(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
生物学的製剤を製造する施設では、対象微生物株や培地、培養細胞などの原材料を用いて培養したのち、粗原液を取り出し精製する工程を経て生物学的製剤を製造する場合が多い。人間の身体に入って感染を引き起こし抗生物質があまり効かないウイルスについて、人体に一度ウイルス(抗原)が入った際に作られる「抗体」による感染防止の「免疫」の働きを利用したワクチンについても、生物学的製剤として製造される。
例えば、インフルエンザワクチンの製造では、流行の予測に基づいて選択されたウイルス(ワクチン株)を用意し、増殖性のよさや入手の簡単さから、ひな鳥から厳正な衛生管理の飼育環境で成鶏となった鶏が産卵した有精卵(発育鶏卵)を用い、発育鶏卵の尿膜腔内にワクチン株を接種したのち2〜3日間37℃程度で培養する。その後、培養が終了したら約半日間冷却し発育鶏卵の胚の生育を止め仮死状態にして、鶏卵の中の胚のしょう尿液(尿膜腔液・ウイルスが増殖している)を採取する。しょう尿液を採取しワクチン粗原液となった液はステンレス容器に入れ、遮光し凍結を避けて8℃±2℃の温度範囲の冷室で保管する。その後、遠心機によるショ糖密度勾配遠心法により濃縮精製してワクチンに不必要な培地成分や緩衝液成分などを大部分除去しワクチン副反応を概ね無くす。精製したウイルスはエーテル、ホルマリン、βプロピオラクトン等の化学薬品での分解処理で感染性をなくす不活化処理を行なった後規定の濃度に調整してワクチン原液とする。
良好な増殖が出来れば発育鶏卵2個分のしょう尿液から大人1人用のワクチン(1mL)ができるので、ワクチン粗原液のステンレス容器10〜20Lに導入されるワクチン粗原液は数千人〜1万人分程度の量となり、このワクチン粗原液の活性(死滅や無制御増殖による変異発生などを含む)の制御は重要である。まだ不活化されていないウイルスの有効性や安全性を保持するため、温度管理の徹底が要求される。ウイルスが死滅しない活性が最低限確保されるには、ウイルス種類によるが、凍結せず、かつ10℃を超えて増殖が活性化する温度に達しない温度に保つ必要がある。
ワクチンは、無菌製剤(無菌注射剤)であり、ワクチン製造施設には、無菌製剤の製造所及び生物学的製剤の製造所としての要件が要求される。特に、感染性をなくす不活化処理を行なう前の工程では、対象ワクチン株培養環境への雑菌の混入もさることながら、対象ワクチン株の漏出も大きな問題となる。
ワクチン製造施設の製造工程は、微生物などを増殖させる生きた微生物が存在する「微生物培養エリア」、微生物からワクチン有効成分を抽出する「精製エリア」、不活化工程以降の「製造エリア」「製剤化エリア」を明確に区画しなければならない。各々のエリア専用の更衣室・パスルームが設けられていて、クロスコンタミを防止する。例えば、上記精製では遠心機を使用しているが、遠心機の故障によりワクチン粗原液の飛散など精製エリアでの事故は、区画することにより「微生物培養エリア」「製造エリア」には影響せず、最小限の洗浄により復帰できることとなる。また、クリーンルーム化して空気中の雑菌などのコンタミ防止することがほとんどだが、清浄度は、「微生物培養エリア」から下流工程に進むにつれて高くするのが一般的である。
インフルエンザワクチンの製造において、ワクチン粗原液を遠心分離器で精製する際に、そのワクチン粗原液を8℃±2℃の温度範囲に維持する必要がある。
これは、上記「微生物培養エリア」と「精製エリア」との区画を通過する場合も同様である。しかし、「精製エリア」では、遠心機の仕様により精製液は8℃±2℃の温度範囲に維持出来るが、遠心機設置環境は、通常の居室の温度に近い常温20℃程度を要求する
場合もある。これにより、区画(パスルーム)の温度も8℃±2℃の温度範囲に維持する「冷室」と「精製エリア」の中間温度の成り行きとなり、「精製エリア」ともども8℃±2℃の温度範囲に室温を維持出来ないことになる。
このため、クリーンルーム化されている「精製エリア」とその前「区画」において、ワクチン粗原液の保管容器を氷水で浸したクーラボックス内に入れ、氷を投入しながら、前記温度範囲を維持して移動させることが行われていた。
【0003】
また、保冷にペルチェ素子を用いる装置として、以下の特許文献1、2、3の装置、そしてワクチンを保冷する装置として特許文献4、6の装置、さらにペルチェ素子を用いた冷蔵庫として特許文献5の装置が知られている。
【0004】
特許文献1には、ペルチェ装置を用いた食品などの冷凍、冷蔵、解凍、温蔵などを兼ねた温度処理装置が開示されている。
