【実施例】
【0069】
実施例1:CD20に対する典型的な三重特異性抗原結合タンパク質の構築
scFv CD3結合ドメインの生成
ヒトCD3ε鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P07766である。ヒトCD3γ鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P09693である。ヒトCD3δ鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P043234である。CD3ε、CD3γ、又はCD3δに対する抗体を、親和性成熟などの既知の技術を介して生成する。マウス抗CD3抗体を出発物質として使用する場合、マウス抗CD3抗体のヒト化は臨床設定に望ましいものであり、ここでマウスに特異的な残基は、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の処置を受ける被験体においてヒト−抗−マウス抗原(HAMA)応答を誘発し得る。ヒト化は、CDR領域及び/又はフレームワーク領域への他の修飾を随意に含む、適切なヒト生殖系列アクセプター・フレームワーク上にマウス抗CD3抗体からCDR領域を移植することにより、達成される。本明細書で提供されるように、抗体及び抗体フラグメントの残基の番号付けは、Kabat (Kabat E. A. et al, 1991; Chothia et al, 1987)に従っている。
【0070】
それ故、ヒト又はヒト化抗CD3抗体を使用して、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインのためのscFv配列を生成する。ヒト又はヒト化のVL及びVHドメインをコードするDNA配列を獲得し、構成物のコドンを随意に、ホモサピエンス由来の細胞における発現のために最適化する。VLとVHのドメインがscFvに現われる順番を変更し(即ち、VL−VH、又はVH−VLの配向)、「G4S」(SEQ ID NO:58)又は「G
4S」(SEQ ID NO:58)のサブユニット(G
4S)
3(SEQ ID NO:56)の3つのコピーが可変ドメインに結合して、scFvドメインを作成する。抗CD3 scFvプラスミド構築物は、任意のFlag、His、又は他の親和性タグを持つことができ、HEK293、又は他の適切なヒト或いは哺乳動物の細胞株へと電気穿孔され、精製される。検証アッセイは、FACSによる結合解析、Proteonを使用する動力学解析、及びCD3発現細胞の染色を含む。
【0071】
scFv CD20結合ドメインの生成
CD20は、Bリンパ球上に存在する細胞表面タンパク質の1つである。CD20抗原は、正常及び悪性のプレBリンパ球及び成熟Bリンパ球に見出され、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の90%以上においてそれらを含んでいる。抗原は、造血幹細胞、活性化Bリンパ球(形質細胞)、及び正常組織には存在しない。そのため、マウス由来の大半の抗体の一部が記載された:1F5、2B8/C2B8、2H7、及び1H4。
【0072】
CD20に対するscFv結合ドメインを、CD3に対するscFv結合ドメインの生成のための上記方法と同様に生成する。
【0073】
三重特異性抗原結合タンパク質をコードするDNA発現構築物のクローン化
抗CD3 scFvドメインを使用して、抗CD20 scFvドメインとHSA結合ドメイン(例えば、ペプチド又はVHドメイン)と組み合わせて三重特異性抗原結合タンパク質を構築し、ドメインを
図1に示されるように組み立てる。CHO細胞における三重特異性抗原結合タンパク質の発現のために、全てのタンパク質ドメインのコード配列を、哺乳動物発現ベクター系へとクローン化する。簡潔に、ペプチドリンカーL1及びL2と共に、CD3結合ドメイン、HSA結合ドメイン、及びCD20結合ドメインをコードする遺伝子配列を別々に合成し、サブクローン化する。その後、結果として生じる構成物を、「CD20結合ドメイン−L1−CD3結合ドメイン−L2−HSA結合ドメイン」の順で共にライゲートして、最終的な構成物を得る。タンパク質の分泌及び精製をそれぞれ促進するために、N末端シグナルペプチド及びC末端ヘキサヒスチジン(6xHis)−タグのコード配列(SEQ ID NO:59)を含むように、全ての発現構築物を設計する。
【0074】
安定してトランスフェクトされたCHO細胞における三重特異性抗原結合タンパク質の発現
