特許第6688404号(P6688404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688404タイミングチェーンの伸びを低減するための潤滑剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688404
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】タイミングチェーンの伸びを低減するための潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20200421BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 129/48 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 135/08 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20200421BHJP
   C10M 133/54 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20200421BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20200421BHJP
【FI】
   C10M163/00
   !C10M159/20
   !C10M129/48
   !C10M139/00 A
   !C10M137/10 Z
   !C10M135/10
   !C10M135/08
   !C10M133/04
   !C10M133/54
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:25
【請求項の数】20
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2018-555255(P2018-555255)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公表番号】特表2019-515069(P2019-515069A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(86)【国際出願番号】US2017019892
(87)【国際公開番号】WO2017192202
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】15/147,211
(32)【優先日】2016年5月5日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン・フレッチャー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ワイ・ラム
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02990469(EP,A1)
【文献】 特開2003−206321(JP,A)
【文献】 特開2014−122344(JP,A)
【文献】 特開2011−246792(JP,A)
【文献】 特開2008−138173(JP,A)
【文献】 特開2015−163673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
C10N10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、前記タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、前記潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)前記潤滑油組成物の総重量に対して1000ppm〜1800ppmのカルシウムの重量を提供するのに十分な量の、少なくとも1つの過塩基性カルシウム洗浄剤、
b)少なくとも1つのホウ酸化分散剤、
c)金属ジアルキルジチオホスフェート、及び
d)少なくとも1つの油溶性モリブデン化合物を含む、少量の添加剤パッケージ、を含み、
前記潤滑油組成物が、ASTM−2896の方法を使用して決定された少なくとも7.5mg KOH/グラムの潤滑油組成物のTBN値、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも80ppmのモリブデン、8.4未満の、前記潤滑油組成物中の全カルシウムの、前記潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比、及び2.6〜3.0の、前記潤滑組成物中の前記分散剤からの窒素の、前記潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比を有し、前記潤滑油組成物が、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、エンジンにおける前記タイミングチェーンの伸びを0.09%以下に低減させることができる、方法。
【請求項2】
前記基油が5WのSAE粘度等級を有し、前記潤滑油組成物が、45〜63の、前記潤滑油組成物中の重量ppm表示におけるホウ素の全濃度の、前記潤滑油組成物中の全洗浄剤の前記TBNに対する比率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、前記タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、前記潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)前記潤滑油組成物の総重量に対して1000ppm〜1800ppmのカルシウムの重量を提供するのに十分な量の、少なくとも1つの過塩基性カルシウム洗浄剤、
b)少なくとも1つのホウ酸化分散剤、
c)金属ジアルキルジチオホスフェート、及び
d)少なくとも1つの油溶性モリブデン化合物を含む、少量の添加剤パッケージ、を含み、
前記潤滑油組成物が、ASTM−2896の方法を使用して決定された少なくとも7.5mg KOH/グラムの潤滑油組成物のTBN値、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも80ppmのモリブデン、8.4未満の、前記潤滑油組成物中の全カルシウムの、前記潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比、及び2.6〜3.0の、前記潤滑組成物中の前記分散剤からの窒素の、前記潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比を有し、前記潤滑油組成物が、50〜63の、前記潤滑油組成物中の重量ppm表示におけるホウ素の全濃度の前記潤滑油組成物中の全洗浄剤の前記TBNに対する比率を有し、前記潤滑油組成物が、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、エンジンにおける前記タイミングチェーンの伸びを0.09%以下に低減させることができる、方法。
【請求項4】
前記潤滑油組成物が、56〜63の、前記潤滑油組成物中の重量ppm表示におけるホウ素の全濃度の前記潤滑油組成物中の全洗浄剤の前記TBNに対する比率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油組成物が、1.0未満の、前記潤滑油組成物中の全ホウ素の前記潤滑油組成物中の全窒素に対する重量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑油組成物が、1:1〜17:1の、前記潤滑油組成物中の全硫黄の前記潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基油が5W−30のSAE粘度等級を有し、前記潤滑油組成物が、150ppmを超える全モリブデン含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、前記潤滑油組成物に1100ppm〜1600ppmのカルシウムを提供する過塩基性カルシウム含有洗浄剤の量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑油組成物が、100ppm〜1000ppmのリン含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記潤滑油組成物が、5.7〜8.5の、前記潤滑油組成物中の前記洗浄剤からの金属のppmの前記潤滑油組成物中の重量ppm表示におけるホウ素の全濃度に対する重量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記潤滑油組成物が、5.7〜6.5の、前記潤滑油組成物中の前記洗浄剤からの金属のppmの、前記潤滑油組成物中の重量ppm表示におけるホウ素の全濃度に対する重量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記金属ジアルキルジチオホスフェートが、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートであり、前記亜鉛ジアルキルジチオホスフェートが、前記潤滑油組成物に700ppm〜900ppmの亜鉛を送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記添加剤パッケージが、マグネシウムスルホネート洗浄剤、及び中性カルシウムスルホネート洗浄剤からなる群から選択される少なくとも1つの洗浄剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記基油が、0W−16の粘度等級を有し、前記潤滑油組成物が、少なくとも200ppmの全ホウ素含有量、少なくとも600ppmの全モリブデン含有量、及び2550ppm以下の全硫黄含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑油組成物が、310ppm以下の全ホウ素含有量を有し、前記潤滑油組成物が、少なくとも1つの非ホウ酸化分散剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記エンジンが火花点火エンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンジンが、火花点火式乗用車ガソリンエンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記潤滑油組成物が、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、エンジンにおける前記タイミングチェーンの伸びを0.05%以下に低減させることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記添加剤パッケージが、酸化防止剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、及び粘度指数向上剤からなる群から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、前記タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、前記潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)前記潤滑油組成物の総重量に対して1000ppm〜1800ppmのカルシウムの重量を提供するのに十分な量の、少なくとも1つの過塩基性カルシウム洗浄剤、
b)オレフィンコポリマー、コハク酸無水物、及び少なくとも1つのポリアミンの反応生成物である、ホウ酸化分散剤であって、前記ホウ酸化分散剤が、全カルボン酸または無水物基が芳香環に直接結合した芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物、及び500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理される、ホウ酸化分散剤、
c)金属ジアルキルジチオホスフェート、及び
d)少なくとも1つの油溶性モリブデン化合物を含む、少量の添加剤パッケージと、を含み、
前記潤滑油組成物が、ASTM−2896の方法を使用して決定された少なくとも7.5mg KOH/gの前記潤滑油組成物のTBN値、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも80ppmのモリブデン、8.8未満の、前記潤滑油組成物中の全カルシウムの、前記潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比、及び2.6〜3.0の、前記潤滑組成物中の前記分散剤からの窒素の、前記潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比を有し、前記潤滑油組成物が、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、エンジンにおける前記タイミングチェーンの伸びを0.09%以下に低減させることができる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油組成物、特に、潤滑油添加剤組成物及び潤滑組成物を使用してタイミングチェーンの伸びを低減するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部燃焼エンジンにおいて、軸受ピン、ローラ、ブッシュ、ならびに内側及び外側プレートからなる、タイミングチェーンとしても知られている金属チェーンが存在し得る。これらの構成要素にかかる著しい負荷及び摩擦に起因して、タイミングチェーンは腐食摩耗を含む著しい摩耗の影響を受け易い。この問題に対処するために、潤滑剤が、金属と金属との接触がある可動部品間の摩耗を低減するために使用される。
【0003】
チェーンの伸長、またはタイミングチェーンの伸びは、摩耗に起因して劣化したタイミングチェーンを有する内部燃焼エンジンにおいて生じる現象である。チェーンの伸長は、主に、ピン、ブッシュ、及びサイドプレートの摩耗接触界面で発生する。タイミングチェーンの伸長は、内部燃焼エンジンの運転に重大な問題を引き起こす可能性があり、エンジン動作、燃費、及び排気量に影響を与える可能性がある。
【0004】
チェーンの伸長は、タイミングチェーンに動作可能に接続された部品の望ましいタイミングからのずれを引き起こす可能性がある。そのようなずれは、例えば、運転中にチェーンが1つ以上のスプロケット歯を飛ばすことによって、またはカム位相器の調節能力を超えることによって引き起こされ得る。これらのずれは、バルブ及び点火の相対的なタイミングを変化させ得る。吸気バルブタイミングは、空気及び/または燃料混合物がいつシリンダ内に引き込まれるかに影響を与える。排気バルブが適切なタイミングで開かない場合、排気バルブを介してガスが漏れる結果、電力が失われる場合があるため、排気バルブタイミングは出力に影響する。さらに、排気バルブタイミングがずれている場合、そのような状況下では未燃焼燃焼ガスが排気バルブを介して漏れる可能性があるため、未燃焼炭化水素の排気量が増加し得る。
【0005】
ディーゼルエンジンのタイミングチェーンの摩耗に対する種々の基油の影響は、“Investigation of Lubrication Effect on a Diesel Engine Timing Chain Wear,”Polat,Ozay,M.Sc.Thesis Istanbul Technical University Institute of Science and Technology (January 2008)において調査された。この論文は、基油の選択が、ディーゼルエンジンのタイミングチェーンの摩耗に影響を与える可能性があると結論付けた。
【0006】
