特許第6688922号(P6688922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688922
(24)【登録日】2020年4月8日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】分離膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20200421BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20200421BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20200421BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20200421BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   B29C55/12
   B29C67/20 P
   C08J9/26 102
   C08J9/36CES
【請求項の数】19
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-54899(P2019-54899)
(22)【出願日】2019年3月22日
(65)【公開番号】特開2020-31047(P2020-31047A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2019年3月22日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0098403
(32)【優先日】2018年8月23日
(33)【優先権主張国】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519103067
【氏名又は名称】ダブル・スコープコリア カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,ビョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ピョン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,キ ウォン
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−203145(JP,A)
【文献】 特開平11−172036(JP,A)
【文献】 国際公開第97/044839(WO,A1)
【文献】 特開平09−216964(JP,A)
【文献】 特開2011−006585(JP,A)
【文献】 特表2019−517731(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0050401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
C08J 3/00− 3/28
C08J 9/00− 9/42
C08K 3/00−13/08
B29C 55/00−55/30
B29C 67/00−67/24
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィンを含む連続相マトリックスと;
前記マトリックス中で架橋された不連続相シラン変性ポリオレフィンと;を含む分離膜であって、
前記分離膜中の前記シラン変性ポリオレフィンの含有量は、0.5〜30質量%であり、
前記分離膜は、(iii)縦方向(MD)引張強度500〜3,000kgf/cm;および(iv)横方向(TD)引張強度500〜2,500kgf/cm;の物性を満たす、分離膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体およびこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記シラン変性ポリオレフィン中のポリオレフィンおよびシランの含有量比は、前記ポリオレフィン100質量部に対して1〜10質量部である、請求項1または2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項5】
前記アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、およびトリアセトキシビニルシランからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
前記分離膜は、下記(v)〜(ix)の物性のうち少なくとも一つを満たす、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離膜
(v)縦方向(MD)引張伸び率40%以上;
(vi)横方向(TD)引張伸び率40%以上;
(vii)120℃で縦方向(MD)熱収縮率20%以下;
(viii)120℃で横方向(TD)熱収縮率20%以下;
(ix)メルトダウン温度170〜250℃。
【請求項7】
(a)重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィン20〜40質量%、シラン変性ポリオレフィン0.5〜30質量%、および気孔形成剤40〜75質量%を含む組成物を押出機に投入し、シート状に成形および二軸延伸する段階と;
(b)前記延伸したシートから前記気孔形成剤を抽出して、多孔膜を製造する段階と;
(c)前記多孔膜に含まれたシラン変性ポリオレフィンを架橋させる段階と;を含む分離膜の製造方法であって、
