(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688610
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】シラン含有水分硬化性組織シーラント
(51)【国際特許分類】
A61L 15/26 20060101AFI20200421BHJP
A61L 15/64 20060101ALI20200421BHJP
A61L 17/06 20060101ALI20200421BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20200421BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20200421BHJP
C08G 18/06 20060101ALI20200421BHJP
C08G 18/71 20060101ALI20200421BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
A61L15/26 100
A61L15/64 100
A61L17/06
A61L24/04 200
A61L31/14 500
C08G18/06
C08G18/71
C08L75/04
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-546547(P2015-546547)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公表番号】特表2016-501597(P2016-501597A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】US2013072757
(87)【国際公開番号】WO2014089012
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月9日
【審判番号】不服2018-9585(P2018-9585/J1)
【審判請求日】2018年7月12日
(31)【優先権主張番号】13/693,218
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510020963
【氏名又は名称】コヘラ メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クラウワー ドッティ
(72)【発明者】
【氏名】ドビンズ デスピナ
(72)【発明者】
【氏名】クラダキス ステファニー
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
藤原 浩子
【審判官】
穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平3−63061(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0184926(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0060550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオールと;
(b)リジンジイソシアネート、リジン(エチルエステル)ジイソシアネートおよびリジントリイソシアネート、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、ポリイソシアネートと;
(c)式:(R1R2R3)-Si-CH2-Zを有し、式中、
(i)Zは-OH、-SH、-NCO、または-NHR4基であり、式中、R4は水素、アルキル基、またはアリール基であり;かつ
(ii)R1、R2、およびR3は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり、但し、R1、R2、およびR3のうちの少なくとも2個はアルコキシ基である、
アルコキシシランと
の反応生成物を含み、生理学的環境において水分硬化性であり生分解性である、組織シーラントであって、
ポリオール、ポリイソシアネート、およびアルコキシシランの相対量が、該反応生成物が遊離のイソシアネート基を含むよう選択されている、組織シーラント。
【請求項2】
イソシアネート官能性オルガノシランをさらに含む、請求項1記載の組織シーラントであって、該イソシアネート官能性オルガノシランが、
(d)少なくとも1個の遊離のイソシアネート基と;
(e)式:(R5R6R7)-Si-を有し、式中、R5、R6、およびR7は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基である、少なくとも1個の末端シラン基と
を有する、請求項1記載の組織シーラント。
【請求項3】
イソシアネート官能性オルガノシランが、500g/モル以下の分子量を有する、請求項2記載の組織シーラント。
【請求項4】
イソシアネート官能性オルガノシランが、300g/モル以下の分子量を有する、請求項2記載の組織シーラント。
【請求項5】
イソシアネート官能性オルガノシランが、式:(R5R6R7)-Si-R8-NCOを有し、式中、R8はC1-C10アルキル基である、請求項2〜4のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項6】
