(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
建築・土木構造物にセンサを設置し、このセンサからの情報に基づいて構造物(建物)の損傷の度合いを把握し、構造物の損傷検知や健全性評価を行う構造ヘルスモニタリングが注目されている。特に、オフィスビルやマンション等の多層構造の建物においては、地震が発生した際に、その被災状況を早期に且つ精度よく判定(確認、把握、評価)することが求められる。
【0003】
また、振動センサを用いて対象構造物の振動特性の変化から損傷(劣化による損傷を含む)を検出する手法は、変形や歪み等を計測するセンサを利用して損傷を直接的に検出する手法と比較し、センサ設置位置が損傷個所と同一である必要がない点で優れている。このため、対象の構造物が大きく、事前に損傷が発生する場所を予測・特定することが困難な建築・土木構造物に好適な損傷検出手法と言える。
【0004】
建物の階層毎に多数のセンサを設置すれば、地震時の建物の各階(層)の応答、さらに建物の全体の応答を精度よく把握することができる(例えば、特許文献1参照)。この場合には、多数のセンサをそれぞれケーブル(配線)で一つのデータ収録処理装置に接続し、各センサの検出情報(データ)を一カ所に集約して詳細な分析を行うようにしている。そして、このように建物の階層毎に設置した多数のセンサで地震時の応答加速度や変位などを検出し、記録された加速度の波形情報などから構造体としての健全性や被害状況(損傷、安全性)などを判断することができる。
【0005】
一方、任意に設定した建物の観測層にセンサを設置し、地震時にセンサで取得した観測層の応答情報に基づき、ベイズの定理(学習型応答推定機能/ベイズ更新)を用いて建物のモデルの初期パラメータ(初期情報)を最適な値に修正し、修正したモデルのパラメータを用いて建物の各層の応答を推定する建物の健全性確認方法(地震時建物健全性判定システム(構造ヘルスモニタリングシステム/地震時建物健全性判定装置)がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この方法においては、ある地震時に、限られた観測層に設置したセンサで取得した建物の地震時応答情報に基づいて建物の設計モデルの情報(パラメータ)を学習的に修正(更新)し、この修正したモデルの情報を用いて建物の各層(各階)の応答を推定する。これにより、少ないセンサによって、精度よく建物各層の応答を推定することが可能になり、信頼性の高い健全性、耐震性評価を行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、例えば、上記の学習型応答推定機能(ベイズ更新)を持つ構造ヘルスモニタリングシステムにおいては、建物モデルを初期情報として設定する必要があり、この初期情報(パラメータ)を設定する際には、一般に建物を質点系解析モデルとして扱い質量及び剛性の分布を利用する。
【0009】
そして、従来、構造設計者が建物構造設計で行う動的解析モデルの設計情報からこの質量及び剛性の分布を設定するようにしており、専門家による高度な設計により設定値の判断が必要になっている。これにより、動的解析情報が得られていない建物ではこのシステム自体を適用できず、また、多くの建物にこのシステムを適用することが難しくなっている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、建物の健全性を判定するための建物モデルの初期情報の質量及び剛性の分布を、特別な動的解析モデルを必要とせずに容易に求めることを可能にする建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法は、建物の構造形式、建物の階層数及び建物の最下層においける剛性分布係数Nを入力する建物構造入力工程と、建物階層数及び標準階高から建物の軒高を求め、該軒高、及び予め求められた実験式の回帰式によって建物の第1固有周期を求める第1固有周期算出工程と、建物の各階層の質量を一定の質量に設定し、前記第1固有周期における第1剛性k
1をk
1=m×(2π/T
1)
2で求める第1剛性算出工程と、建物の最上層を1、最下層を最上層の剛性分布係数N倍とし、全体に前記第1剛性を乗じた台形形状の第1剛性分布を作成する第1剛性分布作成工程と、建物の一定の質量分布及び前記第1剛性分布から固有値解析によって第2固有周期を求める第2固有周期算出工程と、前記第2固有周期/前記第1固有周期を計算して補正係数を求める補正係数算出工程と、前記補正係数を2乗した値を前記第1剛性分布に乗じて第2剛性分布を求める第2剛性分布算出工程と、前記建物の一定の質量分布及び前記第2剛性分布から固有値解析によって第3固有周期及び刺激関数を求める第3固有周期/刺激関数算出工程と、前記第3固有周期と前記第1固有周期を比較し、前記第3固有周期が前記第1固有周期と一致している場合に、前記建物の一定の質量分布及び前記第2剛性分布を建物の健全性判定用の質量分布及び剛性分布として決定する健全性判定用質量/剛性分布決定工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムは、建物階数と標準階高から軒高を求める建物軒高算出手段と、前記軒高と予め求められている軒高と建物の固有周期の関係を示す実験式の回帰式とから建物の第1固有周期を求める第1固有周期算出手段と、
