【実施例1】
【0010】
以下の説明で便宜的に、上または下とは計測電圧軸上で基線に対してプラスまたはマイナス方向を、また前または後とは時間軸上でマイナスまたはプラス方向を指して言うことがある。
本来離散したデジタル信号である心電信号を、座標(時間、電圧)を持つ点の集まりを時間軸および電圧軸上の位置で示し、便宜的に連続した線で波形として描く。
心電図は心電信号の波形を表示装置に表示したものである。
【0011】
図12は携帯型で1チャンネルの心電図自動解析装置の構成を示す。
図12の下側の左に示されているように、心電図自動解析装置は心電計11、パーソナルコンピュータ12、およびその間を接続する有線信号伝送15からなる。パーソナルコンピュータ12は心電図自動解析ソフトウェアを装備しており心電信号について各種の処理を行う。
【0012】
パーソナルコンピュータ12の表示装置は、心電信号、および解析によって得られた心電信号の波形の特徴を表す符号やマークを同時に表示する。
図39は、信号伝送装置の代わりにSDメモリーカードまたはUSBメモリーを使って心電計11からパーソナルコンピュータ12に心電信号情報を渡す場合を示している。
【0013】
パーソナルコンピュータ12に装備されている心電図自動解析ソフトウェアは、心電信号の特徴を解析する。このソフトウェアは、どの誘導の心電図でも検出可能で被験者の体格・体質も選ばない、1つの誘導(1チャンネル)入力だけで安定に心電図波形を解析することができる、被験者自身が家庭でも使えるという特長をもつ。心電信号の測定時間は30秒〜24時間以上も可能であるが、本実施例では1回の測定時間を30分間とした場合で説明する。
【0014】
図12に示すように、心電計11は、少なくとも電極110、プリアンプ111、フィルター112、A/Dコンバータ113、CPU114、メモリー115、インターフェース116、通信部117、操作スイッチ118、電源119、表示ランプ120で構成され、これらによって信号測定装置として機能する。心電計11は有線信号伝送15であるLANによってパーソナルコンピュータ12に接続される。パーソナルコンピュータ12はネットワークを介して他の計算機13等と接続することができる。
【0015】
図40(a)に示すように、携帯型で1チャンネルの心電計11の絶縁物からなるケース121の両端部に2つの電極110がそれぞれ配置されている。心電計11を使用するときは、
図40(b)に示すように2つの電極110に右手4と左手5の手のひらがそれぞれ接触するように心電計11のケース121を両手で持つ。
【0016】
両方の電極の差分の電圧が計測され、計測されたアナログ心電信号はプリアンプ111で増幅され、前処理として、フィルター112によって直流成分、1Hz以下の低周波のドリフト、有害な商用電源やDC−DC電源などからの誘導信号や例えば1kHz以上のノイズとなる筋電信号が除去され、A/Dコンバータ113によってデジタル信号に変換されて心電信号S1となる。
【0017】
心電信号S1は、いったん伝送用のバッファーであるメモリー115に記録され、直ちに通信部117によりLANを介してパーソナルコンピュータ12に伝送される。そして、
図41に示すデータ構造で、パーソナルコンピュータ12に内蔵されている記憶装置に記録される。データ構造を示す
図41においてフィールドに対応する符号は煩雑を避けるために1行目にのみ付けてあるが同じ列のフィールドは同じ符号である。
【0018】
メモリー115ならびにパーソナルコンピュータ12に内蔵されている記憶装置に記録される情報は、決められたデータ構造で、1計測点の電圧情報は1単位の記録データに対応し連続した情報として配列される。
図41にしめす1単位の記録データは複数のフィールドからなり、フィールドa61には順序を示す番号、フィールドb62には信号の値、フィールドc63〜フィールドn66には複数個のラベルが含まれている。
【0019】
心電信号S1はアナログの心電信号を一定のサンプル速度でデジタル化したものであるので、フィールドa61に記録されている記録データの順序を示す番号はすなわち一定間隔の時間を示す。フィールドb62にはそのときの信号の電圧値が記録される。フィールドc63以降のフィールドには、各種の処理結果などを示すラベルが決められたフィールドに記録される。
【0020】
心電計11のメモリー115はパーソナルコンピュータ12に計測データを伝送するためのバッファーであり、その記憶容量は64msの測定分である。心電図自動解析装置としての仕様では計測時間は30秒間~24時間以上である。サンプリング回路の速度は125点/秒から1000点/秒に対応している。自動心電図解析装置としての仕様では、サンプリング周期は、クラウドを使うサービスの場合125点/秒、イベントレコーダ・ホルターのサービスの場合256点/秒を使用する。
【0021】
以下の説明事例ではサンプリング周期は125点/秒である。デジタル化された心電信号S1が心電計11のメモリー115に一時記録され、通信部117を経由して、パーソナルコンピュータ12に内蔵されている記憶装置に1回の測定分である30分間の長さ分が記録される。または、必要に応じて30秒〜24時間以上の信号が記録される。CPU114は心電計11の動作をコントロールする。
【0022】
図1 に示す心電図自動解析フローチャートに沿った処理はパーソナルコンピュータ12に装備された心電図自動解析ソフトウェアで行われる。パーソナルコンピュータ12は、キーボードなど装備された入力装置から入力された操作指令に従って、心電計11によって収集された心電信号S1の波形を自動解析処理し、診断に有用な情報を得て、その結果を表示装置に表示する。パーソナルコンピュータ12は、入力された操作指令に従って、処理前の心電信号S1ならびにそれを加工した信号などを表示装置に表示する。その場合、1回の測定分の情報を一括して全て表示しても良いし、一部分だけを拡大して表示しても良い。
【0023】
図13に、1拍動区間の心電信号の代表的波形の図を示す。
図13(a)は主棘波陽性の場合であり、
図13(b)は主棘波陰性の場合である。主棘波陽性とは主棘点が基線より上のプラス側にあることを言い、主棘波陰性とは主棘点が基線より下のマイナス側にあることを言う。以下の説明で使う心電信号波形の各部分の名称は本図に示したものを使う。
図1に示す心電図解析処理のフローチャートに従って、本発明によるパーソナルコンピュータ12を使った心電図自動解析装置についてさらに詳しく順次説明する。
【0024】
安定性解析S200または記録不良部判定と削除S201とは、スパイクノイズ、ドリフト、飽和および安定なQRS合成波を検出するものであり、本発明独自の技術であり、他に見られないものである。
【0025】
図2は
図1に示した安定性解析S200の詳細な処理フローチャートを示す。パーソナルコンピュータ12の記憶装置に記録された心電信号S1は、まず心電図自動解析ソフトウェアによって安定性解析S200が行われて、安定な信号であると判断された場合は、心電信号S2として記録される。