R1、R2、およびR3のうちの2個がC1-C6アルコキシ基である、請求項1〜5のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項7】
R1、R2、およびR3の各々がC1-C6アルコキシ基である、請求項1〜5のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項8】
Zが-NHR4基である、請求項1〜7のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項9】
R4がフェニル基である、請求項8記載の組織シーラント。
【請求項10】
R5、R6、およびR7のうちの少なくとも1個がC1-C6アルコキシ基である、請求項2記載の組織シーラント。
【請求項11】
R5、R6、およびR7の各々がC1-C6アルコキシ基である、請求項2記載の組織シーラント。
【請求項12】
R5、R6、およびR7の各々がC1-C6アルコキシ基であり、かつR8が式:-(CH2)n-を有し、式中、n=1〜10である、請求項5記載の組織シーラント。
【請求項13】
ポリオールが、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、コポリエステルポリエーテルポリオール、アルコキシル化グリセロール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項14】
アルコキシシランとイソシアネート基とが反応して生じたシリル基と、遊離のイソシアネート基との比率が、50:50〜60:40の間である、請求項1〜13のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項15】
アルコキシシランと、ポリイソシアネートと、少なくとも2種の異なるポリオールとの反応生成物を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項16】
溶媒、希釈剤、触媒、凝固剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の試薬をさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項17】
着色剤をさらに含む、請求項1〜16のいずれか一項記載の組織シーラント。
【請求項18】
着色剤がβカロテンを含む、請求項17記載の組織シーラント。
【請求項19】
(a)請求項1〜18のいずれか一項記載の組織シーラントを組織表面へ適用する工程;および
(b)シーラントが適用された区域の組織を封鎖するため、シーラントを硬化させる工程
を含む、組織を封鎖する方法に使用するための、請求項1〜18のいずれか一項記載の組織シーラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2012年12月4日出願の米国出願第13/693,218号に基づく優先権の恩典を主張する。先の出願の開示は、本願の開示の一部と見なされる(参照によって組み入れられる)。
【0002】
技術分野
本発明は、生物学的組織を封鎖するための水分硬化性シーラントに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
組織シーラントは、典型的には、血管または肝臓の手術中の出血を止めるため、肺における空気漏出を排除するため、そして癒着を防止するため、使用される。この目的のために使用されるシーラントの例には、フィブリン生成物、ポリエチレングリコール生成物、およびアルブミンベースの生成物が含まれる。各ケースにおいて、組織シーラントは、急速な不可逆的な化学反応を引き起こすため、組織への適用の直前に共に混合される、2種の別個の成分からなる。この反応は、低粘度の液体から標的組織を覆う弾性の固体へと混合物を変換する。シーラントは、典型的には、数日〜数週間の範囲の設定された期間内に分解するよう設計される。しかしながら、そのような二部シーラントに関する一つの問題は、急速な硬化時間が、シーラントアプリケータの閉塞を引き起こす場合があるという点である。
【発明の概要】
【0004】
概要
(a)ポリオールと;(b)ポリイソシアネートと;(c)アルコキシシランとの反応生成物を含む組織シーラントが記載される。アルコキシシランは、式:(R
1R
2R
3)-Si-CH
2-Zを有し、式中、(i)Zは-OH、-SH、-NCO、または-NHR
4基であり、式中、R
4は水素、アルキル基、またはアリール基であり;かつ(ii)R
1、R
2、およびR
3は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり、但し、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも2個はアルコキシ基であるする。ポリオール、ポリイソシアネート、およびアルコキシシランの相対量は、反応生成物が遊離のイソシアネート基を含むよう選択されている。ポリオール、ポリイソシアネート、およびアルコキシシランの相対量は、反応生成物が遊離のイソシアネート基を含むよう選択される。組織シーラントは、生理学的環境において水分硬化性であり生分解性である。
【0005】
