(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688640
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】触媒担体及びその製造方法、並びに触媒担持体及び水処理材
(51)【国際特許分類】
B01J 21/16 20060101AFI20200421BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20200421BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20200421BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
B01J21/16 M
B01J32/00
B01J37/00 B
B01J37/08
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-50910(P2016-50910)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-164671(P2017-164671A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 昌平
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 章
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−525833(JP,A)
【文献】
特開2000−061307(JP,A)
【文献】
特開2002−346391(JP,A)
【文献】
特表2009−509903(JP,A)
【文献】
特開昭55−049146(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/096386(WO,A1)
【文献】
特開平08−299761(JP,A)
【文献】
特開2000−140864(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0098032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/86,53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中に存在するアンモニアの触媒湿式酸化法に用いられる触媒担体であって、
γ−アルミナと、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートとを含み、前記γ−アルミナの含有量が10質量%〜60質量%であり、
ケイ酸カルシウムをさらに含む、触媒担体。
【請求項2】
前記触媒担体と28%のアンモニア水とを固液比が1:10となるように混合し、150℃で12時間処理した後の比表面積の低下率が5%以下である、請求項1に記載の触媒担体。
【請求項3】
圧縮強度が20N以上である、請求項1又は2に記載の触媒担体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒担体に活性成分を担持させた、触媒担持体。
【請求項5】
触媒湿式酸化法に用いられる水処理材であって、請求項4に記載の触媒担持体を有する、水処理材。
【請求項6】
排水中に存在するアンモニアの触媒湿式酸化法に用いられる触媒担体の製造方法であって、
γ−アルミナを与える化合物と、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物とを混練して混練物を得る工程と、
前記混練物を成形した後、800℃〜1100℃の温度で焼成する工程と
を含み、
前記混練物中の前記γ−アルミナを与える化合物の含有量が7質量%〜75質量%であり、
前記混練物がケイ酸カルシウムを与える化合物をさらに含む、触媒担体の製造方法。
【請求項7】
前記γ−アルミナを与える化合物がγ−アルミナである、請求項6に記載の触媒担体の製造方法。
【請求項8】
前記アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物が、アノーサイト、カオリン、モンモリロナイト、ハロイサイト、パイロフィライト及びアロフェンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の触媒担体の製造方法。
【請求項9】
前記ケイ酸カルシウムを与える化合物が、ワラストナイト、ゾノトライト、トバモライト、ケイ酸カルシウム水和物である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の触媒担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体及びその製造方法、並びに触媒担持体及び水処理材に関する。詳細には、本発明は、触媒湿式酸化法に用いられる触媒担体及びその製造方法、並びに触媒担持体及び水処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、排水中に存在するアンモニアなどの有機化合物を除去する方法として、低濃度の有機化合物が含まれる場合には標準活性汚泥法などの生物処理法、高濃度の有機化合物が含まれる場合には触媒湿式酸化法などの化学処理法が用いられている。その中でも触媒湿式酸化法は、高温高圧条件下で排水を触媒と接触させることにより、大量の排水を連続的に処理することができるという利点がある。そのため、触媒湿式酸化法は、例えば、半導体洗浄工程で発生するアンモニア含有排水の処理などに用いられている。また、高濃度の糖蜜を含有する排水は、生物処理法を用いると大量のアンモニア含有排水が生成するのに対し、触媒湿式酸化法を用いることにより、糖蜜及びアンモニアを同時に処理することができるという利点もある。
