特許第6688373号(P6688373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688373
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20200421BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20200421BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   H01F1/153 175
   H01F1/153 108
   H01F27/255
   H01F17/04 F
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-230478(P2018-230478)
(22)【出願日】2018年12月9日
(62)【分割の表示】特願2015-153929(P2015-153929)の分割
【原出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2019-71433(P2019-71433A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2018年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-176673(P2014-176673)
(32)【優先日】2014年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀樹
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/098817(WO,A1)
【文献】 特開2012−238828(JP,A)
【文献】 特開2013−067863(JP,A)
【文献】 特開2007−231415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 1/24
H01F 1/28
H01F 17/04
H01F 27/24
H01F 27/255
C22C 38/00
C22C 45/02
B22F 1/00−1/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質合金粒子と樹脂とを含む複合磁性材料からなる磁性体と、コイルとで構成されるコイル部品であって、
前記非晶質合金粒子の、合金粒子表層から内部に向かって深さごとに存在する酸素比率の変化を捉えた表面の酸素比率の最大値は、二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定されたイオン比率で30%以上50%以下であり、前記非晶質合金粒子の粒子表層となる粒子の最表面の酸素比率が、二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定されたイオン比率で25%以下である、コイル部品。
【請求項2】
請求項1記載のコイル部品であって、複合磁性材料に埋め込まれたコイルを有するコイル部品。
【請求項3】
請求項1記載のコイル部品であって、複合磁性材料の内側に形成されたコイルを有するコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属磁性粒子と樹脂とを含む複合磁性材料、複合磁性材料が所定の固形形状を成している磁性体および磁性体を構成要素とするコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器をはじめとする電子機器では高性能化が進んでいるため、使用される部品にも高い性能が要求されている。さらに、電子機器に搭載される部品点数は増加傾向にあることから、部品の小型化の動きは更に高まっている。特に、これまでフェライトを用いることが多かった、例えば3mm以下のような小型部品でも高い性能が求められ、金属磁性材料を用いる検討がされている。
【0003】
