特許第6688598号(P6688598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

特許6688598オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品
<>
  • 特許6688598-オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品 図000003
  • 特許6688598-オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品 図000004
  • 特許6688598-オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688598
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20200421BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20200421BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/54
   C22C19/05 C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-221317(P2015-221317)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-88963(P2017-88963A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】竹山 雅夫
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−046796(JP,A)
【文献】 特開2011−052303(JP,A)
【文献】 特開2014−095101(JP,A)
【文献】 特開2014−109053(JP,A)
【文献】 特開昭54−024214(JP,A)
【文献】 特公昭46−029259(JP,B1)
【文献】 特開2013−252562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:25〜50%、Nb:3.8〜6.0%、Zr:0.5%以下、B:0.001〜0.05%、Cr:12〜25%、Ti:0%超1.6%以下、Mo:4.8%以下、W:5.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、下記式(1)で表されるパラメータPsがPs≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼。
Ps=8.3[Nb]−7.5[Ti]+2.4[Mo]+3.5[W]…式(1)
(式(1)中、[Nb]、[Ti]、[Mo]および[W]は、それぞれNb、Ti、M
oおよびWの含有量(質量%)を示す。)
【請求項2】
質量%で、Ni:30〜45%、Nb:3.8〜5.0%、B:0.001〜0.05%、Cr:12〜25%、Ti:0%超1.0%以下、Mo:4.8%以下、W:5.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、下記式(1)で表されるパラメータPsが27≦Ps≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼。
Ps=8.3[Nb]−7.5[Ti]+2.4[Mo]+3.5[W]…式(1)
(式(1)中、[Nb]、[Ti]、[Mo]および[W]は、それぞれNb、Ti、M
oおよびWの含有量(質量%)を示す。)
【請求項3】
質量%で、Ni:30〜40%、Nb:3.8〜4.9%、B:0.001〜0.05%、Cr:15〜20%、Ti:0%超1.0%以下、Mo:3.4%以下、W:3.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、下記式(1)で表されるパラメータPsが27≦Ps≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼。
Ps=8.3[Nb]−7.5[Ti]+2.4[Mo]+3.5[W]…式(1)
(式(1)中、[Nb]、[Ti]、[Mo]および[W]は、それぞれNb、Ti、M
oおよびWの含有量(質量%)を示す。)
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のオーステナイト鋼を用いたことを特徴とするオーステナイト鋼鋳造品。
【請求項5】
肉厚が50mm以上であることを特徴とする請求項4記載のオーステナイト鋼鋳造品。