前記(c)段階の生成物のうち、前記ポリオレフィンと架橋された前記シラン変性ポリオレフィンとは、それぞれ連続相と不連続相とを構成する、分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、およびこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項7に記載の分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランである、請求項7または8に記載の分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、およびトリアセトキシビニルシランからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項9に記載の分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記気孔形成剤は、パラフィンオイル、パラフィンワックス、鉱油、固体パラフィン、大豆油、菜種油、パーム油、ヤシ油、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ビス(2−プロピルヘプチル)フタレート、およびナフテンオイルからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項7〜10のいずれか1項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記組成物は、架橋触媒をさらに含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記架橋触媒を前記気孔形成剤と予め混合して、前記押出機のサイドインジェクターを介して投入する、請求項12に記載の分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記組成物中の前記架橋触媒の含有量は、0.01〜5質量%である、請求項12または13に記載の分離膜の製造方法。
【請求項15】
前記(c)段階において、前記多孔膜を沸点が100℃以上の溶液が添加された架橋槽に投入し、連続的に通過させることを含む、請求項7〜14のいずれか1項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項16】
前記溶液は、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、およびプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項15に記載の分離膜の製造方法。
【請求項17】
前記(c)段階は、120℃以上の温度で行われる、請求項15または16に記載の分離膜の製造方法。
【請求項18】
前記溶液は、架橋触媒をさらに含む、請求項16または17に記載の分離膜の製造方法。
【請求項19】
前記溶液中の架橋触媒の含有量は、0.01〜10質量%である、請求項18に記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜およびその製造方法に関し、詳細には、高出力で大容量のリチウムイオン電池に好適に用いられる分離膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン等、小型化、軽量化が要求される各種電気製品の電源に広く用いられており、スマートグリッドや、電気自動車用の大型バッテリーに至るまでその適用分野が拡大するに伴い、容量が大きく、寿命が長く、安定性が高いリチウム二次電池の開発が要求されている。
【0003】
このような目的を達成するために、微細気孔が形成された分離膜を使用する場合、正極と負極とを分離させて内部短絡を防止することができ、充放電過程でリチウムイオンの移動を円滑にすることができる。その中でも、ポリエチレン等のポリオレフィンを使用する場合、熱誘導相分離(Thermally Induced Phase Separation)を用いた気孔形成が有利であり、経済的であり、分離膜に必要な物性を充足することができる。したがって、ポリオレフィンを使用した微細多孔性の分離膜に関する研究開発が活発に行われている。
【0004】
しかしながら、溶融点が135℃程度と低いポリエチレンを使用した分離膜は、電池の発熱により溶融点以上の高温で収縮変形が起こり得る。このような変形によって短絡が発生すると、電池の熱暴走現象を起こすので、発火等の安全上問題点が発生し得る。このような問題点を解決するために、ポリオレフィン分離膜を架橋させて耐熱性を向上させる方法が提示されている。
【0005】
特許文献1および2は、シラン変性ポリオレフィンを使用して架橋分離膜を製造することによって耐熱性を向上させる発明を開示する。しかしながら、製造された分離膜の物性は厚さ25μm、通気度900sec/100ml、穿孔強度200gfのレべルである。これは、現在商用化されている分離膜の物性レベルである厚さ12μm以下、通気度150sec/100ml以下、穿孔強度250gf以上に比べてきわめて劣るため、実質的な商用化が不可能である。
【0006】
特許文献3は、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレンをシラン変性ポリオレフィンと混合して分離膜を製造する方法を開示する。しかしながら、前記超高分子量ポリエチレンは、前記シラン変性ポリオレフィンとの分散性が不良であるという問題がある。これに伴い、製造された分離膜の偏差が発生して廃棄率が高く、一部の領域にシラン架橋性ポリオレフィンが偏っているので、均一な物性の分離膜を収得することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−144700号公報
【特許文献2】特開平11−172036号公報
【特許文献3】特許第4583532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するためのものであり、本発明の目的は、優れた機械的物性を膜全体で均一に具現することができる分離膜およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、アルコキシビニルシラン等の溶出により気孔形成剤が廃棄されて製造コストが上昇する問題を解決できる分離膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィンを含むマトリックスと;前記マトリックス中で架橋されたシラン変性ポリオレフィンと;を含む分離膜を提供する。
【0011】
一実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、およびこれらのうち2以上の組合せまたは共重合体からなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0012】
一実施例において、前記分離膜中の前記シラン変性ポリオレフィンの含有量は、0.5〜30質量%であってもよい。
【0013】
一実施例において、前記シラン変性ポリオレフィン中のポリオレフィンおよびシランの含有量比は、ポリオレフィン100質量部に対して1〜10質量部であってもよい。
【0014】
一実施例において、前記シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランであってもよい。
【0015】