金属磁性材料を使ったコイル部品として、特許文献1に記載されるように、合金粉末の圧粉体中にコイルを埋め込む方法がある。特許文献1の技術では、粒径が比較的小さい合金粉末を使うことで損失を低くする検討がされている。しかし、単純に粒径を小さくすると比表面積は大きくなることから、成形性は低下する方向となってしまう。よって、結果的には、高い成形圧を掛けて圧粉体を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−145866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法では、特許文献1の実施例に示されるように、例えば600MPaという非常に高い成形圧力を要しており、このような圧力ではコイルに掛かるストレスが無視できない。特に、細い導線を用いたコイルは変形しやすかったり、断線を生じ易かったりする。このように、高い成形圧力を前提とすることから、使用可能な導線の選択肢が限られる要因になっていた。また、高い圧力を掛けることで合金粒子には応力が掛かり、透磁率が下がってしまうことがあった。また、別の方法として、金属磁性粒子の表面処理などがある。例えば、カップリング剤を用いることで、金属磁性粒子は濡れ性が良くなり、安定した複合磁性材料を得ることができる。しかし、この方法でも、カップリング剤の存在する分、合金粒子の充填率を下げる原因となっていた。
【0006】
このようなことから、高い圧力に頼ること無く磁性体を形成することが小型化を進める上では重要である。本発明は、成形時に高い圧力が不要である複合磁性材料の提供、ならびに、そのような複合磁性材料を有するコイル部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
高い圧力を不要とする磁性体の形成方法としては、金属磁性粒子と樹脂の複合磁性材料を用い、この樹脂を溶解させるような温間成形が挙げられる。温間成形では樹脂の割合を増やすことが必要であり、圧粉成形のように金属磁性粒子の充填率を高めることが難しかった。このため、本発明者は金属磁性粒子以外の添加物の割合を増やさないという前提で検討を行った。この結果、金属磁性粒子表面の酸化状態が、磁性粒子と樹脂の複合磁性材料の流動性に影響を及ぼし、充填性を高めることを見出した。具体的には、金属磁性粒子表面の酸素は少なく樹脂との相性が良くなり、金属磁性粒子を混合した複合磁性材料としての粘度物性が低くなる。つまり、この磁性粒子と樹脂の複合磁性材料の粘度物性を低くすることで、流動性が良くなり、高い充填が可能となることが見出された。
【0008】
上記知見を出発点にさらに鋭意検討した結果、本発明者は以下のような本発明を完成した。
(1)合金粒子と樹脂とを含む複合磁性材料からなる磁性体と、コイルとで構成されるコイル部品であって、前記合金粒子の表面の酸素比率が50%以下である、コイル部品。
(2)前記酸素比率が30〜40%である(1)のコイル部品。
(3)(1)または(2)のいずれかのコイル部品であって、複合磁性材料に埋め込まれたコイルを有するコイル部品。
(4)(1)または(2)のいずれかのコイル部品であって、複合磁性材料の内側に形成されたコイルを有するコイル部品。
本発明では合金粒子は好ましくは非晶質合金粒子である。
前記酸素比率は、二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定されたイオン比率である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、合金粒子表面の酸素比率が50%以下の合金粒子を用いることによって、合金粒子表面と樹脂の濡れ性がよくなる。この複合磁性材料の粘度抵抗が小さくなり、このことで流動性がよく、低い圧力、または圧力を掛けない場合であっても合金粒子の充填を高くすることができ、粒子内部に応力が掛かることなく透磁率の低下を解消できる。このように、この金属磁性粒子と樹脂と複合化することで、高い抵抗と高い特性のコイル部品を得ることができる。好適態様によれば、複合磁性材料は、酸素比率が30〜40%である合金粒子を用いることで樹脂量を増やすことなく、安定した充填が可能となり、磁性体の肉厚が例えば0.2mm程度の薄い場合であっても高い充填率を維持できる。特に、これまで以上に製品高さの低い小型部品を作ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコイル部品は、樹脂と合金粒子とを含む複合磁性材料によるものである。
合金粒子は、酸化されていない金属部分において磁性が発現するように構成されてなる材料であり、例えば、酸化されていない合金粒子、あるいはそれら粒子の周囲に酸化物等が設けられてなる粒子などが挙げられる。具体的には、合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF−20F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR−FeSiCrなどとして市販されているものを用いることもできる。ただし、これまでの合金粒子は、鉄(Fe元素)を50〜90wt%前後含み、鉄(Fe元素)以外の元素の割合も10wt%以上含むものが多い。これは、絶縁を高くする場合や、コアロスを良くする場合などのため、クロム(Cr)やケイ素(Si)などの元素の割合を高くすることが多かった。このようなことから、従来のような組成では合金粒子表面は酸化しやすい性質を利用したり、また熱処理することによって合金粒子表面を酸化させる方法などにより粒子表面の絶縁性を高くすることが検討されていた。このため、これらの合金粒子は、合金粒子表面の酸素比率が高く、複合磁性材料としての粘度抵抗が高くなってしまい、圧力を掛けない用途には向かないものであった。
