(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明のリチウム二次電池用電極について説明する。本発明のリチウム二次電池用電極は、Li
7La
3Zr
2O
12及びLiCoO
2のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にLi
7La
3Zr
2O
12及びLiCoO
2のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなり、電極密度が1.5〜3.5g/cm
3である正極材と、ニッケル集電体と、厚さが1〜3μmであり、一方の面が前記正極材と接触し、他方の面が前記ニッケル集電体と接触しているNiO層と、を備えていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明にかかるナノヘテロ構造体は、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造(好ましくは、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造)といったナノ構造を有するものであり、Li
7La
3Zr
2O
12とLiCoO
2との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造を有するものとして得ることが可能である。そのため、本発明にかかるナノヘテロ構造体によれば、界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、リチウム二次電池用電極材としての利用率を高めることができる。また、本発明にかかるナノヘテロ構造体は、ナノ構造に起因して反応界面の面積が大きく、電荷移動がスムーズに起こるため、出力特性が向上する。その結果、このような本発明にかかるナノヘテロ構造体からなる正極材を備えるリチウム二次電池においては蓄電池特性の飛躍的な向上が発揮されるようになる。
【0022】
本発明にかかるナノヘテロ構造体を構成するLi
7La
3Zr
2O
12(以下、「LLZO」と略す)は正極材のリチウムイオン伝導体として機能するものであり、LiCoO
2(以下、「LCO」と略す)は正極材の正極活物質として機能するものである。従って、本発明にかかるナノヘテロ構造体は、リチウム二次電池の正極材として機能するものである。
【0023】
本発明にかかるナノヘテロ構造体においては、LLZOとLCOのいずれがナノヘテロ構造のマトリックスを形成していてもよいが、正極材の体積当りあるいは質量当りの放電容量を最大にできるという観点から、LCOがマトリックスを形成していることが好ましい。また、マトリックス中に三次元的且つ周期的に配置している無機成分の断面直径としては、小さすぎると導電パスが形成しにくくなり、大きすぎると界面が減少するという観点から、5〜90nmが好ましい。さらに、LLZOとLCOとの割合としては、LCO1モルに対してLLZOが0.05〜0.1モルであることが好ましい。LLZOの割合が前記範囲から逸脱すると、放電容量が低下する傾向にある。
【0024】
本発明にかかる正極材は、このようなナノヘテロ構造体により構成されるものであり、その密度(電極密度)は1.5〜3.5g/cm
3である。正極材の密度が前記下限未満になると、電気抵抗が増大したり、電極強度が低下したりする。他方、密度が前記上限を超える正極材を得るには、温間加圧成形の際に成形圧力を増大させる必要があるが、成形圧力を増大させると、凝集した一次粒子が破壊されて正極材の内部に多数のクラックが発生し、電気抵抗が増大する。また、電極抵抗が減少し、電極強度が増大するという観点から、正極材の密度は2.5〜3.0g/cm
3であることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる正極材の厚みとしては特に制限はないが、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。正極材の厚みが前記下限未満になると、リチウム二次電池に占める正極の割合が少なくなり、放電容量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、正極材中のリチウム伝導性が低下する傾向にある。
【0026】
本発明にかかるニッケル集電体は特に制限はなく、従来公知のニッケル集電体を用いることができる。このようなニッケル集電体の厚みとして特に制限はないが、50〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。ニッケル集電体の厚みが前記下限未満になると、温間加圧成形により、所定の電極密度を有する正極材を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、正極材との密着性が低下する傾向にある。なお、前記ニッケル集電体は、表面にリン酸処理を施すことによって、正極材との密着性を向上させることができる。
【0027】
本発明のリチウム二次電池用電極は、このような正極材とニッケル集電体とを備えており、さらに、前記正極材と前記ニッケル集電体との間にNiO層を備えている。このNiO層は、その一方の面が前記正極材と接触しており、他方の面が前記ニッケル集電体と接触している。このようなNiO層は、不定比化合物や半導体的性質を有することや正極材との強固な固着機能により、リチウム二次電池の放電容量を増加させることが可能になると考えられる。
