結果、鋼製外皮のC、Si及びMn量を限定することによって、ワイヤ矯正装置部でワイヤ送給抵抗が低く、母材への溶け込み不良などの欠陥が生じなくなり、ワイヤ成分については鋼製外皮とフラックスの合計で、C、Si、Mn、Mo及びTiを適量とすることによって、大入熱溶接による溶接金属の強度の確保及び優れた靭性が得られることを見出した。
【0021】
また、フラックス入りワイヤを用いた場合に問題となる溶融スラグの鉄酸化物の増加による粘性の増加は、Si酸化物の微量添加によって調整でき、流動性の低下は、
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物の微量添加によって解決でき、溶接開始から終了まで均一に母材を溶融できることから、溶接欠陥がなく溶接線方向の機械的性能が均一で安定した溶接金属が得られることを見出した。
【0022】
さらに、Bの添加により溶接金属の靭性がさらに向上し、鋼製外皮の合わせ目を溶接して鋼製外皮の継目をなくすることによって、フラックス入りワイヤの製造時に焼鈍が可能となることから、さらにワイヤ矯正装置部でワイヤ送給抵抗を低くできることを見出した。
【0023】
以下に本発明を適用したエレクトロスラグ溶接用フラックス入りワイヤについて説明する。
【0024】
まず、鋼製外皮の成分組成について説明する。なお、各成分の含有率は、鋼製外皮全質量に対する質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載する。
【0025】
[鋼製外皮のC:0.07%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜0.6%]
鋼製外皮は、溶接時のワイヤ矯正の容易性を左右するものであり、溶接部の健全性に影響する。鋼製外皮中のCが0.07%超、Siが0.2%超、Mnが0.6%を超えると、ワイヤが硬くなってワイヤ矯正が十分にできず、矯正ローラ部及び非消耗ノズル内でのワイヤ送給抵抗が大きくなってワイヤ送給速度が不安定になってしまう。その結果、母材を十分溶融できず溶接金属の靭性が安定化させることができない。また鋼製外皮中のC、Si、Mnが上述した範囲を超えると、非消耗ノズル先端の給電チップからワイヤが曲がって供給されて母材が片溶けする場合がある。一方、Mnが0.1%未満であると、フラックス入りワイヤ製造時の伸線工程で断線しやすくなる。よって鋼製外皮は、C:0.07%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜0.6%とする。なお、C及びSiの下限は限定しないが、製鋼コストの観点からCは0.005%、Siは0.005%であることが好ましい。
【0026】
次いで、フラックス入りワイヤの成分組成について説明する。なお、フラックス入りワイヤの各成分組成の含有率は、ワイヤ全質量に対する質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載する。
【0027】
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.01〜0.10%]
Cは、溶接金属の強度を向上させる成分であり、490〜590MPa以上の溶接金属の高度を確保するためには、鋼製外皮とフラックスの合計で0.01%以上含有する必要がある。一方、Cが0.10%を超えると、溶接金属の強度が高くなって靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.01〜0.10%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属粉及び合金粉等で添加できる。
【0028】
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.01〜0.50%]
Siは、溶接金属のオーステナイト粒径を微細化する元素として作用して靭性を向上させる。鋼製外皮とフラックスの合計でSiが0.01%未満であると、溶接金属のオーステナイト粒径が粗大化して靭性が低下する。一方、Siが0.50%を超えると、溶接金属の強度が高くなって靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.01〜0.50%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉末で添加できる。
【0029】
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.8〜2.8%]
Mnは、溶接金属の強度向上及びオーステナイト粒径微細化元素として作用する。鋼製外皮とフラックスの合計でMnが1.8%未満であると、溶接金属の強度及び靭性が低下する。一方、Mnが2.8%を超えると、溶接金属の強度が高くなって靭性が低下する。したがって、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.8〜2.8%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末で添加できる。
【0030】
[フラックス中にMo:0.2〜0.7%]
Moは、変態温度を低下させ、組織を微細化して溶接金属の靭性を向上させる作用を有する。フラックス中のMoが0.2%未満であると、これらの作用が十分に得られず、溶接金属の靭性が低下する。一方、Moが0.7%を超えると、溶接金属の強度が高くなって靭性が低下する。したがって、フラックス中のMoは0.2〜0.7%とする。なお、Moは、フラックスから金属Mo、Fe―Mo等の合金粉末で添加できる。
【0031】
[フラックス中のTi:0.01〜0.20%]
Tiは、溶接金属中に微細酸化物を生成して溶接金属の靭性を向上させる作用を有する。フラックス中のTiが0.01%未満であると、溶接金属の靭性が低下する。一方、Tiが0.20%を超えると、溶接金属中の固溶Tiが増加して靭性が低下する。したがって、フラックス中のTiは0.01〜0.20%とする。なお、Tiは、フラックスから金属Ti、Fe−Ti等の合金粉末で添加できる。
【0032】
[フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計:0.02〜0.20%]
