(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688798
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】負の光弾性定数を有するポリマー材料
(51)【国際特許分類】
C08F 26/06 20060101AFI20200421BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
C08F26/06
G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-529060(P2017-529060)
(86)(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公表番号】特表2018-500411(P2018-500411A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】US2015064205
(87)【国際公開番号】WO2016099973
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年11月19日
(31)【優先権主張番号】62/093,573
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Rohm and Haas Electronic Materials LLC
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー−ウェイ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】キャサリーン・エム・オコンネル
(72)【発明者】
【氏名】カロライン・ウォルフル−グプタ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイジュン・チョウ
【審査官】
佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/162369(WO,A1)
【文献】
特表2017−538018(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0054515(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/056597(WO,A1)
【文献】
SRIDEVI S; RAO P RAGHUNATH,SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF COPOLYMER OF 2-VINYL PYRIDINE WITHISOBORNYL METHACRYLATE,JOURNAL OF POLYMER MATERIALS,2006年 6月26日,VOL:23, NR:4,PAGE(S):379 - 385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
の2〜30重量%のドーパント
であって、
式中、R1が、水素またはメチルであり、R2が、アダマンタン、ビシクロ[2,2,1]アルカン、ビシクロ[2,2,2]アルカン、及びビシクロ[2,1,1]アルカンからなる群から選択されるC6−C20脂肪族多環式置換基であり、前記C6−C20脂肪族多環式置換基が置換されていないか、またはメチル基で置換されているドーパントを含む、ドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【請求項2】
R2の前記C6−C20脂肪族多環式置換基が置換されていない、請求項1に記載のドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【請求項3】
R2が、C7−C15架橋多環式置換基である、請求項1または2に記載のドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【請求項4】
10〜27重量%の前記ドーパントを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【請求項5】
7〜30重量%の式(II)のドーパントを含み、
【化2】
式中、Gが、フルオロ及びクロロからなる群から選択される1〜5個の置換基を表す、ドープされたポリ(2−ビニルピリジン)(P2VP)。
【請求項6】
Gが、フルオロ及びクロロからなる群から選択される1〜3個の置換基を表す、請求項5に記載のドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【請求項7】
