(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物において引張力に弱いというコンクリートの欠点を補うために、引張力を主に負担して補強する主補強材としては、鉄筋が一番多く使用されてきている。また、いわゆる「鉄筋コンクリート構造物」として、その工学的な学問体系も整備されている。しかし、近年、鉄筋コンクリート構造物の耐久性に関する議論が多くなされており、その多くは、コンクリート中の鉄筋の錆による腐食である。鉄筋の腐食により、想定した耐用年数よりも早期に、被りコンクリートの剥落をはじめ、ひび割れ幅の増大によるコンクリート劣化の促進、鉄筋断面積の減少による構造耐力の減少などの被害が発生している。そのために、維持補修に多大な費用と労力を要していることは、最近の社会問題として取り上げられている。
【0003】
鉄筋腐食に関する対応策としては、(1)従来の鉄筋からエポキシ塗装鉄筋へ変更する、(2)鉄筋のコンクリート被りを従来よりも大きく確保する、などの対策が採られ、これらに関する設計基準や施工法の対処が採られてきた。
【0004】
しかしながら、近年、エポキシ鉄筋は、チョットした物がぶつかる等のわずかな衝撃により、エポキシ塗装の表面に傷がつき、そこから腐食が従来の鉄筋以上に進展するなどの、リスクがあることが分かってきている。例えば、米国のフロリダ州やバ−ジニア州では、エポキシ鉄筋を適用したコンクリート構造物においてエポキシ鉄筋腐食の多大な被害が生じた。その結果、これらの州では、エポキシ鉄筋の使用が禁止されるに至った。
【0005】
一方、従来の鉄筋を適用してコンクリート被りを従来よりも大きくとる方策は、道路橋示方書により基準化されている。例えば、塩害環境の厳しい地域では、コンクリートの最小被りを70mm以上とする必要がある。よって、コンクリート構造物の立地する地域によっては、コンクリート被り厚さが従来よりも大幅に増加することとなる。このため、橋梁上部工にこれを適用した場合は、コンクリート構造物の自重が増大することによる下部工への負担が増えて、下部工への耐震補強等の工費が増大するなどの課題が発生する。
【0006】
また、従来、プレストレストコンクリート構造物の緊張材料としては、PC鋼より線(PC鋼ストランドを指す。以下同じ)が広く適用されている。このPC鋼より線の防錆対策としては、最近、PC鋼より線に樹脂系の材料を被覆する防錆PC鋼より線が適用されてきているが、実績期間が短いための信頼性が証明されていない。また、防錆PC鋼より線の採用に際しては、防錆機能がある定着具が必要であり、その維持管理費用が必要となるなど課題が残っている。その上、プレストレストコンクリート構造物に対しても、配力筋なの鉄筋が必要となるために、配力鉄筋としては前述のような、エポキシ鉄筋を採用することが必要となり、エポキシ鉄筋の課題がそのまま残っている状況である。
【0007】
前述の鉄筋コンクリート構造物やプレストレストコンクリート構造物などのコンクリート構造物の鋼材腐食劣化に対する対策としては、どのような塩分環境下においても非金属のために錆びることがない連続繊維補強材を、主補強材や緊張材として適用することが提案されている。また、連続繊維補強材を主補強材や緊張材として適用することは、橋梁上部工や港湾の荷役桟橋床版などのコンクリート構造物として既に実用化されている状況である。
【0008】
この連続繊維補強材は、錆びない特性のほか、PC鋼より線以上の超高強度の引張強度特性を有して軽量であるなど、優れた特性を有する材料である。しかしながら現状では、連続繊維補強材をコンクリート床版の主補強材(鉄筋コンクリート構造物の主引張鉄筋相当)として適用した場合、あるいはプレストレストコンクリート床版の緊張材として適用した場合には、以下のような主に3つの課題があった。
【0009】
なお、連続繊維補強材とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、などの連続繊維を、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカ−ボネイト樹脂、塩化ビニルなどの樹脂で集束含浸した複合材料であるFRP補強材のことを指している(FRP : Fiber-Reinforced Plastics)(繊維強化プラスチック))。
【0010】
(1)連続繊維補強材は、鉄筋やPC鋼より線に比べせん断剛性が低いという課題
連続繊維補強材は、せん断剛性とせん断耐力が非常に低いために、連続繊維補強材を主補強材として適用した場合にせん断耐力に大きく寄与するダウエル効果を期待できないという課題がある。そのために、これをコンクリート床版に適用した場合のせん断耐力は著しく低下するので、せん断補強筋によるせん断補強が不可欠となる。一方、鉄筋やPC鋼より線を適用したコンクリート床版では、せん断剛性とせん断耐力が確保されているために、ダウエル効果が有効に働き、せん断補強筋による配筋が必要ない。
【0011】
例えば、コンクリート床版において、鉄筋を引張主鉄筋として適用した場合、曲げモ−メントに対して主鉄筋が引張力を分担するために、そのコンクリート床版は曲げモ−メントに抵抗することができる。また、コンクリート床版には、コンクリート床版上を走行する車両の輪荷重により曲げモ−メントの他に、せん断力による断面力が作用する。
【0012】
コンクリート床版は、その厚みが20〜35cm程度で主桁相互の支間長が、2.5m〜3.5m程度の版構造である。このために、輪荷重や自重によるせん断断面力に対しては、一般的には、せん断補強鉄筋を配置することなく、コンクリートのせん断抵抗及び引張主鉄筋のダウエル効果により必要とされるせん断耐力に対して対処できることが多い。
【0013】
ここで、鉄筋のダウエル効果とは、主鉄筋が鉄筋軸直角方向にせん断力を受けたときに、鉄筋のせん断剛性とせん断耐力でせん断力に抵抗するメカニズムのことを意味している。つまり、鉄筋配筋による通常形状の鉄筋コンクリート床板では、輪荷重による静的曲げモ−メントや静的せん断力などの断面力に対して、せん断破壊することなく曲げ破壊するのが通常である。
【0014】
一方、連続繊維補強材のせん断剛性は、ほとんど期待できない。そのために、連続繊維補強材を、前述の引張主鉄筋を代替するコンクリート床版の主引張材として配置した場合は、コンクリートのみにせん断力を負担させることになる。すると、コンクリート床版は、曲げ破壊せずに、せん断破壊することが考えられる。コンクリート床版がせん断破壊することは、設計的にも許容できない破壊モ−ドである。そのために、連続繊維補強材を適用したせん断補強筋を配置するなどの対策をとる必要がある。
【0015】
次に、コンクリート床版に連続繊維補強材を緊張材として適用した場合を考える。その場合は、従来のPC鋼より線を緊張材として適用した場合と連続繊維補強材の緊張材を適用した場合のコンクリート床版の比較となる。コンクリート床版にプレストレスを導入するとコンクリート床版には、プレストレス圧縮応力が作用するので、せん断によりコンクリート中に発生する斜めひび割れ角度が緩やかとなるためにせん断抵抗力が増大し、両者ともにせん断耐力は向上する。しかし、緊張材としての連続繊維補強材を使用した場合は、ダウエル効果を期待できないために、PC鋼より線と比較すると、やはりせん断耐力の低下は避けられない。
【0016】
(2)連続繊維補強材は鉄筋に比較して弾性係数が小さいという課題
連続繊維補強材は、従来の鉄筋やPC鋼より線に比べて、引張弾性係数が低い。このために、曲げモ−メントによる曲げひび割れに対する抵抗性能が低下し、曲げひび割れ幅の増大や、曲げ変形によるたわみ量が大きくなる課題がある。
【0017】
つまり、連続繊維補強材の弾性係数E
fは、鉄筋の弾性係数E
sと比較すると、約25〜30%程度低下するという課題である。例えば、コンクリート床版に対して連続繊維補強材を主補強材(主引張鉄筋の代替)として適用した例を考える。正の曲げモ−メントによる断面力に対して、中立軸より下に位置する引張側の断面においては、引張補強材(主補強材)の引張剛性(=EA)(ここで、E=引張材の弾性係数、A=引張補強材の断面積)が、引張側における引張歪に関与する。仮に、鉄筋の断面積A
sと連続繊維補強材の断面積A
fが同じ場合には、曲げモ−メントによる断面力に対して、引張補強材の引張剛性(=EA)は、連続繊維補強材の方が小さくなる。
【0018】
要するに、同じ曲げモ−メントに対して、鉄筋と同じ断面積を適用した連続繊維補強材を配筋したコンクリート床版は、引張側における引張歪が大きくなるために、結果、同じ曲げモ−メントに対してコンクリートの曲げひび割れ幅が大きくなる。ひび割れ幅が大きいことは、コンクリートの凍結融解(ひび割れ幅に侵入する水が凍結膨張してコンクリートの劣化を招く)に対する抵抗性能が低下し、さらに輪荷重による繰り返し疲労に対する構造劣化が増大し易いなど、コンクリート床版の長期劣化に対するリスクが増大することになる。
【0019】
ここで、連続繊維補強材は、鉄筋のように錆びない材料であるために、ひび割れ幅が大きくなろうとも耐久性に関係ないので、ひび割れ幅による設計が必要ないのではないか、という考えがある。しかし、同じ曲げモ−メントに対して、連続繊維補強材によるコンクリート床版は、鉄筋よりも早めに中立軸が上にシフトするために、圧縮側のコンクリート歪が大きくなり、その結果、圧縮強度の低いコンクリートを使用した場合では鉄筋コンクリート床版よりも曲げ耐力が低下する結果となることもある。
