【文献】
MERA, Kumiko et al.,Serum levels of apoptosis inhibitor of macrophageare associated with hepatic fibrosis in patients with chronic hepatitis C,BMC Gastroenterology,2014年,14(27),1-10
【文献】
YAMAZAKI, Tomoko et al.,Circulating AIM as an indicator of liver damage and hepatocellular carcinoma in humans,PLOS ONE,2014年,9(10),1-12
【文献】
GRAY, Joe et al.,A proteomic strategy to identify novel serum biomarkers for liver cirrhosis and hepatocellular cancer in individuals with fatty liver disease,BMC Cancer,2009年,9(271),1-11
【文献】
ARAI, Satoko et al.,Obesity-associated autoantibody production requires AIM to retain the immunoglobulin M immune complex on follicular dendritic cells,Cell Reports,2013年,3,1187-1198
【文献】
GANGADHARAN, Bevin et al.,Novel serum biomarker candidates for liver fibrosis in hepatitis C patients,Clinical Chemistry,2007年,53(10),1792-1799
【文献】
MIYAZAKI, Toru et al.,Increased susceptibility of thymocytes to apoptosis in mice lacking AIM, a novel murine macrophage-derived soluble factor belonging to the scavenger receptor cysteine-rich domain superfamily,Journal of Experimental medicine,1999年,189(2),413-422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する分子量約50kDaの分泌型タンパク質である(非特許文献1)。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine−rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0003】
AIMは、接着性のあるタンパク質であり、その結合パートナーとして様々な分子が報告されている。例えば、lipoteichoic acid(LTA)やlipopolysaccharide(LPS)などの細菌・菌類の病原体関連分子パターン(pathogen−associated molecular patterns:PAMPs)を認識し、細菌を凝集させる能力を持つことが知られている(非特許文献2)。また、体内にはAIMをその表面に結合する、あるいは細胞内に取り込む細胞も多く存在し、産生細胞であるマクロファージ自身への取り込みのほか、脂肪細胞ではスカベンジャー受容体CD36を介してエンドサイト―シスにより取り込まれ、脂肪分解を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
また、古くから、血液では、AIMがIgMに結合することが知られている(非特許文献4)。近年では、AIMは、尿中へ排出されずに血液中で安定的に存在するために、IgMとの結合が深く関与していること、ほとんどすべてのAIMは血液中ではIgMと複合体を形成し、非結合体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献5、6)。
【0005】
肝癌(hepatocellular carcinoma;HCC)は、有効な治療法が乏しく、癌種では死亡原因の上位に位置している疾患である。また現在、生活習慣病と共に非アルコール性脂肪性肝疾患(non−alcoholic fatty liver diseases;NAFLD)が増加しつつある。このうち、脂肪肝のみを示す状態(non−alcoholic fatty liver;NAFL)から、炎症・線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(non−alcoholic steatohepatitis;NASH)へ進行する患者数が顕著に増加しているため、今後NASH由来のHCC発症患者数の増加が確実視されている(非特許文献7)。こうした背景を踏まえ、HCCの診断マーカー、およびこれを利用した有効な治療法の開発に関する重大なニーズが存在する。
【0006】
現在までに、AIMと肝癌との関連についていくつかの報告が存在する。例えば、肝臓癌を含むAIM関連疾患の診断または検査方法として、被検者から採取した試料中のAIM濃度を測定する方法が報告されている(特許文献1)。
【0007】
また肝臓癌を含む肝疾患の診断方法において、被検者の試料中のAIM濃度が健常者の試料中のAIM濃度に比べて低値である場合に、前記被検者が肝疾患または肝疾患になる可能性が高いと判断することを含む、肝疾患の診断方法が報告されている(特許文献2)。
【0008】
さらに、健康成人に比して、HCC患者の血中AIM値が有意に高いこと(非特許文献8)、循環するAIMレベルがHCCの診断および/または予後マーカーとして使用し得ること(非特許文献9)、HCCを患う多くの肝硬変の個体で、CD5Lが顕著に上昇したこと(非特許文献10)、ならびにHCVに感染した患者において、肝硬変に比較して、HCCステージでのCD5L発現の増加が見出されたこと(非特許文献11)等が報告されている。
【0009】