【0028】
本発明にかかるNiO層の厚みは1〜3μmである。NiO層の厚みが前記下限未満になると、前記下限未満になると、前記機能が小さくなるため、リチウム二次電池の放電容量を増加させることができない。他方、前記上限を超えるNiO層は、加熱処理により形成することができない。
【0029】
本発明のリチウム二次電池は、このような本発明の電極を正極として備えるものであり、高い放電容量を有するものである。このようなリチウム二次電池としては、例えば、本発明の電極と対極とによって電解質を挟持したリチウム二次電池が挙げられる。前記対極、電解質としては公知のものを使用することができる。
【0030】
また、本発明のリチウム二次電池の放電容量は前記電極を構成する正極材の厚みに依存する傾向にある。すなわち、
正極材の厚みが10μm以上15μm未満の場合、放電容量は45mAh/g以上、
正極材の厚みが15μm以上25μm未満の場合、放電容量は40mAh/g以上、
正極材の厚みが25μm以上30μm未満の場合、放電容量は35mAh/g以上、
正極材の厚みが30μm以上35μm未満の場合、放電容量は30mAh/g以上、
正極材の厚みが35μm以上45μm未満の場合、放電容量は25mAh/g以上、
正極材の厚みが45μm以上50μm未満の場合、放電容量は20mAh/g以上、
正極材の厚みが50μm以上55μm未満の場合、放電容量は15mAh/g以上、
正極材の厚みが55μm以上60μm未満の場合、放電容量は10mAh/g以上、
正極材の厚みが60μm以上の場合、放電容量は5mAh/g以上、
となる傾向にある。
【0031】
次に、本発明のリチウム二次電池用電極の製造方法について説明する。本発明のリチウム二次電池用電極の製造方法は、
Li
7La
3Zr
2O
12及びLiCoO
2のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にLi
7La
3Zr
2O
12及びLiCoO
2のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体粉末を溶媒に分散させる工程(分散液調製工程)と、前記工程で得られた前記ナノヘテロ構造体粉末の分散液をニッケル集電体上に滴下し、自然乾燥により前記ナノヘテロ構造体粉末を乾固させ、前記ニッケル集電体の表面に前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体を形成する工程(積層体形成工程)と、前記工程で得られた前記ニッケル集電体と前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体とからなる積層体を、20〜150℃の温度、500〜2000MPaの圧力で温間加圧成形する工程(温間加圧成形工程)と、前記工程で得られた加圧成型体に400〜800℃の温度で加熱処理を施す工程(アニール処理工程)と、を含むことを特徴とする方法である。
【0032】
[分散液調製工程]
係る工程は、以下に説明するナノヘテロ構造体粉末を溶媒に分散させ、ナノヘテロ構造体粉末の分散液を調製する工程である。
【0033】
本発明に用いられるナノヘテロ構造体粉末は、LLZO及びLCOのうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にLLZO及びLCOのうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有するナノヘテロ構造体の粉末である。
【0034】
このようなナノヘテロ構造体粉末は特開2014−179238号公報に記載の方法に従って製造したナノヘテロ構造体を粉砕することによって得ることができる。粉砕の方法としては特に制限はなく、ジェットミル、ロールミル、ボールミル等の各種粉砕機や乳鉢を用いた方法等が挙げられる。
【0035】
本発明において、前記ナノヘテロ構造体粉末の平均一次粒子径としては20〜100nmが好ましく、30〜60nmがより好ましい。前記ナノヘテロ構造体粉末の平均一次粒子径が前記下限未満になると、非晶部分を伴う微結晶成分が増加してLLZO及びLCOの機能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ナノヘテロ構造体粉末の表面だけが利用され、内部が利用できない傾向にある。
【0036】
本発明に用いられる溶媒としては、用いるナノヘテロ構造体を均一に分散できるものであれば特に制限はなく、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、)、エーテル(例えば、エチルメチルエーテル)、ケトン(例えば、メチルエチルケトン)、トルエン、シクロヘキサン等、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられるナノヘテロ構造体粉末の分散液において、前記ナノヘテロ構造体粉末の濃度としては0.05〜0.5g/mlが好ましく、0.1〜0.3g/mlがより好ましい。ナノヘテロ構造体粉末の濃度が前記下限未満になると、浮遊、懸濁するナノヘテロ構造体粉末がコロイド状態となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、沈降するナノヘテロ構造体粉末が増加し、浮遊しているナノヘテロ構造体粉末との間に密度差が生じる傾向にある。したがって、正極材の厚みを増加させる場合には、以下の積層体形成工程を繰り返すことが好ましい。
