特許第6688345号(P6688345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688345大きな角ストロークがあるたわみガイドメンバーを備える計時器用発振器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688345
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】大きな角ストロークがあるたわみガイドメンバーを備える計時器用発振器
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/04 20060101AFI20200421BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   G04B17/04
   G04B17/06 Z
【請求項の数】24
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-132944(P2018-132944)
(22)【出願日】2018年7月13日
(65)【公開番号】特開2019-28064(P2019-28064A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年8月15日
(31)【優先権主張番号】17183666.1
(32)【優先日】2017年7月28日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニ・ディ ドメニコ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・レショー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ファーヴル
(72)【発明者】
【氏名】バティスト・イノー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ジャック・ボルン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−リュック・エルフェ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ウィンクレ
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−118548(JP,A)
【文献】 米国特許第3628781(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04−17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の剛支持要素(4)と、第2の固体慣性要素(5)と、及び前記第1の剛支持要素(4)と前記第2の固体慣性要素(5)の間に、前記第2の固体慣性要素(5)を支持し安静位置に戻すように構成している少なくとも2つの第1のフレキシブル細長材(31、32)とを有する機械式の計時器用発振器(100)であって、
前記第2の固体慣性要素(5)は、安静位置を中心として振動平面内において角度的に振動するように構成しており、
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)どうしは、互いに触れず、安静位置において前記振動平面上への射影において交差点(P)にて交差し、
この交差点(P)を前記振動平面とは垂直に前記第2の固体慣性要素(5)の回転軸が通り、
前記第1の剛支持要素(4)と前記第2の固体慣性要素(5)における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の埋め込み箇所は、前記振動平面と平行である2つの細長材方向(DL1、DL2)を定め、
前記2つの細長材方向(DL1、DL2)どうしは、安静位置において前記振動平面上への射影において頂角(α)を形成し、
前記交差点(P)の位置は、比X=D/Lによって定められ、ここで、Dは、前記振動平面上への射影における前記第1の剛支持要素(4)における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の前記埋め込み箇所のうちの1つと、前記交差点(P)との間の距離であり、Lは、前記振動平面上への射影における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の全長であり、
前記比D/Lの値は、0〜1であり、
前記頂角(α)は、60°以下であり、
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)それぞれにおいて、前記埋め込み箇所の比(D1/L1、D2/L2)は、境界を含む0.15〜0.85であり、
前記発振器(100)の重心は、安静位置において、オフセット(ε)だけ前記交差点(P)から離れており、
前記オフセット(ε)は、前記振動平面上への射影における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の前記全長(L)の10%〜20%であり、
前記頂角(α)及び前記比X=D/Lは、関係h1(D/L)<α<h2(D/L)を満たし、
ここで、0.2≦X<0.5の場合、
h1(X)=116-473*(X+0.05)+3962*(X+0.05)3-6000*(X+0.05)4