その装置は、冷却側として、断熱層で形成されたケーシング内に設置され、収納空間と対向すると共にペルチェ素子と熱的に導通する伝熱面を有している。
一方、前記装置は、放熱側として、ペルチェ素子に接合する熱交換基体と、その熱交換基体を覆い、内部に液状の熱移動媒体を流通させる枠体とを備えている。
その枠体は、前記熱交換基体に熱移動媒体を噴射する分散孔が複数形成された分散部材を備えている。その分散部材は、前記枠体を第1空間と第2空間とに仕切っている。そして、枠体に供給された熱移動媒体は、第1空間内で拡散され、各分散孔から熱交換基体に垂直方向に噴射され、熱交換基体に衝突した熱移動媒体が第2空間で拡散され、排出されるようにされている。この装置は、冷凍庫にも冷蔵庫にも切り換えて使用できるよう熱移動媒体に純水やブライン不凍液を用いる。冷凍庫の場合は内蔵物を凍結させることとなる。
【0005】
特許文献2には、飲料水の温調・保温装置が開示されている。その装置は、ペルチェ素子の冷却面を凹状の搭載皿プレートに接合し、搭載皿プレートの上に飲料水入り容器を置いており、その容器を介して伝熱(熱伝達)により飲料水を冷却している。一方、ペルチェ素子の放熱側にはヒートシンクが接着され、送風装置により空冷されている。
【0006】
特許文献3には、飲料用容器とペルチェ素子との間に飲料容器の外形にフィットするようなゲル状の熱伝達物質を介在させて、熱伝達性能を高めた装置が開示されている。このものも放熱側にはヒートシンクが設けられ、空冷されている。
【0007】
特許文献4には、主にワクチンの保存・搬送に用いる冷却装置が開示されている。このものは、ワクチンを収容する庫内容器を水が充填されたケーシングに沈め、ケーシングの上部の水を冷却することにより、ケーシングの底付近に密度の高い4℃の水が集まるようにしている。これにより、庫内容器をワクチンの保存に最適な4℃付近に維持している。冷媒である充填された水の凍結は、結氷検知センサにより冷却ユニットで構成される冷凍サイクルを停止することで防止するとしている。
【0008】
特許文献5には、配膳食品の貯蔵庫が開示されている。このものは、貯蔵庫の内部を仕切り板で区切り、一方の部屋をペルチェ素子で冷却し、他方の部屋をヒータで加熱し、冷食と温食を並行的に保温している。前記ペルチェ素子は庫内の天井に設けられ、そのペルチェ素子の下方に吸熱用のフィンが設けられている。このフィンを介して庫内は冷却されている。一方、ペルチェ素子の放熱側はファンで空冷されている。温熱側と冷熱側の熱収支は等しくならなくてはならず、どちらかは温度成り行きとなってしまう装置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来では、生物学的製剤を製造する施設において、区画された2つのエリアを対象物である微生物など活性が温度に大きく依存する内容物(培養物)が収納された容器を移動させる場合、保冷したままの容器冷却作業に、ウォータージャケット状の断熱容器に氷水を用いて冷却することがあり、その冷却に使用した水や氷の滅菌、廃棄処理が煩雑であった。さらに、氷の投入などの冷却作業や冷却温度管理を人の手で行っていた。
そのような水や氷は、流水ではなく所定の量を溜めて空気と触れる自由水となっていて上水の遊離塩素も抜けているため雑菌の温床となり、培養物へのコンタミの原因になり得る。さらに、特定の培養物の保冷のために用いた水をそのまま外部に廃棄するのが禁止されている場合がある。例えば、インフルエンザワクチンの場合、ワクチン粗原液ではウイルスの感染性をなくす不活化処理を行っておらず、誤ってわからずに保冷に用いた水に漏れ出していると、作業者への感染が危惧されるのでそのような廃棄禁止措置が採られることが考えられる。
このため、バイオテクノロジーの分野においてクリーンルーム等の雑菌の混入を嫌う建屋内の作業において、その内部に持ち込まれる水として滅菌水を用いたり、さらにはその持ち込まれた滅菌水を廃棄するのに、さらに滅菌処理をすることがある。
氷水による冷却温度管理の困難さと共に、これらの処理は作業員にとっては手間がかかり、容器に貯留される培養物からの感染に気をつけなければならない作業員の注意負荷が増加し、様々な事故を誘発することとなる。
また、容器を直接冷却するような特許文献2、3、5のような技術では、その伝熱により冷却機構の温度がそのまま容器に伝わることとなり、緩衝体のないことから温度変化が激しくなってしまう。温度制御によりペルチェ素子の急激な冷却が始まると、容器内の液温度にばらつきが発生しかねない。
