特許第6688662号(P6688662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688662TiAl系金属間化合物焼結体及びTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688662
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】TiAl系金属間化合物焼結体及びTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20060101AFI20200421BHJP
   C22C 1/00 20060101ALI20200421BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20200421BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20200421BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20200421BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C22C1/04 E
   C22C1/00 Q
   C22C21/00 N
   C22C14/00 Z
   C22C1/04 C
   B22F3/02 S
   B22F3/10 H
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-75932(P2016-75932)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-186609(P2017-186609A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研二
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺内 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】北垣 壽
(72)【発明者】
【氏名】花見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−243741(JP,A)
【文献】 特開平03−193801(JP,A)
【文献】 特開2000−355704(JP,A)
【文献】 特開平08−092602(JP,A)
【文献】 特開平02−200743(JP,A)
【文献】 特開2004−076095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00
C22C 1/04
B22F 1/00−8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、添加金属とを含有するTiAl系粉末体を焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体を生成し、
前記添加金属は、Niであり、
前記TiAl系粉末体は、Niの含有量が、0.2重量%以上0.6重量%以下である、TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記TiAl系粉末体とバインダとを混合して混合体を得る混合ステップと、
前記混合体を金属粉末射出成型機によって成形体に成形する射出成型ステップと、
前記成形体を脱脂して脱脂体を生成する脱脂ステップと、
前記脱脂体を焼結して前記TiAl系金属間化合物焼結体を生成する焼結ステップと、を有する、請求項1に記載のTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法。
【請求項3】
Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、添加金属とを含有するTiAl系粉末体を焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体を生成し、
前記添加金属は、Ni及びFeであり、
前記TiAl系粉末体は、Ni及びFeの合計量が、0.01重量%以上2重量%以下である、TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法。
【請求項4】
Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、添加金属とを含有するTiAl系粉末体を焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体を生成し、
前記添加金属は、Ni、又は、Ni及びFeであり、
前記TiAl系粉末体は、前記TiAl系金属間化合物と前記添加金属とを含有するTiAl系固溶粉末を複数混合したものである、TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記TiAl系粉末体は、前記TiAl系金属間化合物の粉末であるTiAl系粉末と、前記添加金属を含有する添加金属粉末とを複数混合したものである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法。
【請求項6】
Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、Niである添加金属とを含有し、
Niの含有量が、全体の0.2重量%以上0.6重量%以下である、TiAl系金属間化合物焼結体。
【請求項7】
Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、Ni及びFeである添加金属と、を含有し、
Ni及びFeの合計含有量が、全体の0.01重量%以上2重量%以下である、TiAl系金属間化合物焼結体。
【請求項8】