h2(X)=128-473*(X-0.05)+3962*(X-0.05)3-6000*(X-0.05)4であり、
0.5<X≦0.8の場合、
h1(X)=116-473*(1.05-X)+3962*(1.05-X)3-6000*(1.05-X)4
h2(X)=128-473*(0.95-X)+3962*(0.95-X)3-6000*(0.95-X)4である
ことを特徴とする発振器(100)。
【請求項2】
前記オフセット(ε)は、前記振動平面上への射影における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の前記全長(L)の12%〜18%である
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項3】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)及びそれらの埋め込み箇所はともに、前記振動平面上への射影において前記交差点(P)を通り抜ける対称軸(AA)に対して対称的であるピボット(1)を定める
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項4】
前記振動平面上への射影において、安静位置において、前記第2の固体慣性要素(5)の重心は、前記ピボット(1)の前記対称軸(AA)上に位置している
ことを特徴とする請求項3に記載の発振器(100)。
【請求項5】
前記振動平面上への射影において、前記第2の固体慣性要素(5)の重心は、前記第2の固体慣性要素(5)の回転軸に対応する前記交差点(P)から0でない距離だけ離れており、
この0でない距離は、前記振動平面上への射影における前記第1のフレキシブル細長材(31、32)の前記全長(L)の0.1〜0.2倍である
ことを特徴とする請求項4に記載の発振器(100)。
【請求項6】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)は、まっすぐな細長材である
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項7】
前記埋め込み箇所の比(D1/L1、D2/L2)は、境界を含む0.15〜0.49又は境界を含む0.51〜0.85である
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項8】
前記頂角(α)は、50°以下であり、
前記埋め込み比(D1/L1、D2/L2)は、境界を含む0.25〜0.75である
ことを特徴とする請求項7に記載の発振器(100)。
【請求項9】
前記頂角(α)は、40°以下であり、
前記埋め込み箇所の比(D1/L1、D2/L2)は、境界を含む0.30〜0.70である
ことを特徴とする請求項8に記載の発振器(100)。
【請求項10】
前記頂角(α)は、35°以下であり、
前記埋め込み箇所の比(D1/L1、D2/L2)は、境界を含む0.40〜0.60である
ことを特徴とする請求項9に記載の発振器(100)。
【請求項11】
前記頂角(α)は、30°以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項12】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)どうしは、同じ長さLを有し、同じ距離Dだけ離れている
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(10)。
【請求項13】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)は、これらの埋め込み箇所の間で、同一である
ことを特徴とする請求項12に記載の発振器(100)。
【請求項14】
前記第1の剛支持要素(4)は、当該発振器(100)が備える固定構造に対して直接又は間接的に動くことができ、
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)と同様な形態で配置された2つの第2のフレキシブル細長材(33、34)を用いて、第3の剛要素(6)に担持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項15】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)と前記第2のフレキシブル細長材(33、34)は、前記振動平面上への射影において、同じ交差点(P)にて交差する
ことを特徴とする請求項14に記載の発振器(100)。
【請求項16】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)及びそれらの埋め込み箇所はともに、前記振動平面上への射影において前記交差点(P)を通り抜ける対称軸(AA)に対して対称的であるピボット(1)を定め、
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)と前記第2のフレキシブル細長材(33、34)は、前記振動平面上への射影において、安静位置において、両方とも前記ピボット(1)の対称軸(AA)上に位置している2つの別個の点において交差する
ことを特徴とする請求項14に記載の発振器(100)。
【請求項17】