【0020】
上記の問題に対して、同等の曲げひび割れ幅としようとする場合には、連続繊維補強材の断面積A
fを鉄筋の断面積A
sの1.30〜1.46倍とすることが考えられる。しかし、連続繊維補強材の価格は、鉄筋に比較して非常に高価であり、経済的に不利となる。また、連続繊維補強材の保証破断強度は、鉄筋の破断強度の6倍程度にも達するので、連続繊維補強材が保有する超高強度の引張応力ゾ−ンまで利用することができず、コンクリートの圧縮破壊で終局曲げモ−メントが決定される。つまり、連続繊維補強材が保有する高強度特性の特徴を活用できないために、経済的にも構造的にも不利な材料となる。
【0021】
また、引張剛性が低く、その結果、ひび割れ幅が大きくなるということは、同じ荷重下での曲げモ−メントによる曲げたわみが大きくなることを意味する。このことは、例えば、たわみ制限を要求するような鉄道橋のコンクリート床版にとっては、構造体としての機能を損失することになる。
【0022】
前述したように、連続繊維補強材の場合、腐食の心配がないので曲げひび割れ幅が、従来の鉄筋コンクリート(RC構造)よりも大きくてもよいという考えもある。しかし、コンクリート表面の美観上のことや、凍結融解に対する性能低下、被りコンクリートの剥落リスクの増大などを考慮すると、使用限界状態で最大ひびわれ幅を0.5mm〜0.8mmにする必要があり、そのために使用限界状態では連続繊維補強材を歪制御で適用する必要がある。結果、連続繊維補強材は経済的に不利となる。
【0023】
ここで、もしもRCと同等のひび割れ幅にすることが求められれば、連続繊維補強材繊維の断面積を鉄筋断面積の30〜46%増大させる必要がある。ただし、コンクリート被りを鉄筋よりも小さくとれるので、連続繊維補強材の断面積の増大を多少節約することが可能である。しかし、根本的に高価な連続繊維補強材の径をランクアップすることは、経済的観点から問題である。
【0024】
(3)連続繊維補強材は鉄筋やPC鋼より線と比較して引張強度が高く降伏点がないという課題
連続繊維補強材は、超高強度の引張強度を有するものの、降伏点が存在しなく、伸び能力も小さいために、曲げモ−メントによる曲げ靭性性能が低下するという課題がある。
【0025】
例えば、連続炭素繊維補強材の保証引張破断強度は、鉄筋SD345の5.5〜6.0倍程度である。このため、連続繊維補強材を鉄筋の代用として適用する場合、引張強度の比率からのみ考えれば、断面積を1/5〜1/6にすることができると考えがちである。しかし、前述の通り、連続繊維補強材の弾性係数が小さいために、仮に同じ断面積の連続繊維補強材を配置したとしても、曲げモ−メントに対するコンクリート床版の曲げ耐力は多くの場合、鉄筋配置の場合よりも低下する。それは、連続繊維補強材の引張歪とコンクリートの圧縮歪を比べた時に、多くの場合先にコンクリートの圧縮歪が破壊の限界歪に到達するためである。
【0026】
鉄筋SD345は、降伏歪が0.17%〜0.20%で降伏応力が約345N/mm
2の降伏点を有しており、最大歪が18〜19%で最大応力が約490N/mm
2で破断する。これに対して、連続繊維補強材の中で最も性能の良い炭素繊維補強材の場合では、降伏点が存在せず、保証破断応力は約2400N/mm
2程度で、最大応力が約2900〜3000N/mm
2で破断する。また、その時の最大歪は1.7%程度である。このように、連続繊維補強材は降伏点を有しないために、これをコンクリート床板の曲げ引張補強材として適用した場合、鉄筋コンクリートのような降伏点以降の曲げ靭性を期待することができない。
【0027】
一方、PC鋼より線は、降伏歪が0.2%で降伏応力1580N/mm
2の降伏点を有しており、最大歪が1.7%で最大応力が約2300〜2400N/mm
2で破断する。コンクリート床版にPC鋼より線や連続繊維補強材を緊張材として適用した場合、最終曲げ耐力は、緊張材の引張特性が影響する。よって、鉄筋コンクリート補強時の場合と同様に、連続繊維補強材を緊張材として用いた場合でも曲げ耐力における曲げ靭性を期待することは困難である。
【0028】
また、特許文献1には、引張補強材として有機繊維からなる連続繊維を含有する繊維補強コンクリートにおいて、有機繊維からなる短繊維を混入した繊維補強コンクリートが開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0010]〜[0015]等参照)。
【0029】
特許文献1に示されている請求項1をみると、一見、コンクリート構造物に適用できる発明のようにも見える。しかし、特許文献1の実施例に記載されているコンクリートの配合を見ると、粗骨材を配合していないことが分かる(特許文献1の表1,表2参照)。通常、このような配合は、コンクリートとは言わずモルタル、あるいはセメント系組成物と称する。また、「引張補強材としてメッシュ状に加工されたPVA繊維からなる連続繊維を使用し、・・」(段落[0016]参照)とあるように、モルタルあるいはセメント系組成物に対応したメッシュ状の連続繊維を使用しているので、連続繊維の被りは2〜3mm程度と考えられる。このようなセメント系組成物を連続繊維補で補強した場合には、特許文献1の段落[0003]に記載されているように、「引張補強材として新素材を使用したコンクリート部材は最大曲げ荷重に達すると繊維が破断し、曲げ荷重が急激に失われる(
図2参照)」。このような挙動は、セメント系組成物とメッシュ状の連続繊維の組合せに依存した特徴的な挙動である。
【0030】
これに対して、本発明で対象としている材料の組合せは、セメント系組成物ではなく、細骨材と粗骨材を含む通常のコンクリート材料である。また、本願発明に係る連続繊維補強材は、メッシュ状の連続繊維ではなく、ストランド状又は棒状である。そのため、本発明に係るコンクリートと連続繊維補強材の組合せによる部材の曲げ荷重に対する挙動は、初期ひび割れ時に急激に曲げ荷重が失われることはなく、曲げひび割れ時に曲げ剛性は低下するものの継続的に曲げ耐力は増加する(本願明細書の段落[0132]〜[0137]、図面の
図8参照)。
【0031】
また、特許文献1に開示されている短繊維は、当然、セメント系組成物とのバランスを考慮したものであり、実施例では、繊度100dtexで繊維長12mmのPVA短繊維を使用している。繊度からPVA繊維の直径を計算すると0.1mmとなり、アスペクト比(繊維長/繊維直径)=120となる。アスペクト比が100以上の繊維を混入して必要なワ−カビリティ−を得ることができるのは、粗骨材を含まないセメント系組成物でしかない。つまり、粗骨材を含むコンクリートでは、アスペクト比が100以上となる繊維を混入した場合、必要なワ−カビリティ−を得ることができないという問題が生じる。
【0032】
また、特許文献2には、セメント系マトリックス中に混入する強化繊維として、添加量が体積%(Vf)で1.5%以上の引張弾性率2.0t/mm
2以上である短繊維と、炭素繊維筋または炭素繊維メッシュを併用した繊維強化セメント系複合材料が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0014]〜[0029]等参照)。
【0033】
しかし、特許文献2に記載の繊維強化セメント系複合材料も、特許文献1に記載の短繊維を混入したセメント組成物と同様に、セメント組成物を対象とした発明である。つまり、特許文献2に記載の発明は、セメント系材料と明記しているように、骨材として粉末硅砂や人工軽量骨材を使用している。また、連続繊維としては炭素繊維筋又は炭素繊維メッシュとしている。また、明細書の段落[0035]に、(被り約0.2mm)と記載されているように、通常の鉄筋配置のような付着強度を十分にとれるような配置ではない。
【0034】
また、特許文献2の段落[0009]に「・・・セメント系材料の初期クラック発生後、曲げ耐力が急激に低下してから連続繊維に応力が担われ、セメント系複合材料の曲げ弾性率が急激に変化する現象が起こり、補強材への連続的な応力の伝達が行われない。」とあるように特許文献1と同様の課題がある。
【0035】
また、特許文献3には、繊維補強コンクリートにPC鋼材を用いてプレテンション方式によってプレストレスが導入されたプレストレストコンクリート床版が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0014]〜[0031]、図面の
図1,
図2等参照)。
【0036】
特許文献3に記載のプレストレストコンクリート床版は、繊維補強コンクリートにすることにより鉄筋を省略して鉄筋のコンクリート被りや鉄筋同士の間隔を考慮する必要がなくなり、床版厚を低減して軽量化による橋梁全体の耐震性の向上を図ることを課題とするものである。
【0037】
しかし、特許文献3に記載のプレストレストコンクリート床版は、請求項4に記載された「前記板部の最小部材厚が40mm以下であることを特徴とする、・・・」、及び[0008]に記載された「・・・繊維補強コンクリートを採用しているので、鉄筋を省略することができる。・・・」などから、特許文献3に使用されているコンクリートは、超高強度繊維補強コンクリートである。超高強度繊維補強コンクリートとは、粗骨材を使用しないで圧縮強度が200N/mm