しかし、現在までに、他の結合パートナー、特にIgM、と複合体を形成していない、非結合体のAIMと肝癌との関係については、報告されていない。また、HCCと、NAFLやNASHを含む他の肝疾患とを、高い精度で区別できる方法も報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、感度および特異性に優れた肝癌の検査方法または肝癌の診断の補助方法、およびこれらの方法に使用可能なキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、肝癌の被験体の生体試料において、free AIMが顕著に増加していることを見出した。血液では、従来free AIMはほとんど確認することができないと考えられていたため、とりわけ、肝癌の被験体の血清でfree AIMの顕著な増加が確認されたことは驚きである。
【0014】
本発明は上記知見に基づくものであり、以下、本発明の実施の態様を説明するが、これらの態様は本発明の範囲を限定するものではない。
【0015】
すなわち、本発明は、一実施態様において、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含む、肝癌の検査方法に関する。本発明は、別の態様において、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含む、肝癌の診断を補助する方法であることができる。本発明は、さらに別の態様において、肝癌を検査するために、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する方法であることができる。
【0016】
本発明の方法において、前記生体試料は、体液とすることができる。また、本発明の方法の一実施態様において、前記体液は、血清、血漿、全血および尿からなる群から選択されるものとすることができる。
【0017】
本発明の方法は、一実施態様において、前記検出または定量が、イムノアッセイによるものであることを特徴とする。例えば、本発明の方法において、前記検出または定量は、生体試料とfree AIMに結合する抗体とを接触させることにより行うものとすることができる。本発明の方法の一実施態様において、前記free AIMに結合する抗体は、free AIMに特異的に結合する抗体である。また、本発明の一実施態様において、前記検出または定量は、ELISAによる測定であることができる。
【0018】
本発明の方法は、一実施態様において、前記検出または定量は、血清、血漿または全血から選択される血液試料をタンパク質変性条件に曝露することなく、かつ、還元条件に曝露することなく行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の方法は、一実施態様において、被験体に由来する生体試料中のtotal AIMを定量する工程をさらに含むものとすることができる。本発明の方法において、free AIMを定量する工程をさらに含む場合、free AIMの量は、total AIMに対する比率として算出することができる。
【0020】
本発明はまた、free AIMに結合する抗体を含む、肝癌の検査または診断補助用キットに関する。本発明のキットの一実施態様において、前記free AIMに結合する抗体は、free AIMに特異的に結合する抗体である。
【0021】
本発明において、前記肝癌は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に起因する肝癌である。
【0022】
本発明は、非限定的に、以下の特徴を包含する。
(1)肝癌の検査方法であって、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含む、方法。
【0023】
(2)肝癌の診断を補助する方法であって、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含む、方法。
【0024】
(3)肝癌を検査するために、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する方法。
【0025】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の方法であって、前記生体試料が、体液である、方法。
【0026】
(5)(4)に記載の方法であって、前記体液が、血清、血漿、全血および尿からなる群から選択される、方法。
【0027】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法であって、前記肝癌が、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に起因する肝癌である、方法。
【0028】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の方法であって、前記検出または定量は、イムノアッセイによるものである、方法。
【0029】
(8)(7)に記載の方法であって、前記検出または定量は、生体試料とfree AIMに結合する抗体とを接触させることにより行う、方法。
【0030】
(9)(8)に記載の方法であって、前記検出または定量は、free AIMに特異的に結合する抗体により行う、方法。
【0031】
(10)(8)または(9)に記載の方法であって、前記検出または定量は、ELISAによる測定である、方法。
【0032】
(11)(6)〜(10)のいずれかに記載の方法であって、前記検出または定量は、血清、血漿または全血から選択される血液試料をタンパク質変性条件に曝露することなく、かつ、還元条件に曝露することなく行うことを特徴とする、
方法。
【0033】
(12)(1)または(2)に記載の方法であって、被験体に由来する生体試料中のtotal AIMを定量する工程をさらに含む、方法。
【0034】
(13)(12)に記載の方法であって、free AIMとtotal AIMの比率を算出する工程をさらに含む、方法。
【0035】
(14)free AIMに結合する抗体を含む、肝癌の検査または診断補助用キット。
【0036】
(15)(14)に記載のキットであって、前記抗体が、free AIMに特異的に結合する抗体である、キット。
【0037】
(16)(14)または(15)に記載のキットであって、前記肝癌が、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に起因する肝癌である、キット。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、感度および特異性に優れた肝癌の検出方法または肝癌の診断の補助方法、およびこれらの方法に使用可能なキットを提供される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