【0003】
触媒湿式酸化法に用いられる触媒としては、ハニカム状、球状などに成形された触媒担体に活性成分を担持したものが用いられる。活性成分を担持する触媒担体は、高温高圧条件下で高濃度の有機化合物が含まれる排水と連続的に接触するため、高い耐久性が要求される。
従来、触媒担体としては、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、酸化鉄、酸化チタンのような金属酸化物、酸化チタン−酸化ジルコニウム複合体のような複合金属酸化物などが一般に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−63568号公報
【特許文献2】特開2000−140864号公報
【特許文献3】特開2003−13077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒担体として用いられているシリカ、α−アルミナ及びγ−アルミナは、成形が容易であり、低濃度のアンモニアを含む排水に対して耐性を有する。しかしながら、高濃度のアンモニアを含む排水と接触すると、シリカは表面が溶解し、α−アルミナ及びγ−アルミナは水和してベーマイト(AlOOH)が生成する。その結果、触媒担体の比表面積が低下したり、担持された活性成分が脱落して流出したりすることがある。
他方、酸化鉄、酸化チタン及び酸化チタン−酸化ジルコニウム複合体は、高濃度のアンモニアを含む排水に対して耐性を有するものの、成形し難い。そのため、これらの材料を用いて所定の形状の触媒担体を得るためには、加圧成形を行ったり、焼結助剤を使用したり、焼結温度を高くしたり、焼結時間を長くしたりしなければならない。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても比表面積の低下及び活性成分の脱落を抑制することができると共に成形が容易である触媒担体及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても触媒作用が低下し難い触媒担持体及び水処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を続けた結果、γ−アルミナを特定の割合でアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートと組み合わせることにより、上記の問題を解決し得る触媒担体が得られ、また、この触媒担体を用いることにより、上記の問題を解決し得る触媒担持体及び水処理材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の第(1)項〜第(11)項である。
(1)γ−アルミナと、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートとを含み、前記γ−アルミナの含有量が10質量%〜60質量%であることを特徴とする触媒担体。
(2)ケイ酸カルシウムをさらに含むことを特徴とする第(1)項に記載の触媒担体。
(3)前記触媒担体と28%のアンモニア水とを固液比が1:10となるように混合し、150℃で12時間処理した後の比表面積の低下率が5%以下であることを特徴とする第(1)項又は第(2)項に記載の触媒担体。
(4)圧縮強度が20N以上であることを特徴とする第(1)項〜第(3)項のいずれか一項に記載の触媒担体。
【0008】
(5)第(1)項〜第(4)項のいずれか一項に記載の触媒担体に活性成分を担持させたことを特徴とする触媒担持体。
(6)触媒湿式酸化法に用いられる水処理材であって、第(5)項に記載の触媒担持体を有することを特徴とする水処理材。
(7)γ−アルミナを与える化合物と、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物とを混練して混練物を得る工程と、
前記混練物を成形した後、800℃〜1100℃の温度で焼成する工程と
を含み、
前記混練物中の前記γ−アルミナを与える化合物の含有量が7質量%〜75質量%である
ことを特徴とする触媒担体の製造方法。
【0009】
(8)前記混練物がケイ酸カルシウムを与える化合物をさらに含むことを特徴とする第(7)項に記載の触媒担体の製造方法。
(9)前記γ−アルミナを与える化合物がγ−アルミナであることを特徴とする第(7)項又は第(8)項に記載の触媒担体の製造方法。
(10)前記アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物が、アノーサイト、カオリン、モンモリロナイト、ハロイサイト、パイロフィライト及びアロフェンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする第(7)項〜第(9)項のいずれか一項に記載の触媒担体の製造方法。
(11)前記ケイ酸カルシウムを与える化合物が、ワラストナイト、ゾノトライト、トバモライト、ケイ酸カルシウム水和物であることを特徴とする第(8)項〜第(10)項のいずれか一項に記載の触媒担体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても比表面積の低下及び活性成分の脱落を抑制することができると共に成形が容易である触媒担体及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても触媒作用が低下し難い触媒担持体及び水処理材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の触媒担体は、γ−アルミナと、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートとを含む。また、本発明の触媒担体は、上記成分に加えてケイ酸カルシウムをさらに含んでもよい。