一実施例において、前記アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリアセトキシビニルシランおよびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0016】
一実施例において、前記分離膜は、下記(i)〜(ix)の物性のうち一つ以上を満たすことができる。
【0017】
(i)通気度が50〜300sec/100ml;(ii)穿孔強度が15〜65gf/μm;(iii)縦方向(MD)引張強度が500〜3,000kgf/cm;(iv)横方向(TD)引張強度が500〜2,500kgf/cm;(v)縦方向(MD)引張伸び率が40%以上;(vi)横方向(TD)引張伸び率が40%以上;(vii)120℃で縦方向(MD)熱収縮率が20%以下;(viii)120℃で横方向(TD)熱収縮率が20%以下;(ix)メルトダウン温度が170〜250℃。
【0018】
本発明の他の一態様は、(a)重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン、および気孔形成剤を含む組成物を押出機に投入し、シート状に成形および延伸する段階と;(b)前記延伸されたシートから前記気孔形成剤を抽出して、多孔膜を製造する段階と;(c)前記多孔膜に含まれたシラン変性ポリオレフィンを架橋させる段階と;を含む分離膜の製造方法を提供する。
【0019】
一実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、およびこれらのうち2以上の組合せまたは共重合体からなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0020】
一実施例において、前記組成物は、前記ポリオレフィン20〜40質量%、前記シラン変性ポリオレフィン0.5〜30質量%、および前記気孔形成剤40〜75質量%を含むことができる。
【0021】
一実施例において、前記シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランであってもよい。
【0022】
一実施例において、前記アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、およびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0023】
一実施例において、前記気孔形成剤は、パラフィンオイル、パラフィンワックス、鉱油、固体パラフィン、大豆油、菜種油、パーム油、ヤシ油、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ビス(2−プロピルヘプチル)フタレート、ナフテンオイルおよびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0024】
一実施例において、前記組成物は、架橋触媒をさらに含むことができる。
【0025】
一実施例において、前記架橋触媒を気孔形成剤と予め混合して、前記押出機のサイドインジェクターを介して投入することができる。
【0026】
一実施例において、前記組成物中の前記架橋触媒の含有量は、0.01〜5質量%であってもよい。
【0027】
一実施例において、前記(c)段階において、前記多孔膜を沸点が100℃以上の溶液が添加された架橋槽に投入し、連続的に通過させることを含むことができる。
【0028】
一実施例において、前記溶液は、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つを含むことができる。
【0029】
一実施例において、前記(c)段階は、120℃以上の温度で行われ得る。
【0030】
一実施例において、前記溶液は、架橋触媒をさらに含むことができる。
【0031】
一実施例において、前記溶液中の架橋触媒の含有量は、0.01〜10質量%であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様による分離膜およびその製造方法は、シラン変性されたポリオレフィンを所定の範囲の重量平均分子量および分子量分布を有するポリオレフィンと所定の比率で混合して使用して、優れた機械的物性を膜全体で均一に具現することができる。
【0033】
本発明の一態様による分離膜の製造方法は、シラン変性されたポリオレフィンを使用してアルコキシビニルシランの溶出と廃棄とによる製造コストの上昇問題を解決することができる。これに伴い、生産性と経済性とを最大化することができる。
【0034】
本発明の効果は、上記した効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下では、本発明をより具体的に説明することにする。しかしながら、本発明は、様々な異なる形態で具現され得、したがって、ここで説明する実施形態に限定されるわけではない。
【0036】
明細書全体で、任意の部分が他の部分と「連結」されているというとき、これは、「直接的に連結」されている場合だけでなく、その中間に他の部材を介して「間接的に連結」されている場合も含む。また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するわけでなく、他の構成要素をさらに具備できることを意味する。
【0037】
(分離膜)
本発明の一態様は、重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(Distribution of molecular weight,M/M)が3〜7であるポリオレフィンを含むマトリックスと;前記マトリックス中で架橋されたシラン変性ポリオレフィンと;を含む分離膜を提供する。
【0038】
分離膜においてシラン変性ポリオレフィンは、マトリックス中で架橋されて、マトリックスを堅固に支持および固定させることによって、分離膜の機械的物性を向上させることができる。本明細書に使用される用語「マトリックス」は、2種以上の成分を含む分離膜において連続相を構成する成分を意味する。すなわち、本実施形態に係る分離膜において、重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィンが連続相で存在し、その内部で架橋されたシラン変性ポリオレフィンが不連続相で存在し得る。
【0039】
