特許第6688705号(P6688705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688705排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688705
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニット
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20200421BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20200421BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20200421BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20200421BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C02F1/42 C
   C02F1/44 D
   C02F1/44 K
   C02F1/28 F
   C02F1/44 A
   C02F1/28 A
   C02F1/52 Z
   C02F1/469
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-177584(P2016-177584)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-43170(P2018-43170A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 寛則
(72)【発明者】
【氏名】三富 龍介
(72)【発明者】
【氏名】船田 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】西川 直樹
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−117019(JP,A)
【文献】 特開2010−089071(JP,A)
【文献】 特開2014−030777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水から固形分を除去して処理水(A)を得る工程(1)と、
前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得る工程(2)と、
前記処理水(A)の残部を用途(A)として利用し排水(A)を回収する工程(3)と、
前記処理水(B)を用途(B)として利用し排水(B)を回収する工程(4)と、
前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする工程(5)と、
前記工程(2)に供給する前記処理水(A)の量を、前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の値よりも高い場合には増やすように調整し、前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の値よりも低い場合には減らすように調整することにより、前記処理水(A)中のイオン濃度を任意の濃度以下となるようにする工程(6)と、を含む、排水リサイクル方法。
【請求項2】
前記用途(A)が設備洗浄用水であり、
前記用途(B)がボイラー用水又は熱交換器用冷却水である、請求項に記載の排水リサイクル方法。
【請求項3】
排水から固形分を除去して処理水(A)を得る固形分除去手段と、
前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得るイオン除去手段と、
前記処理水(A)の残部を用途(A)に供給し、前記用途(A)の排水(A)を回収する回収手段(A)と、
前記処理水(B)を用途(B)に供給し、前記用途(B)の排水(B)を回収する回収手段(B)と、
前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする排水調製手段と、
前記イオン除去手段に供給する前記処理水(A)の量を、前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の値よりも高い場合には増やすように調整し、前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の値よりも低い場合には減らすように調整することにより、前記処理水(A)中のイオン濃度を任意の濃度以下となるようにする調節手段と、を備える排水リサイクルユニット。