CHO細胞発現系(Flp−In(登録商標), Life Technologies)、CHO−K1チャイニーズハムスター卵巣細胞の誘導体(ATCC、CCL−61)(Kao and Puck, Proc. Natl. Acad Sci USA 1968; 60(4):1275−81)を使用する。Life Technologiesにより提供される標準の細胞培養プロトコルに従って、付着細胞を二次培養する。
【0075】
懸濁液中の成長に対する適応のために、細胞を組織培養フラスコから引き離し、無血清培地に配する。懸濁液に適応した細胞を、10%のDMSOを含む培地に凍結保存する。
【0076】
分泌された三重特異性抗原結合タンパク質を安定して発現させる、組換え型CHO細胞株を、懸濁液に適応した細胞のトランスフェクションにより生成する。抗菌性のヒグロマイシンBでの選択中、生細胞密度を週に2回測定し、細胞を遠心分離し、0.1×10
6生細胞/mLの最大密度で新鮮な選択培地の中で再懸濁する。三重特異性抗原結合タンパク質を安定して発現させる細胞プールを選択の2−3週後に回収し、その時点で細胞は振盪フラスコの標準培地に移される。組換え型分泌タンパク質の発現を、タンパク質のゲル電気泳動又はフローサイトメトリーの実行により確認する。安定した細胞プールを、DMSO含有培地に凍結保存する。
【0077】
三重特異性抗原結合タンパク質を、細胞培養上清への分泌により安定してトランスフェクトされたCHO細胞株の10日間の流加回分培養において生成する。典型的に>75%の培養物の生存率で、細胞培養上清を10日後に採取した。サンプルを一日おきに生成培養物から集め、細胞密度と生存率を評価する。採取の当日、更なる使用の前に、細胞培養上清を遠心分離と真空濾過により取り除く。
【0078】
細胞培養上清におけるタンパク質発現の力価及び生成物の保全性をSDS−PAGEにより分析する。
【0079】
三重特異性抗原結合タンパク質の精製
三重特異性抗原結合タンパク質から、2工程の手順でCHO細胞培養上清を精製する。構築物を、第1工程で親和性クロマトグラフィーにさらし、第2工程でSuperdex 200の上で分取サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)にさらす。サンプルを緩衝液交換し、限外濾過により濃縮することで>1mg/mLの典型的な濃度とする。最終サンプルの純度及び均質性(典型的に>90%)を、還元条件及び非還元条件下でのSDS PAGE、次いで抗HSA又は抗イディオタイプ抗体を使用する免疫ブロット法、同様に分析SEC、それぞれによって評価した。精製されたタンパク質を、使用するまで−80℃でアリコートとして保存した。
【0080】
実施例2:フローサイトメトリーによる抗原親和性の判定
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、ヒトCD3
+とCD20
+細胞及びカニクイザルCD3
+とCD20
+細胞に対するそれらの結合親和性について試験する。
【0081】
CD3
+及びCD20
+細胞を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の100μLの連続希釈でインキュベートする。FACS緩衝液での3回の洗浄後、細胞を、氷の上で45分間、同じ緩衝液の中、10μg/mLのマウスモノクローナル抗イディオタイプ抗体0.1mLでインキュベートする。2回目の洗浄サイクルの後、細胞を、以前と同じ条件下で15μg/mLのFITC共役ヤギ抗マウスIgG抗体0.1mLでインキュベートする。対照として、細胞を、抗His IgG、その後、三重特異性抗原結合タンパク質が無いFITC共役ヤギ抗マウスIgG抗体でインキュベートする。その後、細胞を再び洗浄し、死細胞を除外するために2μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)を含有する0.2mLのFACS緩衝液中で再懸濁した。1×10
4の生細胞の蛍光を、MXPソフトウェア(Beckman−Coulter, Krefeld, Germany)を使用するBeckman−Coulter FC500 MPLフローサイトメーター、又は、Incyteソフトウェア(Merck Millipore, Schwalbach, Germany)を使用するMillipore Guava EasyCyteフローサイトメーターを用いて測定する。細胞サンプルの平均蛍光強度を、CXPソフトウェア(Beckman−Coulter, Krefeld, Germany)又はIncyteソフトウェア(Merck Millipore, Schwalbach, Germany)を使用して計算する。第二・第三の試薬単独で染色した細胞の蛍光強度値を控除した後、この値を、GraphPad Prism(version 6.00 for Windows, GraphPad Software, La Jolla California USA)の1サイト結合(双曲線)の方程式でのKD値の計算に使用する。