従来、ポリオレフィンおよびシラン系化合物を含む分離膜の製造工程は、気孔形成剤の抽出以前のベースシート上にシラン系化合物を塗布した後、グラフトさせることを含んでいた。また、ポリオレフィンおよびシラン系化合物を先に混合して、これをグラフトさせ、ベースシートを製造して、架橋された分離膜を製造する方法が試みられた。しかし、この場合、商用の分離膜の物性レベルは満たすが、シラン系化合物がポリオレフィン以外にも他の組成物とグラフトされ、このような組成物を工程ごとに廃棄するようになり、製造コストが急激に上昇するという問題があった。
【0040】
本発明の一実施形態においてシラン変性ポリオレフィンの架橋は、押出、延伸、抽出等を含む一連の工程後に行われる。したがって、多孔膜内部のシラン変性ポリオレフィンの分布を均一に調節して、架橋されたシラン変性ポリオレフィンが分離膜中に均一に分布するように調節する必要がある。シラン変性ポリオレフィンの架橋反応が分離膜のうち一部の領域に偏って起こる場合、必要なレベルの機械的物性を具現することができない。特に、分離膜の機械的物性の領域別の偏差が大きくなって、製品の信頼性、再現性が顕著に低下し得る。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、マトリックスを構成するポリオレフィンの分子量および分子量分布を一定範囲に調節することによって、ポリオレフィンとシラン変性ポリオレフィンとが押出機内で混練される過程で、シラン変性ポリオレフィンをポリオレフィンの内部に均一に分散させることができる。
【0042】
ポリオレフィンの重量平均分子量(M)は、250,000〜450,000である。ポリオレフィンの重量平均分子量が250,000未満であれば、溶融粘度が過度に低くなって、シラン変性ポリオレフィンの分散性が極度に低下し得る。また、場合によってポリオレフィンおよびシラン変性ポリオレフィンの間に相分離または層分離が発生し得る。ポリオレフィンの重量平均分子量が450,000超であれば、溶融粘度が高くなって、加工性が低下するので、溶融混練時に不均一な混練を引き起こすことがある。
【0043】
前記ポリオレフィンの分子量分布(M/M)は、3〜7であってもよい。前記ポリオレフィンの分子量分布が3未満であれば、シラン変性ポリオレフィンおよび気孔形成剤との分散性が低下するので、製造された分離膜の均一性が低下する場合がある。前記ポリオレフィンの分子量分布が7超であれば、最終的に得られる分離膜の機械的強度が低下し得る。
【0044】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体およびこれらのうち2以上の組合せまたは共重合体からなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、好ましくはポリエチレンであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記分離膜のうち前記シラン変性ポリオレフィンの含有量は、0.5〜30質量%であってもよい。前記分離膜のうち前記シラン変性ポリオレフィンの含量が0.5質量%未満であれば、シラン架橋反応が阻害されるので、必要なレベルの機械的物性を具現しにくい場合がある。前記シラン変性ポリオレフィンの含有量が30質量%超であれば、商用の分離膜に必要な物性の具現が難しい場合がある。
【0046】
シラン変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンにシランがグラフトされたものであってもよい。前記シラン変性ポリオレフィンのうちポリオレフィンおよびシランの含有量比は、ポリオレフィン部分を100質量部に対してシランが1〜10質量部であってもよい。シランの含有量が1質量部未満であれば、シランの架橋反応が阻害される場合がある。前記シランの含有量が10質量部超であれば、分離膜の機械的物性が必要なレベルに収束するので、経済性、生産性の側面で不利になり得る。
【0047】
上記シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランであってもよい。例えば、アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、およびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、より好ましくはトリメトキシビニルシランであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0048】
上記のように、分子量が所定の範囲に調節されたポリオレフィン系マトリックス中に所定量のシラン変性ポリオレフィンが架橋された構造の分離膜は、下記(i)〜(ix)の物性のうち一つ以上を満たすことができる。(i)通気度が50〜300sec/100ml、好ましくは125〜300sec/100ml;(ii)穿孔強度が15〜65gf/μm、好ましくは21.5〜65gf/μm;(iii)縦方向(MD)引張強度が500〜3,000kgf/cm、好ましくは700〜2,000kgf/cm;(iv)横方向(TD)引張強度が500〜2,500kgf/cm、好ましくは700〜2,000kgf/cm;(v)縦方向(MD)引張伸び率が40%以上、好ましくは40〜80%;(vi)横方向(TD)引張伸び率が40%以上、好ましくは40〜55%;(vii)120℃で縦方向(MD)熱収縮率が20%以下、好ましくは10%以下;(viii)120℃で横方向(TD)熱収縮率が20%以下、好ましくは15%以下;(ix)メルトダウン温度が170〜250℃、好ましくは200〜250℃、さらに好ましくは225〜250℃。前記の物性を満たす分離膜は、リチウムイオン電池用分離膜、特に、電気自動車用の高出力、大容量リチウムイオン電池に用いられる分離膜として使用することができる。
【0049】
これら特性は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0050】
(分離膜の製造方法)
本発明の他の一態様は、(a)重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン、および気孔形成剤を含む組成物を押出機に投入し、シート状に成形および延伸する段階と;(b)前記延伸したシートから前記気孔形成剤を抽出して多孔膜を製造する段階と;(c)前記多孔膜に含まれるシラン変性ポリオレフィンを架橋させる段階と;を含む、分離膜の製造方法を提供する。
【0051】
前記(a)段階では、重量平均分子量(M)が250,000〜450,000であり、分子量分布(M/M)が3〜7であるポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン、および気孔形成剤を含む組成物を押出し、T−ダイを介して吐出した後、延伸して、ベースシートを製造することができる。