【請求項4】
前記用途(A)が設備洗浄用水であり、
前記用途(B)がボイラー用水又は熱交換器用冷却水である、請求項に記載の排水リサイクルユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷低減を目的として節水するために、排水リサイクルのニーズは高まっている。排水をリサイクルするために、様々な水処理技術により循環利用可能な水質まで処理されている。特にRO膜、イオン交換樹脂、電気透析で処理した排水は、良好な水質のリサイクル水が得られるため、幅広い用途に用いることができる。
特許文献1では、排水をRO膜で処理して得られる3次処理水をボイラー用水として再利用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−117017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は処理水をリユース(再利用)することは記載されているが、リサイクル(循環利用)することは提案されていないため、リユースした後の処理水は排水として排出されることになる。そうすると、リユース量相当量の水を系内に補填することになり、充分に節水できない。また、特許文献1の方法では、排水をすべてRO膜で処理しているため、RO膜で除去した成分を含む濃縮水(排出水)が多くなる。排出水は系外へ排出されるため、排出水相当量の水を系内に補填することになり、充分に節水できない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高度に節水できる排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニットは、以下の態様を有する。
[1]排水から固形分を除去して処理水(A)を得る工程(1)と、
前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得る工程(2)と、
前記処理水(A)の残部を用途(A)として利用し排水(A)を回収する工程(3)と、
前記処理水(B)を用途(B)として利用し排水(B)を回収する工程(4)と、
前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする工程(5)と、を含む、排水リサイクル方法。
[2]前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の濃度以下になるように、前記工程(2)に供給する前記処理水(A)の量を調節する工程(6)をさらに含む、[1]に記載の排水リサイクル方法。
[3]前記用途(A)が設備洗浄用水であり、
前記用途(B)がボイラー用水又は熱交換器用冷却水である、[1]又は[2]に記載の排水リサイクル方法。
[4]排水から固形分を除去して処理水(A)を得る固形分除去手段と、
前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得るイオン除去手段と、
前記処理水(A)の残部を用途(A)に供給し、前記用途(A)の排水(A)を回収する回収手段(A)と、
前記処理水(B)を用途(B)に供給し、前記用途(B)の排水(B)を回収する回収手段(B)と、
前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする排水調製手段と、を備える排水リサイクルユニット。
[5]前記処理水(A)中のイオン濃度が任意の濃度以下になるように、前記イオン除去手段に供給する前記処理水(A)の量を調節する調節手段をさらに備える、[4]に記載の排水リサイクルユニット。
[6]前記用途(A)が設備洗浄用水であり、
前記用途(B)がボイラー用水又は熱交換器用冷却水である、[4]又は[5]に記載の排水リサイクルユニット。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高度に節水できる排水リサイクル方法、及び排水リサイクルユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の排水リサイクル方法を示すフロー図である。
図2】本発明の排水リサイクルユニットの一例を示す概略構成図である。
図3】本発明の排水リサイクルユニットの具体例を示す概略構成図である。
図4】実施例の排水リサイクルユニットの例を示す概略構成図である。
図5】実施例のナトリウムイオン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪排水リサイクル方法≫