図2に示すように、1つの処理ステップでも安定な信号でないと判断されたときは、パーソナルコンピュータ12から警報信号を送って、心電計11の表示ランプ120に異常であることを警報表示して、使用者(被験者)に計測のやり直しを促す。
【0026】
ここで安定な信号というのは、(1)ドリフト量が一定値以下であり、(2)大きなスパイクノイズが混入して計測値の絶対値の和が予め定めた一定値以上になっておらず、(3)振幅の制限範囲である正負の最大値(例えば±4.95mV)の内に有り、計測に関するハードウェアの限界である飽和値を超える部分が無く、かつ最後に、(4)
図13に示すQRS合成波ピーク強調フィルターの出力が一定値以上であって、連続的に、ほぼ一定の間隔であるという4つの条件を満たしていることである。
【0027】
パーソナルコンピュータ12は装備された心電図自動解析ソフトウェアを使って、
図2に示すフローチャートに従って、この4条件確認のためのドリフト検査S301、スパイクノイズ検査S302、飽和検査S303、QRS合成波検査S304を行う。
【0028】
次に、パーソナルコンピュータ12に内蔵されている記憶装置に記録された心電信号S2について、「記録不良部の判定と削除」S201を行う。記録不良部とは、スパイクノイズ、またはドリフト、または飽和が有って、波形形態が明瞭でない部分を指す。処理の内容は前記の安定性解析と同じ規則で行うが、合否の判定基準を厳しくすることによりさらに選別する。これは、可能性のある信号を広く採取して記録しておき、「記録不良部の判定と削除」S201では確実に解析できる信号だけを得るためである。また、この処理では不良と判定された区間が有る場合、当該の区間のみに不良ラベルを付けるだけであり、30分間の記録全体をクリアして、あらためて計測をやり直すことは無い。
【0029】
「記録不良部の判定と削除」S201を
図3に沿ってさらに詳しく説明する。まず、
図3に示したドリフト検査S301について説明する。
図16にドリフトの検出の概念図を示す。全計測点について、当該の計測点を先頭とする一定長(1拍動程度。例えば900ms)の区間の心電信号S2の標準偏差(これを移動標準偏差と呼ぶ)を求めて、標準偏差がある一定の閾値(例えば0.85mV)を超えたときドリフトと判定する。
【0030】
ドリフトと判定された区間の計測データの特定のフィールドには、「不良」ラベルを記録する。「不良」ラベルを持った計測データは以後の解析処理を行わず、また波形を表示装置に表示するときブランクとして表示する。
【0031】
図14にスパイクノイズの検出の概念図を示す。30分間の心電信号S1の全ての計測点について、当該計測点から始まる予め定めた1〜数拍動程度の一定の区間(解析ウィンドウ幅)において隣り合う全計測点間の差の絶対値の総和をとり、その総和を区間の大きさで割った値が正常拍動の場合の値に対して予め定めた倍数以上であればその点はスパイクノイズであると判定する。
【0032】
図15にスパイクノイズの検出の実例を示す。破線で描いた四角の中はスパイクノイズとして検出された区間であり、他の部分と比較すると心電信号波形と異なり波形が乱れていることが見て取れる。スパイクノイズと判定された区間には、計測データの特定のフィールドに「不良」ラベルを記録する。「不良」ラベルを持った心電信号S2の当該の区間については以後の解析処理を行わず、また心電信号S2の波形を表示装置に表示するときブランクとして表示する。
【0033】
図3の飽和検査S303について説明する。飽和の検出は、心電デジタル信号が一定の範囲(例えば−4.95mV〜+4.95mV)を超えたとき飽和と判定することによって行う。飽和と判定された区間の計測データの特定のフィールドには、「不良」ラベルを記録する。「不良」ラベルを持った計測データについては以後の解析処理を行わず、また波形を表示装置に表示するときブランクとして表示する。
【0034】
図3のQSR合成波検査S304について説明する。該検査はQSR合成波が小さすぎないことを判定する。移動平均長を予め定めておき、心電信号S2の移動平均を計算し、その結果をy(xn)とする。y(xn)を使って、次式のQRS合成波ピーク強調フィルター出力を計算する。
F(xn)=m1×[2y(xn)−{y(xn−1)+y(xn+1)}]
ここでm1は定数
【0035】
さらに、F(xn)の移動標準偏差の2乗である移動分散V(xn)を計算する。
移動分散V(xn)が閾値を超える初めてのピークに続いて、一定時間以内にピークが現れて、V(xn)が閾値を越えた場合にQSR合成波が安定であると判定する。ここで閾値は、計測を開始して一定時間の間に現れたV(xn)の最大値Vmaxを一定の定数で割った値である。
【0036】
この検査で安定であると判定されなかった区間の計測データの特定のフィールドには、「不良」ラベルを記録する。「不良」ラベルを持った計測データについては以後の解析処理を行わず、また波形を表示装置に表示するときブランクとして表示する。以上で「記録不良部の判定と削除」処理を終わり、30分間の計測データのデータ構造の決められたフィールドに「記録不良部の判定と削除」を終わったというラベルが書き込まれる。
【0037】
図1のフローチャートに示した「主棘点検出」S202について説明する。心電信号S2について本格的に心電信号の波形の特徴を求める処理の1番目のステップである。「記録不良部の判定と削除」S201で削除されなかった部分の心電信号S2の全体について、この解析を行う。主棘点とは、1つの拍動とみなされる区間において、ピ−クの絶対値が最も大きい計測点を指す。
【0038】
図4に主棘点検出処理フローチャートを示す。「主棘点検出」S202の計算処理プロセスは、
図4に3列にわたって示されている。主要な処理は左側の列の全体主棘点検出と書かれた破線で囲んだ部分にある、「移動平均」S300、「計算ウィンドウ(窓)条件設定」S305、「区間検出・決定」S306、「仮主棘点検出」S307、「主棘点検出」S308、「拍動数検査」S309であり、その他に「ポーズ検査」S310で構成されている。
【0039】
なお後に説明する中央の列の細分化主棘点検出と書かれていて別の破線で囲んだ部分にも、同じ名称、符号の処理ステップが描かれている。これらのステップの処理内容は全体主棘点検出の各処理ステップと同じである。
【0040】
図17に主棘点を検出するための移動標準偏差計算などの概念図を示す。移動標準偏差計算とは、時間軸上にならぶ計測値について、移動しながら、当該の点を含む一定の時間範囲の中にある測定値について標準偏差を求めることを意味する。また、このときの時間範囲を計算ウィンドウ幅と呼ぶ。
【0041】
この主棘点検出の計算処理は30分間の心電信号S2について行うのであるが
図17では説明のため1拍動の波形だけで示してある。まず、
図17(a)に示す心電信号S2の、一定の移動長を使った移動平均を複数回繰り返して計算して
図17(b)を得る。移動平均をとるのはノイズに対する耐性を向上するためであるが、心電信号S2の測定時に様々なノイズが混入するため、検出したい主棘点とスパイクノイズ とは計算上区別がつきにくいことがある。
【0042】
心電図として特徴的な波形形態を維持しながらノイズの耐性を向上したい。よって、同じ信号に対して移動平均を繰り返して複数回計算することでそれを達成するという手法をとる。ここでは移動平均の移動長を3測定点、繰り返す回数は3回とした。