前記TiAl系金属間化合物と前記添加金属とを含有する複数のTiAl系焼結粉末が結合しており、前記添加金属の金属相である添加金属相は、隣接する前記TiAl系焼結粉末の間に存在する、請求項6又は請求項7に記載のTiAl系金属間化合物焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiAl系金属間化合物焼結体及びTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiAl系金属間化合物は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)とが結合して構成される金属間化合物(合金)であり、軽量、かつ高温での強度が高いため、エンジンや航空宇宙機器の高温用構造材へ適用されている。TiAl系金属間化合物は、展延性が低いなどの理由により、鍛造や鋳造などによって成形することは困難であり、焼結によって成形されることがある。TiAl系金属間化合物の焼結体は、例えば特許文献1に示すように、TiAl系金属間化合物の粉末を焼結することによって成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−243741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TiAl系金属間化合物の焼結体は、焼結した場合の焼結密度を高くすることで強度をより高くすることができる。そのため、焼結密度をより高くすることが求められる。
【0005】
従って、本発明は、焼結密度が高く、強度が高いTiAl系金属間化合物焼結体、及び焼結密度が高く、強度が高いTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、添加金属とを含有するTiAl系粉末体を焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体を生成し、前記添加金属は、Ni、又は、Ni及びFeである。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、TiAl系金属間化合物焼結体を、隣接するTiAl相の粒界に添加金属相が存在する金属組織とすることができる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、焼結密度を高くし、強度を高くすることができる。
【0007】
前記TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、前記TiAl系粉末体とバインダとを混合して混合体を得る混合ステップと、前記混合体を金属射出成型機によって成形体に成形する射出成型ステップと、前記成形体を脱脂して脱脂体を生成する脱脂ステップと、前記脱脂体を焼結して前記TiAl系金属間化合物焼結体を生成する焼結ステップと、を有することが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、金属粉末射出成型法を用いているため、焼結密度を向上させつつ、形状精度を向上させることができる。
【0008】
前記TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法において、前記TiAl系粉末体は、Niの含有量が、0.01重量%以上1重量%以下であることが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、隣接するTiAl相の粒界に添加金属相を適切に存在させることが可能になるため、焼結密度を適切に向上させることができる。
【0009】
前記TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法において、前記TiAl系粉末体は、Ni及びFeの合計量が、0.01重量%以上2重量%以下であることが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、隣接するTiAl相の粒界に添加金属相を適切に存在させることが可能になるため、焼結密度を適切に向上させることができる。
【0010】
前記TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法において、前記TiAl系粉末体は、前記TiAl系金属間化合物と前記添加金属とを含有するTiAl系固溶粉末を複数混合したものであることが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、隣接するTiAl相の粒界に添加金属相を適切に存在させることが可能になるため、焼結密度を適切に向上させることができる。
【0011】
前記TiAl系金属間化合物焼結体の製造方法において、前記TiAl系粉末体は、前記TiAl系金属間化合物の粉末であるTiAl系粉末と、前記添加金属を含有する添加金属粉末とを複数混合したものであることが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体の製造方法は、隣接するTiAl相の粒界に添加金属相を適切に存在させることが可能になるため、焼結密度を適切に向上させることができる。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のTiAl系金属間化合物焼結体は、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、Niである添加金属とを含有し、Niの含有量が、全体の0.01重量%以上1重量%以下である。このTiAl系金属間化合物焼結体は、TiAl系金属間化合物に対し、Niをこの配合比で含有しているため、焼結体のTiAl相の粒界にNi相を存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体は、焼結密度が向上する。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のTiAl系金属間化合物焼結体は、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、Ni及びFeである添加金属と、を含有し、Ni及びFeの合計含有量が、全体の0.01重量%以上2重量%以下である。このTiAl系金属間化合物焼結体は、TiAl系金属間化合物に対し、NiとFeとをこの配合比で含有しているため、焼結体のTiAl相の粒界にNiFe相を存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体は、焼結密度が向上する。