【0012】
γ−アルミナは、触媒担体の比表面積を高めるのに必要な成分である。γ−アルミナは、スピネル型の結晶構造を有しており、高い比表面積を有するため、触媒担体の成分としてγ−アルミナを用いることにより、触媒担体の比表面積を高めることができる。ただし、触媒担体中のγ−アルミナの含有量が少なすぎると、触媒担体の比表面積を十分に高めることができない。一方、触媒担体中のγ−アルミナの含有量が多すぎると、触媒担体の強度が低下する。これらの理由から、本発明の触媒担体におけるγ−アルミナの含有量は、10質量%〜60質量%、好ましくは20質量%〜60質量%、より好ましくは25質量%〜60質量%、さらに好ましくは30質量%〜60質量%、最も好ましくは35質量%〜60質量%である。
【0013】
アルミノシリケート及びカルシウムアルミノシリケートは、γ−アルミナの焼結促進及びアンモニアを含む排水によるγ−アルミナの水和を抑制するのに必要な成分である。
アルミノシリケートは、Al
2O
3(アルミナ)とSiO
2(シリカ)とからなる複合酸化物(二元酸化物)である。アルミノシリケートとしては、特に限定されないが、例えば、Al
2O
3・2SiO
2、Al
2O
3・4SiO
2などが挙げられる。触媒担体に含有されるアルミノシリケートは、単一の種類であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0014】
カルシウムアルミノシリケートは、CaO(酸化カルシウム)とAl
2O
3とSiO
2とからなる複合酸化物(三元酸化物)である。カルシウムアルミノシリケートの例としては、特に限定されないが、例えば、アノーサイト(CaO・Al
2O
3・2SiO
2)、ゲーレナイト(2CaO・Al
2O
3・SiO
2)などが挙げられる。触媒担体に含有されるカルシウムアルミノシリケートは、単一の種類であっても、2種以上の混合物であってもよい。
本発明の触媒担体におけるアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートの含有量は、特に限定されず、γ−アルミナの量に応じて適宜調整すればよい。例えば、触媒担体中のγ−アルミナの含有量を10質量%〜60質量%にする場合、触媒担体中のアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートの含有量を40質量%〜90質量%にすればよい。
【0015】
ケイ酸カルシウムは、アンモニアを含む排水によるγ−アルミナの水和を抑制するのに有効な成分である。
ケイ酸カルシウムは、CaOとSiO
2とからなる複合酸化物(二元酸化物)である。ケイ酸カルシウムの例としては、特に限定されないが、ワラストナイト(CaO・SiO
2)、ランキナイト(3CaO・2SiO
2)、トライカルシウムシリケート(3CaO・SiO
2)、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO
2)などが挙げられる。触媒担体に含有されるケイ酸カルシウムは、単一の種類であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0016】
本発明の触媒担体におけるケイ酸カルシウムの含有量は、特に限定されず、γ−アルミナ並びにアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートの量に応じて適宜調整すればよい。本発明の触媒担体におけるケイ酸カルシウムの含有量は、一般に5質量%〜25質量%である。
【0017】
本発明の触媒担体は、本発明の効果を阻害しない範囲において、当該技術分野で一般に使用される各種成分(例えば、上記成分以外の金属酸化物及び複合金属酸化物)を含むことができる。
【0018】
本発明の触媒担体は、当該技術分野において公知の様々な形状とすることができる。触媒担体の形状としては、特に限定されないが、球状、ペレット状、円柱状、直方体状、筒状、破砕片状、ハニカム状、粉末状などが挙げられる。
【0019】
本発明の触媒担体は、γ−アルミナを与える化合物と、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物とを混練して混練物を得た後、混練物を成形して焼成することによって製造することができる。なお、本発明の触媒担体がケイ酸カルシウムをさらに含む場合、ケイ酸カルシウムを与える化合物が混練物に加えられる。
【0020】