特許文献1や4では、水の凍結に配慮が少なく、結氷センサの故障で容易に凍結してしまい、インフルエンザウイルスワクチンなど、日本脳炎、狂犬病、A型肝炎を除く不活化ワクチン及びロタウイルスの生ワクチンのワクチン粗原液の活性を失う死滅を引き起こす。
【0011】
そこで、本発明はワクチン粗原液、ワクチン原液、ウイルス株など培養した微生物などを含む液を入れた容器の保冷に関し、それに関わる作業の煩雑さを低減することのできる保冷ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の保冷ユニットは、培養した微生物等を含む液を入れた容器ごと保温して搬送する保冷ユニットであって、前記培養した微生物等とは、医療に利用する目的で培養する所定の細菌、細胞、ウイルスを含み、それらが単体で存在するか、他の微生物と一緒に存在するものであり、前記容器の全体あるいは上部蓋以外全体を覆うと共に、その容器周囲に空間を保有する収納室を有するワゴンと、そのワゴンの一部で前記収納室に隣接し前記収納室の空間空気を冷却する冷却部と、前記収納室の空間空気温度を含む温度情報を検出する温度検出部と、その温度検出部から取得した温度情報に基づいて、収納室内の温度を所定の温度に保冷すべく前記冷却部を制御する制御部とからなり、前記冷却部が、前記収納室との境壁に沿って設置されるペルチェ素子と、そのペルチェ素子と熱的に導通し収納室側に張り出す伝熱面またはペルチェ素子自体の伝熱面を有する空気式の伝熱部と、前
記ペルチェ素子の放熱側に設けられた空気式の排熱部と、前記冷却部のワゴン外部との境壁に設けられた吸込みガラリと吹出しファンとからなることを特徴とする。
【0013】
(2)このような保冷ユニットは、前記培養した微生物等を含む液は、インフルエンザHA、四種混合(DPT−IPV)、三種混合(DPT)、二種混合(DT),成人用D,破傷風、B型肝炎である不活化ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液であり、前記収納室の空間空気保冷温度を8℃±2℃の範囲とするものが好ましい。
(3)そして、前記培養した微生物等を含む液は、HPV,不活化ポリオ(IPV)、ヒブ、肺炎球菌結合型(7価、13価)、肺炎球菌(23価)である不活化ワクチン及びロタウイルスの生ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液であり、前記収納室の空間空気保冷温度を6℃±2℃の範囲とするものが好ましい。
(4)さらに、前記容器が複数個であり、前記ワゴンの内部が容器を個別に収納するように仕切り板で複数の収納室に仕切られており、それらの収納室にそれぞれ冷却部が設けられているものが好ましい。
【0014】
(5)さらに、前記冷却部が容器を挟むようにワゴンの両端付近にそれぞれ設けられているものが好ましい。
【0015】
(6)さらに、前記ワゴンの収納室の上方を開口すべく、開閉式の天井扉を備えており、その天井扉に容器の内部にアクセスするための蓋が形成されているものが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
(1)本発明の保冷ユニットでは、容器の保冷ジャケットは空気であり、冷却のために水を全く必要としない。このため、冷却に用いて容器に接触した冷却水の処理が不要になる。また、結露などにも考慮して雑菌などが繁殖しやすい自由水を排除することでコンタミが極限まで防止できる。そして、水を用いないので全体の重量が軽減でき搬送が容易になる。
【0017】
(2)このような保冷ユニットにおいて、「微生物培養エリア」と「精製エリア」との区画を通過する際、「精製エリア」で遠心機設置環境は常温20℃程度を要求する場合に、インフルエンザHA、四種混合(DPT−IPV)、三種混合(DPT)、二種混合(DT),成人用D,破傷風、B型肝炎である不活化ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液を収納する容器を保冷する収納室の空間空気保冷温度を8℃±2℃の範囲に保てる。このことで、ウイルスが死滅しない活性が最低限確保される、凍結せず、かつ10℃を超えて増殖が活性化する温度に達しない温度に保つことができる。