【0014】
前記TiAl系金属間化合物焼結体において、前記TiAl系金属間化合物は、20〜80重量%のTiと、20〜80重量%のAlと、0〜30重量%の混合金属とを含有し、前記混合金属は、Nb、Cr、及びMnのうち少なくともいずれか一種を含有することが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体は、TiAl系金属間化合物がこの配合比となっているため、強度が向上する。
【0015】
前記TiAl系金属間化合物焼結体は、前記TiAl系金属間化合物と前記添加金属とを含有する複数のTiAl系焼結粉末が結合しており、前記添加金属の金属相である添加金属相は、隣接する前記TiAl系焼結粉末の間に存在することが好ましい。このTiAl系金属間化合物焼結体は、焼結体のTiAl相の粒界に添加金属相が存在しているため、焼結密度がより適切に向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、TiAl系金属間化合物焼結体の焼結密度を高くし、強度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係る焼結体製造システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態に係る粉末製造装置の構成を模式的に説明する説明図である。
図3図3は、第1実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体の相を説明する模式図である。
図4図4は、第1実施形態に係る焼結体製造システムによるTiAl系金属間化合物焼結体の製造フローを説明するフローチャートである。
図5図5は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。
図6図6は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図7図7は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図8図8は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図9図9は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図10図10は、Niの含有量と焼結密度との関係を示すグラフである。
図11図11は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。
図12図12は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図13図13は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図14図14は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図15図15は、Ni及びFeの含有量と焼結密度との関係を示すグラフである。
図16図16は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。
図17図17は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
図18図18は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る焼結体製造システムの構成を示すブロック図である。第1実施形態に係る焼結体製造システム1は、TiAl系金属間化合物の焼結体の製造方法を実行するためのシステムである。TiAl系金属間化合物焼結体とは、TiAl系金属間化合物(TiAl系合金)を主成分とする焼結体である。本実施形態におけるTiAl系金属間化合物とは、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)とが結合した化合物(TiAl、TiAl、AlTi等)である。ただし、TiAl系金属間化合物は、TiとAlとが結合している相であるTiAl相に、後述する混合金属Mを固溶するものであってもよい。
【0020】
図1に示すように、焼結体製造システム1は、粉末製造装置10と、金属粉末射出成型装置20と、脱脂装置30と、焼結装置40とを有する。焼結体製造システム1は、粉末製造装置10によってTiAl系金属間化合物の粉末を製造し、金属粉末射出成型装置20によってその粉末をバインダと共に金属粉末射出成型し、焼結装置40によって金属粉末射出成型された成形体を焼結して、TiAl系金属間化合物の焼結体(TiAl系金属間化合物焼結体)を製造する。
【0021】
粉末製造装置10は、TiAl系インゴッドAから、TiAl系固溶粉末Bを製造する。TiAl系インゴッドAは、上述のTiAl系金属間化合物のインゴッドである。本実施形態におけるTiAl系インゴッドAは、TiAl系金属間化合物のTiAl相に、添加金属が固溶したものである。第1実施形態における添加金属は、Ni(ニッケル)である。TiAl系インゴッドAは、TiAl系金属間化合物の含有量が、99重量%以上99.99重量%以下であり、添加金属としてのNiの含有量が、0.01重量%以上1重量%以下である。また、添加金属としてのNiの含有量は、0.2重量%以上0.6重量%以下であることがより好ましい。
【0022】
TiAl系インゴッドA内のTiAl系金属間化合物は、20〜80重量%のTiと、20〜80重量%のAlと、0〜30重量%の混合金属Mとを含有する。すなわち、TiAl系インゴッドAは、添加金属を含めた全成分から見た場合、Tiが19.8重量%以上79.992重量%以下であり、Alが19.8重量%以上79.992重量%であり、混合金属Mが0重量%以上29.997重量%以下である。TiAl系インゴッドA内のTiAl系金属間化合物は、混合金属Mを含有する場合は、混合金属MがTiAl相に固溶している形態となっている。混合金属Mは、Ti及びAl以外の金属であり、例えば、Nb(ニオブ)、Cr(クロム)、及びMn(マンガン)のうち少なくともいずれか一種を含有する。
