(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水源側の1または複数のローラと、印刷部側のローラと、湿し水量調整装置とを備え、水源側のローラから印刷部側のローラに湿し水が転写されるようになされている印刷機の湿水装置であって、
湿し水量調整装置は、ローラの軸方向に並んで配置されてそれぞれが1つのエア吹出し部を形成する複数のエア供給ボックスと、いずれかのエア供給ボックスにエアを供給するエア供給管と、いずれかのエア供給ボックスからエアを抜き出すエア排出管とを備え、
各エア供給ボックスは、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア供給管を介してエアが供給されるエア供給室と、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア排出管を介してエアが排出されるエア排出室と、隣り合うエア供給ボックスと隔壁によって仕切られており、エア供給室内のエアをローラの外周面に沿って通過させ、エア排出室内に送るエア通路とを有しており、
エア通路途中に、エア量を増減させる弁機構が設けられていることを特徴とする印刷機の湿水装置。
各エア供給ボックスのエア供給室に、連通孔が形成された仕切り壁が設けられており、弁機構は、連通孔の全部を閉鎖する位置、連通孔の一部を閉鎖する位置および連通孔の全部を開放する位置に移動可能な栓体と、栓体を移動させる栓体駆動装置とを備えていることを特徴とする請求項1の印刷機の湿水装置。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されている印刷機の湿水装置では、例えばローラの軸方向長さよりも小さい幅の印刷物に印刷する場合、ローラの両端部に湿し水が多く存在することで、印刷物の両端部近傍でインクが乳化を起こし、インキが跳んだり、インキの粘性が無くなるなどの問題があった。また、絵柄面積が左側半部と右側半部で大きく相違しているなどの場合においても、絵柄面積が少ない側で同様の問題があった。
【0007】
特許文献2に示されている印刷機の湿水装置では、各水移しローラごとに湿し水の量が制御されることで、好ましい湿し水の供給が可能となり、上記問題が解消する。
【0008】
しかしながら、既存の印刷機の湿水装置では、ローラは、軸方向に分割されておらず、このような軸方向に分割されていないローラを使用する印刷機の湿水装置においても、適切に湿し水を供給することが望まれている。
【0009】
また、湿し水は、インキ供給量に対応して制御されることが好ましいが、インキ供給装置と湿水装置とは、構造が異なることから、従来、そのような制御は行われていなかった。
【0010】
特許文献3のようにローラの軸方向に複数並んで配置されてローラにエアを吹き付けるエア吹出し部を備えているようにすることで、軸方向に分割されていないローラを使用する印刷機の湿水装置においても、湿し水量の軸方向の分布を変更できるが、単にエアを吹き付けるだけでは、特許文献2と同様の性能が得られないという問題があった。
【0011】
この発明の目的は、適切な湿し水の供給を可能とする印刷機の湿水装置を提供することにある。
【0012】
この発明の他の目的は、上記の印刷機の湿水装置を備え、湿し水がインキ供給量に対応して制御される印刷機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による印刷機の湿水装置は、水源側の1または複数のローラと、印刷部側のローラと、湿し水量調整装置とを備え、水源側のローラから印刷部側のローラに湿し水が転写されるようになされている印刷機の湿水装置であって、湿し水量調整装置は、
ローラの軸方向に並んで配置されてそれぞれが1つのエア吹出し部を形成する複数のエア供給ボックスと、いずれかのエア供給ボックスにエアを供給するエア供給管と、いずれかのエア供給ボックスからエアを抜き出すエア排出管とを備え、各エア供給ボックスは、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア供給管を介してエアが供給されるエア供給室と、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア排出管を介してエアが排出されるエア排出室と、隣り合うエア供給ボックスと隔壁によって仕切られており、エア供給室内のエアをローラの外周面に沿って通過させ、エア排出室内に送るエア通路とを有しており、エア通路途中に、エア量を増減させる弁機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、印刷部側のローラは、版胴に当接するもの(水着けローラと称されているローラ)をいい、水源側の1または複数のローラは、版胴に当接するローラを除いたローラ(一部が水タンク内にある水元ローラおよび水着けローラと水元ローラとの間に設けられた1または複数の水移し用ローラのいずれか)をいうものとする。