【0043】
次のステップで計算処理区間を決める測定点の数jを設定する。はじめは計算時間を短くするためにjの値を小さく設定する。うまく主棘点が検出されない場合は、後に述べるようにjの値を少しずつ大きくする。jが大きくなると主棘点を検出し易くなる。これを計算ウィンドウ(窓)条件設定S305と呼んでいる。
【0044】
jの値を決めることは、
図17(c)に実線で示す波形を求めることに相当する。これは
図17(b)に示す移動平均後の心電信号S2を一定の時間幅で切り取ることである。すなわち、計測点の電圧について、時間軸上の位置を示すxiの添数iに関して一定区間i−jからi+jの範囲だけの標準偏差σiを、iを1ずつ増やしながら(移動標準偏差)計算する。
【0045】
次のステップを区間検出・決定S306と呼んでいる。
図17(d)に、上記で得られた移動標準偏差σiを時系列に沿って並べたグラフを示す。同じグラフを
図18(d)にも示す。(
図17(d)に続いて
図18(d)としている)
【0046】
図19は得られた移動標準偏差σiを値の小さいものから大きいものの順に右方向に並べたグラフを示したものである。このグラフ上で、移動標準偏差σiの中央値Hmedの点と最大値Hmaxの点を結んだ直線Yaから、移動半値幅のグラフへの距離が最大となる点を求め、その点の移動標準偏差の値を閾値Hthとする。
【0047】
次に、仮主棘点検出S307を行う。
図18(d)において、基線部に相当する位置から測って閾値Hthを超える範囲が仮主棘点検査区間である。仮主棘点検査区間とは主棘点が存在する可能性が有る時間区間である。
図18(e)においてパルス状の検査区間はこのようにして得られた、主棘点が検出される可能性の有る、仮主棘点検査区間を示している。
【0048】
このようにして求められた主棘点が検出される可能性の有る仮主棘点検査区間について、
図18(e)に示すように不連続な個所が有るとき、一定の規則を使って、隣接する仮主棘点が存在する可能性の有る区間との間の隙間を埋めて、仮主棘点が存在する可能性のある区間を結合する。その結果、
図18(f)に示すように結合された検査区間が得られる。
図42(a)に示すように1つの検査区間が1つの拍動に対応している。
【0049】
このようにして、仮主棘点の存在する検査区間が得られた。次の表1に示した規則に従って当該区間内の絶対値の大きい点が仮主棘点であるかどうかを判断する。この結果、
図42(a)に示すように、仮主棘点が検出されるが、多くの場合は同一の区間内に2つの仮主棘点が検出される。仮主棘点と判定されたときにはデータ構造の中の決められたフィールドに仮主棘点を示すラベルを記録する。
【0050】
そこで、次のステップである主棘点検出S308を行う。このステップでは、以下の方法で2つの仮主棘点を1つに絞る。すなわち、
図42(b)に示すように、区間の先頭の心電信号S2の高さと2つの仮主棘点の高さの差の絶対値v1及びv2を求め、v1とv2の差を比較して大きい方の仮主棘点、図で左側の陽性のピーク、を主棘点とする。なお
図42(b)は、1つの区間のみを示し他の区間は省略してあり、1つの区間で主棘点マーク31、仮主棘点マーク33の符号をつけてある。主棘点と判定されたときには当該のデータの中の決められたフィールドに主棘点を示すラベルを記録する。
【0051】
上記の方法で主棘点を検出したとき、
図4に示された拍動数検査S309を行う。全計測時間の平均で拍動速度がある一定値以上(例えば40拍/分)である場合(すなわちS309でOKの場合)、ポーズ検査S310に進む。拍動速度がある一定値以下(すなわちS309でNG)の場合、細分化主棘点検出に進む。
【0052】
ポーズ検査S310において、全計測時間において、ある一定以上の主棘点間隔(たとえば3秒)となった休止個所が無ければ(すなわちS310でOKの場合)仮主棘点のラベルを主棘点のラベルに修正して、主棘点検出S202を終る。
【0053】
ある一定値以上の主棘点間隔となった個所が有る場合は、(すなわちS310でNG)検出した仮主棘点は不適合であるとして、計算処理区間(解析ウィンドウ幅)条件のjの値を所定の数だけ増やして、主棘点検出をやり直す。
【0054】
拍動数検査S309により拍動速度が或る一定値以下である場合(すなわちS309でNGの場合)、
図4のフローチャートの中央の列に有る細分化主棘点検出を行う。細分化主棘点検出の各処理ステップは、全体主棘点検出と同様の手順で行われるが、全計測時間である30分間に対して一律の閾値でピークの判定を行うのではなく、計測時間を1分単位に細分化して行い、それぞれの範囲で独立して閾値を設定して行う点が異なる。
【0055】
ドリフトやノイズの影響で移動半値幅の平均値(つまり、閾値)が高くなってしまうことなどによって検出されるべき主棘点を取りこぼす場合がある。その結果、拍動数検査S309で拍動速度がある一定値以下と判定されてしまうので、このような場合を救うために1分単位で主棘点検出を行う。その後、細分化主棘点検出の後に行うポーズ検査で、ある一定値以上の主棘点間隔(たとえば3秒)となった休止個所が無ければ(すなわちS310でOKの場合)仮主棘点のラベルを主棘点のラベルに修正して、主棘点検出S202を終る。
【0056】
細分化主棘点検出の後に行うポーズ検査で、ある一定値以上の主棘点間隔(たとえば3秒)となった休止個所が有れば(すなわちS310でNGの場合)、
図4のフローチャートの右側の列にある取りこぼし検査S311に進む。取りこぼし検査S311は3秒以上の休止時間が有った部分でのみ、ピークを見つけやすいように閾値を小さくして検査を行う。
【0057】
その後に行うポーズ検査S310で、ある一定以上の主棘点間隔(たとえば3秒)となった休止個所が無ければ(すなわちS310でOKの場合)仮主棘点のラベルを主棘点のラベルに修正して、主棘点検出S202を終る。
【0058】
取りこぼし検査に続くポーズ検査S310で、ある一定以上の主棘点間隔(たとえば3秒)となった休止個所が有れば(すなわちS310でNGの場合)、jの値を所定の数だけ増やして全体主棘点検出からやり直す。ポーズ検査S310に合格するまで「主棘点検出」、「細分化検査」、「取りこぼし検査」の3列を1組として、jの値を変えて主棘点検出を行う。
主棘点検出を終わった心電信号S2には心電信号S3のラベルを記録する。以上で主棘点検出S202に関する説明を終わる。
【0059】
2番目に、
図1に示した「早期性の解析」S203について説明する。早期性とは、洞結節で発生した電気的興奮が、正しく心房、房室結節、心室へと伝わり、それによって心電図の波形が規則正しく現われ、これが一定のリズムで繰り返されている状態に対して、それよりも早いタイミング(早期)で心臓が収縮運動をすることである。
【0060】
図5に早期性の解析処理フローチャートを示す。また、
図20に早期性判定の概念図を示す。早期性の解析処理は、主棘点の検出後に、30分間の計測時間の全体で、主棘点間の平均間隔MSIaveを求め、一方、当該の連続する主棘点の間隔であるMSIgvと1つ前の主棘点の間隔であるMSIpreの比率を求めることで行われる。すなわち、全ての主棘点について以下を求める。
