特許第6688310号(P6688310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688310テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含む錠剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688310
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含む錠剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20200421BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200421BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   A61K31/675
   A61K9/20
   A61K47/04
   A61K47/10
   A61K47/12
   A61K47/14
   A61K47/22
   A61K47/26
   A61K47/34
   A61K47/36
   A61K47/38
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-546980(P2017-546980)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公表番号】特表2018-507878(P2018-507878A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】KR2016001840
(87)【国際公開番号】WO2016144023
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2019年1月7日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0034552
(32)【優先日】2015年3月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508095946
【氏名又は名称】アジョウ・ユニバーシティ・インダストリー−アカデミック・コーポレイション・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】AJOU UNIVERSITY INDUSTRY−ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】512225748
【氏名又は名称】エステックファーマ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンジュン
(72)【発明者】
【氏名】オ,カヒ
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−502597(JP,A)
【文献】 特開2006−022039(JP,A)
【文献】 特開平11−349479(JP,A)
【文献】 特開2009−084242(JP,A)
【文献】 特表2014−516082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;およびベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤を含む、金属性の滑沢剤−非含有錠剤。
【請求項2】
前記非−金属性の滑沢剤が、ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、および植物性硬化油からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記非−金属性の滑沢剤が、錠剤全重量に対して、0.5ないし15重量%の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項4】
亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、α‐トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピルガレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびコエンザイムQ10からなる群から選択される1種以上の抗酸化剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項5】
前記抗酸化剤が、錠剤全重量に対して、0.1ないし20重量%の量で存在することを特徴とする請求項4に記載の錠剤。
【請求項6】
アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上の賦形剤;およびクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上の崩壊剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の錠剤。
【請求項7】
コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤;またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物を打錠することを含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法。
【請求項9】
(a)薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物で乾燥顆粒を形成する工程、および
(b)工程(a)で得られた顆粒;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な崩壊剤の混合物を打錠する工程を含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法。
【請求項10】