【0015】
エアが吹き付けられることで、エアが吹き付けられたローラの部分に付着している湿し水の量が減少する。ローラへのエア吹付け量を絵柄に応じて調整することで、印刷品質が向上する。各エア吹出し部がローラの外周面に沿ってエアを流すエア吹付け通路を有していることで、エアがスムーズに流れ、調整を精度よく行うことができる。
【0016】
弁機構としては、例えば、開閉量が制御可能な流量制御弁を使用することができる。弁機構は、これに限定されるものではなく、エア通路の全部を閉鎖する状態から、エア通路の一部を閉鎖する状態に移行し、さらにエア通路の全部を開放する状態に移行可能(この逆の移行も可能)とするものであればよい。
【0017】
複数のエア吹出し部は、絵柄面積に適切に対応するために、互いに隣接するように軸方向に沿って設けられていることが好ましい。エア吹出し部は、例えば、印刷物の両端部で特に起こりやすい湿し水量過多に対応するために、ローラの両端部にだけ配置するようにしてもよい。
【0018】
各エア吹出し部は、流量制御弁を介してエア導入管に接続されていることがある。
【0019】
流量調整弁の開閉量が調整されることで、エアの吹付け量が増減し、エアの吹付け量を多くすることで、湿し水の量を減少することができ、エアの吹付け量を少なくすることで、湿し水の量を増大することができる。流量調整弁としては、例えば、弁体が流路の方向と交差する方向に回転するバタフライ弁、ボール弁などの回転弁が使用されるが、回転弁に限られるものではない。流量調整弁は、流路の開閉度合いを電気的に制御可能な電動バルブであることが好ましい。流量調整弁の開閉量は、インキ量を制御するインキ供給装置のデータ、印刷物の送り速度、ローラの回転速度などに基づいて制御することが好ましく、電動バルブとすることで、流量調整弁のこのような制御が容易となる。
【0020】
各エア吹出し部は、吸引装置に接続されたエア排出管に接続されていることがある。
【0021】
このようにすると、複数のエア吹出し部が隣接するように設けられている場合であっても、吹き出したエア同士が互いに干渉することなく、精度のよいエア吹付け量の調整が可能となる。
【0022】
エアを流す方向は、ローラの回転方向と同じ方向であってもよいが、ローラの回転方向と逆の方向とすることが好ましい。
【0023】
湿し水量調整装置は、ローラの軸方向に並んで配置されてそれぞれが1つのエア吹出し部を形成する複数のエア供給ボックスと、いずれかのエア供給ボックスにエアを供給するエア供給管と、いずれかのエア供給ボックスからエアを抜き出すエア排出管とを備え、各エア供給ボックスは、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア供給管を介してエアが供給されるエア供給室と、隣り合うエア供給ボックスに連通してエア排出管を介してエアが排出されるエア排出室と、隣り合うエア供給ボックスと隔壁によって仕切られており、エア供給室内のエアをローラの外周面に沿って通過させ、エア排出室内に送るエア通路とを有しており、エア通路途中に、エア量を増減させる弁機構が設けられていることがある。
【0024】
エア供給ボックスのエア供給室は、隣り合うもの同士が連通させられることで、エア導入管の機能を果たすことになり、エア導入管を省略することができる。同様に、エア供給ボックスのエア排出室は、隣り合うもの同士が連通させられることで、エア排出管の機能を果たすことになり、エア排出管を省略することができる。こうして、各エア吹出し部にエアを供給するための導入管およびエア排出管が不要となり、湿し水量調整装置をコンパクトなものにすることができる。
【0025】
エア供給ボックスを備えた湿し水量調整装置において、各エア供給ボックスのエア供給室に、連通孔が形成された仕切り壁が設けられており、弁機構は、連通孔の全部を閉鎖する位置、連通孔の一部を閉鎖する位置および連通孔の全部を開放する位置に移動可能な栓体と、栓体を移動させる栓体駆動装置とを備えていることがある。
