特許第6688454号(P6688454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688454
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】合成繊維、繊維処理剤、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/148 20060101AFI20200421BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20200421BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20200421BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20200421BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20200421BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20200421BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   D06M13/148
   D06M15/53
   D06M13/224
   D06M13/165
   D04H1/541
   A61F13/15 144
   A61F13/511 200
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-106097(P2018-106097)
(22)【出願日】2018年6月1日
(65)【公開番号】特開2019-210561(P2019-210561A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年2月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】地蔵堂 真一
(72)【発明者】
【氏名】野口 修司
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−275017(JP,A)
【文献】 特開2017−14135(JP,A)
【文献】 特開2012−1458(JP,A)
【文献】 特開2017−81907(JP,A)
【文献】 特開2012−57275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
D04H1/00−18/04
A61F13/15−13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維処理剤が繊維表面に付着している合成繊維であって、
繊維処理剤が、
(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物
を含み、成分(a)及び(b)の合計質量が繊維処理剤全体に対し40質量%以上であり、成分(a)の質量が成分(a)及び(b)の合計質量に対し33〜99.5質量%である、
合成繊維。
【請求項2】
MELが、マンノシルエリスリトールリピッドA(MEL−A)、マンノシルエリスリトールリピッドB(MEL−B)、マンノシルエリスリトールリピッドC(MEL−C)、マンノシルエリスリトールリピッドD(MEL−D)、MEL−Aのトリアシル体、MEL−Bのトリアシル体、MEL−Cのトリアシル体、及びMEL−Dのトリアシル体からなる群から選択される1種以上である、請求項に記載の合成繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合成繊維を50質量%以上含有する、繊維集合物。
【請求項4】
皮膚接触用製品であって、該製品の皮膚接触部において請求項に記載の繊維集合物を含み、該繊維集合物が不織布である、皮膚接触用製品。
【請求項5】
皮膚接触用製品が衛生用品である、請求項に記載の皮膚接触用製品。
【請求項6】
(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物
を含み、成分(a)及び(b)の合計質量に対し、成分(a)を33〜99.5質量%含み、成分(a)及び(b)の合計質量が繊維処理剤全体に対し40質量%以上である、繊維処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
合成繊維、繊維処理剤、及びその利用に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
天然繊維と比較して合成繊維は機械的特性、耐薬品性等に優れているため、主に不織布の形態で、ワイパー、ウェットティッシュ、フェイスマスクなどの液体含浸シート、化粧用・医療用貼付剤、紙おむつ・生理用ナプキン等各種衛生用品のトップシートなどとして利用されている。
【0003】
しかし、合成繊維、特にポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂を含む合成繊維(ポリオレフィン系繊維と称することがある)は、天然繊維であるコットン及びセルロース系繊維であるレーヨンと比較して、親水性が低く、疎水性である。そのため、上記の液体含浸シートや衛生用品用トップシートとして合成繊維を利用する際には合成繊維の親水性を向上させる必要がある。合成繊維の親水性を向上する方法としては、種々の方法が報告されており、その一つは乳酸塩を含む繊維処理剤で繊維を処理し、繊維表面に(ポリ)グリセリンを付着させる方法である(特許文献1)。
【0004】
また、化粧用・医療用貼付剤、衛生用品用トップシート等では皮膚と接触する部分における皮膚の乾燥を緩和するため、保湿性が要求されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−57275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の合成繊維の特性を改善した合成繊維及びそのための繊維処理剤を提供することが1つの課題である。例えば、親水性の改善した合成繊維、保湿性の改善した合成繊維、そのための繊維処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、繊維処理剤においてグリセリン化合物とマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を使用し、この繊維処理剤で合成繊維を処理することによって合成繊維に保湿性、親水性等を付与できることを見出した。また、乳酸塩を実質的に含まない繊維処理剤にサーファクチン、ソホロリピッド、ラムノリピッド、MELなどのリポペプチド構造を有する界面活性剤を配合することによって繊維処理剤の親水性付与作用が大きく低下すると示唆されていたところ(特許文献1比較例11〜16)、グリセリン化合物を含む繊維処理剤にMELを配合することによって繊維処理剤が乳酸塩を実質的に含まなくても繊維処理剤の親水性付与作用が向上することを見出した。本発明者らは下記に代表される発明を完成させた。
【0008】
項1.
(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物
が繊維表面に付着している合成繊維。
項2.
成分(a)及び(b)の繊維付着量が、合成繊維質量に対し、各々、0.05〜10質量%及び0.01〜1質量%である、項1に記載の合成繊維。
項3.
MELが、マンノシルエリスリトールリピッドA(MEL−A)、マンノシルエリスリトールリピッドB(MEL−B)、マンノシルエリスリトールリピッドC(MEL−C)、マンノシルエリスリトールリピッドD(MEL−D)、MEL−Aのトリアシル体、MEL−Bのトリアシル体、MEL−Cのトリアシル体、及びMEL−Dのトリアシル体からなる群から選択される1種以上である、項1又は2に記載の合成繊維。
項4.
繊維処理剤が繊維表面に付着している合成繊維であって、
繊維処理剤が、
(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物
を含み、成分(a)及び(b)の合計質量が繊維処理剤全体に対し40質量%以上であり、成分(a)の質量が成分(a)及び(b)の合計質量に対し33〜99.5質量%である、
合成繊維。
項5.
