特許第6688400号(P6688400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688400テラヘルツアンテナおよびテラヘルツアンテナを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688400
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】テラヘルツアンテナおよびテラヘルツアンテナを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0264 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   H01L31/08 L
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-542182(P2018-542182)
(86)(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公表番号】特表2019-508895(P2019-508895A)
(43)【公表日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】EP2017053053
(87)【国際公開番号】WO2017137589
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2018年10月2日
(31)【優先権主張番号】102016202216.4
(32)【優先日】2016年2月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507210281
【氏名又は名称】フラウンホファー‐ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ディーツ・ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ゲーベル・トルステン
(72)【発明者】
【氏名】グロービッシュ・ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】マッセリンク・ヴィリアム・テッド
(72)【発明者】
【氏名】ゼムツィヴ・ミハイロ・ペトローヴィチ
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0113417(US,A1)
【文献】 特開2011−179990(JP,A)
【文献】 特開2006−086227(JP,A)
【文献】 特開平05−148083(JP,A)
【文献】 特開2008−141075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層(11)と、
−2つの導電性アンテナエレメント(21,22)であって、当該2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を介して、電場が、前記光導電性層(11)の少なくとも一部に印加されることが可能である、2つの導電性アンテナエレメント(21,22)と、
を備え、前記光導電性層(11)に、遷移金属であるドーパントが1×1018cm−3以上の濃度でドープされている、テラヘルツアンテナにおいて、
前記光導電性層(11)が、分子線エピタキシ法によって200℃以上500℃以下の成長温度で作製されており、前記ドーパントが、複数の点欠陥を形成するように前記光導電性層(11)内に配置されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツアンテナにおいて、複数のドーパント原子がそれぞれ、点欠陥の形態で前記光導電性層(11)内に配置されているか、あるいは、実質的に全てのドーパント原子がそれぞれ、点欠陥の形態で前記光導電性層(11)内に配置されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、ドーパントクラスタを全く含まないか、又は少数しか含まないことを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記ドーパントの濃度が、5×1018cm−3以上、1×1019cm−3以上、または1×1020cm−3以上であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、1000〜1650nmの波長範囲の光が照射されると電荷キャリアを生成するように構成されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、(In,Ga)As、(In,Ga)(As,P)または(In,Ga,Al)(As,P)であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)の層厚が、100nm以上、300nm以上または500nm以上であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、半絶縁性基板(12)上に成長されたものであることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記ドーパントが、鉄、ルテニウム、ロジウムおよびイリジウムのいずれか一つまたは任意の組合せであることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)がメサ構造であり、前記アンテナエレメント(21,22)がそれぞれ、前記メサ構造の側壁に接続されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