10〜27重量%の前記ドーパントを含む、請求項6に記載のドープされたポリ(2−ビニルピリジン)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の光弾性定数を有するポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDデバイスは、透明な電極が互いに対面するように提供されている透明な基材の対を配置し、その後、基材の対の間に液晶を封入することによって形成される、LC(液晶)セルを含む。LCDデバイスは、輝度の改良及び画像表示品質の改善、ならびにLCDデバイスをより軽くかつより薄くすることが所望される、携帯電話、携帯情報端末などにおいて幅広く使用されている。スマートフォン及びタブレット型コンピュータなどのLCDデバイスは、それらのデバイスが真っ暗な状態において使用されるとき、特に角及び端周辺で光漏れする傾向にある。これに寄与する1つの重要な原因は、LCセルの薄いガラス中の応力誘起複屈折であることが疑われている。液晶ディスプレイの部分は、ディスプレイに取り付けられる据え付け構造による、または内部ディスプレイ構造による応力を経験し得る。ガラスは一般に、正の光弾性定数(Cp)を有する。したがって、ガラス基材の応力誘起複屈折を補償するためには、補償フィルムとして負のCp値を有する材料が必要とされる。ポリマー材料、例えば、ポリ(メチルメタクリレート)中で、ドーパントとしてトランス−スチルベンなどの小分子を使用してCpを変更することは、H.Shafiee,et al.,Proc.SPIE,2010,vol.7599,75990Uに開示されている。しかしながら、この参考文献は、Cpの正の変化を教示するにすぎない。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、ドープされたポリ(2−ビニルピリジン)(P2VP)を提供する。ドープされたP2VPは、C
9−C
25脂肪族多環式化合物である2〜30重量%のドーパントを含む。
【0004】
本発明は、2〜30重量%の式(II)のドーパントを含み、
【0006】
式中、Gが、フルオロ及びクロロからなる群から選択される1〜5個の置換基を表す、ドープされたポリ(2−ビニルピリジン)(P2VP)を更に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
別段明記されない限り、パーセンテージは重量パーセンテージ(重量%)であり、温度は℃である。別段明記されない限り、操作は室温(20〜25℃)で実行した。本明細書で使用される場合、「ポリ(2−ビニルピリジン)」という用語は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%の重合単位の2−ビニルピリジンを含む、ポリマーまたはコポリマーを意味する。
【0008】
光弾性効果誘起複屈折は、材料の光弾性定数(Cp)、及び材料に適用される応力の量(σ)によって決定される。光弾性定数は、応力誘起複屈折と、適用される応力が材料中の小程度の弾性変形のみを誘起する条件下でガラス状材料上に適用される応力の大きさとの割合を計算することによって決定される。材料の光弾性複屈折は、その材料の固有複屈折(Δn
0)とは異なる。固有複屈折とは、例えば、材料を一方向に一軸延伸することによって、材料が一方向に完全に配向されるとき、それが呈する複屈折の量を指す。正の固有複屈折の材料は、他の2つの方向、y及びzの屈折率n
y及びn
zよりも大きい、材料がそれに沿って完全に配向されるx方向の屈折率(n
x)を有し、x、y、zは、互いに対して相互に直交する3つの異なる方向を表す。逆に、負の固有複屈折の材料は、他の2つの方向、y及びzの屈折率よりも小さい、材料がそれに沿って完全に配向されるx方向の屈折率を有する。正の固有複屈折型の材料は常に、正の光弾性型である傾向がある一方で、負の複屈折型の材料について、それらは、負の光弾性型または正の光弾性定数型のいずれであってもよい。
【0009】
光弾性定数は、各材料の固有特性であり、正または負の値を有し得る。したがって、材料は、正の光弾性定数を有する一方の群、及び負の光弾性定数を有する他方の群の2つの群に分けられる。正の光弾性定数を有する材料は、材料がx方向に沿った小程度の一軸引張応力に供されるとき、正の複屈折(すなわち、nx>ny)を呈する傾向にある。逆に、負の光弾性定数を有する材料は、材料がx方向に沿った小程度の一軸引張応力に供されるとき、負の複屈折(すなわち、nx<ny)を呈するだろう。
【0010】