K1=MSIgv/MSIave
K2=MSIgv/MSIpre
【0061】
図20に示すように、得られた比率K1を大きさの順に紙面上で右方向に並べて連続した線として描いたグラフ上で、比率の中央値の点と最小値の点を直線Ybで結び、直線Ybから比率のグラフまでの距離が最大となるC1点を求めて、グラフ上でC1点から左側にある部分を早期性が有る範囲の第1の条件とする。
【0062】
別に、連続する2つの主棘点の間隔MSIgvと、1つ前の連続する2つの主棘点の間隔MSIpreとの比率K2を全ての主棘点について求める。得られた比率を大きさの順に紙面上で右方向に並べて連続した線としてグラフとして描く。
図20と同様の図であるので、図は兼用してある。
【0063】
図20に示すように、得られた比率を大きさの順に紙面上で右方向に並べて描いたグラフ上で、比率のグラフの中央値の点と最小値の点を直線Ybで結び、直線Ybから比率のグラフまでの距離が最大となるC1点を求めて、C1点から左側の部分を早期性が有る範囲の第2の条件とする。
【0064】
第1の条件と第2の条件が同時に成立する主棘点を早期性が有ると判定し、不整脈アノテーションの早期性を示すラベルを決められたフィールドに記録する。以上で早期性の解析S203に関する説明を終わる。
【0065】
3番目に、
図1に示した「区分点認識・棘波の解析」S204の前半について説明する。区分点認識・棘波の解析S204の前半の目的は、隣り合う拍動区間の自動解析のための境界点Biを明らかにすることである。
図6は「区分点認識・棘波の解析」S204のフローチャートの前半を示す。また
図21に拍動区間決定の概念図を示す。区分点認識・棘波の解析S204は、30分間の心電信号の全体について処理を行うのであるが、
図21では4拍動分だけを示してある。
【0066】
当該の連続する2つの主棘点の間隔MSIgvと、該間隔より1つ後ろの連続する2つの主棘点の間隔MSIptを加えた第2の間隔との比を求めMSIirとする。
さらに、当該間隔MSIgvと、2つの間隔との比MSIirの2つの値の積B(xi)を求めて、これを当該拍動区間の開始点と主棘点との間の時間の長さとする。
すなわち、
MSIir=MSIgv/(MSIgv+MSIpt)
B(xi)=MSIgv×MSIir
【0067】
このようにして得られた拍動区間の開始点は、すなわち1つ前の拍動区間との境界点である。拍動区間の開始点の当該の記録エリアの決められたフィールドに拍動の始点を示すラベルを記録する。
【0068】
4番目に、
図1に示した「区分点認識・棘波の解析」S204の後半について説明する。各波間の間隔・幅の解析処理とは、P波、QRS合成波、T波の区分点である始点と終点を求めることである。
図7は各波の始点終点解析処理フローチャートを示す。はじめにQRS合成波の始点と終点を求める。
図22はQRS合成波の始点終点検出の概念図を示す。
【0069】
図22(a)に示してある心電信号S3の移動平均を求めると
図22(b)が得られる。次に、計算処理区間を決めるための定数であるjを決める。これを計算ウィンドウ条件設定S305と呼んでいる。これは、
図22(c)に実線で示すように、心電信号波形の時間軸上で心電信号の一部を切り取ったことに相当する。そして、移動標準偏差は心電信号S3の当該1拍動にわたって、計測点の電圧について、時間軸上の位置をしめすxiの添数iに関して一定区間i−jからi+jの範囲における標準偏差を、iを1つずつ増やしながら計算する。
図22(d)に、得られた移動標準偏差σiを時系列に沿って並べたグラフを示す。
【0070】
次に、求めた移動標準偏差σiの平均値Have(第1の平均値と称する)を求める。
図22(d)のグラフの途中の矢印で示すように、このHaveを閾値として、主棘点前方で、1つ前(xi−1)における移動標準偏差σiがHaveより小さくて、かつ続く当該(xi)における移動標準偏差σiがHaveより大きいという条件を初めて満たす計測点を、時間軸の正方向に沿って順次(xiのiを1つずつ増やす)探し、これを満たす最初の位置をQRS合成波の始点とする。
【0071】
同様に、当該(xi)における移動標準偏差σiがHave以上の大きさで、かつ直後に続く(xi+1)移動標準偏差σiがHaveより小さいという条件を初めて満たす計測点を、時間軸の正方向に沿って順次探し、これを満たす最初の位置をQRS合成波の終点とする。
【0072】
以上に説明した処理は、主棘点を求めるために使った手順と類似しているが、異なる点は主棘点の場合は1つの拍動が未決定なので全体を通して計算処理が行われ、QRS合成波の始点と終点の場合は全て1つの拍動区間内で計算処理が行われることである。また最終的にQRS合成波の始点と終点を求めるとき、移動標準偏差σiの平均値を閾値として使っている点が異なる。QRS合成波の始点と終点が検出されたら、当該の各点の記録エリアの決められたフィールドに始点または終点を示すラベルを記録する。
【0073】
次に、心電信号S3の当該の1拍動における始点とQRS合成波の始点の間でP波の始点と終点を求める。
図23はP波の始点終点検出の概念図を示す。
図23(a)に示すP波の位置は
図23(d)で求めたものである。
図23(a)の心電信号S3から
図23(b)に示してある心電信号S3の移動平均を求める。次に、主棘点前方で、心電信号S3の1拍動の始点とQRS合成波の始点の間を直線Ypで結ぶ。心電信号S3の移動平均と直線Ypの間の距離をxi毎に求めて順に並べて
図23(c)にグラフを描く。
【0074】
図23(c)に示すように、このグラフにおいて、一定の計算処理幅でグラフを切り出し、xi毎に一定の計算範囲幅で移動半値幅を求めて
図23(d)に示すよう横軸を時間として移動半値幅のグラフを描く。移動半値幅を求めるとは、時間軸上にならぶ計測値について、移動しながら、当該の点を含む一定の時間範囲の中にある測定値について半値幅を求めることを意味する 。
【0075】
図23(c)には時間の経過によって変わってゆく6個のグラフが描いてある。移動半値幅の計算範囲を示す両矢印の線は最初のグラフにのみ描いてあるが、時間経過とともに下段に移るに従って右方向に移動してゆく。
図23(c)の各グラフに示す小さな両矢印の線が半値幅を示している。この半値幅によって
図23(d)の移動半値幅のグラフが得られる。移動半値幅のグラフにおいて、破線で示す移動半値幅の平均値(第2の平均値と称する)を閾値として、移動半値幅がこの閾値を超える範囲をP波とする。
【0076】
このとき、
図23(d)に破線のグラフで示すように、いったん閾値を越えてから閾値以下になり、その後再び閾値を超えるような場合、つまり閾値を超える区間と閾値を超えない区間が交互に存在しており、閾値を超える区間が連続していない場合については、閾値を超えた部分に挟まれている区間はP波とする。P波の始点と終点の検出が終わったら、当該の各点の記録エリアの決められたフィールドに始点または終点を示すラベルを記録する。
【0077】
次に、心電信号S3のQRS合成波の終点と当該の1拍動の終点との間でT波の始点と終点を求める。