軽量用ディーゼルエンジンにおけるタイミングチェーンの摩耗は、様々な要因によるものであり、要因のうちの1つは、煤の研磨摩耗への寄与である。Li,Shoutian,et al.,“Wear in Cummins M−11/EGR Test Engines,”Society of Automotive Engineers, Inc.(2001),paper no.2002−01−1672。この記事は、排気ガス再循環(EGR)システムを有するエンジンにおいて、煤が、ライナー、クロスヘッド、及びトップリング面に摩耗を引き起こしたことを述べている。この記事はまた、非EGRディーゼルエンジンにおいて煤によって誘発される摩耗は、GM 6.2Lエンジンではローラピンの摩耗、及びCummins M−11では、クロスヘッドの摩耗に主に集中するとも述べている。
【0007】
ガソリンエンジンにおけるチェーンの伸長は、典型的にはローラピンの摩耗の結果である。結果として、タイミングチェーンの伸びに対処するための従来技術の方法は、典型的には、耐摩耗剤の使用及び選択に焦点を当てている。TGDiエンジンの使用により、煤は今やガソリンエンジン燃焼の副生成物であり、したがってそのような煤生成に起因するチェーンの伸長がそのようなエンジンにおいて起こり得る。
【0008】
タイミングチェーンの伸びを低減させるためにガソリンエンジンにおいて現在使用されている潤滑剤は、耐摩耗剤がタイミングチェーンの摩耗を低減できると考えられているため、これらの添加剤を含む。しかしながら、本出願の実施例に示されるように、特定の典型的な耐摩耗剤は、タイミングチェーンの伸びを悪化させた。タイミングチェーンの伸びをもたらす摩耗問題を克服するために、ローラピンの摩耗を引き起こす転がり摩擦力及び摺動摩擦力を低減するための解決策が求められている。
【0009】
いくつかの場合においては、分散剤及び分散剤粘度指数向上剤が摩耗の問題に対処するために使用されてきた。例えば、米国特許第7,572,200 B2号は、チェーン及びスプロケットを含むシステムの摺動部品を、10原子パーセント以下の水素含有量を有する薄い硬質炭素コーティング膜で被覆し、チェーン駆動システム上の摩擦及び摩耗の量を低減するように設計された潤滑剤を用いる、チェーン駆動システムを開示している。
【0010】
米国特許第8,771,119 B2号は、室温で液体である80〜95質量%の潤滑剤及び室温で固体である5〜20質量%のワックスを含む、チェーンのための潤滑組成物を開示している。ワックスの添加は、より良好な摩耗抵抗を提供し、伸長抵抗及びより長い寿命を有するチェーンを提供すると言われている。
【0011】
米国特許第7,053,026 B2号は、コンベヤチェーンシステムを潤滑するための方法を開示している。コンベヤチェーンは、高温に曝露される可能性があり、通常はポリオールエステル系潤滑剤を必要とする。この特許は、鉱油、ポリ(イソブチレン)、及びポリオールエステルの混合物を使用することによって、チェーンの摩耗を低減すること及びチェーンの表面上の付着物を最小化することに焦点を当てている。
【0012】
前述の参考文献は、内部燃焼エンジンのタイミングチェーンの伸びを最小化するための適切な解決策を提供していない。例えば、この目的のための分散剤の提案された使用は、タイミングチェーンの伸びに対する不適切な保護を提供することが見出されている。したがって、本開示は、従来の耐摩耗剤または分散剤の組み合わせによって提供されるよりもチェーンの伸長の大きな低減を提供するために、カルシウム洗浄剤及び洗浄剤の組み合わせを用いる方法を提供する。
【発明の概要】
【0013】
第1の態様において、本開示は、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)少なくとも1つの過塩基性カルシウム洗浄剤、
b)少なくとも1つのホウ酸化分散剤、
c)金属ジアルキルジチオホスフェート、及び
d)少なくとも1つの油溶性モリブデン化合物を含む、少量の添加剤パッケージとを含み、
潤滑油組成物が、ASTM−2896の方法を使用して決定された少なくとも7.5mg KOH/グラムの潤滑油組成物のTBN値、潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも80ppmのモリブデン、8.4未満の、潤滑油組成物中の全カルシウムの潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比、及び2.6〜3.0の、潤滑組成物中の分散剤からの窒素の潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比を有する、方法を提供する。
【0014】
特定の実施形態において、基油は、5WのSAE粘度等級を有し、潤滑油組成物は、45〜63もしくは50〜63、または56〜63の、潤滑油組成物中のホウ素の全ppmの全洗浄剤のTBNに対する比率を有する。
【0015】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、1.0未満の、潤滑油組成物中の全ホウ素の潤滑油組成物中の全窒素に対する重量比を有し得る。
【0016】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、約1:1〜17:1の、潤滑油組成物中の全硫黄の潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比を有し得る。
【0017】
前述の実施形態の各々において、基油は、5W−30のSAE粘度等級を有し得、潤滑油組成物は、150ppmを超えるモリブデン含量量を有し得る。
【0018】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、過塩基性カルシウム含有洗浄剤からの1000ppm〜1800ppmのカルシウム、または1100ppm〜1600ppm、または1200〜1500ppmのカルシウムを含み得る。
【0019】
前述の全ての実施形態において、過塩基性カルシウム洗浄剤は、約0.9重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約5重量%、または約1重量%〜約2重量%の潤滑組成物を含み得る。
【0020】
前述の全ての実施形態において、潤滑油は、100〜1000ppm、または200〜900ppm、または300〜800ppmのリン含有量を有し得る。
【0021】
前述の全ての実施形態において、添加剤パッケージは、酸化防止剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、及び粘度指数向上剤から選択される1つ以上の添加剤をさらに含み得る。
【0022】
前述の全ての実施形態において、潤滑油は、5.7〜8.5または5.7〜6.5の、潤滑油組成物中の洗浄剤からの金属のppmの潤滑油組成物中のホウ素の全ppmに対する重量比を有し得る。
【0023】
前述の全ての実施形態において、少なくとも1つの金属ジアルキルジチオホスフェートは、少なくとも1つの亜鉛ジアルキルジチオホスフェートであり得る。
【0024】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(複数可)によって潤滑油に送達される700ppm〜900ppmのZn含有量を有し得る。
【0025】
前述の全ての実施形態において、添加剤パッケージは、マグネシウムスルホネート洗浄剤、及び中性カルシウムスルホネート洗浄剤からなる群から選択される少なくとも1つの洗浄剤を含み得る。
【0026】
前述の全ての実施形態において、添加剤パッケージは、マグネシウムスルホネート洗浄剤を含み得る。
【0027】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、310ppm以下のホウ素含有量を有し得る。
【0028】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも1つの非ホウ酸化分散剤を含み得る。
【0029】
前述の全ての実施形態において、エンジンは、火花点火エンジンであり得る。
【0030】
前述の全ての実施形態において、エンジンは、火花点火式乗用車ガソリンエンジンであり得る。
【0031】
前述の実施形態の各々において、分散剤は、少なくとも1つのポリアミンを有するオレフィンコポリマーの反応生成物またはコハク酸無水物を有するオレフィンコポリマー、及び少なくとも1つのポリアミンの反応生成物であり、反応生成物が、全カルボン酸または無水物基が芳香環に直接結合した芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物、及び500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理される。
【0032】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、少なくとも100ppmの全モリブデン含有量を有し得る。
【0033】
前述の実施形態において、基油は、0W−16の粘度等級を有し、潤滑油組成物は、少なくとも200ppmのホウ素含有量、少なくとも600ppmのモリブデン含有量、及び2550ppm以下の全硫黄含有量を有し得る。
【0034】
前述の全ての実施形態において、潤滑油組成物は、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験(Ford Chain Wear Test)によって測定した場合、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びまたは伸長を0.1%以下、または0.05%以下に低減させることが可能であり得る。
【0035】
本開示の追加の特徴及び利点は、一部が以下の記述に説明され、及び/または本開示の実践によって理解され得る。本開示の特徴及び利点はさらに、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素及び組み合わせの手段によって実現され、達成され得る。
【0036】
前述の一般的記述及び以下の詳細の記述はどちらも例示的及び説明的なものにすぎず、主張される本発明を制限するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の用語の定義が、本明細書で使用される所定の用語の意味を明白にするために提供される。
【0038】
用語「油組成物」、「潤滑組成物(lubrication composition)」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物(lubricating composition)」、「完全配合潤滑剤組成物」、「潤滑剤」、「クランクケース油」、「クランクケース潤滑剤」、「エンジン油」、「エンジン潤滑剤」、「モーター油」、及び「モーター潤滑剤」は、主要量の基油に加えて少量の添加剤組成物を含む最終潤滑生成物を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であるとみなされる。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、「エンジン油添加剤パッケージ」、「エンジン油添加剤濃縮物」、「クランクケース添加剤パッケージ」、「クランクケース添加剤濃縮物」、「モーター油添加剤パッケージ」、「モーター油濃縮物」は、主要量の基油ストック混合物を除外する潤滑組成物の一部を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であるとみなされる。添加剤パッケージは、粘度指数向上剤または流動点降下剤を含んでも、含まなくてもよい。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、その通常の意味で使用され、これは当業者に周知である。具体的には、それは、分子の残部に直接結合した炭素原子を有し、かつ主として炭化水素の特質を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例としては、
(a)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、及び芳香族、脂肪族、及び脂環式置換芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分によって完成する(例えば、2つの置換基が共に脂環式部分を形成する)環状置換基、
(b)置換炭化水素置換基、すなわち、本開示の文脈において、主として炭化水素置換基を変化させない、非炭化水素基(例えば、ハロ(特にクロロ及びフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、アミノ、アルキルアミノ、及びスルホキシ)を含有する置換基、及び
(c)ヘテロ置換基、すなわち、主として炭化水素の特質を有する一方で、本開示の文脈において、さもなければ炭素原子で構成される環または鎖内に炭素以外を含有する、置換基、が挙げられる。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、及び窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニル、及びイミダゾリルなどの置換基を網羅し得る。一般に、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に、2つ以下、例えば、1つ以下の非炭化水素置換基が存在し、典型的には、ヒドロカルビル基中には非炭化水素置換基は存在しない。
【0041】
本明細書で使用される場合、別段明確に述べられない限り、用語「重量パーセント」は、引用される構成成分が組成物全体の重量に対して表す百分率を意味する。
【0042】
本明細書で使用される用語「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」は、化合物もしくは添加剤が可溶性、溶解性、混和性であること、または全ての割合において油中に懸濁され得ることを示し得るが、必ずしも示さなくてもよい。しかしながら、上述の用語は、それらが、油が用いられる環境において、それらの意図される効果を発揮するのに十分な程度まで、例えば、油中に可溶性、懸濁可能、溶解性、または安定に分散可能であることを意味する。さらに、他の添加剤の追加の組み込みもまた、望ましい場合、より高レベルの特定の添加剤の組み込みを可能にし得る。
【0043】
本明細書で用いられる場合、用語「TBN」は、ASTM D2896またはASTM D4739の方法によって測定される場合、mg KOH/gの組成物での総塩基価を表すために使用される。
【0044】
本明細書で用いられる場合、用語「アルキル」は、約1〜約100個の炭素原子の直鎖状、分岐状、環状、及び/または置換飽和鎖部分を指す。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「アルケニル」は、約3〜約10個の炭素原子の直鎖状、分岐状、環状、及び/または置換不飽和鎖部分を指す。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「アリール」は、アルキル置換基、アルケニル置換基、アルキルアリール置換基、アミノ置換基、ヒドロキシル置換基、アルコキシ置換基、ハロ置換基、ならびに/または窒素、酸素、及び硫黄を含むが、これらに限定されない、ヘテロ原子を含み得る、単環及び多環芳香族化合物を指す。
【0047】
別段述べられない限り、全ての百分率は重量パーセントであり、全てのppm値は重量百万分率(ppmw)であり、全ての分子量は数平均分子量である。
【0048】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の参考文献を含むことに留意されたい。さらに、用語「a」(または「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書では交換可能に使用することができる。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、及び「から構築された(constructed from)」はまた、交換可能に使用することができる。
【0049】
本明細書に開示された各構成成分、化合物、置換基、またはパラメータは、単独で、または本明細書に開示された各々の及び全ての他の構成成分、化合物、置換基、またはパラメータのうちの1つ以上と組み合わせて使用するために開示されているものと解釈されるべきである。
【0050】