【0038】
[積層体形成工程]
係る工程は、以下に説明する、前記ニッケル集電体の表面に前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体を形成して、前記ニッケル集電体と前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体との積層体を作製する工程である。
【0039】
先ず、前記工程において調製された前記ナノヘテロ構造体粉末の分散液をニッケル集電体上に滴下する。これにより、前記ニッケル集電体の表面に前記ナノヘテロ構造体粉末の分散液の膜が形成される。その後、このようにして形成された前記ナノヘテロ構造体粉末の分散液の膜を自然乾燥させて、前記ナノヘテロ構造体粉末を蒸発乾固させる。これにより、前記ナノヘテロ構造体粉末が隙間なく積み上げられた集合体が前記ニッケル集電体の表面に形成される。このようなナノヘテロ構造体粉末が隙間なく積み上げられた集合体に、後述する温間加圧性成形を施すと、空隙が少なく、緻密な正極が形成され、リチウム二次電池の放電容量を増加させることが可能となる。
【0040】
また、この工程において、前記ナノヘテロ構造体粉末の分散液の滴下と前記ナノヘテロ構造体粉末の蒸発乾固を繰り返すことによって、正極材の厚みを増加させることができる。
【0041】
[温間加圧成形工程]
係る工程は、前記ニッケル集電体と前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体との積層体に温間加圧成形を施して、前記ナノヘテロ構造体粉末の集合体からなる正極と前記ニッケル集電体とを備える加圧成型体を作製する工程である。
【0042】
前記工程において作製された積層体に温間加圧成形を施す。これにより、空隙が少なく、緻密な正極が形成され、リチウム二次電池の放電容量を増加させることが可能となる。
【0043】
温間加圧成形時の温度は20〜150℃である。温間加圧成形時の温度が前記下限未満になると、ナノヘテロ構造体粉末の流動性が低下し、成形性も悪くなり、他方、前記上限を超えると、成形用金型の温度を均一に保持できなくなったり、金型のオスとメスとの隙間に付着させる潤滑剤が焼き付いて機能しなくなったりする。また、ナノヘテロ構造体の流動性や成形性を確保するという観点から、温間加圧成形時の温度としては100〜150℃が好ましく、130〜150℃がより好ましい。
【0044】
また、温間加圧成形時の圧力は500〜2000MPaである。温間加圧成形時の圧力が前記下限未満になると正極材が形成されず、他方、前記上限を超えると、正極材の密度が著しく低下する。また、高密度の正極材が得られるという観点から、温間加圧成形時の圧力としては700〜1500MPaが好ましく、800〜1200MPaがより好ましい。
【0045】
[アニール処理工程]
係る工程は、前記工程で作製された加圧成型体に大気圧下で加熱処理(アニール処理)を施して、前記正極材と前記ニッケル集電体と前記NiO層とを備える電極を得る工程である。また、この加熱処理(アニール処理)によって、前記加圧成型体中のナノヘテロ構造体粉末の間の隙間を減少させることができ、所定の電極密度を有する正極材を得ることができる。
【0046】
このような加熱処理(アニール処理)の温度としては400〜800℃が好ましく、500〜800℃がより好ましく、700〜800℃が特に好ましい。加熱処理(アニール処理)の温度が前記下限未満になると、前記加圧成型体においてナノヘテロ構造体粉末の間の隙間の焼結(粒子の凝集)が進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、LCOが他の酸化物に変化し、リチウムイオンを貯蔵するLCOの機能が消失する傾向にある。
【0047】
また、前記加熱処理(アニール処理)は、大気圧下で実施する必要がある。加圧下で加熱処理(アニール処理)を実施する、すなわち、ホットプレス処理を実施した場合には、ナノヘテロ構造体粉末の流動性は増加するものの、荷電状態から解放されたときの形状変化等が不安定(スプリングバック)となるため、リチウム二次電池の放電容量が低下する傾向にある。
【0048】
前記加熱処理(アニール処理)は、酸素雰囲気下で実施しても窒素雰囲気下で実施してもよいが、安定したNiO層が形成するという観点から、窒素雰囲気下で実施することが好ましい。
【0049】
このように、ニッケル集電体と前記ナノヘテロ構造体の集合体を一体化して温間加圧成形することによって、緻密な正極材を備え、ニッケル集電体と正極材との間に安定な界面を有する電極を得ることができ、リチウム二次電池の放電容量を増加させることが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したナノヘテロ構造体粉末は以下の方法により調製した。
【0051】
(調製例1)
特開2014−179238号公報に記載の方法に従ってナノヘテロ構造体粉末を調製した。すなわち、ブロックコポリマーとしてポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)(PS−b−P2VP、PS成分の数平均分子量:40.5×10
3、P2VP成分の数平均分子量:40×10