遅延は、材料のシート中の複屈折の尺度である。それは、Δnとシートの厚さとの積として定義され、Δnは、n
xとn
yとの差の絶対値である。
【0011】
好ましくは、C
9−C
25脂肪族多環式化合物は、炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみ、好ましくは6個以下の酸素原子、好ましくは、4個以下の酸素原子を含有する。好ましくは、C
9−C
25脂肪族多環式化合物は、架橋多環式化合物、好ましくは二環式、三環式、または四環式化合物であり、これらの化合物は、アルキル基、アルコキシ基、またはヒドロキシ基、好ましくはメチル基及び/またはヒドロキシ基で置換されても、置換されていなくてもよい。好ましくは、脂肪族多環式化合物は、10〜20個の炭素原子を有する。好ましくは、C
9−C
25脂肪族多環式化合物は、C
2−C
8非環式脂肪族置換基に結合されたC
6−C
20脂肪族多環式置換基を含む。好ましくは、C
2−C
8非環式脂肪族置換基は、1〜4個、好ましくは少なくとも2個、好ましくは3個以下の酸素原子を含む。好ましくは、非環式脂肪族置換基は、3〜6個の炭素原子を有する。好ましくは、非環式脂肪族置換基は、少なくとも1個のエステル基を有する。好ましくは、脂肪族多環式置換基は、エステル酸素を通して非環式脂肪族置換基に結合される。好ましくは、脂肪族多環式置換基は、8〜12個の炭素原子を有する。好ましくは、脂肪族多環式置換基は、架橋多環式置換基、好ましくは二環式、三環式、または四環式置換基である。好ましくは、C
9−C
25脂肪族多環式化合物は、式(I)の化合物であり、
【0013】
式中、R
1は、水素またはメチルであり、R
2は、置換されていないC
6−C
20脂肪族多環式置換基であるか、またはアクリレートもしくはメタクリレートエステル置換基を有する。好ましくは、R
2は、C
7−C
15脂肪族多環式置換基であり、好ましくはR
2は、C
8−C
12脂肪族多環式置換基である。好ましくは、R
2は、架橋多環式置換基、好ましくは二環式、三環式、または四環式置換基である。R
2の好ましい構造としては、例えば、アダマンタン、ビシクロ[2,2,1]アルカン、ビシクロ[2,2,2]アルカン、ビシクロ[2,1,1]アルカンが挙げられ、これらの構造は、アルキル基、アルコキシ基、またはヒドロキシ基、好ましくはメチル基及び/またはヒドロキシ基で置換されてもよい。アダマンタン及びビシクロ[2,2,1]アルカンが、特に好ましい。好ましくは、R
1は、メチルである。好ましくは、R
2は、置換されていない。
【0014】
好ましくは、式(II)中のGは、1〜3個、好ましくは2〜3個の置換基を表す。好ましくは、置換基は、フルオロ及びクロロからなる群から選択される。
【0015】
好ましくは、ドープされたP2VPは、使用に好適な溶媒中、P2VPを式(I)または(II)の化合物と混合することによって調製される。特定のドーパントの溶解性によって、ブレンドされた材料を溶解させるために、単一の溶媒または溶媒の混合物が使用されてもよい。好ましくは、ドープされたP2VP溶液の固体含有量は、10〜50重量%の範囲内である。溶液は、当該産業によって周知の剥離紙または連続流延ベルトなどの剥離基材上の自立フィルムへと流延されてもよい。ドープされたP2VP溶液はまた、光学特性改良のためのコーティング層として、基材(例えば、光学フィルムもしくはシート、またはガラス基材)上に直接適用されてもよい。その後、ドープされたP2VPの湿潤コーティングまたはフィルムは、好ましくは真空下で、実質的に均一なフィルムを生成するのに十分な時間ベークされる。好ましい条件は、50〜100℃の温度及び5〜30時間の時間である。
【0016】
好ましくは、ドープされたポリマーの総重量に基づく、ドープされたポリマー中のドーパントの量は、5重量%超、好ましくは少なくとも8重量%、好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも12重量%;好ましくは30重量%以下、好ましくは25重量%以下である。
【0017】
本発明に従うドープされたP2VPは、当該技術分野において周知である任意の好適なコーティングプロセスを使用することによって、液晶セルのガラス基材上に直接コーティングされてもよい。例えば、ドープされたP2VPは、浸漬コーティング、スピンコーティング、またはスロットダイコーティングによって、ガラス上にコーティングされてもよい。スロットダイコーティングプロセスが、コーティング領域、コーティング厚さ、及び均一性のその比較的容易な制御のため、より好ましい。必要な場合、LCセルへのコーティングの優れた接着を与えるために、接着促進剤がコーティング配合物中に任意で組み込まれてもよい。ガラス基材もまた、ガラスへのドープされたP2VP材料の接着を更に改善するために、接着促進剤で表面修飾されてもよい。ドープされたP2VP層の好ましい厚さの範囲は、100μm未満、より好ましくは50μm未満、更により好ましくは25μm未満;好ましくは5μm超、好ましくは10μm超である。そのようなドープされたP2VP層の厚さが100μm超である場合、それは望ましくないが、これは消費者がより薄い電子デバイスを好むためである。逆に、そのようなドープされたP2VP層の厚さが5μm未満である場合、薄コーティングは、それが変形下にあるとき、ガラス基材に光学補償を与えるのに限定的な影響を有する。