本発明に係る肝癌の検査方法は、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含むものである。AIMは、上記のとおり、組織マクロファージが特異的に産生する分子量約50kDaの分泌型タンパク質であり、ヒトおよびヒト以外の多くの哺乳類や鳥類において発現していることが知られている。また、AIMは、血液においては、尿中へ排出されずに安定的に存在するために、その大部分がIgMと複合体を形成し、非結合体で存在することがほとんどないことが知られている(非特許文献5、6)。また、被検者の試料中のAIM濃度がより低値である場合に、肝疾患または肝疾患になる可能性が高いとの示唆も存在している(特許文献2)。これらの知見にも関わらず、今回、肝癌の被験体において、生体試料中のfree AIMが顕著に増加することが見出された。したがって、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量することによって、当該被験体における肝癌を良好な検出感度および特異性で検出することができる。本明細書中、「free AIM」とは、生体試料において、AIMの他の結合パートナー、特にIgM、と複合体を形成していない、非結合体のAIMをいう。これに対し、「total AIM」とは、「free AIM」と、他の結合パートナー(例えばIgM等)と複合体を形成したAIM(以下、複合体AIMとも称する)の総称であり、「total AIMを検出または測定する」とは、生体試料中のfree AIMと複合体AIMの両方を検出または測定することをいう。
【0041】
別の態様では、本発明は、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する工程を含む、肝癌の診断を補助する方法に関する。
【0042】
本明細書において、「肝癌の検査」または「肝癌の診断の補助」とは、診断に必要な情報を得るために、被験体から採取した試料を調べることを意味する。したがって、本発明の方法は、医療機関でなくとも、例えば検査会社等で実施され得る。
【0043】
さらに別の態様では、本発明は、肝癌を検査するために、被験体に由来する生体試料中のfree AIMを検出または定量する方法に関する。
【0044】
本発明において、被験体は、特に制限されないが、例えば、肝癌を発症するおそれがあるか、または発症していることが疑われる被験体が挙げられる。被験体には、また、肝癌を既に発症している被験体も含まれ、その場合には、かかる被験体の予後を判定する目的で、または特定の肝癌治療の効果を判定する目的で、本発明を実施することができる。被験体は、典型的にはヒトを指すが、例えば他の霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどを含む他の動物も含み得る。
【0045】
本発明において、肝癌は、肝内に発生する悪性腫瘍をいい、肝臓で原発性に発生する肝細胞癌を意味する。一実施形態において、肝癌は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に起因する肝癌である。
【0046】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の検査方法または肝癌の診断の補助方法により肝癌を発症するおそれがあるか、または発症していることが疑われると判定された被験者に対し、肝癌の治療または処置を施す工程をさらに含むことができる。
【0047】
本発明において、被験体に由来する生体試料は、被験体から採取可能なものである限り特に限定されず、例えば組織または体液とすることができる。組織としては、非限定的に、卵巣、子宮、乳房、甲状腺、脳、食道、舌、肺、膵臓、胃、小腸、十二指腸、大腸、膀胱、腎臓、肝臓、前立腺、胆嚢、咽頭、筋肉、骨および皮膚などが挙げられるがこれらに限定されない。体液としては、非限定的に、血清、血漿または全血などの血液、リンパ液、組織液、髄液、体腔液、消化液、鼻水、涙液、汗および尿などが挙げられるがこれらに限定されない。取得および処理の簡便さから、前記生体試料として血液または尿を用いることが好ましく、血液を用いることがさらに好ましく、血液の中でも血清を用いることが特に好ましい。また、前記体液は、被験体から採取した体液そのものであっても、採取した体液に通常行われる希釈、濃縮等の処理を行ったものであってもよい。なお、本発明に用いる被験体に由来する生体試料の採取や調製を行なう者は、本発明の工程を行う者と同一人物でもよく、別人物であってもよい。また、本発明に用いる被験体に由来する生体試料は、本発明の実施時に採取または調製されたものでもよく、予め採取または調製され保存されたものであってよい。
【0048】
free AIMの検出または定量方法は、free AIMと、複合体AIMとを区別して検出できる方法であれば特に制限はなく、通常用いられるタンパク質検出方法を適用することができる。また、そのようなタンパク質検出方法は、free AIMを定量または半定量的に測定できる方法であることが好ましい。そのような方法として、これに限定されるものではないが、free AIMに結合する抗体を用いる方法、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、質量分析等を挙げることができる。
【0049】
本発明において、free AIMの検出に用いる装置には特に制限はなく、free AIMの検出または測定の方法に応じて適宜選択することができる。具体的には例えば、HPLC機器、質量分析機器(マススペクトロメトリー)、電気泳動機器(キャピラリー電気泳動装置等)、全自動あるいは半自動酵素免疫測定機器、セルウォッシャー、全自動あるいは半自動化学発光免疫測定機器、発光測定装置、全自動あるいは半自動電気化学発光免疫測定機器、光学測定装置、プレートリーダー、CCDカメラ、全自動あるいは半自動蛍光免疫測定機器、蛍光測定装置、全自動あるいは半自動放射免疫測定機器、液体シンチレーションカウンター、クールターカウンター、表面プラズモン測定装置、ブロッティング装置、デンシトメーター等を挙げることができる。
【0050】
本発明においては、検出感度、特異性および簡便性の観点から、free AIMに結合する抗体(本明細書中、「抗free AIM抗体」とも称する)を用いる方法、例えば抗free AIM抗体を用いるイムノアッセイを使用することが好ましい。抗free AIM抗体は、AIMを認識して結合可能な抗体であれば特に制限されない。
