(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電気的配線が形成されている基板に電子部品等を搭載するための接続方法として、プレスフィットピンを用いた接続方式(プレスフィット接続)が注目を集めている。プレスフィット接続は、従来、はんだ接続の困難な基板間の接続方法として大型計算機等の組み立てに用いられていたが、近年の電気自動車の開発の進展に伴い、ABS(電子制御装置)等の車載モジュールの組み立てに転用され始めている。プレスフィット接続は、はんだ接続が不要であり接続プロセスが容易であることや、既に確立したプロセスを利用できるため新たな設備投資が少ないことなどを理由として、主に電気自動車産業での活用が期待されている。
【0003】
プレスフィット接続は、例えば
図1に示されるように、配線基板40に設けられたスルーホール41に対してプレスフィットピン30を圧入し、このプレスフィットピン30をスルーホール41内の配線に電気的に接続する。プレスフィットピン30の結合部32は、一般的にその外径がスルーホール41の内径より大きいバネ構造となっているため、プレスフィットピン30のスルーホール41内への圧入した後は、結合部32のバネ構造の作用によりスルーホール41内に保持される。また、プレスフィットピン30の表面には一般的にSn鍍金(めっき)が施され、スルーホール41内のCu配線との接続性が担保されている。このため、プレスフィット接続によれば、従来のはんだ接続とは異なり、非加熱、常温、短時間での接続が可能である。
【0004】
また、プレスフィット接続においては、プレスフィットピンを配線基板のスルーホール内の適切な深度に挿入することが、電気接続性能を最適化し、製品の信頼性を担保するために重要となる。ここで、特許文献1では、配線基板のスルーホールに対するプレスフィットピンの圧入不良を定量的に判定するために、シリンダと圧入ヘッドの間に圧力センサを配置して、プレスフィットピンの圧入時にかかる圧入力変化を検出することが提案されている。また、この文献では、上記の技術によって判定可能な圧入不良の原因として、プレスフィットピンの精度不良や配線基板のスルーホールの内径不良などが挙げられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の技術は、圧入ヘッドによって支持されている複数のプレスフィットピンを同時にプリント基板のスルーホール内に圧入することを前提したものであると考えられる。しかしながら、複数のプレスフィットピンを同時に圧入する場合に、シリンダと圧入ヘッドの間に圧力センサを設けて圧入力変化を検出しても、どのプレスフィットピンがどのスルーホールに対して圧入不良となっているのかを特定することが困難である。また、あるプレスフィットピンに圧入不良が生じている場合であっても、他のプレスフィットピンの圧入状態が適正であれば、その圧入不良が看過される恐れもある。
【0007】
また、特に車載用パワーモジュールの生産工程では、厳密な信頼性が要求されるため、1本ずつ或いは少数のプレスフィットピンを正確かつ高速に基板のスルーホール内に圧入することが求められる。また、圧入ヘッドは一般的に重量の大きい部材であるが、このようなヘッドを短時間で基板に向かって加速及び減速させるストローク作業(一般的に1ストロークは1秒以下)を繰り返す必要がある。このように重量の大きい圧入ヘッドを高速で昇降させる場合に、特許文献1に記載の技術のように、シリンダと圧入ヘッドの間に圧力センサを設けたとしても、そのセンサでは圧入力変化がほとんど検出されずに、結果として圧入不良を正確に検出できないと考えられる。従って、特許文献1の技術は、少数のプレスフィットピンを高速で圧入する処理には適さないという問題がある。
【0008】
あるいは、比較的小さいサイズの1〜3本程度のプレスフィットピンであれば、圧入ヘッドはその自重によってプレスフィットピンをスルーホール内に圧入できる程度の重量を有している。このため、数本のプレスフィットピンをスルーホール内に圧入する場合に、それに要する圧力は圧入ヘッドの重量で十分である可能性が高く、シリンダと圧入ヘッドの間に圧力センサを設けたとしても、そのセンサでは圧入力変化がほとんど検出されずに、結果として圧入不良を正確に検出できないものと考えられる。このため、特許文献1のようにシリンダと圧入ヘッドの間に圧力センサを設けることとした場合、サイズの小さい少数のプレスフィットピンを高速にスルーホールへと圧入する際に、プレスフィットピンの圧入不良を適切に検出することが困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、プレスフィットピンの圧入不良を正確に検出することのできる圧入管理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、従来技術の問題を解決する手段について鋭意検討した結果、スルーホール内へのプレスフィットピンの圧入期間中におけるヘッド進退用モータのトルクの積分値が、プレスフィットピンとスルーホールの圧入状態によって顕著に変化することを見出した。そして、このようなモータのトルク積分値を監視することで、プレスフィットピンの圧入不良を正確に検出できるようになることに想到し、本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の構成・工程を有する。