【0023】
TiAl系インゴッドAは、以上説明したように、TiAl系金属間化合物のTiAl相に、添加金属としてのNi及び混合金属Mが固溶した合金の塊である。TiAl系インゴッドAは、各成分の純金属(Ti、Al、Ni、混合金属M)を溶融、混合させた後に冷却することで製造される。
【0024】
図2は、第1実施形態に係る粉末製造装置の構成を模式的に説明する説明図である。図2に示すように、粉末製造装置10は、加熱体12と、ガス噴射体14と、を有する。加熱体12は、TiAl系インゴッドAの周囲にコイル状に巻回される電熱線である。加熱体12は、電流が流されることで発熱し、TiAl系インゴッドAを溶融する。溶融したTiAl系インゴッドAは、液状のTiAl系溶融体Aとして、TiAl系インゴッドAの鉛直方向下方に滴下される。
【0025】
ガス噴射体14は、内部に不活性ガスG(本実施形態ではアルゴン)を導通させ、開口部から不活性ガスGを噴射させる噴射管である。ガス噴射体14の開口部は、TiAl系インゴッドAの鉛直方向の下方に位置しており、TiAl系インゴッドAの鉛直方向下方に滴下されたTiAl系溶融体Aに対し、不活性ガスGを噴射する。不活性ガスGが噴射されたTiAl系溶融体Aは、複数に分裂しつつ冷却固化され、複数のTiAl系固溶粉末Bとなる。なお、本実施形態においては、ガス噴射体14は複数であるが、単数であってもよく、その数は任意である。
【0026】
TiAl系固溶粉末Bは、TiAl系インゴッドAを溶融後、固化させて製造されるため、含有する金属成分が、TiAl系インゴッドAと同じである。すなわち、TiAl系固溶粉末Bは、TiAl系金属間化合物のTiAl相に添加金属としてのNi及び混合金属Mが固溶した合金の粉末(粒子)である。そして、TiAl系固溶粉末Bは、各金属成分の含有比が、TiAl系インゴッドAと同じである。TiAl系固溶粉末Bの粒径は、1μm以上50μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下である。本実施形態の説明では、1つの粉末(粒子1つ)を粉末と記載し、複数の粉末の集合体を、粉末体と記載する。TiAl系固溶粉末Bは1つの粉末(粒子)であり、複数のTiAl系固溶粉末Bの集合体を、TiAl系粉末体Bと記載する。
【0027】
図1に示す金属粉末射出成型装置20は、金属粉末射出成型(MIM:Metal Injection Molding)を行う装置である。金属粉末射出成型装置20は、混合体Cから、成形体Dを製造する。混合体Cは、粉末製造装置10によって製造されたTiAl系粉末体Bとバインダとを混合したものである。バインダは、TiAl系粉末体B中のTiAl系固溶粉末B同士を繋ぎ合わせるものであり、流動性を有する樹脂である。混合体Cは、バインダ添加により、流動性及び成形性が付与される。
【0028】
金属粉末射出成型装置20は、成形型内に混合体Cを射出する。成形型内に射出された混合体Cは、成形体Dを形成する。成形体Dは、バインダ添加により流動性が付与されているため、成形型から取り出されても、成形型によって規定される形状に維持される。
【0029】
脱脂装置30は、成形体Dを脱脂する装置である。具体的には、脱脂装置30は、成形型から取り出された成形体Dを内部に収納し、内部を脱脂温度に加温することにより、成形体Dからバインダを除去(脱脂)して、脱脂体Eを生成する。脱脂温度は、バインダが熱分解する温度以上の温度である。
【0030】
焼結装置40は、脱脂体Eを内部に収納し、内部を焼結温度に加温することにより、脱脂体Eを焼結(脱脂体E中のTiAl系固溶粉末B同士を焼結)して、TiAl系金属間化合物焼結体Fを生成する。焼結温度は、TiAl系固溶粉末B同士が焼結可能な温度であり、例えば1400℃から1500℃の間である。焼結装置40は、内部を焼結温度に所定時間(例えば1時間)保持することで、焼結を促進させる。なお、焼結装置40は、脱脂装置30と別の装置であってもよいし、脱脂装置30と同じ装置であってもよい。焼結装置40は、脱脂装置30と同じ装置である場合は、脱脂温度から温度を下げずに、連続的に焼結温度まで温度を上昇させる。
【0031】
TiAl系金属間化合物焼結体Fは、脱脂体E中のTiAl系固溶粉末B同士を焼結したものであるため、TiAl系固溶粉末Bと同じ成分を、同じ比率だけ含有する。すなわち、TiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物の含有量が、99重量%以上99.99重量%以下であり、添加金属としてのNiの含有量が、0.01重量%以上1重量%以下である。また、添加金属としてのNiの含有量は、0.2重量%以上0.6重量%以下であることがより好ましい。また、TiAl系金属間化合物焼結体F内のTiAl系金属間化合物は、20〜80重量%のTiと、20〜80重量%のAlと、0〜30重量%の混合金属Mとを含有する。すなわち、TiAl系金属間化合物焼結体Fは、添加金属を含めた全成分から見た場合、Tiが19.8重量%以上79.992重量%以下であり、Alが19.8重量%以上79.992重量%以下であり、混合金属Mが0重量%以上29.997重量%%以下である。
【0032】
ここで、焼結によって結合されたTiAl系固溶粉末Bを、TiAl系焼結粉末F1とする。TiAl系金属間化合物焼結体Fは、複数のTiAl系焼結粉末F1が、ネックを形成して結合(溶着)したものである。TiAl系固溶粉末Bは、TiAl系金属間化合物内(TiAl相内)に、添加金属としてのNiが固溶している。一方、TiAl系焼結粉末F1は、TiAl系金属間化合物内(TiAl相内)に、添加金属としてのNiが固溶しておらず、TiAl相と、添加金属相(Ni相)とに相が分離している。言い換えれば、TiAl系金属間化合物焼結体FにおけるTiAl系金属間化合物(TiAl相)は、TiとAlと混合金属Mとを含有しており、Niを含有していない。
【0033】