【0082】
CD3結合親和性と交差反応性、CD3
+Jurkat細胞とカニクイザルCD3
+HSC−F細胞株(JCRB,cat.:JCRB1164)上での滴定及びフローサイトメトリー実験において評価する。CD20no結合と交差反応性を、ヒトCD20
+腫瘍細胞株上で評価する。交差反応性のKD比率を、組換え型ヒト抗原又は組換え型カニクイザル抗原を発現させるCHO細胞株上で判定されたKD値を使用して、計算する。
【0083】
実施例3:細胞毒性アッセイ
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、CD20
+標的細胞へのT細胞依存性の細胞毒性の媒介に対して、インビトロで評価する。
【0084】
蛍光標識化CD20
+REC−1細胞(マントル細胞リンパ腫細胞株、ATCC CRL−3004)を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の存在下で、エフェクター細胞として無作為なドナー又はCB15 T細胞(標準化されたT細胞株)の分離されたPBMCで、インキュベートする。37℃で4時間のインキュベーションの後、湿らされたインキュベーターにおいて、標的細胞から上清への蛍光色素の放出を分光蛍光計中で判定する。実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質無しでインキュベートされた標的細胞、及び、インキュベーションの終わりにサポニンの添加により完全に溶解された標的細胞は、負及び正の対照としてそれぞれ役立つ。
【0085】
測定された残る標的生細胞に基づき、特定の細胞溶解のパーセンテージを、以下の式に従い計算する:[1−(生きた標的
(サンプル)の数/生きた標的
(自発性)の数)]×100%。S字状の用量応答曲線とEC50値を、GraphPadソフトウェアを使用して非線形回帰/4つのパラメータのロジスティックフィットにより計算する。与えられた抗体濃度について得られた溶解値を使用して、Prismソフトウェアを用いて4つのパラメータのロジスティックフィット分析によりS字状の用量応答曲線を計算する。
【0086】
実施例4:三重特異性抗原結合タンパク質の薬物動態
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、動物研究において半減期消失について評価する。
【0087】
三重特異性抗原結合タンパク質を、0.5mg/kgのボーラス注射としてカニクイザルの筋肉内に投与する。別のカニクイザル群は、CD3及びCD20に対する結合ドメインを持つがHSA結合を欠いている、同等のサイズのタンパク質を受ける。第3及び第4の群は、CD3とHSAの結合ドメインを持つタンパク質、及びCD20とHSAの結合ドメインを持つタンパク質それぞれを受け、共に、三重特異性抗原結合タンパク質と同等のサイズである。試験群はそれぞれ5匹のサルから成る。血清サンプルを示された時点で得て、連続希釈し、タンパク質の濃度を、CD3及び/又はCD20に対する結合ELISAを使用して判定する。
【0088】
被験物質の血漿濃度を使用して薬物動態解析を行う。各被験物質に関する群平均血漿データは、投薬後の時間(time post−dosing)に対してプロットされた時、多指数のプロファイルに一致する。データは、分布及び消失の段階のために、ボーラス入力及び一次反応速度定数を伴う標準の2つの区画モデルにより適合される。静脈内投与のデータの最良適合に関する一般的な方程式は、次のとおりである:c(t)=Ae
−αt+Be
−βt、ここで、c(t)は時間tでの血漿濃度であり、AとBはY軸上の切片であり、αとβは、それぞれ分布及び消失の段階の明白な一次反応速度定数である。α−段階は、クリアランスの初期段階であり、動物の全ての細胞外液へのタンパク質の分布を反映するが、減衰曲線の第2又はβ−段階部分は真性血漿の除去を表わす。そのような方程式に適合する方法は、当該技術分野で周知である。例えば、A=D/V(α−k21)/(α−β)、B=D/V(β−k21)/(α−β)、及びαとβ(α>βについて)は、V=分布容積、k10=排出速度、k12=区画1から区画2への移送速度、k21=区画2から区画1への移送速度、及びD=投与量の推定されたパラメータを用いる、二次方程式:r