【0011】
このため、合金粒子の組成として、Fe元素の含有率は高いことが好ましい。非晶質の合金粒子ではFe元素の含有率は77wt%であり、結晶質の合金粒子ではFe元素の含有率は92.5wt%以上であり、不純物としてMn、P、S、Moなどの元素が含まれても良い。また、非晶質合金粒子のFe元素の含有率は79.5wt%以下であり、結晶質合金粒子のFe元素の含有率は95.5wt%以下であり、これにより絶縁性を確保しやすくなる。また、Fe元素以外にAl、CrなどFeより酸化しやすい物質を含んでいてもよい。Fe元素以外の元素としては、Si、Al、Cr、Ni、Mo、Coのいずれかの合計が5〜10wt%であることが望ましい。これにより合金粒子表面の過剰な酸化が抑えられ、安定した酸素比率とすることができる。例えば、ガスアトマイズ法で作られた粉末や水アトマイズ法で作られた粉末では還元雰囲気で熱処理することで、酸素比率の調整を行うことができる。このとき、合金粒子表面の酸素が少な過ぎると抵抗が下がってしまい、抵抗値を確保するために、樹脂量を増やすなど金属磁性粒子以外のものの割合を増やすことが必要になり、結果的には充填率を下げることになってしまう。よって、酸素比率はイオン比率で30%以上となるよう調整することが好ましい。合金粒子は、例えば、結晶質合金系ではFeSiCr、FeSiAl、FeNi、非晶質合金系ではFeSiCrBC、FeSiBCなどがある。
【0012】
また、これらの2つ以上の合金粒子を混合させた材料や、Fe粒子を混合した材料などが挙げられ、これらの粒子は粒子径や組成を組み合わせて、必要な特性を得られるものが好適に用いられる。より好適には、これらの金属磁性粒子の形状は、より好適には球形が望ましい。これは粒子表面積の小さい方が粒子表面の酸素量を少なくでき、しかも粒子表面から酸素の存在する範囲を最小限でき、粒子内の金属部分の割合を大きくできる。または、粒子表面の表面粗さについても同様であり、なめらかな粒子表面であることが望ましく、好ましくは表面粗さRaが1nm〜100nmである。
【0013】
合金粒子の酸素比率は、二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry、アルバック・ファイ社製TRIFT−II)で測定される。TOF−SIMSでは、試料(合金粒子)表層にパルス状の一次イオンビームを照射し、そのイオンと試料表面の分子・原子レベルでの衝突による試料表層が撹拌されることにより発生する二次イオンを飛行時間型質量分析計(アルバック・ファイ社製TRIFT−II)で検出することで、固体成分の定性、定量が行われる。定量された酸素イオン濃度は検出された二次イオンの総量に占める酸素比率に相当する。
【0014】
本発明では、合金粒子表面の酸素比率が50%以下としたものである。より好ましくは30〜40%としたものである。合金粒子表面の酸素比率は、合金粒子表層から内部に向かって深さごとに存在する酸素比率の変化を捉えることによって得られ数値を示しているものである。検出は、ガリウムの一次イオンビームを加速電圧15kV、パルス幅13nsecのイオンビームパルス電流600pA、照射時間60sec、照射角40度(二次イオン検出器に対する角度)の条件設定で照射し、検出される二次イオンから試料表層に存在する各成分のイオン数を検出し、各成分のイオン数を元に、ここでは酸素比率を求めている。試料表層から内側に向かって存在する酸素比率を求めるためには、試料表層のエッチングが必要であり、このエッチングはガリウムのスパッタイオンを加速電圧15kVで、イオンビーム電流600pAの条件設定で連続照射し行われる。検出とエッチングは、それぞれ交互に60secの時間で行い、0分(スパッタイオンを照射するエッチング前)〜30分の1分間隔のエッチング時間ごとに検出が行われることとなり、つまりは合金表層から深さごとの成分を検出することができる。また、それぞれのイオン照射範囲は1〜5μmの範囲で行った。測定する金属磁性粒子はこの範囲に収まるように行った。また、この測定は金属磁性粒子の段階でも可能であるが、例えば有機成分を含むような磁性体で行う場合には、有機成分などの金属磁性粒子由来の成分以外の成分が重量比で20%を超えないこととした。これにより、磁性体であっても破断面の観察により、金属磁性粒子表面としての測定ができる。