MELが、マンノシルエリスリトールリピッドA(MEL−A)、マンノシルエリスリトールリピッドB(MEL−B)、マンノシルエリスリトールリピッドC(MEL−C)、マンノシルエリスリトールリピッドD(MEL−D)、MEL−Aのトリアシル体、MEL−Bのトリアシル体、MEL−Cのトリアシル体、及びMEL−Dのトリアシル体からなる群から選択される1種以上である、項4に記載の合成繊維。
項6.
項1〜5のいずれかに記載の合成繊維を50質量%以上含有する、繊維集合物。
項7.
皮膚接触用製品であって、該製品の皮膚接触部において項6に記載の繊維集合物を含み、該繊維集合物が不織布である、皮膚接触用製品。
項8.
皮膚接触用製品が衛生用品である、項7に記載の皮膚接触用製品。
項9.
(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物
を含み、成分(a)及び(b)の合計質量に対し、成分(a)を33〜99.5質量%含む、繊維処理剤。
項10.
成分(a)及び(b)の合計質量が繊維処理剤の40質量%以上である、項9に記載の繊維処理剤。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態において、親水性に優れた合成繊維が提供される。一実施形態において、保湿性を備えた合成繊維が提供される。一実施形態において、合成繊維に親水性を付与できる繊維処理剤が提供される。一実施形態において、合成繊維に親水性及び保湿性を付与できる繊維処理剤が提供される。一実施形態において、親水性付与作用がMELによって強化された繊維処理剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上述の代表的な発明を中心に説明する。
【0011】
合成繊維は、前記の成分(a)及び(b)がその繊維表面に付着している。成分(a)はマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)である。成分(b)は(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物である。
【0012】
(成分(a);MEL)
MELの構造を一般式(1)に示す。
【0013】
【化1】
【0014】
(一般式(1)中、置換基Rは、同一でも異なっていてもよい炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、置換基R及びRは、同一でも異なっていてもよいアセチル基又は水素原子である)
【0015】
一般式(1)中、置換基Rは、同一でも異なっていてもよい炭素数2〜24、好ましくは2〜20又は4〜24、より好ましくは炭素数4〜18、さらに好ましくは炭素数6〜14の脂肪族アシル基である。
【0016】
MELは、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無に基づいて、マンノシルエリスリトールリピッドA(MEL−A)、マンノシルエリスリトールリピッドB(MEL−B)、マンノシルエリスリトールリピッドC(MEL−C)、及びマンノシルエリスリトールリピッドD(MEL−D)の4種類に分類される。
【0017】
MEL−Aは、一般式(1)中、置換基R及びRがともにアセチル基である。MEL−Bは、一般式(1)中、置換基Rはアセチル基であり、置換基Rは水素原子である。MEL−Cは、一般式(1)中、置換基Rが水素原子であり、置換基Rはアセチル基である。MEL−Dは、一般式(1)中、置換基R及びRがともに水素原子である。
【0018】
上記MEL−A〜MEL−Dにおける置換基Rの炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類であるトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数、及び、使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度によって変化する。また、上記、トリグリセリドが不飽和脂肪酸残基を有する場合、MEL生産菌が上記不飽和脂肪酸の二重結合部分まで資化しなければ、置換基Rとして不飽和脂肪酸残基を含ませることも可能である。以上の説明から明らかなように、得られるMELは、通常、置換基Rの脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0019】
(MELのトリアシル体)
MELのトリアシル体、すなわちトリアシルマンノシルエリスリトールリピッド(トリアシルMELと称することがある)の構造を、一般式(2)又は(3)に示す。
【0020】
【化2】
【0021】
【化3】
【0022】
(一般式(2)及び(3)中、置換基Rは、同一でも異なっていてもよい炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、置換基Rは、同一でも異なっていてもよいアセチル基又は水素原子であり、置換基Rは、同一でも異なっていてもよい炭素数2〜24の脂肪族アシル基である)
【0023】
一般式(2)及び(3)中、置換基Rは同一でも異なっていてもよい炭素数2〜24、好ましくは2〜20又は4〜24、より好ましくは炭素数4〜18、さらに好ましくは炭素数6〜14の脂肪族アシル基であり、置換基Rは同一でも異なっていてもよい水素原子又はアセチル基であり、置換基Rは炭素数2〜24、好ましくは2〜20又は4〜24、より好ましくは炭素数4〜18、さらに好ましくは炭素数6〜14の脂肪族アシル基である。
【0024】
トリアシルMELもMELと同様、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無に基づいて、トリアシルMEL−A、トリアシルMEL−B、トリアシルMEL−C、及びトリアシルMEL−Dの4種類に分類される。
【0025】
MELのトリアシル体は、例えば、MEL生産菌の培養液から取得することができる。また、MELのトリアシル体は、酵素を用いてMELを種々の植物油と反応させることによって製造することもできる。
【0026】
MELは、例えば、マンノシルエリスリトールリピッドA(MEL−A)、マンノシルエリスリトールリピッドB(MEL−B)、マンノシルエリスリトールリピッドC(MEL−C)、マンノシルエリスリトールリピッドD(MEL−D)、MEL−Aのトリアシル体、MEL−Bのトリアシル体、MEL−Cのトリアシル体、及びMEL−Dのトリアシル体からなる群から選択される1種以上である。