図3は、第1実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体の相を説明する模式図である。以下、TiAl系焼結粉末F1内のTiAl相をTiAl相F2とし、添加金属相(Ni相)を添加金属相F3とする。図3に示すように、Ni相(添加金属相F3)は、隣接するTiAl系焼結粉末F1の間(粒界)、すなわち、1つのTiAl系焼結粉末F1のTiAl相F2と、それに隣接するTiAl系焼結粉末F1のTiAl相F2との間に存在する。さらに言えば、Ni相(添加金属相F3)は、複数のTiAl系金属間化合物(TiAl相F2)のそれぞれの周囲に存在する。
【0034】
TiAl系金属間化合物焼結体Fは、添加金属相F3が、隣接するTiAl相F2間の粒界に存在しているため、焼結密度が向上する。
【0035】
以下、焼結体製造システム1によるTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造フローを説明する。図4は、第1実施形態に係る焼結体製造システムによるTiAl系金属間化合物焼結体の製造フローを説明するフローチャートである。図4に示すように、焼結体製造システム1は、最初に、粉末製造装置10により、TiAl系インゴッドAから複数のTiAl系固溶粉末B(TiAl系粉末体B)を生成する(ステップS10)。TiAl系固溶粉末Bを生成した後、焼結体製造システム1は、TiAl系粉末体Bとバインダとを混合して混合体Cを生成し(ステップS12)、金属粉末射出成型装置20により、混合体Cを射出成型して、成形体Dを成形する(ステップS14)。成形体Dを成形した後、焼結体製造システム1は、脱脂装置30により、成形体Dを脱脂して脱脂体Eを生成し(ステップS16)、焼結装置40により脱脂体Eを焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体Fを生成する(ステップS18)。ステップS18により、TiAl系金属間化合物焼結体の製造処理は終了する。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の焼結体製造システム1が実行するTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、TiAl系粉末体Bを焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体Fを生成する。TiAl系粉末体Bは、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と添加金属とを含有する。添加金属は、第1実施形態ではNiである。このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、TiAl系金属間化合物と添加金属とを含有するTiAl系粉末体Bを焼結するため、TiAl系金属間化合物焼結体Fを、隣接するTiAl相F2の粒界に添加金属相F3が存在する金属組織とすることができる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、焼結密度を高くし、強度を高くすることができる。
【0037】
焼結体製造システム1が実行するTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、混合ステップと、射出成型ステップと、脱脂ステップと、焼結ステップとを有する。混合ステップは、TiAl系粉末体Bとバインダとを混合して混合体Cを得る。射出成型ステップは、混合体Cを金属粉末射出成型機(金属粉末射出成型装置20)によって成形体Dに成形する。脱脂ステップは、成形体Dを脱脂して脱脂体Eを生成する。焼結ステップは、脱脂体Eを焼結してTiAl系金属間化合物焼結体Fを生成する。このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、金属粉末射出成型法を用いてTiAl系金属間化合物焼結体Fを製造する。金属粉末射出成型法を用いる場合、成形形状を維持しつつ焼結を行う必要がある。特にTiAl系金属間化合物の焼結体を金属粉末射出成型法で製造する場合は、焼結温度の幅が狭いなど、成形形状を維持しつつ焼結を行うための焼結条件がシビアとなっている。そのため、TiAl系金属間化合物の焼結体を金属粉末射出成型法で製造する場合、焼結条件を適切に設定できず、成形形状を維持しつつ焼結密度を向上させることが困難となるおそれがある。しかし、本実施形態によれば、TiAl系金属間化合物焼結体Fを、隣接するTiAl相F2の粒界に添加金属相F3が存在する金属組織とすることができる。そのため、このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、焼結密度を高く保ちつつ、金属粉末射出成型法によって形状精度を向上させることが可能となる。
【0038】
TiAl系粉末体Bは、Niの含有量が、0.01重量%以上1重量%以下である。これにより、焼結装置40は、隣接するTiAl相F2の粒界に添加金属相F3を適切に存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0039】
また、TiAl系粉末体Bは、TiAl系金属間化合物と添加金属とを含有するTiAl系固溶粉末Bを複数混合したものである。このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、焼結に用いるTiAl系固溶粉末BをTiAl系金属間化合物と添加金属とを含有する粉末とすることで、焼結体のTiAl相F2の粒界に添加金属相F3を適切に存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法は、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0040】
本実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物とNiである添加金属とを含有し、Niの含有量が、全体の0.01重量%以上1重量%以下である。このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物に対し、Niをこの配合比で含有しているため、焼結体のTiAl相F2の粒界に添加金属相F3を存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0041】
TiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物が、20〜80重量%のTiと、20〜80重量%のAlと、0〜30重量%の混合金属Mとを含有し、混合金属Mは、Nb、Cr、及びMnのうち少なくともいずれか一種を含有する。このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物がこの配合比となっているため、強度が向上する。
【0042】
TiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物と添加金属とを含有する複数のTiAl系焼結粉末F1が結合しており、添加金属の金属相である添加金属相は、隣接するTiAl系焼結粉末F1の間に存在する。このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、焼結体のTiAl相F2の粒界に添加金属相F3が存在しているため、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、添加金属として、Ni及びFe(鉄)を用いる点で、第1実施形態とは異なる。第2実施形態において、第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
【0044】
第2実施形態に係る添加金属は、Ni及びFeである。第2実施形態に係るTiAl系インゴッドAは、TiAl系金属間化合物の含有量が、98重量%以上99.99重量%以下であり、添加金属としてのNi及びFeの合計含有量が、0.01重量%以上2重量%以下である。また、Niは、NiとFeとの合計量に対し、0.01重量%以上2重量%未満含有されており、0.01重量%以上1重量%以下含有されていることがより好ましい。
【0045】
第2実施形態においては、添加金属としてNi及びFeを含有するこのTiAl系インゴッドAを用いて、第1実施形態と同様の方法で、TiAl系金属間化合物焼結体Fを生成する。第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物の含有量が、98重量%以上99.99重量%以下であり、Ni及びFeの合計含有量が、0.01重量%以上2重量%以下である。
【0046】
第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、第1実施形態と同様の相を形成する。すなわち、第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fにおいては、Ni及びFeの合金相(添加金属相F3)が、隣接するTiAl系焼結粉末F1の間(粒界)、すなわち、1つのTiAl系焼結粉末F1のTiAl相F2と、それに隣接するTiAl系焼結粉末F1のTiAl相F2との間に存在する。従って、第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fも、添加金属相F3が、隣接するTiAl相F2間の粒界に存在しているため、焼結密度が向上する。
【0047】
第2実施形態に係るTiAl系粉末体Bは、Ni及びFeの合計含有量が、0.01重量%以上2重量%以下である。これにより、焼結装置40は、隣接するTiAl相F2の粒界に添加金属相F3を適切に存在させることが可能となる。従って、第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fの製造方法も、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0048】
第2実施形態に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Ti及びAlが結合したTiAl系金属間化合物と、Fe及びNiである添加金属とを含有し、Fe及びNiの合計含有量が、全体の0.01重量%以上2重量%以下である。このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、TiAl系金属間化合物に対し、Fe及びNiをこの配合比で含有しているため、焼結体のTiAl相F2の粒界に添加金属相F3を存在させることが可能となる。従って、このTiAl系金属間化合物焼結体Fは、焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0049】
第1実施形態及び第2実施形態で示したように、添加金属としてNi、又は、Ni及びFeを用いることで、TiAl系金属間化合物焼結体Fの焼結密度をより適切に向上させることができる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態においては、TiAl系粉末体として、TiAl系金属間化合物の粉末であるTiAl系粉末と、添加金属としてNiを含有する添加金属粉末とを複数混合したものを用いる点で、第1実施形態とは異なる。第3実施形態において、第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
【0051】
第3実施形態に係る粉末製造装置10は、TiAl系インゴッドAaから、TiAl系粉末Baを製造する。TiAl系インゴッドAaは、添加金属としてのNiを含有せず、TiAl系金属間化合物のみを含有する。ここでのTiAl系金属間化合物は、第1実施形態と同様にTi、Al及び混合金属Mであり、配合比も第1実施形態と同じである。また、TiAl系粉末Baは、Ti、Al及び混合金属Mを含有する粉末であり、TiAl系インゴッドAaと同じ含有比である。また、TiAl系粉末Baの粒径は、第1実施形態のTiAl系固溶粉末Bと同じである。
【0052】