【0015】
それぞれ検出される二次イオンの酸素比率はスパッタイオンを照射したエッチングの時間が累積で10分以内、好ましくは1分〜5分の間で最大となる。ここでは、エッチングの累積時間10分以内を合金粒子表面とした。本発明の合金粒子は、エッチングの累積時間10分以内の範囲において酸素比率の最大値が得られることから粒子表面とする方が酸素比率を正しく評価できる。
【0016】
結論として、「合金粒子表面の酸素比率」は、上記のようにエッチング前後の1分ごとに酸素比率をもとめたときの、エッチング開始から10分までの前記比率のうちの最大値を指す。
【0017】
すなわち、合金粒子表面の酸素比率が設計されている。これにより、粒子表面は樹脂の濡れ性が良く、複合磁性材料の粘度抵抗を小さくする。これは、合金粒子表面の酸素量を少なくすることで、合金粒子表面の水酸基を少なくでき、水分子の膜を減少できることから疎水系樹脂と金属界面の相溶性が増し合金粒子表面と樹脂の濡れ性がよくなる。この複合磁性材料の粘度抵抗が小さくなり、このことで流動性がよく、低い圧力、または圧力を掛けない場合であっても合金粒子の充填を高くすることができ、粒子内部に応力が掛かることなく透磁率の低下を解消できる。このことで流動性が高まり、低い圧力で高い充填を実現できる。また、合金粒子表面の酸素比率は、合金粒子表層から10分の範囲に酸素比率のピーク点を持ち、ここにはFe元素以外の元素のピーク点も存在する。Fe元素以外の元素は、合金粒子の組成により決まり、Si、Al、Cr、Ni、Mo、Coが挙げられる。これは、合金粒子表面の酸素とFe元素以外の存在によって絶縁性が担保され、かつ過剰な酸化を抑制することにつながっている。これにより、樹脂と複合化した場合に高い抵抗と高い磁性特性を得ることができる。酸素比率は50%以下であり、好ましくは30〜40%である。このように酸素比率を50%以下とすることで、粒子表層(エッチング前)の酸素比率を25%以下とすることができ、粒子表面の酸素比率は低く抑えられる。更に、酸素比率を40%以下にすれば、粒子表層(エッチング前)の酸素比率を20%以下にできる。好ましくは、20個以上の金属磁性粒子における酸素比率の最大となる検出開始からの時間の平均値は10分以内である。好ましくは、20個以上の金属磁性粒子における酸素比率の平均値は50%以下である。ここでのTOF−SIMSの条件については、Fe元素を77wt%以上含む金属磁性粒子にエッチングのスパッタイオンを照射した場合の金属磁性粒子表層の削られる速さはFe元素以外の成分の異なる金属磁性粒子であっても、全て5%以内の範囲に収まっており、ほぼ一定である。また、金属表層の削られた量については、検出された二次イオンを体積に換算し、換算した体積を一次イオンの照射面積で割ることで、金属表層面から削られた深さを求めることができる。
【0018】
本発明の複合磁性材料には、上記のような合金粒子が含まれることが必要であり、好ましくは複合磁性材料に含まれる全金属磁性粒子の体積割合で80vol%以上の合金粒子の酸素比率が、30〜40%を有する。これにより、充填率を高くでき、コイル部品としてのインダクタンスを高くできる。
【0019】
本発明の複合磁性材料には、上記のような合金粒子が含まれることが必要であり、好ましくは複合磁性材料に含まれる合金粒子の平均粒径が2〜20μmを有する。これにより、高い充填率の複合磁性材料であってもコアロスを抑制できる。
【0020】
好ましくは、複合磁性材料には、第1の金属磁性粒子と第2の金属磁性粒子とが含まれ、第1の金属磁性粒子と第2の金属磁性粒子とでは平均粒径が相違する。本発明では、少なくとも第1の金属磁性粒子は非晶質合金である。少なくとも一方の合金粒子を非晶質合金粒子とする。これにより、コアロスを抑えることができる。また、他方の合金粒子を一方の合金粒子より、平均粒径の小さい非晶質合金粒子とする。これにより、より充填率を高めることができる。特に、それぞれの平均粒径の割合を5倍以上とすることにより、最も充填率を高くできる。また、他方として、Fe粒子を用いる場合にも、平均粒径の割合は5倍以上とすることで、充填率を高く、更に電流特性を良くすることができる。また、第1及び第2のいずれの金属磁性粒子とも異なるFe含有比率を呈する第3(以降)の金属磁性粒子が含まれていてもよい。
【0021】