【0026】
栓体は、連通孔の中心を通る円周に沿って移動する円板状のものであってもよく、連通孔と同心の軸線に沿って移動する円錐状のものであってもよい。栓体駆動装置は、例えば、サーボモータとされるが、サーボモータに限定されるものではない。
【0027】
上記の湿水装置を備えた印刷機におけるインキ供給装置は、限定されるものではなく、分割された複数のインキ呼び出しローラを備え、各インキ呼び出しローラがインキ壺ローラに接触する時間の調整によってインキ壺内よりインキ壺ローラに供給されるインキの量を調整するものであってもよく、インキ壺キーを複数備え、インキ壺キーの開き量の調整によってインキ壺内よりインキ壺ローラに供給されるインキの量を調整するものであってもよく、その他の公知のインキ供給装置であってもよい。いずれにしろ、インキ供給量の制御と湿し水量の制御とが関連付けられて制御されることが好ましい。
【0028】
各インキ呼び出しローラがインキ壺ローラに接触する時間の調整によってインキの量を調整するインキ供給装置と組み合わされる場合に、湿水装置のエア吹出し部の数とインキ供給装置のインキ呼び出しローラの数とを同じとするとともに、エア吹出し部におけるエア流量の制御に際して、インキ供給装置における制御データを使用することにより、湿し水量をインキ供給量に対応するように制御することができ、印刷品質を大幅に向上させることができる。
【0029】
このような印刷機は、例えば、インキ供給装置および湿水装置を備えた印刷機であって、インキ供給装置は、インキ壺を構成するインキ壺ローラに近接して、インキ壺ローラの長さ方向に分割された複数のインキ呼び出しローラが配置され、各インキ呼び出しローラは、インキ壺ローラに接触する呼び出し位置とインキ壺ローラから離れる非呼び出し位置とに個別に切換弁のオン・オフによって切り換えられるようになされており、インキ供給装置の制御装置は、インキ量の目標値が設定される目標値設定手段と、目標値設定手段に設定されたインキ量の目標値に応じて切換弁のオン・オフの時間を決定する切換弁オン・オフ演算手段とを備え、湿水装置が上記いずれかのものとされるとともに、そのエア吹出し部の数がインキ呼び出しローラの数と同じとされて、各エア吹出し部は、駆動装置を駆動させて吹き出し量が調整されるものとされており、湿水装置の制御装置は、インキ供給装置の制御装置の目標値設定手段に蓄えられている目標値を使用して、駆動装置を制御することを特徴とするものとされる。
【発明の効果】
【0030】
この発明の印刷機の湿水装置によれば、上記のように、印刷物の幅方向の位置によって部分的に湿し水の量を調整することができ、適切な湿し水の供給が可能となる。また、各エア吹出し部がローラの外周面に沿ってエアを流すエア吹付け通路を有していることで、エアがスムーズに流れ、調整を精度よく行うことができる。
【0031】
この発明の印刷機によれば、インキ供給量の調整の精度が高いインキ供給装置と湿し水の調整の精度が高い上記の湿水装置とが組み合わされて、湿し水がインキ供給量に対応して制御され、これにより、印刷品質の大幅な向上が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、
図1および
図2を参照して、この発明の1実施形態について説明する。以下の説明において、
図1の左を前、同右を後というものとする。また、
図2の左右を左右というものとする。
【0035】
図1および
図2に示すように、印刷機の湿水装置(1)は、水源である水タンク(4)と、水タンク(4)側の水元ローラ(5)と、印刷部の版胴(2)側の水着けローラ(6)と、水元ローラ(5)と水着けローラ(6)との間に設けられた2つの水移し用ローラ(7)(8)と、一方の水移し用ローラ(8)に設けられた湿し水量調整装置(9)とを備えている。
【0036】
図示省略するが、版胴(2)の版面に接触してインキを供給するインキ着けローラが設けられており、インキ壺にあるインキが、インキ元ローラ、インキ呼び出しローラ、複数のインキ練りローラおよびインキ往復ローラなどを介してインキ着けローラに伝えられ、版胴(2)の版面に供給される。印刷部において、インキ装置から版胴(2)の版面に供給されたインキが直接またはゴム胴などの他の胴もしくはローラなどを介して印刷用紙などの被印刷体に転写され、印刷物が得られる。
【0037】