【請求項11】
テラヘルツ放射線の生成と受信のいずれか一方または両方を行うテラヘルツ変換器であって、
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つのテラヘルツアンテナ(1)、
を備える、テラヘルツ変換器。
【請求項12】
請求項11に記載のテラヘルツ変換器において、さらに、第1および第2のテラヘルツアンテナであって、請求項1から10のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナとしてそれぞれ構成された第1および第2のテラヘルツアンテナを備え、前記第1のテラヘルツアンテナの前記光導電性層および前記第2のテラヘルツアンテナの前記光導電性層が、共通の光導電性層の一部であることを特徴とする、テラヘルツ変換器。
【請求項13】
テラヘルツアンテナ、特には、請求項1から10のいずれか一項に記載のテラヘルツアンテナを製造する方法であって、
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層(11)を作製する工程と、
−前記光導電性層(11)に、遷移金属であるドーパントを1×1018cm−3以上の濃度でドープする工程と、
−2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を作製する工程であって、当該2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を介して、電圧が、前記光導電性層(11)の少なくとも一部に印加されることが可能である、工程と、
を備える、方法において、
前記光導電性層(11)が、分子線エピタキシ法によって200℃以上500℃以下の成長温度で作製され、ドーピングがエピタキシのプロセス中に行われることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記成長温度が、250℃〜500℃又は300℃〜500℃の範囲内であることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方法において、前記成長温度が、450℃以下または400℃以下であることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか一項に記載の方法において、前記光導電性層(11)の成長後に、熱処理工程が実行されることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載のテラヘルツアンテナ、および請求項13の前提部に記載のテラヘルツアンテナ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のテラヘルツアンテナは、テラヘルツ領域の周波数用(すなわち、0.1〜10THzの範囲の周波数用の)アンテナエレメント(例えば、アンテナウィング等)に電気的に接触した、少なくとも1つの光導電性半導体層を備える。このようなテラヘルツアンテナのアンテナエレメント間の光導電性半導体層に、変調光、特には、光パルス(例えば、100fs(フェムト秒)領域のパルス長を有する光パルス等)又は高い周波数で変調された放射線の形態の変調光が照射される。照射された光は、光導電体中に自由電荷キャリアを発生させる。発生した変調電荷キャリアは、アンテナエレメントに電圧が印加されると、加速される。加速した電荷キャリアが、その変調周波数の電磁波放射線を発生させる。すなわち、テラヘルツアンテナが、テラヘルツ送信機として動作される。
【0003】
テラヘルツアンテナがテラヘルツ受信機として動作される場合には、光導電性半導体層に入射したテラヘルツ波が、アンテナエレメント間に電圧を誘起させる。この電圧は、当該誘起された電圧に同期して光導電性半導体層への変調照射が行われると、その半導体中に光電流を生じさせる。テラヘルツ放射線と照射変調との相対的な位相位置に対して平均光電流を測定することにより、テラヘルツ放射線の振幅と位相の両方を検出できる(コヒーレント検出)。
【0004】
光導電性層は、材料の中でも特に、発生した電荷キャリアの超高速な再結合(例えば、1ピコ秒未満の再結合時間等)をもたらす材料で構成される必要がある。これにより、生じる光電流が変調照射に対して少なくともほぼ追従可能となる。さらに、上記光導電性層の材料は、電荷キャリアが出来る限り効率良く加速するように、光電荷キャリアの移動度は出来る限り高いものであるのが望ましい。最大限に短い再結合時間を実現する方法の一つとして、光導電体材料にドーピングを行うことによる不純物中心の形成が挙げられる。例えば特許文献1では、光導電性層がMOVPEによって成長され、エピタキシ成長中にドーピング材料(鉄)が導入される。しかし、この方法では、ドーパント濃度が高くなると鉄クラスタが生じ、光導電性層のテラヘルツ特性を阻害する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8809092号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の根底を成す課題は、最大限に良好なテラヘルツ特性を有するテラヘルツアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載の構成を備えるテラヘルツアンテナを提供することにより、さらに、請求項13に記載の構成を備える方法によって解決される。
【0008】
したがって、テラヘルツアンテナであって、
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層(エピタキシャル半導体層の形態)と、