本発明の複合磁性材料に含まれる樹脂の種類は特に限定されず、電子部品等に用いられる樹脂を適宜用いることができ、好ましくは熱硬化樹脂であり、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、などが挙げられる。この複合磁性材料は圧力に頼らないことから熱を掛けることで磁性体を形成するものである。特に熱を掛けたときの粘度を低くできれば良く、樹脂の溶解温度を50〜200℃のものであれば良い。また、被覆導線を用いるコイルの場合には50〜150℃であれば、被覆導線に特別な処置をすることなく、品質的な影響を防止できる。上記の点から、ひとつの例としてノボラック型のエポキシ樹脂が挙げられる。また、絶縁性の確保と電気的特性の向上との両立の観点から、複合磁性材料には樹脂が好ましくは5〜10wt%含まれる。なお、樹脂は10wt%より多くすることで、複合磁性材料の流動は良くなる。しかし、金属磁性粒子の充填率としては逆に低下してしまい、10wt%より少ないことが好ましい。
【0022】
本明細書では、上述した金属磁性粒子と樹脂とを含む組成物を、その形態は問わない概念として複合磁性材料と呼ぶ。例えば、複合磁性材料の樹脂は硬化していてもよいし未硬化であってもよい。複合磁性材料における樹脂が硬化していてそれによって複合磁性材料全体もまた一定形状の固形形状を成すとき、そのような状態の複合磁性材料を「磁性体」と呼ぶ。磁性体もまた本発明の一実施態様である。
【0023】
本発明では、磁性体を得る際に、換言すると、硬化せしめる際に、圧力を要さない。例えば、上述した金属磁性粒子と未硬化の熱硬化樹脂とを金型に注入して、樹脂の硬化温度より高温に供することによって樹脂を硬化させて、それを以って、複合磁性材料自体もまた一定形状に固まることにより本発明の磁性体を得ることができる。これにより金属磁性粒子に歪みを生じることがなく、特性低下を抑制できる。複合磁性材料から磁性体を得る方法については、樹脂における従来の硬化技術などを適宜参照することができる。
【0024】
本発明の磁性体はコイル部品の一部として有用である。本発明の磁性体の外側又は内側に絶縁被覆導線などによってコイル部を形成することにより本発明のコイル部品を得ることができる。コイル部品の詳細な構成や製法については特に限定は無く、従来技術などを適宜参照することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0026】
<製造例1>
以下の要領でコイル部品を製造した。
製品サイズ:2.5×2.0×1.2mm
磁性体の最小肉厚:0.25mm
金属磁性粒子:FeSiCr(Feが92.5wt%、Siが4wt%、Crが3.5wt%とし、大気中での水アトマイズ法により平均粒径15μmの粉末を作製し、500℃の還元雰囲気中で1時間の熱処理を行った。この金属磁性粒子を結晶質合金粒子cとした。)
樹脂:エポキシ樹脂3wt%
空芯コイル:ポリイミド被膜付き平角線(0.3×0.1mm)、α巻きにて周回数9.5t
成形:金型内部に空芯コイルを配置し、モールド成形にて複合磁性材料を150℃の金型に注入、仮硬化して磁性体を形成。
硬化:仮硬化の磁性体を金型から取り出し、200℃にて硬化
端子電極:空芯コイルの端部を研磨で磁性体から露出させ、Agをスパッタリングし、Ag入り導電性ペーストを付け、Ni、Snのめっき処理
【0027】
上記の手順は、以下の通り行ったものである。
コイルを作製し、金型の中央と空芯コイルの中心が一致するように配置する。ここに、事前に金属磁性粒子と樹脂を混合しておいた複合磁性材料を150℃に加熱し、この複合磁性材料を150℃に加熱した金型に注入し、磁性体の元が得られる。この後、更に200℃で樹脂を硬化し、磁性体となる。この磁性体に必要な処理(カット、研磨、防錆処理)を行い、最後に端子電極を形成し、コイル部品を得る。また、ここでの成形時の圧力は15MPaであり、従来の圧力に対し非常に低いものであった。
【0028】
<比較例1>
金属磁性粒子として上記還元雰囲気中での熱処理を行わないFeSiCrを用いたこと以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。この金属磁性粒子を結晶質合金粒子aとした。
【0029】
<比較例2>
金属磁性粒子以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、FeSiAlCrで、Feが90wt%、Siが5wt%、Alが4wt%、Crが1wt%とし、大気中での水アトマイズ法により平均粒径15μmの粉末を作製し、500℃の還元雰囲気中で1時間の熱処理を行った。この金属磁性粒子を結晶質合金粒子bとした。
【0030】
<比較例3>
金属磁性粒子以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、FeSiCrBCで、Feが70wt%、Siが8wt%、Crが5wt%、Bが15wt%、Cが2wt%とし、大気中での水アトマイズ法により平均粒径15μmの粉末を作製した。この金属磁性粒子を非晶質合金粒子dとした。