2クラスのセメント系組成物に引張強度が2000N/mm
2クラスの超高強度短繊維補強材を容積で2%程混入することにより、鉄筋を省略できる材料である。特許文献3は前記課題を解決するために、板部の下面に形成された縦リブ及び横リブとからなる格子状リブとすることにより軽量化を達成しようとするものである。
【0038】
以上のように、100年以上の使用に耐え得る超高耐久なコンクリート床版の実現には、錆びることのない連続繊維補強材の適用が理想的である。しかし、連続繊維補強材が有する力学的な欠点のために、これを適用したコンクリート床版は、従来の鉄筋やPC鋼より線などの鋼材を使用したコンクリート床版と比較して、せん断耐力、曲げ剛性、曲げひび割れの発生応力、曲げ靭性性能などの諸点で構造性能が劣っていた。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明に係るコンクリート構造物を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0055】
[第1実施形態]
先ず、
図1を用いて、本発明の第1実施形態に係るコンクリート構造物として例示するプレストレストコンクリート床版1について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るプレストレストコンクリート床版1を示す斜視図である。プレストレストコンクリート床版1は、道路橋や鉄道橋、あるいは桟橋を構成するコンクリート床版として用いられるものである。
【0056】
図1に示すように、プレストレストコンクリート床版1は、図のX方向を橋軸方向として、例えば、2本の主桁上に載置される版厚20〜35cm程度で主桁相互の支間長が、2.5m〜3.5m程度の版構造となったプレキャスト製の床版である。また、プレストレストコンクリート床版1は、シース2内に橋軸方向Xに沿って緊張材として連続繊維補強材である連続繊維補強材より線3が配設され、この連続繊維補強材より線3がポストテンション方式で緊張されて橋軸方向Xにプレストレスが導入されている。但し、図中の連続繊維補強材より線3の本数は、大幅に簡略化して省略しており、実際には、連続繊維補強材より線3は、橋軸直角方向Yに沿って所定の間隔をあけて複数本配設されている。
【0057】
勿論、プレストレストコンクリート床版1は、2本の主桁上に載置される床版に限らず、複数本の主桁上に載置されるものでも構わない。また、プレストレストコンクリート床版1は、プレキャスト製の床版に限られず、現場打ちのコンクリート床版であってもよい。但し、プレキャスト製の床版とすることにより、現場打ちのコンクリート床版と比べて、道路橋や鉄道橋、又は桟橋を架設又は更新する際の工期を短縮することができる。
【0058】
(連続繊維補強材より線)
連続繊維補強材より線3は、素線を構成する1本の心線と、その周囲に撚り合わされた素線を構成する複数本の側線と、から構成され、心線を取り囲むように複数本の側線がより線状により合された部材である。この連続繊維補強材より線3は、例えば、一般部の径が、5mm〜30mm程度の直径を有するより線である。
【0059】
心線及び側線は、いずれも熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含侵させた多数本、例えば、数万本の長尺の連続する炭素繊維を断面円形に束ねた樹脂含有繊維束であり、連続繊維補強材より線3の全体には、数十万本の炭素繊維が含まれる。炭素繊維のそれぞれは非常に細く、例えば、5μm〜7μmの直径を持つ。連続繊維補強材より線3は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製のものと言うこともできる。
【0060】
但し、連続繊維補強材より線3は、炭素繊維に代えてアラミド繊維又はガラス繊維を用いてもよい。熱硬化性樹脂には、例えば、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリカ−ボネイトやポリ塩化ビニルが用いられる。
【0061】
前述のように、連続繊維補強材とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、などの連続繊維を、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカ−ボネイト樹脂、塩化ビニルなどの樹脂で集束含浸した複合材料であるFRP補強材のことを指している(FRP: Fiber Reinforced Plastics)(繊維強化プラスチック))。
【0062】
なお、連続繊維補強材としてより線状(ストランド状)となった連続繊維補強材より線を例示して説明したが、本発明に係る連続繊維補強材は、棒状(ロッド状)とすることもできる。但し、連続繊維補強材は、より線状となっていると一度に側線が全部破断するおそれが少ないため、棒状のものより破断するリスクが低減される。
【0063】
(短繊維補強コンクリート)
プレストレストコンクリート床版1のように、コンクリート床版が保有すべき重要な材料的・構造的なパフォ−マンスは、塩害に対する高い耐久性能を有することと、押し抜きせん断断面力に対して、あるいは通常のせん断断面力に対して高い耐力性能を有することである。特に、道路橋梁のコンクリート床版においては、トラック等の重量車両の走行輪荷重によるコンクリート床版疲労が問題となっている。即ち、想定された運用期間において最小限の疲労損傷に留めて、コンクリート床版の架け替え工事を回避できることが求められている。
【0064】
前述のように、コンクリートに高い耐久性を付与するために、連続繊維補強材を使用した場合、連続繊維補強材はせん断剛性やせん断耐力が低いために連続繊維補強材によるダウエル効果を期待できない。その結果、コンクリート床板のせん断耐力が低下するという課題が発生していた。
【0065】
また、連続繊維補強材は、鉄筋やPC鋼より線と比較して、引張強度が高く、しかも降伏点が存在しない。そのために、これをコンクリート床版の主引張補強筋や緊張材として適用した場合、曲げモ−メント断面力に対して、鉄筋やPC鋼より線などが引張材の降伏点以降に生ずるような曲げ靭性の挙動が生じなく、圧縮側のコンクリート圧壊で破壊するために、脆性的な曲げ破壊をすることが多い。
【0066】
そこで、プレストレストコンクリート床版1では、打設する(硬化前の)フレッシュコンクリートとして、短繊維補強材が一定割合混入された短繊維補強コンクリートを使用する。短繊維補強材をコンクリートに混入することで、前述の連続繊維補強材のダウエル効果を期待できないこと等による連続繊維補強材の力学的な欠点を補うことができるからである。つまり、短繊維補強材を混入することにより、プレストレストコンクリート床版1のせん断耐力低下を防止し、破壊モ−ドをせん断破壊モ−ドから靭性の高い曲げ破壊モ−ドに改善することができるからである。
【0067】
要するに、プレストレストコンクリート床版1のように、短繊維補強コンクリートを用いることにより、短繊維補強材がコンクリート中において架橋効果を発揮する。架橋効果により、曲げひび割れ以降でも、比較的大きな引張歪に対して引張抵抗応力が保持される。よって、曲げ引張応力に抵抗するために、急激に曲げ耐力が低下することなく、コンクリート床版の曲げ靭性を向上させることができる。
【0068】
ここで、コンクリートに混入する短繊維補強材は、その材質が金属繊維ではなく有機繊維であるために、外部からの塩分物イオン侵入による腐食することはなく、コンクリート床版として高い耐久性を維持することができる。また、金属の短繊維補強材ではよく見られるコンクリート表面の点錆びは発生することがなく、コンクリート表面の美観を保つこともできる。
【0069】
なお、打設するフレッシュコンクリートは、最大骨材径が13mm〜20mmの砂利、砕石などの粗骨材、砂、砕砂などの細骨材、セメント、水、フライアッシュや高炉スラグなどの混和材、AE減水剤や高性能減水剤などの混和剤から構成される通常配合のコンクリートである。
【0070】
また、コンクリートに混入する短繊維補強材の量は、短繊維補強材をコンクリート体積に対して体積比率で0.5%以上混入する。体積比率で0.5%以上混入としているのは、0.5%以上混入することで短繊維補強コンクリートとしての前述の所定の力学的性能を得ることができるためである。
【0071】
なお、体積混入率の上限は、2.0%〜2.5%程度であると考えられる。それ以上の短繊維補強材の混入量が増加すると、スランプなどのワ−カビリティ−が低下するとともに、ファイバ−・ボ−ルができるなどの不具合な現象が発生するからである。
【0072】
(短繊維補強材)
短繊維補強コンクリートに混入する短繊維補強材は、有機材料から構成される有機繊維からなる短繊維である。本実施形態のプレストレストコンクリート床版1に用いる短繊維補強材は、ポリプロピレン繊維(PP繊維)の表面にエンボス加工を施すことによりコンクリートとの付着性能を向上させた短繊維を採用している。勿論、短繊維補強材は、ポリプロピレン繊維に限られず、ポリビニルアルコ−ル繊維(PVA繊維)、ポリエチレン繊維(PE繊維)などの他の有機繊維であっても構わない。