【0051】
抗free AIM抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、free AIMまたはfree AIMフラグメントで免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、free AIMまたはfree AIMフラグメントで免疫した動物の血清から得ることができる。free AIMフラグメントはfree AIMの部分ペプチドであり、抗free AIMフラグメント抗体は、free AIMを認識する。また、免疫原としては、例えば、ヒトやサルなどの霊長類、ラットやマウスなどのげっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどのfree AIMまたはfree AIMフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
なお、本明細書において「抗体」とは、天然に存在するか、遺伝子組換え技術によって産生される、全長の免疫グロブリン分子、または抗体フラグメントのような免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片をいう。特に断りがない限り、本発明の抗体はいずれのタイプ、クラス、サブクラスも含み、例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、IgY、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1およびIgA
2などが含まれる。これらの抗体は、慣用技術を用いて作製することができ、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。抗体フラグメントとしては、F(ab’)
2、F(ab)
2、Fab’、Fab、Fv、scFvなどが挙げられる。抗体フラグメントは、例えば、これをコードする核酸を用いて遺伝子組み換え技術によって作製することもできるし、全長の抗体を酵素で切断して作製することもできる。本発明において、抗free AIM抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0053】
本発明において、抗free AIM抗体の例として、例えば、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されたAIM−CL−6(受託番号:NITE BP−1092)およびAIM−CL−7(受託番号:NITE BP−1093)を挙げることができる。
【0054】
本発明において使用する抗free AIM抗体は、free AIMに特異的に結合する抗体であることが好ましい。「特異的な結合」とは、非特異的な相互作用とは測定して異なる結合を指し、本発明においてはさらに、IgMと複合体を形成したAIMよりも、free AIMに対して高い結合親和性を有する抗体を指す。本発明の一態様において、「特異的な結合」は、例えばfree AIMに対して少なくとも約10
−4M、または少なくとも約10
−5M、または少なくとも約10
−6M、または少なくとも約10
−7M、または少なくとも約10
−8M、または少なくとも約10
−9M、または少なくとも約10
−10M、または少なくとも約10
−11M、または少なくとも約10
−12M、またはそれ以上のKdを持つ抗体によって示されうる。別の態様では、「特異的な結合」は、IgMと複合体を形成したAIMを含む、free AIMとは異なる他のポリペプチドに実質的に結合することなく、free AIMに結合することを意味する。
【0055】
本発明におけるイムノアッセイとしては、当業者に一般的に使用される方法を用いることができるが、free AIMと、複合体AIMとが、区別して検出または定量される方法または条件を選択するべきである。例えば、本発明の方法において、尿以外の生体試料、例えば血清、血漿または全血から選択される血液試料を用いる場合には、抗free AIM抗体を用いた検出または定量に際して、free AIMと、複合体AIMとが区別して検出されるように、必要に応じて、分子量に基づく生体試料の分画を行うことが好ましい。また、複合体AIMからfree AIMを分離した後に、抗free AIM抗体を用いて検出または定量を行うことも好ましい。また、本発明の方法において、IgMと結合して複合体を形成したAIMの結合状態が解消されるようなタンパク質変性条件または還元条件に前記生体試料を曝露しないことに留意すべきである。そのようなタンパク質変性条件または還元条件は、タンパク質の立体構造やタンパク質間の結合が破壊または阻害される方法または条件として当業者に周知である。
【0056】
イムノアッセイは、検出可能に標識した抗free AIM抗体、または、検出可能に標識した抗free AIM抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIAまたはELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明の方法に用いることができる。
【0057】
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、
125I、
131I、
35S、
3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリスリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
【0058】
また、イムノアッセイでは、抗free AIM抗体をビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジンまたはストレプトアビジンを結合させて、free AIMを検出、測定することもできる。
【0059】
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に標的を測定することができて好ましい。
【0060】
ELISA法では、例えばサンドイッチ法を用いることができる。固相担体に抗free AIM抗体を固定し、適宜処理した生体試料を添加して反応させた後、さらに酵素で標識した別のエピトープを認識する抗free AIM抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、free AIM濃度を求めることができる。また、固相担体に固定した抗free AIM抗体と生体試料中のfree AIMを反応させた後、非標識free AIM抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