版胴(2)の版面へのインキの供給とともに、水タンク(4)内の水が、水元ローラ(5)、水移し用ローラ(7)(8)および水着けローラ(6)を介して湿し水として版胴(2)の版面に供給される。湿し水は、印刷物の品質に与える影響が大きいことから、適正に供給されることが課題となっている。
【0038】
版胴(2)、水元ローラ(5)、水移し用ローラ(7)(8)および水着けローラ(6)は左右方向(水平方向)にのびている。水着けローラ(6)は、版胴(2)の後方に配置されている。水元ローラ(5)は、金属製、水着けローラ(6)は、ゴム製とされており、水移し用ローラ(7)(8)は、一方のローラ(7)が金属製で、他方のローラ(8)がゴム製とされている。
【0039】
水元ローラ(5)、水移し用ローラ(7)(8)および水着けローラ(6)は、左右両端部において印刷機のフレームに回転自在に支持され、図示しない駆動装置により、互いに同期した所定の回転速度で
図1の矢印方向に連続回転させられる。水元ローラ(5)は、下部が水タンク(4)内の水に浸かった状態で常時回転し、水着けローラ(6)は、版胴(2)の版面に接触した状態で常時回転している。
【0040】
湿し水量調整装置(9)は、水移し用ローラ(8)の軸方向に複数並んで配置されたエア吹出し部(11)を有しており、各エア吹出し部(11)からのローラへのエア吹付け量をそれぞれ別個に制御することで、湿し水の水移し用ローラ(8)の軸方向における分布を制御している。これにより、印刷物の幅方向の位置によって水着けローラ(6)の軸方向における湿し水の量が調整される。
【0041】
エア吹出し部(11)は、先端部が水移し用ローラ(8)の外周に当接する1対の側壁(21)(22)と、1対の側壁(21)(22)間に配置されて、水移し用ローラ(8)の外周および1対の側壁(21)(22)との間にエア通路(24)を形成する通路形成ブロック(23)とを有している。
【0042】
通路形成ブロック(23)は、水移し用ローラ(8)の外周に所定間隔をおいて対向する曲面状の対向面(23a)と、1対の側壁(21)(22)に対向する1対の平面状の対向面(23b)(23c)とを有している。
【0043】
一方の側壁(21)と一方の平面状の対向面(23b)とによって形成された通路(24a)は、その開口部に流量調整弁(弁機構)(26)を介してエア導入管(25)の一端が接続されていることで、導入側通路(24a)とされている。エア導入管(25)の他端は、導入側連結管(27)に連結され、導入側連結管(27)が図示省略した高圧のエア供給源に接続されている。
【0044】
流量調整弁(26)は、例えば、ボール弁などの回転弁であって、流路の開閉度合いを電気的に制御可能な電動バルブとされるが、これに限定されるものではなく、エア通路(24)の全部を閉鎖する状態から、エア通路(24)の一部を閉鎖する状態に移行し、さらにエア通路(24)の全部を開放する状態に移行可能(この逆の移行も可能)とする弁機構であればよい。
【0045】
他方の側壁(22)と他方の平面状の対向面(23c)とによって形成された通路(24a)は、その開口部にエア排出管(28)の一端が接続されていることで、排出側通路(24c)とされている。エア排出管(28)の他端は、排出側連結管(29)に連結され、排出側連結管(29)は、排出側連結管(29)内のエアを強制的に吸引する吸引ファン(吸引装置)(30)に接続されている。
【0046】
導入側通路(24a)および排出側通路(24c)は、互いに平行で、いずれも、水移し用ローラ(8)の軸方向に平行な線と直交する方向に伸びている。
【0047】
水移し用ローラ(8)の外周と曲面状の対向面(23a)とによって形成された通路(24b)は、導入側通路(24a)と排出側通路(24c)との間にあって、水移し用ローラ(8)の回転方向と同じ方向に水移し用ローラ(8)の外周面に沿ってエアを流す断面が円弧状のエア吹付け通路(24b)とされている。
【0048】
こうして、エア吹出し部(11)には、一方の側壁(21)と一方の平面状の対向面(23b)とによって形成された導入側通路(24a)からエアが流入して、水移し用ローラ(8)の外周と曲面状の対向面(23a)とによって形成されたエア吹付け通路(24b)を流れた後、他方の側壁と他方の平面状の対向面との間とによって形成された排出側通路(24c)から流出する略U字状のエア通路(24)が形成されている。
【0049】