【0073】
また、短繊維補強材は、有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gm=1.2〜3.7となるものを使用している。有機繊維の繊維長がコンクリートの最大骨材径との比率で規定している理由は以下の通りである。第一の理由は、有機短繊維補強材のコンクリート中での架橋効果は、最大骨材径よりもある程度大きくなければ、最大骨材とセメント系マトリックスとの境界でひび割れが増大・局所化して短繊維補強材の架橋効果が期待できないからである。また、第二の理由は、その相対比率が大きすぎると、短繊維長が長くなりすぎてファイバ−・ボ−ルが発生する危険性が増大すること、及び短繊維補強材の本数が減少して架橋効果が低減するからである。
【0074】
その上、短繊維補強材は、短繊維に関するアスペクト比の形状パラメ−タを規定している。つまり、短繊維補強材は、有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/De=30〜69となるものを使用している。このようにアスペクト比の形状パラメ−タを規定している理由は、粗骨材と細骨材を配合した通常配合のコンクリートに対して、前述の所望の架橋効果を発揮でき、且つコンクリートのワ−カビリティ−を確保するためである。
【0075】
以上説明した本発明の第1実施形態に係るコンクリート構造物であるプレストレストコンクリート床版1によれば、緊張材として連続繊維補強材より線3を用いている。このため、緊張材が錆びて腐食することがなく、100年のオ−ダ−の超高耐久な床版とすることができるとともに、維持管理費を大幅に低減することができる。
【0076】
また、プレストレストコンクリート床版1によれば、連続繊維補強材より線3は、PC鋼より線以上の超強度の引張強度特性を有して軽量である。このため、プレストレストコンクリート床版1によれば、床版全体の軽量化を達成することができ、耐震性も向上する。
【0077】
その上、プレストレストコンクリート床版1によれば、短繊維補強コンクリートを使用するため、短繊維補強コンクリート中の短繊維補強材のコンクリート中に発生する引張応力に対して短繊維による架橋効果が発生する。その結果、せん断断面力によりコンクリート床版中に発生する斜め引張応力に対する引張抵抗応力が増大して、プレストレストコンクリート床版1のせん断耐力が増大する。
【0078】
なお、連続繊維補強材を用いたコンクリート床版において、せん断耐力を増大させる従来の方法は、一般的には、せん断補強筋(スタ−ラップ)を配置する方法が実施されてきた。つまり、連続繊維補強材を適用したコンクリート床版の場合では、設計的に必要とされるせん断耐力まで向上させるためには、連続繊維補強材のスタ−ラップを配設する必要がある。しかし、連続繊維補強材によるスタ−ラップは、特殊な曲げ加工を伴うために加工費が高価になるばかりか、連続繊維補強材の主引張補強筋と交差するようにスタ−ラップを配置しなければならないので、配筋作業に多大な労力を要する。このために、せん断補強コストが必然的に高価となる。
【0079】
しかし、プレストレストコンクリート床版1によれば、短繊維補強コンクリートを用いるため、連続繊維補強材のスタ−ラップが必要なくなる。また、短繊維補強コンクリートは、コンクリート打設に必要な十分なワ−カビリティ−を確保できるので、従来のプレ−ン・コンクリートと同様な作業環境でコンクリート床版を製作できる。しかも、短繊維補強材の価格も安価であることから、大幅なコストダウンと作業の効率化を図ることができる。
【0080】
それに加え、プレストレストコンクリート床版1によれば、連続繊維補強材より線3を緊張材として用い、これに短繊維補強コンクリートを用いているので、従来の配力鉄筋に相当する部材を省略することができる。このため、配力補強筋を配置する必要がないことによる製造コストや材料コスト低減により、コスト削減と作業効率の増大に大きく寄与することができる。
【0081】
なお、従来の通常のコンクリートにPC鋼より線を緊張材として適用したコンクリート床版の場合、緊張用のPC鋼より線の他に、PC鋼より線の外側に配力鉄筋を配置する必要がある。これは、コンクリート床版に使用限界状態の曲げモ−メントやせん断力の断面力が作用した場合に、曲げひび割れ幅の伸展を制御し、また、せん断耐力への補佐的な役割を持たせるためである。
【0082】
特に、道路橋梁に適用するコンクリート床版の場合は、輪荷重疲労に対する耐荷性能が重要であり、押し抜きせん断耐力性能がコンクリート床版に求められる重要な要素となる。従来のPC鋼より線によりプレストレスを導入したコンクリート床版では、この押し抜きせん断に対する耐荷性能を向上させるために、配力鉄筋の配筋が重要であった。
【0083】
しかし、これに対して、プレストレストコンクリート床版1によれば、従来のコンクリートを短繊維補強コンクリートに変更することにより、コンクリート中に発生する引張応力に対して短繊維補強材による架橋効果が発生する。このため、曲げひび割れやせん断ひび割れが発生後も、ひび割れ幅を制御することにより、配力鉄筋の配置が不要となった。
【0084】
さらに、プレストレストコンクリート床版1によれば、従来の配力鉄筋を配置しなくても、短繊維補強コンクリートのコンクリートに対する架橋効果が、押し抜きせん断により発生する剥離破壊に対して十分に抵抗して、所定の押し抜きせん断耐力が得られる。
【0085】
なお、プレストレストコンクリート床版1として、連続繊維補強材より線3により、ポストテンション方式で橋軸方向Xにプレストレスが導入されているものを例示したが、それに加え、連続繊維補強材により、
図1の橋軸直角方向Yにプレテンション方式でプレストレスを導入しても構わない。
【0086】
[第2実施形態]
次に、
図2を用いて、本発明の第2実施形態に係るコンクリート構造物として例示するコンクリート床版1’について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係るコンクリート床版1’を示す斜視図である。
【0087】
図2に示すように、コンクリート床版1’は、図のX方向を橋軸方向として、2本の主桁上に載置される版厚20〜35cm程度で主桁相互の支間長が、2.5m〜3.5m程度の版構造となった現場打ちのコンクリート床版である。
【0088】
(連続繊維補強材より線)
また、コンクリート床版1’は、引張力を主に負担して内部補強する主補強材(主引張補強材)として、前述の連続繊維補強材より線(図示せず)が配設されている。連続繊維補強材より線は、錆びることがないため、コンクリート被りを連続繊維補強材より線の付着性能を確保できる最小限被りでよいために従来よりも床版厚を薄くできる。また、連続繊維補強材より線の比重は鋼材の約1/5である。そのために、プレストレストコンクリート床版1’は、軽量化を達成することができる。
【0089】
なお、連続繊維補強材より線は、前述と同様であるため、詳細な説明を省略する。本実施形態に係る連続繊維補強材として、より線状(ストランド状)となった連続繊維補強材より線を例示したが、本発明に係る連続繊維補強材は、棒状(ロッド状)とすることもできる。但し、連続繊維補強材は、より線状となっていると一度に側線が全部破断するおそれが少ないため、棒状のものより破断するリスクが低減される。
【0090】
(短繊維補強コンクリート)
また、コンクリート床版1’では、前述のプレストレストコンクリート床版1と同様に、打設する(硬化前の)フレッシュコンクリートとして、短繊維補強材が一定割合混入された短繊維補強コンクリートを使用する。短繊維補強材をコンクリートに混入することで、前述の連続繊維補強材のダウエル効果を期待できないこと等による連続繊維補強材の力学的な欠点を補うことができるからである。つまり、短繊維補強材を混入することにより、コンクリート床版1’のせん断耐力低下を防止し、破壊モ−ドをせん断破壊モ−ドから靭性の高い曲げ破壊モ−ドに改善することができるからである。
【0091】
なお、打設するフレッシュコンクリートは、最大骨材径が13mm〜20mmの砂利、砕石などの粗骨材、砂、砕砂などの細骨材、セメント、水、フライアッシュや高炉スラグなどの混和材、AE減水剤や高性能減水剤などの混和剤から構成される通常配合のコンクリートである。
【0092】
また、コンクリートに混入する短繊維補強材の量は、短繊維補強材をコンクリート体積に対して体積比率で0.5%以上混入する。体積比率で0.5%以上混入としているのは、0.5%以上混入することで短繊維補強コンクリートとしての前述の所定の力学的性能を得ることができるためである。
【0093】
なお、体積混入率の上限は、2.0%〜2.5%程度であると考えられる。それ以上の短繊維補強材の混入量が増加すると、スランプなどのワ−カビリティ−が低下するとともに、ファイバ−・ボ−ルができるなどの不具合な現象が発生するからである。
【0094】
(短繊維補強材)