3)0.5gと、Li
7La
3Zr
2O
12(LLZO)前駆体(Li前駆体、La前駆体及びZr前駆体)としてサリチル酸リチウム(C
6H
4(OH)COOLi)0.346g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)ランタン(III)水和物(La(CH
3COCHCOCH
3)
3・xH
2O)0.156g及びテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)(Zr(CH
3COCHCOCH
3)
4)0.1305gと、LiCoO
2(LCO)前駆体(Li前駆体及びCo前駆体)としてサリチル酸リチウム(C
6H
4(OH)COOLi)0.120g及びコバルトカルボニル(Co(CO)
8)0.234gとを100mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、原料溶液を得た。なお、この原料溶液中のLCO前駆体1モルに対するLLZO前駆体の量は0.11モルである。
【0052】
この原料溶液を熱処理容器に入れ、空気気流下、600℃で25時間焼成することによって、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(以下、「LCO/LLZOナノヘテロ構造体」と略す。)を得た。このLCO/LLZOナノヘテロ構造体を、乳鉢で均一に粉砕し、篩分けにより粒径が約1μmのLCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末を得た。
【0053】
(参考例1)
調製例1で得られたLCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末をエタノールに、LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の濃度が0.17g/mlとなるように均一に分散させた。得られる正極材の厚みが50μmとなるように、所定量のLCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液をニッケル集電体(純金属ニッケル板((株)ニラコ製)を直径14mm×厚み500μmに加工したもの)上に滴下して、ドラフト内(常温(15〜25℃))で6時間自然乾燥させることにより、前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末を蒸発乾固させ、前記ニッケル集電体の表面に所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の集合体を形成した。
【0054】
次に、このようにして得られた前記ニッケル集電体と前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の集合体とからなる積層体に、温度150℃、圧力500MPa、1000MPa、又は1500MPaの条件で1〜2秒間の温間加圧成形を施し、厚み50μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える加圧成型体を作製した。得られた加圧成型体中の正極材の密度を測定し、温間加圧成形時の圧力に対してプロットした結果を
図1に示す。
【0055】
(比較参考例1)
集電体としてアルミニウム集電体(純金属アルミニウム板((株)ニラコ製)を直径14mm×厚み500μmに加工したもの)を使用し、温間加圧成形時の圧力を300MPa、500MPa、1000MPa、1500PMa、又は2000MPaに変更した以外は参考例1と同様にして、厚み50μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記アルミニウム集電体とを備える加圧成型体を作製した。得られた加圧成型体中の正極材の密度を測定し、温間加圧成形時の圧力に対してプロットした結果を
図1に示す。
【0056】
また、得られた加圧成型体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果を
図2Aに示す。また、
図2Bは
図2A中の白線内を拡大したものである。
図2A〜
図2Bに示した結果から明らかなように、得られた加圧成型体中の正極材内にクラックが観察された。
【0057】
一方、
図2Cには、特開2014−179238号公報に記載されている方法に従って、金型にアルミニウム集電体を入れ、その上にLCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末を充填し、冷間プレスにより作製した電極の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図2Cに示した結果から明らかなように、得られた電極中の正極材内には、LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の間に50〜100μmの大きさの隙間が観察された。
【0058】
(比較参考例2)
集電体としてステンレス(SUS316)集電体(ステンレスSUS316鋼板((株)ニラコ製)を直径14mm×厚み500μmに加工したもの)を使用し、温間加圧成形時の圧力を300MPa、500MPa、1000MPa、又は2000MPaに変更した以外は参考例1と同様にして、厚み50μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ステンレス集電体とを備える加圧成型体を作製した。得られた加圧成型体中の正極材の密度を測定し、温間加圧成形時の圧力に対してプロットした結果を