【0011】
本発明の第1の側面は、プレスフィットピンの圧入管理装置に関する。本発明に係る管理装置は、トルク測定部と、トルク積算出部と、不良判定部を有する。トルク測定部は、基板のスルーホールに圧入されるピンを保持したヘッドを進退(具体的には上昇及び下降)させるためのモータのトルクを測定する。なお、ヘッドの「進退」とは、基板に対してヘッドを進行させること及び退行させることを意味する。例えば、基板がヘッドの下方にある場合、「進行」とはヘッドを基板に向かって下降させることを意味し、「退行」とはヘッドを基板から離れる方向に上昇させることを意味し、基板がヘッドの上方にある場合にはこれとは逆の動作を意味する。また、ヘッドと基板をほぼ水平に配置することも可能である。トルク積算出部は、ピンが基板に接触した時からスルーホールへのピンの圧入が完了するまでの監視期間中におけるモータのトルクの積分値(以下「トルク積」ともいう)を求める。なお、モータのトルクは、ヘッドを下降させる方向にモータを回転させる正のトルクであってもよいし、ヘッドを上昇させる方向(ヘッドの下降に抵抗する方向)にモータを回転させる負のトルクであってもよい。不良判定部は、トルク積が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する。例えば、トルク積が基準外となる状況としては、スルーホールの穴径やピンの外形が規定範囲外となっている場合や、ピンの差込み位置にずれが生じている場合、あるいはスルーホール内の鍍金の厚みや摩擦抵抗値が規定範囲外になっている場合などが考えられる。
【0012】
本発明者らの研究により、上記監視期間中におけるモータのトルク積は、プレスフィットピンの外形が一定である場合にスルーホールの穴径の大小によって顕著な差を示すことが明らかになった。このため、例えばプレスフィットピンの外形が一定である場合に、このトルク積が基準範囲内であるか否かを判定することで、スルーホールの穴径が適切な値となっているかどうかを容易に判断することができる。また、モータでヘッドを進退(例えば昇降)させることでプレスフィットピンの圧入処理を高速で行うことが可能となるが、その場合には一般的にピンの圧入不良を発見することが困難になる。例えば、プレスフィットピンが配線基板に接触するときのトルク値を単純に測定しても、ピンの圧入処理が高速で行われると、穴径の大小によってモータのトルク値に殆ど差は生じない。これに対して、本発明のように、プレスフィットピンが配線基板に接触した時からスルーホールへのピンの圧入が完了するまでの期間中に発生したモータのトルク積を算出することで、プレスフィットピンの圧入を高速で行う場合でも、穴径の大小によって顕著な差を得ることができる。このように、本発明の管理装置は、プレスフィットピンを高速で圧入するプロセスに適したものであるといえる。
【0013】
本発明に係る管理装置は、ヘッドの一度の進退動作により1つのスルーホールに1つのピンを圧入する圧入装置を管理対象とすることが好ましい。このように、一度に1つのピンのみをスルーホールに圧入することで、圧入処理の精度が高まるとともに、各ピンの圧入状態を正確に判定することができる。これにより、製品の信頼性向上に寄与できる。
【0014】
本発明において、モータは、監視期間中にヘッドの進行に抵抗する方向への負のトルクを発生させることが好ましい。なお、ピンを基板のスルーホールに圧入するにあたり、モータは、ヘッドを進行させる方向への正のトルクを発生させるものであってもよい。また、ピンは、ある程度大きい正のトルクによってスルーホールへ圧入されるもの(例えば車載モジュール用のプレスフィット等)であってもよいし、ヘッドの自重によってスルーホールに圧入可能なもの(例えば計算機のプレスフィット等)であってもよい。この場合、トルク積算出部は、監視期間中におけるモータの負のトルクの積分値を求めることが好ましい。このように、モータによってヘッドの進行(例えば降下)に抵抗するように負のトルクを発生させてヘッドの進行を制御することで、ピンを安定的にスルーホール内に圧入することできる。