前記非−金属性の滑沢剤が、ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、および植物性硬化油からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記非−金属性の滑沢剤が、錠剤全重量に対して、0.5ないし15重量%の量で用いられることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記混合物が、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、α‐トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピルガレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびコエンザイムQ10からなる群から選択される1種以上の抗酸化剤をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(a)の前記混合物が、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、α‐トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピルガレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびコエンザイムQ10からなる群から選択される1種以上の抗酸化剤をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記抗酸化剤が、錠剤全重量に対して、0.1ないし20重量%の量で用いられることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記賦形剤が、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上であり;前記崩壊剤が、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項16】
前記賦形剤が、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上であり;前記工程(a)および工程(b)の崩壊剤が、独立的にクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項17】
前記混合物が、コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤;またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項18】
工程(a)の前記混合物が、コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤;またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項19】
全工程が、相対湿度60%以下の条件で行われることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含む錠剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;および非−金属性の滑沢剤を含む、金属性の滑沢剤−非含有(free of metal−containing lubricant)錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テノホビルジソプロキシルは、ホスフィニル−メトキシ−プロピル−アデニン(PMPAまたはテノホビル)に生理学的に加水分解されることができるエステル結合を付着して生理学的経口活性を改善した前駆薬物である。テノホビルジソプロキシルは、抗ウイルス効果を有するヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤として、ビリアードの製品名でAIDSおよびB型肝炎治療剤として広く用いられ、その化学式は以下の通りである。
<化1>
【0003】
テノホビルジソプロキシルは、エステル結合を有して、貯蔵過程で前記エステル結合が加水分解される傾向があり、そのためエステル形態の保護マスキング基(protective masking group)を失うことになって、結果的に減少されたバイオアベイラビリティと低い経口活性を示す問題がある。特に、テノホビルジソプロキシルは、水分により化学的に分解されやすく、そのため経口的非活性物質であるモノ−POC PMPA、ダイマー、モノ−POC ダイマー(mono−POC dimer)、混合ダイマー、IPC−混合トリマー(IPC−mixed trimer)などの不純物がもたらされる問題がある。
<モノ−POC PMPA>
<ダイマー>
【0004】
テノホビルジソプロキシルの安定性改善のために、米国特許第5,935,946号は、テノホビルジソプロキシルの一部およびフマル酸の一部をそれぞれ含むテノホビルジソプロキシルフマレート複合体で構成された結晶形を開示している。また、米国特許第6,635,278号は、結晶形アデホビルジピボキシルを含み、選択的にL−カルニチン−L−酒石酸塩を含有する錠剤組成物にマグネシウムまたは炭酸カルシウムのようなアルカリ性賦形剤を添加して、モノエステルのような不純物の形成を減らすことを開示している。また、大韓民国特開第10−2013−0126951号は、ポリマーとしてコポビドンの中で、アデホビルジピボキシルの分子分散液を作って剤形化することによって貯蔵安定性を有する組成物を開示している。その他、テノホビルジソプロキシルの安定性改善のための多様な新規塩が開示されている(大韓民国特許第10−1458330号、第10−1439255号、大韓民国特開第10−2015−0005818号など)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤であって、製剤化過程で分解産物(特に、Mono−POC PMPA)の生成を最小化し、さらに優れた貯蔵安定性を有する医薬組成物を開発するために多様な研究を行った。本発明者らは、製剤化過程で用いられる滑沢剤、特にステアリン酸マグネシウムのような金属性の滑沢剤が、テノホビルジソプロキシルの分解産物生成を促進することを見出した。また、本発明者らは、抗酸化剤を用いて製剤化を行う場合、優れた貯蔵安定性を有するテノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造することができることを見出した。
【0006】
したがって、本発明は、非−金属性の滑沢剤および/または抗酸化剤を含有する、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様において、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;およびベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤を含む、金属性の滑沢剤−非含有(free of metal−containing lubricant)錠剤が提供される。