本明細書において使用されるように、「アルキル」という用語には、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、および環式アルキル基が含まれる。
【0006】
いくつかの態様において、組織シーラントは、イソシアネート官能性オルガノシランも含む。イソシアネート官能性オルガノシランは、少なくとも1個の遊離のイソシアネート基および式:(R
5R
6R
7)-Si-を有し、式中、R
5、R
6、およびR
7は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基である、少なくとも1個の末端シラン基を有する。
【0007】
いくつかの態様において、R
1、R
2、およびR
3のうちの2個は、C
1-C
6アルコキシ基である。他の態様において、R
1、R
2、およびR
3の各々は、C
1-C
6アルコキシ基である。適当なZ基の例には、-NHR
4基、例えば、R
4がフェニル基であるものが含まれる。
【0008】
いくつかの態様において、イソシアネート官能性オルガノシランは、500g/モル以下の分子量を有し、他の態様において、300g/モル以下の分子量を有する。
【0009】
いくつかの態様において、イソシアネート官能性オルガノシランのR
5、R
6、およびR
7のうちの少なくとも1個は、C
1-C
6アルコキシ基である。他の態様において、イソシアネート官能性オルガノシランのR
5、R
6、およびR
7の各々は、C
1-C
6アルコキシ基である。
【0010】
適当なイソシアネート官能性オルガノシランの一例は、式:(R
5R
6R
7)-Si-R
8-NCOを有し、式中、R
8はC
1-C
10アルキル基である、化合物である。もう一つの例は、式:(R
5R
6R
7)-Si-R
8-NCOを有し、式中、R
5、R
6、およびR
7の各々はC
1-C
6アルコキシ基であり、かつR
8は式:-(CH
2)
n-を有し、式中、n=1〜10である。
【0011】
ポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、コポリエステルポリエーテルポリオール、アルコキシル化グリセロール誘導体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。ポリイソシアネートは、リジンジイソシアネートおよびその誘導体、リジントリイソシアネートおよびその誘導体、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0012】
いくつかの態様において、組織シーラントは、アルコキシシランと、ポリイソシアネートと、少なくとも2種の異なるポリオールとの反応生成物を含む。2種のポリオールは、異なる分子量および/または化学構造を有する場合、相互に「異なる」。
【0013】
組織シーラントは、溶媒、希釈剤、触媒、凝固剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の試薬も含み得る。組織シーラントは、βカロテンのような着色剤も含み得る。
【0014】
使用時は、シーラントが組織表面へ適用され、組織に関連した水分の存在下で硬化して、組織表面を封鎖する。シーラントは、一成分組成物である(即ち、組織へ適用された時に水分によって硬化する1種の活性分子を含む)ため、組織適用前に2種の成分を混合する必要がなく、それによって、使用者の観点から適用が単純化され、二成分組織シーラントに関連したアプリケータ閉塞問題が回避される。
【0015】
シーラントは、水分の非存在下では安定しており、従って、保管が容易である。また、シーラントは、特に、イソシアネート官能性オルガノシランが含まれている時、生物学的組織に良好に付着し、優れた機械的特性を有する。
【0016】
[本発明1001]
(a)ポリオールと;
(b)ポリイソシアネートと;
(c)式:(R1R2R3)-Si-CH2-Zを有し、式中、
(i)Zは-OH、-SH、-NCO、または-NHR4基であり、式中、R4は水素、アルキル基、またはアリール基であり;かつ
(ii)R1、R2、およびR3は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり、但し、R1、R2、およびR3のうちの少なくとも2個はアルコキシ基である、
アルコキシシランと
の反応生成物を含み、生理学的環境において水分硬化性であり生分解性である、組織シーラントであって、
ポリオール、ポリイソシアネート、およびアルコキシシランの相対量が、該反応生成物が遊離のイソシアネート基を含むよう選択されている、組織シーラント。
[本発明1002]
少なくとも1個の遊離のイソシアネート基と、式:(R5R6R7)-Si-を有し、式中、R5、R6、およびR7は各々独立にH、アルコキシ基、アルキル基、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基である、少なくとも1個の末端シラン基とを有する、イソシアネート官能性オルガノシランをさらに含む、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1003]
イソシアネート官能性オルガノシランが、500g/モル以下の分子量を有する、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1004]