(3)そして、「微生物培養エリア」と「精製エリア」との区画を通過する際、「精製エリア」で遠心機設置環境は常温20℃程度を要求する場合に、HPV,不活化ポリオ(IPV)、ヒブ、肺炎球菌結合型(7価、13価)、肺炎球菌(23価)である不活化ワクチン及びロタウイルスの生ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液を収納する容器を保冷する収納室の空間空気保冷温度を6℃±2℃の範囲に保てる。このことで、ウイルスが死滅しない活性が最低限確保される、凍結せず、かつ8℃を超えて増殖が活性化する温度に達しない温度に保つことができる。
(4)さらに、前記容器が複数個であり、前記ワゴンの内部が容器を個別に収納するように仕切り板で複数の収納室に仕切られており、それらの収納室にそれぞれ冷却部が設けられている場合は、収納室内の温度制御が容易である。
【0018】
(5)そして、前記容器を挟むようにワゴンの両端付近に冷却部がそれぞれ設けられている場合は、収納室内の温度制御が一層容易である。
【0019】
(6)さらに、前記ワゴンの収納室の上方を開口すべく、開閉式の天井扉を備えており、
その天井扉に容器の内部にアクセスするための蓋が形成されている場合は、内部の清掃が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
「1.保冷ユニットの概略」
図1を用いて、本発明の一実施形態である保冷ユニットの概略を説明する。その保冷ユニット1は、所定のインフルエンザHA、四種混合(DPT−IPV)、三種混合(DPT)、二種混合(DT),成人用D,破傷風、B型肝炎である不活化ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液の入ったステンレス製の容器30をクリーンルーム31(
図7b参照)内で搬送するのに用いられる。このステンレス製の容器30に収納されるのは培養された微生物であり、培養した微生物等とは、医療に利用する目的で培養する所定の細菌、細胞、ウイルスを含み、それらが単体で存在するか、他の微生物と一緒に存在する液体である。
その保冷ユニット1は、前記容器30の上部蓋を除く全体を覆い周囲に空間を保有する収納室20を有するワゴン2と、そのワゴン2の一部で前記収納室20に隣接し前記収納室20の空間空気を冷却する冷却部3と、前記収納室の空間空気温度を含む温度情報を検出する温度検出部4と、その温度検出部から取得した温度情報4aに基づいて、収納室内の温度を所定の温度に保冷すべく前記冷却部3を例えばPID制御する制御部5とを備えている。
なお、
図1では、右方の制御部5の機能を示すブロック図を図示し、左方の制御部5の記載を省略している。
【0022】
ここで、表1(出典:ビケン ワクチンニュース、一般財団法人 阪大微生物病研究会/田辺三菱製薬会社、2014年1月)には、ワクチンの種類と、それらが生ワクチンまたは
不活化ワクチンであるかどうか、それらのワクチンの貯法を示している。なお、この表1には本発明の範囲外であるワクチンについても参考例として挙げている。
【表1】
【0023】
そして、前記冷却部3は、前記収納室との境壁(対向板27b)に沿って設置されるペルチェ素子3a、そのペルチェ素子に熱的に導通して収納室側に張り出す伝熱面またはペルチェ素子自体の伝熱面にて前記収納室20に対向する伝熱面を有する熱導体3bと、前記ペルチェ素子の放熱側に設けられた空冷の排熱部6と、前記冷却部3のワゴン外部との境壁(側壁23c)に設けられた吸込みガラリ23a、23bと吹出しファン6bとからなる。
【0024】
さらに、前記制御部5は、前記温度検出部4が検出する温度情報を例えば前記温度検出部が4〜20mAの電流値に割り付けて送ってくる計測温度信号4aとして取得する温度取得手段7と、温度インジケータ(以下、入力部11)の入力部を介して入力された目標設定温度8bと取得された計測温度信号4aとの偏差に基づいてペルチェ素子の印加直流電流値8aを演算して求める冷却条件算出手段8と、その冷却条件算出手段から得られた印加直流電流値8a(冷却条件)に基づいてペルチェ素子を作動せる作動手段9とからなる。ここで、ペルチェ素子の印加直流電流値8aは、比例制御としての電流値の可変値であってもよいし、時間をかけた比例制御として、ON−OFF或いは段階値を時間の長さで制御する冷却運転時間比例制御の時間値であってもよい。
なお、本実施形態では左右の冷却部3、3に対応する温度検出部4、4および左右の制御部5、5を用いて左右で独立して制御しているが、片方の温度情報4aに基づいて、左右の制御部5、5を制御してもよい。