建物の各階層の質量を一定の質量に設定し、前記第1固有周期における第1剛性
k1をk1=m×(2π/T1)2で求める第1剛性算出手段と、
建物の最上層を1、最下層を最上層の剛性分布係数N倍とし、全体に前記第1剛性を乗じた台形形状の第1剛性分布を作成する第1剛性分布作成手段と、建物の質量分布及び前記第1剛性の分布から固有値解析によって建物の第2固有周期を求める第2固有周期算出手段と、前記第2固有周期/前記第1固有周期を計算して補正係数を求める補正係数算出手段と、前記補正係数を2乗した値を第1剛性分布に乗じて第2剛性分布を求める第2剛性分布算出手段と、建物の質量分布及び前記第2剛性の分布から固有値解析によって第3固有周期及び刺激関数を求める第3固有周期/刺激関数算出手段と、前記第3固有周期と前記第1固有周期を比較する第3固有周期/第1固有周期比較手段と、前記第3固有周期が前記第1固有周期と一致している場合に、前記第1固有周期となる建物の質量分布及び前記第2剛性分布を、建物の健全性判定用の質量分布及び剛性分布として決定する健全性判定用質量分布/剛性分布決定手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムにおいては、特別な動的解析モデルを必要とせず、建物階数と構造種別の情報から建物の初期モデル情報としての建物の質量及び剛性の分布を自動で作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法における質点系解析モデルを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る健全性判定用の質量/剛性分布設定方法で用いる回帰式(実験式)を示す図であり、(a)がS造建物の回帰式、(b)がRC/SRC造建物の回帰式を示している。
【
図4】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)で用いる初期情報のモデルイメージを示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)で用いる初期情報のS造建物モデルの1次固有振動数(1層〜100層)を示す図であり、(a)が補正前、(b)が補正後を示している。
【
図6】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)で用いる初期情報のRC/SRC造建物モデルの1次固有振動数(1層〜100層)を示す図であり、(a)が補正前、(b)が補正後を示している。
【
図7】階数から自動作成された20階層の建物モデルの質量分布(a)、剛性分布(b)、刺激関数(5次まで)(c)を示す図である。
【
図8】階数から自動作成された40階層の建物モデルの質量分布(a)、剛性分布(b)、刺激関数(5次まで)(c)を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法を示すフロー図である。
【
図10】解析と、本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法で求めた質量分布(a)、剛性分布(b)を示す図である。
【
図11】解析と本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法で求めた質量分布、剛性分布を初期条件として行ったシミュレーションの結果であり、強非線形応答の最大加速度分布(a)と、最大速度分布(b)と、最大変位分布(c)を示す図である。
【
図12】解析と本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法で求めた質量分布、剛性分布を初期条件として行ったシミュレーションの結果であり、線形応答の最大加速度分布(a)と、最大速度分布(b)と、最大変位分布(c)を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)で用いる初期情報のS造建物モデルの1次固有振動数(1層〜100層)を示す図であり、(a)が補正前、(b)が補正後を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1から
図13を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムについて説明する。
【0017】
ここで、本実施形態では、学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステムを用いてオフィスビルやマンション等の多層構造の建物の健全性を確認、把握、評価(判定)する際に必要な建物モデルの初期情報としての建物の質量及び剛性の分布を、本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法で設定するものである。