イソシアネート官能性オルガノシランが、300g/モル以下の分子量を有する、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1005]
イソシアネート官能性オルガノシランが、式:(R5R6R7)-Si-R8-NCOを有し、式中、R8はC1-C10アルキル基である、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1006]
R1、R2、およびR3のうちの2個がC1-C6アルコキシ基である、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1007]
R1、R2、およびR3の各々がC1-C6アルコキシ基である、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1008]
Zが-NHR4基である、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1009]
R4がフェニル基である、本発明1008の組織シーラント。
[本発明1010]
R5、R6、およびR7のうちの少なくとも1個がC1-C6アルコキシ基である、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1011]
R5、R6、およびR7の各々がC1-C6アルコキシ基である、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1012]
R5、R6、およびR7の各々がC1-C6アルコキシ基であり、かつR8が式:-(CH2)n-を有し、式中、n=1〜10である、本発明1002の組織シーラント。
[本発明1013]
ポリオールが、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、コポリエステルポリエーテルポリオール、アルコキシル化グリセロール誘導体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1014]
ポリイソシアネートが、リジンジイソシアネートおよびその誘導体、リジントリイソシアネートおよびその誘導体、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1015]
アルコキシシランと、ポリイソシアネートと、少なくとも2種の異なるポリオールとの反応生成物を含む、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1016]
溶媒、希釈剤、触媒、凝固剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の試薬をさらに含む、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1017]
着色剤をさらに含む、本発明1001の組織シーラント。
[本発明1018]
着色剤がβカロテンを含む、本発明1017の組織シーラント。
[本発明1019]
(a)本発明1001のシーラントを組織表面へ適用する工程;および
(b)シーラントが適用された区域の組織を封鎖するため、シーラントを硬化させる工程
を含む、組織を封鎖する方法。
本発明の一つまたは複数の態様の詳細が、以下の説明において示される。本発明の他の特色、目的、および利点は、説明および添付の特許請求の範囲から明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
組織シーラントは、ポリオールと、ポリイソシアネートと、アルコキシシランとの反応生成物を含む。反応物の化学量論は、得られる反応生成物が遊離の(即ち、未反応の)イソシアネート基を有するよう選択される。
【0018】
アルコキシシランは、式:(R
1R
2R
3)-Si-CH
2-Zを有する。式中、(i)Zは-OH、-SH、-NCO、または-NHR
4基であり、式中、R
4は水素、アルキル基(例えば、C
1-C
6アルキル基)、または(例えば、フェニル基のような少なくとも1個の環を有する)アリール基である。R
1、R
2、およびR
3は、各々独立に、H、アルコキシ基(例えば、C
1-C
6アルコキシ基)、アルキル基(例えば、C
1-C
6アルキル基)、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基(例えば、アルキルアミド基もしくはアミド基)、アリール基(例えば、フェニル基)、またはヘテロアリール基(例えば、ピロリル基、フリル基、もしくはピリジニル基)であり、但し、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも2個はアルコキシ基である。アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、または環式アルキル基であり得る。
【0019】