Si酸化物は、鋼製外皮内に充填した鉄合金粉及び鉄粉表面の酸化を起因として、溶接が進むにつれて溶融スラグ中の鉄酸化物が多くなり、溶融スラグの粘性が高くなるのを抑制する効果を有する。フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計が0.02%未満であると、溶接の進行につれて溶融スラグの粘性が高くなり母材への溶け込み量が少なくなって溶接線方向の強度が徐々に高くなり靭性は低くなる。一方、フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計が0.20%を超えると、溶接の進行につれて溶融スラグの量が多くなりスラグ浴深さが大きくなってスラグが対流しなくなり母材への溶け込み量が少なくなって溶接線方向の強度が徐々に高くなり靭性は低くなる。したがって、フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計は0.02〜0.20%とする。なお、Si酸化物は、フラックスから珪砂、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分等で添加できる。
【0033】
[フラックス中の
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の1種又は2種の合計:0.02〜0.10%]
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物は、鋼製外皮内に充填した鉄合金粉及び鉄粉の酸化を起因として、溶接が進むにつれて溶融スラグ中の鉄酸化物が多くなり、溶融スラグの流動性が低下するのを抑制する効果を有する。フラックス中の
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の1種又は2種の合計が0.02%未満であると、溶接の進行につれて溶融スラグの流動性が低下して母材への溶け込み量が少なくなり溶接線方向の強度が徐々に高くなり靭性は低くなる。一方、
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の1種又は2種の合計が0.10%を超えると、溶接の進行につれて溶融スラグの流動性が高くなり過ぎて母材への溶け込み量が多くなって溶接線方向の強度及び靭性が徐々に低くなる。したがって、フラックス中の
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の1種又は2種の合計は0.02〜0.10%とする。なお、
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物は、フラックスから珪酸ソーダ及び珪酸カリの固質分、NaF、K
2SiF
6等の粉末で添加できる。
【0034】
[フラックス中のB:0.002〜0.010%]
Bは、溶接金属の靱性を更に向上させる作用を有する。Bが0.002%未満であると作用が十分に得られず、溶接金属の靱性が低下する。一方、0.010%を超えると、過剰なBが粒界に固溶して靱性が低下する。したがって、フラックス中のBは0.002〜0.010%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属B、Fe−B、Fe−Mn−B等の合金粉末から添加できる。
【0035】
[成形された鋼製外皮の合わせ目が溶接されていることで鋼製外皮に継目を無くす]
本発明のエレクトロスラグ溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成形し、その内部にフラックスを充填した構造である。フラックス入りワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られた鋼製外皮に継目の無いフラックス入りワイヤと、鋼製外皮の合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するフラックス入りワイヤとに大別できる。本発明の鋼製外皮に継目が無いフラックス入りワイヤは、熱処理が可能であるので、製造時の伸線工程で加工硬化した鋼製外皮を焼鈍して軟化できるので、溶接時のワイヤ矯正を容易にできるとともにワイヤ送給抵抗が良好となり溶接部の健全性を確保できる。さらに、ワイヤ中の全水素量を低減することができる。
【0036】
本発明のエレクトロスラグ溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、
フラックス中の鉄粉、Fe−Si、Fe−Mn、Fe−Si−Mn、Fe−Ti合金等の鉄合金粉のFe分及び不可避不純物である。不可避不純物については特に規定しないが、高温割れ及び溶接金属の靭性
の観点から、Cu:0.3%以下、Al:0.02%以下、P及びSは各々0.02%以下であることが好ましい。
【0037】
なお、フラックスの充填率は特に制限しないが、生産性の観点から、ワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0039】
表1に示す鋼製外皮を用いて表2に示す各種成分組成のワイヤ径1.6mmのフラックス入りワイヤを試作した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表3に示す化学成分及び表4に示すサイズの鋼板を、
図1に示すようにスキンプレート1、ダイアフラム2及び当金3を、スキンプレート1の表面とダイアフラム2の端面とのギャップGが25mmとなるように配置して溶接試験板を組立てた。溶接は、表2に示すフラックス入りワイヤを用いて表5に示す溶接条件で行った。溶接長は1000mmである。なお、溶融型フラックスは表6に示す化学成分のものを用いた。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
溶接前及び溶接時にワイヤの矯正状態を調べ、溶接終了後マクロ試験片を溶接開始部から200mm(下層部)、600mm(中層部)及び800mm(上層部)の箇所から採取して母材への溶け込み状態を調べた。機械的性能は、溶接開始部〜200mm(下層部)、400〜600mm(中層部)及び800mm(上層部)〜溶接終了部の箇所から、