−2つの導電性アンテナエレメントであって、当該2つの導電性アンテナエレメントを介して、電場が、前記光導電性層の少なくとも一部に印加されることが可能である、2つの導電性アンテナエレメントと、
を備え、前記光導電性層に、遷移金属であるドーパントが1×1018cm−3以上の濃度でドープされており、前記光導電性層が、分子線エピタキシ法(MBE)によって200℃以上500℃以下の成長温度(エピタキシ成長中の基板温度)で(例えば、250℃〜500℃又は300℃〜500℃の成長温度で)作製されており、前記ドーパントが、複数の点欠陥を形成するように前記光導電性層内に配置されている、テラヘルツアンテナが提供される。
【0009】
例えば、複数のドーパント原子がそれぞれ、ドーパントクラスタを回避しながら、点欠陥の形態で前記光導電性層内に配置されている。特には、実質的に全てのドーパント原子がそれぞれ、点欠陥の形態で前記光導電性層内に配置されていることが考えられる。
【0010】
このように、本発明にかかるテラヘルツアンテナの前記光導電性層が、比較的低温(特に、MOVPE法に比べて低温)で成長されているので、特には、ドーパントクラスタを全く含まないか、又は少数しか含まない。このような低い成長温度は、前記ドーパントの拡散、ひいてはクラスタの形成を抑制する。クラスタ形成の防止または低減により、光導電性層のドーピングレベルが高くなる。例えば、前記ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上、1×1019cm−3以上、または1×1020cm−3以上にさえもなり得る。実質的に各ドーパント原子が光導電性層内に点欠陥として導入される場合、前記ドーパントの濃度は前記光導電性層の点欠陥の濃度に実質上合致する。
【0011】
前記ドーパントは、したがって、複数の点欠陥(ひいては、再結合中心)を形成するように前記光導電性層内に配置される。前記成長温度の下限は、結晶欠陥の形成が増加するのを出来る限り回避するために、前述したように約200℃、約250℃又は約300℃とされる。これにより、前記光導電性層は高いドーピングレベルで最良の結晶品質を有することができる。このため、光導電性層は、出来る限り大きい暗抵抗を有すると共に、極めて短い再結合時間および発生した光電荷キャリアの高い移動度をもたらす。
【0012】
さらに、前記光導電性層は、特には、1000〜1650nmの波長範囲の光が照射されると電荷キャリアを生成するように構成されている。例えば、前記光導電性層は、1400〜1650nmまたは1000〜1600nmの波長範囲の照射で励起される電荷キャリアを生成するように構成されている(特には、最適化されている)。例えば、前記少なくとも1つの光導電性層は、(In,Ga)As、(In,Ga)(As,P)または(In,Ga,Al)(As,P)、特にはInGaAs、InGaAsPまたはInAlAsからなる。複数の光導電性層が存在すること、および/または、前記光導電性層が層パッケージ(当該層パッケージは、例えば、前記少なくとも1つの光導電性層のほかに、必ずしも光導電性ではないさらなる層(例えば、バッファ層等)を含む)の一部であることも考えられる。有用な基板材料は、特には、リン化インジウムまたはヒ化ガリウムである(例えば、半絶縁性である)。
【0013】
前記光導電性層の層厚は、特には、100nm以上、300nm以上または500nm以上である。
【0014】
前記光導電性層をドープする前記ドーパントは、例えば、鉄、および/またはクロムおよび/またはルテニウムおよび/またはロジウムおよび/またはイリジウムなどの遷移金属である。
【0015】
特には、本発明にかかるテラヘルツアンテナの前記アンテナエレメントは、ボウタイ型構造、ダイポールタイ型構造またはストリップライン型構造を形成している。
【0016】
また、前記光導電性層がメサ構造であり、前記アンテナエレメントがそれぞれ、前記メサ構造の側壁(当該側壁はそれぞれ、前記基板と直交するように延びている)に接続されていることが考えられる。
【0017】
さらに、前記光導電性層への照射は、少なくとも1つの(特には、集積された)導波管を介して行われることも可能である。例えば、当該導波管を介して、光が、前記光導電性層に側方から(当該光導電性層の前側を介して)結合される。これに加えて、前記光導電性層は、前記アンテナエレメントに突起(「フィンガ」)を介して接続された照射可能領域を有することができる。
【0018】
本発明にかかるテラヘルツアンテナは、例えば、テラヘルツパルスシステム(光パルスの形態の光が前記光導電性層に照射される)とテラヘルツ連続波システム(CWシステム)(すなわち、変調CW光が前記光導電性層に照射されるシステム)との双方における、テラヘルツ送信機としておよび/またはコヒーレントテラヘルツ受信機として(あるいは、テラヘルツ送信機の一部としておよび/またはテラヘルツ受信機の一部として)使用されることが可能である。
【0019】
したがって、本発明は、さらに、テラヘルツ放射線の生成および/または受信を行うテラヘルツ変換器であって、前述した例示的な実施形態のいずれかにかかる少なくとも1つのテラヘルツアンテナを備える、テラヘルツ変換器に関する。
【0020】
例えば、前記テラヘルツ変換器は、前述した例示的な実施形態のいずれかに記載のテラヘルツアンテナとしてそれぞれ構成された第1および第2のテラヘルツアンテナを備え、前記第1のテラヘルツアンテナの前記光導電性層および前記第2のテラヘルツアンテナの前記光導電性層が、共通の光導電性層のうちの一部である。言い換えれば、このテラヘルツ変換器は第1のアンテナ対(送信アンテナ対)を備え、当該第1のアンテナ対が第2のアンテナ対(受信アンテナ対)と共に、共通の光導電性層上または共通の光導電性層パッケージ上に配置されている(すなわち、モノリシックに集積されている)。