ポリオールは、反応のために利用可能な少なくとも2個のヒドロキシル基を含む。適当なポリオールの例には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、コポリエステルポリオール、およびアルコキシル化グリセロール誘導体(例えば、グリセロールエトキシレート)が含まれる。ポリエーテルポリオールの具体例には、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールが含まれる。ポリエステルポリオールの具体例には、ポリカプロラクトンジオールおよびポリラクチドジオールが含まれる。典型的なポリオールは、10,000未満の分子量を有する。いくつかの態様において、ポリオールは、5,000未満または2,000未満の分子量を有し得る。2種以上の異なるポリオールの混合物を使用してもよい。例えば、ジオールおよびトリオールを相互に組み合わせて使用することができる。
【0020】
ポリイソシアネートは、反応のために利用可能な少なくとも2個のイソシアネート基を含む。ポリイソシアネートは、リジンジイソシアネートおよびその誘導体、リジントリイソシアネートおよびその誘導体、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0021】
シーラントは、イソシアネート官能性オルガノシランも含み得る。イソシアネート官能性オルガノシランは、少なくとも1個の遊離のイソシアネート基と、式:(R
5R
6R
7)-Si-を有し、式中、R
5、R
6、およびR
7は各々独立にH、アルコキシ基(例えば、C
1-C
6アルコキシ基)、アルキル基(例えば、C
1-C
6アルキル基)、アルコキシ基以外のヘテロアルキル基(例えば、アルキルアミド基もしくはアミド基)、アリール基(例えば、フェニル基)、またはヘテロアリール基(例えば、ピロリル基、フリル基、もしくはピリジニル基)である、少なくとも1個の末端シラン基とを有する。
【0022】
通常、イソシアネート官能性オルガノシランは、組成物の重量に基づき15重量%までの量で含まれる。いくつかの態様において、それは8重量%までの量で含まれ、他の態様において、量は3重量%までである。
【0023】
シーラントは、溶媒、希釈剤、凝固剤、触媒、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1種または複数種の試薬をさらに含有していてもよい。試薬は、好ましくは、ポリオール、ポリイソシアネート、アルコキシシラン、およびイソシアネート官能性オルガノシランに対して不活性であり、従って、これらの化合物の間の反応に干渉しない。
【0024】
適当な触媒の例には、第三級アミン(例えば、脂肪族第三級アミン)、有機金属化合物(例えば、ビスマス塩およびジルコニウムキレート)、ブレンステッド酸、ならびにプロトン酸(例えば、硫酸または塩酸)が含まれる。有用な凝固剤の例には、カルシウム塩が含まれる。
【0025】
溶媒および希釈剤は、シーラントのレオロジーを修飾するために使用され得る。適当な溶媒の例には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、グライム、およびそれらの組み合わせが含まれる。適当な不揮発性希釈剤の例には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレンカーボネート、ジグライム、ポリエチレングリコールジアセテート、ポリエチレングリコールジカーボネート、ジメチルイソソルビド、ピルビン酸エチル、トリアセチン、トリエチレングリコール、およびそれらの組み合わせが含まれる。適当な揮発性希釈剤の例には、炭化水素、パーフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、およびそれらの組み合わせが含まれる。単一の試薬が、複数の役割を果たす場合もある。従って、例えば、DMSOは、溶媒および不揮発性希釈剤の両方として機能することができる。シーラントは、1種または複数種の安定剤も含み得る。例には、抗酸化剤(例えば、BHTおよびBHA)、脱水剤(例えば、ハロゲン化アシルおよびハロゲン化アリールならびに無水物)、ブレンステッド酸等が含まれる。ブレンステッド酸は触媒としても使用され得る。
【0026】
シーラントは、外科医が生物学的組織への適用中にシーラントを可視化するのを助けるため、着色剤を含んでいてもよい。適当な着色剤の例は、βカロテンである。
【0027】
シーラントは、典型的には、「単一容器」反応において反応物を共に組み合わせる一工程反応、または反応物を逐次反応させる多工程反応のいずれかにおいて、ポリオール、ポリイソシアネート、およびアルコキシシランを共に反応させることによって調製される。次いで、得られた反応生成物は、イソシアネート官能性オルガノシランおよび前記要素のいずれかと組み合わせられる。
【実施例】
【0028】
接着試験
ブタ小腸をTissue Source(Indiana)から取得し、使用まで-10℃で保管した。
【0029】
腸を試験前に冷水で完全に洗浄する。およそ24cmの複数の切片を、接着試験において使用するため準備し;切片を、シーラントの適用まで、37℃および100%相対湿度で保管する。次いで、周囲条件で、腸試料を「乾いている(dry)」、「湿っている(damp)」、および「濡れている(wet)」とマークされた3種類の切片(3分の1ずつ)に区分けし;次いで、全試料を乾燥させる。スポンジをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸し、次いで、「damp」切片および「wet」切片の試料の上で搾り、その後、「damp」切片を、タオルで軽く乾燥させる。この時点で、注射器を介して試料切片の各々にシーラントを適用する。1回の適用におよそ0.1ccを使用する。次いで、シーラントを、試験まで室温および周囲相対湿度で20分間硬化させる。シーラントストリップの各々を手袋をはめた指で操作する。スコアリングは、下記表に示される;データは3回のランの平均値として報告される。