図1は本発明のリサイクル方法を示すフロー図である。本発明の排水リサイクル方法は、排水から固形分を除去して処理水(A)を得る工程(1)S1と、前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得る工程(2)S2と、前記処理水(A)の残部を用途(A)として利用し排水(A)を回収する工程(3)S3と、前記処理水(B)を用途(B)として利用し排水(B)を回収する工程(4)S4と、前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする工程(5)S5と、を含む。
【0009】
工程(1)では、生物処理、凝集ろ過処理、及び活性炭処理からなる群から選択される少なくとも1種を用いて、排水中に含まれる固形分を除去することが好ましい。
固形分とは、排水中に含まれる可溶化されない成分を意味する。
生物処理とは、微生物による有機物の分解作用を利用して排水中の有機物を除去する処理である。
凝集ろ過処理とは、粒子を集合させてより大きな凝塊を形成させ、ろ材やフィルタを用いて除去する処理である。ろ材としては、砂、アンスラサイト、繊維状のろ材等が挙げられ、フィルタとしては、UF膜(限外濾過膜)、MF膜(精密濾過膜)等が挙げられる。
活性炭処理とは、粒子を活性炭に吸着させて除去する処理である。
排水中の固形分を除去する方法は、処理水(A)に求められる水質を勘案して決定されれる。
【0010】
工程(2)では、イオン交換樹脂処理、RO膜処理、及び電気透析処理からなる群から選択される少なくとも1種を用いて、処理水(A)中のイオンを除去して処理水(B)を得ることが好ましい。
除去されるイオンとしては、ナトリウムイオン、塩化物イオン、カルシウムイオン等が挙げられる。
例えばナトリウムイオンの場合、得られる処理水(B)中のイオン濃度が200mg/L以下になるように、イオンが除去されることが好ましい。
イオン交換樹脂処理とは、カチオン交換樹脂及び/又はアニオン交換樹脂を用いてイオンを除去する処理である。
RO膜処理とは、RO膜を用いてイオンを除去する処理である。
電気透析処理とは、電気透析によりイオンを除去する処理である。
排水中のイオンを除去する方法は、処理水(B)に求められる水質を勘案して決定される。
除去された成分を含む排出水は、系外に廃棄される。
【0011】
工程(3)では、処理水(A)の残部を用途(A)として利用し、利用後に排水(A)を回収する。
用途(A)としては、設備洗浄用水等が挙げられ、設備洗浄用水としては、例えばろ材や活性炭、イオン交換樹脂等の洗浄用水等が挙げられる。
工程(4)では、処理水(B)を用途(B)として利用し、利用後に排水(B)を回収する。
用途(B)としては、ボイラー用水又は熱交換器用冷却水等が挙げられる。
処理水(B)はイオンが除去されているため、用途(B)をボイラー用水又は熱交換器用冷却水としても、利用後の排水(B)がイオンで汚染されてもイオンの濃縮がおこらないため、排水(B)中のイオン濃度を低く維持することができる。このようにして得られた排水(B)と排水(A)とを混合して排水を得ることにより、排水を処理して得られる処理水(A)中のイオン濃度を低減することができる。
【0012】
工程(5)では、排水(A)と排水(B)とを混合して、排水とする。
混合方法は特に限定されず、工程(1)に供給する前に排水(A)と排水(B)とを混合する方法であってもよいし、工程(1)において排水(A)と排水(B)とを混合する方法であってもよい。
工程(5)で得られた排水は、工程(1)の排水として循環利用される。
【0013】
本発明の排水リサイクル方法は、排水から固形分を除去して処理水(A)を得る工程の前に、凝集処理、加圧浮上処理、及び接触酸化処理からなる群から選択される少なくとも1種の予備的工程を含んでいてもよい。この予備的工程を含むことにより、固形物を除去しやすくなる。
【0014】
本発明の排水リサイクル方法は、排水から固形分を除去して処理水(A)を得る工程の後に、次亜塩素酸塩で処理水(A)を処理する工程を含んでいてもよい。この工程を含むことにより、処理水(A)を殺菌することができる。
【0015】
本発明の排水リサイクル方法は、次亜塩素酸塩で処理水(A)を処理する工程を含む場合は、工程(2)の前に、亜硫酸塩を用いて処理水(A)を還元処理する還元処理工程を含んでいてもよい。この工程を含むことにより次亜塩素酸塩による工程(2)で使用されるイオン交換樹脂やRO膜等の器具の劣化を抑制できる。
【0016】