【請求項6】
重量が1トン以上であることを特徴とする請求項4記載のオーステナイト鋼鋳造品。
【請求項7】
発電プラント用蒸気タービンの構成部材であることを特徴とする請求項4記載のオーステナイト鋼鋳造品。
【請求項8】
前記構成部材が、タービンケーシングまたはバルブケーシングであることを特徴とする請求項7記載のオーステナイト鋼鋳造部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品に関し、特に火力発電プラント等の構成部材に用いられる高強度耐熱オーステナイト鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、石炭火力発電プラントの高効率化を目指して、蒸気温度の高温化が進んでいる。現在運転されている石炭火力発電プラントのうち、蒸気温度620℃級が最も蒸気温度の高い蒸気タービン(USC:Ultra Super Critical)(超々臨界圧発電))として運転されているが、CO排出を抑制すべく、今後さらに高温化が進むと考えられる。これまで蒸気タービンの高温部材として9Cr系および12Cr系の耐熱フェライト鋼等が用いられてきたが、蒸気温度の高温化に伴い、これらの適用が難しくなると考えられている。
【0003】
そこで、高温部材に適用する合金として、フェライト鋼よりも耐用温度の高いNi基合金が候補となりうる。Ni基合金は、AlやTiを生成元素とし、高温で安定相となるγ´相が強化相であるため、高温で優れた強度を示す。鍛造材については、γ´相析出強化合金を、VIM(Vacuum‐Induction Melting)やESR(Electroslag Remelting)、VAR(Vacuum‐Arc Remelting)といった、雰囲気を高度に制御した溶解方法により素材インゴットとして溶解し、その後、熱間鍛造することにより製品素材となる。上記溶解法では、真空中であることや、スラグを使用することで溶解中に活性元素であるAlやTiの酸化を防ぐようにしている。一方、タービンケーシングやバルブケーシング等については、一般的には砂型を用いた鋳造法によって素材を比較的製品に近い形とし、鋳込んだまま鋳造材としたものが使用される。しかし、鋳造法では溶解中に空気との遮断が十分でなく、活性な元素(AlやTi)が多いとこれらの元素が酸化してしまう。
【0004】
鋳造材に適用可能な合金として、例えば特許文献1および特許文献2に記載されているAlloy625は、MoとNbが固溶する固溶強化合金であり、鋳造性にも優れた材料で、肉厚部材についても、問題となる欠陥を生じることなく製造することができる。また、クリープ耐用温度も、従来のフェライト鋼と比べて著しく高いことが確認されている。
【0005】
特許文献3および特許文献4では、γ´相ではない析出強化オーステナイト鋼が提唱されている。これらは、Nbを生成元素とする金属間化合物により析出強化されたオーステナイト鋼であり、NiNbやFeNbが粒内、粒界に析出することで高い高温強度を示す。これらの材料は、素材となるインゴットを溶解したのち、加工(熱間加工)してボイラ材として使用される。
【0006】
特許文献5では、耐食オーステナイト鋼が提唱されており、優れた高温強度も得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3046108号
【特許文献2】米国特許第3160500号
【特許文献3】特開2012‐46796号公報
【特許文献4】特開2011‐195880号公報
【特許文献5】特開昭61‐147836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タービンケーシングやバルブケーシングのような鋳造品の製造において、合金はAOD(Argon Oxygen Decarburization:アルゴン酸素脱炭法)などの手法により溶湯を鋳型へ流し込むが、このとき、AlやTiといった活性な元素を含む合金、すなわちγ´相析出強化合金をこの方法で溶解すると、これらの元素が酸化して所定のAlおよびTiの含有量にならなかったり、これらの酸化物が介在したりすることで十分な高温強度が得られない可能性がある。
【0009】
また、特許文献1および2のAlloy625は、製造性は優れるものの、耐力が十分ではなく、例えばケーシングに採用した場合、ボルト締めの際にネジが変形または欠損するという問題が生じる可能性がある。さらに、固溶強化合金をベースとして高強度化するような合金設計をしようとすると、固溶強化元素(例えばMoやNb)をさらに添加せざるを得ず、そのため、相安定性が低下する懸念があり、結果として有害相が析出し、長時間の組織安定性(すなわち、機械的特性)に問題が生じる可能性がある。
【0010】