【0027】
好ましいMELはMEL−A及びMEL−Bからなる群から選択される1種以上であり、MEL−Bがより好ましい。MEL−Bとしては、一般式(4)又は(5)にて示される構造を有するMEL−Bが好ましい。
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
(一般式(4)及び(5)中、置換基Rは同一でも異なっていてもよい炭素数4〜24の脂肪族アシル基である)
【0031】
一般式(4)及び(5)中、置換基Rは同一でも異なっていてもよい炭素数4〜24、好ましくは炭素数4〜18、さらに好ましくは炭素数6〜14の脂肪族アシル基である。
【0032】
なお、MELは、単独で使用してもよいが、2種以上のMELを併用することもできる。
【0033】
本発明において使用されるMELは特に制限されず、例えば市販のもの、従来公知の生産方法で生産されたもの等を使用できる。例えばMEL(MEL−A、MEL−B、MEL−C)は常法に従って、MELを産生することのできる微生物(MEL生産微生物)、例えばPseudozyma antarctica(NBRC 1073) 、Pseudozyma tsukubaensis、Pseudozyma hubeiensis、Pseudozyma graminicola、Pseudozyma sp.等を培養することにより生産することができる。
【0034】
(成分(b);グリセリン化合物) 成分(b)は(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物である。ここで、(ポリ)グリセリンとは、モノグリセリンもしくはポリグリセリン、または両者の混合物を意味する。ポリグリセリンとして、平均重合度が2〜30のものが好ましく用いられ、平均重合度が2〜15のものがより好ましく用いられる。ポリグリセリンの具体例としては、ジグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、オクタグリセリン、及びデカグリセリン等が挙げられる。
【0035】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、(ポリ)グリセリンと脂肪酸のエステルであり、モノエステル、ジエステル及びトリエステルが含まれる。(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルにおいて、脂肪酸成分には、例えば炭素数10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸由来のものが包含される。脂肪酸は、飽和又は不飽和のものであってよい。その具体例としては、例えばカプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸及びベヘン酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。成分(b)として、重合度2〜15のポリグリセリンに炭素数10〜22の脂肪酸がエステル結合した、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが好ましく使用され、重合度6〜12のポリグリセリンに炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)がエステル結合した、ポリグリセリンモノラウレートが特に好ましく使用される。
【0036】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルに使用される(ポリ)グリセリンは、一般的に、(モノ)グリセリン、グリシドール、又はエピクロルヒドリン等のグリセリン関連物質を原料とし、(モノ)グリセリンを脱水縮合させて(ポリ)グリセリンの重合度を高めるグリセリン重合法の他、グリシドール法、エピクロルヒドリン法、またはジグリセリン架橋法等の製造方法で製造される。これらの製造方法で(ポリ)グリセリンを製造する際には、目的とする重合度の直鎖状(ポリ)グリセリンだけではなく、6員環及び8員環を有する環状(ポリ)グリセリンが副生成物として生成され、重合された(ポリ)グリセリンに含まれる可能性がある。また、目的とする重合度とは異なる、重合度の低い、低重合度の(ポリ)グリセリンも副生成物として生成され、(ポリ)グリセリンに含まれる可能性がある。この中で、環状(ポリ)グリセリンは親水性が低いと考えられる他、人体に対し刺激が強いとされているため、その含有量はより少ない方が好ましい。
【0037】
(ポリ)グリセリンの平均重合度は、一般に流通している(ポリ)グリセリンに用いられている、水酸基価から求めた平均重合度を指す。また(ポリ)グリセリンに含有されている環状体の含有量は液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)等を用いて分析できる。
【0038】
(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物において、そのアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、例えば2〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは8〜20である。(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、例えば炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが用いられる。その具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物としては、ジグリセリンにアルキレンオキサイドを付加させることにより得られるジグリセリンのアルキレンオキサイド付加物が好ましく用いられ、プロピレンオキサイド付加物が特に好ましく用いられる。プロピレンオキサイド付加物の平均付加モル数は、例えば上記の平均付加モル数の範囲であり、好ましくは9〜14である。
【0039】
合成繊維の繊維表面に付着している成分(a)の繊維付着量は、合成繊維質量に対し、例えば0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上とでき、例えば10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下とできる。一実施形態において、成分(a)の繊維付着量は、例えば0.05〜10質量%、好ましく0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜3質量%である。