本発明の排水リサイクル方法は、工程(1)と工程(2)との間に、処理水(A)中のイオン濃度が任意の濃度以下になるように、工程(2)に供給する処理水(A)の量を調節する工程(6)を含んでいてもよい。処理水(A)のみでリサイクルを繰り返すと、処理水(A)中に含まれるイオン濃度が高まり、水質が悪化する。そこで、例えば処理水(A)のイオン濃度が任意の値よりも高い場合には、工程(2)に供給する処理水(A)の量を増やして処理水(B)にすることにより、次のサイクルで得られる処理水(A)のイオン濃度を低減し、処理水(A)の水質を維持することができる。例えば処理水(A)のイオン濃度が任意の値よりも低い場合には、工程(2)に供給する処理水(A)の量を減らすことにより、排出水の量を低減することができ、より高度に節水することができる。
工程(6)としては、例えば、処理水(A)を一部採取し、イオンクロマトグラフで分析し、その結果に基づいて、処理水(A)の濃度が任意の濃度以下になるように、工程(2)に供給する処理水(A)の量を調節する方法が挙げられる。
【0017】
本発明の排水リサイクル方法は、既存の排水処理設備を活用した排水リサイクルユニットとしてもよい。既存の排水処理設備を活用する場合は、事前に水質を分析し、循環利用を想定した計算を繰り返して処理水(A)の水質を任意のイオン濃度に維持するための工程(2)に供給する処理水(A)の量を算出することにより、事前に工程(2)のダウンサイジングの予測を可能にする。この計算は、既存の排水処理設備を活用しない場合でも、暫定の数値を代用することでダウンサイジングの予測が可能である。
【0018】
≪排水リサイクルユニット≫
図2は本発明の排水リサイクルユニットの一例を示す概略構成図である。本発明の排水リサイクルユニット10は、排水から固形分を除去して処理水(A)を得る固形分除去手段1と、前記処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得るイオン除去手段2と、前記処理水(A)の残部を用途(A)に供給し、前記用途(A)の排水(A)を回収する回収手段(A)3と、前記処理水(B)を用途(B)として供給し、前記用途(B)の排水(B)を回収する回収手段(B)4と、前記排水(A)と前記排水(B)とを混合して前記排水とする排水調製手段5を備える。
【0019】
排水から固形分を除去して処理水(A)を得る固形分除去手段1としては、例えば生物処理槽、凝集ろ過処理槽、及び活性炭処理槽からなる群から選択される1種が挙げられる。それぞれ、生物処理、凝集ろ過処理、及び活性炭処理を実施するための槽である。これにより排水中に含まれる固形分を除去する。
固形分除去手段1は、処理水(A)に求められる水質を勘案して決定される。
【0020】
処理水(A)の一部からイオンを除去して処理水(B)を得るイオン除去手段2としては、例えばイオン交換樹脂処理槽、RO膜処理槽、及び電気透析処理槽からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。それぞれ、イオン交換樹脂処理、RO膜処理、及び電気透析処理を実施するための槽である。これにより処理水(A)中に含まれるイオンを除去する。
イオン除去手段2は、処理水(B)に求められる水質を勘案して決定される。
除去された成分を含む排出水6は、系外に廃棄される。
【0021】
処理水(A)の残部を用途(A)として利用し、用途(A)の排水(A)を回収する回収手段(A)3は、用途(A)に処理水(A)を供給する処理水(A)供給管3a、処理水(A)を用途(A)として利用するための処理水(A)利用装置3b、用途(A)の排水(A)を回収する排水(A)回収手段管3cからなる。処理水(A)利用装置3bとしては、ろ過器、活性炭塔、イオン交換器等が挙げられる。
用途(A)としては上述したものと同様のものが挙げられる。
【0022】
処理水(B)を用途(B)として利用し、用途(B)の排水(B)を回収する回収手段(B)4は、用途(B)に処理水(B)を供給する処理水(B)供給管4a、処理水(B)を用途(B)として利用するための処理水(B)利用装置4b、用途(B)の排水(B)を回収する排水(B)回収管4cからなる。処理水(B)利用装置4bとしては、ボイラー、熱交換器等が挙げられる。
用途(B)としては上述したものと同様のものが挙げられる。
【0023】
排水(A)と排水(B)とを混合して前記排水とする排水調製手段5としては、排水(A)及び排水(B)を貯留するための排水タンクや、排水(A)及び排水(B)を固形物除去手段1に供給するための配管等が挙げられる。
【0024】
本発明の排水リサイクルユニットは、固形分除去手段1の前段に、凝集処理槽、加圧浮上処理槽、及び接触酸化処理槽からなる群から選択される少なくとも1種の予備処理手段を有していてもよい。この手段を含むことにより、固形物を除去しやすくなる。
【0025】