短繊維補強コンクリートに混入する短繊維補強材は、前述のプレストレストコンクリート床版1と同様に、有機材料から構成される有機繊維からなる短繊維である。本実施形態のコンクリート床版1’に用いる短繊維補強材は、ポリプロピレン繊維(PP繊維)の表面にエンボス加工を施すことによりコンクリートとの付着性能を向上させた短繊維を採用している。勿論、短繊維補強材は、ポリプロピレン繊維に限られず、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)、ポリエチレン繊維(PE繊維)などの他の有機繊維であっても構わない。
【0095】
また、コンクリート床版1’に用いる短繊維補強材は、有機繊維の断面積が0.19mm
2〜0.79mm
2となるものを使用している。有機繊維の断面積を規定している理由は、短繊維補強材が架橋する際の引張剛性を確保するためであり、断面積が0.19mm
2よりも小断面積であれば所定の引張剛性を得ることができないために、ひび割れ幅が増大して所定の補強効果を得ることができないからである。一方、の断面積が0.79mm
2よりも大断面積であれば、1本あたりについては所定の引張剛性を得ることができるが、短繊維補強材の本数が低減して所定の補強効果を得ることができないこととなる。
【0096】
以上説明した本発明の第2実施形態に係るコンクリート構造物であるコンクリート床版1’によれば、主補強材として連続繊維補強材より線を用いているので、主補強材が錆びて腐食することがなく、100年のオ−ダ−の超高耐久な床版とすることができるとともに、維持管理費を大幅に低減することができる。
【0097】
また、コンクリート床版1’によれば、従来の鉄筋やPC鋼より線と比較して遥かに超強度の引張強度特性を有し、比重が約1/5と軽量であるだけでなく、連続繊維補強材より線の付着を確保できるコンクリートの被りに低減することができる。このため、コンクリート床版1’によれば、床版全体の軽量化を達成することができ、下部構造体への負担軽減により耐震性も向上する。
【0098】
その上、コンクリート床版1’によれば、短繊維補強コンクリートを使用するため、短繊維補強コンクリート中の短繊維補強材のコンクリート中に発生する引張応力に対して短繊維による架橋効果が発生する。その結果、せん断断面力によりコンクリート床版中に発生する斜め引張応力に対する引張抵抗応力が増大して、コンクリート床版1’のせん断耐力が増大する。
【0099】
なお、連続繊維補強材を用いたコンクリート床版において、せん断耐力を増大させる従来の方法は、一般的には、せん断補強筋(スタ−ラップ)を配置する方法が実施されてきた。つまり、連続繊維補強材を適用したコンクリート床版の場合では、設計的に必要とされるせん断耐力まで向上させるためには、連続繊維補強材のスタ−ラップを配設する必要がある。しかし、連続繊維補強材によるスタ−ラップは、特殊な曲げ加工を伴うために加工費が高価になるばかりか、連続繊維補強材の主引張補強筋と交差するようにスタ−ラップを配置しなければならないので、配筋作業に多大な労力を要する。このために、せん断補強コストが必然的に高価となる。
【0100】
しかし、コンクリート床版1’によれば、短繊維補強コンクリートを用いるため、連続繊維補強材のスタ−ラップが必要なくなる。また、短繊維補強コンクリートは、コンクリート打設に必要な十分なワ−カビリティ−を確保できるので、従来のプレ−ン・コンクリートと同様な作業環境でコンクリート床版を製作できる。しかも、短繊維補強材の価格も安価であることから、大幅なコストダウンと作業の効率化を図ることができる。
【0101】
<曲げ載荷実験>
次に、
図3〜
図5を用いて、連続繊維補強材の課題を証明するための曲げ載荷実験について説明する。具体的には、連続繊維補強材を主補強材として適用したコンクリート床版と従来の鉄筋補強によるコンクリート床版の曲げ載荷比較実験について言及する。
図3は、曲げ載荷実験の載荷状況を示す実験概要図であり、
図4は、連続繊維補強材を主補強材として適用したコンクリート床版と従来の鉄筋補強によるコンクリート床版の曲げ載荷比較実験における荷重変位曲線を示すグラフである。また、
図5は、曲げ載荷実験により連続繊維補強材を主補強材として適用したコンクリート床版がせん断破壊した状況を示す写真である。
【0102】
二種類の異なる主引張補強材によるコンクリート床版の実験供試体を製作し、これら二つのコンクリート床版を対象として曲げ載荷実験を実施し、両者の力学挙動を比較した。その一つの供試体は、従来の鉄筋補強によるコンクリート床版(以下、RC床版と称する)であり、もう一つの供試体は、1本あたり、鉄筋補強材よりも大きな引張強度を有する連続繊維補強材を使用したコンクリート床版(以下、CFCC床版と称する)である。
【0103】
これらのコンクリート床版の供試体形状の外形寸法は、長さ×幅×厚み=2700×900×180mmである。鉄筋補強としては、異形鉄筋材質SD345のD19(下筋の芯被り45mm×5本)とD16(上筋の芯被り43mm×5本)を使用し、連続繊維補強材としてはストランド状の炭素繊維補強材(略称 CFCC:Carbon Fiber Composite Cabe)の直径φ15.2mmを上筋/下筋とも芯被り38mm×5本を使用した。曲げ載荷のスパン割状況を、
図3の概要図に示す。使用したコンクリートは通常の高強度コンクリートであり、圧縮強度は71N/mm
2(RC床版)と74N/mm
2(CFCC床版)であった。
【0104】
曲げ載荷実験時における載荷荷重と中央点変位の関係を、
図4に示す。両方のコンクリート床版の破壊荷重は、ほぼ同じで275kN弱であった。しかし、RC床版は、圧縮側コンクリートの圧壊による曲げ破壊モ−ドであり、一方、CFCC床版は、せん断区間に発生した斜めせん断ひび割れが拡大することによる、せん断破壊モ−ドであった。
【0105】
図5に、CFCC床版のせん断破壊した状況を示す。この写真から、CFCC床版は典型的なせん断破壊したことが明らかである。
図4に示す載荷荷重−変位関係の結果から、両者のコンクリート床版の力学的挙動を以下のように考察できる。
【0106】
1)
図3に示すようなコンクリート床版において、サイド・スパンが長い載荷条件下では、曲げの断面力がせん断の断面力よりも卓越し、通常の鉄筋配筋によるRC床版の配筋と版厚を考慮すると、曲げ破壊するのは当然である。RC床版のせん断抵抗は、主にコンクリートによるせん断抵抗と主鉄筋のダウエル効果によるものである。一方、CFCC床版の場合には、曲げの断面力に対しては、下側に配置したCFCCφ15.2により十分な引張抵抗性能を示すことができるために、曲げに対する抵抗性能はRC床版よりも同程度以上あるものと考えられる。また、CFCC床版のせん断抵抗に関しては、コンクリートによるせん断抵抗は考慮できるが、CFCCの材料特性である、CFCCのせん断剛性とせん断耐力が極端に小さいために、CFCCによるダウエル効果を期待することができない。その結果として、CFCC床版は曲げ破壊ではなく、せん断破壊したと考えられる。
【0107】
2)荷重変位曲線の曲げひび割れが発生する前の初期の立ち上がりは、コンクリート自身の曲げ剛性が寄与しているので、両者ともその勾配に相違はない。しかし、その後、コンクリート床版の曲げひび割れが発生した後に両者に大きな相違が生ずる。荷重が25kN〜100kNまでの両者の勾配を調べる。RC床版の勾配=74.5/2.0=37kN/mmであり、一方、CFCC床版の勾配=75.2/8.3=9kN/mmである。これより、RC床版とCFCC床版の勾配比率は、P/δ比=37/9=4.1であることがわかる。一方、RC床版の鉄筋弾性係数E
sと断面積A
s、及びCFCC床版のCFCC弾性係数E
fと断面積A
fのEA比率を計算すると、E
sA
s/E
fA
f=264.5/85.6=4.2となる。つまり、プレストレスを導入しないコンクリート床版の曲げ剛性(たわみ性能)は、理論的にも推察されるように、引張補強材の引張剛性EAに依存することがわかる。
【0108】
3)RC床版は、荷重200kN付近で勾配が緩やかになっている。これは鉄筋SD345が降伏点に達して、引張剛性が低下したことによる結果である。一方CFCC床板は、せん断破壊する荷重270kN付近までは直線的に荷重増加している。これは、CFCCが降伏点を持たないためである。鉄筋(鋼材)が降伏点を有して、伸び能力があることは、床版の曲げ挙動に対して曲げ靭性性能を提供する結果となり、一つの重要な性能である。一方、CFCCは降伏点を保有せず伸び能力が小さいので、鉄筋コンクリート床版の引張補強材として適用する場合には不利となることがわかる。
【0109】
4)両者の荷重−曲線において、RC床版の曲げ破壊後とCFCC床版のせん断破壊後の除荷履歴に注目する。CFCC床版は除荷後に僅かな残留変位であるが、RC床版は除荷後の残留変位が大きく残ることがわかる。たとえば、両者のコンクリート床版を正負の荷重交番繰り返し載荷を実施した場合には、その荷重履歴からCFCC床版は小さなヒステリシス・カ−ブとなり、RC床版は大きなヒステリシス・カ−ブとなる。つまり、CFCC床版(CFCCコンクリート構造物)は現状のような従来のコンクリートに引張材としてのCFCCを組み合わせたCFCC床版(CFCCコンクリート構造物)のままでは、ヒステリシス曲線が小さくなるので、例えば地震に遭遇するような構造物に引張補強材として連続繊維補強材を適用する場合には不利となる。
【0110】