なお、本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法は、他の構造ヘルスモニタリングシステムを適用する際にも用いることが可能である。
【0018】
はじめに、本実施形態の建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能を有する構造ヘルスモニタリングシステム)においては、
図1、
図2に示すように、ある地震時に、限られた観測層に設置したセンサで取得した建物の地震時応答情報に基づいて建物の設計モデルの情報(パラメータ)を学習的に修正(更新)し、この修正したモデルの情報を用いて建物の各層(各階)の応答を推定する。
【0019】
具体的に、本実施形態の建物の健全性確認方法においては、まず、設計モデルの質量行列M、減衰係数行列C、剛性行列Kが与えられ、式(1)に示す一般固有値問題を解いてj次の固有角振動数w
jと刺激関数φ
jが得られる。
【0021】
ここで、「従来の学習型応答推定機能を有する構造ヘルスモニタリングシステム(建物の健全性確認方法)」では、剛性分布kを修正する関数△k(θ)を導入する。これにより、剛性分布がk’=k+△k(θ)に修正され、これに対応して剛性行列KがK’(θ)に修正される。このとき、モデルパラメータは、式(2)に示すように確率変数である(n
pはパラメータ数)。
【0023】
一方、センサ設置階(観測層)の建物応答絶対加速度y
p(θ)は式(3)で表され、この建物応答絶対加速度の確率モデルは式(4)で表せる。
【0026】
n
sは、建物に設置されたセンサの数(地動計測用のものを除く)、y
p(上に^(ハット))(θ)は、M、C、K’(θ)で規定される修正設計モデルに観測された地動uを入力したときの各時刻におけるセンサ設置階の応答絶対加速度であり、その値を期待値として等しい分散σ
y2で独立に正規分布していることを示している。
【0027】
そして、地震時に、式(5)で表す観測データDが得られると、ベイズの定理によってθの事後分布が式(6)で求められる。
【0030】
ここで、p(θ)は、事前分布で、式(7)のような互いに独立で平均が0の一様分布である。また、p(D|θ)は、尤度関数で、式(8)で求められる。
【0033】
このようにして得られる事後分布p(θ|D)を最大化するθをθ
MAP(上に^(ハット))とすると、θ
MAP(^)によって修正された剛性行列K’( θ
MAP(^))から、式(1)と同様の固有値問題を解いて、対応する刺激関数φ
j’が得られる。
【0034】
これは、事前情報である設計モデルを実際の観測データに基づいて、より現実に近づけるように更新したことを意味する。なお、この更新した事後分布p(θ|D)を次回の地震に対する事前分布として用いることにより継続的な学習を行うようにしてもよい。
【0035】
そして、建物の応答に支配的な影響を与えるモードを1〜n
m次とすると、センサ設置階の応答絶対加速度は、式(9)で近似できる。
【0037】
Dは、D=[1・・・1]
T∈R
nsであり、Ф
pは、Ф=[φ
1’・・・φ
nm’]からセンサ設置階に対応した行を抜き出した行列であり、qは、q=[q
1(t)・・・q
nm(t)]
Tで表される1〜n
m次のモード応答相対加速度ベクトルである。すると、観測応答加速度波形y
p(上に〜(チルダ))からモード応答相対加速度の推定値q(^)が式(10)で得られる。
【0039】
Ф
p+はФ
pの一般化逆行列である。これにより、全層の応答y∈R
nf(n
fは建物層数)が式(11)で推定できる。
【0041】
なお、D’=[1・・・1]
T∈R
nfである。また、式(10)で一般化逆行列を用いていることにより、推定に使用する主要モードの数を任意に設定することが可能になっている。
【0042】
一方、本実施形態では、上記の建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)によってオフィスビルやマンション等の多層構造の建物の健全性を確認、把握、評価(判定)する際に必要な建物モデルの初期情報としての建物の質量分布m及び剛性分布kを、以下に示す本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法によって設定するようにした。
【0043】
具体的に、本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法は、専門家による構造設計の動的解析モデルの情報を必要としないで建物固有周期に合わせた剛性分布を自動で作成する方法である。
【0044】
そして、この建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法では、建物設計用の1次周期T1の実験式(回帰式)を予め求めておく。