図1に示す。
【0059】
図1に示した結果から明らかなように、いずれの集電体を用いた場合においても、温間加圧成形時の圧力に好適な範囲及び最適値が存在することがわかった。例えば、ニッケル集電体を用いた場合には、圧力500〜1500MPaで温間加圧成形することによって、電極密度が1.5〜3.5g/cm
3の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材が得られることがわかった。
【0060】
(実施例1)
前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液中のLCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の濃度を0.085g/mlに変更し、得られる正極材の厚みが25μmとなるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は参考例1と同様にして、前記ニッケル集電体と前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の集合体とからなる積層体を作製した。
【0061】
次に、このようにして得られた積層体に、温度150℃、圧力900MPaの条件で1〜2秒間の温間加圧成形を施し、前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える加圧成型体を作製した。得られた加圧成型体に、窒素雰囲気下、750℃で12時間の加熱処理(アニール処理)を施し、厚み25μmの前記正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.0g/cm
3であった。
【0062】
このようにして得られた電極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。
図3は前記電極断面の各無機成分の元素分布をマッピングした結果を示す。
図3に示した結果から、前記正極材と前記ニッケル集電体との間に厚み1〜3μmのNiO層が形成されていることがわかった。また、前記正極材内においてLa、Zr、Coの分布に粗密が見られた。
【0063】
(比較例1)
得られる正極材の厚みが20μmとなるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は実施例1と同様にして、厚み20μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える加圧成型体を作製した。比較例1においては、この加圧成型体に加熱処理(アニール処理)を施さず、そのまま電極として使用した。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.0g/cm
3であった。
【0064】
このようにして得られた電極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。
図4は前記電極断面の各無機成分の元素分布をマッピングした結果を示す。
図4に示した結果から、前記正極材と前記ニッケル集電体との間にNiO層は形成されていなかった。また、前記正極材内において無機成分は一様に分布していた。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同様にして作成した前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える加圧成型体に、窒素雰囲気下、750℃、4.9MPa(50kgf/cm
2)の条件で3時間のホットプレス処理を施し、厚み20μmの前記正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.3g/cm
3であった。
【0066】
(比較例3)
得られる正極材の厚みが20μmとなるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は実施例1と同様にして、前記ニッケル集電体と前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末の集合体とからなる積層体を作製した。この積層体に、窒素雰囲気下、750℃、4.9MPa(50kgf/cm
2)の条件で3時間のホットプレス処理を施し、厚み20μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.2g/cm
3であった。
【0067】
このようにして得られた電極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。
図5は前記電極断面の各無機成分の元素分布をマッピングした結果を示す。
図5に示した結果から、前記正極材と前記ニッケル集電体との間にNiO層は形成されていなかった。また、前記正極材内において無機成分は一様に分布していた。
【0068】
(比較例4〜5)
ホットプレス処理時の圧力を5.9MPa(60kgf/cm
2)(比較例4)又は12.7MPa(130kgf/cm