(実施例1)
前述のRC床版とCFCC床版の曲げ載荷実験結果から、発明により解決しようとする課題が定量的に示された。実施例1では、基本となる短繊維補強コンクリートの配合選定を行い、曲げタフネス試験によりその特性を評価する。
図6は、曲げタフネス試験における載荷荷重と中央点の変位の関係を示すグラフである。
【0111】
本発明の重要ポイントは、連続繊維補強材のように錆びによる腐食することのない材料の組み合わせを使用して、超高耐久なコンクリート床版を提供することにある。したがって、短繊維補強材としては金属繊維を使用することは考えない。表1は、短繊維補強材としてエンボス加工をしたポリプロピレン繊維(PP繊維)を選定し、その短繊維の断面積Af(mm
2)、断面積を円換算した等価直径De(mm)、短繊維の長さLf(mm)、コンクリートに混入する短繊維の容積混入率Vf(%)などの要因を組み合わせて、有効と考えられる短繊維補強材の形状パラメータなどの水準を示したものである。供試体番号のつけ方は、短繊維の容積混入率Vfが0.5%の供試体をG1−*とし、1.0%の供試体をG2−*とした。また、形状の異なるPP繊維を組み合わせて合計の容積混入率Vfが1.0%のものは、G3−*とした。
【0112】
PP繊維を混入する前のプレ−ン・コンクリートの配合とスランプは以下の通りである。水/バインダ−比=W/B=35〜37%、砂/骨材比=s/A=49〜51%、最大骨材径Gm=13mmと20mm、単位バインダ−量B=432〜471kgf/m
3、スランプ=21〜23cmであった。
【0113】
また、短繊維補強材を混入後のスランプ=12〜22cm、圧縮強度=68〜85N/mm
2 、平均圧縮強度=74N/mm
2であった。
【0116】
曲げタフネス試験は、土木学会基準の「鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度及び曲げタフネス試験方法」(JSCE−G 552−1999)に従って実施した。具体的には、10×10×40cmの四角柱供試体に対して3等分点荷重で載荷を行い、中央点のたわみと載荷荷重を計測する試験方法である。表1に曲げタフネス試験の供試体番号に対応した短繊維の容積混入率Vfと形状パラメータの組合せを示す。また、表2に曲げタフネス試験結果を示す。ここで、曲げタフネスとは、供試体中央点の変位が2mmまでの曲げタフネス曲線の面積であり、換算曲げ強度とはこれを曲げ強度に換算した値を示している。また、曲げ強度とは、曲げタフネス曲線の最初のピーク時の値を曲げ強度に換算した値である。
【0117】
図6に代表的な供試体の曲げタフネス試験の結果を、載荷荷重と中央点の変位の関係により示す。
図6の結果は、短繊維の容積混入率Vfが0.5%の場合(G1グループ)と1.0%の場合(G2、G3グループ)の、代表的な形状パラメータに対する試験結果であるが、全体の共通した挙動は、以下のように説明することができる。曲げタフネス曲線は、載荷荷重の初期段階においては、中央点のたわみに対して曲げ応力が直線的に増加し、その後、急激に曲げ応力が低下する挙動が存在する。この挙動を示すゾ−ンを「第一ゾ−ン」と称する。また、最初のピ−クを「第一ピ−ク」と称する。
【0118】
その後、曲げ応力は再度、上昇する傾向にある。その上昇の程度は、最初の第一ピ−クに比べて大きくなる場合と、そうでない場合がある。上昇した曲げ応力は、中央点のたわみが増加するに伴い、再び緩やかに低下する傾向にある。この挙動を示すゾ−ンを「第二ゾ−ン」と称する。また、二番目のピ−クを「第二ピ−ク」と称する。
【0119】
なお、短繊維補強のないプレ−ン・コンクリートでは、第二ゾ−ンは存在せず、第一ピ−ク以降は瞬時に曲げ破壊する。そして、第一ゾ−ンにおいて、初期段階の荷重上昇に伴い中央点のたわみが直線的に増加する挙動過程では、供試体にはひび割れが発生しておらず、弾性的挙動と考えられる。また、第一ピ−クを境に、曲げ応力が低下するが、これは供試体の中央付近の下端に曲げひび割れが発生したために、曲げ抵抗が急激に低下したものと考えられる。
【0120】
第一ピ−ク以降に曲げ抵抗が急激に低下するのは、供試体の下端に曲げひび割れが発生するためであるが、その後、再び曲げ抵抗が増加する挙動が見られる。これは、ひび割れが発生したひび割れ面の境界相互に架橋した短繊維が引張力を負担したことによる挙動である。また、第一ピ−ク以降の曲げ応力の低下の程度は、短繊維とコンクリートの相互付着が維持されて、短繊維の引張剛性が高く、短繊維の混入量(短繊維の本数)が多くなるほど、低下量が小さくなる傾向を示す。
【0121】
また、第二ゾ−ンにおいて、曲げ応力は再度、上昇する傾向にある。その上昇した第二ピ−クは、第一ピ−クに比べて大きくなる場合と、そうでない場合がある。このように曲げ応力が上昇するのは、ひび割れ面の相互に架橋した短繊維が引張力を負担するためである。
【0122】
そして、第二ピ−クを超えて、中央点のたわみが増加するに伴い、曲げ応力は再び緩やかに低下する傾向を示す。この挙動は、架橋している短繊維が切れるか、あるいは短繊維とコンクリートとの間の付着が徐々に低下して抜け出すために起きる現象であると考えられる。
【0123】
表2及び
図6の結果から、曲げタフネスの性能は、短繊維の容積混入率Vfに依存していることがわかる。短繊維の容積混入率Vfが増大すれば曲げタフネス性能が向上することは一般的に知られている。表2の結果から、短繊維の容積混入率Vfが0.5%の曲げタフネスの平均値は17.9kN・mmであり、1.0%の場合の平均値が31.9kN・mmであった。これに対して、供試体番号G2−10の曲げタフネスの結果は、平均値から外れているといえる。これは、形状パラメータのLf/Gm=0.9が影響しているものと考えられる。
【0124】
一方、供試体番号G2−10以外の表2に示した曲げタフネスや換算曲げ強度は、短繊維補強コンクリートとしての良好な靭性特性を示していて、いずれも評価できる数値である。また表2に示した曲げ強度は、第一ピ−クの荷重から求めたものである。これらの曲げ強度は、プレ−ン・コンクリートの曲げ強度5.0N/mm
2よりも大きく、本発明の初期曲げひび割れ発生強度の向上にも寄与していることを示している。
【0125】
(実施例2)
実施例2は、連続繊維補強材のコンクリート床版に短繊維補強材コンクリートを適用した場合に、本発明で考案したような構造的パフォ−マンスを示すことができるかどうかを証明するための、構造実験を示すものである。
図7は、連続繊維補強材のコンクリート床版に短繊維補強材コンクリートを適用した場合の構造実験の概要を示す実験概要図である。
【0126】
構造実験に使用した供試体は、
図7に示すように断面が200×200mmで、長さ1400mmの小型の梁である。比較するための主引張補強材としては、鉄筋SD290のD16とD19とした。これに対して、連続繊維補強材としては、炭素繊維補強材であるCFCCの直径φ15.2mm、およびアラミド繊維補強材であるTFの直径φ15.7mmを適用して双方の比較を行った。これらの主引張補強材は、
図7に示すように、コンクリート被り20mmを確保して、それぞれ4本配置した。一方、供試体のコンクリートは、短繊維補強材の混入がないプレ−ン・コンクリート、及びこれに短繊維補強材のPP繊維(断面積A
f=0.19mm
2と0.39mm
2、等価直径De=0.5mmと0.7mm、長さLf=30mm、容積混入率Vf=0.5%と1.0%)のパラメ−タを変化させて実施した。
【0127】
小型供試体梁の材料組み合わせを、表3に示す。これらの供試体に使用したプレ−ン・コンクリートの配合と短繊維補強材混入前後のスランプ、圧縮強度は以下の通りである。
【0128】
プレ−ン・コンクリート:水/バインダ−比=W/B=37%、砂/骨材比=s/A=41%(短繊維補の混入なし)=50%(短繊維補の混入あり)、最大骨材径Gm=13mm、単位セメント量C=384kgf/m
3、スランプ=16.5cm(短繊維補の混入なし)=13〜17.5cm(短繊維補の混入あり)、圧縮強度=70N/mm
2 (短繊維補の混入なし)=65N/mm
2(短繊維補の混入あり)であった。また、短繊維補強材を混入後のスランプ=10〜15.5cmであった。
【0129】
なお、この載荷実験では、
図7に示すように、サイド・スパン長(=a)と有効高さ(=d)との比(a/d=1.7)が小さいことがわかる。この比は、deep beamのゾ−ンにあることを示し、せん断耐力が通常よりも大きくなり、せん断破壊モ−ドで破壊しにくい傾向にある。
【0130】
表3に示すように比較材料の組み合わせで作成した小型梁供試体の載荷実験により得られた、荷重−変位曲線を
図8に示す。
図8は、小型梁供試体の載荷実験の荷重−変位曲線を示すグラフである。ここで、供試体の名称について説明する。引張補強材として、鉄筋D16とD19を適用した供試体は、RebarD16−Non fiberとRebarD19−Non fiberである。引張補強材として、炭素繊維補強材とアラミド繊維補強材を使用した場合は、それぞれCFCCφ15.2とTFφ15.7と示している。短繊維補強なしの場合と短繊維補の容積混入率Vfが無の場合、0.5%の場合、1.0%の場合で、それぞれNon fiber、0.5%、1.0%と示している。また短繊維補強材の断面積Afについては、0.19と0.39と示している。