前記第1の剛支持要素(4)と前記第3の剛要素(6)における前記第2のフレキシブル細長材(33、34)の埋め込み箇所は、前記振動平面と平行である2つの細長材方向を定め、これらの2つの細長材方向は、前記振動平面上への射影において、前記第1のフレキシブル細長材(31、32)と同じ頂角(α)を形成する
ことを特徴とする請求項14に記載の発振器(100)。
【請求項18】
前記第2のフレキシブル細長材(33、34)は、第1のフレキシブル細長材(31、32)と同一である
ことを特徴とする請求項14に記載の発振器(100)。
【請求項19】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)及びそれらの埋め込み箇所はともに、前記振動平面上への射影において前記交差点(P)を通り抜ける対称軸(AA)に対して対称的であるピボット(1)を定め、
前記第2の固体慣性要素(5)の重心は、前記振動平面上への射影において、安静位置において、前記ピボット(1)の前記対称軸(AA)上に位置している
ことを特徴とする請求項14に記載の発振器(100)。
【請求項20】
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)及びそれらの埋め込み箇所はともに、前記振動平面上への射影において前記交差点(P)を通り抜ける対称軸(AA)に対して対称的なピボット(1)を定め、
前記第2の固体慣性要素(5)の重心は、前記振動平面上への射影において、安静位置において、前記ピボット(1)の前記対称軸(AA)上に位置しており、
前記第1のフレキシブル細長材(31、32)と前記第2のフレキシブル細長材(33、34)は、前記振動平面上への射影において、安静位置において、同じ交差点(P)で交差し、
この交差点(P)は、前記第2の固体慣性要素(5)の重心の前記射影にも対応している
ことを特徴とする請求項15に記載の発振器(100)。
【請求項21】
当該発振器(100)の重心は、安静位置において、前記対称軸(AA)上に位置している
ことを特徴とする請求項3に記載の発振器(100)。
【請求項22】
前記第2の固体慣性要素(5)は、前記ピボット(1)の対称軸(AA)の方向において長くなっている
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器(100)。
【請求項23】
請求項1に記載の発振器(100)を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメント(1000)。
【請求項24】
請求項23に記載の計時器用ムーブメント(1000)を少なくとも1つ有する腕時計(2000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の剛支持要素と、第2の固体慣性要素と、及び前記第1の剛支持要素と前記第2の固体慣性要素の間に、前記第2の固体慣性要素を支持し安静位置に戻すように構成している少なくとも2つの第1のフレキシブル細長材とを有する機械式の計時器用発振器に関する。前記第2の固体慣性要素は、安静位置を中心として振動平面内において角度的に振動するように構成している。前記第1のフレキシブル細長材どうしは、互いに触れず、安静位置において前記振動平面上への射影において交差点にて交差し、この交差点を前記振動平面とは垂直に前記第2の固体慣性要素の回転軸が通る。前記第1の剛支持要素と前記第2の固体慣性要素における前記第1のフレキシブル細長材の埋め込み箇所は、前記振動平面と平行である2つの細長材方向を定め、前記2つの細長材方向どうしは、安静位置において前記振動平面上への射影において頂角を形成する。前記交差点の位置は、比X=D/Lによって定められ、ここで、Dは、前記振動平面上への射影における前記第1の剛支持要素における前記第1の細長材の前記埋め込み箇所のうちの1つと、前記交差点との間の距離であり、Lは、前記振動平面上への射影における前記細長材の全長であり、前記比D/Lの値は、0〜1である。
【0002】
本発明は、さらに、このような機械式発振器を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、このような計時器用ムーブメントを有する腕時計に関する。
【0004】
本発明は、フレキシブル細長材が可動要素を保持し戻す機能を行うたわみガイドメンバーを有する計時器のための機械式発振器の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
機械式の計時器用発振器において、たわみガイドメンバー、特に、フレキシブル細長材を有するもの、を用いることが、時間が経過しても弾性特性が一定であり温度や水分のような外的因子の影響を受けにくいケイ素や酸化ケイ素のような微細機械加工可能な材料を構築するためのMEMS、LIGAのようなプロセスによって、可能になっている。同じ出願人による欧州特許出願EP1419039又はEP16155039において開示されているようなたわみピボットは、特に、伝統的なバランスピボットとこれに通常付属しているバランスばねを、置き換えることができる。ピボット摩擦をなくすことによっても、発振器のQを相当に増加させることができる。しかし、たわみピボットには、一般的に、角ストロークが約10〜20°であって限られている。この角ストロークは、バランス/バランスばねの通常の振幅である300°と比較して非常に小さい。このことは、たわみピボットを、伝統的なエスケープ機構と、特に、スイス式レバーのような通常の止めメンバーと、直接組み合わせることができないことを意味する。