ここで「温度情報」とは、温度検出部の検出値温度値を、例えば4〜20mAの電流値、1〜5Vの電圧値などに割り付け換算される値を含む概念である。
そして「冷却条件」とは、ペルチェ素子の所定時間のおける冷却運転の時間、その時間から換算される値、その他、冷却のための温度などを含む冷やす程度を示す量、その量から換算される値を含む概念である。
また、本実施形態においては、「温度取得手段」は後述する
図6aのステップS1が対応し、「冷却条件算出手段」は
図6aのステップS2が対応し、「作動手段」は
図6aのステップS3が対応する。
【0025】
「2.ハードウェア構成」
図2に示すように、この実施形態の制御部5は、そのほぼ全てを盤機器および配線による制御回路によって実現している。
前記制御部5は、アナログ信号として、例えば1−5V信号に割り付けて温度計測信号を送出する温度検出部4からの温度情報4a(
図1参照)および入力部11から得られた目標設定温度8b(
図1参照)を取得する温度取得手段7を備えている。その温度取得手段7は温度情報4a等の入力のための回路である。
さらに、制御部5は、温度指示調節計に相当するPID回路およびそのPID回路の比例帯、オフセットを時間で積分してオフセットをなくすための比例動作による出力と積分動作による出力とが等しくなる時間:積分時間、変動に対する応答速度に関する比例動作による出力と微分動作による出力とが等しくなる時間:微分時間の3値の設定受入れを行なうPID演算条件入力部17a(
図1参照)からの設定により比例帯、積分動作、微分動作の演算を行なって冷却条件を算出する前記冷却条件算出手段8を備えている。
所定のインフルエンザHA、四種混合(DPT−IPV)、三種混合(DPT)、二種混合(DT),成人用D,破傷風、B型肝炎である不活化ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液の入った容器30の場合、P動作は、設定温度を8℃として、比例帯を4℃と採ればよいこととなる。
さらに、前記制御部5は、前記PID演算条件入力部17aの設定値に基づいて所定の周期のパルスのパルス幅を変調し、その変調されたパルス幅でペルチェ素子3a(
図1参照)に電圧を印加する、いわゆるPWM制御回路としての作動手段9を備えている。その作動手段9としては、温度サーミスタからのアナログ信号をスイッチング電源にて設定温度となるようにデジタル制御する公知の物である。
【0026】
上記実施形態では、
図1に示す機能をリレーや温度指示調節計などの盤内機器で制御回路を組んで実現しているが、その一部または全部をシーケンサなどのマイコン的な回路で組んでプログラムを実行することによって実現してもよい。
例えば、プログラマブルロジックコントローラPLCであるシーケンサ10としては、電源回路、ノイズ除去回路、アナログ出力ユニットなどが一式部品としてパッケージされたPLCであり、各客先や全体施設により納入する設備の回路が1品生産となる建築設備では、専用機の設備回路が容易に構築できるシーケンサ10は便利であり、回路作成時に接続されるPCなどの外部端末12から所定のアプリケーションによりラダー回路としてタイマ回路や温度指示調節計に相当するPID制御の回路等を自在に設定可能なものである。
さらに、前記シーケンサとしては、例えばラダー回路などのプログラム18を記憶するメモリと、そのメモリとバスラインを介して接続され、記憶されたプログラムを実行する演算装置とを備えた公知の物である。
【0027】
「3.保冷ユニットの詳細」
図3に示すように前記ワゴン2は、底板21、正面板および背面板22、22、左右の側板23、23からなる箱体から構成されている。前記ワゴンの内部空間は、後述の中央の仕切り板15と容器30との距離に準じて容器30から左右端に向けた離れ距離付近に設けられる左右の仕切り板13、13が中央の収納室20に拡散板として立設し、さらに左右の冷却部の部屋14、14を形成するボックス27の対向板27bにより冷却部の部屋14と収納室20とに仕切られている。さらに、収納室20は中央の仕切り板15により左右の収納室16、16に仕切られている。
前記左右の仕切り板13には、冷却部3と収納室20との空気の往来のために多数の開口が形成されている。それらの左右の仕切り板13には、例えば、多数の孔が形成されたパンチングメタルが用いられている。
図4aに示すように、それらの冷却部の部屋14、14は天板24a、24aによって閉じられている。一方、収納室20の上方の開口には、天井扉24が設けられ、開閉自在にされている。その天井扉24の一端は正面板22の上端にヒンジ22a、22aで回動自在に連結されており、他端が背面板22(
