(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688288
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】有機−無機積層体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
C23C16/455
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-517186(P2017-517186)
(86)(22)【出願日】2015年5月7日
(65)【公表番号】特表2017-517639(P2017-517639A)
(43)【公表日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】EP2015060049
(87)【国際公開番号】WO2015188990
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年5月2日
(31)【優先権主張番号】14172353.6
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アールフ,マライケ
(72)【発明者】
【氏名】アイッケマイアー,フェリクス
(72)【発明者】
【氏名】クロッツ,シュテファン
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−506762(JP,A)
【文献】
特表2011−506758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動軌道に沿って配置された、少なくとも2個の分離オリフィスに対して基板を動かす工程を含み、
少なくとも1個のオリフィスを介して、気体状態の有機化合物を基板の表面へ向かって通過させ、少なくとも1個の他のオリフィスを介して、気体状態の(半)金属含有化合物を基板の表面へ向かって通過させ、これらのオリフィスが回転ドラムに取り付けられている積層体を製造する方法であって、
(半)金属含有化合物を基板へ向かって通過させるオリフィスが、有機化合物を通過させるオリフィスよりもより多く存在し、及び
前記有機化合物が、ヒドロキシル基を含む有機チオールであることを特徴とする積層体を製造する方法。
【請求項2】
不活性ガスを基板へ向かって通過させるオリフィスが、有機化合物または(半)金属含有化合物を通過させるそれぞれ2個のオリフィスの間に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(半)金属含有化合物を分解可能である化合物を基板へ向かって気体状態で通過させるオリフィスが、(半)金属含有化合物を基板へ向かって通過させるそれぞれ2個のオリフィスの間に配置される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
基板に対するオリフィスの移動速度が0.01〜10m/秒である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
オリフィスに通過させる有機化合物または(半)金属含有化合物の流量が、1〜100sccmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
基板がポリマーフィルムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
それぞれのオリフィスが、基板の同じ表面領域を少なくとも2回通過させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
基板の圧力が500〜1500mbarである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
基板の温度が50〜150℃である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(半)金属含有化合物がアルキル(半)金属である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(半)金属含有化合物を分解可能である化合物が、水、酸素プラズマ、またはオゾンである、請求項3から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
有機化合物が、4−メルカプトフェノール及び/又は4−メルカプトベンジルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積によって、有機−無機積層体を製造する方法の分野のものである。