また、負のトルク積が所定の基準の範囲内であるか否かを判定することで、高速にスルーホール内へピンが圧入される場合であっても、容易かつ精度良くピンの圧入不良を検出することができる。また、特許文献1に記載された発明のように、プレスフィットピンの圧入時にかかる圧入力変化を検出する場合、初めはスルーホールを通過しない程度の圧力でピンを押圧し、その後徐々に当該圧力を上げてピンをスルーホールに挿入してくという手順を踏む必要があるため、一度のピンの挿入作業に時間を要するという問題がある。これに対して、本発明のように、ある程度重量のあるヘッドの下降を停止させるためのブレーキ力(モータの負のトルク)を測定し、その積分値を求めるようにすることで、ピン及び基板に予め十分な圧力(ヘッドの自重によるもの)を負荷しておくことができ、特許文献1のように徐々に圧力を上げる必要がなくなるため、作業時間(挿入速度)に遅延が生じることがないという利点がある。
【0015】
本発明の第2の側面は、ピンの管理用のプログラムに関する。本発明に係るプログラムは、コンピュータを前述した第1の側面に係る管理装置として機能させる。具体的に説明すると、本発明に係るプログラムは、基板のスルーホールに圧入されるピンを保持したヘッドを進退させるためのモータのトルクを測定する工程と、ピンが基板に接触した時からスルーホールへのピンの圧入が完了するまでの監視期間中におけるモータのトルクの積分値を求める工程と、トルクの積分値が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する工程をコンピュータに実行させる。
【0016】
本発明の第3の側面は、ピンの圧入管理方法に関する。本発明に係る管理方法は、基板のスルーホールに圧入されるピンを保持したヘッドを進退させるためのモータのトルクを測定する工程と、ピンが基板に接触した時からスルーホールへのピンの圧入が完了するまでの監視期間中におけるモータのトルクの積分値を求める工程と、トルクの積分値が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する工程を含む。
【0017】
本発明に係る圧入管理方法において、スルーホールがピンの直下に位置するように基板を位置決めする工程をさらに含むことが好ましい。このように、基板のスルーホールが適切な位置にあり、そのスルーホールにピンが挿入されることでピンの圧入不良を適切に検出することができる。なお、基板の位置決め方法としては、基板の外形で位置調整する方法や、スルーホールの位置をカメラ等で検出して位置調整する方法などが考えられる。
【0018】
本発明の第4の側面は、ピン付属基板の製造方法に関する。ピン付属基板の例は、車載用パワーモジュールや大型計算機等を構成する基板である。本発明に係る製造方法は、ピンを保持したヘッドをモータにより進退させて基板のスルーホールに当該ピンを圧入する工程と、モータのトルクを測定する工程と、ピンが基板に接触した時からスルーホールへのピンの圧入が完了するまでの監視期間中におけるモータのトルクの積分値を求める工程と、トルクの積分値が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プレスフィットピンの圧入不良を正確に検出することができる。特に、1本ずつ或いは少数のプレスフィットピンを同時にスルーホールへ圧入する場合であって、ヘッドの自重によってピンがスルーホールへ圧入される状況においても、本発明によればプレスフィットピンの圧入不良を精度良く検出することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0022】
図1は、管理装置10と圧入装置20を含むシステムの機能構成を模式的に示している。圧入装置20は、プレスフィットピン30を配線基板40のスルーホール41に圧入するための装置である。圧入装置20としては、既存のものを適宜採用することができる。管理装置10は、圧入装置20によるプレスフィットピン30の圧入動作を制御するとともに、この圧入動作が正常に行われているかどうかを検査するための機能を備える。管理装置10としては、汎用的なコンピュータを用いることができ、このコンピュータに本発明特有の処理を実行させるためのプログラムをインストールしておけばよい。
【0023】
圧入装置20は、基本的に、プレスフィットピン30を保持するヘッド21と、このヘッド21を配線基板40に向かって昇降させる昇降機22と、この昇降機22に回転トルクを付与するサーボモータ23と、このサーボモータ23の回転を制御するモータ制御器24を備える。
【0024】