【0030】
(表1)接着試験結果のスコアリング
【0031】
破裂試験
試験は、外科用シーラントの破裂強度についての標準的な試験法ASTM F 2392-04に従って実施された。
【0032】
指触乾燥(Tack-Free)時間
ブタ皮膚をStellen Medical(Minnesota)から取得し、使用まで-10℃で保管する。皮膚を3.5cm×3.5cmの正方形に切り、シーラントの適用まで37℃および100%相対湿度で保管する。
【0033】
次いで、0℃の目標露点で湿度調節チャンバーにおいて試験を実施する。皮膚の直径1.6cmの適用区域内に180μLのシーラントを適用するため、電動ピペットを使用する。タイマーを直ちに開始し、30秒毎にステンレススチールスパチュラで試料の粘着性をチェックする。シーラント適用の2分後に、シーラント上に1.0ccのPBSを流す。最初の適用から計5分が経過するまで、30秒間隔で継続的に粘着性の状態を査定する。
【0034】
(表2)粘着性の説明
【0035】
材料:
ポリエチレングリコール(平均分子量=1500)およびポリエトキシル化グリセロール(平均分子量=1000)は、Aldrich Chemical Coから入手した。ピルビン酸エチル(97.5%)、フェニルアミノメチルトリエトキシシラン(97%)、ジメチルスルホキシド(99.9%)、およびリジン(エチルエステル)ジイソシアネート(LDI、99.2%)、およびN-フェニルアミノメチルトリエトキシシラン(99%)は、Sigma-Aldrich Fine Chemicalsから入手し、入手時の状態で使用した。硫酸(99.999%)、イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(95%)、および酢酸メチル(99.5%)は、Aldrich Chemical Coから購入し、入手時の状態で使用した。
【0036】
実施例1:シーラントの合成、第1工程
40.5gのポリエチレングリコール(M=1500、54mmol OH基)および22.9gのポリエトキシル化グリセロール(M=1000、68.4mmol OH基)を、メカニカルスターラーを備えた250cc 三口フラスコに添加した。温度を120〜140℃に上げ、水を除去するため、少なくとも15時間、真空を印加した。温度を80℃に上げ、LDI(30.9g、273.8mmol NCO)および硫酸(0.0243g)を、撹拌しながら窒素下で添加した。イソシアネート基の50%が消費されたことが滴定によって示されるまで、反応を5〜5.5時間継続した。
【0037】
実施例2:比較目的のための、残余イソシアネート基を含まずイソシアネート官能性シランを含まないシーラントの合成
実施例1におけるLDI-ポリマー反応の後、温度を80℃に維持しながら、フェニルアミノメチルトリエトキシシラン(40.7g、151.4mmolアミン)を窒素下で添加した。イソシアネート基が全て消費されたことが(2265cm
-1の波長での)赤外線分光法によって示されるまで、反応を継続した。この時点で、43.6gのピルビン酸エチルを撹拌しながら添加し、続いて、0.01gの硫酸を添加した。得られたシーラントを、最初に4℃で保管した。
【0038】
実施例3:遊離のイソシアネート基を含むシーラントの合成
実施例1におけるLDI-ポリマー反応の後、存在するイソシアネート基に対して理論量未満の量;例えば、17.5g(65.1 mmol)で、フェニルアミノメチルトリエトキシシランを添加した。この添加は、温度を80℃に維持しながら窒素下でなされた。イソシアネート濃度(2265cm
-1)が経時的に実質的に変化していないことが赤外線分光法によって示されるまで、その反応を継続した。実施例2と同様に、ピルビン酸エチルおよび硫酸を添加した。ジブチルアミンおよび酸に対する滴定によって、材料中の残余イソシアネート基の存在が証明された。
【0039】
(表3)様々な量の遊離のイソシアネートを含むシーラント
【0040】
表3のデータは、イソシアネート基の適切なレベルを選べば、遊離のイソシアネート基の存在が、実施例2のものと比べてシーラントの性能を改善することを示している。
【0041】
実施例4:遊離のイソシアネート基+イソシアネート官能性シランを含むシーラントの合成
実施例3と同様に、シーラントを合成した。ピルビン酸エチルの添加の後、イソシアナトプロピルトリエトキシシランを、4.8g(19.4mmol NCO)〜11.4g(46.2mmol NCO)の範囲の量で添加した。
【0042】
(表4)遊離イソシアネートおよび様々なイソシアネート官能性シランを含むシーラント
【0043】
表3および4の結果を比較すると、イソシアナトプロピルトリエトキシシランの添加が、プレポリマーの鎖端に残余イソシアネート基のみを含むシーラントと比べて、接着および破裂強度の両方を改善することが理解される。
【0044】
本発明の多数の態様が記載された。しかしながら、本発明の本旨および範囲を逸脱することなく、様々な修飾がなされ得ることが理解されるであろう。従って、他の態様が、添付の特許請求の範囲の範囲内である。