複数のエア吹出し部(11)は、互いに隣接するように設けられているが、エア通路(24)が上記のように形成されていることで、略U字状のエア通路(24)から吹き出したエア同士が互いに干渉することはない。
【0050】
流量調整弁(26)の開閉量は、制御盤(制御装置)(31)によって制御される。この制御装置(31)は、インキ量を制御するインキ供給装置のデータ、印刷物の送り速度、各ローラ(5)(6)(7)(8)の回転速度などに基づいて、流量調整弁(26)の開閉量を制御する。
【0051】
エアが吹き付けられることで、エアが吹き付けられた水移し用ローラ(8)の部分に付着している湿し水の量が減少する。したがって、エア吹出し部(11)におけるローラへのエア吹付け量を絵柄面積に応じて調整することで、適切な湿し水の供給が可能となり、印刷品質が向上する。
【0052】
流量調整弁(26)の開閉量が調整されることで、エアの吹付け量が増減する。そして、エアの吹付け量を多くすることで、湿し水の量を減少することができ、エアの吹付け量を少なくすることで、湿し水の量を増大することができる。
【0053】
こうして、上記の印刷機の湿水装置(1)によると、水着けローラ(6)から版胴(2)の版面に供給される湿し水の量が個別にエア吹付け量が調整されたエア吹出し部(11)によって調整される。このため、印刷物の幅や絵柄面積に応じて印刷物の幅方向における湿し水の量を調整することができる。したがって、印刷物の幅方向におけるインキ量制御に対応して、印刷物の幅方向に対応する水着けローラ(6)の軸方向位置における湿し水の量が調整され、好ましいインキ量の供給に応じた好ましい湿し水の供給が可能となる。これにより、印刷物の幅方向の位置によって部分的に湿し水の量を調整することができ、印刷物の両端部または絵柄面積の分布が左右で大きく異なる場合などで特に起こりやすい品質の劣化を防止することができる。
【0054】
なお、
図1において、エアを流す方向は、水移し用ローラ(8)の回転方向と同じ方向とされているが、エアを流す方向は、水移し用ローラ(8)の回転方向と逆の方向とすることが好ましい。すなわち、エア導入管(25)、流量調整弁(26)および導入側連結管(27)からなるエア導入ユニットと、エア排出管(28)、排出側連結管(29)および吸引ファン(吸引装置)(30)からなるエア排出ユニットとを交換する方が好ましい。
【0055】
上記湿水装置(1)が使用される印刷機のインキ供給装置(90)は、例えば、
図3に示すように、インキ壺(91)を構成するインキ壺ローラ(92)に近接して、インキ壺ローラ(92)の長さ方向に分割された複数のインキ呼び出しローラ(93)が配置され、各インキ呼び出しローラ(93)が、インキ壺ローラ(92)に接触する呼び出し位置とインキ壺ローラ(92)から離れてインキ練りローラ(94)に接触する非呼び出し位置とに個別に切り換えられるようになされ、所定の間隔をおいた呼び出しタイミングごとに、所要のインキ呼び出しローラ(93)の位置を切り換えてインキを呼び出し、インキ呼び出しローラ(93)ごとに、インキ壺ローラ(92)に接触してから離れるまでのインキ壺ローラ(92)の回転角度を制御することにより、インキ壺ローラ(92)からインキ呼び出しローラ(93)に呼び出すインキの周長(1回転における接触長)を制御するようになされている。
【0056】
このようなインキ供給装置(90)によると、印刷物の絵柄により幅方向の位置によって最適なインキ量が異なることに応じて、インキ呼び出しローラ(93)ごとにインキ量が制御され、これにより、インキ量の制御の精度が向上する。
【0057】
図4に、湿し水装置(1)の制御装置(31)を示す。湿し水装置(1)の制御装置(31)は、インキ供給装置用制御装置(10)と中継コンバータを介して接続されており、インキ供給装置用制御装置(10)におけるインキ制御データ(グラフ値およびその他必要なデータ)をインキ供給装置用制御装置(10)から受信して湿し水量の制御を行う。
【0058】
インキ供給装置(90)では、上記のように、接触回転角度の制御は、インキ呼び出しローラ(93)に対する呼び出し位置への切り換え指令(接触指令)を出力してから非呼び出し位置への切り換え指令(非接触指令)を出力するまでの時間(接触指令時間)を制御することにより行われ、インキ呼び出しローラ(93)の位置の切換えは、切換弁(95)のオン・オフによって行われる。その結果、印刷面に供給されるインキ量がその幅方向の位置によって調節される。