ここで、本明細書において「γ−アルミナを与える化合物」とは、γ−アルミナ、又は焼成によってγ−アルミナを生成する化合物のことを意味する。焼成によってγ−アルミナを生成する化合物としては、特に限定されないが、ギブサイト、ダイアスポア、ベーマイトなどの水酸化物、硝酸アルミニウムなどの硝酸塩、塩化アルミニウムなどの塩化物などが挙げられる。γ−アルミナを与える化合物は、単一又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、本明細書において「アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物」とは、アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケート、或いは焼成によってアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを生成する化合物のことを意味する。焼成によってアルミノシリケートを生成する化合物としては、特に限定されないが、カオリン(カオリナイト)、ハロイサイト、パイロフィライト、イモゴライト、アロフェンなどのケイ酸塩水和物が挙げられる。また、焼成によってカルシウムアルミノシリケートを与える化合物としては、特に限定されないが、モンモリロナイトなどのケイ酸塩水和物が挙げられる。なお、これらのケイ酸塩水和物を含有する蛙目粘土、木節粘土、信楽土などの陶土を原料として用いてもよい。アルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物は、単一又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
また、本明細書において「ケイ酸カルシウムを与える化合物」とは、ケイ酸カルシウム、又は焼成によってケイ酸カルシウムを生成する化合物のことを意味する。焼成によってケイ酸カルシウムを生成する化合物としては、特に限定されないが、トバモライト、ゾノトライト、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)などが挙げられる。なお、これらの成分を含有する建設材料(例えば、軽量気泡コンクリートの端材、生コンのスラッジなど)を原料として用いてもよい。ケイ酸カルシウムを与える化合物は、単一又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記の原料を混練して混練物を得る場合、混練性及びその後の成形性を確保する観点から、水、1,3−ブタンジオールなどの溶剤を混練物に配合してもよい。混練方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の混練機などを用いて行なえばよい。
原料の配合割合としては、触媒担体中のγ−アルミナの含有量を10質量%〜60質量%とするために、混練物中のγ−アルミナを与える化合物の含有量を7質量%〜75質量%、好ましくは10質量%〜70質量%、より好ましくは15質量%〜65質量%、さらに好ましくは20質量%〜60質量%、最も好ましくは25質量%〜55質量%に設定する。
【0024】
また、それ以外の原料の配合割合としては、特に限定されず、γ−アルミナを与える化合物の量に応じて適宜調整すればよい。例えば、混練物中のアルミノシリケート及び/又はカルシウムアルミノシリケートを与える化合物の含有量は、一般に25質量%〜93質量%、好ましくは30質量%〜90質量%である。また、ケイ酸カルシウムを与える化合物を配合する場合、混練物中のケイ酸カルシウムの含有量は、一般に1質量%〜25質量%、好ましくは5質量%〜23質量%である。
【0025】
混練物の成形方法としては、特に限定されず、作製する触媒担体の形状に応じて適切な方法を選択すればよい。例えば、混練物を球状の成形体に成形する場合、造粒機などを用いて成形すればよい。また、混練物を円柱状、直方体状、筒状、ハニカム状などの成形体に成形する場合、押出成形機などを用いて成形すればよい。
【0026】
混練物を成形した後、成形体を直ぐに焼成してもよいが、クラックなどの発生を防止する観点から、必要に応じて焼成前に乾燥を行ってもよい。
成形体の焼成は、800℃〜1100℃の温度で行われる。この温度範囲で焼成を行うことにより、強度を確保しつつ、γ−アルミナによる高い比表面積を維持した触媒担体を得ることが可能になる。焼成温度が800℃未満であると、触媒担体の強度が低下し、触媒担体が崩壊し易くなる。一方、焼成温度が1100℃を超えると、γ−アルミナが転移してコランダム構造のα−アルミナとなり、アルミナの焼結も進行するため、触媒担体の比表面積が低下してしまう。
焼成方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の焼成装置を用いて行うことができる。焼成装置としては、バッチ炉、トンネル窯、ロータリーキルンなどを用いることができる。
【0027】
上記のようにして製造される本発明の触媒担体は、一般に20N以上、好ましくは25N以上、さらに好ましくは30N以上の圧縮強度を有する。20N以上の圧縮強度を有する触媒担体であれば、使用時に崩壊し難い。
ここで、本明細書において「圧縮強度」とは、株式会社島津製作所製のオートグラフなどの試験機を用いて測定されるものを意味する。
【0028】
また、本発明の触媒担体は、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても比表面積の低下が起こり難く、一般に、触媒担体と28%のアンモニア水とを固液比(質量比)が1:10となるように混合して、150℃で12時間処理した後の比表面積の低下率が5%以下である。この比表面積の低下率が5%以下であれば、担持された活性成分が脱落して流出することを抑制することができる。
【0029】
本発明の触媒担体は、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても比表面積の低下及び活性成分の脱落を抑制することができるため、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても触媒作用が低下し難い触媒担持体を作製することができる。