2+(k12+k21+k10)r+k21k10=0のルートである。
【0089】
データ分析:濃度対時間のプロファイルのグラフを、KaleidaGraph (KaleidaGraph(商標) V. 3.09 Copyright 1986−1997. Synergy Software. Reading, Pa.)を使用して作成した。報告可能なものより少ない(LTR)ものとして報告された値は、PK分析には含まれず、図表で表わされない。薬物動態パラメータを、WinNonlinソフトウェア(WinNonlin(登録商標) Professional V. 3.1 WinNonlin(商標) Copyright 1998−1999. Pharsight Corporation. Mountain View, Calif.)を使用したコンパートメント解析により判定する。Ritschel W A and Kearns G L, 1999, IN: Handbook Of Basic Pharmacokinetics Including Clinical Applications, 5th edition, American Pharmaceutical Assoc., Washington, D.Cに記載されるように、薬物動態パラメータを計算する。
【0090】
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質は、HSA結合ドメインを欠くタンパク質と比較して、消失半減期の増加など、薬物動態パラメータを改善したことが予測される。
【0091】
実施例5:異種移植腫瘍モデル
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、異種移植モデルにおいて評価する。
【0092】
メスの免疫不全NOD/scidマウスを亜致死的に照射し(2Gy)、4×10
6のRamos RA1細胞を右背部の速腹部へと皮下に播種させた。腫瘍が100〜200mm
3に到達したら、動物を3つの処置群に割り当てる。群2と3(各々8匹の動物)に、1.5×10
7の活性化ヒトT細胞を腹腔内注射する。3日後、続いて群3の動物を、実施例1の50μgの三重特異性抗原結合タンパク質の合計9回の静脈内投与で処置する(qdx9d)。群1と2をビヒクルのみで処置する。体重と腫瘍容積を30日間測定する。
【0093】
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質で処置した動物は、それぞれのビヒクルで処置した対照群に比べて、腫瘍増殖を統計的に著しく遅延させたことが、予測される。
【0094】
実施例6:B細胞リンパ腫患者に対する実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の投与のための、概念実証の臨床試験プロトコル
これは、B細胞リンパ腫の処置として、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を研究するための第I/II相の臨床試験である。
【0095】
研究目的:
【0096】
第1:実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の最大耐用量
【0097】
第2:実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質のインビトロでの応答が臨床応答に関連するかどうかを判定すること
【0098】
第I相
【0099】
最大耐用量(MTD)を、試験の第I相セクションにおいて判定する。
1.1 最大耐用量(MTD)を、試験の第I相セクションにおいて判定する。
1.2 適格基準を満たす患者を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質に対する試験に参加させる。
1.3 目標は、参加者において重度又は手に余る副作用無しに、安全に投与され得る実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の最高用量を識別することである。与えられた用量は、以前の研究に登録された参加者の数、及び用量にどれくらい十分な耐性があったかに依存する。全ての参加者が同じ用量を受けるとは限らない。
【0100】
第II相