また、本明細書に開示された各構成成分、化合物、置換基、またはパラメータのための各量/値または量/値の範囲は、本明細書に開示された任意の他の構成成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータ(複数可)の各量/値または量/値の範囲と組み合わせて開示されているものとしても解釈されるべきであり、また、本明細書に開示された2つ以上の構成成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータのための量/値または量/値の範囲の任意の組み合わせはまた、それ故、本明細書の目的のために互いに組み合わせて開示されているものと理解されたい。
【0051】
本明細書に開示された各範囲の各下限は、同じ構成成分、化合物、置換基、またはパラメータについて本明細書に開示された各範囲の各上限と組み合わせて開示されているものと解釈されるべきであることがさらに理解される。このようにして、2つの範囲の開示は、各範囲の各下限値を各範囲の各上限値と組み合わせることによって誘導される4つの範囲の開示として解釈されるべきである。3つの範囲の開示は、各範囲の各下限値を各範囲の各上限値等と組み合わせることによって誘導される9つの範囲の開示として解釈されるべきである。さらに、本明細書または実施例に開示された構成成分、化合物、置換基、またはパラメータの特定量/値は、範囲の下限値または上限値のいずれかの開示として解釈されるべきであり、それ故、本出願の他の個所で開示された同じ構成成分、化合物、置換基、またはパラメータについての範囲の任意の他の上限値もしくは下限値、または特定量/値と組み合わせて、その構成成分、化合物、置換基、またはパラメータ用の範囲を形成することができる。
【0052】
本明細書の潤滑剤、構成成分の組み合わせ、または個々の構成成分は、様々な種類の内部燃焼エンジンにおけるタイミングチェーンの潤滑への使用に好適であり得る。内部燃焼エンジンは、ガソリン燃料エンジン、混合ガソリン/バイオ燃料燃料エンジン、アルコール燃料エンジン、または混合ガソリン/アルコール燃料エンジンであってもよい。ガソリンエンジンは、火花点火エンジンであってもよい。内部燃焼エンジンはまた、電源またはバッテリ源と組み合わせて使用されてもよい。そのように構成されたエンジンは一般に、ハイブリッドエンジンとして知られる。内部燃焼エンジンは、2行程エンジン、4行程エンジン、またはロータリーエンジンであり得る。好適な内部燃焼エンジンとしては、船舶用エンジン、航空機用ピストン式エンジン、ならびにバイク、自動車、エンジン車、及びトラックのエンジンが挙げられる。
【0053】
内部燃焼エンジンは、アルミニウム合金、鉛、スズ、銅、鋳鉄、マグネシウム、セラミック、ステンレス鋼、それらの複合物及び/または混合物のうちの1つ以上の構成成分を含有し得る。構成成分は、例えば、ダイアモンド様炭素コーティング、潤滑コーティング、リン含有コーティング、モリブデン含有コーティング、黒鉛コーティング、ナノ粒子含有コーティング、及び/またはそれらの混合物でコーティングされ得る。アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料を含み得る。一実施形態において、アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で使用される場合、用語「アルミニウム合金」は、「アルミニウム複合材料」と同義であること、ならびにその詳細構造に関わらず、顕微鏡もしくはほぼ顕微鏡レベルで混合または反応されたアルミニウム及び別の構成成分を含む構成成分または表面を記載することが意図される。これは、アルミニウム以外の金属を有する任意の従来の合金、及びセラミック様材料などの非金属元素もしくは化合物を有する複合材料または合金様構造を含む。
【0054】
本開示の潤滑剤組成物は、硫黄、リン、または硫酸灰分(ASTM D−874)含有量とは無関係に、あらゆるエンジン潤滑剤に好適であり得る。潤滑油の硫黄含有量は、約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下、または約0.3重量%以下であり得る。一実施形態において、硫黄含有量は、約0.001重量%〜約0.5重量%、または約0.01重量%〜約0.3重量%の範囲であり得る。リン含有量は、約0.2重量%以下、または約0.1重量%以下、または約0.085重量%以下、または約0.08重量%以下、または約0.06重量%以下、約0.055重量%以下、または約0.05重量%以下であり得る。
【0055】
一実施形態において、本開示の潤滑組成物のリン含有量は、約100ppm〜約1000ppm、または約325ppm〜約850ppmであり得る。全硫酸灰分含有量は、約2重量%以下、または約1.5重量%以下、または約1.1重量%以下、または約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下であり得る。一実施形態において、硫酸灰分含有量は、約0.05重量%〜約0.9重量%、または約0.1重量%もしくは約0.2重量%〜約0.45重量%であり得る。別の実施形態において、硫黄含有量は約0.4重量%以下であり得、リン含有量は約0.08重量%以下であり得、硫酸灰分は約1重量%以下である。さらに別の実施形態において、硫黄含有量は約0.3重量%以下であり得、リン含有量は約0.05重量%以下であり、硫酸灰分は約0.8重量%以下であり得る。
【0056】
一実施形態において、潤滑組成物はまた、エンジンオイルとして、例えばエンジンのクランクケースの潤滑に使用するのにも適している。他の実施形態において、潤滑油組成物は、(i)約0.5重量%以下の硫黄含有量、(ii)約0.1重量%以下のリン含有量、及び(iii)約1.5重量%以下の硫酸灰分含有量を有し得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、潤滑組成物は、これらに限定されないが、船舶用エンジンの動力供給に使用される燃料の高硫黄含有量及び海洋に適したエンジンオイル(例えば、海洋に適したエンジンオイルでは約40TBN超)に必要な高いTBNを含む、1つ以上の理由のために、2行程または4行程船舶用ディーゼル内部燃焼エンジンに好適でない。
【0058】
いくつかの実施形態において、潤滑組成物は、約1〜約5%の硫黄を含有する燃料などの低硫黄燃料によって動力を供給されるエンジンでの使用に好適である。高速道路車両燃料は約15ppmの硫黄(または約0.0015%の硫黄)を含有する。
【0059】
さらに、本明細書の潤滑剤は、ILSAC GF−3、GF−4、GF−5、GF−6、PC−11、CI−4、CJ−4、ACEA A1/B1、A2/B2、A3/B3、A5/B5、C1、C2、C3、C4、E4/E6/E7/E9、Euro 5/6,Jaso DL−1、Low SAPS、Mid SAPSなどの1つ以上の産業規格必要条件、もしくはDexos(商標)1、Dexos(商標)2、MB−Approval229.51/229.31、VW502.00、503.00/503.01、504.00、505.00、506.00/506.01、507.00、BMW Longlife−04、Porsche C30、Peugeot Citroen Automobiles B71 2290、Ford WSS−M2C153−H、WSS−M2C930−A、WSS−M2C945−A、WSS−M2C913A、WSS−M2C913−B、WSS−M2C913−C、GM6094−M、Chrysler MS−6395などの相手先商標製造規格、または本明細書に言及されていないあらゆる過去もしくは将来のPCMO規格もしくはHDD規格を満たすのに好適であり得る。いくつかの実施形態において、乗用車モーター油(PCMO)用途について、最終流体中のリンの量は、1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。
【0060】
他のハードウェアは、開示される潤滑剤との使用には好適でない可能性がある。「機能性流体」とは、トラクター用作動油流体、動力変速機流体(自動変速機流体、無段変速機流体、及び手動変速機流体を含む)、作動油流体(トラクター用作動油流体を含む)、いくつかのギア油、パワーステアリング流体、風力タービン、圧縮機において使用される流体、いくつかの産業流体、ならびに動力伝達系の構成成分に関連する流体を含むが、これらに限定されない、様々な流体を網羅する用語である。例えば、自動変速機流体などのこれらの流体の各分類において、様々な変速機が著しく異なる機能特質の流体に対する必要性をもたらしている異なる設計を有するために、様々な異なる種類の流体が存在することに留意されたい。これは、動力を生成または伝達するためには使用されない「潤滑流体」という用語によって対比される。
【0061】
機能性流体が自動変速機流体である場合、自動変速機流体はクラッチ板が動力を伝達するのに十分な摩擦を有さなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、運転中に流体が熱くなるので温度の影響により低下する傾向を有する。トラクター用作動油流体または自動変速機流体は、高温においてその高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステムまたは自動変速機が故障する場合がある。これは本発明の潤滑油の機能ではない。
【0062】
トラクター流体、及び例えばスーパートラクターユニバーサル油(STUO)またはユニバーサルトラクター変速機油(UTTO)は、エンジン油の性能を、変速機、差動装置、最終駆動遊星ギア、湿式ブレーキ、及び油圧性能と組み合わせ得る。UTTOまたはSTUO流体を配合するのに使用される添加剤の多くは、機能が類似しているが、適切に組み込まれていない場合は有害な影響を与える場合がある。例えば、いくつかの耐摩耗及び極圧添加剤は、油圧ポンプ中の銅構成成分に対して極端に腐食性であり得る。ガソリンまたはディーゼルエンジン動作のために使用される洗浄剤及び分散剤は、湿式ブレーキ性能に有害であり得る。静かな湿式ブレーキのノイズに特有の摩擦調整剤は、油の動作に必要な熱安定性を欠く場合がある。これらの流体の各々は、機能性、トラクター、または潤滑性であろうとなかろうと、特定の厳格な製造業者の要件を満たすように設計されている。
【0063】
本開示は、一実施形態において、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、該タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)少なくとも1つの過塩基性カルシウム洗浄剤、
b)少なくとも1つのホウ酸化分散剤、
c)金属ジアルキルジチオホスフェート、及び
d)少なくとも1つの油溶性モリブデン化合物を含む、少量の添加剤パッケージと、を含む、方法を提供する。
【0064】
本開示の実施形態は、以下の特質、タイミングチェーンの伸びまたは伸長、泥及び/または煤分散性、及び摩擦低減、ならびに空気混入、アルコール燃料適合性、酸化防止性、耐摩耗性能、バイオ燃料適合性、泡低減特性、燃料経済性、付着低減、プレイグニッション防止、錆抑制、及び耐水性を提供し得る。
【0065】
本開示の方法における使用に好適な潤滑油は、以下に詳述されるように、添加剤を適切な基油配合物に添加することによって配合され得る。添加剤は、1つ以上の添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態で基油と組み合わされても、あるいは、基油と個々に組み合わされてもよい。完全配合潤滑油は、添加された添加剤及びそれらのそれぞれの割合に基づいて、改善された性能特性を呈し得る。本発明の方法において有用な潤滑油の組成物の詳細は、以下に示される。
【0066】
基油
本明細書の潤滑油組成物中に使用される基油は、米国石油協会(American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelines)に明記される、I〜V群における基油のいずれかから選択され得る。5つの基油の群は、以下の通りである。
【0067】
[表]
【0068】
I群、II群、及びIII群は鉱油プロセスストックである。IV群の基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される純合成分子種を含有する。多くのV群の基油もまた純合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリホスフェートエステル、ポリビニルエーテル、及び/またはポリフェニルエーテルなどを含み得るが、植物油などの天然に発生する油でもあり得る。III群の基油は鉱物油に由来するものの、これらの流体が受ける厳しい処理のために、それらの物理的特性がPAOなどのいくつかの純合成物と非常に類似したものとなることに留意されたい。そのため、III群の基油に由来する油は、当該産業において合成流体と称され得る。
【0069】
潤滑油組成物中に使用される基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、またはそれらの混合物であり得る。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製、及び再精製油、ならびにそれらの混合に由来し得る。
【0070】
未精製油は、さらなる精製処理がほとんどなし、もしくはなしで、天然源、鉱物源、または合成源に由来するものである。精製油は、それらが、1つ以上の特性の改善をもたらし得る1つ以上の精製工程で処理されていることを除いて、未精製油に類似している。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸出などである。食用品質まで精製された油は、有用でも、有用でなくもあり得る。食用油はまた、ホワイト油とも呼ばれる。いくつかの実施形態において、潤滑剤組成物は、食用油またはホワイト油を含まない。
【0071】
再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られる。これらの油は、同一または類似したプロセスを使用して、精製油と同様に得られる。しばしば、これらの油は、消費された添加剤及び油分解生成物の除去を対象とする技術によって追加的に処理される。
【0072】
鉱物油は、削岩によって、または植物及び動物から得られた油、ならびにそれらの混合物を含み得る。例えば、そのような油としては、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、ダイズ油、及び亜麻仁油、ならびに液体石油、及びパラフィン性、ナフテン性、もしくはパラフィン−ナフテン混合性の種類の溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油などの鉱物潤滑油を挙げることができるが、これらに限定されない。そのような油は、望ましい場合、部分的または完全に水素化されていてもよい。石炭または頁岩に由来する油もまた、有用であり得る。
【0073】
有用な合成潤滑油としては、重合、オリゴマー化、もしくは内部重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー)などの炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、1−デセンのトリマーもしくはオリゴマー、例えば、ポリ(1−デセン)(そのような材料はしばしばα−オレフィンと称される)、及びそれらの混合物;アルキル−ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)−ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル、及びアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにこれらの誘導体、類似体、及び相同体、またはそれらの混合物を挙げることができる。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化材料である。
【0074】
他の合成潤滑油としては、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスホン酸のジエチルエステル)、またはポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成され得、典型的には、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素またはワックスであり得る。一実施形態において、油は、フィッシャー・トロプシュのガス−液体手順及び他のガス−液体油によって調製され得る。