【0061】
酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’−diaminobenzidine(DAB)、3,3’5,5’−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p−nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0062】
また、上記イムノアッセイの中で、高感度にタンパク質を測定する方法として、ECLIA法も好ましい。ECLIA法では、マイクロビーズに抗free AIM抗体を固定し、適宜処理した生体試料を添加して反応させた後、電気化学発光物質を標識した別のエピトープを認識する抗free AIM抗体を添加して反応させる。マイクロビーズを洗浄後、電極上にマイクロビーズを捕捉し、電気エネルギーを加えて発光させ、発光量を測定することにより、free AIM濃度を求めることができる。
【0063】
また、上記イムノアッセイの中で、微量のタンパク質を簡便に検出できる方法として凝集法も好ましい。凝集法としては、例えば、抗体にラテックス粒子を結合させたラテックス凝集法が挙げられる。
【0064】
ラテックス粒子に抗free AIM抗体を結合させて生体試料に混合すると、free AIMが存在すれば、抗体結合ラテックス粒子が凝集する。そこで、試料に近赤外光を照射して、吸光度の測定(比濁法)または散乱光の測定(比朧法)により凝集塊を定量し、抗原の濃度を求めることができる。
【0065】
本発明において、free AIMの検出または定量は、free AIMを特異的に検出可能なキットを用いることができる。当該キットとしては、例えば、市販のキットを挙げることができ、当該キットの製品説明書に従ってfree AIMの検出または定量に用いることができる。そのようなキットとして、これに限定されるものではないが、Human AIM ELISA kit(CY−8080;Circulex社)等を挙げることができる。
【0066】
本発明の方法は、free AIMの検出または定量に加えて、被験体に由来する生体試料中のtotal AIMを定量する工程をさらに含んでもよい。例えばNASH肝癌の患者においては、肝臓の線維化のステージに応じて、生体試料中のtotal AIMには有意な増加が認められない一方、free AIMには有意な増加が認められる。したがって、例えば、total AIMの量をさらに評価することで、より高い精度および特異性で肝癌を検査することができる。本発明の一実施形態では、free AIMの量は、total AIMに対する比率として算出される。
【0067】
total AIMの検出または定量は、当業者に慣用的な任意のタンパク質検出方法によって行うことができ、そのような方法として、これに限定されるものではないが、AIMに結合する抗体を用いる方法、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、質量分析等を挙げることができる。本発明の一実施形態では、特異性と簡便性の観点から、AIMに結合する任意の抗体を用いたイムノアッセイ、例えばELISAによって測定することが好ましい。また、本発明において、total AIMの検出に用いる装置には特に制限はなく、total AIMの検出または測定の方法に応じて適宜選択することができる。
【0068】
本発明において、total AIMの検出または定量は、total AIMを特異的に検出可能なキットを用いることができる。当該キットとしては、例えば、市販のキットを挙げることができ、当該キットの製品説明書に従ってtotal AIMの検出または定量に用いることができる。そのようなキットとして、これに限定されるものではないが、Human AIM ELISA kit(KK901;トランスジェニック社)等を挙げることができる。
【0069】
本発明の一実施形態において、total AIMの検出または定量は、free AIMを検出または定量した被験体に由来する生体試料を、タンパク質変性条件または還元条件に曝露することによって、生体試料中の複合体AIMをfree AIMに変換した後、free AIMの総量を定量することによって行うことができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態において、free AIMの検出または定量とtotal AIMの検出または定量を、一の測定において同時に行うこともできる。そのような実施態様としては、上記AIMに結合する抗体を用いる方法と分子ふるいクロマトグラフィーとを組み合わせた方法を挙げることができる。AIMに結合する抗体は、free AIMおよび他の結合パートナーと複合体を形成したAIMの両方を認識することができる抗体であり、本明細書中、「抗AIM抗体」とも記載される。したがって、抗AIM抗体は、抗free AIM抗体、および/または、他の結合パートナーと複合体を形成したAIMを認識できる抗体であり得る。一実施形態では、抗AIM抗体は、他の結合パートナーとの複合体形成領域とは異なるfree AIM上の領域を認識する抗free AIM抗体である。抗AIM抗体と生体試料を混合すると、前記試料中に複合体AIMまたはfree AIMが存在すれば、抗AIM抗体は、複合体AMI又はfree AIMのそれぞれに結合する。前記混合試料を分子ふるいクロマトグラフィーに適用すると、抗AIM抗体が結合したfree AIMと抗AIM抗体が結合した複合体AIMは、それぞれの分子量に応じた保持時間で分離、溶出されるので、free AIMに由来するピークおよび複合体AIMに由来するピークを測定すれば、free AIM、複合体AIM、total AIM、およびfree AIMのtotal AIMに対する比率を一の測定により同時に測定することができる。上記のような抗体と抗原の結合物をクロマトグラフィーによって分離、測定する方法は、例えば、特開平2−028557などにより公知であり、抗AIM抗体の標識や分子ふるい以外のクロマトグラフィーの適用にも制限がなく、free AIMの検出または定量とtotal AIMの検出または定量に関する本明細書の記載を参考にして、適宜に選択および組み合わせて使用することができる。
【0071】