【0052】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体およびこれらのうち2以上の組合せまたは共重合体からなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、好ましくはポリエチレンであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0053】
上記の組成物は、ポリオレフィン20〜40質量%、シラン変性ポリオレフィン0.5〜30質量%、および前記気孔形成剤40〜75質量%を含むことができる。前記組成物のうち前記シラン変性ポリオレフィンの含量が0.5質量%未満であれば、シラン架橋反応が阻害されるので、必要なレベルの機械的物性を具現しにくい。前記シラン変性ポリオレフィンの含量が30質量%超であれば、商用分離膜に必要な物性の具現が困難になり得る。
【0054】
シランは、アルコキシ基を含有するビニルシランであってもよい。例えば、アルコキシ基を含有するビニルシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリアセトキシビニルシランおよびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、好ましくはトリメトキシビニルシランであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記気孔形成剤は、パラフィンオイル、パラフィンワックス、鉱油、固体パラフィン、大豆油、菜種油、パーム油、ヤシ油、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ビス(2−プロピルヘプチル)フタレート、ナフテンオイル、およびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、好ましくはパラフィンオイルであってもよく、より好ましくは40℃で動粘度が50〜100cStであるパラフィンオイルであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0056】
上記組成物は、架橋触媒をさらに含むことができる。上記組成物が架橋触媒をさらに含む場合、(c)段階での架橋反応を促進させることができる。このような架橋触媒としては、一般的に、スズ、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属のカルボン酸塩、有機塩基、無機酸および有機酸を使用することができる。例えば、架橋触媒としては、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジアセテート、酢酸第一スズ、カプリル酸第一スズ、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸等の無機酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸等の有機酸等であってもよく、好ましくはジブチルチンジラウレートであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0057】
架橋触媒は、従来、シラン変性ポリオレフィンの製造時に添加する、または架橋触媒の溶液もしくは分散液を多孔膜に塗布する等の方法で使用された。ただし、このような従来の方法では、架橋触媒をシラン変性ポリオレフィンと共に均一に分散させにくい。前述したように、架橋前に多孔膜に含まれるシラン変性ポリオレフィンを均一に分散させる必要があり、この際、シラン変性ポリオレフィンの架橋反応に関与する架橋触媒も、均一に分散させる必要がある。
【0058】
これにより、架橋触媒を気孔形成剤と予め混合して、押出機のサイドインジェクターを介して投入することによって、架橋触媒をシラン変性ポリオレフィンと共に均一に分散させて、架橋反応の効率をより高めることができる。
【0059】
組成物中の架橋触媒の含有量は、0.01〜5質量%であってもよい。前記架橋触媒の含有量が0.01質量%未満であれば、架橋反応を必要なレベルに促進させることが困難になる場合がある。架橋触媒の含有量が5質量%超であれば、反応速度が必要なレベルに収束するので、経済性、生産性の側面で不利になり得る。上記(a)段階において延伸は、一軸延伸、または二軸延伸(逐次または同時二軸延伸)等の公知となっている方法によって行われ得る。逐次二軸延伸の場合、延伸倍率は、縦方向(MD)および横方向(TD)にそれぞれ4〜20倍であってもよく、それによる面倍率は、16〜400倍であってもよい。
【0060】
上記(c)段階では、多孔膜に含まれるシラン変性ポリオレフィンを架橋させることができる。架橋は、多孔膜を温度および湿度が一定の範囲に調節された恒温恒湿槽に配置して行うことができる。この際、(c)段階は、(a)および(b)段階と相互に不連続的であるか、連続的であっても温度を一定レベル以上に上げにくい湿度環境で行われるので、架橋反応に過度な時間がかかる。これにより、(c)段階において、多孔膜を90℃程度の水槽に通過させることができる。または、多孔膜を沸点が好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上の溶液が添加された架橋槽に投入し、連続的に通過させることによって、架橋反応にかかる時間を顕著に短縮させて、生産性を向上させることができる。
【0061】
具体的には、上記溶液は、沸点が100℃以上の成分を含むので、架橋反応時に温度条件を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは120〜130℃として架橋反応を促進させることができる。上記成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれらのうち2以上の組合せからなる群より選択される少なくとも一つを使用することができる。このような成分は、吸湿性があるので、成分中に含まれた水分で架橋反応を起こすことができるが、必要に応じて、所定量の水をさらに混合して使用することもできる。
【0062】
また、上記溶液は、架橋触媒をさらに含むことができ、この場合、所定量の水を混合しなくても、架橋反応を十分に促進させることができる。溶液中の架橋触媒の含有量は、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%であってもよい。架橋触媒の含有量が0.01質量%未満であれば、架橋反応を必要なレベルに促進させることが困難になる場合がある。架橋触媒の含有量が10質量%超であれば、反応速度が必要なレベルで収束するので、経済性、生産性の側面で不利になり得る。
