特許第6688584号(P6688584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688584
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20200421BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-201833(P2015-201833)
(22)【出願日】2015年10月13日
(65)【公開番号】特開2017-75619(P2017-75619A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年9月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】高田 隆広
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050314(WO,A1)
【文献】 実開昭62−100374(JP,U)
【文献】 実開平5−38467(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと前記ハウジングの軸孔に挿通した軸との間に装着されて機内の密封流体が機外へ漏洩するのを抑制する密封装置であって、前記密封流体には磁力によって吸着可能な金属粉が含まれる密封装置において、
前記ハウジングに固定されるオイルシールと、前記オイルシールの機内側で前記軸に固定される回転環とを有し、
前記回転環は、着磁され、磁力によって前記金属粉を吸着するスリーブよりなり、
前記回転環は、前記軸の先端部に固定されるものであって、前記軸の先端面を覆う端面被覆部を有することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記回転環は、前記軸に対し着脱可能とされていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の密封装置において、
当該密封装置は、減速機用の密封装置として用いられることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、減速機用の密封装置として用いられる。また、本発明の密封装置は例えば、歯車などの作動部品の摩耗による金属粉が機内で発生する環境下で用いられる。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節構造や、エレベータ等の搬送装置には、駆動モータからの回転運動を所定のトルクや速度に変更するための減速機が取り付けられている。減速機は、複数の歯車を噛み合わせることでトルクや速度を変更する。また、減速機は歯車を使用するため、機内には潤滑油やグリースが封入される。機内の潤滑油やグリースは、出力軸や入力軸の外周に装着される密封装置で密封される。
【0003】
ここで、従来、密封装置としては図3に示すように、一般的な、摺動作動するシールリップ52を備えるオイルシール51が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−22835号公報
【特許文献2】実開昭62−100374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように減速機用の密封装置として一般的なオイルシール51を用いる場合には、以下の不都合がある。
【0006】
すなわち減速機では複数の歯車が噛み合うため、歯車の摩耗(接触摩耗)によって金属粉が発生し、この金属粉が機内の潤滑油やグリースに混入する。したがって金属粉がシールリップ52の摺動部に咬み込むと、これによりシールリップ52の摩耗(摺動摩耗)が促進されてしまう。したがって金属粉が存在してもシールリップ52の摩耗が促進されず、よって長期間に亙って安定したシール性能を発揮することができる密封装置が求められる。
【0007】
また、本発明に対する他の従来技術として図4に示すように、磁気を帯びた金属環53をオイルシール51に組み付ける技術が開発されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかしながらこの図4の技術では、磁気を帯びた金属環53をオイルシール51に組み付けているため、メンテナンス時、金属環53を、金属粉が未だ吸着していない新品と交換するときには、金属環53およびオイルシール51を双方まとめて新品と交換しなければならない。したがって、金属環のみを新品と交換することができず、よってメンテナンス性が良くないと云う不都合がある。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて、密封流体に金属粉が含まれていてもシールリップの摩耗が促進されず、よって長期間に亙って安定したシール性能を発揮することができる密封装置を提供することを目的とする。また併せて、着磁された回転環のみを単独で新品と交換することができ、よって優れたメンテナンス性を発揮することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の密封装置は、ハウジングと前記ハウジングの軸孔に挿通した軸との間に装着されて機内の密封流体が機外へ漏洩するのを抑制する密封装置であって、前記密封流体には磁力によって吸着可能な金属粉が含まれる密封装置において、前記ハウジングに固定されるオイルシールと、前記オイルシールの機内側で前記軸に固定される回転環とを有し、前記回転環は、着磁され、磁力によって前記金属粉を吸着するスリーブよりなり、前記回転環は、前記軸の先端部に固定されるものであって、前記軸の先端面を覆う端面被覆部を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、ハウジングに固定されるオイルシールのほかに軸に固定される回転環が設けられ、この回転環が、着磁されたスリーブよりなるものとされているため、この着磁されたスリーブが磁力によって金属粉を吸着する。したがってこの磁力による吸着作用によって金属粉がシールリップの摺動部に到達しにくくなるため、金属粉の咬み込みによってシールリップの摺動部が早期に摩耗するのを抑制することが可能とされる。
【0012】