【0009】
本発明の別の態様において、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物を打錠することを含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに他の態様において、(a)薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物で乾燥顆粒を形成する工程、および(b)工程(a)で得られた顆粒;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な崩壊剤の混合物を打錠する工程を含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
ステアリン酸マグネシウムのような金属性の滑沢剤が、テノホビルジソプロキシルの分解産物生成を促進することが本発明によって見出され、本発明にしたがって脂肪酸類、脂肪酸誘導体類、ワックス類などの非−金属性の滑沢剤を用いて製剤化する場合、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の分解産物(特に、Mono−POC PMPA)の生成を最小化することができる。また、本発明にしたがって抗酸化剤を用いて製剤化を行う場合、優れた貯蔵安定性を有するテノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;およびベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤を含む、金属性の滑沢剤−非含有(free of metal−containing lubricant)錠剤を提供する。
【0013】
本発明により、ステアリン酸マグネシウムのような金属性の滑沢剤が、テノホビルジソプロキシルの分解産物生成を促進することが、見出された。すなわち、テノホビルジソプロキシル遊離塩基が、水分によりモノエステル形態に分解され、その時金属イオンを含有する滑沢剤が、加水分解触媒として作用することが見出された。したがって、本発明によって、脂肪酸類、脂肪酸誘導体類、ワックス類などの非−金属性の滑沢剤を用いて製剤化する場合、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の分解産物(特に、Mono−POC PMPA)の生成を最小化することができる。前記非−金属性の滑沢剤は、好ましくはベヘン酸グリセリル(glyceryl behenate)、硬化ヒマシ油(hydrogenated castor oil)、および植物性硬化油(hydrogenated vegetable oil)からなる群から選択される1種以上であってもよい。また、前記非−金属性の滑沢剤は、錠剤全重量に対して、0.5ないし15重量%、好ましくは1.0ないし10重量%の量で存在してもよい。前記非−金属性の滑沢剤の含量が0.5重量%未満の場合、錠剤製造の時に滑沢が十分にされず、スティッキングのような打錠問題が発生するおそれがある。また、前記非−金属性の滑沢剤の含量が15重量%を超える場合、錠剤の崩解が遅延されて体内で溶出が低下するおそれがある。
【0014】
また、テノホビルジソプロキシル遊離塩基は、貯蔵状態でお互いに反応してダイマー(dimer)または混合ダイマーを形成する傾向がある。本発明により抗酸化剤を用いて製剤化を行う場合、テノホビルジソプロキシルのダイマーまたは混合ダイマーの生成が抑制され、またモノエステルのような不純物の生成も減少されることによって、優れた貯蔵安定性を有するテノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造することができることが見出された。前記抗酸化剤は、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニリン、アスコルビン酸、α‐トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピルガレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびコエンザイムQ10からなる群から選択される1種以上であってもよい。好ましくは前記抗酸化剤は、亜硫酸水素ナトリウム(sodium bisulfite)、メタ重亜硫酸ナトリウム(sodium metabisulfite)、およびブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene)からなる群から選択されてもよい。前記抗酸化剤は、錠剤全重量に対して、0.1ないし20重量%、好ましくは0.5ないし5重量%の量で存在してもよい。前記抗酸化剤の含量が0.1重量%未満であると、貯蔵安定性を向上させることが困難となる場合がある。また、前記抗酸化剤の含量が20重量%超えると、他の薬剤学的賦形剤を含むゆとりがなくなって、錠剤の製造が困難になるおそれがある。
【0015】
本発明にしたがうテノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤は、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖(例えば、一水和物、無水乳糖など)、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉(トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉など)、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上の賦形剤;およびクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上の崩壊剤をさらに含んでもよい。また、前記賦形剤として微結晶セルロースが混合されたLudipressTMを用いてもよい。一実施形態において、前記賦形剤は、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、およびマンニトールからなる群から選択される1種以上であってもよく;前記崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウムおよびクロスポビドンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0016】