第3実施形態においては、複数のTiAl系粉末Baと、複数の添加金属粉末Baとを混合してTiAl系粉末体Baを生成する。添加金属粉末Baは、Niの粉末である。すなわち、TiAl系粉末体Baは、TiAl系金属間化合物の粉末と、添加金属粉末であるNiの粉末との、2種類の異なる成分の粉末を有している。TiAl系粉末体Baは、TiAl系金属間化合物とNiとの含有比が、第1実施形態に係るTiAl系粉末体Bと同様である。
【0053】
添加金属粉末Baの粒径は、TiAl系粉末Baと同様の範囲であるが、TiAl系粉末Baより小さいことがより好ましい。例えば、添加金属粉末Baの粒径は、TiAl系粉末Baの0.01倍以上0.2倍以下であることが好ましい。
【0054】
第3実施形態に係る焼結体製造システム1は、このTiAl系粉末体B2aとバインダとを混合して混合体Cを生成する、第3実施形態に係る焼結体製造システム1の以後の処理は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同じTiAl系金属間化合物焼結体Fを製造する。
【0055】
このように、第3実施形態に係るTiAl系粉末体Baは、TiAl系金属間化合物の粉末であるTiAl系粉末Baと、添加金属としてNiを含有する添加金属粉末Baとを複数混合したものである。このような場合においても、第1実施形態と同様のTiAl系金属間化合物焼結体Fを製造することが可能であるため、第3実施形態に係る焼結体製造システム1は、第1実施形態と同様に焼結密度を適切に向上させることができる。
【0056】
なお、第3実施形態に係る製造方法は、第2実施形態にも適用可能である。すなわち、添加金属粉末Baが、Ni及びFeの粉末であってもよい。この場合、添加金属粉末Baは、Niの粉末及びFeの粉末であってもよいし、NiとFeとの合金の粉末であってもよい。またこの場合、TiAl系粉末体Baは、TiAl系金属間化合物とNi及びFeとの含有比が、第2実施形態に係るTiAl系粉末体Bと同様である。また、添加金属粉末体Baは、NiとFeとの含有比も、第1実施形態と同じである。
【0057】
また、以上の説明では、添加金属はNi、又はNi及びFeであったが、添加金属がFeのみであっても、Feの含有量が2重量%以上であれば、同様に焼結密度を高くすることができる。なお、この場合、焼結体の強度(クリープ強度)の低下の抑制、及び耐酸化性の低下の抑制のためには、Feの含有量は全体の5重量%以下であることが好ましい。
【0058】
(実施例)
次に、実施例について説明する。図5は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。図6及び図7は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図8及び図9は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図10は、Niの含有量と焼結密度との関係を示すグラフである。以下説明する各実施例では、金属粉末射出成型機で成形された成形体を脱脂後、焼結温度1450℃で2時間焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体Fを製造した。以下説明する各比較例では、実施例と同様に金属粉末射出成型機で成形された成形体を脱脂後、焼結温度1450℃で2時間焼結して、TiAl系金属間化合物焼結体Fxを製造した。各実施例に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Alを30重量%、混合金属MとしてのNbを14重量%、混合金属MとしてのCrを0.7重量%含むものであり、各比較例に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxも同様である。
【0059】
比較例1に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Fe及びNiの両方を含有しない。より具体的には、比較例1に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Feの含有量が0.05重量%より少なく、Niの含有量が0.01重量%より少ない。また、図5に示すように、比較例2に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Feの含有量が0.05重量%より少なく、Niの含有量が1.05重量%である。図5に示すように、実施例1に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、添加金属としてNiだけを含有するものであり、Niの含有量は全体の0.2重量%であり、Feの含有量は全体の0.05重量%未満である。実施例2に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、添加金属としてNiだけを含有するものであり、Niの含有量は、全体の0.6重量%であり、Feの含有量は全体の0.05重量%以下である。また、比較例1、及び実施例1、2では、第3実施形態の方法、すなわち、TiAl系粉末Baと添加金属粉末Baとを混合する製法を適用した。
【0060】
比較例1に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、図5に示すように、焼結密度が91%であり、図6に示すように、空孔Vが多くなっている。比較例2に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、図5に示すように、焼結密度が97%であり、図7に示すように、空孔Vが多く、粒界にγ相のコロニーが発生している。γ相のコロニーは、γ相単体の塊であり、ラメラ構造をとるTiAl系金属間化合物焼結体の性能を悪化させるものである。
【0061】
一方、実施例1に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、図5に示すように、焼結密度が98%であり、図8に示すように、空孔Vが少なく、またγ相のコロニーも発生していない。実施例2に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、図5に示すように、焼結密度が97%であり、図9に示すように、空孔Vが少なく、またγ相のコロニーも発生していない。