【背景技術】
【0002】
積層体構造は、ポリマーフィルムの可撓性およびセラミックのバリア特性などの拮抗する性質を併せもつので、魅力的な材料である。パッケージング、封止、または不動態化のためには、大面積の可撓性積層体を提供することが好都合である。この積層体には、全面積にわたって、高均一性と共に、水などの小分子に対する高い拡散バリアを有することが必要である。
【0003】
WO 2011/099 858 A1に、基板に沿って前駆体−ガス供給を動かすことによって、基板に無機層を堆積させる方法が開示されている。
【0004】
WO 2012/050 442 A1に、前駆体−ガス供給の下、基板を回転させることによって、基板に無機層を堆積させる方法が開示されている。
【0005】
US 2009/0 081 883 A1に、実質的に平行な細長いチャネルに沿って、一連のガス流を向けることによって、基板に有機薄膜を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、バリアフィルムは、速い生産速度で、不十分な品質のものになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2011/099 858 A1
【特許文献2】WO 2012/050 442 A1
【特許文献3】US 2009/0 081 883 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、大面積の積層体を、高速で、かつ高均一性で製造する方法を提供することであった。可撓性であり、かつ小分子に対して高い拡散バリアを備える積層体を製造する方法を提供することもさらに目的とした。この積層体は、曲げるとき、特に小さい半径周りに曲げるとき、そのバリア特性を保持することを目指した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、相対移動軌道に沿って配置された、少なくとも2個の分離オリフィスに対して基板を動かす工程を含む、積層体を製造する方法であって、少なくとも1個のオリフィスを介して、気体状態の有機化合物を基板の表面へ向かって通過させ、少なくとも1個の他のオリフィスを介して、気体状態の(半)金属含有化合物を基板の表面へ向かって通過させ、これらのオリフィスが回転ドラムに取り付けられている、積層体を製造する方法によって成し遂げられた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、説明および特許請求の範囲において見出すことができる。様々な実施形態の組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0011】
本発明の文脈における積層体は、異なる化学組成の、少なくとも2個の層が互いに密接に接している製造物である。別段の指示がなければ、概して、大きさ、各層の組成、または層が結合されている強度は、特に制限されない。
【0012】
本発明の文脈における無機は、少なくとも1種の(半)金属を、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、特に少なくとも10質量%含む材料を示す。したがって用語「(半)金属」は、「金属または半金属」を表す。本発明の文脈における有機は、非金属を、99質量%より多く、好ましくは99.5質量%より多く、特に完全に、または実質的に完全に含む材料を示す。非金属は、C、H、O、N、S、Se、および/またはPであることがさらにより好ましい。
【0013】
本発明の方法は、相対移動軌道に沿って配置された、少なくとも2個の分離オリフィスに対して基板を動かす工程を含む。相対移動は、オリフィスが動くが、基板が固定されていることを意味することができる。あるいは、基板が動くが、オリフィスが固定されていることを意味することができる。基板とオリフィスとの間に相対移動があるならば、基板とオリフィスの両方が動くこともまた可能である。移動は、線形、円形であることができ、また任意の複雑な軌道、例えば2Dプロッタの軌道に従うことができる。
【0014】
基板に対するオリフィスの相対移動は、使用される物質およびフィルムの求められる品質に応じて、様々な速度で起こることができる。好ましくは、移動速度は0.01〜10m/秒であり、より好ましくは0.02〜1m/秒であり、特に0.05〜0.3m/秒である。
【0015】
本発明によれば、オリフィスは、任意の形状、例えば、円孔、角孔、または矩形状スリットであることができる。オリフィスはまた、固定具および取り付け部品の有無によらず、ノズルであることもできる。分離オリフィスは、2個のオリフィスを通過させた化合物が、基板の表面に到達するまで混合しないことを意味する。これによれば、ある単一の部分が、化合物が基板の表面に到達するまで化合物を分離する限り、2個以上の分離オリフィスが単一の部分に存在することができる。