回転環は、スリーブよりなり、すなわち円筒状の部品よりなるが、この回転環が軸の先端部に固定される場合には、軸の先端面を覆う端面被覆部を有するものとしても良く、これによれば回転環がスリーブの外周面のみでなく端面被覆部の端面にても金属粉を吸着するため、吸着面積を拡大し、吸着量を増大させることが可能とされる。
【0013】
また、金属環は、軸に対し着脱可能とするのが好適であり、これによれば回転環のみを単独で新品と交換することができるため、密封装置のメンテナンス性を向上させることが可能とされる。
【0014】
本発明の密封装置は、金属粉が発生しやすい減速機用の密封装置として好適に利用される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、密封流体に金属粉が含まれていてもシールリップの摩耗が促進されず、よって長期間に亙って安定したシール性能を発揮することができる密封装置を提供することができる。また併せて、着磁された回転環のみを単独で新品と交換することができ、よって優れたメンテナンス性を発揮することができる密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例に係る密封装置の半裁断面図
図2】本発明の他の実施例に係る密封装置の半裁断面図
図3】従来例に係る密封装置の半裁断面図
図4】他の従来例に係る密封装置の半裁断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)オイルシールの機内側に磁性のスリーブ(回転環)を設ける。
(2)吸着した金属粉をスリーブごと交換することで、メンテナンス性も良好となる。
【実施例】
【0018】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置11を示している。当該実施例に係る密封装置11は、減速機のシール部に用いられ、機内Aの潤滑油やグリースなどの密封流体(図示せず)が機外Bへ漏洩しないようにシールする。密封流体には、磁力によって吸着可能な金属粉(図示せず)が含まれる。
【0020】
密封装置11は、ハウジング61側に装着されるオイルシール21と、ハウジング61の軸孔61aに挿通する軸62側に装着される回転環31とを有している。
【0021】
オイルシール21は、ハウジング61の軸孔61a内周に嵌合される筒状の取付部22を備え、この取付部22の軸方向一方(機外B側、図では左方)の端部から径方向内方へ向けフランジ状のリップ保持部23が設けられ、このリップ保持部23の内周端部にシールリップ28およびダストリップ29が保持されている。またオイルシール21はその構成部品として、金属製の補強環24と、この補強環24に被着(架橋接着)されたゴム状弾性体25とを備え、後者のゴム状弾性体25によって、外周シール部26および端面シール部27とともに上記シールリップ28およびダストリップ29が一体に成形されている。補強環24は、筒状部24aの軸方向一方の端部から径方向内方へ向けフランジ部24bを一体成形したものであって、筒状部24aは上記外周シール部26とともに取付部22をなし、フランジ部24bは上記端面シール部27とともにリップ保持部23をなしている。
【0022】
一方、回転環31は、着磁された円筒状のスリーブ32の単体よりなり、スリーブ32は、シールリップ28の機内A側において軸62の周面62aに設けた段差状の装着部63に着脱可能に嵌合されている。スリーブ32の材質は金属とされるが、ゴム状弾性体であっても良く、いずれにしてもその全体が着磁されている(磁気を帯びている)。したがってスリーブ32はその表面に、密封流体に含まれる金属粉を磁力によって吸着することが可能とされている。
【0023】
尚、スリーブ32がゴム状弾性体よりなる場合、ゴム状弾性体への着磁については、磁気エンコーダ等における着磁技術と同様、磁性粉を混入したゴム材料を用いて成形品を成形してから成形品に着磁処理を施すことによって行われ、これによりゴム状弾性体は、N極S極を円周上交互に所定ピッチで多数磁極化した着磁パターンを備えるものとされる。
【0024】
上記構成の密封装置11は、オイルシール21のシールリップ28が軸62の周面62aに摺動可能に接触することにより密封流体をシールするが、シールリップ28の機内A側に位置して、着磁されたスリーブ32が配置されているため、このスリーブ32が磁力によって金属粉を吸着する。
【0025】
したがって、この磁力による吸着作用によって金属粉がシールリップ28の摺動部に到達しにくくなるため、金属粉の咬み込みによってシールリップ28の摺動部が早期に摩耗するのを抑制することが可能とされている。したがって本発明所期の目的どおり、密封流体に金属粉が含まれていてもシールリップ28の摺動摩耗が促進されず、長期間に亙って安定したシール性能を発揮することができる密封装置を提供することができる。
【0026】
また、着磁されたスリーブ32が軸62に対して着脱可能とされているため、オイルシール21を新品と交換せずにスリーブ32のみを新品と交換することが可能とされている。したがって密封装置11のメンテナンス性を向上させることができる。
【0027】
尚、上記図1の実施例における回転環31は、これに代えて、以下のような構成としても良い。
【0028】
すなわち図2に示すように、回転環31は、軸62の先端部(機内A側の端部)に着脱可能に固定されるものとされており、着磁されたスリーブ32を有し、このスリーブ32の先端部(機内A側の端部)に、軸62の先端面62bを覆う端面被覆部33が一体に成形されている。
【0029】
当該実施例においては、回転環31がスリーブ32の外周面のみでなく端面被覆部33の端面にても金属粉を吸着するため、吸着面積を拡大し、吸着量を増大させることができる利点がある。
【0030】
また、回転環31は、これを取付ボルト等で軸62に固定するようにしても良い。この場合は、固定をより強固にして回転環31が軸62から脱落するのを防止することができ、しかもそのうえで回転環31を軸62に対して着脱可能とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
11 密封装置
21 オイルシール
22 取付部
23 リップ保持部
24 補強環
24a 筒状部
24b フランジ部
25 ゴム状弾性体
26 外周シール部
27 端面シール部
28 シールリップ
29 ダストリップ
31 回転環
32 スリーブ
33 端面被覆部
61 ハウジング
61a 軸孔
62 軸
62a 周面
62b 先端面
A 機内
B 機外
図1
図2
図3
図4