【0059】
インキ供給装置用制御装置(10)は、インキ量の目標値が設定される目標値設定手段(96)と、目標値設定手段(96)に設定されたインキ量の目標値に応じて切換弁(95)のオン・オフの時間を決定する切換弁オン・オフ演算手段(97)とを備えている。
【0060】
印刷される絵柄が示されると、絵柄面積読取り装置を使用して絵柄面積率を読み取ることで、インキ供給量に対応するグラフ値が算出され、このグラフ値がインキ呼び出しローラ(93)とインキ壺ローラ(92)との接触長に換算されて、インキ供給の制御に使用される。グラフ値は、各インキ呼び出しローラ(93)ごとに所定の色のインキをどの程度使用するかを示すインキ量の目標値となっており、所定の色を使用しない場合には0%、最大限使用する場合を100%として、%で表示される。したがって、各インキ呼び出しローラ(93)が対応する箇所の絵柄面積に応じて30%、40%、10%などと設定される。この%表示のグラフ値に基づいて、インキ呼び出しローラ(93)の呼び出し時間(インキ壺ローラ(92)とインキ呼び出しローラ(93)との接触時間すなわち切換弁(95)をオンする時間)が制御される。使用される色が8色であれば、8つの版胴(複数のインキ呼び出しローラ(93)からなるユニットが8つ)が使用され、グラフ値は、各色(各版胴=インキ呼び出しローラユニット)ごと各インキ呼び出しローラ(93)ごとに設定される。
【0061】
目標値設定手段(96)においては、インキ呼び出しローラ(93)ごと各色ごとのグラフ値(すなわち目標値)が設定され、この目標値に応じて、第1から第Nまでの呼び出しローラ(93)の接触長の目標値が求められる。
【0062】
切換弁オン・オフ演算手段(97)においては、第1から第Nまでの呼び出しローラ(93)の接触長の目標値が第1から第Nまでの切換弁(95)のオン・オフ時間に換算され、第1から第Nまでの各切換弁(95)に必要なオン・オフ信号を送信する。これによって、第1から第Nまでの各呼び出しローラ(93)ごとに最適な接触長が得られるように制御される。こうして、各色の濃度はどの位置でも一定となるように制御される。
【0063】
湿水装置(1)の各流量調整弁(26)は、例えば、それぞれサーボモータ(32)に駆動されるものとされる。そして、湿水装置(1)の制御装置(31)は、モータ回転量演算手段(33)を備えているものとされる。ここで、湿水装置(1)の制御装置(31)は、専用の目標値設定手段を備えておらず、インキ供給装置用制御装置(10)に中継コンバータなどを介して接続されて、第1から第Nまでの呼び出しローラ(93)の接触長の目標値またはこれの計算に使用される絵柄面積の目標値などのインキ供給量制御データをインキ供給装置用制御装置(10)から受信する。
【0064】
モータ回転量演算手段(33)においては、第1から第Nまでの各呼び出しローラ(93)に対応するインキ供給量制御データから第1から第Nまでの流量調整弁(26)の開閉量に対応する第1から第Nまでのサーボモータ(32)のモータ回転量が求められ、これによって、第1から第Nまでの各流量調整弁(26)ごとに最適なエア流量が得られる。
【0065】
図5から
図18までには、この発明による印刷機の湿水装置の第2実施形態を示す。第2実施形態のものは、第1実施形態とは湿し水量調整装置が相違しており、以下では、湿し水量調整装置(40)について詳述する。
【0066】
この実施形態の湿し水量調整装置(40)は、
図5に示すように、左右に並んで配置された複数のエア供給ボックス(41)と、いずれかのエア供給ボックス(41)にエアを供給するエア供給管(42)と、いずれかのエア供給ボックス(41)からエアを抜き出すエア排出管(43)と、各エア供給ボックス(41)ごとに設けられた弁機構(44)とを備えている。
【0067】
なお、エア供給ボックス(41)は、図示簡略化するために、計3つだけ示しているが、印刷対象に応じて、適宜その数が設定される。
【0068】
エア供給ボックス(41)が後述する形状とされていることで、各エア供給ボックス(41)内には、第1室(エア供給室)(57)から連通孔(64)を通過して第2室(エア吹出し部)(58)に入り、エア吹出し部(58)のエア吹出し口(65)から吹き出されたエアが水移し用ローラ(8)に沿う第3室(エア吹き付け通路)(59)を通過して、第4室(エア排出室)(60)に通じるエア送り口(66)から排出される略U字状のエア通路が形成されており、連通孔(64)の開口量が弁機構(44)によって調整されるようになされている。