【0006】
2016年9月28日及び29日にスイスのモントルーで開催された国際クロノメトリー会議(International Chronometry Congress)において、M. H. Kahrobaiyanのチームが、論文「Gravity insensitive flexure pivots for watch oscillators」において、この角ストロークを大きくすることを初めて紹介した。このチームによって考えられた複雑な手法では等時性を与えないように考えられる。
【0007】
同じ出願人、SWATCH GROUP RESEARCH & DEVELOPMENT Ltdによる欧州特許出願EP3035127A1は、少なくとも2つの振動する可動部品を有する少なくとも1つの音叉共振器を有する計時器用発振器を開示している。この可動部品は、発振器に設けられた接続要素にフレキシブル要素によって固定される。このフレキシブル要素の幾何学的構成が、接続要素に対して所定の位置にある仮想的なピボット軸を決める。対応する可動部は、仮想的な回転軸のまわりを振動し、安静位置において、可動部の重心が、対応する仮想的な回転軸と一致する。この可動部の少なくとも1つにおいて、フレキシブル要素は、2つの平行な平面内にて互いに離れて延在している交差する弾性細長材によって形成され、これらの弾性細長材の方向は、前記平行な平面上への射影において、関心事の可動部の仮想的な回転軸にて交差する。
【0008】
Gribによる米国特許US3628781は、二重のカンチレバー構造の形態の音叉を開示している。これは、少なくとも2つの同様な細長い曲げ可能な弾性部分を有する第1の弾性変形可能な本体を有し、固定基準面に対する目立つ回転運動を1対の可動要素に行わせる。前記曲げ可能な部分の各端は、当該可動要素の大きくされた剛体部分と一体化されている。第1の剛体部分は、基準面を定めるように固定されており、第2の剛体部分は、第1の剛体部分に対する目立つ回転運動をするように弾性支持されている。さらに、第1の弾性変形可能な本体と実質的に同じ第2の弾性変形可能な本体と、及び音叉構造体を設けるように弾性変形可能な本体の対応する第1の剛体部分を堅固に固定する手段とがあり、音叉の枝のそれぞれには、一方の弾性変形可能な本体の自由端がある。
【0009】
ETA Manufacture Horlogere, Switzerlandによる欧州特許出願EP3130966A1は、少なくとも1つのバレルと、バレルの一端において駆動されるギヤ車のセットと、及びばね仕掛けバランスの形態の共振器と計時器用ムーブメントのためのフィードバックシステムを備える局部発振器のエスケープ機構とを有する機械式計時器用ムーブメントを開示している。このエスケープ機構は、ギヤ車のセットの別の端にて駆動される。フィードバックシステムは、2つの発振器の周波数を比較するために周波数比較器と組み合わさった少なくとも1つの精密な基準発振器と、及びこの周波数比較器における比較の結果に基づいて共振器を減速又は加速するように局部発振器共振器を調節する機構とを有する。
【0010】
ETA SA Manufacture Horlogere Suissによるスイス特許出願CH709536A2は、プレートに対して少なくとも回転運動をするようにマウントされた、ギヤ列を介して駆動トルクを受けるように構成しているエスケープ車と、及び第1の弾性戻し手段によってプレートに接続された第1の剛構造を有する第1の発振器とを有する計時器調節機構を開示している。この調節機構は、第2の弾性戻し手段によって第1の剛構造に接続された第2の剛構造を有する第2の発振器を有しており、これは、第1の発振器と第2の発振器をギヤ列と同期させる、エスケープ車が備える相補的なガイド手段と連係するように構成しているガイド手段を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、角ストロークが既存のエスケープ機構と互換性があるような、たわみガイドメンバーを備える機械式発振器を開発することを提案するものである。
【0012】
振動平面と平行な平面上への射影において交差する細長材を備え、これらの細長材が固定質量体と可動質量体を連結しているような、たわみガイド手段の特定の場合を考えると、ピボットの可能な角ストロークθは、固定質量体における細長材の埋め込み箇所と交差点との間の距離Dと、2つの反対側の埋め込み箇所の間の同じ細長材の全長Lとの間の関係、X=D/L、に依存している。前記のM. H. Kahrobaiyanのチームの仕事は、ここでは90°である、交差点において所与の頂角αがある所与の細長材の対に対するこの可能な角ストロークθが、X=D/L=0.5にて最大となり、この値から離れると、実質的に対称的な曲線を描いて急に減少することを示している。しかし、X=D/L=0.5及びα=90°であるようなこのような細長材が交差するピボットは、等時性を与えない。
【0013】
したがって、本発明は、等時性のピボットを得るために、細長材の交差点における角度αの値と比X=D/Lの値との間の有利な組み合わせを探索する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このために、本発明は、請求項1に記載の機械式発振器に関する。
【0015】
具体的には、本発明は、
0.15≦(X=D/L)≦0.85
α≦60°
の2つの不等式を同時に満たすピボットによって、等時性の発振器を得ることができることを示す。