2.1 次の第II相セクションをMTDにおいて処理し、その目標は、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質による治療が、少なくとも20%の応答率を結果としてもたらすかどうかを判定することである。
第II相の第1の目的−−−実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の治療により、少なくとも20%の患者が臨床応答(芽細胞応答、微細な応答、部分応答、又は完全応答)を達成したかどうかを判定すること
【0101】
適格性:
2001〜2007年の、現行のWorld Health Organisation Classificationに従い、組織学的に確認され新たに診断された、活動的なB細胞リンパ腫
疾患の任意のステージ。
R−CHOP又はR−CHOP様のレジメン(+/−移植)による処置。
年齢≧18歳
カルノフスキーパフォーマンスステータス≧50%又はECOGパフォーマンスステータス0−2
平均余命≧6週
【0102】
実施例7:三重特異性抗原結合分子の結合および細胞毒性活性を評価する方法
<タンパク質産生>
三重特異性分子の配列を、リーダー配列が先行し、6xヒスチジンタグ(Histidine Tag)(SEQ ID NO:59)が後続して、哺乳動物発現ベクターpCDNA 3.4(Invitrogen)へとクローン化した。Expi293F細胞(Life Technologies A14527)を、Expi293培地中の0.2−8x1e6細胞/mlでOptimum Growth Flasks (Thomson)において懸濁液中で維持した。精製されたプラスミドDNAを、Expi293 Expression System Kit(Life Technologies A14635)プロトコルに従って、Expi293細胞へトランスフェクトし、トランスフェクション後4−6日間維持した。調整培地を、親和性および脱塩のクロマトグラフィーによって部分的に精製した。続いて、三重特異性タンパク質を、イオン交換によって磨き、または代替的に、Amicon Ultraの遠心濾過ユニット(EMD Millipore)で濃縮し、Superdex 200のサイズ排除培地(GE Healthcare)に適用し、賦形剤を含有している中性緩衝液中に溶解した。フラクションプール(Fraction pooling)および最終的な純度を、SDS−PAGEおよび分析的なSECによって評価した。
【0103】
<親和性測定>
すべての結合ドメイン分子の親和性を、Octetの機器を使用して、バイオレイヤー干渉法によって測定した。
【0104】
PSMA親和性を、120秒間ヒトPSMA−Fcタンパク質(100nM)を抗ヒトIgG Fcバイオセンサー上に充填することによって測定し、続いて、60秒のベースラインで測定し、その後、180秒間三重特異性分子の希釈系列でセンサー先端部をインキュベートすることによって会合を測定し、続いて、50秒間解離した。EGFRおよびCD3の親和性を、120秒間、それぞれ(100nM)、ヒトEGFR−Fcタンパク質またはヒトCD3−Flag−Fcタンパク質を抗ヒトIgG Fcバイオセンサー上へと充填することによって測定し、続いて、60秒のベースラインで測定し、その後、180秒間三重特異性分子の希釈系列でセンサー先端部をインキュベートすることによって会合を測定し、続いて、300秒間解離した。ヒト血清アルブミン(HSA)に対する親和性を、ビオチン化アルブミンをストレプトアビジンバイオセンサー上へと充填することによって測定し、その後、CD3親和性測定と同じ動態パラメーターに従って測定した。すべての工程を、リン酸緩衝食塩水における0.25%のカゼイン中で30℃で実行した。
【0105】
<細胞毒性アッセイ>
腫瘍細胞を死滅させるようにT細胞に指向する、三重特異性分子を含むT細胞エンゲージャー(engagers)の能力を測定するために、ヒトT細胞依存性細胞毒性(TDCC)アッセイが使用される(Nazarian et al. 2015. J Biomol Screen. 20:519−27)。このアッセイにおいて、T細胞および標的癌細胞株の細胞は、384ウェルのプレートにおいて10:1の比率で一緒に混合され、様々な量のT細胞エンゲージャーが加えられる。48時間後、T細胞は洗浄され、T細胞によって死滅されなかったプレート標的細胞に結合されたままにされる。残りの生細胞を定量化するために、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)が使用される。