図24はT波の始点終点検出の概念図を示す。
図24(a)の心電信号S3から
図24(b)に示してある心電信号S3の移動平均を求める。次に、主棘点後方で、QRS合成波の終点と1拍動の心電信号S3の終点との間を直線Yqで結ぶ。
【0078】
図24(c)に示すように、P波の始点終点の検出と同様に、心電信号S3の移動平均と直線Yqの間の距離を求めて順に並べてグラフに描く。このグラフにおいて、一定の計算処理幅で移動平均のグラフを切り出し、xi毎に移動半値幅を求めて
図24(d)に示すよう横軸を時間として移動半値幅のグラフを描く。
【0079】
この移動半値幅のグラフにおいて平均値(第3の平均値と称する)を閾値として、移動半値幅がこれを超える範囲をT波とする。このとき、
図24(d)に破線のグラフで示すように、P波の始点と終点の検出と同様に、閾値を超える区間と閾値を超えない区間が混在して連続していない場合については、超えた部分に挟まれている区間はT波とする。T波の始点と終点の検出が終わったら、各点の記録エリアの決められたフィールドに始点または終点を示すラベルを記録する。
【0080】
ここで主棘点間隔について説明する。
図25は各波の間隔の説明図である。各波の間隔とは、連続する2つの拍動において同じ波形同士の間隔をいう。
図25(a)は主棘波陽性の場合のP波の始点同士の間隔、すなわちPP間隔、R波のピーク同士の間隔、すなわちRR間隔を示している。
図25(b)は主棘波陰性の場合のP波の始点同士の間隔、すなわちPP間隔、S波のピーク同士の間隔、すなわちSS間隔を示している。
【0081】
図26、
図27は主棘点間隔の説明図である。2つの拍動間の間隔は、PP間隔によって定めることが望ましいが、P波の始点を求めるのは難しい場合が有るので、検出しやすい主棘点の間隔を拍動間の間隔としている。本発明においては、心電信号波形において連続した2拍動のR波、QS波(詳細は型検出の項で説明する)、S波、Q波の中で基線から最も振れが大きいピーク値を持つ棘波のピーク点の間隔を主棘間隔と見なしている。
【0082】
図26(a)は、プラス側にR波のピークが有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波である場合であり、RR間隔が主棘間隔となっていることを示している。
図26(b)は、マイナス側にS波のピークが有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波である場合であり、SS間隔が主棘間隔となっていることを示している。
【0083】
図27(c)(
図26の(a)、(b)に続いて(c)、(d)としている。)は、最初の拍動においてプラス側にR波のピークが有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波であり、続く拍動においてマイナス側にS波のピークが有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波である場合であり、RS間隔が主棘点間隔となっていることを示している。
【0084】
図27(d)は、最初の拍動においてR波のピークが正側に有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波であり、続く拍動においてQ波のピークが負側に有って他の棘波に比べて最も大きくて主棘波である場合であり、RQ間隔が主棘点間隔となっていることを示している。以上で区分点認識・棘波解析S204についての説明を終わる。
【0085】
5番目に、
図1に示した「標準波形作成」S206についての説明を行う。標準波形作成とは、測定した全ての心電信号の波形から、異常な波形であるかどうかの判断をするのに使う1拍動分の支配的な波形を作成することをいう。本発明では、不良ラベルのついた信号や不整脈である拍動を除く1拍動単位の心電信号波形をすべて加算平均して標準波形を作成する。標準波形に対して特徴となる項目において波形が大きく異なる場合、それはその被験者の異常な心電信号波形であると判定することができる。
【0086】
図30(a)に30分間の計測時間内で連続的に補足された全ての拍動区間の内の心電信号の内の4拍動ぶんだけを示してある。
図30(b)に示すように測定したデータを全て1拍動区間単位で別々に切り分けて、それぞれの時間軸を、主棘点が波形のグラフ上で一致するように移動してずらして重ね合わせる。同じくそれぞれの電圧軸を移動して、それぞれの主棘点の電圧を波形のグラフ上で一致させて重ねあわせる。
【0087】
その上で、全ての心電信号の(計測値の)和を求め、該心電信号の数で除算することで平均の波形を求める。
図30(c)にその結果を示す。このようにして得られた支配的な波形を標準波形としてパーソナルコンピュータ12に内蔵する記憶装置の中の定められたエリアに記録する。以上で標準波形の作成についての説明を終わる。
【0088】
6番目に、
図1に示した「QRS合成波の型解析」S207について説明する。QRS合成波の型解析とは、医学界で共通に認識されているQRS合成波の型を一定の規則に従って自動的に判別することをいう。型を判別することは心臓の動きを理解し、また医者の間で情報を交換するためには非常に重要なことである。
【0089】
QRS合成波の表現については、基本的にはQ波、R波、S波の大きなピークを大文字で書き、小さな振幅を小文字で書く。1つのQRS合成波の中で同じ呼び名の波形が2つ以上認められるときは2番目に現れた波形にダッシュを付ける。従来からQRS合成波の型はおおむね医師によるパターン認識に頼っており、長時間のデータについて自動的に型を詳細に判別する装置は計算コストの点から見られなかった。
【0090】
本発明はQRS合成波の型を一定の規則に従って自動的に判別するものである。
図10はQRS合成波の型を検出する規則の表を示している。
図10の表の下部に心電信号波形のパターンと特徴点の名称を記載してある。
【0091】
すなわち、主棘点が陽性(基線の上側に有って、上に尖ったピークである)である場合、左(時間的に早い方)から右に向かって、特徴点をQ点、q点、R点(主棘点)、s点、S点と呼ぶ。また、主棘点が陰性(基線の下側に有って、下に尖ったピークである)である場合左(時間的に早い方)から右に向かって、特徴点をQ点、r点、s点(主棘点)、r’点、S点と呼ぶ。
【0092】
図10に示した規則表は、各項目の上側の欄を選択してたどってゆくと、例えば主棘点が陽性であり、Q点と主棘点の間(QM間:すなわちQ点と主棘点間)ではQ点が最小値であり、主棘点とS点の間ではs点が最小値である場合は、Rs型と判定するという規則が記載してあり、パーソナルコンピュータ12に装備した心電図自動解析ソフトウェアによってこの判定が行われる。他の型についてもこの規則表に従えば要件定義された全ての型の判定が行われる。
【0093】
図11に示した表はQRS合成波形の波形パターンを示している。上記のRs型は、8つの枠の内の左上の枠内に示されており、Q点から始まって、q点が無く、主棘点は陽性であり、s点、S点と特徴点が続く波形である。他の型の場合も
図11の表に示した8個の波形に大きく分類できる。