【0069】
ここで、水移し用ローラ(8)の回転方向が時計回りであるのに対し、この回転方向とは逆向きに、すなわち、水移し用ローラ(8)の外周面に沿って反時計回りに進むように、水移し用ローラ(8)上の湿し水にエアが吹き付けられる。
【0070】
各エア供給ボックス(41)は、
図6から
図12までに示すように、一端が水移し用ローラ(8)に臨まされる1対の側壁(第1側壁(51)および第2側壁(52))と、1対の側壁(51)(52)の一端近傍同士を連結する曲面状の底壁(53)と、1対の側壁(51)(52)の他端同士を連結する平坦状の頂壁(54)とからなり、左右両面が開放されたケーシング(50)を有している。
【0071】
第1側壁(51)の一端部には、水移し用ローラ(8)に近い第1屈曲部(51a)と、第1屈曲部(51a)に連なる第2屈曲部(51b)とが設けられており、第2側壁(52)の一端部には、第1屈曲部(52a)だけが設けられている。各側壁(51)(52)の第1屈曲部(51a)(52a)は、0.5mm程度の僅かな間隔が水移し用ローラ(8)との間に存在するように、水移し用ローラ(8)に臨まされている。底壁(53)は、2mm程度のエア通過可能な間隔が水移し用ローラ(8)との間に存在するように、水移し用ローラ(8)に臨まされている。頂壁(54)には、モータ取付用貫通孔(54a)が設けられている。
【0072】
ケーシング(50)には、各側壁(51)(52)に平行に配置されてケーシング(50)内を第1側壁側の部分と第2側壁側の部分との2つに分ける第1仕切り壁(55)と、第1側壁(51)と第1仕切り壁(55)との間にこれらに直交するように配置されてケーシング(50)内の第1側壁側の部分を頂壁側の部分と底壁側の部分との2つに仕切る第2仕切り壁(56)とが設けられている。
【0073】
これにより、エア供給ボックス(41)は、第1側壁(51)の頂壁側の部分、頂壁(54)の第1側壁側の部分、第1仕切り壁(55)の頂壁側の部分および第2仕切り壁(56)に囲まれた第1室(57)と、第1側壁(51)の底壁側の部分、第2仕切り壁(56)、第1仕切り壁(55)の底壁側の部分および底壁(53)の第1側壁側の部分に囲まれた第2室(58)と、底壁(53)、第1側壁(51)の第1屈曲部(51a)および第2側壁(52)の第1屈曲部(52a)に囲まれた第3室(59)と、第2側壁(52)、頂壁(54)の第2側壁側の部分、第1仕切り壁(55)および底壁(53)の第2側壁側の部分に囲まれた第4室(60)とに分けられている。
【0074】
第4室(60)は、左右方向からみて水移し用ローラ(8)の外周面に沿う円弧状に形成されている。
【0075】
左右に隣り合うエア供給ボックス(41)の境界部分には、隣り合う第2室(58)同士を仕切る第1隔壁(61)と、隣り合う第3室(60)同士を仕切る第2隔壁(62)とが設けられている。
【0076】
左端にあるエア供給ボックス(41)の左の開口は、左の蓋(63)によって閉鎖されている。
【0077】
左の蓋(63)には、左端にあるエア供給ボックス(41)の第1室(57)に連通する貫通孔(63a)および左端にあるエア供給ボックス(41)の第4室(60)に連通する貫通孔(63b)が設けられている。第1室(57)に連通する貫通孔(63a)の縁部にエア供給管(42)の一端部が接続されており、エア供給管(42)の他端部はエア源(図示略)に接続されている。第4室(60)に連通する貫通孔(63b)の縁部にエア排出管(43)の一端部が接続されており、エア排出管(43)の他端部は吸引ファン、真空ポンプなどの吸引装置(図示略)に接続されている。
【0078】
第2仕切り壁(56)の中央部には、第1室(57)と第2室(58)とを連通する断面円形の連通孔(64)が設けられている。底壁(53)の第1側壁側の部分には、第2室(58)内のエアをローラに向けて吹き出す断面長方形のエア吹出し口(65)が第1側壁(51)に接するように設けられている。底壁(53)の第2側壁側の部分には、ローラに吹き付けられたエアを第4室(60)内に送る断面長方形のエア送り口(66)が第2側壁(52)に接するように設けられている。
【0079】
こうして、エア供給ボックス(41)内には、