【0106】
<サイトカインアッセイ>
T細胞が標的細胞の存在下で三重特異性分子によって活性化されるという証拠を得るために、TNFアルファおよびインターフェロンガンマのためのAlphaLISAアッセイ(Perkin Elmer)が使用される。このアッセイに関しては、初代ヒトT細胞およびヒト腫瘍細胞が、細胞毒性アッセイ下で記載されるような試験分子の存在下でインキュベートされる。インキュベーションの48時間後、アッセイ上清の2マイクロリットルの分割量が、製造業者の指示に従って分析される。
【0107】
<拡散アッセイ>
マトリゲル(Matrigel)(75μL)の層を、24ウェルのトランスウエル(Transwell)のインサート(0.4μm)に加え、その後、PBSを、上部および下部のチャンバーに加え(それぞれ、100μLおよび1025μL)、4℃で一晩平衡化した。100pmolのIgGまたはFab(ヤギ抗ヒトFc、Jackson ImmunoResearch)三重特異性分子を、上部チャンバーに加え、下部チャンバーへの各分子の拡散を、各分子に特異的なELISAによって経時的に定量化した。IgGおよびFabを、ELISAプレート上で固定されたロバ抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)によって捕捉し、ホースラディッシュペルオキシダーゼが抱合したロバ抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)およびTMB開発で検出した。三重特異性分子を、ELISAプレート上で固定されたヒト血清アルブミン(Athens Research & Technology)によって捕捉し、ホースラディッシュペルオキシダーゼが抱合した抗His抗体(Genscript)およびTMB開発で検出した。
【0108】
各時間点での相対的拡散を、次のように計算した:(時間=tでの下部チャンバーにおける濃度)/(時間=tでの上部チャンバーにおける濃度)
【0109】
IgG分子とFabまたは三重特異性分子との間の拡散の統計的有意差を、独立t検定を使用して特定した。
【0110】
実施例8:EGFR標的化三重特異性分子のための親和性測定
EGFR標的化分子における3つの結合ドメインの親和性を、Octetの機器を使用してバイオレイヤー干渉法によって測定し、表1に要約する。
【0111】
EGFR結合ドメインが分子のN末端で位置付けられる三重特異性分子は、中央またはC末端位置においてEGFR結合ドメインを含有していた三重特異性分子と比較して、EGFRに対する著しくより高い親和性を示した。同様に、N末端でアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子も、中間またはC末端位置においてアルブミンを含有している三重特異性分子よりHSAに対するより高い親和性を示した。対照的に、すべての三重特異性分子は、三重特異性分子内の結合ドメインの位置とは無関係に、ヒトCD3に対する非常に類似した親和性を示した。
【0112】
実施例9:PSMA標的化三重特異性分子のための親和性測定
PSMA標的化分子における3つの結合ドメインの親和性を、Octetの機器を使用してバイオレイヤー干渉法によって測定し、表2に要約する。
【0113】
N末端でアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子は、中間またはC末端位置においてアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子よりHSAに対する高い親和性を有した。対照的に、CD3結合ドメインの位置は、その標的に対する親和性に影響を与えなかった。同様に、PSMA結合ドメインの位置は、親和性に対する影響をほとんど与えず、すべての三重特異性分子が、互いに3倍以内のヒトPSMAに対する親和性を有していた。
【0114】
実施例10:三重特異性分子を用いる細胞毒性アッセイ
三重特異性分子を、T細胞依存性細胞毒性(TDCC)アッセイにおいて、腫瘍標的依存的な方法でヒト腫瘍細胞を死滅させるように初代ヒトT細胞を誘導する、それらの能力に関して試験した。
【0115】
EGFRまたはPSMAに対する単一ドメイン抗体由来の腫瘍標的化ドメインを含有している三重特異性分子は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)に匹敵する方法で強力な細胞死滅を誘導することができる(
図5を参照)。
【0116】