特許文献3〜5は析出強化合金であるが、鋳造後に鍛造等の加工を行うことを前提としており、例えばケーシング等の鋳造品への適用は難しい。
【0011】
このように、鋳造品(特に、大型鋳造品)においては、高温強度の高いγ´相析出強化合金の適用が困難である。また、固溶強化合金についても、耐力が低いことが問題となる。さらに、鋳造品を作製する際には、鋳造時にマクロ欠陥が生成しやすいと製品の信頼性が低下するため、鋳造性も考慮する必要がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、優れた強度と鋳造性を両立するオーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、上記目的を達成するため、質量%で、Ni:25〜50%、Nb:3.8〜6.0%、Zr:0.5%以下、B:0.001〜0.05%、Cr:12〜25%、Ti:0%超1.6%以下、Mo:4.8%以下、W:5.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、下記式(1)で表されるパラメータPsがPs≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼を提供する。
Ps=8.3[Nb]−7.5[Ti]+2.4[Mo]+3.5[W]…式(1)
(式(1)中、[Nb]、[Ti]、[Mo]および[W]は、それぞれNb、Ti、M
oおよびWの含有量(質量%)を示す。)
【0014】
また、本発明の第2の態様は、上記目的を達成するため、質量%で、Ni:30〜45%、Nb:3.8〜5.0%、B:0.001〜0.05%、Cr:12〜25%、Ti:0%超1.0%以下、Mo:4.8%以下、W:5.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、上記式(1)で表されるパラメータPsが27≦Ps≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼を提供する。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、上記目的を達成するため、質量%で、Ni:30〜40%、Nb:3.8〜4.9%、B:0.001〜0.05%、Cr:15〜20%、Ti:0%超1.0%以下、Mo:3.4%以下、W:3.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、上記式(1)で表されるパラメータPsが27≦Ps≦38を満たすことを特徴とするオーステナイト鋼を提供する。
【0016】
また、本発明は、上記本発明に係るオーステナイト鋼を用いたことを特徴とするオーステナイト鋼鋳造品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた強度と鋳造性を両立するオーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例14aおよび14bの0.2%耐力比(Alloy625基準)を示すグラフである。
図2】実施例14bのクリープ破断時間比(Alloy625基準)を示すグラフである。
図3】発電プラント用蒸気タービンの高温部の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で様々な改良および変更を加えることができる。
【0020】
[オーステナイト鋼]
本発明に係るオーステナイト鋼は、AlおよびTiなどの活性な(酸化しやすい)元素を主要な強化因子とせず、Nbの金属間化合物を強化因子とするものであり、新規な組成を有し、優れた強度および鋳造性を両立するものである。以下、本発明に係るオーステナイト鋼の組成(成分範囲)について説明する。以下の組成の説明において、「%」は、特に断りが無ければ「質量%」を意味するものとする。
【0021】
Ni(ニッケル):25〜50%
Niはオーステナイト安定化元素として、また、後述するNbと金属間化合物(δ相、NiNb)を生成し、粒内に析出することで、粒内強化に寄与する。相安定の観点から、Niは30〜45%(30%以上45%以下)であることがより望ましい。さらに望ましくは、30〜40%である。
【0022】
Cr(クロム):12〜25%
Crは耐酸化性および耐水蒸気酸化性を向上させる元素である。蒸気タービンの運転温度を考慮した場合、12%以上添加されないと酸化特性に悪影響を及ぼす。また、25%より多く添加すると、σ相などの金属間化合物が析出し、高温延性や靱性の低下を招く。これらのバランスを考慮すると、Cr量は15〜20%であることがさらに望ましい。
【0023】
Nb(ニオブ):3.8〜6.0%