【0016】
本発明によれば、少なくとも2個の分離オリフィスは、相対移動軌道に沿って配置されている。これによれば、基板の表面の任意箇所には、1個のオリフィスを通過させた化合物が初めに到達し、その後異なるオリフィスを通過させた化合物が到達する。これは、相対移動軌道に等しい線にオリフィスを配置することによって実現させることができる。この線からわずかに逸れることもあり得る。矩形状オリフィスの場合には、オリフィスが、軌道に沿って互い違いにずれ、矩形の長い方が相対移動軌道とほぼ90°の角度を形成すると考えられる。
【0017】
本発明の方法において、気体状態の有機化合物を、少なくとも1個のオリフィスに通過させる。有機化合物は、単一の有機化合物であるか、またはいくつかの様々な有機化合物の混合物であることができる。1種または複数の有機化合物と、気体状態の他の化合物、例えば、不活性キャリアガスとの混合物を、少なくとも1個のオリフィスに通過させることは、本発明の範囲内に含まれる。気体状態にすることができる、任意の有機化合物が適している。好ましくは、有機化合物は、100℃で少なくとも1mbarの蒸気圧を有する。好ましくは、有機化合物は、ヒドロキシ官能基を有し、すなわちアルコールである。より好ましくは、有機化合物は、イオウ、特にチオール基を含む。有機化合物がチオフェノール誘導体であることがさらにより好ましい。有機化合物のいくつかの好ましい例を、以下に示す。
【0019】
特に好ましいのは、4−メルカプトフェノール(C−1)および4−メルカプトベンジルアルコール(C−2)である。様々な有機化合物の混合物を1個のオリフィスに通過させる場合には、これらの有機化合物の少なくとも1種がチオールであることが好ましい。
【0020】
本発明の方法において、気体状態の(半)金属含有化合物を、少なくとも1個のオリフィスに通過させる。(半)金属含有化合物は、1種の(半)金属含有化合物であるか、またはいくつかの様々な(半)金属含有化合物の混合物であることができる。1種または複数の(半)金属含有化合物と、気体状態の他の化合物、例えば、不活性キャリアガスとの混合物を、少なくとも1個のオリフィスに通過させることは、本発明の範囲内に含まれる。金属含有化合物の金属には、Li、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属、Be、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属、Al、Ga、In、Sn、Tl、Biなどの典型金属、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hgなどの遷移金属、およびLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタニドが含まれる。半金属含有化合物の半金属は、B、Si、As、Ge、Sbである。好ましい(半)金属は、B、Al、Si、Ti、Zn、Y、Zr、Laであり、特にAlである。
【0021】
気体状態にすることができる任意の(半)金属含有化合物が適している。好ましくは、(半)金属含有化合物は(半)金属有機化合物である。この化合物には、ジメチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、またはジブチルスズなどのアルキル(半)金属、テトラメチルケイ素、またはテトライソプロポキシジルコニウムなどの(半)金属アルコキシレート、フェロセンまたはチタノセンなどのシクロペンタジエン付加物、タンタル−ペンタネオペンチレート(tantalum−pentaneopentylat)、またはビスイミダゾリジニレンルテニウム塩化物(bisimidazolidinylenrutheniumchloride)などの(半)金属カルベン、四臭化ゲルマニウムまたは四塩化チタンなどの(半)金属ハロゲン化物、ヘキサカルボニルクロムまたはテトラカルボニルニッケルなどの一酸化炭素錯体が含まれる。より好ましくは、(半)金属含有化合物は、アルキル(半)金属であり、特にC
1〜C
4アルキル(半)金属である。
【0022】
本発明によれば、有機化合物および(半)金属含有化合物を、それぞれのオリフィスを通過させる前に、互いに分離した気体状態にする。好ましくは、これは、有機化合物または(半)金属含有化合物の貯蔵器を、その蒸気圧が少なくとも1mbarである温度まで加熱することによって行われる。
【0023】