単一ドメイン抗EGFR抗体を有する6つのEGFR標的化三重特異性分子(
図4を参照)および抗EGFR scFvを含有している三重特異性分子を、NCI−1563ヒト肺腺癌細胞株を使用してTDCCアッセイにおいて試験した。比較のために、各アッセイにEGFR BiTEを含めた(Lutterbuese et al. 2007. PNAS 107: 12605−12610)。すべての7つのEFGR標的化三重特異性分子の構成が、EGFR BiTEに類似した効力で、標的細胞を有効に死滅させる(表3および4、および
図6および8における代表的なデータを参照)ことが実証された。三重特異性分子のTDCC活性に対するアルブミン結合の影響を評価するために、TDCCアッセイをまた、15mg/mlのヒト血清アルブミンの付加とともに実行した。予測通り、アルブミン結合ドメインを欠く、EGFR BiTEの効力は、アルブミンの存在下または不存在下で類似していた。三重特異性分子の効力はアルブミンの存在下で低減したが、低減の程度は分子の構成に依存していた。その効力がアルブミンの存在下で最小に低減した構成は、EGFR−scFv:C:AおよびE:A:C(抗EGFR−scFv:抗CD3E−scFv:抗ALB−sdAbおよび抗EGFR−sdAb:抗ALB−sdAb:抗CD3E−scFv)であった。
【0117】
EGFR標的化三重特異性分子の結果が、すべての三重特異性分子に当てはまり得ることを実証するために、単一ドメイン抗PSMA抗体を有する5つのPSMA標的化三重特異性分子および抗PSMA scFvを含有している三重特異性分子を、22Rv1のヒト前立腺癌上皮細胞株を使用してTDCCアッセイにおいて試験した。比較のために、アッセイにPSMA BiTE(パソツキシズマブ)を含めた。代表的な結果は、表5および
図7中に見られる。PSMA標的化三重特異性分子のほとんどは、A:C:P構成(抗PSMA−sdAb:抗CD3E−scFv:抗ALB−sdAb)を有する三重特異性分子を除いて、TDCCアッセイにおいてPSMA BiTEに類似した活性を有していた。これらの三重特異性分子をまた、三重特異性分子のTDCC活性に対するアルブミン結合の影響を評価するために、15mg/mlのヒト血清アルブミンを含むTDCCアッセイにおいて試験した。予測通り、アルブミン結合ドメインを欠く、PSMA BiTEの効力は、アルブミンの存在下または不存在下で類似していた。三重特異性分子の効力はアルブミンの存在下で低減したが、低減の程度は分子の構成に依存していた。その効力がアルブミンの存在下で最小に低減した構成は、P:A:C(抗PSMA−sdAb:抗ALB−sdAb:抗CD3E−scFv)であった。
【0118】
本明細書に記載される三重特異性分子は、標的腫瘍細胞に対する様々なモダリティを利用することができる。
図5、6および7は、sdAb由来の腫瘍標的化ドメインを有する三重特異性分子を示し、
図7および8は、scFv由来の腫瘍結合ドメインを有する三重特異性分子が等しく好適に作用することができることを示している。
図9は、腫瘍標的化ドメインが、sdAbsおよびscFvsのような抗体に由来する構築物に限定されないことを実証しているが、非免疫グロブリンドメインも作用することができる。
本実施例では、ヒト卵巣癌細胞を死滅させるように、静止するヒトT細胞に再指向するために、Her2に特異的な7kDaのfynomerが使用される。
【0119】
実施例11:三重特異性分子を用いるサイトカイン産生アッセイ
本明細書で試験された三重特異性分子が、T細胞を活性化し、腫瘍細胞を死滅させるようにこれらのT細胞に再指向したことを示すために、サイトカインTNFαおよびIFNγの産生を、T細胞が活性化されるとこれらのサイトカインを産生するため、T細胞の細胞死滅活性と平行して測定した。
【0120】
図10および11に示されるように、4つの試験されたEGFRおよびPSMA標的化三重特異性分子は、それらの細胞死滅活性に類似した効力を有して、TNFαおよびインターフェロンγの産生を刺激した。これらのデータは、三重特異性分子が、標的細胞に結合するときにT細胞を活性化するという記述と一致している。
【0121】
実施例12:拡散アッセイ
本明細書で分析された三重特異性分子は、従来のIgG分子より小さく、したがって、モノクローナル抗体より速く拡散し、より好適に組織に浸透することが予期される。この特性を評価するために、マトリゲルによる拡散/移動アッセイを開発した。この目的のために、トランスウエルのアッセイプレートを、多くの組織中で見られる複合細胞外環境に類似しているゼラチン様タンパク質の混合物である、マトリゲルでコーティングした。三重特異性分子、全長IgGまたはFabフラグメントを、上部チャンバーに加えた。8時間および12時間後、下部チャンバーを、マトリックスを通って移動することができる巨大分子の量に関して評価した。