【0031】
<実施例2>
金属磁性粒子以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、FeSiCrBCで、Feが77wt%、Siが6wt%、Crが4wt%、Bが13wt%、Cが2wt%とし、大気中での水アトマイズ法により平均粒径15μmの粉末を作製した。この金属磁性粒子を非晶質合金粒子eとした。
【0032】
<実施例3>
金属磁性粒子以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、FeSiBCで、Feが79.5wt%、Siが5wt%、Bが13.5wt%、Cが2wt%とし、大気中での水アトマイズ法により平均粒径15μmの粉末を作製した。この金属磁性粒子を非晶質合金粒子fとした。
【0033】
<実施例4>
金属磁性粒子以外は、製造例1と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、実施例2で用いた非晶質合金粒子eと粒径の異なる平均粒径10μmを用い、それぞれを6:4の割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0034】
<実施例5>
ここでは、製品高さを1.0mm、磁性体の最小肉厚を0.2mmに変更し、実施例4と同様の複合磁性材料により、コイル部品を得た。
【0035】
<実施例6>
金属磁性粒子以外は、実施例5と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、実施例2で用いた非晶質合金粒子eと粒径の異なる平均粒径10μmを用い、それぞれを8:2の割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0036】
<実施例7>
金属磁性粒子以外は、実施例5と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、実施例2で用いた非晶質合金粒子eと粒径の異なる平均粒径10μmを用い、それぞれを9:1の体積割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0037】
<実施例8>
金属磁性粒子以外は、実施例5と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、実施例2で用いた非晶質合金粒子eと粒径の異なる平均粒径2μmを用い、それぞれを8:2の体積割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0038】
<実施例9>
金属磁性粒子以外は、実施例5と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、実施例2で用いた非晶質合金粒子eと粒径の異なる平均粒径1.5μmを用い、それぞれを8:2の体積割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0039】
<実施例10>
金属磁性粒子以外は、実施例5と同様にしてコイル部品を得た。金属磁性粒子は、実施例3で用いた非晶質合金粒子fと、Fe粒子(Feが99.6wt%、Fe以外は不純物)の平均粒径1.5μmを用い、それぞれを8:2の体積割合となるように混合し、複合磁性材料とした。
【0040】
複合磁性材料に含まれる金属磁性粒子のSIMS測定結果は以下のとおりである。

金属磁性粒子 表面の酸素比率
結晶質合金粒子a 53%
結晶質合金粒子b 52%
結晶質合金粒子c 48%
非晶質合金粒子d 51%
非晶質合金粒子e 40%
非晶質合金粒子f 30%
Fe粒子 31%
【0041】
上記において、「表面の酸素比率」は、上述したSIMS測定における酸素比率の最大値(ただし、エッチング時間0〜10分までの1分ごとの測定における最大値)である。
上記SIMSの測定は、それぞれの複合磁性材料ごとに20個の粒子について行った。上記はそれらの結果の平均値である。
【0042】
複合磁性材料の樹脂量、及びコイル部品のインダクタンスは以下のとおりである。

充填率 インダクタンス
製造例1 74.0vol% 1.02μH
比較例1 70.3vol% 0.8μH
比較例2 71.2vol% 0.85μH
比較例3 71.3vol% 0.86μH
実施例2 75.2vol% 1.1μH
実施例3 75.4vol% 1.12μH
実施例4 75.8vol% 1.15μH
実施例5 75.5vol% 1.04μH
実施例6 76.4vol% 1.1μH