好ましくは、気体状態の有機化合物または(半)金属含有化合物を、オリフィスに通過させる前に、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスと混合する。有機化合物または(半)金属を、好ましくは流量1〜100sccmで、より好ましくは流量20〜60sccmでそれぞれのオリフィスに通過させる。単位sccmは、273Kおよび大気圧での、標準立方センチメートル毎分(cm
3/分)を表す。気体状態の有機化合物または(半)金属含有化合物と任意で混合される不活性ガスを、好ましくは、流量100〜2000sccmで、より好ましくは流量300〜1600sccmでオリフィスに通過させる。
【0024】
2種以上の(半)金属含有化合物の混合物を、1個のオリフィスに通過させる場合、例えば、スズ−亜鉛酸化物またはバリウム−チタン酸化物などの混合(半)金属酸化物を含む無機層が製造される。
【0025】
好ましくは、モル比1:99〜30:70の、より好ましくはモル比2:98〜15:85の、2種の異なる(半)金属含有化合物の混合物を、1個のオリフィスに通過させる。この場合、(半)金属ドープ無機層、例えば、アルミニウムドープ酸化亜鉛、スズドープ酸化インジウム、またはアンチモンドープ酸化スズが入手しやすい。あるいは、ハロゲンドープ無機層を得るために、(半)金属含有化合物に加えて、ハロゲン含有(半)金属含有化合物、またはハロゲン含有化合物を、(半)金属含有化合物およびハロゲン含有化合物の全モル量に対して、好ましくは1〜30モル%の量で、より好ましくは2〜15モル%の量で使用することが可能である。こうしたハロゲン含有化合物の例には、塩素ガス、フッ化アンモニウム、または四塩化スズがある。
【0026】
本発明によれば、基板は、任意の固体材料であってもよい。これには、例えば、金属、半金属、酸化物、窒化物、およびポリマーが含まれる。基板は、様々な材料の混合物であることもできる。金属の例には、アルミニウム、鋼鉄、亜鉛、および銅がある。半金属の例には、ケイ素、ゲルマニウム、およびヒ化ガリウムがある。酸化物の例には、二酸化ケイ素、二酸化チタン、および酸化亜鉛がある。窒化物の例には、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、および窒化ガリウムがある。ポリマーが好ましい。ポリマーには、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレン−ジカルボン酸(PEN)などのポリエステル;ポリイミド;ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリアクリレート;ポリアクリルアミド;ポリ(ビスフェノールAカーボネート)などのポリカーボネート;ポリビニルアルコール、およびポリ酢酸ビニルまたはポリビニルブチラールなどの、その誘導体;ポリ塩化ビニル;ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリノルボルネンなどのポリシクロオレフィン;ポリエーテルスルホン;ポリカプロラクタムまたはポリ(ヘキサメチレンアジピン酸アミド)などのポリアミド;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、またはニトロセルロースなどのセルロース誘導体;ポリウレタン;エポキシ樹脂;メラミンホルムアルデヒド樹脂;フェノールホルムアルデヒド樹脂が含まれる。ポリマーには、ポリ(エチレン−co−ノルボルネン)またはポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)などのコポリマーが含まれる。ポリエステルおよびポリシクロオレフィンが好ましい。
【0027】
基板は、任意の大きさおよび任意の形状であることができる。好ましくは、基板は、フィルムであり、より好ましくはポリマーフィルムである。基板フィルムの厚さは、用途に応じて変わる。フィルムが、可撓性で、かつ10mmより大きい半径周りで曲がる必要がある場合、基板フィルムは、好ましくは厚さ100〜1000μmであり、より好ましくは厚さ100〜500μmであり、例えば、厚さ100〜200μmである。フィルムが、可撓性で、かつ10mm未満の半径周りで曲がる必要がある場合、基板フィルムは、好ましくは厚さ1〜100μmであり、より好ましくは厚さ10〜70μm、例えば、厚さ40〜60μmである。
【0028】
基板の表面は、好ましくは高平坦性である。本発明の文脈における高平坦性は、表面の最高位置が、表面の最低位置よりも高くて100nm以下であり、好ましくは50nm以下であることを意味する。平坦性は、好ましくはタッピングモードの原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0029】