図3参照)側で係合自在にされている。そのため、収納室20内の清掃作業が容易である。
図3に示すように、これら底板21、正面板22、背面板22などを構成する板材としては、例えば、発泡性樹脂などの断熱材の表裏にステンレス製の板を貼り付けたものが用いられる。
また、前記底板21の下面には、例えばキャスター21aがその四隅付近に設けられて
いる。
【0028】
図4aに示すように、前記天井扉24には、2つの開口24b、24bが形成され、それぞれ前記収容室16、16に通じている。それらの開口24a、24aに前記容器30、30を入れないときは、蓋25、25が被せられている。一方で、容器30、30を入れたとき、開口から外した蓋25は、正面板22に設けられた蓋置き26に置くことができる(
図3参照)。
また、天井扉24の中央の正面寄りには収納室20内の中央付近の温度を作業員が監視するための温度計19が設けられている。温度計19は、中央の仕切り板15により仕切られた左右の収納室16、16毎に1本ずつあるのが好ましい。
図4bに示すように、左右の側板23、23には、外気を取り込むための吸込みガラリである開口23a、23aがそれぞれ形成されており、それらの開口23a、23aはガラリ自体を形成するパンチングメタル23b、23bによりそれぞれ閉じられている。それらの開口23a、23aの内部には、冷却部3、3を収納するためのボックス27、27(
図3参照)がそれぞれ設けられている。
また、それらの開口23aの上方には排気のための排気口23cが形成されている。その排気口23cには排気のための吹出しファン6b(
図3参照)が設けられている。
【0029】
本実施形態では前記容器30(
図3参照)の胴部の直径は、例えば250mmにされている。そして、
図4aに示すように前記天井扉24の開口24bの直径は250mmより大きくされており、開口の内面にゴムパッキン24cが設けられている。前記容器30は前記開口24bから挿入することができる。そして、その胴部の外周面が前記ゴムパッキン24cに当接し、収納室20から冷気が漏れないように、気密あるいはいくらか気密にしている。これにより、培養の後約半日間冷却し発育鶏卵の胚の生育を止め仮死状態にし、鶏卵の中の胚のしょう尿液(尿膜腔液・ウイルスが増殖している)を採取してワクチン粗原液となった液はステンレス容器に入れ、遮光し凍結を避けて8℃±2℃の温度範囲の冷室で保管する「微生物培養エリア」と、「精製エリア」との区画を容器30が通過する際、「精製エリア」の遠心機設置環境が常温20℃程度であったとしても、「微生物培養エリア」の最下流の「冷室」に於いて収納室20に容器30が収納される際、冷室の空気が容器胴部の周囲に充填され気密にされる。この冷室の空気は8℃±2℃の温度の空気で絶対湿度も非常に低くなっているので、高温の「精製エリア」内の空気のように絶対湿度が高くて冷えた収納室の内壁面に結露することを防止できる。
【0030】
図3に戻って、前記ボックス27は、開口23aの縁付近から内向きに延びている周壁27aと、その周壁27aの内端から連続し、左右の仕切り板13と対向する対向板27bとからなる。そのボックス27は、ワゴン2の冷却された空気が循環する内部空間(拡散板である仕切り板13を含む収納室20)と、外気を取り込んで排熱を同伴させるため、ボックス内における空気が吸込みガラリ23a23bから吸引され吹出しファン6bにより外部へ導出される空間(冷却部の部屋14)とを仕切っている。
【0031】
図5に示すように、前記対向板27bには開口が形成されており、その開口にペルチェ素子3aの冷却面が気密に嵌合し収納室側に向くように配置されている。その冷却面には熱的に導通するフィンヒートシンク等の熱導体3bが設けられており、前記開口を通じて収納室20(
図3参照)側に向けて伝熱面を曝している。なお、熱導体3bを用いないで直接にペルチェ素子3aの冷却面を開口から曝してもよい。
【0032】
前記ペルチェ素子3aの放熱側には、空冷の排熱部6が設けられている。その排熱部6は、ペルチェ素子3aの放熱側の面に、例えばシリコーン系のグリスが塗布され、ヒートシンク6aに隙間なく密着される。そのヒートシンクからの放熱は、排熱用のファン6bで外部に放出される。
図3に示すように、その吹出しファン6bが、ボックス内の空気を排気することで、ボックス内には吸込みガラリであるパンチングメタル23bから外気が入り込む。それによりヒートシンク6aで熱交換がされた空気は、排気口23cから排気される。