【0075】
存在する潤滑粘度の油の量は、100重量%から、粘度指数向上剤(複数可)及び/もしくは流動点降下剤(複数可)ならびに/または他の上面処理添加剤を含む性能添加剤の量の合計を減算した後に残る残余であり得る。例えば、最終流体中に存在し得る潤滑粘度の油は、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、または約90重量%超など、主要量であり得る。
【0076】
特定の実施形態において、基油の特定の選択は、チェーンの伸びまたは伸長を低減することにおいて有利な結果を提供し得る。例えば、いくつかの実施形態において、0Wまたは5WのSAE粘度等級を有する基油を選択することが望ましい場合がある。特定の実施形態において、0W−16または5W−30のSAE粘度等級を有する基油を選択することによって利点が達成され得る。
【0077】
洗浄剤
本開示の潤滑剤組成物は、少なくとも1つの過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤を含む。少なくとも1つの過塩基性カルシウムスルホネートは、好適な脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式スルホン酸及び/またはそれらの塩に由来し得る。一般に、このような酸は、式R(SOH)及び(R’)T(SOH)によって表されることができ、式中、Rは、アセチレン不飽和を含まず、最大約60個の炭素原子を有する、脂肪族もしくは脂肪族置換脂環式基であり、nは、少なくとも1であり、一般に1〜3の範囲であり、R’は、アセチレン不飽和を含まない脂肪族基(典型的にはアルキルまたはアルケニル)であり、約4個〜約60個の炭素原子を有し、Tは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素、またはピリジン、インドール、イソインドールなどの複素環化合物に由来し得る環状核である。通常、Tは、ベンゼンまたはナフタレンなどの芳香族炭化水素核であり、x及びyは、分子当たり約1〜4の平均値を有し、最も頻繁には平均で約1である。このような酸の例は、石油スルホン酸、パラフィンワックススルホン酸、ワックス置換シクロヘキシルスルホン酸、セチルシクロペンチルスルホン酸、ワックス置換芳香族スルホン酸、マホガニースルホン酸、テトライソブチレンスルホン酸、テトラアミレンスルホン酸などである。最も好ましくは、過塩基性カルシウム塩は、アルキルベンゼンスルホン酸などのアルキルアリールスルホン酸から形成される。芳香族環上に存在するアルキル基は、典型的には、それぞれ約8〜約40個の炭素原子を含む。過塩基性組成物1グラム当たり少なくとも約150ミリグラムのKOHの全塩基価を有する、好適な過塩基性カルシウムスルホネートは、多くの供給者から商品として入手可能である。そのような材料の1つは、約300mg KOH/グラムの組成物の公称TBNを有するHiTEC(登録商標)611添加剤(Ethyl Petroleum Additives,Inc.)である。
【0078】
潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、過塩基性カルシウム含有洗浄剤によって提供される、約1000ppm〜1800ppm、または約1100ppm〜約1600ppm、または約1200ppm〜約1500ppmのカルシウムを含み得る。また、いくつかの実施形態において、全ての供給源からの潤滑油組成物中のカルシウムの総量は、約1000ppm〜約1800ppmであってもよい。いくつかの実施形態において、過塩基性カルシウム洗浄剤は、約0.9重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約5重量%、または約1重量%〜約2重量%の潤滑組成物を含む。
【0079】
本開示の潤滑油組成物は、任意に、少なくとも1つ以上の追加の洗浄剤を含んでもよい。1つ以上の追加の洗浄剤は、好ましくは、マグネシウムスルホネート洗浄剤、及び中性カルシウムスルホネート洗浄剤から選択される。いくつかの実施形態において、追加の洗浄剤は、マグネシウムスルホネート洗浄剤である。
【0080】
洗浄剤構成成分は、任意に、少なくとも1つの酸性有機化合物の1つ以上の他の過塩基性カルシウム塩を含んでもよい。これらには、過塩基性カルシウムフェネート、過塩基性カルシウム硫黄含有フェネート、過塩基性カルシウムカリキサレート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性カルシウムサリチレート、過塩基性カルシウムカルボン酸、過塩基性カルシウムリン酸、過塩基性カルシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、及び過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。
【0081】
専門用語「過塩基性」は、スルホネート、カルボキシレート、及びフェネートの金属塩などの金属塩に関連し、存在する金属の量は、化学量論量を超過する。そのような塩は、100%を超える転換レベルを有し得る(すなわち、それらは、酸をその「正」塩、「中性」塩に転換するのに必要とされる金属の理論量の100%超を含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、過塩基性塩中の金属の総化学当量の、既知の化学反応性及び化学量論に従う中性塩中の金属の化学当量に対する比を示すために使用される。正塩または中性塩において、金属比は1であり、過塩基性塩において、MRは1超である。1超のMRを有する塩は一般に、過塩基性塩、過剰塩基性塩、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、またはフェノールの塩であり得る。
【0082】
過塩基性塩中の金属の実際の化学量論的超過は、使用される材料、利用される反応、及び用いられるプロセスの条件に応じて、例えば、約0.1当量〜約50当量以上など、かなり変化し得る。概して言えば、潤滑油組成物において有用な過塩基性カルシウム塩は、過塩基化された材料の各当量当たり、約1.1〜約40当量以上のカルシウム、より好ましくは約1.5〜約30、最も好ましくは約2〜約25当量のカルシウムを含有する。
【0083】
過塩基性カルシウムフェネートは、典型的には、芳香族環が、完成した生成物を可溶性にするか、あるいは少なくとも油中で安定に分散可能にする1つ以上のアルキルまたはアルケニル基(通常1〜2つ)で置換されている、カルシウムアルキルフェネート及び/またはカルシウムアルケニルフェネートを過塩基化することによって形成される。芳香族環上のアルキルまたはアルケニル置換基は、典型的には、少なくとも約6個の炭素原子を含み、500個以上と同数の炭素原子を含み得る。好ましい置換基は、トリエチルアルミニウムなどのアルミニウムアルキル上のエチレンのワックス分解または鎖成長によって形成されるようなアルファオレフィンに由来するか、あるいはオレフィンオリゴマー、例えばオレフィンダイマー、トリマー、テトラマー、及び/またはペンタマーに由来する。しかしながら、ポリプロピレン、ポリイソブテン、ポリアミレン、及びエチレンとプロピレンなどとのコポリマーなどのコポリマーといったより高いポリマーもまた、カルシウムフェネートが生成される置換フェノールを形成するための原料として有用である。ほとんどの場合、フェネートは約6〜約50個の範囲の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル置換基を有するであろう。フェノール環はまた、メチル、エチル、イソプロピル、ブチルなどの置換基などの短鎖置換基をさらに含んでいてもよい。同様に、フェネートは、カテコール、レゾルシノール、またはヒドロキノンなどのポリヒドロキシ芳香族化合物の誘導体であってもよい。
【0084】
過塩基性硫化カルシウムフェネートは、置換フェノールを、一塩化硫黄、二塩化硫黄、または元素硫黄と反応させることにより、上記に説明される置換フェノールから形成されることができる。フェノール:硫黄化合物のモル比は、通常、約1:0.5〜約1:1.5またはそれ以上の範囲である。約60〜約200℃の範囲の反応温度が通常用いられる。概して、硫化フェネート中のフェノール:硫黄基のモル比は、約2:1から約1:2の範囲である。
【0085】
潤滑油組成物中で使用されることができる好適な過塩基性カルボン酸には、過塩基性脂肪族カルボン酸、過塩基性脂環式カルボン酸、過塩基性芳香族カルボン酸、及び過塩基性複素環式カルボン酸が挙げられる。このような酸は、モノカルボン酸またはポリカルボン酸であり得、主な必要条件は、潤滑油中に可溶性または少なくとも安定に分散可能な十分な鎖長さを有することである。したがって、酸は概して約8〜約50個、好ましくは約12〜約30個の炭素原子を含むが、アルキルもしくはアルケニル置換コハク酸のような特定の酸は、分子当たり最大500個以上の平均の炭素原子を有することができる。酸は、通常アセチレン不飽和を含まない。例として、リノレン酸、カプリン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ウンデシル酸、パルミトレイン酸、2−エチルヘキサン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ペラルゴン酸、プロピレンテトラマー置換コハク酸、イソブテントリマー置換コハク酸、オクチルシクロペンタンカルボン酸、ステアリルオクタヒドロインデンカルボン酸、トール油酸、ロジン酸、200〜1500の範囲のGPC数平均分子量を有するポリブテン由来のポリブテニルコハク酸、ワックスの酸化によって形成される酸、及び同様の酸が挙げられる。
【0086】
本開示の添加剤パッケージ及び潤滑剤組成物はまた、カルシウム洗浄剤以外の1つ以上の追加の過塩基性洗浄剤を含み得る。好適な追加の過塩基性洗浄剤の例としては、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、または過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。好ましい過塩基性マグネシウム塩は、その1グラム当たり少なくとも約300ミリグラムのKOHの全塩基価、最も好ましくはその1グラムあたり約350〜約500ミリグラムのKOHの範囲の全塩基価を有する過塩基性マグネシウムアルキルベンゼンスルホネート洗浄剤組成物である。そのような組成物は、不活性希釈剤、通常は鉱物油希釈剤中で形成されるため、全塩基価は、希釈剤、及び洗浄剤組成物に含まれ得る任意の他の物質(例えば、プロモーターなど)を含む全体組成物の塩基性を反映する。
【0087】
過塩基性洗浄剤は、1.1:1、または2:1、または4:1、または5:1、または7:1、または10:1の金属の基材に対する比率を有し得る。
【0088】
本開示の潤滑剤組成物はまた、任意に、1つ以上の中性もしくは低塩基性の洗浄剤またはそれらの混合物を含み得る。低塩基性洗浄剤は、TBNが0より大きく最大150mg KOH/グラム未満の組成物を有する洗浄剤である。
【0089】
カルシウムアルキルベンゼンスルホネート好適な低塩基性洗浄剤組成物、最も好ましくは低塩基性カルシウムプロピレン由来アルキルアリールスルホネートは、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を調製することと、望ましい場合、少量の過塩基化が生じるように、二酸化炭素などの酸性物質の作用に、酸化物、水酸化物、またはアルコラートのようなアルカリもしくはアルカリ土類金属塩基の小量の超過量の存在下で塩を供することとによって形成される。この制御された過塩基化は、当然得られた組成物の望ましい全塩基価が達成されるような金属塩基の量であることを除いて、上記に説明される過塩基化とほぼ同じ方法で同じ物質を使用して行われることができる。前述の種類の好適な低塩基性物質は、商品として入手可能である。HiTEC(登録商標)614添加剤(Ethyl Petroleum Additives,Inc.)は、市販されているカルシウムアルキルベンゼンスルホネートの良い例である。低塩基性カルシウム硫化アルキルフェネートもまた、本開示の組成物中の好適な構成成分である。
【0090】
潤滑油組成物中に存在し得る洗浄剤の総量は、約0重量%〜約10重量%、または約0.1重量%〜約8重量%、または約1重量%〜約4重量%、または約4重量%超〜約8重量%であり得る。
【0091】
耐摩耗剤
本開示の潤滑油組成物は、1つ以上の金属ジアルキルジチオホスフェート耐摩耗剤を含む。ジアルキルジチオホスフェート塩中の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であり得る。特に有用な金属ジアルキルジチオホスフェート塩は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートであり得る。
【0092】
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)は、ジアルキルジチオホスフェート酸の油溶性塩であり、以下の式によって表すことができる:
【0093】
【化1】
【0094】
式中、R及びRは、1〜18個の炭素原子、または2〜12個の炭素原子、または2〜8個の炭素原子を含む同じまたは異なるアルキル及び/もしくはシクロアルキル基であってもよい。したがって、アルキル及び/またはシクロアルキル基は、例えば、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、またはブテニルであってもよい。
【0095】
ジアルキルジチオホスフェート金属塩は、ジアルキルジチオリン酸(DDPA)をまず形成することによって、通常1つ以上のアルコールの反応によって、次いで形成されたDDPAを金属化合物で中和することによって、既知の技術に従って調製され得る。金属塩を製造するために、任意の塩基性または中性の金属化合物が使用され得るが、酸化物、水酸化物、及びカーボネートが最も一般的に使用される。構成成分(i)の亜鉛ジアルキルジチオホスフェートは、米国特許第7,368,596号に概して記載されているプロセスなどのプロセスによって作製され得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの金属ジアルキルジチオホスフェート塩は、約100〜約1000ppmのリン、または約200〜約1000ppmのリン、または約300〜約900ppmのリン、または約400〜約800ppmのリン、または約550〜約700ppmのリンを提供するのに十分な量で潤滑油中に存在し得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、金属ジアルキルジチオホスフェート塩は亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)であってもよい。いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、2つ以上の金属ジアルキルジチオホスフェートを含み得、1、2、または全てがZDDPである。亜鉛ジアルキルジチオホスフェートは、潤滑油組成物に約700ppm〜約900ppmの亜鉛を送達し得る。
【0098】
本開示の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の耐摩耗剤を含み得る。好適な追加の耐摩耗剤の例としては、金属チオホスフェート、リン酸エステルもしくはその塩、ホスフェートエステル(複数可)、ホスファイト、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、もしくはアミド、硫化オレフィン、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S−アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドを含むチオカルバメート含有化合物、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号においてより十分に記載されている。金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であり得る。
【0099】