【0016】
当然、α=0°である構成は除外される。なぜなら、細長材どうしが射影において交差せず、互いに平行になるからである。
【0017】
本発明は、さらに、このような機械式発振器を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0018】
本発明は、さらに、このような計時器用ムーブメントを有する腕時計に関する。
【0019】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】機械式発振器の第1の変種の概略斜視図である。この機械式発振器には、細長い形の第1の剛支持要素があり、この機械式発振器をムーブメントのプレートなどに取り付ける。このプレートには、第2の慣性要素の振動平面上への射影において交差している2つの別個のフレキシブル細長材によって第2の固体慣性要素が懸架される。この第2の慣性要素は、標準的なエスケープ車を備える伝統的なスイス式レバーエスケープと連係している。
図2図1の発振器の概略斜視図である。
図3図1の発振器についての細長材の交差軸を通る概略断面図である。
図4】細長材の交差点と当該共振器の重心の射影との間のオフセットを示している図2の概略詳細図である。このオフセットの詳細は、以下において説明する異なる変種に対して同じように適用可能である。
図5】横座標が固定質量における細長材の埋め込み箇所と交差点との距離Dと2つの反対側の埋め込み箇所の間の同じ細長材の全長Lとの比X=D/Lであり、縦座標がフレキシブル細長材の交差点の頂角であるグラフである。このグラフは、上側と下側の2つの曲線を描いており、破線は、等時性を確実にするために許容できる前記パラメーター間の領域の境界を描いている。実線は、好ましい値を示している。
図6図1と同様な形態で、機械式発振器の第2の変種を示している。細長い形の第1の剛支持要素は、固定構造に対して動くことができ、第1のフレキシブル細長材と同様な形態で構成しているフレキシブル細長材の第2のセットによって第3の剛要素によって担持され、第2の慣性要素は、伝統的なエスケープ機構(図示せず)と連係するように構成している。
図7図6の発振器の概略平面図である。
図8図1の発振器についての細長材の交差軸を通る概略断面図である。
図9】前記のような共振器を備えるムーブメントを有する腕時計を示しているブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
このようにして、本発明は、少なくとも第1の剛支持要素4と第2の固体慣性要素5を有する機械式の計時器用発振器100に関する。この発振器100は、第1の剛支持要素4と第2の固体慣性要素5の間にて、第2の固体慣性要素5を支持し発振器100を安静位置に戻すように構成している少なくとも2つの第1のフレキシブル細長材31、32を有する。この第2の固体慣性要素5は、振動平面内において安静位置を中心として角度的に振動するように構成している。
【0022】
最初の2つのフレキシブル細長材31及び32は、互いに触れ合わず、安静位置において、それらの振動平面上への射影において、第2の固体慣性要素5の回転軸が振動平面に対して垂直に通り抜ける交差点Pにおいて交差している。以下に説明する幾何学的な要素はすべて、特に別段の記載がないかぎり、止められた発振器が安静位置にあるときのものと考えるべきである。
【0023】
図1〜4は、第1の剛支持要素4と第2の固体慣性要素が2つの第1のフレキシブル細長材31、32によって接続されているような第1の変種を示している。
【0024】
第1の剛支持要素4と第2の固体慣性要素5における第1のフレキシブル細長材31、32の埋め込み箇所は、振動平面と平行である2つの細長材方向DL1、DL2を定めている。これらの2つの細長材方向DL1、DL2は、それらの間に、振動平面上への射影において、頂角αを形成している。
【0025】
交差点Pの位置は、比X=D/Lによって定められる。ここで、Dは、振動平面上への射影における第1の剛支持要素4における第1の細長材31、32の埋め込み箇所のうちの1つと交差点Pの間の距離であり、Lは、振動平面上への射影における関心事の細長材31、32の全長である。また、比D/Lの値は、0〜1であり、頂角αは、70°以下である。
【0026】
本発明によると、頂角αは、60°以下であり、同時に、各第1のフレキシブル細長材31、32に対して、埋め込み比D1/L1、D2/L2は、境界を含む0.15〜0.85である。
【0027】
具体的には、図2〜4に示すように、安静位置の発振器100の重心は、距離εだけ交差点Pから離れている。この距離εは、振動平面上への射影における細長材31、32の全長Lの10%〜20%である。また、特に、距離εは、振動平面上への射影における細長材31、32の全長Lの12%〜18%である。
【0028】
特に、図に示すように、第1の細長材31、32及びそれらの埋め込み箇所はともに、振動平面上への射影において、交差点Pを通り抜ける対称軸AAに対して対称的なピボット1を定める。
【0029】
特に、振動平面上への射影において安静位置でピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5の重心は、ピボット1の対称軸AA上に位置している。射影において、この重心を交差点Pと一致させることができ、また、一致させないこともできる。
【0030】