この冷却部3のペルチェ素子3a、ファン3cおよび排熱部6は公知のものを用いることができる。
【0033】
図3に戻って、前記温度検出部4は、図の右方の仕切り板13の収納室20側の下方に設けられている。その温度検出部4としては、例えば、熱電対やサーミスタなど従来公知のものを用いることができる。
なお、仕切り板13の上方や、仕切り板13の中央の手前に配置することもできる。
【0034】
「4.フローチャート」
次に、
図6aを用いて、制御部5の処理の流れの一例を示すフローチャートを説明する。
【0035】
(S1)制御部5は、機器内で発生させているクロック信号などに基づいて所定のタイミングで温度検出部4が送出する計測温度信号4aを温度取得手段7により取得する。
(S2)そして、その温度取得手段7から得られる計測温度信号4aと、予め入力部11(
図1参照)から入力された目標設定温度8bとの偏差に基づいてペルチェ素子の冷却運転時間を含む冷却条件8aを求める。
この工程S2において、例えば、目標設定温度8bと検出された計測温度信号4aの偏差に基づいてPID演算条件入力部17aから入力された比例帯、積分時間、微分時間を所定時間毎に演算して補正された作動手段9への冷却条件8aを算出し出力する。
また、比例帯だけを設定したP動作の場合は、温度差に基づく補正値を予めデータテーブル17に記憶しておいてもよい。
図6bにデータテーブル17のデータ構造の例を示す。そのデータテーブル17には、例えば、目標温度8b毎に、温度情報4aと目標温度8bとの温度差8cに基づく補正値が記憶されている。これらのパラメータは、入力部11としてのタッチパネルまたは操作盤により、操作者が目標温度などを入力することができる。
【0036】
(S3)得られた冷却条件8aに基づいて、ペルチェ素子側の直流電流を出力するインバータ回路に所定の周期のパルスのパルス幅を変調する。そのパルス幅でペルチェ素子3aに電圧が印加される、いわゆるPWM制御を行う。
例えば、温度差が大きいときには、冷却条件8aとしての値が大きく、ペルチェ素子への電圧の印加時間が長い。一方、温度差が小さいときには、冷却条件8aとしての値が小さく、ペルチェ素子への電圧の印加時間が短い。これにより、早期に目標温度に近づけることができ、目標温度に近づくと温度を安定させることができる。
【0037】
前記制御部5に内蔵されたメモリには、入力部11(
図1参照)を介して冷却の運転開始の入りタイマ時間、運転停止の切りタイマの時間を入力することができる。制御部5は内蔵された時計から時刻情報を取得し、入力された時間に一致すると、冷却を開始または停止する。
【0038】
次に
図7aおよび
図7bを用いて、クリーンルームについて説明する。
図7aに示すクリーンルーム31は、例えば薬品製造工場、半導体装置の製造工場、食品工場などで用いられるクリーンルームと同じレベルの防塵が施された部屋であり、清浄度の高い空気を得るためにHEPAフィルタなどが使われている。そのクリーンルーム内の温度は22℃±3℃に設定されている。そのクリーンルーム31は壁で仕切られた作業室34aと冷室34bとに隔てられている。
そのクリーンルーム31では、
図7bに示すように、天井32に設けられたHEPAフ
ィルタ33により、例えばクラス1000程度の清浄度を得ることができるようにしている。また、クリーンルーム31の天井32の全面から一様に清浄エアを吹き出し、その吹き出した清浄エアをグレーチング床31aよりそのまま下降流でもって垂直に吹き流す一様ダウンフローを採用している。なお、荷重の大きな装置が置かれる箇所には強度などを高く保つためにグレーチング床は採用せず、通常の無孔パネルの床としている。
前記作業室34aの符号35で示している機器は遠心機である。
【0039】
前記冷室34bは、「微生物培養エリア」の最下流に位置し、ここでは複数の容器30が棚などに静置され、その内の2本が保冷ユニット1に移載される。あるいは冷室34bはパスルームの位置づけで「精製エリア」の入り口であってもよい。別な更衣室で着替えた作業者は、前記作業室34aから保冷ユニット1を迎えにいき、作業室34aへ移動する。遠心機35機側へ移動された保冷ユニット1の容器30の蓋を外し、遠心機35に接続されているチューブを容器30内に突っ込んで、中のワクチン粗原液を吸い出して遠心機35に所定量導入し、薬液を混合して遠心分離を行って、ウイルスが分離濃縮された処理液と、ウイルスが分離された後のワクチン粗原液の緩衝液部分液とを分けて別なタンクに受け取る。これらの一連の動作の間にも、できる限り10℃以下の温度にワクチン粗原液を保冷しておく。