【0094】
続いて、QRS合成波の型を細分類して詳細型名を決定することについて説明する。主棘波が陽性であるか陰性であるかによって分類の規則が異なっている。まず、
図28に示した主棘波が陽性の場合のQRS合成波の詳細型名を決定する規則表について説明する。
【0095】
主棘波が
図10、
図11に示したRs型の場合は、Q点とs点の高さ(電圧:以下同じ)の差の絶対値をHs(sは小文字)とし、Q点とR点の高さの差の絶対値をHRとする。
そして、以下の式により両者の比であるD2を求める。
D2=Hs÷HR×100(%)
【0096】
ここでa、b、cは、単位が%であり、
a<b<c
である定数であって、専門家の経験に基づいて定めることができる。典型的数字は以下である。
a=5、b=50、c=90
【0097】
そして、
D2≦a であるとき、R−s型
a<D2≦b であるとき、Rs型
b<D2<c であるとき、RS型
c≦D2 であるとき、R=S型
とする。
【0098】
主棘波が
図10、
図11に示したR型の場合は、他の特徴点と関係無く、細分類の型を全てそのままR型とする。
【0099】
主棘波が
図10、
図11に示したqRs型の場合は、Q点とs点の高さの差の絶対値をHs(sは小文字)とし、Q点とR点の高さの差の絶対値をHRとし、また、Q点とq点の高さの差の絶対値をHqとする。
そして、以下の式により両者の比であるD1およびD2を求める。
D1=Hq÷HR×100(%)
D2=Hs÷HR×100(%)
【0100】
そして、D1≦aであって、
D2≦a であるとき、−qR−s型
a<D2≦b であるとき、−qRs型
b<D2<c であるとき、−qRS型
c≦D2 であるとき、−qR=S型
とする。
【0101】
そして、a<D1≦bであって、
D2≦a であるとき、qR−s型
a<D2≦b であるとき、qRs型
b<D2<c であるとき、qRS型
c≦D2 であるとき、qR=S型
とする。
【0102】
そして、b<D1<cであって、
D2≦a であるとき、QR−s型
a<D2≦b であるとき、QRs型
b<D2<c であるとき、QRS型
c≦D2 であるとき、QR=S型
とする。
【0103】
そして、c≦D1であって、
D2≦a であるとき、Q=R−s型
a<D2≦b であるとき、Q=Rs型
b<D2<c であるとき、Q=RS型
c≦D2 であるとき、Q=R=S型
とする。
【0104】
主棘波が
図10、
図11に示したqR型の場合は、Q点とq点の高さの差の絶対値をHqとし、Q点とR点の高さの差の絶対値をHRとする。
そして、以下の式により両者の比であるD1を求める。
D1=Hq÷HR×100(%)
【0105】
そして、
D1≦a であるとき、−qR型
a<D1≦b であるとき、qR型
b<D1<c であるとき、QR型
c≦D1 であるとき、Q=R型
とする。
【0106】
次に、
図29に示した主棘波が陰性の場合のQRS合成波の詳細型名を決定する規則の表について説明する。主棘波が
図10、
図11に示したqrS型の場合は、Q点とS点(Sは大文字)の高さの差の絶対値をHS(Sは大文字)とし、Q点とr点の高さの差の絶対値をHrとする。
そして、以下の式により両者の比であるD3を求める。
D3=Hr÷HS×100(%)
【0107】
そして、
D3≦a であるとき、−rS型
a<D3≦b であるとき、rS型
b<D3<c であるとき、RS型
c≦D3 であるとき、R=S型
とする。
【0108】
主棘波が
図10、
図11に示したqrSr’型の場合は、Q点とS点(Sは大文字)の高さの差の絶対値をHS(Sは大文字)とし、Q点とr点の高さの差の絶対値をHrとし、S点(Sは大文字)とr’点の高さの差の絶対値をHr’とする。
そして、以下の式により両者の比であるD3およびD4を求める。
D3=Hr÷HS×100(%)
D4=Hr’÷HS×100(%)
【0109】
そして、D3≦aであって、
D4≦a であるとき、−rS−r’型
a<D4≦b であるとき、−rSr’型
b<D4<c であるとき、−rSR’型
c≦D4 であるとき、−rS=R’型
とする。
【0110】
そして、a<D3≦bであって、
D4≦a であるとき、rS−r’型
a<D4≦b であるとき、rSr’型
b<D4<c であるとき、rSR’型
c≦D4 であるとき、rS=R’型
とする。
【0111】
そして、b<D3<cであって、
D4≦a であるとき、RS−r’型
a<D4≦b であるとき、RSr’型
b<D4<c であるとき、RSR’型
c≦D4 であるとき、RS=R’型
とする。
【0112】
そして、c≦D3 であって、
D4≦a であるとき、R=S−r’型
a<D4≦b であるとき、R=Sr’型
b<D4<c であるとき、R=SR’型
c≦D4 であるとき、R=S=R’型
とする。
【0113】
主棘波が
図10、
図11に示したQS型の場合は、他の特徴点と関係無く、細分類の型を全てそのままQS型とする。
【0114】
主棘波が
図10、
図11に示したQSr型の場合は、Q点とS点(Sは大文字)の高さの差の絶対値をHS(Sは大文字)とし、Q点とr点の高さの差の絶対値をHrとする。
そして、以下の式により両者の比であるD3を求める。
D3=Hr÷HS×100(%)
【0115】
そして、
D3≦a であるとき、Q−r型
a<D3≦b であるとき、Qr型
b<D3<c であるとき、QR型
c≦D3 であるとき、Q=R型
とする。
【0116】
決定したQRS合成波形の詳細型名についてはパーソナルコンピュータ12に内蔵される記憶装置の当該の記録エリアの決められたフィールドに型を示すラベルを記録する。以上でQRS合成波形の詳細型名の解析についての説明を終わる。
【0117】
7番目に、心電図自動解析装置1を用いて一定の時間で測定して得られた心電信号において、各拍動の特徴を自動的に検出した結果を編集する工程について説明する。編集とは、自動的に解析した各拍動の特徴を全体としてみたとき、バラツキなどが有ってそのままでは正しい診断が難しい、もしくは診断を誤らせる恐れが有る場合に、医師など有資格者が各拍動の特徴を修正して一貫したデータとして正しい診断に役立つようにすることを言う。編集を終わったデータをあらためて医師が見て総合的な診断を行う。
【0118】
30分間かけて測定した心電信号には、2000個程度の拍動が含まれており、これを1つずつ編集することは非常に時間と手間がかかる。本発明では、測定した全ての拍動または選択した一部の拍動について、一括して編集を行う自動編集機能を備えており、編集作業を簡便に能率よく行うことができる。
【0119】
図31は、主棘点の編集前の状態の例を示す図である。
図31(a)は30分間測定した心電信号S2の一部を3列に分けて示したものである。1行目の右端の時刻はt1であり、2行目の左端に続いている。さらに、2列目の右端の時刻はt2であり、3列目の左端に続いている。各拍動の主棘点には主棘点マーク31である黒い丸印がついている。これは前述のように本発明の心電図自動解析装置が一定の規則を使って自動的に主棘点検出S202による解析を行い、その結果に従って主棘点にマークを付けた結果である。