また、本発明にしたがう錠剤は、コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤(または流動改善剤);またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含んでもよい。一実施形態において、前記潤滑剤は、コロイド状二酸化ケイ素または軽質無水ケイ酸であってよく;前記pH調節剤は、グルタミン酸およびシュウ酸からなる群から選択される1種以上であってもよい。また、必要に応じて、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コポビドン、ポリビニルアルコール、澱粉、およびゼラチンからなる群から選択される結合剤をさらに含んでもよい。また、本発明にしたがう錠剤は、フィルムコーティング層、糖衣コーティング層などの通常のコーティング層を含んでもよい。
【0017】
本発明は、上記した本発明にしたがうテノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法を含む。本発明の製造方法は、全工程をテノホビルジソプロキシル遊離塩基の水分に対する不安定性を最大限に回避する条件下で行うことが好ましい。すなわち、本発明にしたがう製造方法は、相対湿度60%以下の条件で、水または溶媒を使用せずに行うことが好ましい。
【0018】
一実施形態において、本発明は、直接打錠法にしたがう製造方法を含む。すなわち、本発明は、薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物を打錠することを含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法を提供する。
【0019】
別の一実施形態において、本発明は、乾式顆粒圧縮法にしたがう製造方法を含む。すなわち、本発明は、(a)薬学的活性成分として、テノホビルジソプロキシル遊離塩基;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な賦形剤および崩壊剤を含む混合物で乾燥顆粒を形成する工程、および(b)工程(a)で得られた顆粒;ベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、植物性硬化油、ステアリン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上の非−金属性の滑沢剤;および薬学的に許容可能な崩壊剤の混合物を打錠する工程を含む、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の製造方法において、前記非−金属性の滑沢剤は、好ましくはベヘン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、および植物性硬化油からなる群から選択される1種以上であってもよい。また、前記非−金属性の滑沢剤は、錠剤全重量に対して、0.5ないし15重量%、好ましくは1.0ないし10重量%の量で用いられてもよい。
【0021】
前記直接打錠法にしたがう製造方法においての前記混合物;または前記乾式顆粒圧縮法にしたがう製造方法においての工程(a)の混合物は、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニリン、アスコルビン酸、α‐トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピルガレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびコエンザイムQ10からなる群から選択される1種以上の抗酸化剤をさらに含んでもよい。好ましくは、前記抗酸化剤は、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびブチル化ヒドロキシトルエンからなる群から選択されてもよい。前記抗酸化剤は、錠剤全重量に対して、0.1ないし20重量%、好ましくは0.5ないし5重量%の量で用いられてもよい。
【0022】
前記直接打錠法にしたがう製造方法においての前記混合物の中で、前記賦形剤は、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖(例えば、一水和物、無水乳糖など)、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉(トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉など)、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上であってもよく;前記崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であってもよい。また、前記混合物は、コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤;またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含んでもよい。
【0023】
前記乾式顆粒圧縮法にしたがう製造方法において、前記賦形剤は、アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖(例えば、一水和物、無水乳糖など)、マンニトール、グルコース、マルチトール、デキストリン、シクロデキストリン、イソマルト、マルトデキストリン、デキストレート、結晶セルロース、澱粉(トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉など)、白糖、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、およびゼラチンからなる群から選択される1種以上であってもよく;前記工程(a)および工程(b)の崩壊剤は、独立的にクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であってもよい。また、工程(a)の前記混合物は、コロイド状二酸化ケイ素および軽質無水ケイ酸からなる群から選択される1種以上の潤滑剤;またはグルタミン酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上のpH調節剤をさらに含んでもよい。
【0024】