好適な追加の耐摩耗剤のさらなる例としては、チタン化合物、酒石酸塩、酒石酸イミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、ホスファイト(ジブチルホスファイトなど)、ホスホネート、チオカルバメート含有化合物(チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、カルバミンエーテル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S−アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドなど)が挙げられる。酒石酸塩または酒石酸イミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8であり得る、アルキル−エステル基を含有し得る。耐摩耗剤は、一実施形態においてクエン酸塩を含み得る。
【0100】
耐摩耗剤は、潤滑組成物の約0.2重量%〜約15重量%、または約0.01重量%〜約10重量%、または約0.05重量%〜約5重量%、または約0.1重量%〜約3重量%を含む範囲内で存在し得る。
【0101】
分散剤
本開示の潤滑油組成物は、少なくとも1つのホウ酸化分散剤を含む。好ましくは、潤滑油組成物中の少なくとも1つのホウ酸化分散剤の量は、潤滑油中のホウ素の全ppmを送達して、約5.7〜約8.5または約5.7〜約6.5の、潤滑油組成物中の洗浄剤からの金属のppmのホウ素の全ppmに対する重量比を提供するのに十分である。
【0102】
ホウ酸化分散剤は、無灰分散剤であってもよい。典型的な無灰分散剤は、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドを含む。N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例としては、約350から約50,000まで、または約5,000まで、または約3,000までの範囲内のポリイソブチレン置換基の数平均分子量を有するポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。スクシンイミド分散剤及びそれらの調製は、例えば、米国特許第7,897,696号または同第4,234,435号に開示されている。ポリオレフィンは、約2〜約16、または約2〜約8、または約2〜約6個の炭素原子を含有する重合性モノマーから調製され得る。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されたイミドである。
【0103】
一実施形態において、潤滑油組成物は、約350から約50,000まで、または約5000まで、または約3000までの範囲内の数平均分子量を有するポリイソブチレンに由来する、少なくとも1つのホウ酸化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む。ホウ酸化ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で使用されても、他の分散剤との組み合わせで使用されてもよい。
【0104】
いくつかの実施形態において、含まれる場合、ポリイソブチレンは、50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超、または90モル%超の末端二重結合の含有量を有し得る。そのようなPIBはまた、高度反応性PIB(「HR−PIB」)とも呼ばれる。約800〜約5000の範囲の数平均分子量を有するHR−PIBは、本開示の実施形態における使用に好適である。従来のPIBは、典型的には、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、または10モル%未満の末端二重結合の含有量を有する。
【0105】
約900〜約3000の範囲の数平均分子量を有するHR−PIBが、好適であり得る。そのようなHR−PIBは、市販されているか、またはBoerzelらに対する米国特許第4,152,499号及びGateauらに対する同第5,739,355号に記載される、三フッ化ホウ素などの非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成され得る。前述の熱エン反応において使用される場合、HR−PIBは、増加した反応性のために、反応におけるより高い転換率、及びより少ない量の沈降物形成をもたらし得る。好適な方法は、米国特許第7,897,696号に記載されている。
【0106】
ホウ酸化分散剤は、ポリイソブチレン無水コハク酸(「PIBSA」)に由来し得る。PIBSAは、1種のポリマー当たり、平均で約1.0〜約2.0の間のコハク酸部分を有し得る。
【0107】
一実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも1つのホウ酸化分散剤を含み、分散剤がオレフィンコポリマーまたはオレフィンコポリマーの反応生成物または無水コハク酸を有するオレフィンコポリマーと少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物である。PIBSA:ポリアミンの比率は、1:1〜10:1、好ましくは1:1〜5:1、または4:3〜3:1、または4:3〜2:1であってもよい。特に有用な分散剤は、較正基準としてポリスチレンを使用してGPCによって測定した場合、約500〜5000の範囲の数平均分子量(Mn)を有するPIBSAのポリイソブテニル基と、一般式HN(CH)m−[NH(CH−NHを有する(B)ポリアミンとを含み、式中、mが2から4の範囲であり、nが1から2までの範囲である。
【0108】
ホウ酸化に加えて、分散剤は、芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理され、全カルボン酸または無水物基(複数可)が芳香環に直接結合される。そのようなカルボキシル含有芳香族化合物は、1,8−ナフタレン酸または無水物及び1,2−ナフタレンジカルボン酸または無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸または無水物、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、ジフェン酸または無水物、2,3−ピリジンジカルボン酸または無水物、3,4−ピリジンジカルボン酸または無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸または無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物、ピレンジカルボン酸または無水物などから選択され得る。ポリアミン1モル当たりの反応したこの後処理構成成分のモルは、約0.1:1〜約2:1の範囲であり得る。反応混合物中のこの後処理構成成分のポリアミンに対する典型的なモル比は、約0.2:1〜約2:1の範囲であり得る。この後処理構成成分の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、0.25:1〜約1.5:1の範囲であり得る。この後処理構成成分は、約140℃〜約180℃の範囲である温度で他の構成成分と反応させてもよい。
【0109】
代替的には、または前段落に説明される後処理に加えて、ホウ酸塩化分散剤は、非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されてもよい。非芳香族ジカルボン酸またはその無水物は、500未満の数平均分子量を有し得る。好適なカルボン酸またはその無水物は、酢酸または無水物、シュウ酸及び無水物、マロン酸及び無水物、コハク酸及び無水物、アルケニルコハク酸及び無水物、グルタル酸及び無水物、アジピン酸及び無水物、ピメリン酸及び無水物、スベリン酸及び無水物、アゼライン酸及び無水物、セバシン酸及び無水物、マレイン酸及び無水物、フマル酸及び無水物、酒石酸及び無水物、グリコール酸及び無水物、1,2,3,6−テトラヒドロナフタル酸及び無水物などを含み得るが、これらに限定されない。
【0110】
非芳香族カルボン酸または無水物は、ポリアミン1モル当たり約0.1〜約2.5モルの範囲であるポリアミンとのモル比で反応させる。典型的には、使用される非芳香族カルボン酸または無水物の量は、ポリアミン中の第2級アミノ基の数に比例するであろう。したがって、構成成分B中の第2級アミノ基当たり約0.2〜約2.0モルの非芳香族カルボン酸または無水物を他の構成成分と反応させて、本開示の実施形態による分散剤を提供することができる。非芳香族カルボン酸または無水物の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、ポリアミン1モル当たり0.25:1〜約1.5:1モルの範囲であり得る。非芳香族カルボン酸または無水物は、約140℃〜約180℃の範囲である温度で他の構成成分と反応させてもよい。
【0111】
後処理のステップは、無水コハク酸を有するオレフィンコポリマーと少なくとも1つのポリアミンとの反応の完了後に行われ得る。特定の実施形態において、ホウ酸化分散剤は、無水マレイン酸及び/または無水フタル酸で後処理され、これらの実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも80ppmまたは少なくとも100ppmまたは少なくとも150ppmのモリブデン含有量を有し得る。
【0112】
アルケニル無水コハク酸またはアルキル無水コハク酸の活性%は、クロマトグラフィー技術を使用して決定することができる。この方法は、米国特許第5,334,321号の欄5及び6に記載されている。ポリオレフィンの転換パーセントは、米国特許第5,334,321号の欄5及び6の等式を使用して、活性%から計算される。
【0113】
一実施形態において、ホウ酸化分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸に由来し得る。
【0114】
一実施形態において、ホウ酸化分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーに由来し得る。一例として、ホウ酸化分散剤は、ポリ−PIBSAとして記載され得る。
【0115】
一実施形態において、ホウ酸化分散剤は、エチレン−プロピレンコポリマーにグラフトされる無水物に由来し得る。
【0116】
ホウ酸化分散剤としての使用に好適な分散剤の一分類は、ホウ酸化マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高い分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、及びアルデヒド(ホルムアルデヒドなど)の縮合によって形成される材料である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0117】
ホウ酸化分散剤の好適な一分類はまた、高分子量エステルまたは半エステルアミドを含んでもよい。
【0118】
好適なホウ酸化分散剤はまた、様々な薬剤との反応による従来の方法によって後処理され得る。これらの中には、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状カーボネート、障害フェノールエステル、及びリン化合物がある。米国特許第7,645,726号、同第7,214,649号、及び同第8,048,831号には、好適な後処理化合物及び方法が記載されている。
【0119】
ホウ酸化分散剤をホウ酸化するために使用される後処理に加えて、ホウ酸化分散剤はまた、後処理されるか、あるいは異なる特性を改善または添加するために設計された様々な後処理でさらに後処理され得る。そのような後処理としては、本明細書により参照によって組み込まれる、米国特許第5,241,003号の欄27〜29にまとめられるものが挙げられる。そのような処理としては、以下の処理:
無機リン酸または無水物(例えば、米国特許第3,403,102号及び同第4,648,980号)、
有機リン化合物(例えば、米国特許第3,502,677号)、
五硫化リン、
既に上記したようなホウ素化合物(例えば、米国特許第3,178,663及び同第4,652,387号)、
カルボン酸、ポリカルボン酸、無水物、及び/または酸ハロゲン化物(例えば、米国特許第3,708,522号及び同第4,948,386号)、
エポキシドポリエポキシエートまたはチオエポキシド(例えば、米国特許第3,859,318号及び同第5,026,495号)、
アルデヒドまたはケトン(例えば、米国特許第3,458,530号)、
二硫化炭素(例えば、米国特許第3,256,185号)、
グリシドール(例えば、米国特許第4,617,137号)、
尿素、チオ尿素、またはグアニジン(例えば、米国特許第3,312,619号、同第3,865,813号、及び英国特許第GB1,065,595号)、
有機スルホン酸(例えば、米国特許第3,189,544号及び英国特許第GB2,140,811号)、
シアン化アルケニル(例えば、米国特許第3,278,550号及び同第3,366,569号)、
ジケテン(例えば、米国特許第3,546,243号)、
ジイソシアネート(例えば、米国特許第3,573,205号)、
アルカンスルトン(例えば、米国特許第3,749,695号)、
1,3−ジカルボニル化合物(例えば、米国特許第4,579,675号)、
アルコキシル化アルコールまたはフェノールのスルフェート(例えば、米国特許第3,954,639号)、
環状ラクトン(例えば、米国特許第4,617,138号、同第4,645,515号、同第4,668,246号、同第4,963,275号、及び同第4,971,711号)、
環状カーボネートまたはチオカーボネート、直鎖状モノカーボネートもしくはポリカーボネート、またはクロロホルメート(例えば、米国特許第4,612,132号、同第4,647,390号、同第4,648,886号、同第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,140,811号)、
ヒドロキシ保護クロロジカルボニルオキシ化合物(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、またはジトラクトン(ditholactone)(例えば、米国特許第4,614,603及び同第4,666,460号)、
環状カーボネートまたはチオカーボネート、直鎖状モノカーボネートまたはポリカーボネート、またはクロロホルメート(例えば、米国特許第4,612,132号、同第4,647,390号、同第4,646,860号、及び同第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,440,811号)、
ヒドロキシ保護クロロジカルボニルオキシ化合物(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、またはジチオラクトン(例えば、米国特許第4,614,603及び同第4,666,460号)、
環状カルバメート、環状チオカルバメート、または環状ジチオカルバメート(例えば、米国特許第4,663,062号及び同第4,666,459号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸(例えば、米国特許第4,482,464号、同第4,521,318号、同第4,713,189号)、
酸化剤(例えば、米国特許第4,379,064号)、
五硫化リン及びポリアルキレンポリアミンの組み合わせ(例えば、米国特許第3,185,647号)、
カルボン酸またはアルデヒドまたはケトン及び硫黄または塩化硫黄の組み合わせ(例えば、米国特許第3,390,086号、同第3,470,098号)、
ヒドラジン及び二硫化炭素の組み合わせ(例えば、米国特許第3,519,564号)、
アルデヒド及びフェノールの組み合わせ(例えば、米国特許第3,649,229号、同第5,030,249号、同第5,039,307号)、
アルデヒド及びジチオリン酸のO−ジエステルの組み合わせ(例えば、米国特許第3,865,740号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸及びホウ酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,554,086号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、それに次ぐホルムアルデヒド及びフェノールの組み合わせ(例えば、米国特許第4,636,322号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及びそれに次ぐ脂肪族ジカルボン酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,663,064号)、