【0132】
図8に示した、D19とD16の異形鉄筋配筋の供試体(名称:(8)RebarD19−Non fiber、(7)RebarD16−Non fiber)の荷重−変位関係は、典型的なRC梁としての力学的挙動を示している。つまり、初期の曲げひび割れ発生後、鉄筋の引張剛性を保持しながら、また引張鉄筋に沿った引張ゾ−ンのコンクリートには曲げひび割れを進展しながら、鉄筋の降伏点まで緩やかな曲線を示している。引張鉄筋が降伏点に達したら(D16鉄筋では、荷重165kN、D19鉄筋では、荷重260kN)、鉄筋の降伏棚の引張剛性に対応して荷重変位勾配が緩やかになる。
【0133】
一方、短繊維の混入のない炭素繊維補強(CFCC)とアラミド繊維補強(TF)の供試体((1)CFCCφ15.2−Non fiberと(5)TFφ15.7−Non fiber)の場合は、初期曲げひび割れが発生後、緩やかな荷重変位の曲線となる。鉄筋配筋と炭素繊維補強とアラミド繊維補強の場合で、この緩やかな曲線勾配の相違については、
図4のコンクリート床版の曲げ載荷実験で記述した説明内容と同じであり、鉄筋の供試体と炭素繊維の供試体とアラミド繊維の供試体の勾配比率は、鉄筋と炭素繊維とアラミド繊維の引張剛性(それぞれの材料の弾性係数×断面積)の比率になっている。供試体番号(8)、(7)、(1)、(5)の引張剛性を計算すると、それぞれ60,300kN、41,800kN、35,800kN、26,500kNとなり、比率で示すと、(8):(7):(1):(5)=100:69:59:44となり、
図8の曲線勾配比率の結果と一致する。
【0134】
また、炭素繊維やアラミド繊維は降伏点を有さないために、降伏棚に相当する荷重−変位の変化点が存在しない。炭素繊維補強の供試体((1)CFCCφ15.2−Non fiber)は荷重244kN付近で、またアラミド繊維補強の供試体((5)TFφ15−Non fiber)は荷重205kN付近で圧縮側のコンクリートが圧壊して、それ以降の荷重保持する挙動は示さなかった。
【0135】
一方、炭素繊維補強にPP繊維混入した供試体((2)CFCCφ15.2−0.19−1.0%、(3)CFCCφ15.2−0.19−0.5%、(4)CFCCφ15.2−0.39−1.0%)及びアラミド繊維補強にPP繊維混入した供試体((6)TFφ15.7−0.19−1.0%)については、曲げひび割れ以降の緩やかな曲線については、PP繊維混入のない炭素繊維補強(CFCC)とアラミド繊維補強(TF)の供試体((1)CFCCφ15.2−Non fiberと(5)TFφ15.7−Non fiber)の場合と類似しているが、PP繊維混入コンクリートの場合は、いずれも緩やかな曲線がPP繊維混入のない場合よりも上にあり、曲げ引張側の抵抗が、PP繊維の架橋効果により増大していることを証明している。PP繊維混入が、上記で示した曲げ引張側の抵抗増大に寄与していることは、曲げの最大荷重(表3参照)の相違でも示される。PP繊維混入のない炭素繊維補強(CFCC)とアラミド繊維補強(TF)のそれぞれの最大荷重が244kNと206kNに対して、PP繊維を混入した場合の最大荷重は、炭素繊維補強の場合で平均23%増加し、またアラミド繊維補強の場合で平均34%増加した。これは、曲げ断面力による引張力を主に炭素繊維あるいはアラミド繊維が負担しているが、PP繊維を混入することによるPP繊維の架橋効果により、短繊維補強コンクリート自身も引張力を負担していることを示している。
【0136】
さらに、炭素繊維補強の場合で、PP繊維混入なし((1)CFCCφ15.2−Non fiber)の最大変位に対して、PP繊維混入((2)CFCCφ15.2−0.19−1.0%、(3)CFCCφ15.2−0.19−0.5%)の最大変位は、それぞれ188%、196%に増大している。(表3参照)また、アラミド繊維補強の場合では、PP繊維混入なし((5)TFφ15.7−Non fiber)の最大変位に対して、PP繊維混入((6)TFφ15.7−0.19−1.0%)の最大変位は、241%に増大している。(表3参照)これは、鉄筋補強供試体((7)Rebar D16−Non fiber、(8)Rebar D19−Non fiber)の最大変位の1.8〜5.9倍の変形能力を示している。(表3参照)つまり、炭素繊維やアラミド繊維などの連続繊維補強材を主補強材として配筋したコンクリート梁に対してPP繊維を混入することにより、鉄筋コンクリート梁以上の曲げ靭性を付与することができた。
【0137】
なお、PP繊維混入した供試体名称の(4)CFCCφ15.2−0.39−1.0%については、最大荷重が32%増大する結果が得られたが、変位の増大に関しては126%の増大に留まった。その理由の一つとして、曲げタフネス試験結果において(
図6参照)、供試体番号G2−12(梁供試体:(4)CFCCφ15.2−0.39−1.0%に適用したPP繊維)はG2−3(梁供試体:(2)CFCCφ15.2−0.19−1.0%、及び(6)TFφ15.7−0.19−1.0%に適用したPP繊維)に比較して変位0.75mm程度で荷重がピ−クとなり、その後、荷重が低下する。一方、供試体番号G2−3は変位0.75mm以降においても荷重が増大していることから、梁の曲げひずみが大きなゾ−ンでPP繊維のテンション・スティフニング効果が働いていることがわかる。しかし、梁の供試体名称の(4)CFCCφ15.2−0.39−1.0%については、初期曲げひび割れの発生以降の曲げ剛性は高く、また最大荷重の増大率も高いことから、PP繊維混入の効果は認められる。
【0138】
(実施例3)
実施例3の内容は、以下の通りである。実施例2までに得られた材料(連続繊維補強材+短繊維補強コンクリート)を適用した構造体の構造性能の基本的な知見をもとに、実際の標準的な道路橋コンクリート床版の設計条件下で、2017年発行の道路橋示方書に従って試設計を実施した。そして、その試設計で得られた構造に基づき曲げ載荷実験の供試体を作成し、載荷実験を実施して、コンクリート床版としての構造性能を評価した。実験供試体は、試設計の結果に基づいて作成されたもので、従来からの材料である鋼材を使用したコンクリート床版との比較で、その構造性能を比較・評価する。
【0139】
曲げ載荷実験に使用した実験供試体は、長さ×幅×厚み=2700×840×220mmである。供試体の長手方向(実橋では橋軸方向に相当)には、ポストテンションによるプレストレス(有効プレストレス応力=4.05N/mm
2)を導入した。
【0141】
3種類の実験供試体を表4に示す。その1は、従来のPC鋼より線(φ17.8)を緊張材として適用し、短繊維補強材を混入しない、従来のコンクリートを適用した供試体(名称:鋼PC目地有)である。ここで「目地」とは、コンクリート床版を接合する構造で、橋軸方向にポストテンション構造であるために、接合部の目地幅30mmを設け、その隙間に無収縮モルタルを充填し、強度発現後に橋軸方向にプレストレスを導入して、コンクリート床版を一体化する構造である。
【0142】
その2の供試体(名称:CFCC目地有)は、緊張材としてCFCC(φ17.2)を使用し、コンクリートとしてPP繊維補強コンクリート(PP繊維:断面積A
f= 0.19mm
2、等価直径De=0.5mm、長さLf=30mm、容積混入率Vf=0.5%)を適用し、接合目地を有する供試体である。
【0143】
その3の供試体(名称:CFCC目地無)は、前記の供試体と同様の材料を使用しているが、接合目地がない一体構造のCFCCコンクリート床版を想定した供試体である。
【0144】
表4に示す、供試体に使用したプレ−ン・コンクリートの配合と短繊維補強材混入前後のスランプ、圧縮強度は以下の通りである。
【0145】
プレ−ン・コンクリート:水/バインダ−比=W/B=35%、砂/骨材比=s/A=41%(短繊維補の混入なし)=50%(短繊維補の混入あり)、最大骨材径Gm=20mm、単位セメント量C=471kgf/m
3、スランプ=16.5cm(短繊維補の混入なし)=15cm(短繊維補の混入あり)、圧縮強度=57.2N/mm
2 (短繊維の混入なし)=73.4N/mm
2(短繊維補の混入あり)であった。また、短繊維補強材を混入後のスランプ=11cm であった。
【0146】
緊張材(PC鋼より線、CFCC緊張材)と配力筋の断面図を
図9に示す。この断面図での注目点は、CFCC緊張材の床版には、配力鉄筋が配置されていないことである。これは、コンクリート中に混入されたPP繊維が配力鉄筋の役割を担っているからと考えているためである。
【0147】
載荷実験のスパン割は、
図3と同じであり、サイド・スパン700mm、センタ−・スパン900mmの4点曲げ載荷である。なお、この実験では、静的曲げ載荷による破壊状態を確認する前に、設計荷重により定点疲労載荷試験を行った。疲労回数は200万回で、定点疲労載荷後に、静的曲げ載荷を実施して終局の抵抗曲げモ−メントを求めた。
【0148】
定点疲労載荷実験では、設計曲げモ−メントより求めた載荷荷重P=55.9kNにより疲労回数を200万回の疲労載荷の結果、いずれの供試体にも曲げによる初期クラックは認められなかった。また、中央点の変位も大きな変動を認められなかった。定点疲労載荷実験の後、直ちに静的曲げ載荷実験を実施した。