昇降機22は、サーボモータ23のシャフトの回転運動を直線運動に変換するカム機構を持つ。また、ヘッド21は、この昇降機22の先端に取り付けられている。本実施形態において、ヘッド21は、プレスフィットピン30を1本ずつ保持するように構成されており、一度の昇降動作で配線基板40の1つのスルーホール41に1本のプレスフィットピン30を圧入する。なお、ヘッド21は、一度に複数本のプレスフィットピン30を保持するように構成されていてもよい。また、図示は省略するが、ヘッド21には、複数のプレスフィットピン30が連結されたバンドル部材から、圧入時に各プレスフィットピン30を切り出すための機構が設けられていてもよい。
【0025】
サーボモータ23は、モータ制御器24による制御に従って、ヘッド21を昇降させるための回転トルクを発生させる。本願明細書において、ヘッド21を配線基板40に向かって進行(具体的には降下)させるためのトルクを「正トルク」といい、これと反対方向のトルクを「負トルク」という。すなわち、負トルクは、ヘッド21の降下に抵抗する方向の力であり、圧入動作時においてプレスフィットピン30を配線基板40のスルーホール41内の所定の深さに留めるためのブレーキ力に相当する。サーボモータ23のシャフトの回転運動は昇降機22によって直線運動に変換されるため、サーボモータ23の回転トルクによってヘッド21が配線基板40に対して昇降することとなる。
【0026】
モータ制御器24は、管理装置10からの制御指令に従って、サーボモータ23の回転を制御する。モータ制御器24は、例えば、管理装置10からプレスフィットピン30の圧入深度に関する情報を制御指令として受け取り、この指令に基づいてプレスフィットピン30が所定の深度に達するようにサーボモータ23を制御する。
【0027】
圧入装置20は、さらに、サーボモータ23の回転トルクを検出するためのトルクセンサ25を備える。トルクセンサ25は、例えばサーボモータ23のシャフトの周囲に設けられる。トルクセンサ25としては、磁歪式、ひずみゲージ式、圧電式、光学式などの公知の手法でサーボモータ23のトルクを検出するものを採用すればよい。トルクセンサ25によって検出された情報(デジタル信号)は、管理装置10へ出力される。
【0028】
プレスフィットピン30は、配線基板40のスルーホール41内に圧入される導電性の端子部品であり、銅もしくはアルミニウムといった金属材料で形成されているか、又はそれら金属の鍍金が施されている。また、配線基板40のスルーホール41内にも金属鍍金が施されている。このため、スルーホール41内にプレスフィットピン30を圧入することで両者が通電可能な状態となる。なお、「プレスフィット」とは、配線基板40のスルーホール41にピンの先端を押し込んだときに発生する復元力によって、ピンが基板との接触状態が保持されることを意味する。例えば、
図1に示した実施形態において、プレスフィットピン30の芯部31の下端近傍には、スルーホール41の内壁に接触する結合部32が設けられている。この結合部32は、中心に開口が形成された楕円形状であり、プレスフィットピン30を構成する金属材料が二股に分かれた形状となっている。また、結合部32の横幅は、芯部31の横幅よりも広くなっている。さらに、結合部32の横幅は、スルーホール41の内径よりも広く設計されている。このため、プレスフィットピン30をスルーホール41内に圧入するとき、結合部32がスルーホール41の内壁に接触しながら弾性変形し、それが復元しようとする力によって結合部32とスルーホール41の接触状態が保持される。
【0029】
また、プレスフィットピン30の芯部31の上部には、ヘッド21によって保持される突起部33が設けられている。プレスフィットピン30の芯部31は摩擦抵抗が小さくヘッド21によって保持しにくいが、このような突起部33を設けておくことでヘッド21とプレスフィットピン30とが係合するため、ヘッド21によってプレスフィットピン30を正確に保持できる。また、プレスフィットピン30の圧入時に、ヘッド21が突起部33を押圧しながらプレスフィットピン30を配線基板40のスルーホール41内に押し込むため、サーボモータ23が発生させた正トルクをプレスフィットピン30に効率的に伝達することができる。
【0030】
続いて、管理装置10の機能構成について説明する。
図1に示されるように、管理装置10は、コントローラ11と表示部12を備える。コントローラ11は、CPUなどのプロセッサと、プログラムを格納したストレージと、プロセッサでの演算結果などを読み書きする作業空間を持つメモリなどを含む。コントローラ11は、モータ指令部11a、トルク測定部11b、トルク積算出部11c、及び不良判定部11dといった機能要素を含む。これらの機能要素は、基本的に、プログラムに従ったプロセッサの演算処理によるソフトウェア上の機能として実現される。ただし、これらの機能要素はハードウェアの回路として実現されるものであってもよい。また、表示部12は、コントローラ11の演算結果などを表示する。表示部12としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの公知の表示装置を採用すればよい。