2)(比較例5)に変更した以外は比較例3と同様にして、厚み20μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。これら電極中の正極材の密度を測定したところ、3.4g/cm
3(比較例4)及び3.6g/cm
3(比較例5)であった。
【0069】
(比較例6)
得られる正極材の厚みが30μmとなるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下し、ホットプレス処理時の圧力を5.9MPa(60kgf/cm
2)に変更した以外は比較例3と同様にして、厚み30μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.3g/cm
3であった。
【0070】
(実施例2)
温間加圧成形時の圧力を1000MPaに変更した以外は実施例1と同様にして、厚み25μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.0g/cm
3であった。
【0071】
(実施例3〜4)
得られる正極材の厚みが45μm(実施例3)又は60μm(実施例4)となるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は実施例2と同様にして、所定の厚みの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ニッケル集電体とを備える電極を得た。これらの電極中の正極材の密度を測定したところ、2.9g/cm
3(実施例3)及び2.8g/cm
3(実施例4)であった。
【0072】
(比較例7)
集電体としてアルミニウム集電体を使用し、温間加圧成形時の圧力を500MPaに変更した以外は実施例2と同様にして、厚み25μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記アルミニウム集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.7g/cm
3であった。
【0073】
(比較例8〜11)
得られる正極材の厚みが10μm(比較例8)、20μm(比較例9)、35μm(比較例10)又は40μm(比較例11)となるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は比較例7と同様にして、所定の厚みの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記アルミニウム集電体とを備える電極を得た。これらの電極中の正極材の密度を測定したところ、3.8g/cm
3(比較例8)、3.8g/cm
3(比較例9)、3.7g/cm
3(比較例10)、3.6g/cm
3(比較例11)であった。
【0074】
(比較例12)
集電体としてステンレス(SUS316)集電体を使用した以外は実施例2と同様にして、厚み25μmの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ステンレス集電体とを備える電極を得た。この電極中の正極材の密度を測定したところ、3.0g/cm
3であった。
【0075】
(比較例13〜15)
得られる正極材の厚みが20μm(比較例13)、35μm(比較例14)又は50μm(比較例15)となるように、所定量の前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体粉末のエタノール分散液を滴下した以外は比較例7と同様にして、所定の厚みの前記LCO/LLZOナノヘテロ構造体からなる正極材と前記ステンレス集電体とを備える電極を得た。これらの電極中の正極材の密度を測定したところ、3.1g/cm
3(比較例13)、3.0g/cm
3(比較例14)、2.9g/cm
3(比較例15)であった。
【0076】
<放電容量測定>
実施例及び比較例で得られた各電極を正極として、リチウム金属箔(φ14mm×0.4mm)を負極として用い、これらの電極によりポリエチレンオキサイド(PEO)にリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をドーピングしたポリマー電解質(φ14mm×1mm)を挟持し、電池セルを作製した。この電池セルの放電容量をサイクリックボルタメトリー(CV)により3V〜4.2Vの範囲をスキャンレート0.05mV/秒で測定し、得られた電極の正極材の厚みに対してプロットした結果を
図6〜
図7に示す。
【0077】
図6に示した結果から明らかなように、実施例1と比較例1とを対比すると、温間圧力成形した後、アニール処理を施すことによって、放電容量が約2倍に増大することがわかった。また、温間圧力成形した後、アニール処理を施した場合(実施例1)には、温間圧力成形した後、ホットプレス処理を施した場合(比較例2)及び温間圧力成形及びアニール処理の代わりにホットプレス処理を施した場合(比較例3〜6)に比べて、放電容量が大きくなることがわかった。
【0078】
また、
図7に示した結果から明らかなように、同じ正極材厚みで比較すると、集電体としてニッケル集電体を使用した場合(実施例2〜4)には、アルミニウム集電体を使用した場合(比較例7〜11)及びステンレス集電体を使用した場合(比較例13〜15)に比べて、放電容量が大きくなることがわかった。