図5に示したように、エア供給管(42)に通じている第1室(57)(すなわち、エア供給室(57))内のエアが、第2仕切り壁(56)の連通孔(64)を通過して、第2室(58)(すなわち、エア吹出し部(58))に拡がりながら流入し、第2室(58)のエア吹出し口(65)(すなわち、エア吹出し口(65))から出て、第3室(60)内(すなわち、エア吹き付け通路(59))に入り、第3室(60)内において水移し用ローラ(8)の外周面に沿って通過し、エア送り口(66)からエア排出管(43)に通じている第4室(60)(すなわち、エア排出室(60))内に流入する略U字状のエア通路が形成されている。
【0080】
各エア供給ボックス(41)の第1室(57)同士および第4室(60)同士は、互いに連通しており、エア供給管(42)によって左端にあるエア供給ボックスの第1室(57)に供給されたエアは、各エア供給ボックスの第1室(57)内に順次供給され、各エア供給ボックスの第4室(60)内にあるエアは、エア排出管(43)によって左端にあるエア供給ボックスの第4室(60)を介して抜き出される。
【0081】
エア供給ボックス(41)は、例えば、隔壁(61)(62)が一体に設けられた合成樹脂製成型品として得ることができ、エア供給ボックス(41)同士を接着、溶着などによって結合するとともに、両端に接着、溶着などによって蓋(63)を固定することで多数のエア供給ボックス(41)が一体化されて両端が閉鎖されたエア供給ユニットを得ることができる。
【0082】
各エア供給ボックス(41)内に配置されている弁機構(44)について、
図13から
図17までを参照して説明する。なお、以下の弁機構(44)の説明においては、便宜上、エア供給ボックス(41)のケーシング(50)の頂壁側を上、底壁側を下というものとする。
【0083】
弁機構(44)は、第2仕切り壁(56)の連通孔(64)の開口量を増減して連通孔(64)を通過するエア量を増減するもので、
図13および
図14に示すように、貫通孔(54a)が設けられているケーシング(50)の頂壁(54)に取り付けられたサーボモータ(71)と、ケーシング(50)の頂壁(54)下面に回転可能に取り付けられてサーボモータ(71)によって回転させられる円形の回転板(72)と、回転板(72)の外周縁部に固定されて下方に伸びる偏心軸(73)と、偏心軸(73)の下端部に嵌め入れられた栓体(74)と、偏心軸(73)に嵌め合わされて栓体(74)を下方に付勢する圧縮コイルばね(75)とを備えている。
【0084】
栓体(74)は、円柱状で、その上面に、偏心軸(73)の下端部が嵌め入れられる円柱状の凹所が形成されている。栓体(74)の横断面は、連通孔(64)の径よりも大きい径の円とされている。圧縮コイルばね(75)は、その上面が回転板(72)の下面によって受け止められており、その下面が栓体(74)の上面によって受け止められている。
【0085】
図15は、弁機構(44)の栓体(74)が連通孔(64)を閉鎖しているエア通路閉鎖状態を示している。この状態から、サーボモータ(71)によって回転板(72)が回転させられると、
図16に示すように、回転板(72)の回転に伴って、偏心軸(73)の軸心は、回転板(72)の中心軸(O)を中心とする円周に沿って移動する。この円周は、連通孔(64)の中心線を通っている。
【0086】
したがって、
図15に示すように、偏心軸(73)の軸心が連通孔(64)の中心線と一致したとき、連通孔(64)は栓体(74)によって完全に閉じられ、この場合には、湿し水にエアが吹き付けられることはなく、湿し水量が最大になる。
【0087】
そして、
図17に示すように、回転板(72)が
図15に示す位置から150°回転すると、栓体は連通孔(64)から完全に外れる。この場合には、湿し水に吹き付けられるエア量が最大となり、湿し水量が最小になる。
【0088】
こうして、水移し用ローラ(8)の回転方向とは逆向きに湿し水にエアが吹き付けられるとともに、連通孔(64)の開口量が弁機構(44)によって増減されることで、エア供給ボックス(44)の幅に対応する水移し用ローラ(8)の幅ごとに湿し水量を調整することができる。また、各エア供給ボックス(41)の曲面状の底壁(53)によって、水移し用ローラ(8)の外周面に沿ってエアを流すエア吹き付け通路(59)が形成されているので、エアがスムーズに流れ、調整を精度よく行うことができる。
【0089】
なお、上記において、湿し水量調整装置(9)(40)は、水移し用ローラ(8)に設けられているが、これに代えて、水元ローラ(5)に設けることもできる。