図12に示されるように、三重特異性分子は、全長IgG分子よりはるかに速い速度で両方の時間点で移動した。
【0122】
実施例13:ヒトCD3εに対する様々な親和性を有する抗CD3 scFv変異体の特定
<親の抗CD3εファージの特徴づけ>
親の抗CD3εは、ビオチン−CD3εに対する優れた結合およびビオチン−HSAに対する低い結合を示した(
図13)。
【0123】
<抗CD3ε scFvファージライブラリー>
重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3ドメインのための単一の置換ライブラリーを提供した。残基は、変異原性によって一度に一つずつ変えられた。
【0124】
<クローンの選択および結合親和性の判定>
単一の置換ライブラリーを、ビオチン化huCD3εに結合させ、洗浄し、溶出し、カウントした。ビオチン化cynoCD3を、ラウンド1の選択標的として使用し、2つの独立したライブラリー(〜2x選択)からの組み合わせのファージ結合後4時間洗浄した。ビオチン化hu−CD3を、ラウンド2の選択標的として使用し、両方のライブラリー(<2x選択)の結合後3時間洗浄した。第2ラウンドの選択からのPCRedインサートを、pcDNA3.4 His6発現ベクターへとサブクローン化した。180のクローンを選択し、DNAを、精製し、配列決定し、Expi293へとトランスフェクトした。ヒトCD3εに対する親和性の範囲を有する16のクローンのパネルを、より正確なKd判定のために選択した(表6)。
【0125】
表1は、3つの標的抗原に対するEGFR標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の親和性を要約する。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0126】
【表1】
【0127】
表2は、3つの標的抗原に対するPSMA標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の親和性を要約する。表の略語に対するキー:P=抗PSMA単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0128】
【表2】
【0129】
表3は、細胞死滅アッセイにおけるEGFR標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0130】
【表3】
【0131】
表4は、細胞死滅アッセイにおけるEGFR標的化scFv抗体を含有している三重特異性分子およびBiTE分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0132】
【表4】
【0133】
表5は、細胞死滅アッセイにおけるPSMA標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:P=抗PSMA単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0134】
【表5】
【0135】
表6は、CD3e scFvファージライブラリーの結合親和性を要約する。
【0136】
【表6】
【0137】
【表7-1】
【0138】
【表7-2】
【0139】
【表7-3】
【0140】
【表7-4】
【0141】
【表7-5】
【0142】
【表7-6】
【0143】
【表7-7】
【0144】
【表8-1】
【0145】
【表8-2】
【0146】
【表8-3】
【0147】
【表8-4】
【0148】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され記載されているが、そのような実施形態が例示目的のみで提供されることは当業者にとって明白となる。多くの変更、変化および置換が、本発明から逸脱することなく当業者に想到される。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な代案が、本発明の実施において利用され得ることを理解されたい。以下の請求項は本発明の範囲を定義するものであり、これらの請求項の範囲内の方法および構造並びにそれらの同等物が、それによって包含されるものであることが意図されている。