ウイルスが分離濃縮された処理液を遠心機から受け取った容器30は、同様に保冷されて作業室を出て行き、次の不活化処理工程などへ保冷ユニットごと移動していくこととなる。
【0040】
<他の実施形態>
以上の例は、インフルエンザHAワクチンを例に説明したが、四種混合(DPT−IPV)、三種混合(DPT)、二種混合(DT),成人用D,破傷風、B型肝炎である不活化ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液の入った容器30の場合も、P動作は、設定温度を8℃として、比例帯を4℃とすればよい。
また、HPV,不活化ポリオ(IPV)、ヒブ、肺炎球菌結合型(7価、13価)、肺炎球菌(23価)である不活化ワクチン及びロタウイルスの生ワクチンのワクチン粗原液、ワクチン原液を収納する容器を保冷する収納室の空間空気保冷温度を6℃±2℃の範囲に保つ場合には、P動作は、設定温度を6℃として、比例帯を4℃とすればよい。
【0041】
<さらに他の実施形態>
図8aは保冷ユニットの他の実施形態を示す平面図である。この保冷ユニット36は前述した保冷ユニット1と共通する部分が多いので、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
図8aに示す保冷ユニット36には、4本の容器30(
図1参照)を収納できるように4個の開口24bを設けている。冷却部3は左右の側板22、22付近に設けられている。なお、2個一対で制御するように、一対分で仕切ってもよい。
また、この保冷ユニット1aの天井扉24は、開口24bと連通する分離線24dで分離でき、
図8bに示すように、正面板22を含む部位と一体となって、手前に倒れるように開けることができる。このため、天井扉24を開けると、容器30を底部分が天井扉24の上まで持ち上げなくても、正面板22側に抜くようにして取り出すことができる。
本実施形態では、容器30を取り出すために持ち上げる高さは約70cmであった。
【0042】
<さらに他の実施形態>
図示しないが、前記左右の仕切り板13(
図5参照)と熱導体3bとの間に、ファンを設けてもよい。そのファンは、仕切り板13の中央付近に設けられ、収納室20の中央付近の空気を吸い込み、その吸い込んだ空気を熱導体の伝熱面に接触させる。そして、その伝熱面に接触して冷却された空気は、対向板27bに沿って上下に流れながら内向きに方向転換し、仕切り板13の上下から収納室20内に流れ込む。
このため、収納室20の空気流れは、底板21および天井扉24に平行に内向きに流れ、次いで高さ方向の中央付近に向けて緩やかに方向転換し、最後に中央の軸線に沿うように仕切り板13のファンに向けて流れる。このような空気の対流は、片方あるいは両方の冷却部3によって行うことができる。
また、前記冷却部3、3を左右で正面側と背面側にずらして配置することにより、平面視で円を描くような空気流れを形成するようにしてもよい。
【0043】
<変形例>
本実施形態においては、天井扉24(
図4a参照)に開口24bが形成され、遠心機35などの機器のホース接続を容易にするため容器30の上部が飛び出しているが、容器30の全部を収納してもよい。このような保冷ユニットの場合には、遠心機35などで作業するのが難しいが、単に冷室間を移動させたり、長距離を移動させるのに使い勝手がよい。
また、前記天井扉24を取外自在にしてもよい。
また、容器30を1個、3個あるいは5個のように奇数個載置するようにしてもよい。さらに、その容器はアルミ、鉄、ガラスなどのステンレス以外の材質であってもよい。前記容器30としては、例えば、有底筒状の胴部と、その胴部の上端から滑らかに縮径する肩部と、その肩部の内端から上方に延びている首部と、その首部の開口を閉じる上部蓋とからなる。なお、首部・肩部の両方あるいはどちらか一方が形成されていなくてもよい。
また、2つの温度検出部4からの温度情報4a、4aを平均して、その平均値に基づいてPID演算条件入力部17aから入力された比例帯、積分時間、微分時間を所定時間毎に演算して補正された作動手段9への冷却条件8aを算出し出力を求めてもよい。
また、前記ペルチェ素子3aを用いて収納室を保温してもよい。
また、充電池を搭載し、電源コード3cの範囲を超えて、自由に移動できるようにしてもよい。その場合に充電池はワゴン2の底板21の下面に設けると重心が下がるから、ワゴン2の移動が安定する。