【0021】
本発明は、さらに、テラヘルツアンテナ、特には、前述したテラヘルツアンテナを製造する方法であって、
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層を作製する工程を備え、
−前記光導電性層が、遷移金属であるドーパントが1×1018cm−3以上の濃度でドープされ、
−2つの導電性アンテナエレメントが作製され、当該2つの導電性アンテナエレメントを介して、電圧が、前記光導電性層の少なくとも一部に印加されることが可能であり、
−前記光導電性層が、分子線エピタキシ法によって200℃以上500℃以下の成長温度で作製され、ドーピングがエピタキシのプロセス中に行われる、方法に関する。
【0022】
前記光導電性層の成長は、そのため、既述したように比較的低温で行われる。具体的に述べると、その成長温度は、MOVPEの場合よりも顕著に低い。MOVPEの場合、基板表面上で化学反応が可能とならなければならないため、例えば600℃領域等のより高い温度が要求される。
【0023】
例えば、前記成長温度は、250℃〜500℃又は300℃〜500℃の班内とされる。本発明にかかる方法の例的な一実施形態では、エピタキシのプロセス中の基板温度が、450℃以下または400℃以下とされる。また、前記光導電性層の成長後に、熱処理工程、特にはアニール工程の形態の熱処理工程が実行されることが考えられる。例えば、前記熱処理工程中には、前記光導電性層が前記成長温度に比べてより高い温度に曝される。また、前記熱処理工程中には、前記光導電性層が安定雰囲気内に存在していることが考えられる。さらに、前記熱処理工程が、前記光導電性層(又は複数の光導電性層の1つの光導電性層)の成長の完了直後に行われて、特には、空気との当該光導電性層の接触が避けられることも可能である。特には、前記熱処理工程は、前記光導電性層を成長させるのに使用されるMBEシステム内で実行される。
【0024】
当然ながら、本発明にかかるテラヘルツアンテナに関して前述した実施形態は、本発明にかかる方法の改良形態にも相応に適用されることが可能である。例えば、前記光導電性層は、100nm以上、300nm以上または500nm以上の層厚に成長される。
【0025】
以下では、本発明について、図面を参照しながら例的な実施形態により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】リン化インジウム基板上に成長された光導電性InGaAs層の概略バンド図である。
図2】本発明の例的な一実施形態にかかるテラヘルツアンテナの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示すバンド図は、本発明にかかるテラヘルツアンテナの光導電性層の採り得る構成を表している。ここでは、光導電性層が、InP基板上に格子整合して成長されたInGaAs層の形態で構成されている。InGaAs層とInP基板との間には、InAlAsバッファ層が存在している。同図には、それぞれのバンドギャップが描かれている(CB:伝導帯;VB:価電子帯)。
【0028】
前記InGaAs層のバンドギャップの中間には、点状の再結合中心のエネルギ準位(破線)が存在している。このエネルギ準位は、InGaAs層を遷移金属(例えば、Fe等)でドープすることによって形成されている。
【0029】
光(「hv」)、例えば、中心周波数が1550nmのレーザパルスの形態の光がInGaAs層に入射すると、価電子帯VBからの電子が伝導帯CBへと励起されて、これに応じて電子−正孔対が生成される。
【0030】
励起された電子は、InGaAs層に印加された電圧によって加速される。そして、加速した電子が、テラヘルツ放射線を発する。生成された電子−正孔対は、再結合中心で再結合する。その再結合時間は、再結合中心がドーピングによって形成された点状の再結合中心であるため極めて短い。InAlAsバッファ層および基板は、バンドギャップが大きいため、電子−正孔対の生成に関与しない。
【0031】
図2は、本発明にかかるテラヘルツアンテナ1の平面図である。テラヘルツアンテナ1は、MBEによって基板12(例えば、半絶縁性InP基板等)上に作製された光導電性半導体層11を備える。この光導電性半導体層は、立方体状のメサ構造を構成する。さらに、光導電性半導体層11は、より高濃度(1×1018cm−3以上)のドーパント(例えば、鉄等)を含む。光導電性半導体層11は、ドープされたInGaAsで形成されていること、又はこのような材料を含むものであることが考えられる。
【0032】
テラヘルツアンテナ1は、さらに、それぞれ基板12上に配置された、第1および第2のストリップ状のアンテナエレメント21,22を備える。アンテナエレメント21,22は、金属で形成されており、基板12上に堆積された(例えば、蒸着等された)ものである。
【0033】
さらに、互いに平行に延びるアンテナエレメント21,22は、それぞれ、光導電性半導体層11の一方の側に電気的に接続されている。これにより、アンテナエレメント21,22を介して半導体層11に電圧を印加することができる。アンテナエレメント21,22はそれぞれ、電圧源との接続のために、接触面210,220を有している。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層(11)と、
−2つの導電性アンテナエレメント(21,22)であって、当該2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を介して、電場が、前記光導電性層(11)の少なくとも一部に印加されることが可能である、2つの導電性アンテナエレメント(21,22)と、