本発明の方法は、前記被験体由来の生体試料中のfree AIMの量に基づいて、肝癌であると判定する工程をさらに含むことができる。本発明におけるfree AIMの量としては、前記被験体由来の生体試料中に含まれる前記free AIMの濃度またはそれに対応する定量値もしくは半定量値であれば特に制限されない。例えば、本発明におけるfree AIMの量としては、前記free AIMの検出量を直接的に測定した測定値、前記free AIMの検出量を標識の検出を介して間接的に測定した測定値等を挙げることができる。
【0072】
本発明の方法における判定工程では、被験体由来の生体試料中のfree AIMの量を、例えば対照となる健常者の生体試料中のfree AIMの量を基準値(カットオフ値)として比較して、前記被験体由来の生体試料中のfree AIMの量が大きい場合に、肝癌であると判定することができる。
【0073】
対照となる健常者は、肝癌を発症していないことが予め判明している個体を意味する。また、free AIMの量が大きいとは、健常者と肝癌患者とを区別するために設定された基準値(カットオフ値)よりも、被験体に由来するfree AIMの量のほうが大きいことをいう。
【0074】
前記基準値は、例えば、肝癌患者の生体試料におけるfree AIMの量と、対照となる健常者群の生体試料におけるfree AIMの量とをROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)等に付することよって設定することができる。ROC解析は、例えば、疾病の検査方法の検出能、診断能を評価可能な解析方法であって、日本臨床検査自動化学会会誌「臨床検査の診断的有用性評価マニュアル」Ver.1.3(2004.9.1)、Vol.29 Suppl.1(通巻第154号)(2004年9月1日発行)に記載された解析方法である。
【0075】
また、基準値は、例えば、健常者の検出レベルの平均値に、標準偏差を2倍あるいは3倍した値を加算した値として定めることもでき、更に、感度(検出率)および特異性(偽陽性率の低さ)をバランスよく満たす値に適宜定めることができる。
【0076】
例えば、下記実施例3に記載した健常者の血清free AIM測定値(1.12±0.187μg/mL)およびNASH肝癌患者の血清free AIM測定値(2.90±1.375μg/mL)に、上記の手順を適用し、健常者の平均値に3倍標準偏差を加算した値として1.681(1.12+0.187*3)μg/mL、あるいは健常者の平均値に2倍標準偏差を加算した値として1.494(1.12+0.187*2)μg/mL(Human AIM ELISA kit(CY−8080、CircuLex社)による測定値に基づく)を定め、更に、感度および特異性をバランスよく満たす値とすることが挙げられる。
【0077】
上記、判定工程の別の態様としては、例えば、患者を病態等により群分けし、患者群同士のfreeAIMの測定結果を対比させることもできる。そのような例としては、下記実施例に記載したNAFL患者およびNASH患者の群(non−HCC患者群)とNASH肝癌(HCC患者群)の比較を挙げることができる。また、このような場合のカットオフ値として、下記実施例に記載の1.6μg/mL以上(Human AIM ELISA kit(CY−8080、CircuLex社)による測定値に基づく)を挙げることができる。
【0078】
別の態様において、本発明は、肝癌の検査または診断補助用キットに関する。本発明に係るキットは、本発明の一態様において、上述した本発明に係る肝癌の検査方法を行うためのキットであり、抗free AIM抗体を含む。本発明のキットの一実施形態において、抗free AIM抗体は、free AIMに特異的に結合する抗体である。
【0079】
当該検査または診断補助用キットは、free AIMと、抗free AIM抗体との抗原抗体反応を利用するイムノアッセイによって、生体試料中のfree AIM濃度を測定するために必要な試薬および装置を含む。
【0080】
本発明のキットは、一態様において、サンドイッチELISA法によってfree AIM濃度を測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕獲用の抗free AIM抗体;アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼで標識した抗free AIM抗体;および、アルカリホスファターゼ基質(NPP等)またはペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、マイクロタイタープレートOPD等)、を含む。捕獲抗体と標識抗体は、異なるエピトープを認識する。このようなキットの場合、まず、マイクロタイタープレートに捕獲抗体を固定し、ここに適宜処理し希釈した生体試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。次に、標識抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、free AIM濃度を求めることができる。
【0081】
本発明のキットは、別の態様において、二次抗体を使用したサンドイッチELISA法によりfree AIM濃度を測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗free AIM抗体;一次抗体として、抗free AIM抗体;二次抗体として、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼで標識した、抗free AIM抗体に対する抗体;および、アルカリホスファターゼの基質(NPP等)またはペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。捕獲抗体と一次抗体は、異なるエピトープを認識する。このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに捕獲抗体を固定し、ここに適宜処理し希釈した生体試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベートおよび洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、free AIM濃度を求めることができる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され検出感度を高めることができる。
【0082】