【0040】
合成繊維の繊維表面に付着している成分(b)の繊維付着量は効果が発揮される限り特に制限されないが、合成繊維質量に対し、例えば0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上とでき、例えば1質量%以下、0.8質量%以下、0.5質量%以下とできる。一実施形態において、成分(b)の繊維付着量は、例えば0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.8質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。なお、繊維付着量とは、最終的に得られる乾燥させた状態の合成繊維の質量に対する、成分(a)又は(b)の付着量を意味する。
【0041】
合成繊維の一実施形態は、繊維処理剤が繊維表面に付着している合成繊維であって、
繊維処理剤が、(a)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、ならびに(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及び(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン化合物を含み、成分(a)及び(b)の合計質量が繊維処理剤全体に対し40質量%以上であり、成分(a)の質量が成分(a)及び(b)の合計質量に対し33〜99.5質量%である、合成繊維である。
【0042】
一実施形態において、成分(a)及び(b)を含む繊維処理剤は、成分(a)及び(b)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)が例えば33〜99.5質量%、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%の量で含まれるように調製される。一実施形態において、成分(b)の量は、成分(a)の量が上記範囲に含まれる量であればよく、例えば、成分(a)が33質量%であるとき成分(b)は67質量%であり、成分(a)が67質量%であるとき成分(b)は33質量%である。成分(a)及び(b)の量が上記の範囲にあると、合成繊維に与える親水性、保湿性の点や、繊維の加工性、例えば、繊維加工のカード工程において静電気が抑制される性能、において有利である。
【0043】
一実施形態において、繊維処理剤において、成分(a)及び(b)の合計質量は、処理剤全体の、例えば40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上を占める。成分(a)及び(b)に他の成分を混合して、繊維処理剤を調製する場合、他の成分は、得ようとする合成繊維において所望の親水性、保湿性、繊維加工性、その他の性能に応じて、繊維処理剤に配合される成分から選択すればよい。したがって、繊維処理剤は他の親水性成分、他の保湿成分、繊維加工特性向上成分等を本発明の効果を阻害しない限り含むことができるが、一実施形態において乳酸と金属の塩(例えば乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸アルミニウム)を含まないことが好ましい。
【0044】
繊維処理剤において含みうる成分(a)及び(b)以外の他の成分としては、繊維処理剤に通常用いられている成分を使用できる。例えば、具体的には、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、及びδ−トコフェロール等の各種トコフェロール、β−カロテン、リコペン、ルテイン、及びアスタキサンチン等の各種カロテノイド、ユビキノン(ユビキノール、ユビデカレノン、CoQ10)、α−リポ酸(リポ酸、チオクト酸)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、及びBHA(ブチルヒドロキシアニソール)等の脂溶性抗酸化物質;アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、カテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン、ガロカテキンガレート、及びガロカテキン等の各種カテキン類、アントシアニン、タンニン、クエルセチン(ルチン、クエルシトリン等の各種配糖体、酵素処理イソクエルシトリン等の酵素処理、化学処理を加えたものを含む)、ミリシトリン、ミリセチン、及びイソフラボン等の各種フラボノイド、クロロゲン酸、エラグ酸、及びクルクミン等の各種フェノール酸、リンゴポリフェノール、及びカカオマスポリフェノール等のポリフェノール等の水溶性抗酸化物質;フィトンチッド、ヒバオイル、及びヒノキチオール等の植物由来の精油、及びハーブオイル等の芳香性機能剤、その他消臭剤、抗菌剤、アレルゲン不活性剤、吸発熱剤、遠赤外線保温剤などを挙げることができる。
【0045】
あるいは、繊維処理剤に成分(a)以外の他の界面活性剤を添加してもよい。成分(a)以外の他の界面活性剤を添加する場合、公知の界面活性剤である、糖エステル型(「多価アルコールエステル型」とも呼ばれる)、脂肪酸エステル型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型、シリコーン系、フッ素系、及び植物油型などの非イオン性界面活性剤、サルフェート型、スルホネート型、カルボン酸型、及びホスフェート型などのアニオン性界面活性剤、アンモニウム型及びベンザルコニウム型などのカチオン性界面活性剤、及びベタイン型、及びグリシン型などの両性界面活性剤などの界面活性剤から選択される1または複数の界面活性剤を添加してもよい。一実施形態において、微生物などの生体由来の界面活性剤であるバイオサーファクタント(但し、成分(a)以外のもの)を添加することが好ましい。そのような生体由来の界面活性剤は、成分(a)と同様に、皮膚への刺激が少ないと考えられるからである。バイオサーファクタントとしては、前記のような、リポペプチド構造を有する界面活性剤(アミノ酸型、アシルペプタイド型とも称す)、トレハロースリピッド、及びセロビオースリピッドなどの糖脂質型(糖型とも称す)のバイオサーファクタントの他、リン脂質系、脂肪酸系及び高分子化合物系のバイオサーファクタントがあり、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0046】