ホルムアルデヒド及びフェノール、ならびにそれに次ぐグリコール酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,699,724号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸またはシュウ酸及びそれに次ぐジイソシアネートの組み合わせ(例えば、米国特許第4,713,191号)、
リンの無機酸もしくは無水物またはその部分的もしくは全体的硫黄類似体及びホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,857,214号)、
有機二酸、それに次ぐ不飽和脂肪酸、及びそれに次ぐニトロソ芳香族アミン、任意にそれに続くホウ素化合物、ならびにそれに次ぐグルコール化剤の組み合わせ(例えば、米国特許第4,973,412号)、
アルデヒド及びトリアゾールの組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,278号)、
アルデヒド及びトリアゾール、それに次ぐホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,981,492号)、
環状ラクトン及びホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,275号及び
【0120】
好適なホウ酸化分散剤のTBNは、油を含まない場合約10〜約65mg KOH/グラムであり得、これは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料上で測定される場合の約5〜約30mg KOH/グラムのTBNと同等である。
【0121】
ホウ酸化分散剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、最大で約20重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。使用され得るホウ酸化分散剤の他の量は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0.1重量%〜約15重量%、または約0.1重量%〜約10重量%、または約3重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約6重量%、または約7重量%〜約12重量%であり得る。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、混合分散剤系を利用する。単一の種類または任意の望ましい比率の2種類以上の分散剤の混合物が使用され得る。
【0122】
潤滑剤組成物は、任意に、1つ以上の追加の分散剤またはそれらの混合物をさらに含んでもよい。追加の分散剤は、上記に論じられるホウ酸化分散剤のうちの任意の1つ以上の非ホウ酸化されたものから選択され得る。いくつかの実施形態において、全分散剤は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、最大約20重量%を含み得る。使用され得る全分散剤の他の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%〜約15重量%、または約0.1重量%〜約10重量%、または約3重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約6重量%、または約7重量%〜約12重量%であり得る。
【0123】
潤滑油組成物中の分散剤からの窒素の潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比は、約2.6〜約3.0である。
【0124】
モリブデン含有構成成分
本開示の潤滑油組成物は、1つ以上のモリブデン含有化合物を含む。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはそれらの混合物の機能性能を有し得る。油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデン化合物のアミン塩、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデン、モリブデンカルボキシレート、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、及び/またはそれらの混合物を含み得る。モリブデンスルフィドは、モリブデンジスルフィドを含む。モリブデンジスルフィドは、安定分散の形態であり得る。一実施形態において、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデン化合物のアミン塩、及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。一実施形態において、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートであり得る。
【0125】
使用され得るモリブデン化合物の好適な例としては、Molyvan822(商標)、Molyvan(商標)A、Molyvan2000(商標)、及びMolyvan855(商標)などの商品名でR.T.Vanderbilt Co.,Ltd.から、ならびにAdeka Corporationから入手可能なSakura−Lube(商標)S−165、S−200、S−300、S−310G、S−525、S−600、S−700、及びS−710などの商品名で販売されている市販の材料、ならびにそれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン構成成分は、米国第5,650,381号、米国第RE37,363 E1号、米国第RE38,929 E1号、及び米国第RE40,595 E1号に記載されている。
【0126】
また、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であり得る。含まれるのは、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、ならびに他のモリブデン酸アルカリ金属及び他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン、または類似した酸性モリブデン化合物である。あるいは、組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号、同第4,285,822号、同第4,283,295号、同第4,272,387号、同第4,265,773号、同第4,261,843号、同第4,259,195号、及び同第4,259,194号、ならびにWO94/06897に記載される、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンが提供されてもよい。
【0127】
好適な有機モリブデン化合物の別の分類は、式Mo3SkLnQzのもの、及びそれらの混合物などの三核モリブデン化合物であり、式中、Sは、硫黄を表し、Lは、化合物を油溶性または油分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する、独立して選択されるリガンドを表し、nは、1〜4であり、kは、4〜7まで変動し、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルなどの中性電子供与性化合物の群から選択され、zは、0〜5の範囲であり、非化学量論値を含む。リガンドの有機基の全ての中に、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子などの、少なくとも21個の総炭素原子が存在し得る。追加の好適なモリブデン化合物は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0128】
油溶性モリブデン化合物は、潤滑油組成物に、約80ppm〜約2000ppm、約150ppm〜約800ppm、約100ppm〜約600ppm、約150ppm〜約550ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在し得る。別の実施形態において、油溶性モリブデン化合物は、潤滑油組成物に、約100ppm〜約1000ppm、または約150ppm〜約600ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在し得る。
本開示の特定の実施形態において、基油が0W−16の粘度等級を有する際に、潤滑油組成物は、少なくとも600ppmのモリブデン、少なくとも200ppmのホウ素含有量、及び2550以下の硫黄含有量を有し得る。本発明のいくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、80ppmのモリブデンを含有し、1.0未満の、潤滑油組成物中のホウ素の窒素に対する重量比を有する。
【0129】
潤滑油組成物
一実施形態において、本発明の方法において使用される潤滑油組成物は、潤滑油組成物が、ASTM−2896の方法を使用して決定された少なくとも7.5mg KOH/グラムの潤滑油組成物のTBN値、潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも80ppmのモリブデン、8.4未満の、潤滑油組成物中の全カルシウムの潤滑油組成物中の全モリブデンに対する重量比、及び2.6〜3.0の、潤滑組成物中の分散剤からの窒素の潤滑油組成物中の全ホウ素に対する重量比を有するところで有する。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、約1:1〜17:1または約4:1〜約17:1の、潤滑組成物中の全硫黄の潤滑組成物中の全モリブデンに対する重量比を有する。
【0131】
いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、310ppm以下のホウ素含有量を有し得る。
【0132】
本開示の特定の実施形態において、潤滑組成物は、少なくとも7.5mg KOH/グラムの潤滑油組成物のTBN値を有する。
【0133】
本開示の特定の実施形態において、潤滑油組成物の基油構成成分は、5WのSAE粘度等級を有し、潤滑油組成物は、約45〜約63、または約50〜約63もしくは約56〜約63の、潤滑油組成物中のホウ素の全ppmの潤滑油組成物中の全洗浄剤のTBNに対する比率を有する。
【0134】
いくつかの実施形態において、潤滑油組成物の基油構成成分は、5W−30の粘度等級を有し得、潤滑油組成物は、150ppmを超えるモリブデン含量量を有する。
【0135】
潤滑油組成物は、1.0未満の、潤滑油組成物中の全ホウ素の潤滑油組成物中の全窒素に対する重量比を有し得る。
【0136】
本発明の特定の実施形態において、分散剤は、少なくとも1つのポリアミンを有するオレフィンコポリマーの反応生成物またはコハク酸無水物を有するオレフィンコポリマー、及び少なくとも1つのポリアミンの反応生成物であり、反応生成物が、全カルボン酸または無水物基が芳香環に直接結合した芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物、及び500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理される。
【0137】
本発明の特定の実施形態において、基油は、0W−16の粘度等級を有し、潤滑油組成物は、少なくとも200ppmの全ホウ素含有量、少なくとも600ppmの全モリブデン含有量、及び約2550ppm以下の全硫黄含有量を有する。
【0138】
潤滑油組成物は、20質量%未満または15質量%未満または13質量%未満のノアック揮発度を有し得る。
【0139】
任意の添加剤
酸化防止剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は既知であり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ−ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ−オクチルジフェニルアミン)、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−アルファ−ナフチルアミン、障害非芳香族アミン、フェノール、障害フェノール、油溶性モリブデン化合物、巨大分子酸化防止剤、またはそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物は、単独で使用されても、組み合わせで使用されてもよい。
【0140】
障害フェノール酸化防止剤は、立体障害基として第2級ブチル基及び/または第3級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/または第2の芳香族基に結合する架橋基でさらに置換され得る。好適な障害フェノール酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、または4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、または4−ドデシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態において、障害フェノール酸化防止剤はエステルであり得、例えば、BASFから入手可能なIRGANOX(商標)L−135または2,6−ジ−tert−ブチルフェノール及びアルキルアクリレートに由来する添加生成物を含み得、そのアルキル基は、約1〜約18、または約2〜約12、または約2〜約8、または約2〜約6、または約4個の炭素原子を含有し得る。別の市販されている障害フェノール酸化防止剤はエステルであり得、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(商標)4716を含み得る。
【0141】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミン及び高分子量フェノールを含み得る。一実施形態において、本潤滑油組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含有し得るため、各酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、最大約5重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。一実施形態において、酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0.3〜約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4〜約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であり得る。
【0142】
硫化して硫化オレフィンを形成し得る好適なオレフィンの例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、またはそれらの混合物ならびにそれらのダイマー、トリマー、及びテトラマーが、特に有用なオレフィンである。あるいは、オレフィンは、1,3−ブタジエンなどのジエンと、ブチルアクリレートなどの不飽和エステルとのディールス・アルダー付加物であり得る。
【0143】
硫化オレフィンの別の分類としては、硫化脂肪酸及びそれらのエステルが挙げられる。脂肪酸はしばしば植物油及び動物油から得られ、典型的には約4〜約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びそれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、またはそれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、ダイズ油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはそれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/またはエステルは、α−オレフィンなどのオレフィンと混合され得る。