高平坦性基板は、小さな擦り傷、またはその表面に付着した埃などの粒子を有するために、しばしば入手不可能である。したがって、バリアフィルムは、積層体に穴をあけるなどの損傷を避けるために平坦化層をさらに含む場合が好ましい。より好ましくは、平坦化層は、基板と積層体との間にある。この場合、平坦化層は、特に曲げるか、または加熱すると、基板と積層体をより良好に結合させるように追加的に機能することができる。平坦化層は、アクリレートもしくはエポキシなどの有機ポリマー、カーバイド、例えばSiCなどのセラミック、またはポリアルキルシロキサンなどの有機−無機ハイブリッド材料を含むことができる。有機ポリマーが好ましい。
【0030】
しばしば平坦化層は、積層体を施す前に、平坦化層を構成する材料を基板に堆積させることによって製造される。有機ポリマーの場合、モノマーを含んだ液体を基板にキャストし、次いで例えば、加熱、またはUV開始によって硬化させる。UV開始が好ましく、モノマーを含んだ液体が、官能化ベンゾフェノンなどの硬化補助剤をさらに含むことがより好ましい。好ましくは、硬化後に架橋有機ポリマーが得られるように、モノマーを含んだ液体は、単官能モノマーと二官能モノマーとの混合物を含む。セラミックを含む平坦化層は、通常、材料を基板上にスパッターすることによって得られる。有機−無機ハイブリッド材料を含む平坦化層は、有機−無機前駆体を含んだ溶液を基板にキャストし、溶媒を蒸発させ、例えば、加熱によって有機−無機前駆体を濃縮することによって得ることができる。この方法は、しばしばゾル−ゲル法と称される。有機−無機前駆体の例には、アルキル−トリアルコキシシランがある。好ましくは、前駆体は、UV硬化可能な側基、例えばアクリレートで官能化される。このように、有機−無機ハイブリッド材料を架橋させることができる。
【0031】
好ましくは、平坦化層を構成する材料は、基板材料の弾性率と積層体の弾性率との間の弾性率、例えば10〜30GPaを有する。弾性率を測定する方法は、ISO 527−1(Plastics−Determination of tensile properties、2012)に記載されている。
【0032】
本発明の方法において、基板の表面へ向かって分離オリフィスを通過させる、気体状態の(半)金属含有化合物または有機化合物が、基板に到達する前に混合することは想定されていない。いかなる混合もより適切に抑制するために、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスを基板へ向かって通過させるオリフィスが、有機化合物または(半)金属含有化合物を通過させるそれぞれ2個のオリフィスの間に配置されることが好ましい。不活性ガスの流量は、好ましくは不活性ガスが層流である値に設定される。したがって、流量は、とりわけオリフィスの大きさ、オリフィスから基板までの距離、および使用される不活性ガスによって変わる。当分野の技術者は、所与の装置における不活性ガスのレイノルズ数を計算することができ、それによって最大流量を測定することができる。
【0033】
好ましくは、(半)金属含有化合物を分解可能である化合物を基板へ向かって気体状態で通過させるオリフィスが、(半)金属含有化合物を基板へ向かって通過させるそれぞれ2個のオリフィスの間に配置される。(半)金属含有化合物を分解可能である化合物には、酸素、オゾン、酸素プラズマなどのプラズマ、アンモニア、亜酸化窒素もしくは過酸化水素などの酸化剤、水素、アルコール、ヒドラジン、もしくはヒドロキシルアミンなどの還元剤、または水などの溶媒が含まれる。(半)金属含有化合物を(半)金属酸化物へ変換するために、酸化剤、プラズマ、または水を使用することが好ましい。水、酸素プラズマ、またはオゾンへの暴露が好ましい。水への暴露が特に好ましい。(半)金属含有化合物から元素(半)金属への変換が所望される場合、還元剤を使用することが好ましい。(半)金属含有化合物から(半)金属窒化物への変換が所望される場合、アンモニアまたはヒドラジンを使用することが好ましい。
【0034】
好ましくは、(半)金属を基板へ向かって通過させるオリフィスが、有機化合物を通過させるオリフィスよりもより多く存在する。このように、基板の表面の任意箇所には、有機化合物流よりも(半)金属含有化合物流がより頻繁に到達する。
【0035】
本発明によれば、オリフィスは回転ドラムに取り付けられている。
図1に、こうした装備の一例を示す。複数のオリフィスを回転ドラムに取り付けた(6):有機化合物を通過させるオリフィス(2)、(半)金属含有化合物を通過させるオリフィス(3)、不活性ガスを通過させるオリフィス(4)、および(半)金属含有化合物を分解可能である化合物を通過させるオリフィス(5)。基板は、固定されているか、または動かすことができる。基板が可撓性である場合、有機−無機基板を、いわゆるロールツーロール法において、大型基板に堆積させることができる。