前記の繊維処理剤に通常用いられている他の成分以外にも、化粧品として使用可能な各種機能剤、例えばヒアルロン酸の合成を高めたり、細胞賦活性を発揮したりすることでアンチエイジング効果(老化防止効果)を発揮する機能剤;チロシナーゼの活性を阻害・抑制することでメラニンの生成を抑え、美白効果を発揮する機能剤;肌の水分を維持することで肌への保湿・エモリエント効果を発揮する機能剤;その他の紫外線防御・紫外線ケア効果のある機能剤、抗炎症効果のある機能剤、刺激緩和効果のある機能剤など、化粧品に使用可能な各種機能剤を本発明の効果を阻害しない範囲内において、成分(a)及び(b)以外の成分として、繊維処理剤に添加してもよい。例えば、キチン、キトサン及びこれらから誘導されるキチン及びキトサンの誘導体(例えばカルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン)は化粧品に使用可能な機能剤であり、添加することで、抗菌作用及び保湿作用を発揮しうる。前記化粧品に使用可能な各種機能剤を添加することで、本発明の合成繊維及び繊維集合物は、紙おむつ及び生理用ナプキン等の衛生用品のトップシート及び化粧料含浸シート等の直接肌に触れ、接触している時間が長時間になる製品の付加価値を高めることができる。
【0047】
繊維処理剤は、上述した成分(a)及び(b)の繊維付着量が達成されるように使用されることが好ましい。
【0048】
合成繊維は、例えば熱可塑性樹脂製であり得る。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエチレン(高密度、低密度、直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブタジエン、エチレン系共重合体(例えば、エチレン−αオレフィン共重合体)、プロピレン系共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体)、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、またはエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体などのポリエステル樹脂、ナイロン66、ナイロン12、およびナイロン6などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、それらの混合物、ならびにそれらのエラストマー系樹脂などを挙げることができる。
【0049】
合成繊維は、いずれの形態のものであってよく、例えば、1つの樹脂または複数の樹脂の混合物から成る、単一繊維であってよく、あるいは2以上の成分から成る複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、および柑橘類の房状の樹脂成分が交互に配置されている分割型複合繊維であってよい。また、合成繊維の断面形状もいずれの形状のものであってよい。したがって、合成繊維は、通常得られる円形(真円)断面の合成繊維であってよく、あるいは繊維の断面形状が非円形の合成繊維、いわゆる異形断面の繊維であってもよい。異形断面の繊維の断面形状は、例えば、多角型形状、楕円型形状、扁平型形状、繊維表面に多数の枝状部を有する、いわゆる多葉型形状(具体的には3葉から32葉の多葉型形状)、星型形状、C字型形状、Y字型形状、W字型形状、十字型形状、および井型形状等である。さらに、合成繊維は前記のように、単一繊維および複合繊維であるか否かにかかわらず、および/または繊維断面形状が円形であるか異形であるかにかかわらず、繊維断面に長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空繊維であってもよい。
【0050】
繊維を芯成分と鞘成分とを有する複合繊維(偏芯構造のものを含む)とする場合、鞘成分の融点≦(芯成分の融点−10℃)を満たすように、鞘成分と芯成分を構成する樹脂を選択することが好ましい。そのような組み合わせにより、鞘成分を熱接着成分として利用できる、熱接着性複合繊維を得ることができる。
【0051】
芯鞘型複合繊維の鞘成分として、ポリエチレン(ナフサを始めとする、原油由来のエチレンを原料とするものの他、天然物由来、いわゆるバイオマス由来の原料から重合されたものを含み、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等があり、チーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒など公知の触媒で重合されるポリエチレン)、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、共重合ポリエステル、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネートアジペート(ポリブチレンサクシネートアジテートとも称す)などの低融点樹脂を使用することができる。芯鞘型複合繊維の好ましい組み合わせ(芯/鞘)として、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン、ポリプロピレン/低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリ乳酸/ポリエチレン、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、およびポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートアジペートなどが挙げられる。
【0052】
合成繊維を熱接着性の芯鞘型合繊維として得る場合、芯成分/鞘成分の複合比(容積比)は、繊維の紡糸性、接着性および加工性などを考慮すると、2/8〜8/2であることが好ましく、3/7〜7/3であることが、カード通過性や繊維の熱接着性の点で有利である。
【0053】
繊維処理剤は合成繊維に良好な親水性を付与することを可能にする。したがって、繊維表面が疎水性の熱可塑性樹脂で構成されている繊維、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル、エチレン系共重合体および/またはプロピレン系共重合体が繊維表面を構成している繊維において親水性付与効果を顕著に得ることができる。
【0054】