本発明のキットは、さらに、必要な緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー、製品説明書等を含むことも好ましい。
【0083】
標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(
25I、
131I、
35S、
3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリスリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また標識抗体としてビオチン化抗体を用い、キットに標識したアビジンまたはストレプトアビジンを加えることもできる。
【0084】
本発明の診断用キットの別の態様として、ECLIA法によってfree AIM濃度を高感度に測定するためのものも挙げられる。このキットは、抗free AIM抗体固相化マイクロビーズ、電気化学発光物質(ルテニウム等)標識抗free AIM抗体等を含む。このようなキットでは、抗free AIM抗体を固相化したマイクロビーズに、適宜処理した生体試料を添加して反応させた後、試料を除去して洗浄する。続いて、電気化学発光物質を標識した別のエピトープを認識する抗free AIM抗体を添加して反応させる。マイクロビーズを洗浄後、電極上にマイクロビーズを捕捉し、電気エネルギーを加えて発光させ、発光量を測定することにより、free AIM濃度を求めることができる。
【0085】
本発明の診断用キットのさらに別の態様として、ラテックス凝集法によってfree AIM濃度を測定するためのものも挙げられる。このキットは、抗free AIM抗体感作ラテックスを含み、生体試料と抗free AIM抗体とを混合し、光学的方法で集塊を定量する。キットに凝集反応を可視化する凝集反応板が含まれていることも好ましい。
【0086】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1:マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体の作製
<動物感作>
抗原として全長ヒトrAIM(2mg/ml)を等量のTiterMaxGold(G−1フナコシ)と混合しエマルジョンを作製した。免疫動物にはBalb/cマウス(チャールズリバー(株)8週齢のメス2匹を用い、後ろ足底部へ抗原溶液50μLを投与した。2週間後に同様の投与を行い、更に2週間以上をおいて抗原溶液50μgを後ろ足底部へ投与し3日後の細胞融合に備えた。
【0088】
<ミエローマ細胞>
ミエローマ細胞にはマウスP3U1を用い、増殖培養には、RPMI1640(11875−119 GIBCO)に、グルタミンとピルビン酸を加え、FBS(S1560 BWT社)を10%になるように添加した培地を用いた。抗生物質としてはペニシリン、ストレプトマイシンを適量加えた。
【0089】
<細胞融合>
麻酔下にて心臓採血を行ったマウスから、無菌的に膝窩リンパ節を摘出し、#200メッシュ付ビーカーにのせ、シリコン棒で押しながら、細胞浮遊液を調製した。細胞はRPMI1640にて2回の遠心洗浄を行った後、細胞数をカウントした。対数増殖期の状態のミエローマ細胞を遠心により集め、洗浄後、リンパ細胞とミエローマ細胞の比率が5対1となるように調製し、混合遠心を行った。細胞融合はPEG1500(783641 ロシュ)を用いて行った。すなわち、細胞ペレットへ1mLのPEG液を3分間かけて反応させ、その後段階的に希釈を行い、遠心にて洗浄した後、培地を加え96ウェルプレート15枚へ200μLずつ入れ、1週間の培養を行った。培地にはミエローマ細胞用培地にHATサプリメント(21060−017 GIBCO)を加え、FBS濃度を15%にしたものを用いた。
【0090】
<マウス腹水採取>
凍結保存された細胞を解凍し、増殖培養を行った後、1週間以上前に0.5mlのプリスタン(42−002 コスモバイオ)を腹腔内投与したヌードマウス(BALB/cAJcl−nu/nu 日本クレア)の腹腔へ、1×10
7個を投与し、およそ2週間後に4〜12mlの腹水を得た。遠心処理にて固形物を除去した後、凍結保存を行った。
【0091】
実施例2:NASH肝癌(HCC)に特異的な血清中free AIMの検出
健常人4例、NAFL患者6例、NASH患者6例、NASH肝癌患者(HCC)14例の血清を、還元条件と非還元条件にてアガロースゲル電気泳動を行い、抗AIM抗体にてウエスタンブロットを行った。
還元条件では、患者血清をSDSとメルカプトエタノールを含むsample bufferと混合し、99℃にて5分間還元した後、e−PAGEL(アト−株式会社)ゲルに添加し、SDS−PAGE法にて分離した。非還元条件では、患者血清をSDSとメルカプトエタノールを含まないsample bufferと混合し、Native−PAGE法にて分離した。電気泳動後、蛋白質をPVDF膜(Immobilon,ミリポア社)に転写し、実施例1で作製したマウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体と4℃ overnightにて一次抗体反応を行った。二次抗体にHRP結合抗マウスIgG抗体、検出試薬としてLuminata Forte Western HRP Substrate(ミリポア社)を用い、シグナルの検出はImage Quant LAS 4000(GE Healthcare社)にて行った。
【0092】
還元条件(A)では、すべてのAIM分子がIgMから外れるためfree AIMの単一のバンドとなった。非還元条件(B)では、AIMはIgMから外れないため、健常人、NAFL患者、NASH患者ではfree AIMのバンドは検出されなかったが、NASH肝癌患者(HCC)ではfree AIMのバンドが検出された。異なる患者血清を使用した実験1と実験2において、同様の結果が確認された(
図1)。また、本実験によって、実施例1で作製したマウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体がAIMと結合することが確認された。
【0093】
実施例3:血清中free AIMの定量
free AIMを定量するHuman AIM ELISA kit(CY−8080,CircuLex社)を用い、健常人10例、NAFL患者42例、NASH患者135例、NASH肝癌患者(HCC)26例の血清中のfree AIM濃度を測定した。測定はキットの取り扱い手順書に従って実施した。統計解析はMan−Whittney U testを用い、p<0.05を有意差ありとした。