【0063】
架橋槽内部の溶液に含まれる架橋触媒は、組成物に含まれるものと本質的に類似した作用効果を有する。ただし、組成物に含まれる架橋触媒、すなわち、(a)段階で押出機のサイドインジェクターを介して投入された架橋触媒は、(c)段階で多孔膜の中心部(中心層)に分布するシラン変性ポリオレフィンを効果的に架橋させることができる。他方で、表面部(スキン層)に分布するシラン変性ポリオレフィンの架橋反応には、積極的に関与し難い。架橋槽内部の溶液に含まれる架橋触媒は、多孔膜が架橋槽を通過するとき、多孔膜の表面部(スキン層)と接触することができる。したがって、多孔膜の表面部(スキン層)に分布するシラン変性ポリオレフィンの架橋反応をさらに促進させることができる。架橋触媒の種類と作用効果については、前述した通りである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例について詳細に説明することとする。実施例のシラン変性ポリエチレンとしては、TSC社製のSH−100XおよびMCPP社製のXHE740Nをそれぞれ単独でまたは混合して使用し、比較例のシラン変性ポリエチレンとしては、三菱ケミカル株式会社製のリンクロン(登録商標)HF−700Nを使用した。
【0065】
(実施例1)
重量平均分子量(M)が350,000であり、分子量分布(M/M)が5である高密度ポリエチレン(High density polyethylene、HDPE)25質量部、シラン変性ポリエチレン0.5質量部、および40℃での動粘度が70cStであるパラフィンオイル70質量部を混合して、二軸押出機(内径58mm、L/D=56、ツインスクリューエクストルーダー)に投入した。この混合物を200℃、スクリュー回転速度40rpmの条件で、二軸押出機から幅が300mmのTダイ(T−die)で吐出させた。その後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させて、厚さが800μmのベースシートを製造した。得られたベースシートを110℃のロール延伸機で縦方向(MD)に6倍延伸し、125℃のテンター延伸機で横方向(TD)に7倍延伸して、延伸フィルムを製造した。延伸フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、1分間パラフィンオイルを抽出、除去して、多孔膜を製造した。多孔膜を50℃の条件で乾燥した後、多孔膜をテンター延伸機で125℃に加熱し、横方向(TD)に1.45倍延伸した。その後、弛緩させて、延伸前に比べて1.25倍になるように熱固定させた。多孔膜を温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿槽で72時間架橋させて、分離膜を製造した。
【0066】
(実施例2)
重量平均分子量(M)が350,000であり、分子量分布(M/M)が5である高密度ポリエチレン29.5質量部、シラン変性高密度ポリエチレン0.5質量部、および40℃での動粘度が70cStであるパラフィンオイル70質量部を混合して、二軸押出機(内径58mm、L/D=56)に投入した。架橋触媒であるジブチルチンジラウレートをパラフィンオイルのうち一部に予め分散させ、二軸押出機を通過する混合物の総質量を基準として0.5質量%になるように、二軸押出機のサイドインジェクターを介して投入した。この混合物を200℃、スクリュー回転速度40rpmの条件で二軸押出機から幅が300mmのTダイで吐出させた。その後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させて、厚さが800μmのベースシートを製造した。得られたベースシートを110℃のロール延伸機で縦方向(MD)に6倍延伸し、125℃のテンター延伸機で横方向(TD)に7倍延伸して、延伸フィルムを製造した。前記延伸フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、1分間パラフィンオイルを抽出、除去して、多孔膜を製造した。多孔膜を5分間50℃の条件で乾燥した後、多孔膜をテンター延伸機で125℃に加熱し、横方向(TD)に1.45倍延伸し、1.25倍に弛緩させた。多孔膜を温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿槽で72時間架橋させて、分離膜を製造した。
【0067】
(実施例3)
重量平均分子量(M)が350,000であり、分子量分布(M/M)が5である高密度ポリエチレンの代わりに、重量平均分子量(M)が250,000であり、分子量分布(M/M)が6である高密度ポリエチレンを用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。
【0068】
(実施例4)
重量平均分子量(M)が350,000であり、分子量分布(M/M)が5である高密度ポリエチレンの代わりに、重量平均分子量(M)が250,000であり、分子量分布(M/M)が6である高密度ポリエチレンを用いたことを除いて、実施例2と同様の方法で、分離膜を製造した。
【0069】
(実施例5)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、架橋槽に投入し、連続式で30分間通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。架橋槽には、プロピレングリコールを添加した後、120℃に加熱した。
【0070】
(実施例6)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、架橋槽に投入し、連続式で10分間通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。架橋槽には、プロピレングリコールおよびジブチルチンジラウレートがそれぞれ95:5の質量比で混合された溶液を添加した後、120℃に加熱した。
【0071】
(実施例7)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、架橋槽に投入し、連続式で60分間通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。架橋槽には、エチレングリコールを添加した後、120℃に加熱した。
【0072】