【0120】
1列目の左端から各拍動を見て行くと、1番目から連続して4番目まで、6番目、9番目の拍動にR波の陽性のピークに主棘点マーク31が付いており、5番目、7番目、8番目の拍動にはQ波の陰性のピークに主棘点マーク31が付いており、陽性のピークと陰性のピークが混在していることが見て取れる。この結果、
図31(b)に示すように、主棘点間隔を黒丸で示すと時間グラフはほぼ3本の補助線の周りに分かれて見えてしまい、診断に使える主棘点間隔が得られない。
【0121】
このような現象が発生する理由はQ波とR波のピーク値がほとんど同じレベルであり、拍動ごとのわずかな変化のため、最大のピークとしてQ波が選ばれたりR波が選ばれたりするために、主棘点がQ波とR波のピークの間でランダムに移動する結果となっているためである。自動判定を使っているかぎりこの結果は避けられない。そこで診断に使える主棘点の間隔を得るために編集することが必要になる。
【0122】
この場合、Q波かR波のピークのどちらか一方を常に主棘点とするように編集すればよい。
図32は、主棘点の編集後の状態を説明する図である。
図32(a)はQ波が主棘点となっている拍動について、主棘点をR波のピークとするように、パーソナルコンピュータ12に編集指令を入力した結果を示している。図から見て取れるように、全ての拍動の主棘点はR波のピークに移っている。
【0123】
この編集の結果、
図32(b)に示した主棘点間隔の時間グラフでは1本の補助線の近くに分布しており、実体を反映した主棘点間隔を得ることができる。
【0124】
ここで、主棘点の編集について具体的に説明する。
図31(c)で示しているのは、
図31(a)に示した30分間測定した心電信号S2を拍動単位で分離して、拍動毎に主棘点を重ね合わせた状態である。主棘点が陽性であるか陰性であるかという差によって、波形が上側と下側に別れることを使う方法である。重なり合う主棘点はX字状に見える部分の中央に有り、主棘点が陰性である拍動は上側に表示され、主棘点が陽性である拍動は下側に表示される。
【0125】
例えば上半分の波形の波形について主棘点の極性を陽性にするという指示をパーソナルコンピュータ12に入力すると
図32(a)で既に示したように陰性の主棘点は一括して陽性に変わる。これをモフォロジー編集と呼ぶ。このように、この編集作業は、1つずつの拍動について行うのではなく、パーソナルコンピュータに指定した、測定した心電信号S3の全てまたは指定した部分について一括して行われるので、極めて容易に実行でき、編集時間を短縮できる。
【0126】
次に、不整脈アノテーションの決定について説明する。不整脈アノテーションは、通常、健康であれば標準波形が支配的であるとして、これに対して標準波形と異なっており着目している拍動を不整脈として区別したときに拍動毎に付けるラベルである。それぞれの拍動について、標準波形に近似している拍動であればN、心室性起源の不整脈であればV、上室性起源の不整脈であればSというラベルが付けられる。
【0127】
図にそって詳しく説明する。
図33に示すように、不整脈アノテーションの決定は標準波形のQRS合成波の幅が120msより小さいか大きいかの判定からはじまる。この説明で120msとしてあるのは一例であり、任意の時間に変更できる。以下同じである。まず、標準波形のQRS合成波の幅が120ms未満の場合の、不整脈アノテーション決定S208のフローチャートを
図33の左側に示す。
【0128】
当該の拍動において、QRS合成波の幅が120ms以上であるか、
またはQRS合成波の幅が120ms未満であり、かつ早期期外収縮であり、かつ主棘点が接近しておらず、かつT波の極性が主棘点の極性の反対であるとき
心室性起源の不整脈と判定され、Vというラベルが付けられる。
【0129】
当該の拍動において、QRS合成波の幅が120ms未満であり、かつ早期期外収縮であり、かつ主棘点が接近しておらず、かつT波の極性が主棘点の極性と同じ極性であるとき、
または、QRS合成波の幅が120ms未満であり、かつ早期期外収縮であり、かつ主棘点が接近しているとき、
上室性起源の不整脈と判定されSというラベルが付けられる。
【0130】
当該の拍動において、VまたはSのラベルが付けられない場合、
すなわち当該の拍動において、QRS合成波の幅が120ms未満であり、かつ早期期外収縮ではないとき、Nというラベルが付けられる。
【0131】
次に、標準波形のQRS合成波の幅が120ms以上の場合の不整脈アノテーション決定S209のフローチャートを
図34に示す。
標準波形の拍動において、QRS合成波の幅が120ms以上であるとき、
当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と異なっており(型違い)、
当該のQRS合成の幅が120ms以上であるとき、
または標準波形のQRS合成波の幅が120ms以上であり、QRS合成波の波形の型が標準波形と異なっており(型違い)、かつQRS合成波の幅が120ms未満であり、かつ早期期外収縮であり、かつ主棘点が接近しておらず、かつP波が認められないとき、
または標準波形のQRS合成波の幅が120ms以上であり、当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と同型であり、かつ早期期外収縮であり、かつ主棘点が近づいておらず、かつP波が認められないとき、
心室性起源の不整脈と判定され、Vというラベルが付けられる。
【0132】
標準波形のQRS合成波の幅が120ms以上であるとき、
当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と異なっており(型違い)、
当該の拍動において、QRS合成波の幅が120ms未満であり、
または、当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と同型であり、
かつ早期期外収縮である場合に、
主棘点が接近しておらず、かつP波が認められるか、または主棘点が近接しているとき上室性起源の不整脈と判定され、Sというラベルが付けられる。
【0133】
当該の拍動において、VまたはSのラベルが付けられない場合、
すなわち標準波形のQRS合成波の幅が120ms以上であり、
当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と異なっており、当該のQRS合成の幅が120ms未満であるか、
または当該のQRS合成波の波形の型が標準波形と同型である場合であって、
かつ早期期外収縮でない場合にNというラベルが付けられる。
以上で不整脈アノテーションの決定についての説明を終わる。
【0134】
次に、不整脈アノテーションの編集について説明する。
図35は、不整脈アノテーションの編集前の状態を説明する図である。心電信号S5において左から4番目の拍動に着目すると正しい周期の拍動ではなく早期の期外収縮を示しており、不整脈として検出されるべきであるが、本発明の心電図自動解析装置1が自動的に分類して付けた不整脈アノテーションがNであることが示されている。
【0135】