その結果、NAFL患者、NASH患者のfree AIM濃度はそれぞれ1.07±0.568μg/mL、1.12±0.632μg/mLであり、健常人(1.12±0.187μg/mL)と差はなかったが、NASH肝癌患者(HCC)では、2.90±1.375μg/mLとfree AIMが有意に高かった(
図2)。
【0094】
実施例4: 肝臓の各線維化ステージにおけるfree AIMおよびtotal AIMの定量
前述のfree AIMを定量するHuman AIM ELISA kit (CY−8080,CircuLex社)を用いて、NASH患者135例、NASH肝癌患者(HCC)26例の血清中のfree AIM濃度を測定した。
さらにtotal AIMを定量するELISAを用いて、患者血清中のtotal AIM濃度を測定した。測定にあたっては、BCA法で濃度を値付けした標準物質を用いた。当該ELISAでは、定法に従って、マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体をプレートに固相化し、患者血清を添加した。洗浄後、HRP標識マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体にて反応させ、HRP基質にて発色させた。用いた抗AIM抗体は、いずれも実施例1に記載の方法に従って作製された抗体であり、free AIMと複合体AIMの双方を認識し、それぞれエピトープが異なる抗体である。
肝臓の線維化の進行に伴いtotal AIMの増加が報告されているため、Bruntの分類(Am J Gastroenterol. 1999 Sep;94(9):2467−2674)に従って、線維化のステージ1と2(F1−F2)、ステージ3(F3)、ステージ4(F4)の3群に患者を分けて解析した。NASH患者のうち、繊維化が見られなかった27例は除き、解析したNASH患者とNASH肝癌患者(HCC)のそれぞれの症例数は、F1−F2で71例と4例、F3で30例と10例、F4で7例と12例であった。
free AIMはいずれのステージにおいても、NASH患者に比べNASH肝癌患者(HCC)で有意に増加した(
図3)。total AIMはいずれのステージでも、NASH患者とNASH肝癌患者の間に有意な差は見られなかった(
図4)。
【0095】
実施例5:癌化に伴うfree AIMの増加とtotal AIMの増加の比較
前述のfree AIMを定量するHuman AIM ELISA kit(CY−8080,CircuLex社)と、実施例4で使用したものと同じtotal AIMを定量するELISAを用い、NAFL患者42例、NASH患者135例とNASH肝癌患者(HCC)26例の血清中のfree AIM濃度とtotal AIM濃度を測定した。total AIMの増加に伴いfree AIMは増加したが、NAFL患者、NASH患者(あわせてnon−HCC)(白丸)に比べNASH肝癌患者(HCC)(黒丸)のfree AIMの増加は顕著であった(
図5)。
【0096】
実施例6:NASH患者とNASH肝癌患者、繊維化進行症例、肝硬変症例におけるROC解析
NASH患者(135例)と、NASH肝癌患者(HCC)(26例)において、血清中のfree AIM濃度とtotal AIM濃度のROC解析を行った(表1参照)。
AUCは、free AIMでは0.927、total AIMでは0.801であった(表1の(A))。free AIMがより高い精度で肝癌の判別が可能であった。
肝癌の発症は、肝臓の線維化が進行するほど起こりやすいことが知られている。線維化ステージ3(F3)およびステージ4(F4)の線維化進行症例において、血清中のfree AIM濃度とtotal AIM濃度のROC解析を行った。線維化進行症例では、AUCはfree AIMでは0.918、total AIMでは0.709であった(表1の(B))。線維化進行症例においても、free AIMは高い精度で肝癌の判別が可能であったが、 total AIMの精度は低かった。
【0097】
線維化が進んだ肝硬変症例では、最も肝癌の発症リスクが高い。ステージ4(F4)の肝硬変症例において、血清中のfree AIM濃度とtotal AIM濃度のROC解析を行った。肝硬変症例では、AUCはfree AIMでは0.869、total AIMでは0.506であった(、表1の(C))。肝硬変症例においても、free AIMは高い精度で肝癌の判別が可能であったが、total AIMの精度は低かった。
【表1】
【0098】
実施例7:non−HCC患者とHCC患者におけるROC解析
NAFL患者、NASH患者(あわせてnon−HCC患者)(177例)と、NASH肝癌患者(HCC)(26例)を対象に、血清中のfree AIM濃度とtotal AIM濃度およびfree AIM濃度とtotal AIM濃度の比率につきROC解析を行った。AUCは、free AIMで0.929、total AIMで0.806、free AIM/total AIM比で0.842であり、free AIMがより高い診断効率で肝癌患者の判別が可能であった(
図6参照)。
【0099】
実施例8:診断感度と特異度の解析
NAFL患者、NASH患者(あわせてnon−HCC)(177例)と、NASH肝癌患者(HCC)(26例)について血中のfree AIM濃度を測定し、カットオフ値を1.6μg/mLとして、free AIMによる肝癌の診断的価値を検討した。その結果、NASH肝癌患者(HCC)で1.6μg/mL以上を示した患者は23例であり、診断感度は0.885(23/26)であった。また、肝癌ではない患者で1.6μg/mL未満を示した患者は152例であり、診断特異度は0.859(152/177)であった(表2)。
【表2】
【0100】
実施例9:腫瘍マーカーとの関連性
NASH肝癌患者25例を対象として、血中のfree AIM濃度、total AIM濃度、free AIM濃度とtotal AIM濃度の比率につき、腫瘍マーカー(PIVKA−II,AFP)との関連性を検討した。PIVKA−IIとAFPのカットオフ値をそれぞれ40mAU/mL、20ng/mLとして患者を分別し、それぞれの患者についてfree AIM濃度、total AIM濃度、free AIM濃度とtotal AIM濃度の比率を解析した。その結果、各腫瘍マーカーのカットオフ値以上を示した患者群と、カットオフ値未満を示した患者群間におけるfree AIM濃度、total AIM濃度、free AIM濃度とtotal AIM濃度の比率にいずれも有意差は認められなかった(表3)。
【0101】
【表3】