(実施例8)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、架橋槽に投入し、連続式で15分間通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。架橋槽には、エチレングリコールおよびジブチルチンジラウレートがそれぞれ90:10の質量比で混合された溶液を添加した後、120℃に加熱した。
【0073】
(実施例9)
重量平均分子量(M)が350,000であり、分子量分布(M/M)が5である高密度ポリエチレン35質量部、シラン変性ポリエチレン15質量部、および40℃での動粘度が70cStであるパラフィンオイル50質量部を混合して、二軸押出機(内径58mm、L/D=56)に投入した。この混合物を210℃、スクリュー回転速度45rpmの条件で二軸押出機から幅が300mmのTダイ(T−die)で吐出させた。その後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させて、厚さが800μmのベースシートを製造した。得られたベースシートを110℃のロール延伸機で縦方向(MD)に6倍延伸し、125℃のテンター延伸機で横方向(TD)に7倍延伸して、延伸フィルムを製造した。延伸フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、1分間パラフィンオイルを抽出、除去して、多孔膜を製造した。多孔膜を50℃の条件で乾燥した後、多孔膜をテンター延伸機で125℃に加熱し、横方向(TD)に1.45倍延伸した。その後、弛緩させて、延伸前に比べて1.25倍になるように熱固定させた。上記多孔膜を温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿槽で72時間架橋させて、分離膜を製造した。
【0074】
(比較例1)
溶融指数0.8g/10min、密度0.958g/cmのシラン変性ポリエチレン45質量部と40℃での動粘度が70cStであるパラフィンオイル55質量部とを混合して、二軸押出機(内径58mm、L/D=56)に投入した。この混合物を160℃、スクリュー回転速度40rpmの条件で二軸押出機から幅が300mmのTダイで吐出させた。その後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させて、厚さが60μmのベースシートを製造した。得られたベースシートを温度が110℃の延伸機で縦方向(MD)に3.5倍延伸し、温度が80℃の延伸機で横方向(TD)に1.4倍延伸した。ベースシートの両面に濃度30質量%のジブチルチンジラウレート水分散液を塗布した後、温度が85℃の温水で1時間シラン架橋反応を進めて、架橋フィルムを製造した。架橋フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、30分間パラフィンオイルを抽出、除去した。架橋フィルムを温度が80℃のオーブンで30分間乾燥して、架橋分離膜を製造した。
【0075】
(比較例2)
溶融温度が135℃であり、重量平均分子量が300,000である高密度ポリエチレン29質量部、40℃での動粘度が40cStであるパラフィンオイル65質量部、トリメトキシビニルシラン2質量部、ジブチルチンジラウレート2質量部、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン2質量部を混合して、二軸押出機内径58mm、L/D=56)に投入した。この混合物を200℃、スクリュー回転速度30rpmの条件で二軸押出機で反応押出させて、シラン変性ポリオレフィン組成物を製造し、幅が300mmのTダイで吐出した後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させて、厚さが800μmのベースシートを製造した。得られたベースシートを108℃のロール延伸機で縦方向(MD)に5.5倍延伸し、123℃のテンター延伸機で横方向(TD)に5.5倍延伸して、延伸フィルムを製造した。延伸フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、10分間パラフィンオイルを抽出、除去して、多孔膜を製造した。多孔膜を127℃に熱固定して、多孔性分離膜を製造した。多孔性分離膜を温度80℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽で24時間架橋させて、架橋分離膜を製造した。
【0076】
(比較例3)
重量平均分子量が500,000である高密度ポリエチレン5質量部、溶融指数が0.5g/10minであり、密度が0.942g/cmであるシラン変性ポリエチレン10質量部、および40℃での動粘度が60cStであるパラフィンオイル85質量部を混合して、二軸押出機(内径58mm、L/D=56)に投入した。この混合物を160℃、スクリュー回転速度40rpmの条件で二軸押出機から幅が300mmのTダイで吐出させた。その後、温度が40℃のキャスティングロールを通過させ、115℃で圧延して、厚さが500μmのベースシートを製造した。ベースシートの製造過程で一部の不良が発生した場合、廃棄し、正常な外観を有するベースシートを選定して使用した。
【0077】
前記ベースシートを115℃のロール延伸機で縦方向(MD)に3.5倍延伸し、115℃のテンター延伸機で横方向(TD)に3.5倍延伸して、延伸フィルムを製造した。延伸フィルムを25℃のジクロロメタン浸出槽に含浸して、1分間パラフィンオイルを抽出、除去して多孔膜を製造した。多孔膜を5分間50℃の条件で乾燥し、前記フィルムを温度90℃、相対湿度95%RHの恒温恒湿槽で24時間架橋させた。その後、110℃で30分間熱処理して、架橋分離膜を製造した。
【0078】
(比較例4)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、沸騰水が添加された架橋槽に投入し、連続式で通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。
【0079】
(比較例5)
多孔膜を恒温恒湿槽で架橋させずに、80℃に加熱した温水が添加された架橋槽に投入し、連続式で通過させて架橋させたことを除いては、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0080】
(実験例1)
本発明で測定した物性に対する試験方法は、下記の通りである。温度に対する別途の言及がない場合、常温(25℃)で測定した。
【0081】