本発明の排水リサイクルユニットは、固形分除去手段1の後段であってイオン除去手段2の前段に、次亜塩素酸塩で処理するための次亜塩素酸塩処理手段を有していてもよい。次亜塩素酸塩処理手段としては、次亜塩素酸塩処理槽が挙げられる。これは次亜塩素酸塩で処理水(A)を処理するための槽である。次亜塩素酸塩処理手段を有することにより、処理水(A)を殺菌することができる。
【0026】
本発明の排水リサイクルユニットは、次亜塩素酸塩で処理水(A)を処理する工程を含む場合には、固形分除去手段1の後段であってイオン除去手段2の前段に、亜硫酸塩で還元処理するための亜硫酸塩還元処理手段を有していてもよい。亜硫酸塩還元処理手段としては、供給配管へ連続的に添加するポンプ、若しくは亜硫酸塩還元処理槽が挙げられる。これは亜硫酸塩で処理水(A)を処理するためのポンプ、若しくは槽である。亜硫酸塩還元処理手段を有することにより、次亜塩素酸塩によるイオン除去手段の劣化を抑制できる。
【0027】
本発明の排水リサイクルユニットは、固形物除去手段1とイオン除去手段2との間に、処理水(A)中のイオン濃度が任意の濃度になるように、イオン除去手段2に供給する処理水(A)の量を調節する調節手段を有することが好ましい。
調節手段としては、イオン濃度を測定するためのイオンクロマトグラフと、処理水(A)の量を調節するためのバルブとの組み合わせが挙げられる。
【0028】
図3は本発明の排水リサイクルユニットの具体例を示す概略構成図である。当該排水リサイクルユニット100において、供給される工業用水L24は、ろ過器、活性炭塔、イオン交換器31の洗浄用水、ボイラー、熱交換器32の用水等に利用され、利用後の排水(A)L25、排水(B)L26は、排水タンク20内で混合され、排水となる。排水は凝集処理槽21、加圧浮上処理槽22、接触酸化処理槽23の順に浄化処理される。凝集処理槽21、加圧浮上処理槽22、接触酸化処理槽23は上述の予備処理手段に該当する。続いて、凝集ろ過処理槽24、活性炭処理槽25の順に浄化処理される。凝集ろ過処理槽24、活性炭処理槽25は固形分除去手段に該当する。続いて次亜塩素酸塩処理槽26で浄化処理される。得られた処理水(A)L21の一部を亜硫酸塩還元処理槽27、イオン交換樹脂処理槽28、RO膜処理槽29の順に浄化処理し、処理水(B)L22を得る。イオン交換樹脂処理槽28、RO膜処理槽29はイオン除去手段に該当する。RO膜で除去した成分を含む排出水L23は系外へ排出される。前記処理水(A)の残部をろ過器、活性炭塔、イオン交換器31の洗浄用水として利用する。一方で、前記処理水(B)をボイラー、熱交換器32の用水として利用する。このとき排出水L23相当量の工業用水L24を系内に追加する。利用後の排水(A)L25及び排水(B)L26を排水タンク20内で混合し、再び排水とする。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<ナトリウムイオン濃度の測定方法>
(1)前処理
試料(排水)をろ過した。試料の電気伝導率が10mS/m(100μS/cm)(25℃)以上の場合には、電気伝導率が10mS/m以下になるように、水で一定の割合に薄めた。
(2)分析
1)イオンクロマトグラフを作動できる状態にし、分離カラムに溶離液を一定の流量(例えば、1〜2mL/min)で流しておいた。再生液を必要とするサプレッサー装置では、再生液を一定の流量で流しておいた。
2)ナトリウムイオン混合標準液[Na 10μg](例えば、20〜200μLの一定量)をマイクロシリンジを用いて、イオンクロマトグラフに注入してクロマトグラムを記録しナトリウムイオンの保持時間に相当するピークの位置を確認した。
3)前処理を行った試料の一定量(例えば、20〜200μLの一定量)をマイクロシリンジを用いて、イオンクロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録した。
4)クロマトグラム上のナトリウムイオンに相当するピークについて、指示値を読み取った。
5)試料を薄めた場合には、空試験として試料と同量の水について1)〜4)の操作を行って試料について得た結果を補正した。
6)検量線からナトリウムイオンの濃度を求め、試料中のナトリウムイオンの濃度(mg/L)を算出した。
[測定条件]
測定装置:ICS−90(サーモフィッシャー社製)
分離カラム:IonPac CS12A
ガードカラム:IonPacCG12A
溶離液:10mmol/L メタンスルホン酸
溶離液流量:1.5mL/min
サプレッサー:Dionex ERS 500 電離再生サプレッサー 4mm
ループ容量:200μl
【0031】
<ナトリウムイオンの計算方法>