また、必要に応じて、本発明の製造方法は、フィルムコーティング層、糖衣コーティング層などの通常のコーティング層の形成工程をさらに含んでもよい。例えば、通常のコーティング物質を、99%以上のアルコールに溶解させて得られた溶液を噴射することによって、コーティング層の形成工程を行ってもよい。
【0025】
以下、本発明を下記実施例及び実験例によりさらに具体的に説明する。しかし、これらの実施例及び試験例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲はそれらによって制限されるものではない。
【0026】
実施例1ないし4:錠剤の製造(直接打錠法)
下記表1の成分および含量にしたがって、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造した。表1の含量は、単位錠剤当たりの重量(mg)を示し、全工程は50%以下の相対湿度下で行った。
【0027】
テノホビルジソプロキシル遊離塩基、賦形剤(アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖(200メッシュで篩過)、および/またはマンニトール)、および崩壊剤(クロスカルメロースナトリウムまたはクロスポビドン)を混合した。得られた混合物を、潤滑剤(コロイド状二酸化ケイ素、実施例3および4)またはpH調節剤(グルタミン酸、実施例1および4)と混合した後、抗酸化剤(亜硫酸水素ナトリウムまたはブチル化ヒドロキシトルエン)および滑沢剤(硬化ヒマシ油または植物性硬化油)を混合した。得られた混合物を回転式打錠機(DCM Korea社製、モデル:DP−2008)で打錠して、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造した。
<表1>
【0028】
実施例5ないし10:錠剤の製造(乾式顆粒圧縮法)
下記表2の成分および含量にしたがって、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造した。表2の含量は、単位錠剤当たりの重量(mg)を示し、全工程は、約43%の相対湿度下で行った。
【0029】
テノホビルジソプロキシル遊離塩基、賦形剤(アルファー化デンプン、微結晶セルロース、乳糖(200メッシュで篩過)、および/またはマンニトール)、および崩壊剤(クロスカルメロースナトリウム)を混合した。得られた混合物を、潤滑剤(コロイド状二酸化ケイ素、実施例5)、pH調節剤(シュウ酸、実施例7)、または抗酸化剤(メタ重亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム、実施例6ないし10)と混合した後、滑沢剤(硬化ヒマシ油)を混合した。得られた混合物を20メッシュ篩で篩過した後、圧縮顆粒機(FEUND社製、モデル:TF−LAB0)で分当たり10rpmの速度で回転する圧縮ローラの間を通過させて乾燥顆粒(dry granules)を製造した。得られた顆粒をオシレーターで18メッシュ篩を通過させて精粒した後、崩壊剤(クロスカルメロースナトリウム)および滑沢剤(硬化ヒマシ油、植物性硬化油、またはベヘン酸グリセリル)と混合した後、回転式打錠機(DCM Korea社製、モデル:DP−2008)で打錠して、テノホビルジソプロキシル遊離塩基を含有する錠剤を製造した。
<表2>
【0030】
実験例1:分解産物の分析
抗酸化剤を含有しない錠剤において、滑沢剤と分解産物との含量の関係を分析した。すなわち、実施例2の組成(抗酸化剤は除外)で滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用いて、実施例2と同様の方法で錠剤(比較例1)を製造した。また、比較のために、沢剤として植物性硬化油を含有する錠剤(実施例11)を製造した。それぞれの錠剤は、全て相対湿度50%以下の作業条件で製造し、各錠剤の成分および含量は下記表3の通りである。表3の含量は、単位錠剤当たりの重量(mg)を示す。
<表3>
【0031】
比較例1および実施例11の錠剤中の分解産物(Mono−POC PMPA)含量を分析し、それぞれの錠剤を4週間25℃/15%の条件下で保管した後、分解産物(Mono−POC PMPA)の含量を分析した。前記分解産物の含量は、下記のように分析した:テノホビルジソプロキシル遊離塩基の標準品をアセトニトリルに溶かして1.5mg/mLの濃度で調製して標準液とし、比較例1および実施例11の錠剤のそれぞれ2錠を200mL容量フラスコに入れ、25mmol/Lのリン酸カリウム溶液(pH3)の約120mLを入れた後、錠剤が完全に崩解されるまで撹拌した。その溶液にアセトニトリルをフラスコの標線の下まで入れて撹拌した。その溶液の標線をリン酸カリウム溶液を用いて合わせ、検液として用いた。前記分解産物の含量は、下記表4の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて分析し、その結果は表5の通りである。
<表4>
<表5>
【0032】
前記表5の結果から明らかなように、本発明にしたがって滑沢剤として非−金属性の滑沢剤を用いた錠剤は、初期分解産物の含量が低く、4週間の保管後でも有意な分解産物の含量の増加は観察されなかった。しかし、金属性の滑沢剤を用いた比較例1の錠剤は、顕著な分解産物の含量の増加が観察された。
【0033】
実験例2:抗酸化剤の影響評価
抗酸化剤を含有しないまたは含有する錠剤を製造して抗酸化剤にしたがう安定性を評価した。すなわち、実施例5ないし10と同様の方法で、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウムを含有する錠剤(製剤例2)および抗酸化剤を含有しない錠剤(製剤例1)を製造した。各錠剤の成分および含量は、下記表6の通りである。表6の含量は、単位錠剤当たりの重量(mg)を示す。
<表6>
【0034】
製剤例1および2の錠剤中の初期分解産物の含量を分析し、それぞれの錠剤を2週間25℃/93%の苛酷条件下で保管した後、分解産物(Mono−POC PMPA、mono−POC Dimer、IPC−mixed trimer)の含量を分析した。前記分解産物の含量は、大韓民国薬局方(KP、Korean Pharmacopoeia)に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法にしたがって実験例1の条件で分析した。その結果は、下記表7の通りである。
<表7>
【0035】
前記表7の結果から明らかなように、本発明にしたがって抗酸化剤を含有する錠剤は、初期分解産物の含量がさらに低く、苛酷条件で2週間の保管後でも有意な分解産物の含量の増加は観察されなかった。