【0036】
好ましくは、それぞれのオリフィスは、基板の同じ表面領域を少なくとも2回通過させる。これは、例えば、基板をオリフィスに対して少なくとも2回前後に動かすことによって、基板を少なくとも2回転回すことによって、または少なくとも2全回転させることによりドラムを回すことによって、実現させることができる。より好ましくは、それぞれのオリフィスは、基板の同じ表面領域を、少なくとも10回、さらにより好ましくは少なくとも30回、特に少なくとも100回通過させる。
【0037】
本発明の方法は、様々な圧力で実施することができる。この圧力は、基板の圧力を示し、一方、オリフィスで、または貯蔵器で、圧力は異なっていてもよい。好ましくは、基板の圧力は、100〜5000mbarであり、より好ましくは500〜1500mbarであり、特に圧力は、大気圧またはおおよそ大気圧である。本発明の方法が実施される温度は、通常、20〜200℃の範囲であり、好ましくは50℃〜150℃の範囲であり、特に80〜120℃の範囲である。
【0038】
本発明の方法により、水および酸素などの小分子に対する低い透過性を有し、かつ高い可撓性を有する積層体がもたらされる。小分子に対する透過性の優れた測定は、水蒸気透過度(WVTR)である。好ましくは、WVTRは、積層体上にカルシウムドットの配列を蒸着させ、カルシウムドットの上面に他の積層体を堆積させることによって測定される。次いで、この試料を、例えば、30〜100℃、30〜90%相対湿度、好ましくは60〜80℃、60〜80%相対湿度の暖湿気に暴露する。この暴露は、通常100〜1000時間、好ましくは200〜600時間、特に300〜500時間実施される。Paetzoldら(Review of Scientific Instruments 74(2003)5147〜5150)によって説明されたように、透明に変わったカルシウムドットの数を用いて、WVTRを計算する。一般に、WVTRが、10
−2g/m
2dよりも小さければ、好ましくは10
−4g/m
2dよりも小さければ、より好ましくは10
−5g/m
2dよりも小さければ、特に10
−6g/m
2dよりも小さければ、積層体は、小分子に対して低い透過性を有すると考えられる。
【0039】
本発明の方法を用いて、大面積において高均一性で、かつたとえ曲げても小分子が低拡散する積層体を入手することができる。この積層体を高速で製造することができ、したがって低コストで製造することができる。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
バリアフィルムは、幅30cmおよび厚さ125μmのPET基板を用いて製造された。PET基板は、ロールツーロール方式へホイル張力(foil tension)18〜22Nで取り付けられた。積層体の堆積は、温度制御可能なチャンバ内に設置された、直径30cmの回転ドラムによって実施された。堆積は、104〜106℃で実施され、一方、回転ドラムは0.2Hzで回転した。使用された装置において、基板を、ガス流225標準リットル毎分(slm)に対応する、50mbarに保たれた窒素ガス軸受で運んだ。ドラムには、気体状前駆体を基板の表面へ向かって通過させる、スロット形状の12個のオリフィスが備えられた。オリフィスは、窒素を基板の表面へ向かって通過させる、より小さい円形のオリフィスによって囲まれた。
【0041】
トリメチルアルミニウム(TMA)を容器内で室温に保ち、水を制御蒸発混合器(controlled evaporator mixer)で保存した。それぞれの蒸気は、回転ドラムのスロット形状オリフィスに交互に供給された。TMA流を、1slmに合わせ、窒素60slmで希釈した。水流を、80g/時に合わせ、窒素25slmで希釈した。基板の表面を、回転ドラムからのガス流に5秒間暴露した。この後、ドラムを、オリフィスを介して窒素を10秒間通過させることによって、パージした。次いで、前述したように、TMAのみをスロット形状オリフィスに2秒間通過させ、続いて窒素パージを10秒行い、そこで120℃の4−メルカプトフェノール(4MP)を含んだ容器をスロット形状オリフィスへ接続し、一方で4MP蒸気流を2slmに合わせ、窒素25slmで10秒間希釈し、その後ドラムを、オリフィスを介して窒素を10秒間通過させることによって、パージした。
【0042】
上記のシーケンスは、[[TMA−H
2O]
5s−TMA
2s−4MP
10s]で示される。このシーケンスは、連続的に75回実施された。厚さ約110〜140nmの積層体が得られた。