【0031】
モータ指令部11aは、圧入装置20のモータ制御器24に対して、サーボモータ23の駆動条件等を制御指令として提供する。具体的には、モータ指令部11aは、プレスフィットピン30の圧入深度(具体的にはz軸座標(
図2参照))や、サーボモータ23の回転速度(ヘッド21の昇降速度)などの諸条件を、制御指令としてモータ制御器24に提供する。モータ制御器24は、モータ指令部11aからの制御指令に従ってサーボモータ23を駆動させる。これにより、ヘッド21が降下して、プレスフィットピン30が配線基板40のスルーホール41へと圧入される。具体的には、モータ制御器24は、モータ指令部11aによって指定された回転速度で、指定された深度までプレスフィットピン30が挿入されるように、サーボモータ23を駆動する。このようなヘッド21の降下及び上昇の際にサーボモータ23が発生させたトルクをトルクセンサ25によって検出する。
【0032】
トルク測定部11bは、トルクセンサ25の検出情報に基づいて、サーボモータ23の回転トルクを測定する。具体的には、トルク測定部11bは、サーボモータ23の回転トルクをリアルタイムに測定して、その結果を記録する。
【0033】
図2の1行目のデータは、トルク測定部11bが測定したサーボモータ23の回転トルクの値(トルク値)のタイムチャートの一例を示している。なお、
図2では、ほぼ同じサイズのプレスフィットピン30を、穴径が1.10mmのスルーホール41に圧入した場合のデータと、穴径が1.20mmのスルーホール41に圧入した場合のデータをそれぞれ比較して示している。また、
図2は、比較的小さいサイズのプレスフィットピン30を圧入した場合のデータを示しており、この例では、ヘッド21の自重によってプレスフィットピン30が配線基板40のスルーホール41に圧入されることとなる。このため、プレスフィットピン30と配線基板40が接触している期間中は、ヘッド21の自重によってプレスフィットピン30がスルーホール41の内部へと押し込まれ過ぎることを避けるために、サーボモータ23は負トルクを発生させてヘッド21の下降にブレーキを掛ける。
【0034】
具体的に説明すると、
図2の1行目のデータに示されるように、本実施形態において、ヘッド21の下降開始点以前の状態では、ヘッド21を空中に留めるためにサーボモータ23は負トルクを発生させる。その後、ヘッド21の下降開始点直後、静止状態にあるヘッド21を配線基板40に向かって下降させるために、サーボモータ23は一時的に大きい正トルクを発生させる。その後、一旦サーボモータ23が弱く負トルクを発生させる状態続くが、その間もヘッド21は下降を続ける。その後、プレスフィットピン30が配線基板40に接触する直前に、下降中のヘッド21に働く慣性に抵抗してヘッド21の下降速度を落とすために、サーボモータ23は一時的に大きい負トルクを発生させる。その後、プレスフィットピン30が配線基板40に接触したとき(ピン接触開始点)からプレスフィットピン30の圧入深度が所定の深度に達するとき(ストローク終点)までの間、ヘッド21の自重を利用してプレスフィットピン30を配線基板40のスルーホール41に圧入しつつも、プレスフィットピン30がスルーホール41の内部へと押し込まれ過ぎることを避けるために、サーボモータ23は弱い負トルクを発生させてヘッド21の下降にブレーキを掛ける。その後、プレスフィットピン30の圧入が完了すると、ヘッド21によるプレスフィットピン30の保持を解除して、プレスフィットピン30を配線基板40に残したままヘッド21のみを再び上昇させる。このとき、サーボモータ23はヘッド21を上昇させるための負トルクを発生させる。このように、
図2の1行目のデータを参照すれば、サーボモータ23のトルクの正負に伴って、ヘッド21の挙動を把握することができる。
【0035】
トルク積算出部11cは、トルク測定部11bによって測定されたトルク値に基づいて、所定期間中におけるサーボモータ23の回転トルクの積分値を求める。具体的には、本実施形態において、トルク積算出部11cは、プレスフィットピン30が配線基板40に接触した時からスルーホール41へのプレスフィットピン30の圧入が完了する時までの監視期間中におけるサーボモータ23の回転トルクの積分値を求める計算を行う。なお、監視期間は、例えば500〜1000msec、700〜800msec程度の短時間である。