【0062】
図10の横軸はNiの含有量であり、縦軸は焼結密度である。図10は、比較例1、2及び実施例1、2の結果をプロットしたものである。図10に示すように、添加金属としてNiだけを含有するTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Niが全体の0.1重量%以上1重量%以下含有する場合、焼結密度が高く、γ相のコロニーの発生を抑制することができる。
【0063】
図11は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。図12は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図13及び図14は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図15は、Ni及びFeの含有量と焼結密度との関係を示すグラフである。
【0064】
図11に示すように、比較例3に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Niの含有量が0.34重量%であり、Feの含有量が1.79重量%である。すなわち、比較例3に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Ni及びFeの合計含有量が、2.13重量%である。また、実施例3及び4に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Niの含有量が0.17重量%であり、Feの含有量が0.92重量%である。すなわち、実施例3及び4に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Ni及びFeの合計含有量が、1.09重量%である。また、比較例3に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、第3実施形態と同様の方法、また、実施例4では、第3実施形態の方法、すなわち、TiAl系粉末Baと添加金属粉末Baとを混合する製法を適用した。一方、実施例3では、第1実施形態の方法、すなわち、TiAl系金属間化合物と添加金属とを含有するTiAl系固溶粉末Bを用いた製造方法を適用している。
【0065】
比較例3に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、図11に示すように、焼結密度が97%であり、図12に示すように、空孔Vが多く、粒界にγ相のコロニーが発生している。一方、実施例3に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、図11に示すように、焼結密度が99%であり、図13に示すように、空孔Vが少なく、またγ相のコロニーも発生していない。実施例4に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、図11に示すように、焼結密度が97%であり、図14に示すように、空孔Vが少なく、またγ相のコロニーも発生していない。
【0066】
図15の横軸はNi及びFeの合計含有量であり、縦軸は焼結密度である。図15は、比較例1、3及び実施例3、4の結果をプロットしたものである。図15に示すように、添加金属としてNi及びFeを含有するTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Ni及びFeの合計量が全体の0.1重量%以上2重量%以下含有する場合、焼結密度が高く、γ相のコロニーの発生を抑制することができる。また、実施例3及び実施例4を参照すると、第3実施形態の方法、すなわち、TiAl系粉末Baと添加金属粉末Baとを混合する製法であっても、第1実施形態の方法、すなわち、TiAl系金属間化合物と添加金属とを含有するTiAl系固溶粉末Bを用いた製造方法であっても、焼結密度を高くすることができることが分かる。
【0067】
図16は、実施例と比較例との焼結密度を示す表である。図17は、比較例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図18は、実施例のTiAl系金属間化合物焼結体の金属組織の図である。図16に示すように、比較例4に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、Feの含有量が1.08重量%であり、Niの含有量が0.01重量%より少ない。実施例5に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、Feの含有量が2.13重量%であり、Niの含有量が0.01重量%より少ない。比較例4及び実施例5では、焼結温度が1420℃である。その他については、比較例4と比較例1は同じ条件であり、実施例5は実施例1と同じ条件である。
【0068】
比較例4に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fxは、図16に示すように、焼結密度が93%であり、図17に示すように、空孔Vが多い。一方、実施例5に係るTiAl系金属間化合物焼結体Fは、図16に示すように、焼結密度が98%であり、図18に示すように、空孔Vが少なく、またγ相のコロニーも発生していない。
【0069】
このように、TiAl系金属間化合物焼結体Fは、Feのみを添加金属とした場合、Feの含有量が2重量%以上である場合に、焼結密度を高くすることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0071】
1 焼結体製造システム
10 粉末製造装置
20 金属粉末射出成型装置
30 脱脂装置
40 焼結装置
TiAl系インゴッド
TiAl系溶融体
TiAl系固溶粉末
a TiAl系粉末
TiAl系粉末体
a 添加金属粉末
C 混合体
D 成形体
E 脱脂体
F TiAl系金属間化合物焼結体
F1 TiAl系焼結粉末
F2 TiAl相
F3 添加金属相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18