−重量平均分子量(g/mol):ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography,GPC)を利用してMacromolecules,Vol.34,No.19,pp.6,812〜6,820(2001)に記載された方法に基づいてポリスチレン標準試料を利用して測定した。
【0082】
−溶融指数(g/10min):190℃に設定された溶融指数測定機のシリンダーにオリフィスを投入し、試料を充填した後、シリンダー内部にピストンを入れ、2.16kgの重りを乗せて荷重を付加した。10分間で通過した試料の量を測定して、溶融指数を測定した。
【0083】
−密度(g/cm):ASTM D1238に基づいて測定した。
【0084】
−厚さ(μm):微細厚さ測定機を利用して、分離膜試験片の厚さを測定した。
【0085】
−気孔率(%):ASTM F316−03に基づいて、PMI社のキャピラリー・フロー・ポロメーターを使用して、半径が25mmの分離膜試験片の気孔率を測定した。
【0086】
−通気度(Gurley,sec/100ml):旭精工株式会社製のガーレー測定機(Densometer)EGO2−5モデルを利用して、測定圧力0.025MPaで100mlの空気が直径29.8mmの分離膜試験片を通過する時間を測定した。
【0087】
−架橋度(ゲル分率、%):分離膜試験片100mg(W)を1,2,4−トリクロロベンゼンに浸漬した後、130℃で2時間熱処理した。試験片を分離した後、50℃で24時間乾燥し、乾燥した試験片の重量(W)を測定し、下記計算式を使用して架橋度を計算した。
【0088】
【数1】
【0089】
−引張強度(kgf/cm):引張強度測定機を利用して、サイズが20×200mmの分離膜試験片に応力を加えて、試験片の破断が発生するまで加えられた応力を測定した。
【0090】
−引張伸び率(%):引張強度測定機を利用して、サイズが20×200mmの分離膜試験片に応力を加えて、試験片の破断が発生するまで伸びた最大長さを測定し、下記計算式を使用して引張伸び率を計算した。
【0091】
【数2】
【0092】
上記計算式で、lは、伸張前の試験片の横または縦方向の長さであり、lは、破断直前の試験片の横または縦方向の長さである。
【0093】
−穿孔強度(gf):カトーテック株式会社製の穿孔強度測定機KES−G5モデルを利用して、サイズが100×50mmの分離膜試験片に直径0.5mmのスティック(Stick)で0.05cm/secの速度で力を加えて、試験片が穿孔される時点で加えられた力を測定した。
【0094】
−メルトダウン温度(℃):熱機械分析装置(Thermomechanical analysis、TMA)を利用して、分離膜試験片に0.01Nの力を加えた後、5℃/分の速度で昇温させて、試験片の変形程度を測定した。試験片が破断される温度をメルトダウン温度とした。
【0095】
−熱収縮率(%):120℃のオーブンで1時間、サイズが200×200mmの分離膜試験片をA4サイズの紙の間に入れて放置した。その後、常温冷却させて、試験片の横方向および縦方向の収縮した長さを測定し、下記計算式を使用して熱収縮率を計算した。
【0096】
【数3】
【0097】
前記計算式で、lは、収縮前の試験片の横または縦方向の長さであり、lは、収縮後の試験片の横または縦方向の長さである。
【0098】
上記の実施例および比較例によって製造された分離膜の物性を測定し、その結果を下記表1および表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
(実験例2)
実施例2、比較例1、および比較例2の試験片をジクロロメタン浸出槽で抽出した後、回収されたパラフィンオイルを誘導結合型プラズマ発光分析(Inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy,ICP)により分析して、その結果を下記表3に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
上記表3を参照すると、シラン変性ポリオレフィンを使用した実施例2および比較例1では、パラフィンオイル1kg当たりのSi含量が5mg以下であって、測定誤差以内に該当する。しかしながら、トリメトキシビニルシランを使用した比較例2は、パラフィンオイル1kg当たり220mgのSiが検出された。また、比較例2のパラフィンオイルを追加分析した結果、トリメトキシビニルシランのグラフト過程でポリエチレンの他にパラフィンオイルに多数のシランがグラフトされたことを確認することができた。このシラン変性パラフィンオイルは、再生が不可能であるので、全量廃棄した。
【0104】
(実験例3)
実施例2〜4および比較例2〜3によって製造された分離膜を、横方向(TD)に三等分して、各部分から分離膜試験片を取り出して、架橋度、穿孔強度およびメルトダウン温度を測定して、下記表4に示した。下記表4で、Lは、一側の分離膜、Rは、他側の分離膜、Mは、中央側の分離膜の試験片で測定された値を意味する。最大差異は、M値とL値またはR値との差異のうち大きい値である。
【0105】
【表4】
【0106】
(実験例4)
実施例および比較例の分離膜の架橋において、架橋時間による分離膜のゲル分率を測定して、架橋方法および条件の違いによる反応速度の違いを評価し、その結果を下記表5に示した。
【0107】
【表5】
【0108】
上記表5を参照すると、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)が添加された架橋槽で、連続式で架橋反応が行われた実施例5〜6の場合、比較例4に比べて約70%の架橋度を達成するのにかかる時間が最大1/3以下と短縮された。プロピレングリコールに比べて沸点がさらに高いエチレングリコール(沸点:197.3℃)が添加された架橋槽で、連続式で架橋反応が行われた実施例7〜8の場合、比較例5に比べて約60%の架橋度を達成するのにかかる時間が1/10以下と短縮された。
【0109】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。例えば、単一型と説明されている各構成要素は、分散して実施されることもでき、同様に分散したものと説明されている構成要素も、結合した形態で実施されることができる。
【0110】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の意味および範囲そしてその均等概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解すべきである。