図2に示すように溶接金属9の中央部から引張試験片19(JIS Z 2241 10号)及び衝撃試験片20(JIS Z 2242 Vノッチ試験片)を採取して機械試験を実施した。引張試験の評価は、引張強さが500〜740MPaで溶接線方向の強度差(上層部〜下層部間の強度差)が20MPa以下を良好とした。また、衝撃試験の評価は、−5℃におけるシャルピー衝撃試験を行い、各々繰り返し3本の平均値が70J以上で平均値と最低値の差が15J以下、溶接線方向の吸収エネルギーの平均値の差(上層部〜下層部間における吸収エネルギーの平均値の差)が10J以下を良好とした。これらの結果を表7にまとめて示す。
【0048】
【表7】
【0049】
表2及び表7中ワイヤ記号W1〜W12が本発明例、ワイヤ記号W13〜W30は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W1〜W12は、用いた鋼製外皮の成分及びフラックス入りワイヤの各成分が適量であるので、ワイヤ矯正状態が良好であるので下層部〜上層部までマクロ断面の溶け込み状態が良好で、引張強さ及び吸収エネルギーともに下層部〜上層部まで安定して良好な値が得られた。なお、鋼製外皮に合わせ目のあるワイヤ記号W3及びW11は、鋼製外皮に合わせ目があり製造時の伸線工程で外皮が加工硬化したのでマクロ断面においてやや片溶けがあったが実用上特に問題とならない程度であった。また、Bを添加したワイヤ記号W3、W5、W6及びW9〜W11は、吸収エネルギーの平均値が120J以上得られた。
【0050】
比較例中ワイヤ記号W13は、外皮記号H5のCが高いので、ワイヤの矯正が不十分でワイヤの送給速度が不安定になってマクロ断面で下層部〜上層部まで母材溶融量が少なく、片溶けも生じ、溶接金属の吸収エネルギーの平均値と最低値との差及び溶接線方向の平均値の差が大きくなった。
【0051】
ワイヤ記号W14は、外皮記号H6のSiが多いので、ワイヤの矯正が不十分でワイヤの送給速度が不安定になってマクロ断面で下層部〜上層部まで母材溶融量が少なく、片溶けも生じ、溶接金属の吸収エネルギーの平均値と最低値との差及び溶接線方向の平均値の差が大きくなった。
【0052】
ワイヤ記号W15は、外皮記号H7のMnが少ないので、ワイヤ製造時に断線が生じた。また、鋼製外皮に合わせ目が無いので、ワイヤ製造時の伸線工程で外皮が硬化し、ワイヤの矯正が不十分でワイヤの送給速度が不安定になってマクロ断面で下層部〜上層部まで母材溶融量が少なく、片溶けも生じ、溶接金属の吸収エネルギーの平均値と最低値との差及び溶接線方向の平均値の差が大きくなった。
【0053】
ワイヤ記号W16は、外皮記号H8のMnが多いので、ワイヤの矯正が不十分でワイヤの送給速度が不安定になってマクロ断面で下層部〜上層部まで母材溶融量が少なく、片溶けも生じ、溶接金属の吸収エネルギーの平均値と最低値との差及び溶接線方向の平均値の差が大きくなった。
【0054】
ワイヤ記号W17は、Cが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。また、Bが多いので、溶接金属の吸収エネルギーも低値であった、
【0055】
ワイヤ記号W18は、Cが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。
【0056】
ワイヤ記号W19は、Siが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Bが少ないので、吸収エネルギーを高くする効果が得られなかった。
【0057】
ワイヤ記号W20は、Siが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。
【0058】
ワイヤ記号W21は、Mnが少ないので、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低値であった。
【0059】
ワイヤ記号W22は、Mnが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。
【0060】
ワイヤ記号W23は、Moが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0061】
ワイヤ記号W24は、Moが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。
【0062】
ワイヤ記号W25は、Tiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0063】
ワイヤ記号W26は、Tiが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0064】
ワイヤ記号W27は、Si酸化物のSiO
2換算値が少ないので、溶接が進むにつれて溶融スラグの粘性が高くなって、中層部で母材への溶け込みがやや少なくなり、上層部では母材への溶け込みが少なかった。また、溶接金属の上層部の強度が高くなり溶接線方向の強度差も大きくなった。さらに、溶接金属の上層部の吸収エネルギーが低値となり平均値の差も大きくなった。
【0065】
ワイヤ記号W28は、Si酸化物のSiO
2換算値が多いので、溶接が進むにつれて溶融スラグが多くなって、中層部で母材への溶け込みがやや少なくなり、上層部では母材への溶け込みが少なかった。また、溶接金属の上層部の強度が高くなり溶接線方向の強度差も大きくなった。さらに、溶接金属の上層部の吸収エネルギーが低値となり平均値の差も大きくなった。
【0066】
ワイヤ記号W29は、
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が少ないので、溶接の進行につれて溶融スラグの流動性が低下して、中層部で母材への溶け込みがやや少なくなり、上層部では母材への溶け込みが少なかった。また、溶接金属の上層部の強度が高くなり溶接線方向の強度差も大きくなった。さらに、溶接金属の上層部の吸収エネルギーが低値となり平均値の差も大きくなった。
【0067】
ワイヤ記号W30は、
Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が多いので、溶接の進行につれて溶融スラグの流動性が高くなり、中層部での母材への溶け込みがやや多くなり、上層部では母材への溶け込みが多くなった。また、溶接金属の上層部の引張強さが低くなり溶接線方向の強度差も大きくなった。さらに、溶接金属の上層部の吸収エネルギーが低値となり平均値の差も大きくなった。