【0045】
この実験式としては、
図3に示すように、構造種別(S造、RC/SRC造)により分けられ、実建物での軒高とその建物での振動計測から得られた1次固有周期の関係を示す回帰式を用いる。また、この実験式の回帰式としては、例えば、
図3に示すように、1次回帰式、2次回帰式、両対数回帰式を選択的に用いる。
【0046】
なお、両対数回帰式は低層から超高層建物まで相関(適合性)が高い。1次回帰式は中層、高層で相関が高く、低層で相関が低く、2次回帰式は高層で相関が高く、低層で相関が低い傾向がある。
【0047】
そして、低層から超高層建物まで適合性がよい両対数回帰式を用いるとすると、この回帰式は、S造で式(12)、RC/SRC造で式(13)となる。T
1は1次固有周期(s)、Hは軒高(m)を示す。
【0050】
次に、本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法では、情報として建物の階数のみを与え、標準階高さから軒高を決定する。また、標準的な階高さを、S造で4.0m、RC/SRC造で3.3mとする。
【0051】
階数から建物の固有周期となるように、質点系モデルにおいて各層の質量mは一定の1.0tとし、各層の剛性は最上層が1、最下層を剛性分布係数N倍(例えば4倍)となる台形分布として与える。
【0052】
なお、建物モデルの剛性分布は、任意の台形分布で作成することが可能であり、4k(N=4)以外で台形分布を設定してもよい。このとき、例えば2倍〜5倍(N=2〜5)の範囲で台形分布を設定することが好ましい。
【0053】
また、この剛性(1次自由度系の剛性)kとしては、1自由度系の固有周期である下記の式(14)を変換した式(15)から求めたものを利用し、階数倍したものとする。
【0054】
上記の計算によって得られる本システムでの初期情報のモデルイメージを示すと、
図4のようになる。
【0057】
また、
図5(a)はこの計算によって得られるモデルの1層から100層(1階建てから100階建て)のS造建物での固有振動数(固有周期の逆数)の変化を示している。
【0058】
ここで、
図5(a)において、横軸が設定したい固有振動数、縦軸が質点系モデルでの固有振動数を示しており、〇線が変化を表している。
また、×線は、実際の計算では固有振動数でのずれがあるため、その補正に必要な固有振動数の係数値(補正倍率)を示している。
【0059】
そして、本実施形態では、この固有振動数毎の係数値によって補正を行い、解析モデルの剛性を修正する。
図5(b)は最終的に修正された質点系モデルでの固有振動数の関係を示しており、この
図5(b)に示すように、固有振動数の関係がほぼ1となり、各層の質量を1.0tとした場合の剛性分布を決定できる。
【0060】
また、
図6(a)、
図6(b)はRC/SRC造の建物の補正前と補正後の固有振動数分布を示しており、上記のS造の建物と同様にして各層の質量を1.0tとした場合の剛性分布を決定できることを示している。
【0061】
次に、階層数を20、40に指定して自動作成される建物モデルの例を
図7(20階)及び
図8(40階)に示す。どちらの例も、同じ台形分布の剛性を作成していることから刺激関数の形状は相似となる。
【0062】
ここで、上記の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムをまとめると
図9のようになる。
【0063】
すなわち、建物の構造形式(S造、RC/SRC造)、建物階数、及び最下層における剛性分布係数Nを入力すると(Step1:建物構造入力工程)、建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムの建物軒高算出手段によって建物階数と標準階高から軒高が求められ、第1固有周期算出手段によって、この軒高と、予め求められている実験式の回帰式によって、建物の第1固有周期が計算される(Step2:第1固有周期算出工程)。
【0064】
そして、建物の各階層の質量を予め設定した一定の質量(1ton)とし、第1剛性算出手段により、第1固有周期における第1剛性を式(15)を用いて計算する(Step3:第1剛性算出工程)。また、最上層1、最下層を剛性分布係数N倍とし、第1剛性分布算出手段によって、全体に第1剛性を乗じた台形形状の第1剛性分布を作成する(Step4:第1剛性分布作成工程/
図4参照)。
【0065】
次に、第2固有周期算出手段により、質量分布(全層1ton)及び第1剛性分布から固有値解析によって第2固有周期を求める(Step5:第2固有周期算出工程)。さらに、補正係数算出手段により、第2固有周期/第1固有周期を計算し、補正係数とする(Step6:補正係数算出工程/
図5(a)、
図6(a)参照)。
【0066】
次に、第2剛性分布算出手段により、式(15)に基づいて補正係数を2乗した値を第1剛性分布に乗じて第2剛性分布を求める(Step7:第2剛性分布算出工程)。さらに、第3固有周期/刺激関数算出手段により、質量分布(1ton)及び第2剛性分布から固有値解析によって第3固有周期及び刺激関数を求める(Step8:第3固有周期/刺激関数算出工程)。