Nbは、Laves相(FeNb)及びδ相(NiNb)の安定化のために添加される。Laves相は主に粒界に析出し、粒界強化に寄与する。δ相は主に粒内に析出し強化に寄与する。3.8%未満では、高温クリープ強度が十分でなくなり、6.0%を超えると鋳造性が顕著に悪化する。より十分な強度を得るためには、4.0%以上であることが望ましい。また、鋳造性を考慮すると、5.0%以下が望ましく、4.9%以下であることがさらに望ましい。
【0024】
B(ホウ素):0.001〜0.05%
Bは粒界におけるLaves相の析出に寄与する。Bが添加されない場合、粒界のLaves相が析出しにくくなり、クリープ強度やクリープ延性が低下する。0.001%以上の添加で粒界析出の効果が得られる。一方、添加量が多すぎると、局所的に融点が下がり、例えば溶接性の低下が懸念される。このことを考慮すると、0.05%以下とする必要がある。0.01%以下とすることがさらに望ましい。
【0025】
Zr(ジルコニウム):0〜0.5%
ZrはBと同様、粒界のLaves相の析出に寄与するほか、γ´´相(NiNb)の析出に寄与する。短時間もしくは低温(750℃未満、望ましくは700℃以下)では特に効果的である。しかし、準安定相であるため、長時間高温(特に750℃以上)で保持することでδ相に変化してしまう。したがって、添加しなくてもよい。添加量が多すぎると、溶接性が悪化するため、上限は0.5%とする。
【0026】
Ti(チタン):0〜1.6%
Tiは、γ´´相やδ相といった、粒内析出強化に寄与する元素である。適度に添加することで、初期におけるクリープ変形を大幅に下げることができる。また、鋳造品に適用した場合、偏析欠陥の生成を抑制する効果がある。しかし、過剰に添加しすぎると、前述のように製造中の酸化の影響を受け機械的特性に悪影響を及ぼす。望ましくは1.0%以下、さらに望ましくは0.9%以下である。
【0027】
Mo(モリブデン):0〜4.8%
Moは固溶強化の他に、Laves相の安定化に寄与する。Moの添加により、粒界に析出するLaves相の析出量が増量し、長時間におけるクリープ特性において、破断強度や延性に寄与できる。3.4%以下がより好ましい。
【0028】
W(タングステン):0〜5.2%
Wは固溶強化の他に、Laves相の安定化に寄与する。Wの添加により、粒界に析出するLaves相の析出量が増量し、長時間におけるクリープ特性において、破断強度や延性に寄与できる。5.2%を超えると、鋳造性が悪化し、欠陥が発生しやすくなる。3.2%以下がより好ましい。
【0029】
本発明に係るオーステナイト鋼は、上記組成に加え、優れた鋳造性を得るために、上記式(1)で表されるパラメータPsがPs≦38を満たすことを必要とする。以下に、パラメータPsについて説明する。本発明者は、鋳造性を表す指標として、凝固時の溶湯密度差(以下、「|Δρ|」と表記する。)に着目した。|Δρ|は、凝固時に凝固界面付近で生じる溶湯の密度差である。具体的には、|Δρ|は、凝固が始まり固相率が0.35となったときの凝固界面付近の液相と、固液界面から十分離れた場所の液相における密度の差を示す。|Δρ|は、各元素の固液への分配に依存する。固相率が0.35以上であると、固相が液相の大きな移動を阻害するため、フレッケル欠陥の発生にはつながりにくい。よって、固相率0.35の時の|Δρ|が鋳造性を示す指標となる。
【0030】
ところで、Alloy625については、大型の鋳造品(例えば、厚さ300mm)であっても、マクロ欠陥無しに鋳造できることを確かめている。すなわち、Alloy625の|Δρ|よりも小さければ、大型の鋳造品が製造できると予想できる。熱力学計算によると、Alloy625の|Δρ|は0.0365g/cmである。したがって、オーステナイト鋼の|Δρ|をAlloy625の値よりも小さくすることで優れた鋳造性を有する大型の鋳造品を製造することができる。|Δρ|が大きくなり過ぎると、凝固界面で全体成分と大幅に異なる成分の液相が沈降したり浮上したりすることでマクロ欠陥が生じ、鋳造性の悪化につながる。
【0031】
本発明に係るPsは、この|Δρ|とNb、Ti、MoおよびWの含有量との関係から導き出されるパラメータである。Fe、CrおよびNiは、凝固の際の固液の分配がほとんどなく、ほぼ均等に配分されるため|Δρ|に大きな影響は与えない。一方で、Ti、Nb、MoおよびWは、本成分系においては、液相側に多く分配することがわかった。すなわち、これらの元素を調整することで|Δρ|を調整することができる。検討の結果、本発明のパラメータPsが38以下であれば、|Δρ|<0.0365g/cmを満たし、優れた鋳造性を示すことがわかった。本発明において、「優れた鋳造性」とは、Alloy625で肉厚(厚さ300mm)の鋳造品を製造した際の品質と同等以上(欠陥の数がAlloy625以下)ということを意味する。
【0032】