【0144】
1つ以上の酸化防止剤(複数可)は、潤滑組成物の約0重量%〜約20重量%、または約0.1重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約5重量%の範囲内で存在し得る。
【0145】
極圧剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の極圧剤を含有してもよい。油中で可溶性である極圧剤(EP)は、硫黄及びクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤、ならびにリンEP剤を含む。そのようなEP剤の例として、塩素化ワックス;ジベンジルジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、及び硫化ディールス−アルダー付加物などの有機スルフィド及びポリスルフィド;硫化リンとテレピンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物などのリン硫化炭化水素;例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイトといった、ジヒドロカルビル及びトリヒドロカルビルホスファイトなどのリンエステル;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、及びポリプロピレン置換フェニルホスファイト;亜鉛ジオクチルジチオカルバメート及びバリウムヘプチルフェノール二酸などの金属チオカルバメート;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物のアミン塩を含む、アルキル及びジアルキルリン酸のアミン塩;及びそれらの混合物が挙げられる。
【0146】
摩擦調整剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の摩擦調整剤を含有してもよい。好適な摩擦調整剤は、金属含有及び金属を含まない摩擦調整剤を含み得、これらには、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、酸化アミン、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホネート、金属含有化合物、グリセロールエステル、硫化脂肪化合物及びオレフィン、ヒマワリ油他の天然に発生する植物油または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1種以上の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とのエステルまたは部分エステルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0147】
好適な摩擦調整剤は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは芳香族ヒドロカルビル基、またはそれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含有してもよく、飽和であっても、不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素及び水素、または硫黄もしくは酸素などのヘテロ原子で構成され得る。ヒドロカルビル基は、約12〜約25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸エステルであり得る。別の実施形態において、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステルであっても、ジエステルであっても、(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであり得る。
【0148】
他の好適な摩擦調整剤としては、有機、無灰(金属を含まない)、無窒素有機摩擦調整剤を挙げることができる。そのような摩擦調整剤は、カルボン酸及び無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み得、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。有機無灰無窒素摩擦調整剤の一例は、一般に、オレイン酸のモノエステル、ジエステル、及びトリエステルを含有し得るグリセロールモノオレエート(GMO)として知られる。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0149】
アミン系摩擦調整剤は、アミンまたはポリアミンを含み得る。そのような化合物は、直鎖状であり、飽和もしくは不飽和のいずれかであるヒドロカルビル基、またはそれらの混合を有し得、約12〜約25個の炭素原子を含み得る。好適な摩擦調整剤のさらなる例としては、アルコキシル化アミン及びアルコキシル化エーテルアミンが挙げられる。そのような化合物は、直鎖状であり、飽和もしくは不飽和のいずれかであるヒドロカルビル基、またはそれらの混合を有し得る。それらは、約12〜約25個の炭素原子を含み得る。例としては、エトキシル化アミン及びエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0150】
アミン及びアミドは、それ自体で使用されても、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸、またはホウ酸モノアルキル、ホウ酸ジアルキル、もしくはホウ酸トリアルキルなどのホウ素化合物との付加物または反応生成物の形態で使用されてもよい。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0151】
摩擦調整剤は、任意に、約0重量%〜約10重量%、または約0.01重量%〜約8重量%、または約0.1重量%〜約4重量%などの範囲内で存在し得る。
【0152】
ホウ素含有化合物
本明細書の潤滑油組成物は、上記に論じられるホウ酸化分散剤以外に、任意に、1種以上のホウ素含有化合物を含有してもよい。
【0153】
ホウ素含有化合物の例としては、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪アミン、ホウ酸化エポキシド、及びホウ酸化分散剤が挙げられる。
【0154】
存在する場合、追加のホウ素含有化合物は、潤滑組成物の最大約8重量%、約0.01重量%〜約7重量%、約0.05重量%〜約5重量%、または約0.1重量%〜約3重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0155】
チタン含有化合物
本発明の潤滑油組成物に使用され得る別の分類の任意の添加剤は、油溶性チタン化合物である。油溶性チタン化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、沈着制御添加剤、またはこれらの機能のうちの1つ以上として機能し得る。一実施形態において、油溶性チタン化合物は、チタン(IV)アルコキシドであり得る。チタンアルコキシドは、一価アルコール、ポリオール、またはそれらの混合物から形成され得る。一価アルコキシドは、2〜16、または3〜10個の炭素原子を有し得る。一実施形態において、チタンアルコキシドは、チタン(IV)イソプロポキシドであり得る。一実施形態において、チタンアルコキシドは、チタン(IV)2−エチルヘキソキシドであり得る。一実施形態において、チタン化合物は、1,2−ジオールまたはポリオールのアルコキシドであり得る。一実施形態において、1,2−ジオールは、オレイン酸などの、グリセロールの脂肪酸モノエステルを含む。一実施形態において、油溶性チタン化合物は、チタンカルボキシレートであり得る。一実施形態において、チタン(IV)カルボキシレートは、チタンネオデカノエートであり得る。
【0156】
一実施形態において、油溶性チタン化合物は、ゼロ〜約1500重量ppmのチタン、または約10重量ppm〜500重量ppm、または約25重量ppm〜約150重量ppmのチタンを提供する量で潤滑組成物中に存在し得る。
【0157】
粘度指数向上剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の粘度指数向上剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ−オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役コポリマー、またはそれらの混合物を挙げることができる。粘度指数改善剤は星型ポリマーを含み得、好適な例は米国公開第2012/0101017 A1号に記載されている。
【0158】
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、粘度指数向上剤に加えて、または粘度指数向上剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度指数向上剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤は、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されているエチレン−プロピレンコポリマー、アミンで官能化されているポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸−スチレンコポリマーを含み得る。
【0159】
粘度指数向上剤及び/または分散剤粘度指数向上剤の総量は、潤滑組成物の約0重量%〜約20重量%、約0.1重量%〜約15重量%、約0.1重量%〜約12重量%、または約0.5重量%〜約10重量%であり得る。
【0160】
他の任意の添加剤
他の添加剤は、潤滑流体に必要とされる1つ以上の機能を実行するように選択され得る。さらに、言及される添加剤のうちの1種つ上は複数機能性であり、本明細書に規定される機能に対する追加の機能、またはそれ以外の機能を提供し得る。
【0161】
本開示に従う潤滑組成物は、任意に、他の性能添加剤を含んでもよい。他の性能添加剤は、本開示に明記される添加剤に対する追加であっても、かつ/または金属不活性剤、粘度指数向上剤、洗浄剤、無灰TBNブースター、摩擦調整剤、耐摩耗剤、腐食抑制剤、錆抑制剤、分散剤、分散剤粘度指数向上剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、及びそれらの混合物のうちの1種以上を含んでもよい。典型的には、完全配合潤滑油は、これらの性能添加剤のうちの1つ以上を含有する。
【0162】
好適な金属不活性剤は、ベンゾトリアゾールの誘導体(典型的にはトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4−トリアゾール、ベンズイミダゾール、2−アルキルジチオベンズイミダゾール、または2−アルキルジチオベンゾチアゾール;エチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートならびに任意に酢酸ビニルのコポリマーを含む泡抑制剤;トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及び(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ポリマーを含む、解乳化剤;無水マレイン酸−スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、またはポリアクリルアミドを含む、流動点降下剤を含み得る。
【0163】
好適な泡抑制剤は、シロキサンなどのシリコン系化合物を含む。
【0164】
好適な流動点降下剤は、ポリメチルメタクリレートまたはそれらの混合物を含み得る。流動点降下剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%〜約1重量%、約0.01重量%〜約0.5重量%、または約0.02重量%〜約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0165】
好適な錆抑制剤は、単一の化合物であっても、二価鉄金属表面の腐食を抑制する特性を有する化合物の混合物であってもよい。本明細書において有用な錆抑制剤の非限定的な例としては、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、及びセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、ならびにトール油脂肪酸、オレイン酸、及びリノール酸から生成されるものなどのダイマー酸及びトリマー酸を含む油溶性ポリカルボン酸が挙げられる。他の好適な腐食抑制剤としては、約600〜約3000の分子量範囲内の長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸、ならびにテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、及びヘキサデセニルコハク酸などのアルケニル基が約10個以上の炭素原子を含むアルケニルコハク酸が挙げられる。酸性腐食抑制剤の別の有用な種類は、アルケニル基中に約8〜約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールなどのアルコールとの半エステルである。そのようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドもまた、有用である。有用な錆抑制剤は、高分子量有機酸である。いくつかの実施形態において、エンジン油は錆抑制剤を欠く。
【0166】
存在する場合、錆抑制剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、約0重量%〜約5重量%、約0.01重量%〜約3重量%、約0.1重量%〜約2重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0167】
一般論として、好適な潤滑剤は、表1に列挙される範囲内の添加剤構成成分を含み得る。
【0168】
【表1】
【0169】
上記の各構成成分の百分率は、本最終潤滑油組成物の重量に基づく各構成成分の重量パーセントを表す。潤滑油組成物の残部は、1つ以上の基油からなる。
【0170】
本明細書に記載される組成物の配合に使用される添加剤は、個々に、または様々な部分組み合わせで、基油にブレンドされ得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、構成成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。
【0171】
本開示の特定の実施形態において、潤滑油組成物を使用する方法は、216時間にわたってフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、タイミングチェーンの伸びを0.1%以下、または0.05%以下に低減させることができる。また、本発明の特定の実施形態おいて、エンジンは、火花点火エンジンまたは、より具体的には、火花点火式乗用車ガソリンエンジンである。
【0172】
本発明はまた、火花点火エンジンまたは火花点火式乗用車エンジンなどのエンジンのタイミングチェーンの伸びまたは伸長を低減するための、上記に論じられる潤滑油組成物の使用を図る。
【実施例】
【0173】
以下の実施例は、本開示の方法及び組成物の例示的、しかし非限定的なものである。当該分野において通常遭遇される様々な条件及びパラメータの他の好適な修正及び適応は、当業者にとって明らかであり、本開示の範囲内である。
【0174】
過塩基性カルシウムスルホネート及び亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)のチェーンの伸びへの影響を測定するために、一連の試験を行った。タイミングチェーンの運転を、以下により詳細に説明されるフォードチェーン摩耗試験によって模擬実験した。