【0036】
図2の2行目のデータは、トルク積算出部11cが算出したトルクの積分値(トルク積)を示している。ここでは、ピン接触開始点からストローク終点までの期間を監視期間とし、この監視期間中におけるトルク積を求めることとしている。
図2の2行目のデータでは、監視期間の終点におけるトルク積の値が、その監視期間の最終的なトルク積を示している。なお、監視期間の前後の期間はトルク積を算出しない期間(キャンセル期間)である。このため、
図2に示したデータ上は、監視期間以前の期間のトルク積はゼロ(不算出)となり、監視期間以後の期間のトルク積は監視期間中のトルク積と一致している。
【0037】
図2の1行目のデータに示されるように、プレスフィットピン30のサイズが同じであるとき、スルーホール41の穴径が1.10mmである場合と1.20mmである場合とで、トルク測定部11bが測定したサーボモータ23のトルク値は、その波形や数値に殆ど差が生じていない。このため、例えば穴径1.20mmを適正値とし、穴径1.10mmを異常値と仮定した場合、サーボモータ23のトルク値の波形や数値を監視していても、穴径1.10mm(異常値)のスルーホール41にプレスフィットピン30を圧入するときに、何らかの異常があることを検出することは困難であるといえる。
【0038】
他方で、
図2の2行目のデータに着目すると、プレスフィットピン30のサイズがほぼ同じであるとき、スルーホール41の穴径が1.10mmである場合と1.20mmである場合とで、トルク積算出部11cが算出した監視期間中におけるサーボモータ23のトルク積の値には顕著な差が生じていることが判る。このため、上記と同様に、例えば穴径1.20mmを適正値とし、穴径1.10mmを異常値と仮定した場合、監視期間中におけるサーボモータ23のトルク積の値を求めることで、穴径1.10mmのスルーホール41にプレスフィットピン30を圧入するときに、適正値である穴径1.20mmのスルーホール41と比較し、何らかの異常があるということを確実に検出することが可能となる。このように、監視期間中におけるサーボモータ23のトルク積を(2行目のデータ)求めることで、トルク値(1行目のデータ)のみからでは検出することが困難であった圧入処理の不良を容易に検出することができる。
【0039】
図2では、プレスフィットピン30のサイズが同じであることを前提として、穴径1.10mmのスルーホール41と穴径1.20のスルーホール41にそれぞれ圧入した場合を比較して示している。
図2の2行目のデータに示されているように、穴径が小さい方(
図2左側)が、監視期間中におけるサーボモータ23の負のトルク積(絶対値)が小さくなる。これは、小さいスルーホール41にプレスフィットピン30を挿し込む場合の方が、スルーホール41の内壁とプレスフィットピン30の摩擦抵抗が大きくなり、ヘッド21がその自重によって降下しにくくなるため、ブレーキ力としてのサーボモータ23の負トルクは比較的小さくて済むためであると考えられる。他方で、穴径が大きい方(
図2右側)が、監視期間中におけるサーボモータ23の負のトルク積(絶対値)が大きくなる。これは、大きいスルーホール41にプレスフィットピン30を挿し込む場合、スルーホール41の内壁とプレスフィットピン30の摩擦抵抗が小さくなり、ヘッド21がその自重によってスルーホール41内を降下しやすくなるため、スルーホール41内の所定の深度にプレスフィットピン30を留めるためには、ブレーキ力としてのサーボモータ23の負トルクを比較的大きくする必要があるためであると考えられる。
【0040】
図3は、スルーホール41の穴径と監視期間中におけるサーボモータ23の負のトルク積の相関関係を示している。
図3のグラフを作成するにあたり、穴径1.10mm、1.15mm、1.25mm、1.30mmのスルーホール41を持つ配線基板40を5つ用意し、同じヘッド21を用いて各配線基板40の各スルーホール41にほぼ同じサイズのプレスフィットピン30を圧入し、それぞれの監視期間中におけるサーボモータ23の負のトルク積を算出して、穴径ごとに平均をとった。なお、プレスフィットピン30としては、外形が1.23±0.02mmのものを使用した。検証の結果、
図3に示されるように、スルーホール41の穴径と監視期間中におけるサーボモータ23の負のトルク積の間に相関関係があることが明らかになった。また、同検証結果は再現性が高いものであることから、この相関関係を利用すれば、サーボモータ23の負のトルク積を求めることで、プレスフィットピン30のサイズとスルーホール41の穴径の関係性が適正であるかどうかを判別できるようになるという知見が得られた。
【0041】