前述した成分範囲は、強度及び相平衡の観点から各元素の好ましい範囲を規定したものであるが、パラメータPsが、Ps≦38を満たすことで、優れた鋳造性が得られることが分かった。Psは27≦Ps≦38であることがさらに好ましい。
【0033】
以上、上記成分範囲およびPsを満たすことで、強度と鋳造性に優れたオーステナイト鋼を得ることが可能となる。
【0034】
[オーステナイト鋼鋳造品]
次に、上述した本発明に係るオーステナイト鋼を用いて作製したオーステナイト鋼鋳造品について説明する。本発明に係るオーステナイト鋼鋳造品は、高温中で高い強度が求められ、かつ大型複雑構造を有する部材に好適である。
【0035】
図3は、発電プラント用蒸気タービンの高温部の一例を示す模式図である。鋳造品の一例として、例えば、図3に示す発電プラント用蒸気タービンを構成する(タービンロータ30を覆う)タービンケーシング31が挙げられる。タービンケーシング31は大型で複雑形状を有する部材であるため、鋳造によって製造される。また、高温の蒸気33に曝される。重量は1トン以上であり、大型のものでは10トンを超える場合もある。肉厚については均一ではないが、薄いところでも50mmを超え、厚い部分では、200mmを超える部位もある。このように、大型・肉厚部材であるため、鋳造時の凝固が遅く、鋳造性の悪い材料(例えば、Alloy625よりも|Δρ|が大きい材料)では欠陥が生じてしまい、信頼性が大きく低下する。本発明に係るオーステナイト鋼は、優れた強度および鋳造性を有する。このため、偏析が生じやすい薄い部分(肉厚が50mm)を含む部材や、重量が1トンを超えるような大型な部材であっても、偏析欠陥の少ない鋳造品を提供することができる。
【0036】
この他、図3には図示していないが、本発明に係るオーステナイト鋼鋳造品は、蒸気を流したり止めたり調整したりするバルブのケーシングにも好適である。なお、本発明に係るオーステナイト鋼は、これらの部材への適用に限定されるわけではなく、高温で高強度が要求されるあらゆる部材に好適である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係るオーステナイト鋼(実施例1〜17)および本発明の範囲外のオーステナイト鋼(比較例1〜10)を作製し、鋳造性(Ps)および強度について評価した。参考例1は、Psは本発明の範囲内であるが、Tiの含有量が0質量%であり、本発明の範囲外のものである。実施例1〜17、参考例1および比較例1〜10の組成、Psおよび|Δρ|を表1に示す。なお、BおよびZrは微量であり、|Δρ|には大きな影響は及ぼさないため、計算からは除いている。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、実施例1〜17のPsは全て38以下を満たし、その時の|Δρ|の値は、0.0365未満であり、優れた鋳造性を示すと言える。一方、Psが38を超える比較例1〜10では、|Δρ|がAlloy625の値(0.0365g/cm)以上となり、Alloy625よりも大型鋳造品を製造すると欠陥が生じやすく、高い品質を有する鋳造品を得ることが難しい。
【0040】
次に、本発明に係るオーステナイト鋼の強度の評価結果を示す。表1の実施例14の成分について、2種類の時効熱処理(高温(実施例14a)と低温(実施例14b))を実施したインゴットを作製し、強度評価(引張試験及びクリープ試験)を実施した図1は実施例14a,bおよびAlloy625の0.2%耐力比(Alloy625基準)を示すグラフであり、図2は実施例14bおよびAlloy625のクリープ破断時間比(Alloy625基準)を示すグラフである。クリープ条件は、750℃、160MPaである。
【0041】
図1に示すように、0.2%耐力比について、高温で時効処理を施した実施例14aはAlloy625の約2.2倍となり、低温で時効処理を施した実施例14bはAlloy625の約3倍となった。実施例14aおよび14bにおいて高い特性が得られたのは、時効熱処理で金属間化合物が析出することで、従来材(Alloy625)と比べて耐力が著しく向上したためである。
【0042】
また、図2に示すように、実施例14bのクリープ寿命は、Alloy625の5倍以上となっており、クリープ強度に関しても、従来材(Alloy625)よりも優れていることがわかる。
【0043】
以上説明したとおり、本発明によれば、優れた高温強度と鋳造性を両立するオーステナイト鋼およびそれを用いたオーステナイト鋼鋳造部材を提供することができることが実証された。
【0044】
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
30…タービンロータ、31…タービンケーシング、32…バルブ、33…蒸気。
図1
図2
図3