【0175】
潤滑油組成物の各々は、主要量の基油及びベース従来分散剤抑制剤(DI)を含有し、そのベースDIパッケージは潤滑油組成物の約8〜約12重量パーセントを提供した。ベースDIパッケージは、以下の表2に提供されているように、従来の量の分散剤(複数可)、耐摩耗添加剤(複数可)、酸化防止剤(複数可)、摩擦調製剤(複数可)、及び流動点降下剤(複数可)を含んだ。主要量の基油は、潤滑油組成物中に約78〜約87重量%の量で存在した。変更された構成成分は、以下の実施例の表及び考察で特定されている。列挙された値の全ては、別段特定されていない限り、潤滑油組成物(すなわち、有効原料プラスもしあれば希釈油)中の構成成分の重量パーセントとして記述されている。
【0176】
【表2】
【0177】
比較例1
摩耗の影響がタイミングチェーンのチェーンの伸びにどの程度重大であるかを理解するために、潤滑剤に含まれる洗剤または耐摩耗添加剤を使用せず対照試料を実行した。この試料は、5W−20の粘度等級を有し、過塩基性カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、またはZDDPを含有しない添加剤パッケージを有する、87.92重量%の基油を含んだ。添加剤パッケージは、1.4重量%の酸化防止剤、0.23重量%の摩擦調整剤、0.2重量%の流動点降下剤、80ppmのモリブデン化合物からのモリブデン、及び4.9重量%の粘度指数向上剤を潤滑油組成物に送達した。
【0178】
比較例2
比較例2を、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn及び790ppmのリンを追加的に送達した添加剤パッケージを除いて、比較例1と同じ様式で実施した。
【0179】
比較例3
比較例3を、過塩基性カルシウムスルホネートから2300ppmのCaを追加的に送達された添加剤パッケージを除いて、比較例1と同じ様式で実施した。
【0180】
比較例4
比較例4を、過塩基性カルシウムスルホネートからの3500ppmのCa、モリブデン化合物からの72ppmのモリブデン、及びZDDP耐摩耗剤からの820ppmnのZn及び690ppmのリンを追加的に送達された添加剤パッケージを除いて、比較例1と同じ様式で実施した。
【0181】
比較例5
比較例5を、比較例4と同様の様式で実施して、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤とチェーンの伸びへの影響との間に相関があるかどうかを判定した。この試料は、5W−30の粘度等級を有し、潤滑油の組成物をICP分析によって測定した。表3は、CE−5の組成物を提供する。
【0182】
【表3】
【0183】
比較例1〜2の潤滑油を、フォードチェーン摩耗試験を使用して144時間の試験期間を用いて試験し、比較例3〜5の潤滑油を、144時間及び216時間の試験期間を用いて試験し、次いで、チェーンの伸びについてタイミングチェーンを試験した。
【0184】
フォードチェーン摩耗試験
フォードチェーン摩耗試験は、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを評価する方法である。フォードチェーン摩耗試験は、2012 Ford 2.0 Liter EcoBoost TGDi 4気筒試験エンジンを用いる。エンジンを、低速から中速の速度及び負荷で、ならびに低運転温度及び通常運転温度で、2段階試験において運転した。試験サイクルは、8時間のならし運転期間と、それに続く216時間のサイクル試験条件で構成される。タイミングチェーンを、ならし運転期間後に測定し、この測定値を、試験終了後のチェーンの伸長計算のためのベースライン測定値として使用する。試験の段階1を、富化燃焼サイクルを用いて、低速、低負荷、及び低温で実行した。段階2を、化学量論的条件を使用して、中速度、中程度の負荷、及び中程度の温度で実行した。段階1と段階2との間で、温度、速度、及び負荷は特定の速度で上昇する。
【0185】
比較例の試験時間を、144時間、いくつかの場合においては216時間で測定した。全ての本発明の実施例を、216時間の試験時間を使用して試験した。
【0186】
結果は以下の表4に示される。
【0187】
【表4】
【0188】
比較例1〜5は、ZDDP耐摩耗剤のみの添加が、ベースライン組成物と比較してチェーンの伸びの低減を提供したことと、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤の添加が、ベースライン組成物及びZDDP含有組成物と比較してチェーンの伸びのはるかにより著しい低減を提供したこととを示す。比較例4及び5は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤を添加する効果が、純粋に添加剤ではない可能性があることを示す。CE−5は、非常に多量のカルシウムを含有し、これは高い硫黄対モリブデン比をもたらし、チェーンの伸びの量が許容できないので望ましくない。
【0189】
フォードチェーン摩耗試験を使用して、完全に配合された油を再度用いて、さらなる試験を行い、チェーンの伸びに対するモリブデン及びホウ酸化分散剤の効果を比較した。
【0190】
比較例6
比較例6は、ベースライン試験としてGF−5市販用エンジンオイルを用いた。エンジンオイルを、5W−30粘度等級の基油と添加剤パッケージとの混合物から配合した。添加剤パッケージは、カルシウムスルホネート洗浄剤からの1380ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの340ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn、160ppmのモリブデン、及び分散剤からの310ppmのホウ素を送達した。添加剤パッケージは、0.2重量%の流動点降下剤、5.2重量%の分散剤、0.32重量%の摩擦調整剤、8.6重量%の粘度指数向上剤、1.4重量%の酸化防止剤、及び1.12重量%のZDDP耐摩耗剤をエンジンオイルに送達した。
【0191】
比較例7
比較例7は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤からの1430ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの420ppmのMg、及び分散剤からの270ppmのホウ素を送達するために修飾された添加剤パッケージを含んだ、比較例6のGF−5市販用エンジンオイルを用いた。さらに、修飾添加剤パッケージは、4.7重量%の分散剤、7.5重量%の粘度指数向上剤、及び1.25重量%の酸化防止剤をエンジンオイルに送達した。
【0192】
本発明の実施例1
本発明の実施例1は、80.74重量%の5W−30粘度等級の基油及び添加剤パッケージであった潤滑組成物を用いた。添加剤パッケージは、カルシウムスルホネート洗浄剤からの1200ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの470ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの710ppmのZn、170ppmのモリブデン、及び分散剤からの290ppmのホウ素を送達した。添加剤パッケージは、0.5重量%の流動点降下剤、5.04重量%の分散剤、0.4重量%の摩擦調整剤、8.6重量%の粘度指数向上剤、0.94重量%のZDDP耐摩耗剤、及び1.3重量%の抗酸化剤を滑油組成物にさらに送達した。
【0193】
本発明の実施例2
本発明の実施例2は、81.2重量%の5W−30粘度等級の基油及び添加剤パッケージであった潤滑組成物を用いた。添加剤パッケージは、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤からの1430ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの420ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn、240ppmのモリブデン、及び分散剤からの310ppmのホウ素を送達した。添加剤パッケージは、0.2重量%の流動点降下剤、5.5重量%の分散剤、0.5重量%の摩擦調整剤、8重量%の粘度指数向上剤、及び1.4重量%の酸化防止剤を潤滑組成物に送達した。
【0194】
本発明の実施例3
マグネシウムスルホネート洗浄剤からの330ppmのみのMgを送達した添加剤パッケージを除いて、本発明の実施例2と同様の方法本発明の実施例3を実施した。
【0195】
本発明の実施例1〜3の潤滑油を、フォードチェーン摩耗試験を使用して216時間の試験時間にわたって試験し、次いで、チェーンの伸びについてチェーンを試験した。結果は以下の表5に示される。
【0196】
【表5】
【0197】
比較例5〜7及び本発明の実施例1〜3は、ZDDP、マグネシウム洗浄剤、及びカルシウム洗浄剤のさらなる存在下にある場合、分散剤からの多量のモリブデン及びホウ素の組み合わせの存在がチェーンの伸びを低減させることを示す。また、これらの実施例は、低減したチェーンの伸びを提供した組成物が、7.5〜8.2mg KOH/gの組成物の推定TBN、7.9〜11.3の硫黄のppmのモリブデンのppmに対する比率、2.7〜2.8の分散剤からの窒素のppmの潤滑油中の全ホウ素のppmに対する比率、5.7〜6.0の洗浄剤からの全金属のppmの潤滑組成物中のホウ素のppmに対する比率、及び56.3〜63.0の全ホウ素のppmの全洗浄剤から導入されたTBNに対する比率を有したことを強調する。また、160ppmを超えるモリブデン含有量を有する潤滑油について、過塩基性及び中性/低塩基性洗浄剤からの全カルシウムのppmのモリブデンのppmに対する比率は6.0〜8.9であった。
【0198】
フォードチェーン摩耗試験を使用して完全に配合された油を再度用いてさらに試験を行い、0W−16粘度等級の基油中に配合された種々の添加剤の効果を比較した。
【0199】
比較例8
比較例8は、85.35重量%の0W−16粘度等級の基油及び添加剤パッケージであった潤滑組成物を用いた。添加剤パッケージは、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤からの1430ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの340ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn、240ppmのMo、及び分散剤からの200ppmのホウ素を送達した。添加剤パッケージは、0.2重量%の流動点降下剤、3.9重量%の分散剤、0.52重量%の摩擦調整剤、4.7重量%の粘度指数向上剤、及び1.4重量%の酸化防止剤を潤滑組成物に送達した。
【0200】
本発明の実施例4
本発明の実施例4は、0W−16粘度等級の基油と、過塩基性スルホン酸カルシウムからの1430ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの370ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn、摩擦調整剤からの600ppmのMo、及び分散剤からの310ppmのホウ素を送達した添加剤パッケージとの混合物であった潤滑組成物を用いた。添加剤パッケージは、0.2重量%の流動点降下剤、5.24重量%の分散剤、0.8重量%の摩擦調整剤、6重量%のポリ無水マレイン酸粘度指数向上剤、1.4重量%の酸化防止剤、及び1.12重量%のZDDP耐摩耗剤を潤滑組成物に送達した。
【0201】
前述の潤滑油を216時間の試験時間で試験した後に得られたフォードチェーン摩耗試験結果は、表6に示される。観察されたチェーンの伸びは、通常のZDDP耐摩耗剤または分散剤を含む潤滑剤と比較すると、過塩基性カルシウム洗浄剤、ホウ酸化分散剤、及びモリブデン含有量を含む潤滑剤で潤滑されたタイミングチェーンでは著しくより少なかった。
【0202】
【表6】
【0203】
これらの結果は、3.0未満の、分散剤からの窒素のppmのホウ素のppmに対する比率が、より良好なチェーンの伸びの結果を提供することを示す。また、7.5mg KOH/gの組成物を超える全潤滑組成物のTBNが良好なチェーンの伸びの結果を得るために必要であった。これらの実施例はまた、良好なチェーンの伸びの結果を得るために、42.2を超える、ホウ素のppmの全洗剤からのTBNに対する比率を有することの重要性を示す。
【0204】
本発明の実施例5
本発明の実施例5は、5W−30粘度等級の基油と、過塩基性スルホン酸カルシウムからの1370ppmのCa、マグネシウムスルホネート洗浄剤からの370ppmのMg、ZDDP耐摩耗剤からの850ppmのZn、摩擦調整剤からの160ppmのMo、及び分散剤からの310ppmのBを送達した添加剤パッケージとの混合物であった潤滑組成物を用いた。添加剤パッケージは、0.2重量%の流動点降下剤、コハク酸無水物を有するオレフィンコポリマー、及び少なくとも1つのポリアミンの反応生成物である、5.24重量%のホウ酸化分散剤を潤滑組成物に送達し、ホウ酸化分散剤が、全カルボン酸または無水物基が芳香環に直接結合した芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物、及び500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物、1.4重量%の酸化防止剤、ならびに1.12重量%のZDDP耐摩耗剤で後処理される。
【0205】
前述の潤滑油で得られたフォードチェーン摩耗試験結果は、表7に示される。
【0206】
【表7】
【0207】
チェーンの伸びの低減の著しい改善は、本発明の実施例5に示される。
【0208】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考察及び本明細書に開示される実施形態の実施から、当業者にとって明らかになるであろう。本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、「1つの(a)」及び/または「1つの(an)」は、1つまたは1つ以上を指し得る。別段示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される、原料の量、分子量などの特性、パーセント、比、反応条件などを表す全ての数は、「約」という用語が存在するか否かに関わらず、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、それとは反対に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において説明される数的パラメータは、本開示によって得られることが求められる望ましい特性によって変動し得る、近似である。最低限、かつ等価の学説の本特許請求の範囲への適用を制限することを試むものではないが、各数的パラメータは、少なくとも、報告される有効桁の数に照らして、かつ通常の四捨五入技術を適用することによって解釈されるべきである。本開示の広範囲を説明する数的範囲及びパラメータは近似であるにも関わらず、特定の実施例において説明される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、所定の誤差を本質的に含有する。本明細書及び実施例が、例示的なものにすぎず、本開示の真の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されるものとみなされることが意図される。
【0209】
前述の実施形態は、実際は著しい変動を受けやすい。したがって、実施形態は、本明細書上記に説明される特定の例証に限定されることが意図されない。むしろ、上述の実施形態は、法的に利用可能なそれらの等価物を含む、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内にある。
【0210】
特許権所有者は、いかなる開示される実施形態も公衆に放棄することを意図せず、いかなる開示される修正または変更も、文献的に本特許請求の範囲内ではあり得なくなる程度まで、それらは、等価の学説の下、本明細書の一部であるとみなされる。
【0211】
本明細書に引用される全ての特許及び公開物の全体が、参照によって本明細書に完全に組み込まれる。