実施例7 76.1vol% 1.07μH
実施例8 77.3vol% 1.1μH
実施例9 75.5vol% 1.02μH
実施例10 75.5vol% 1.02μH
【0043】
上記において、「樹脂量」は複合磁性材料の製造の際に添加した樹脂量であり、「充填率」は、磁性体断面の金属磁性粒子の占める割合を顕微鏡観察像から求めたものである。「インダクタンス」は、LCRメータを用いて求めた1MHzでのコイル部品のインダクタンス値を示している。
【0044】
比較例は、いずれも充填率が低く、コイル周辺に充填不足に伴う欠陥(導線の露出)が存在している。この結果、電気的特性においても実施例と比較し、低い値を示す結果となっており、いずれもコイル部品としては十分なものであった。この結果のように、これまでは磁性体の厚みの薄い部分を形成することができなかった。これに対し、実施例においては、充填に伴う欠陥を生じること無く、厚み0.25mm、更には0.2mmの磁性体を得ることができる。これにより、高い圧力で形成していた圧粉ではできないような薄型化に対応でき、部品の小型化が可能となる。
【0045】
<実施例11>
この実施例は、ドラムコアに巻線を施し、巻線の外側に複合磁性材料を形成するもので行った。
製品サイズ:2.5×2.0×1.2mm
ドラムコア:FeSiCr(Feが90wt%、Siが6wt%、Crが4wt%とし、大気中で1時間の熱処理を行った。)
複合磁性材料:上述の非晶質合金粒子eを用いた。
コイル:ポリイミド被膜付き導線(平角線0.3×0.1mm)、α巻きにて周回数9.5t
成形:ゴム型内部に巻線をしたドラムコアを配置し、複合磁性材料をゴム型に注入、仮硬化して磁性体を形成。
硬化:仮硬化の磁性体を金型から取り出し、200℃にて硬化
端子電極:ドラムコアの鍔の外側面にTi、Agをスパッタリングし、Ag入り導電性ペーストを付け、Ni、Snのめっき処理
【0046】
上記の手順は、以下の通り行ったものである。
ドラムコアをFeSiCrの磁性材料を成形、熱処理を行い作成する。次に、ドラムコアの鍔の外側の面に端子電極を形成し、ドラムコアの軸の外側に巻線をした導線を端子電極に接続する。最後に、巻線したドラムコアをゴム型の配置し、コイルの外側に事前に金属磁性粒子と樹脂を混合しておいた複合磁性材料を50℃に加熱し、コイルの外側に複合磁性材料を形成、更にゴム型から得られたコイル部品を取り出し、更に200℃で樹脂を硬化し、コイル部品を得る。また、ここでの成形時の圧力は5MPaであり、従来の圧力に対し非常に低いものであった。
【0047】
上記と同様に、コイル部品の評価を行った結果、1.15μHのインダクタンスと74.5vol%の充填率が測定され、電流特性が良好であった。また、充填に伴うような欠陥を生じること無く、安定した部品を作ることができる。
このように、本発明の複合磁性材料を用いることで、これまでにないような、磁性体の薄型化や、小型で高性能な部品の製造が可能になる。
【0048】
また、電気的特性以外の評価を以下に示す。
複合磁性材料はそれぞれ断面より評価できる。金属磁性粒子の充填率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、SEM像(3000倍)を取得し、画像処理を行う。これにより得られた断面に存在する金属磁性粒子と、金属磁性粒子以外のそれぞれの面積から、金属磁性粒子の面積の割合を充填率としている。断面において金属磁性粒子の断別は酸素の有無により行え、断面に見える粒子の大きさ(最大の長さ)で1μm以上のものを金属磁性粒子と見なして行った。これは金属磁性粒子の粒径で1μmより小さいものは磁気的な特性への影響が小さいことから、この範囲としたものである。
【0049】
金属磁性粒子における鉄(Fe元素)の含有比率はSEM−EDXにより測定することもできる。複合磁性材料の断面のSEM像(3000倍)を取得し、マップングにより同じ組成の粒子を選択し、20個以上の金属磁性粒子に鉄(Fe元素)の含有比率より平均値を求める。また、マッピングにより、組成の異なるものが存在すれば、異なる組成の金属磁性粒子を混合したものと判断できる。更に、金属磁性粒子の粒径は複合磁性材料の断面のSEM像(約3000倍)を取得し、測定部分における平均的な大きさの粒子を300個以上選び出して、それらのSEM像における面積を測定し、粒子が球体であると仮定して粒径を算出する。また、得られた粒径の分布から、ピーク点が2つ存在すれば、異なる平均粒径の金属磁性粒子を混合と判断できる。それぞれの測定は、複合磁性材料で形成された磁性体の断面の中央部分を選択して行っている。また、いずれも、断面に見える粒子の大きさで1μm以上のものを対象に行っている。