本発明の触媒担持体は、触媒担体に活性成分を担持させることによって得ることができる。担持させる活性成分としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。活性成分の例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、インジウム、イリジウム、金、銀、コバルト、銅、ニッケル、タングステン、及びこれらの金属の水不溶性又は水難溶性の化合物が挙げられる。具体的には、一酸化コバルト、一酸化ニッケル、二酸化ルテニウム、三酸化二ロジウム、一酸化パラジウム、二酸化イリジウム、酸化第二銅、二酸化タングステンなどの酸化物;二塩化ルテニウム、二塩化白金などの塩化物;硫化ルテニウム、硫化ロジウムなどの硫化物などを用いることができる。
活性成分の担持量としては、特に限定されないが、一般に、触媒担体の重量の0.05質量%〜25質量%である。
【0030】
本発明の触媒担持体は、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても触媒作用が低下し難いため、高温高圧条件下で排水を活性成分と接触させることが要求される触媒湿式酸化法に用いられる水処理材に用いるのに特に適している。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(1)原料
原料として下記のものを準備した。
・γ−アルミナを与える化合物:γ−アルミナ(水澤化学工業株式会社製)
・カルシウムアルミノシリケートを与える化合物:モンモリロナイト(カネサン工業株式会社製)
・カルシウムアルミノシリケートを与える化合物:アノーサイト(水酸化カルシウムと酸化アルミニウムと二酸化ケイ素とを混合してペレット成型し、1100℃の条件下で1時間焼成を行った後、粉砕することによって製造した。)
・アルミノシリケートを与える化合物:カオリン(ハットリ株式会社製)
・アルミノシリケートを与える化合物:アロフェン(品川化成株式会社製)
・ケイ酸カルシウムを与える化合物:トバモライト(酸化カルシウムと珪石と水とを混合したスラリーを180℃、10000hPaの条件下で10時間水和反応を行った後、濾過して乾燥させることによって製造した。)
【0032】
(2)製造方法
上記の原料を用い、表1に示す割合で原料を混合し、水及び1,3−ブタンジオールを加えて混練した。次に、混練物を直径約5mmとなるように造粒した後、150℃で乾燥させ、表1に示す温度で5時間焼成することによって球状の触媒担体を得た。なお、サンプル中、No.6〜7及び10〜11は、成形性が悪く、成形することができなかった。
【0033】
【表1】
【0034】
(3)評価
上記で得られた触媒担体について、γ−アルミナ含有量、圧縮強度、並びにアンモニア耐久性試験前後の鉱物組成及び比表面積の低下率の評価を行った。
触媒担体のγ−アルミナ含有量は、リートベルト法によって算出した。
圧縮強度は、株式会社島津製作所製のオートグラフを用いて測定した。測定は10個のサンプルで行い、その測定値の平均を評価結果とした。
【0035】
アンモニア耐久性試験は、三愛科学株式会社製の高圧分解反応容器100mL中で触媒担体2g及び関東化学株式会社製アンモニア水(特級、濃度28%)20gを混合(固液比は1:10である)して密閉した後、該反応容器を乾燥機に入れて150℃で12時間放置することによって行った。アンモニア耐久性試験の終了後は、該反応容器を乾燥機から取り出して20℃になるまで放冷した。そして、該反応容器から触媒担体を取り出した後、触媒担体を蒸留水で洗浄して105℃で乾燥させた。
【0036】
触媒担体の鉱物組成は、アルミナの種類を特定することとし、粉末X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8advance)を用いて同定した。γ−アルミナの含有量は、粉末X線回折を利用したリートベルト解析法によって求めた。
比表面積は、日本ベル株式会社製BELSORPmaxを用い、窒素吸着BET法によって測定した。比表面積の低下率は、(アンモニア耐久性試験前の触媒担体の比表面積−アンモニア耐久性試験後の触媒担体の比表面積)/アンモニア耐久性試験前の触媒担体の比表面積×100によって算出した。
上記の各評価結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示されるように、サンプルNo.2〜4、8〜9、13〜15及び17〜19の触媒担体(本発明例)は、強度が高いと共に比表面積の低下率が小さかった。
これに対してサンプルNo.1の触媒担体(比較例)は、γ−アルミナを含有していないために比表面積が小さく、触媒担体としての使用に適していなかった。サンプルNo.5の触媒担体(比較例)は、γ−アルミナの含有量が高すぎたため、強度が低く、比表面積の低下率も大きくなった。サンプルNo.16の触媒担体(比較例)は、焼成温度が高すぎたため、γ−アルミナがα−アルミナに転移し、比表面積が小さくなった。サンプルNo.6〜7及び10〜11は、成形性が悪く、触媒担体を得ることができなかったため、評価を行うことができなかった。サンプルNo.12は、アンモニア耐久試験によって割れ、粉状化が生じ、触媒担体としての形状を維持できなかったため、評価を行わなかった。
【0039】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても比表面積の低下及び活性成分の脱落を抑制することができると共に成形が容易である触媒担体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、高濃度のアンモニアを含む排水と接触しても触媒作用が低下し難い触媒担持体及び水処理材を提供することができる。