図4は、実施例で使用した排水リサイクルユニットを示す概略構成図である。当該排水リサイクルユニット101において、排水L1が排水タンク11から予備処理手段12に移動し、予備処理手段12で浄化処理された予備処理原水L2が、固形物除去手段13で浄化処理されて処理水(A)LAとなる。さらに処理水(A)LAの一部がイオン除去手段14で浄化処理されて処理水(B)LBとなる。処理水(A)LAの残部はろ過器、活性炭塔15の洗浄用水として使用されたのち、排水(A)LEとして排水タンク11に回収される。処理水(B)LBはボイラー16供給水として使用されたのち、排水(B)LFとして排水タンク11に回収される。回収された排水L1は再度浄化されて循環利用される。このときにRO膜(イオン除去手段)で除去した成分を含む排出水LCは系外へ排出され、排出水LC相当量の工業用水LDを補填する。実施例においては、予備処理手段12として、凝集処理槽、加圧浮上処理槽、及び接触酸化処理槽を用いた。
上記<ナトリウムイオン濃度の測定方法>に従い、ろ過器、活性炭塔15の洗浄用水として使用した後の排水(A)LE、ボイラー16供給水として使用した後の排水(B)LF、予備処理原水L2、処理水(A)LA、補填水LDの各ナトリウムイオン濃度を測定した。一部の処理水(A)/全部の処理水(A)の水量比率XとRO膜回収率Yより、一度循環利用した際の処理水(A)の水質Z1と、循環利用を想定して繰り返し計算して、下記式により平衡濃度Zn(n:繰り返し計算回数)を算出した。なお、RO膜回収率Yは、水道水質基準を満たす水を通水するとして89%として算出した。計算結果を表1に示す。
【0032】
Zn=A1(1−(1−X)×(1−Y))−A3×X+A3−A2+A4
×(1−X)×(1−Y)+A3
=(A4−A1)×(1−X)×(1−Y)+(2−X)×A3+A1−A2
[式中、A1はろ過器、活性炭塔15の洗浄用水として使用された後の排水(A)LEと、ボイラー16供給水として使用された後の排水(B)LFの各ナトリウムイオン濃度を加重平均して算出されるナトリウムイオン濃度であり、A2は予備処理原水L2のナトリウムイオン濃度であり、A3は処理水(A)LAのナトリウムイオン濃度であり、A4は補填水LDのナトリウムイオン濃度であり、Xは一部の処理水(A)/全部の処理水(A)で表される水量比率であり、YはRO膜回収率である。]
【0033】
<排水率の算出方法>
RO膜で除去された成分を含む排出水量に基づき、排水率(%)を下記式により算出した。
排水率=一部の処理水(A)×(1−RO膜回収率)/100
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すとおり、水質分析から得られたナトリウムイオンの量は、残部の処理水(A)/一部の処理水(A)の比率により濃度に差がでる。例えば、残部の処理水(A)/一部の処理水(A)の比率が90/10〜80/20の範囲であると、水道水質基準であるナトリウムイオンの濃度が200mg/L以下を満たさないため処理水(A)の水質を維持できない。一方でナトリウムイオン濃度の計算結果が低い0/100の場合は、処理水(A)全量についてRO膜処理を行うため当然にナトリウムイオン濃度は低くなる。しかしながら、RO膜で除去された成分を含む排出水の量が多くなるため、排水率が高くなり、充分に節水できない。よって水質と節水とを両立するためには、この試料の場合の残部の処理水(A)/一部の処理水(A)の比率は70/30〜30/70が好ましい、ということが判る。
【0036】
図5は、残部の処理水(A)が60%、一部の処理水(A)が40%となるように設定して処理水(A)及び処理水(B)の循環利用を約150日間にわたり実施したときの、処理水(A)のナトリウムイオン濃度を示したものである。ここで、用途(A)はろ過器、活性炭塔の洗浄用水とし、用途(B)はボイラー供給水とした。図5によれば、リサイクル開始から数日経過後すると、リサイクルによるナトリウムイオンの濃縮が起こることがわかる。ただし、イオンの濃縮は160mg/L付近で頭打ちとなっており、これは表1の計算結果とほぼ同等である。
この結果は、リサイクル初期の処理水(A)中のイオン濃度の分析結果から、イオン分の濃縮度合いを計算することで、実際のリサイクルによるイオン分の濃縮度合いを予測することができるということを意味する。この予測に基づいて、処理水(A)のうち、処理水(B)を得る工程に供給する量を調節し、水質と節水とを両立することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 固形分除去手段
2 イオン除去手段
3 回収手段(A)
4 回収手段(B)
5 排水調製手段
図1
図2
図3
図4
図5