また、特に、図2〜4に示すように、第2の固体慣性要素5の重心は、第2の固体慣性要素5の回転軸に対応する0でない距離だけ交差点Pから離れて位置している。
【0031】
具体的には、振動平面上への射影において、第2の固体慣性要素5の重心は、ピボット1の対称軸AA上に位置しており、0でない距離だけ交差点Pから離れて位置している。この距離は、振動平面上への射影において細長材31、32の全長Lの0.1〜0.2倍である。
【0032】
特に、第1の細長材31及び32は、まっすぐな細長材である。
【0033】
また、特に、頂角αは、50°以下であり、好ましくは40°以下であり、好ましくは35°以下であり、好ましくは30°以下である。
【0034】
特に、図5に示すように、埋め込み箇所の比D1/L1、D2/L2は、境界を含む0.15〜0.49又は境界を含む0.51〜0.85である。
【0035】
変種の1つにおいて、特に、図5の実施形態によると、頂角αは50°以下であり、埋め込み箇所の比D1/L1、D2/L2は、境界を含む0.25〜0.75である。
【0036】
変種の1つにおいて、特に、図5の実施形態によると、頂角αは40°以下であり、埋め込み箇所の比D1/L1、D2/L2は、境界を含む0.30〜0.70である。
【0037】
変種の1つにおいて、特に、図5の実施形態によると、頂角αは35°以下であり、埋め込み箇所の比D1/L1、D2/L2は、境界を含む0.40〜0.60である。
【0038】
好ましいことに、図5に示すように、頂角α及び比X=D/Lは、
h1(D/L)<α<h2(D/L)
の関係を満たす。
ここで、0.2≦X<0.5の場合、
h1(X)=116-473*(X+0.05)+3962*(X+0.05)3-6000*(X+0.05)4
h2(X)=128-473*(X-0.05)+3962*(X-0.05)3-6000*(X-0.05)4であり、
0.5<X≦0.8の場合、
h1(X)=116-473*(1.05-X)+3962*(1.05-X)3-6000*(1.05-X)4
h2(X)=128-473*(0.95-X)+3962*(0.95-X)3-6000*(0.95-X)4である。
【0039】
具体的には、特に図示した実施形態(これに限定されない)において、第1のフレキシブル細長材31及び32どうしは、同じ長さLを有し、同じ距離Dだけ離れている。
【0040】
特に、これらの第1のフレキシブル細長材31及び32どうしは、それらの埋め込み箇所の間で、同一である。
【0041】
図6〜8は、機械式発振器100の第2の変種を示しており、第1の剛支持要素4は、発振器100が備える固定構造に対して直接又は間接的に動くことができ、第1のフレキシブル細長材31及び32と同様な形態で構成している第2のフレキシブル細長材33、34を用いて第3の剛要素6によって担持される。
【0042】
特に、図示した実施形態(これに限定しない)において、振動平面上への射影において、第1のフレキシブル細長材31、32と第2のフレキシブル細長材33、34が同じ交差点Pで交差する。
【0043】
別の特定の実施形態(図示せず)において、第1のフレキシブル細長材31、32と第2のフレキシブル細長材33、34は、振動平面上への射影において、安静位置で、ピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、両方ともピボット1の対称軸AA上に位置している2つの別個の点にて交差する。
【0044】
特に、第1の剛支持要素4と第3の剛要素6への第2のフレキシブル細長材33及び34の埋め込み箇所は、振動平面と平行な2つの細長材方向を定め、これらの2つの細長材方向の間に、振動平面上への射影において、第1のフレキシブル細長材31、32の細長材方向DL1及びDL2の間の頂角αと同じ二等分線の頂角を形成する。また、特に、第2のフレキシブル細長材33、34のかかる2つの方向は、第1のフレキシブル細長材31、32と同じ頂角αを形成する。
【0045】
特に、図示した例(これに制限されない)におけるように、第2のフレキシブル細長材33、34は、第1のフレキシブル細長材31、32と同一である。
【0046】
特に、振動平面上への射影においてピボット1が安静位置で対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5の重心は、ピボット1の対称軸AA上に位置している。
【0047】
同様に、特に、ピボット1が安静位置で対称軸AAに対して対称的である場合、第1の剛支持要素4の重心は、振動平面上への射影において、ピボット1の対称軸AA上に位置している。
【0048】
特定の変種において、振動平面上への射影において、ピボット1が安静位置で対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5の重心と第1の剛支持要素4の重心の両方は、ピボット1の対称軸AA上に位置している。また、特に、第2の固体慣性要素5の重心と第1の剛支持要素4の重心とのピボット1の対称軸AA上への射影は一致する。
【0049】
このような重なり合ったピボットについての図に示した特定の構成は、第1のフレキシブル細長材31、32と第2のフレキシブル細長材33、34の振動平面上への射影は、同じ交差点Pで交差する。この交差点Pは、第2の固体慣性要素5の重心の射影にも対応しており、又は少なくとも可能な限り近い。特に、この同じ点は、第1の剛支持要素4の重心の射影にも対応している。また、特に、この同じ点は、発振器100全体の重心の射影にも対応している。