を備え、前記光導電性層(11)に、遷移金属であるドーパントが1×1018cm−3以上の濃度でドープされている、テラヘルツアンテナにおいて、
前記光導電性層(11)が、分子線エピタキシ法によって200℃以上500℃以下の成長温度で作製されており、前記ドーパントが、複数の点欠陥を形成するように前記光導電性層(11)内に配置されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様2〕
態様1に記載のテラヘルツアンテナにおいて、複数のドーパント原子がそれぞれ、点欠陥の形態で前記光導電性層(11)内に配置されているか、あるいは、実質的に全てのドーパント原子がそれぞれ、点欠陥の形態で前記光導電性層(11)内に配置されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様3〕
態様1または2に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、ドーパントクラスタを全く含まないか、又は少数しか含まないことを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様4〕
態様1から3のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記ドーパントの濃度が、5×1018cm−3以上、1×1019cm−3以上、または1×1020cm−3以上であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様5〕
態様1から4のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、1000〜1650nmの波長範囲の光が照射されると電荷キャリアを生成するように構成されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、(In,Ga)As、(In,Ga)(As,P)または(In,Ga,Al)(As,P)であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)の層厚が、100nm以上、300nm以上または500nm以上であることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様8〕
態様1から7のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)が、半絶縁性基板(12)上に成長されたものであることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様9〕
態様1から8のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記ドーパントが、鉄、ルテニウム、ロジウムおよびイリジウムのいずれか一つまたは任意の組合せであることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様10〕
態様1から9のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナにおいて、前記光導電性層(11)がメサ構造であり、前記アンテナエレメント(21,22)がそれぞれ、前記メサ構造の側壁に接続されていることを特徴とする、テラヘルツアンテナ。
〔態様11〕
テラヘルツ放射線の生成と受信のいずれか一方または両方を行うテラヘルツ変換器であって、
態様1から10のいずれか一態様に記載の少なくとも1つのテラヘルツアンテナ(1)、
を備える、テラヘルツ変換器。
〔態様12〕
態様11に記載のテラヘルツ変換器において、さらに、第1および第2のテラヘルツアンテナであって、態様1から11のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナとしてそれぞれ構成された第1および第2のテラヘルツアンテナを備え、前記第1のテラヘルツアンテナの前記光導電性層および前記第2のテラヘルツアンテナの前記光導電性層が、共通の光導電性層の一部であることを特徴とする、テラヘルツ変換器。
〔態様13〕
テラヘルツアンテナ、特には、態様1から12のいずれか一態様に記載のテラヘルツアンテナを製造する方法であって、
−光が照射されると電荷キャリアを生成する少なくとも1つの光導電性層(11)を作製する工程と、
−前記光導電性層(11)に、遷移金属であるドーパントを1×1018cm−3以上の濃度でドープする工程と、
−2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を作製する工程であって、当該2つの導電性アンテナエレメント(21,22)を介して、電圧が、前記光導電性層(11)の少なくとも一部に印加されることが可能である、工程と、
を備える、方法において、
前記光導電性層(11)が、分子線エピタキシ法によって200℃以上500℃以下の成長温度で作製され、ドーピングがエピタキシのプロセス中に行われることを特徴とする、方法。
〔態様14〕
態様13に記載の方法において、前記成長温度が、250℃〜500℃又は300℃〜500℃の範囲内であることを特徴とする、方法。
〔態様15〕
態様13または14に記載の方法において、前記成長温度が、450℃以下または400℃以下であることを特徴とする、方法。
〔態様16〕
態様13から15のいずれか一態様に記載の方法において、前記光導電性層(11)の成長後に、熱処理工程が実行されることを特徴とする、方法。
図1
図2