繊維の繊度は、好ましくは0.3〜20dtex、より好ましくは0.3〜10dtexである。合成繊維の繊度は、その繊維が使用される用途によって適宜選択され、例えば、衛生用品のトップシートに使用する場合、繊度は0.5〜8dtexであることが好ましく、0.7〜7dtexであることがより好ましく、1〜7dtexであることが特に好ましい。ワイパーやウェットティッシュに合成繊維を使用する場合、繊度は0.5〜10dtexであることが好ましい。また、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シート、および化粧用・医療用貼付剤の基布に合成繊維を使用する場合、繊度は0.3〜5dtexであることが好ましい。繊度が上記の範囲にあると、繊維強度、繊維集合物(例えば不織布)とした場合の柔軟性などの点で有利である。
【0055】
一実施形態において、合成繊維は、例えば成分(a)及び(b)を含む繊維処理剤で合成繊維を処理することで得られる。一実施形態において、合成繊維は、合成繊維を成分(b)で処理後、成分(a)で処理することでも得られる。
【0056】
例えば、処理対象の合成繊維の原料である樹脂を公知の溶融紡糸機を用いて、得ようとする繊維形態に応じて、適切な紡糸ノズルおよび紡糸温度を用いて溶融紡糸する。次いで、紡糸フィラメント(未延伸糸)は、必要に応じて延伸される。延伸の際に用いる、延伸方法及び延伸条件は特に限定されず、樹脂の種類、複合繊維の場合には樹脂の組合せ、および得ようとする繊維性能等に応じて適宜設定される。例えば、温水、熱風、あるいは熱媒中にて、延伸温度60〜110℃、延伸倍率2.0〜8.0倍の条件で延伸される。延伸方法は特に限定されず、温水または熱水などの高温の液体中で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸処理を行うことができる。
【0057】
フィラメントを延伸した後、フィラメントに繊維処理剤を付着させる。具体的には、得られた延伸フィラメントの表面に、繊維処理剤を水または他の溶媒で希釈した溶液(以下、「処理液」とも呼ぶ)を付着させ、それから、フィラメントを乾燥させて、付着した処理液から水(または他の溶媒)を蒸発させる。この作業により、乾燥後のフィラメントには、繊維処理剤が付着することとなる。繊維表面に処理液を付着させる方法は特に限定されず、例えば、公知のスプレー法、含浸法、またはロールタッチ法により付着させることができる。乾燥させたフィラメントは、必要に応じて、所定の長さに切断されて、繊維長2〜100mm程度の短繊維またはステープル繊維として、または長繊維(連続繊維)
として提供される。また、フィラメントを所望の長さに切断してから繊維処理剤で処理することもできる。
【0058】
延伸フィラメントには、必要に応じて、捲縮付与装置によって、捲縮数10〜25山/25mm、捲縮率8〜25%程度の範囲で捲縮を与える。捲縮を付与する場合、捲縮付与の前または捲縮付与と同時に、処理液をフィラメントに付着させることが好ましい。
【0059】
本発明の合成繊維は、前記繊維処理剤を繊維製造段階で付着させて得たものに限定されず、合成繊維を用いた繊維集合物の製造段階で前記繊維処理剤が合成繊維に付着されたものをも含む。例えば、未処理のまたは他の繊維処理剤を付着させた合成繊維から、後述する方法で不織布などの繊維集合物を得た後、当該繊維集合物に、前記成分(a)、(b)の含有量を調整して得た処理剤をスプレーする方法、または当該処理剤を含浸させる方法などの、処理剤を繊維集合物を構成する合成繊維の少なくとも一部の繊維表面に付着させる方法によって本発明の合成繊維を得ることも可能である。あるいは、繊維集合物の形態をとる前の段階で(例えば、不織布を作製するための繊維ウェブ、および繊維から紡績して得た織物または編物用の紡績糸に)、当該繊維処理剤を付着させてもよい。
【0060】
前記の方法で得た合成繊維(繊維集合物の製造段階で前記繊維処理剤を付着させる場合は、未処理の又は他の繊維処理剤を付着させた合成繊維)は、公知の繊維集合物、例えば、織編物、ネット状物、不織布などに加工されて使用される。繊維集合物は、本発明の合成繊維を例えば50質量%以上、75質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含む。本発明の合成繊維は、特に、不織布を作製するのに好ましく用いられる。不織布は、繊維ウェブを作製した後、繊維を接着させる及び/または交絡させて一体化させることにより製造する。繊維ウェブの形態は特に限定されず、ステープル繊維からなるパラレルウェブ、セミランダムウェブ、およびクロスウェブ、短繊維からなる湿式抄紙ウェブ、およびエアレイウェブ、および長繊維からなるスパンボンドウェブ、およびメルトブローンウェブ、ならびにエレクトロスピニング法(静電紡糸法とも称される)で得られた繊維ウェブ等、いずれの繊維ウェブであってよい。柔軟性および風合いが重視される用途に使用する場合、不織布は、ステープル繊維からなるウェブを用いて作製されることが好ましい。
【0061】
不織布の製造において、繊維ウェブの繊維を一体化させる方法は特に限定されない。例えば、繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、あるいは繊維が熱接着性繊維(単一繊維または芯鞘型複合繊維)とともに不織布を構成する場合には、熱風吹き付け法または熱エンボス法等のサーマルボンド法によって、繊維を一体化させてよい。あるいは、繊維の一体化は、ニードルパンチ法および水流交絡処理法等の機械的交絡法によって行ってよい。
【0062】
一実施形態において、合成繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、本発明の繊維を50質量%、75質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含む繊維ウェブを用いて不織布を作製し、サーマルボンドした後の不織布において、当該複合繊維の鞘成分により繊維同士が熱接着されていることが好ましい。具体的には、複合繊維の鞘成分が軟化または溶融して、繊維同士が固着されていることが好ましい。鞘成分の軟化または溶融による熱接着は、複合繊維の鞘成分の軟化点以上で、かつ芯成分の融点未満の温度の熱エンボスロールまたは熱風を用いて、熱処理することによって達成される。
【0063】