図10は、静的曲げ載荷実験の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【0149】
図10に示すように、3つの供試体の荷重−変位曲線は、プレストレス・コンクリート構造物としての特有の構造性能を示しているものと考えられる。つまり、3供試体ともに有効プレストレスは同じであり、プレストレスによる圧縮応力がゼロになるまで、さらに、床版下端がコンクリートの初期曲げひび割れ発生応力になるまでは、床版は全断面有効に働き、その曲げ剛性は、荷重に対してリニアである。その限界荷重が、約200kNであると考えられる。
図10を詳細にみると、CFCC床版は鋼PC床版に比較して、初期曲げ剛性が若干高く、また初期クラックが発生する荷重も若干高めである。これは、PP繊維補強コンクリートの効果であると考えられる。
【0150】
荷重が200kNを超過すると、3供試体の曲げ剛性は低下する。CFCC床版と鋼PC床版は、ほぼ同等の曲げ剛性で、コンクリート床版の上面コンクリートが圧壊するまで、荷重を増加することができる。ここで、特記すべき点は、初期ひび割れ発生後の挙動として、プレストレスト構造でない場合では、
図8に示すように、CFCC+PP繊維補強床版は鉄筋補強床版に比較して、曲げ剛性が約1/4に低下するところであるが、
図10は両者ともほぼ同等の曲げ剛性を示している。これは、プレストレスを導入していることと、PP繊維補強コンクリートのテンション・スティフニングの影響であると考えられる。
【0151】
実施例3でさらに特記すべき点は、CFCC供試体には、メインの緊張補強材CFCC以外に、配力筋やひび割れ分散筋が配置されていないことである。従来のPC鋼より線で緊張する床版では、構造細目で配力鉄筋を配置することになっている。しかし、CFCC床版では、PP繊維コンクリートを使用することにより、CFCCによる主緊張材のみで、配力筋の設置が必要ない。そして、曲げに対しては、PC鋼より線と同等以上の構造性能を示すことが証明された。
【0152】
(実施例4)
実施例4は、コンクリート道路床版で最も重要な構造性能として、道路橋示方書にも記述されている、走行する輪荷重に対する、床版の疲労耐久性を十分に保有することを証明した実施例である。現在、道路橋コンクリート床版として、新材料を採用し、あるいは新たな構造形式を適用したコンクリート床版を実際の現場に適用する場合には、疲労耐久性能を確認するため、定められたル−ルのもとに輪荷重走行疲労試験をクリアすることが要求されている。
【0153】
これまでの輪荷重走行疲労試験によるコンクリート床版の破壊モ−ドや、実際のコンクリート道路床版の破壊モ−ドを調査した結果、疲労破壊はコンクリート押抜きせん断破壊モ−ドが支配的であることが知られている。つまり、輪荷重走行疲労試験を実施する前に、コンクリート床版の押抜きせん断性能を確認することにより、多くの場合、事前の性能確認になると考えられている。
【0154】
実施例4では、本発明のコンクリート床版と従来の鋼PC床版との比較により、同等以上の押抜きせん断抵抗性能を有することを示すものである。
【0155】
図11は、押抜きせん断載荷実験の供試体を示す平面図である。
図11に示すように、供試体の形状寸法は、橋軸方向(ポストテンション緊張方向)に2,000mm、橋軸直角方向(プレテンション緊張方向)に4,200mmとし、床版厚みを220mmとした。また、押抜きせん断載荷は、点載荷ではなく
図11に示すようなトラックの接地面積を想定した幅500×長さ200mmの矩形形状の面載荷である。実施例3までの構造実験では、2次元実験で構造性能を評価できたが、押抜きせん断実験では、厚み方向のほかに橋軸方向と橋軸直角方向にも実際の緊張状態や配力鉄筋の配置を再現する3次元実験となる。
【0157】
3種類の実験供試体を表5に示す。その1は、従来のPC鋼より線(橋軸方向にはφ17.8@210に配置し、橋軸直角方向にはφ15.2、N=18本を配置)を緊張材として適用し、短繊維補強材を混入しない、従来のコンクリートを適用した供試体(名称:鋼PC目地有)である。また、配力鉄筋として鉄筋D13@200で橋軸方向と橋軸直角方向の上下にそれぞれ配置している。ここで「目地」とは、コンクリート床版を接合する構造で、橋軸方向にポストテンション構造であるために、接合部の目地幅30mmを設け、その隙間に無収縮モルタルを充填し、強度発現後に橋軸方向にプレストレスを導入して、コンクリート床版を一体化する構造である。
【0158】
その2の供試体(名称:CFCC目地有)は、緊張材としてCFCC(橋軸方向にはφ17.2@210に配置し、橋軸直角方向にはφ15.2、N=20本を配置)を緊張材として適用し、コンクリートとしてPP繊維補強コンクリート(PP繊維:断面積Af=0.19mm
2、長さLf=30mm、容積混入率Vf=0.5%)を適用し、接合目地を有する供試体である。また、CFCCコンクリート床版には、配力筋を配置せず、配力筋の役割をPP繊維補強コンクリートに代替させている。
【0159】
その3の供試体(名称:CFCC目地無)は、前記その2の供試体と同様の材料を使用しているが、接合目地がない一体構造のコンクリート床版を想定した供試体である。
【0160】
表5に示す、供試体に使用したプレ−ン・コンクリートの配合は以下の通りである。
【0161】
プレ−ン・コンクリート:水/バインダ−比=W/B=35%、砂/骨材比=s/A=41%(短繊維の混入なし)=50%(短繊維の混入あり)、最大骨材径Gm=20mm、単位セメント量C=471kgf/m
3、スランプ=16.5cm(短繊維の混入なし)=14cm(短繊維の混入あり)、圧縮強度=64.1N/mm
2 (短繊維の混入なし)=87.9N/mm
2(短繊維の混入あり)であった。
【0162】
図12は、押抜きせん断実験の荷重−変位関係を示すグラフである。
図12から明らかなように、従来の押抜きせん断耐力式に基づき評価・設計された、PC鋼より線と配力鉄筋の組合せによるコンクリート床版と比較して、本発明によるCFCC緊張材とPP繊維補強コンクリートで、しかも配力鉄筋を配置していないコンクリート床版が同等以上の性能を示していることが証明された。
【0163】
また、2017年発行の道路橋示方書に基づき設計された3つの供試体の押抜きせん断実験の最大耐力は、道路橋示方書により計算される押抜きせん断耐力の特性値の約2倍の耐力があることが証明された。
【0164】
ここで、これまでの実施例から判明したことを踏まえて、押抜きせん断実験の結果についての考察を示す。まず、押抜きせん断抵抗に大きく寄与するのは、コンクリート自身のせん断耐力である。コンクリートのせん断耐力は、突き詰めればコンクリートのずれせん断強度と斜めに発生する引張強度であるが、設計ではコンクリートの圧縮強度の関数として示される。次に重要な要因は、補強材(PC鋼より線、配力鉄筋やCFCC緊張材など)のダウエル効果である。また、プレストレスによるコンクリートに導入された圧縮応力も押抜きせん断の斜めひび割れに抵抗するので、重要な要因である。
【0165】
実施例4の実験結果を、これらの影響要因で整理すると、まず、CFCC緊張材によるダウエル効果は、ほとんど期待できない。それは、連続繊維補強材が線材として有する、せん断剛性やせん断耐力が極端に小さいためである。
【0166】
これらの事実を考慮すると、本発明による連続繊維補強材と有機短繊維補強材の混入コンクリートは、連続繊維補強材のゼロのダウエル効果と配力鉄筋によるダウエル効果までカバ−するように、混入された短繊維補強材の架橋効果によりコンクリート自身のせん断抵抗能力を向上させたものと考えられる。つまり、コンクリートに発生する斜めひび割れに抵抗する短繊維補強材の存在が有効に機能したものと考えられる。
【0167】
以上、本発明の第1及び第2実施形態に係るコンクリート構造物であるプレストレストコンクリート床版1、コンクリート床版1’及び実施例1〜5について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。特に、コンクリート構造物としてコンクリート床版を例示して説明したが、コンクリート床版に限られず、その他のコンクリート構造物であっても本発明を適用することができる。
【課題】連続繊維補強材を主補強材又は緊張材とするとともに、短繊維補強材をコンクリートに混入することにより、連続繊維補強材の力学的な欠点を補って錆びるとのない連続繊維補強材の優れた特性を活かした製造コストが安く超高耐久なコンクリート構造物及びコンクリート床版を提供する。
【解決手段】連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設されたコンクリート構造物において、有機繊維からなる短繊維補強材を全体の体積に対して0.5%以上混入し、前記連続繊維補強材を、棒状又はより線状とし、前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmを、1.2〜3.7とし、且つ、有機繊維の断面積を、円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deを、30〜69とする。