【0067】
次に、第3固有周期/第1固有周期比較手段により、第3固有周期が第1固有周期と一致していることを確認する(Step9/
図5(b)、
図6(b)参照)。そして、健全性判定用質量分布/剛性分布決定手段により、第3固有周期が第1固有周期と一致していることが確認されれば、第1固有周期となる質量分布及び第2剛性分布を、建物の健全性判定用の質量分布及び剛性分布として決定することができる(Step10:健全性判定用質量/剛性分布決定工程/
図4参照)。
【0068】
上記のようにして本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法で求めた質量分布及び剛性分布を建物モデルの初期情報として用い、24階建てのS造の建物モデルに適用し、本実施形態の建物の健全性確認方法(学習型応答推定機能(ベイズ更新)を有する構造ヘルスモニタリングシステム)で応答推定を行ったシミュレーション結果について説明する。
【0069】
このシミュレーションでは、多層構造の建物の1階と9階と17階と24階に加速度センサを設置し、これら4点の加速度波形によって全階の応答を推定した。
【0070】
そして、建物モデルに地動を入力し、応答解析を行なって各層の絶対加速度応答などを計算した結果を真値とした。また、センサによって取得したセンサ設置階のみの波形を用い、本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法、本実施形態の建物の健全性確認方法によって全層の絶対加速度波形を推定し、真値と全層の推定値とを比較した。
【0071】
まず、
図10は、解析と本発明によって求めた質量分布、剛性分布を示している。
図11は、強非線形応答における解析と本発明による最大加速度分布、最大速度分布、最大変位分布、最大層間変位分布を比較した結果である。
図12は、線形応答における解析と本発明による最大加速度分布、最大速度分布、最大変位分布、最大層間変位分布を比較した結果である。
【0072】
これらの結果から、本発明の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法を用いた場合であっても、加速度、速度、変位の応答推定結果が解析とほぼ一致することが確認された。また、層間変位(隣接階の変位差:相対変位)は、本発明を用いた場合、解析に対して層間変位の最大点で10%程度の誤差が認められたが、おおむね良好に最大応答を推定できることが確認された。
【0073】
したがって、本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムによれば、建物モデルの設定において、専門家による構造設計の動的解析モデルの情報を必要としないで建物固有周期に合わせた剛性分布の作成が可能になる。
【0074】
また、応答推定に用いる建物モデルの設定に際し、階数と構造種別(S造、RC/SRC造)によって簡便に設定情報を作ることができる。
【0075】
さらに、本実施形態の建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムによって得られる建物モデルでの質量及び剛性の分布は、通常の振動解析モデル(線形モデル)のパラメータとして利用することも可能である。
【0076】
ここで、1次の回帰式における計算例を示しておく。
図3から、1次の回帰式は、次の式(16):S造、式(17):RC/SRC造となる。T1は1次固有周期(s)、Hは軒高(m)を示す。
【0079】
この回帰式(S造:式(16))よって得られるモデルの1層から100層(1階建てから100階建て)での固有振動数(固有周期の逆数)の変化を
図13(a)に示す。なお、横軸が設定したい固有振動数、縦軸が質点系モデルでの固有振動数を示しており、○線で変化を表す。
実際の計算では固有振動数でのずれがあり、その補正に必要な固有振動数の係数値(補正倍率)として×線で示す。
【0080】
この固有振動数毎の係数値によって補正して解析モデルの剛性を修正する。
図13(b)に最終的に修正された質点系モデルでの固有振動数の関係を示す。
【0081】
これらの結果から、本実施形態に対して回帰式が違っても対応可能であり、最適な1次固有振動数の設定を行い、建物モデルの初期情報の設定を行うことが可能であることが分かる。
【0082】
但し、この例で示す回帰式としては、建物階数が低層におい実際のものとはずれが大きくなる傾向を示したものであり(回帰式が高層以上の建物で相関が高いため)、利用する際には最適な回帰式の選択が重要となる。
【0083】
以上、本発明に係る建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定方法及び建物の健全性判定用の質量/剛性分布設定システムの一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。