また、一実施形態において、水流交絡処理法を採用して、繊維の一体化を行ってよい。水流交絡処理法は、前記サーマルボンド法と組み合わせてよい。水流交絡処理の条件は、最終的に得ようとする不織布の目付、柔軟性、および機能性に応じて設定される。不織布に開孔部を形成する場合には、そのことも考慮して、条件を設定することが好ましい。水流交絡処理は、例えば、孔径0.05〜0.5mmのオリフィスが0.5〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1〜20MPaの柱状水流を、繊維ウェブの片面または両面にそれぞれ1〜8回ずつ噴射することによって実施してよい。
【0064】
本発明の繊維を含む繊維集合物は、これ以外の他の繊維を含んでよい。他の繊維は特に限定されず、例えば、コットン、シルクおよびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維であってよい。あるいは、他の繊維は、前記特定の繊維処理剤以外の繊維処理剤が繊維表面に付着した合成繊維であってよい。合成繊維を構成するのに適した樹脂、および合成繊維の形態は、先に説明したとおりであるから、ここではそれらに関する説明を省略する。これらの繊維は一種類のみ使用してよく、あるいは二種以上使用してよい。
【0065】
本発明の繊維集合物を不織布の形態で得て、これを衛生用品のトップシート(表面材)として使用する場合、不織布は熱接着不織布であることが好ましい。換言すれば、本発明の合成繊維のみ、またはこれと他の繊維とを混合して、カード法またはエアレイ法等により、所望の目付の繊維ウェブを作製した後、必要に応じて交絡処理を施し、繊維同士を熱接着させて得た熱接着不織布が、衛生用品の表面材として好ましく用いられる。不織布は、本発明の繊維を含む(またはこれのみから成る)繊維ウェブと、他の繊維からなる繊維ウェブとの積層構造であってよい。いずれの構造を有する場合でも、衛生用品の表面材において、本発明の繊維は、50質量%以上、75質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含まれており、それにより、人または動物の体液を、身体から、吸収体に速やかに移動させることができる。
【0066】
本発明の繊維を含む繊維集合物の目付は特に限定されず、用途に応じて、適宜選択される。例えば、本発明の繊維集合物を不織布として、衛生物品の表面材に用いる場合には、目付は10〜80g/mとすることが好ましい。本発明の繊維集合物を不織布として、ウェットティッシュ、ワイパー、および使い捨ておしぼりといった対人、対動物及び対物用の各種ワイピングシートに用いる場合には、目付は20〜100g/mとすることが好ましい。また、本発明の繊維集合物を不織布として、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シートや化粧用・医療用貼付剤に用いる場合には、目付は20〜200g/mとすることが好ましい。
【0067】
本発明の繊維を含む繊維集合物が不織布として提供される場合、当該不織布は、皮膚接触用製品に組み込まれて提供されることが好ましい。即ち、本発明はまた、当該不織布を少なくとも一部に使用した皮膚接触用製品を提供する。ここで、「皮膚接触用製品」とは、人または人以外の動物の皮膚に接触させて使用する製品を指す。具体的には、
・体液吸収性物品(具体的には乳児用紙おむつ、大人用紙おむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、陰唇間パッド、母乳パッド、汗取りシート、また動物用の排泄物処理材、動物用紙おむつ、動物用尿吸収シート等)
・皮膚被覆シート(具体的にはフェイスマスク、冷感・温感パップ剤などの化粧用・医療用貼付剤の基布、創傷面保護シート、不織布製の包帯、痔疾用パッド、肌に直接あてる温熱器具(例えば使い捨てカイロ)、各種動物用貼付剤の基布等)
・対人ワイパー(メイク落としシート、制汗シート、おしり拭き等)、各種動物用ワイピングシート等
・その他(例えば使い捨ての肌着、医療用ガウンなど使い捨ての衣料品、マスク、動物用創傷保護衣料、絆創膏繊維部、包帯、医療用ガーゼ等)
が皮膚接触製品として挙げられる。本発明の繊維を含む不織布は、これらの製品の一部または全部を構成してよい。例えば、体液吸収性物品においては、表面材のみを本発明の繊維を含む不織布で構成してよい。また、皮膚被覆シートにおいては、特に、敏感な部分を覆う部分のみを本発明の繊維を含む不織布で構成してよく、あるいは皮膚被覆シート全体を本発明の繊維を含む不織布で構成してよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例等を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0069】
(繊維処理剤の調製)
成分(a)及び(b)として、下記に示すものを使用し、表1に示す割合(質量%)で混合して繊維処理剤を調製した。
【0070】
[成分(a)]
a−1:マンノシルエリスリトールリピッドB(商品名:セラメーラ(登録商標)、東洋紡(株)製)
a−2:サーファクチンナトリウム(商品名:カネカサーファクチン、(株)カネカ製)
a−3:ソホロリピッド(商品名:ACSソホロ、(株)アライドカーボンソリューション製)
[成分(b)]
b−1:デカグリセリンモノラウレート(商品名:ML750、阪本薬品工業(株)製)
b−2:ポリオキシプロピレンジグリセリンエーテル(プロピレンオキサイドの平均付加モル数14)(商品名:SC−P1000、阪本薬品工業(株)製)
b−3:ポリグリセリン(ポリグリセリン供給源としてポリグリセリンを約25質量%含む油剤(商品名:TES8327、竹本油脂(株)製)を使用した)
【0071】
(実施例1)
紡糸前の融点が130℃で、メルトフローレートがJIS K6922−1に準じて、温度190℃、質量2.16kgfで測定した値が20g/10minで、密度が0.952である高密度ポリエチレン(商品名:ニポロンハードOS02H、東ソー(株)製)及び、紡糸前の融点が260℃で、極限粘度値(IV値)が0.640dl/gのポリエチレンテレフタレート(商品名:HY−01、恒逸(HENGYI)製)を用い、孔径φ0.35の吐出孔の紡糸ノズルから、ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレン樹脂を質量比を芯成分:鞘成分=60/40で紡出し、引取速度1200m/inで、溶融紡糸を実施し、繊度5.4dtexの芯鞘型複合未延伸糸を得た。
【0072】