不良判定部11dは、トルク積算出部11cによって求められたトルク積が、予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する。これにより、不良判定部11dは、トルク積が基準の範囲内である場合に、プレスフィットピン30が適切にスルーホール41内に圧入されたと判別できる。他方で、トルク積が基準の範囲外である場合には、プレスフィットピン30やスルーホール41に何らかの不良が発生したと判別できる。例えば、トルク積が基準外となる状況としては、スルーホール41の穴径やプレスフィットピン30の外サイズが規定範囲外となっている場合や、プレスフィットピン30の差込み位置にずれが生じている場合、あるいはスルーホール41内の鍍金の厚みや摩擦抵抗値が規定範囲外になっている場合などが考えられる。トルク積が基準外となる状況としてはその他様々なものが考えられるが、本発明では、プレスフィットピン30又はスルーホール41に何らかの異常が生じていることを検出できればよく、その異常の種類を特定することまでは必要とされてない。
【0042】
図4は、不良判定部11dが管理するトルク積の範囲の一例を示している。この例では、1.20mmの穴径を最適値としてスルーホール41を設計し、その製造過程において−0.1mm又は+1.5mmの誤差が生じることまでは許容することとして、穴径設計マージンを設定した。つまり、スルーホール41の穴径が1.10〜1.35mmの範囲内であれば、製品の製造上は問題ないといえる。ただし、この穴径設計マージンを万が一にも超えると製品の性能を保証できなくなるという理由から、
図4に示した例では、穴径の最適値である1.20mmに対して±1.0mmの範囲を管理幅として、この管理幅内にスルーホール41の穴径が収まるかどうかを管理することとしている。ここで、
図4に示した例では、管理幅の最小値である穴径1.15mmに相当するサーボモータ23の負のトルク積は−800000であり、管理幅の最大値である穴径1.25に相当するサーボモータ23の負のトルク積は−1200000である。このため、
図4の例において、不良判定部11dは、トルク積算出部11cによって求められたトルク積が、−800000〜−1200000の管理幅内に収まるかどうかを判定すればよい。
【0043】
上記判定処理の結果、トルク積算出部11cによって求められたトルク積が所定の基準の範囲内である場合、不良判定部11dは、プレスフィットピン30がスルーホール41内に正常に圧入されたと判定する。他方で、トルク積が所定の基準の範囲外である場合、不良判定部11dは、プレスフィットピン30のスルーホール41内への圧入に不良があったと判定する。不良判定部11dが圧入不良を発見した場合、例えば、モータ指令部11aは、サーボモータ23の駆動を停止により、プレスフィットピン30の圧入操作を一時的に停止することとしてもよい。また、不良判定部11dが圧入不良を発見した場合、コントローラ11は、圧入不良を発見した旨を表示部12に表示して、作業員に対して報知することとしてもよい。
【0044】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【0045】
例えば、上記した実施形態では、プレスフィットピン30及びスルーホール41のサイズが比較的小さく、ヘッド21の自重によってプレスフィットピン30をスルーホール41に圧入可能であり、圧入時にサーボモータ23が負のトルクを発生させる場合を想定したものであった。他方で、本発明は、例えば車載用パワーモジュールなど、比較的サイズの大きいプレスフィットピン30が用いられ、ヘッド21の自重によってはプレスフィットピン30をスルーホール41に圧入することができないことから、圧入時にサーボモータ23が正のトルクを発生させる形態も包含するものである。この場合、トルク積算出部11cは、プレスフィットピン30が配線基板40に接触した時からスルーホール41へのプレスフィットピン30の圧入が完了するまでの監視期間中におけるサーボモータ23の正トルクの積分値を求めることとすればよい。そして、不良判定部11dは、この正トルクの積分値が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定すればよい。
【解決手段】管理装置10は、基板40のスルーホール41に圧入されるピン30を保持したヘッド21を進退させるためのモータ23のトルクを測定するトルク測定部11bと、このピン30が基板40に接触した時からスルーホール41へのピン30の圧入が完了するまでの監視期間中におけるモータ23のトルクの積分値を求めるトルク積算出部11cと、このトルクの積分値が予め定められた基準の範囲内であるか否かを判定する不良判定部11dを有する。