【0050】
この重なり合うピボット構成の特定の変種において、振動平面上への射影において、ピボット1が安静位置で対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5の重心は、ピボット1の対称軸AA上に、第2の固体慣性要素5の回転軸に対応する交差点から0でない距離だけ離れて位置しており、この0でない距離は、振動平面上への射影における細長材33、34の全長Lの0.1〜0.2倍であり、図2〜4のオフセットεと同様のオフセットがある。
【0051】
同様に、特に、ピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5の重心は、振動平面上への射影において、ピボット1の対称軸AA上であり、第1の剛支持要素4の回転軸に対応する交差点から0でない距離だけ離れて位置している。この0でない距離は、振動平面上への射影における細長材31、32の全長Lの0.1〜0.2倍である。
【0052】
同様に、特に、ピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、第1の剛支持要素4の重心は、振動平面上への射影において、ピボット1の対称軸AA上であり、第2の固体慣性要素5の回転軸に対応する交差点Pから0でない距離だけ離れて位置している。具体的には、この0でない距離は、振動平面上への射影における細長材33、34の全長Lの0.1〜0.2倍である。
【0053】
同様に、特に、ピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、第1の剛支持要素4の重心は、振動平面上への射影において、ピボット1の対称軸AA上であり、第1の剛支持要素4の回転軸に対応する交差点から0でない距離だけ離れて位置している。この0でない距離は、振動平面上への射影における細長材31、32の全長Lの0.1〜0.2倍である。
【0054】
同様に、特に、第1の剛支持要素4の重心は、ピボット1の対称軸AA上にあり、交差点Pから0でない距離だけ離れて位置している。この0でない距離は、振動平面上への射影における細長材33、34の全長Lの0.1〜0.2倍である。
【0055】
特に、図に示した変種に示すように、ピボット1が振動平面上への射影において対称軸AAに対して対称的である場合、安静位置の発振器100の重心は、対称軸AA上に位置している。
【0056】
特に、ピボット1が対称軸AAに対して対称的である場合、第2の固体慣性要素5は、ピボット1の対称軸AAの方向に長くなっている。このことの例として、図1〜4の場合が挙げられる。これらの場合においては、慣性要素5には、リム区画がある長いアーム又は円弧状の慣性ブロックを備える伝統的なバランスが固定された基部がある。目的は、ピボットの対称軸のまわりの外的角加速度の影響を最小限にすることである。なぜなら、角度αが小さいためにこの軸のまわりの細長材の回転剛性が低いからである。
【0057】
本発明は、MEMS、LIGA又は同様のプロセスによって微細機械加工可能な材料又は少なくとも部分的にアモルファスである材料で作られた、細長材と、これらの細長材が接続する固体部品が単一体であるような形態に非常に適している。具体的には、ケイ素の形態の場合、発振器100は、好ましいことに、フレキシブルなケイ素製の細長材に対して二酸化ケイ素を加えることによって温度補償される。変種の1つにおいて、細長材は、例えば、溝などに埋め込まれて、アセンブルされる。
【0058】
図6〜9の場合のように2つのピボットが直列にあるとき、望まない運動を互いにオフセットするように選択される構成である場合、重心を回転軸上に配置することができる。これは、有利な変種(これに限定されない)を構成している。しかし、このような構成を選ぶ必要はなく、このような発振器は、重心を回転軸上に配置する必要性なしに直列の2つのピボットによって機能する。もちろん、図示した実施形態は、特定の幾何学的な整列又は対称の構成に対応するが、異なる2つのピボット、又は異なる交差点を有する2つのピボット、又は重心が整列していない2つのピボットを一方を他方の上に配置したり、バランスの振幅をさらに大きくするように中間質量がある直列の細長材の組の数を増やしたものを実装したりすることもできる。
【0059】
図示した変種において、すべての回転軸、細長材の交差点、及び重心は、共面である。このことは特に有利である場合である。なお、これに限定されない。
【0060】
なお、本発明によって、いずれの場合も30°よりも大きく、50°、さらには60°に達することができるような、大きな角ストロークを得ることが可能になる。このことによって、スイス式レバー、移動止め、同軸などのすべての通常の種類の機械式のエスケープとの組み合わせの適合性が良くなる。
【0061】
本発明は、このような機械式発振器100を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメント1000に関する。
【0062】
本発明は、さらに、このような計時器用ムーブメント1000を少なくとも1つ有する腕時計2000に関する。
【符号の説明】
【0063】
1 ピボット
4 第1の剛支持要素
5 第2の固体慣性要素
6 第3の剛要素
31〜34 フレキシブル細長材
100 発振器
AA 対称軸
P 交差点
α 頂角
ε オフセット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9