次いで、この未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.67倍で、湿式延伸処理に付し、延伸糸とした。表1の実施例1の欄に示す混合割合で2種類の成分を混合して得た処理剤を、処理剤の濃度が8.0質量%となるように水で希釈して処理液とした。処理液を、ローラーオイリング装置で、延伸糸に付与した後、捲縮付与装置(クリンパー)で捲縮付与後、乾燥温度100℃、15分の乾燥工程を経て、繊維表面の水分を蒸発・乾燥させ、カッターにて繊維長が44mmに切断した。これにより、繊度が2.4dtex、繊維長が44mm、捲縮数18個/25mm、捲縮率が16%の芯鞘型複合繊維を得た。
【0073】
得られた繊維を、ローラカードを用いて目付30g/mの繊維ウェブを作成し、熱風吹き付け装置を用い、熱処理温度140℃で繊維の鞘成分を溶融させ、繊維ウェブの繊維同士を、熱接着させて熱接着不織布を得た。
【0074】
(実施例2〜7、比較例1〜6、参考例1〜3)
繊維処理剤として、ぞれぞれ表1に示す実施例2〜7、比較例1〜6、及び参考例1〜3の欄に記載した割合で各成分を混合して調製したものを用いた以外は、実施例1を作製するときに採用した手順と同じ手順で繊維を得、熱接着不織布を作成し、繊維表面への処理剤の付着量を前記方法で求めた。結果を表1に記載した。なお、実施例6及び7においてb−3のポリグリセリンとしてポリグリセリンを25質量%含有する油剤を使用して繊維処理剤を調製したが、表1中の成分(b)の割合及び付着量については油剤量ではなくポリグリセリン量に基づいて記載した。
【0075】
(繊維処理剤の付着量の測定)
繊維表面への処理剤の付着率は、Foss(株)製 迅速残脂抽出装置(SoxtecTM2055)を用い、迅速抽出法により測定した。まず、所定長に切断された繊維処理剤で処理された繊維を、熱風乾燥機(105℃×30分)で乾燥後、開繊機(オープナー)2回掛けした後、原綿を8g(W)を計り、その綿を金属製の筒(内径35mm、長さ75mm、底部が100メッシュ平織金網フィルターのもの)に充填した後、エタノール/ヘキサン(75/25)の溶剤(90ml)を入れたアルミカップに浸漬させる。繊維試料に付着していた処理剤が溶解した溶剤(エタノール/ヘキサン)のアルミニウムカップ(質量:Wtray)を加熱し、溶剤を蒸発させる。アルミニウムカップの質量(Wtray)は、乾燥機でアルミニウムカップを十分に乾燥(105℃×10分)させてから、溶剤を受ける前に測定する。溶剤が完全に蒸発した後、繊維処理剤が残留しているアルミニウムカップの質量(Wfat)を測定する。前記の測定の後、繊維質量に対する繊維表面への処理剤の付着量を、次の式から算出する。実施例1の繊維表面への処理剤の付着量を前記方法で求めた結果、処理剤の付着量は繊維質量に対し、0.5質量%であった。この付着量に、繊維処理剤における成分(a)及び(b)の含有量(質量%)を乗じて、繊維質量に対する成分(a)及び(b)の付着量(質量%)を求め、表1に示した。
【0076】
【数1】
【0077】
(親水性評価)
得られた実施例および各比較例の不織布の親水性を評価した。親水性の評価は、ランオフ(RUN−OFF)テスト(EDNA(European Disposables and Nonwovens Association)により推奨される試験のEDNARUN−OFF試験と称される方法)方法で行い、具体的には次の手順で行った。まず、不織布を、縦方向(機械方向)×横方向が36cm×15cmとなるように切断して、サンプルとした。この不織布サンプルを、縦方向と水平面が45度の角度をなすように支持台の上に載せ、固定する。このとき、支持台の斜面の上には、(株)アドバンテック製 ろ紙5種Aを敷き、その上に、測定する不織布サンプルを5枚重ねて載せ固定する。支持台は、水平面と45度の角度を有する略垂直二等辺三角形の断面を有するものである。不織布表面の上端1cm、高さ1cmの位置から、青色に着色した生理食塩水を、ビュレットにて、2g/10秒の速度で計10g滴下し、注いだ生理食塩水がすべて不織布に吸収され、生理食塩水の水滴が不織布表面から消えた位置を測定し、該当位置と生理食塩水を不織布表面に滴下した位置との間の、生理食塩水の水滴が不織布表面を流れた距離を求める。各例において10サンプル使用してテストを10回行いランオフ値(流れた距離)の平均値(mm)を表1に示す。
【0078】
この距離が短いほど、不織布の親水性が高く、より具体的には、水分を瞬間的に吸収する能力が高いといえる。一方、親水性の低い不織布においては、滴下した生理食塩水が吸収されにくくこの距離が長くなる。
【0079】
(保湿性評価)
得られた実施例、比較例、及び参考例の不織布の保湿性を評価した。被験者は5名(30〜40代男女)である。被験者の前腕内側部を市販洗剤(商品名:チャーミVクイック、ライオン(株)製)で5回洗浄する。その後、22℃、50%RH環境にて30分間安静にさせた後、Corneometer CM825(Courage+Khazaka社)を用いて、市販洗剤で洗浄後の前腕内側部の角質水分量を測定した。その後、実施例、比較例、又は参考例で得られた不織布(サンプルサイズ:3cm×3cm)を角質水分量を測定した前腕内側部に貼り付け、貼り付けた状態で120分経過した後の角質水分量を測定した。貼り付け後の角質水分量から塗布前の角質水分量を減法し、角質水分量の増加量を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1〜7ではランオフ値が短く、良好な親水性が確認されるとともに、保湿性も参考例2と同程度かそれ以上であり、a−1(MEL)の保湿性が損なわれることなく発揮された。参考例1のランオフ値が20.2と小さいことからグリセリン化合物は親水性付与作用を有することが確認された。一方、参考例2のランオフ値が193.1と大きいことから、a−1(MEL)単独では親水性付与作用はほとんどないことが確認された。それにもかかわらず、実施例1と参考例1との対比において、a−1(MEL)とグリセリン化合物を併用すると、グリセリン化合物単独の場合(参考例1)よりもランオフ値が小さい結果となっており、併用により繊維の親水性が向上していることが確認された。したがって、グリセリン化合物にMELを併用することによって、MELが本来有している保湿性を繊維に付与できるだけでなく、グリセリンの親水性付与作用も向上させることが確認された。
対照的に、参考例1と比較例1及び2との対比において、他のバイオサーファクタントであるa−2(サーファクチンナトリウム)とa−3(ソホロリピッド)を使用すると、グリセリン化合物のランオフ値20.2より大きくなる結果となっており、グリセリン化合物の親水性付与作用を低下させていることが確認された。