つまり、診断に使える不整脈アノテーションが得られていない。これは、「早期性/区分点認識/各波間の間隔・幅の解析」処理が終わった心電信号S4から得られた標準波形のQRS合成波の幅が120ms程度と長く、4番目の拍動のQRS合成波の長さだけが特別に長くないために、早期性の解析S203(
図20を参照)で自動判定の規則では不整脈と判定しなかったためである。そこで、
図35(b)に示すモフォロジー編集機能を使う。モフォロジー編集とは、各拍動の波形の主棘点を重ねて表示して各波形の波形上の特徴を把握するものである。
【0136】
図35(b)では、当該の拍動の波形だけでは無く、その前後の拍動の波形を同時に表示する方法を使っている。これによって、基線の位置が2つに分かれ、また前後の波形との間隔がずれているという2つの特徴によって、正常な拍動と早期に収縮している拍動の心電信号波形を容易に区別することができる。そこで、異常を示している心電信号波形の不整脈アノテーションを指定してNからVに変えるようにパーソナルコンピュータ12に編集指令を入力し、不整脈アノテーションに関するラベルを書き換えることで編集できる。
【0137】
なお、
図35では、図の大きさの制限から、早期に収縮している異常な拍動信号波形は1つしか描かれていないが、実際には30分間の心電信号の中には多数の類似した異常な拍動信号が含まれており、それらを一括して表示し、医者などの資格者の判断に従って、編集することができる。1つ1つの拍動の信号波形とそれに付けられている不整脈アノテーションを確認しながら補正してゆくことは大変な手間と時間を必要とするが、本発明の編集機能によれば波形を表示している画面で複数の拍動を一括して指定でき、極めて容易に実行でき、編集時間を短縮できる。
【0138】
次に、波形を拡大して表示することについて説明する。
図36は心電信号S3の一部の拡大表示の概念図である。
図36(a)は30分の測定で得られた心電信号S3の1分間分を1行とし、30行を縦に並べて一括してパーソナルコンピュータの表示装置上に表示した画面(これを圧縮図とよぶ)の一部を抜き出したものである。この表示では個々の拍動の詳細な部分は見ることができない。拡大表示とは、画面の一部を拡大して心電信号S3の波形の細部まで見易くするものである。
【0139】
図36(a)は、表示画面上でカーソルなどを使って、図で4行目の一部を選択した結果、拡大するために選択された部分を囲む四角形が表示される状況を示している。このときパーソナルコンピュータ12に拡大指令を与えると、データ構造の中でフィールドa61の指定された特定の連続番号の測定値のみを選択して表示することで、表示装置に表示される画面は
図36(b)のようになって、選択された部分が判るように大きく拡大されて表示される。この機能を使うと、心電信号S3の波形の細部が確認できる。
【0140】
次に、表示装置上の心電信号波形などの一部を色分けによって表示する機能について例を示す。
図37は心電信号の特徴に合わせた色表示について説明する図である。心電信号S4の各拍動に主棘点マーク31、または主棘点マーク32が付けられており、主棘点を見分けやすくなっている。主棘点マーク31は黒色の丸印であり、主棘点マーク32は白色の丸印である。
【0141】
このとき、主棘点マーク31、または主棘点マーク32である丸印の表示装置上の色は、パーソナルコンピュータ12に入力した色指定によってデータ構造の中で色彩を指定するラベルを記録しているフィールドの色を指定しているラベルを書き換えることで、それぞれ適当な色に変えることができる。また、不整脈アノテーションの文字を指定しているラベルを書き換えることで、各主棘点に対応して不整脈アノテーションの文字を付けかえられる。
【0142】
不整脈アノテーションを示す字の色は、例えば、Nは白い4角に囲まれた黒字であり、Vは赤い4角に囲まれた黒字であるが、同様にパーソナルコンピュータ12に入力した色指定によってそれぞれ任意の色に変えることができる。これらは、データ構造の中で色彩を指定するラベルを記録しているフィールドを選択して、ラベルを別の色彩情報に書き換えることで実現できる。
【0143】
次に、各種の編集機能を実行する順番を変更する機能について説明する。
図38は、編集工程の順番を変更する説明図である。心電図自動解析装置を使用する病院あるいは医師個人によって、その解析手順が違うので、編集工程の順序は、固定的で無く使用するその場で任意に変更できる機能を持っていることが好ましい。
【0144】
図38はパーソナルコンピュータ12の表示装置に各種の編集機能を表示した画面であり、編集工程表示部35には各編集機能名が表示され、その先頭にはスイッチ部34が付いている。
図38(a)に示された編集機能の内容を説明すると、「自動検出」とは不整脈アノテーションを自動的に付けることであり、「不良検出部のマスク」とは、編集を行う熟練者や医者が処理の対象から外す範囲を指定することであり、「主棘検出の確認」は自動解析により検出した主棘点の確認及び、主棘点でない点を検出してしまった場合はこれを削除し、主棘点を取りこぼしてしまった場合はこれを追加することであり、「不整脈検出の検討」は例えば、除脈、ポーズなどの判定条件を設定することであり、「基線レベルの検討」は、医師によってどこを基線とするか違うので、主棘点の前のどこを基線とするかを指定することであり、「モフォロジー編集」は主棘点を重ねることで技能を持った編集者が心電図の波形パターンを見て編集できることであり、「重要な記録の追加」は心電図計測結果レポートに医師の所見などのコメントを付加することであり、「レポート編集」は、重要な波形、標準波形などを選択して、その数値データと組み合わせてレポートの体裁を整えることである。
【0145】
編集工程の特定の機能を実行しようとするときは、その機能名の先頭にカーソルを当てて選択してからパーソナルコンピュータ12のマウスまたはキーボードから選択指令を入力すると、
図38(a)に示すように、当該のスイッチ部34の色が変わり、その機能に対応する画面に切り替わる。したがって、処理機能が表示されている上からの順番の通りではなく、任意の処理機能を、任意の順番で実行することができる。
【0146】
例えば、
図38(a)では「モフォロジー編集」を選択している状態が示されている。このようにして、スイッチ部34で順番を選択して、「主棘検出の確認」工程の前に「モフォロジー編集」工程に着手するといった編集工程の順番を変更 することができる。
【0147】
また別の方法として、パーソナルコンピュータ12にキーボードから選択指令を入力して編集工程表示部35に表示されている編集機能名の順番を変えて、別の順番で編集機能を表示し、新しく表示された順番で各編集機能を上から順番に自動的に実行することもできる。
図38(b)に示すように、ここでは、
図38(a)に対して「主棘検出の確認」の前に「モフォロジー編集」を移動させている。
【0148】
なお、心電図の自動解析については、有線で心電計と接続したパーソナルコンピュータを使う例で説明したが、
図39に示したように、USBメモリーやSDカードなどのような記憶装置に心電信号を記録して、それを差し替えることで心電計からパーソナルコンピュータに情報を渡してもよい。