【0018】
ガラスシートの好ましい厚さの範囲は、0.1mm〜0.7mm、好ましくは0.2mm〜0.5mmである。ガラス基材の厚さが0.7mm超である場合、光学コーティングの効果は、十分に強くない可能性があり、これはまた、デバイスの厚さも増加させるだろう。ガラス基材が0.1mm未満である場合、デバイス製造について、その物理的強剛性が問題となる。
【実施例】
【0019】
3つの異なるポリマー、つまり、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(2−ビニルピリジン)(P2VP)、及びポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP)を、小分子ドーパントとドープして、複合系を調製した。試験された小分子は、以下、2−ナフトール(2−NPと表記)、3−フェニルフェノール(3−PPと表記)、トランス−スチルベン(t−スチルベンと表記)、3,4,5トリフルオロ安息香酸(TFBAと表記)、3,4,5−トリフルオロフェニル酢酸(TFPAAと表記)、シアノ安息香酸(CNBAと表記)、4−メチル−ビフェニル−2−カルボニトリル(4M2BCNと表記)、2−フルオロ6−フェノキシベンゾニトリル(FPHBNと表記)、1−ヒドロキシル3−アダマンチルメタクリレート(HAMAと表記)、1−ヒドロキシル3−アダマンチルメチルメタクリレート(MHAMAと表記)、及びイソボルニルメタクリレート(IBOMAと表記)を含んだ。
【0020】
複合系の自立フィルムを、まずポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)ブラシ層で事前処理したガラス基材上に、ブレンド配合物及び対照(ドーパントを有さないポリマー)を流延することによって調製した。その後、コーティングされた試料を、真空下、75℃で少なくとも4時間ベークしてから、光学特性評価のためにフィルムを剥離した。試料検体上に一軸引張応力を同時に適用しながら、面内フィルム遅延を測定することによって、光弾性定数測定を実行した。ポリマーフィルムを約1インチ×3インチ(2.54×7.62cm)の小片へと切断し、Exicor150AT複屈折測定システム(Hinds Instruments)に取り付けられた一軸引張延伸土台上に据え付けた。フィルムの光学遅延を、適用される力の関数として、546ナノメートル(nm)の波長で測定した。力を、手動制御し、試料据え付けグリップのうちの1つに接続されたOMEGA DFG41−RS力変換器によって測定した。適用される力は、0〜15ニュートンの範囲内であった。光弾性定数または応力光学係数(Cp)を、応力の勾配対複屈折プロットから計算した。異なる複合系のCp測定結果を、以下の表に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
3−PP、2−NP、t−スチルベン、4M2BCN、HAMAでドープされたPMMA及びPMMAは全て、アニソール中の25重量%溶液へと作製された。TFPAA、CNBA、TFBAでドープされたPMMAは全て、70/30の割合でアニソールと乳酸エチルとの混合溶媒を有する25重量%溶液へと作製された。
【0025】
添加剤充填を変化させることによって、P2VP−TFBA系及びP2VP−HAMA系の更なる研究を実行した。2つの小分子添加剤を、乳酸エチル中にポリマー及び添加剤を溶解させて、25重量%の固体含有量を有するブレンド溶液を達成することによって、5、10、15、及び20重量%のレベルでP2VPマトリクスポリマーへとドープした。自立フィルムを調製し、前節に記載される同一の様式で特性評価した。以下の表は、添加剤充填の関数としての、複合系のCp結果を示す。全ての場合において、負のCpは、マトリクスポリマーをドープすることによって達成される。Cpの大きさは、添加剤充填を変化させることによって容易に調節可能であり、より高いドーパント充填は一般に、複合系のより大きな負のCp値をもたらすこともまた、はっきりと示される。
【0026】
【表4】