(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されている。
【0014】
本発明に用いられる基材は、昇華型捺染インク受容層を設けることができる基材で、熱転写時の加熱で過度の熱収縮を起こさない限り、その材料に特に限定はない。例えば、木材パルプを主成分とする紙や、無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂からなる多孔性樹脂フィルムのほか、不織布、布帛、樹脂被覆紙、合成紙等が挙げられる。
【0015】
本発明の効果が顕著に現れる基材は、昇華型インクジェット捺染転写紙の裏面への加熱により、昇華型捺染インクが昇華し易い多孔質の材料である。具体的には、木材パルプを主成分とする紙、不織布、布帛等である。
【0016】
基材として、木材パルプを主成分とする紙を使用することが好ましく、クラフト紙を使用することが特に好ましい。クラフト紙は、寸法安定性に優れており、フィルムと異なり、リサイクルが可能であり、昇華型捺染インクの吸収・乾燥性に優れるという特徴を有する。
【0017】
本発明において、好適に用いられる基材としてクラフト紙を例に挙げ、以下に説明する。本発明に好適に用いられるクラフト紙は、JIS P 3401にも規定されるように、従来包装紙としての品質を満足するものや、クラフト紙の範疇にある、ヤンキードライヤーにて乾燥処理された片艶紙(ヤンキー紙)は、寸法安定性に優れているので、優れた画像再現性を達成することができる。
【0018】
本発明に用いられる基材は、その坪量が50〜140g/m
2であることが好ましく、55〜110g/m
2であることがより好ましい。坪量が50g/m
2未満であると、現在のインクジェットプリンタの場合、その性能から、通常のインク量ではクラフト紙へのインクの染み込みによるコックリング(波打ち)が発生するとともに、転写加熱時に逆にクラフト紙の縮みが発生し、被転写物である布帛との密着性が低くなり、転写画像の質が低下する傾向がある。また、引張強度及び引裂強度の低下により、紙切れが起き易くなる。坪量が140g/m
2を超えると、昇華型捺染インクの加熱転写時に被転写物への熱伝達が悪くなり、転写効率が低下する傾向がある。
【0019】
また基材におけるインク受容層塗料の塗工面は、JIS P 8119に準拠したベック平滑度が30〜400秒であることが好ましく、50〜300秒であることがより好ましい。ベック平滑度が30秒未満であると、おそらく基材表面の凹凸に起因すると考えられるが、昇華型捺染インク受容層が基材に浸透した部分と浸透していない部分との差異が出易くなって塗工欠陥が発生し易くなる傾向がある。また、印刷時の昇華型捺染インクの吸収・乾燥性は高くなるももの、画像再現性が低下したり、被転写物への昇華型捺染インクの転写時の画像再現性及び転写効率が低下する傾向がある。これらの傾向は平滑度を増すことにより改善されるが、特に片艶紙は、ヤンキードライヤーにて乾燥処理された裏面(抄紙機のワイヤー側の面=ヤンキー面)の平滑度が高いので、ヤンキー面に塗工することで塗工欠陥の発生リスクが少なく、昇華型捺染インクでの優れた画像再現性及び裏抜け防止性を有するとともに、被転写物への転写捺染の際に、画像の再現性、転写画像の解像性、転写画像の濃度レベル、これらの均一性等の被転写物への転写効率に優れる。それとともに、基材の表面側の平坦化処理がなされていないので、加熱ドライヤーに密着させて昇華型捺染インクを加熱転写する際に、昇華型捺染インクの熱昇華性を向上させる効果を有する。しかしながら、ベック平滑度が400秒を超えると、昇華型捺染インク受容層と基材との密着性が低下してインク受容層の薄い部分が塗工欠陥を誘発し易くなる傾向がある。また、昇華型捺染インク受容層の形成にムラが生じ、画像再現性が低下する傾向がある。
【0020】
本発明に用いることができるクラフト紙は、いわゆる製紙分野で使用される原料より構成される。使用するパルプには特に限定がないが、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)や広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェストパルプ(WP)等の化学パルプや機械パルプを含む古紙パルプ等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択して用いることができる。これらのうち、広葉樹クラフトパルプを、さらには広葉樹晒クラフトパルプ及び針葉樹晒クラフトパルプを適宜組合せて用いることが、紙質強度、基材表面の平坦性、昇華型捺染インクの昇華型インクジェット捺染転写紙における印字画像の品質確認の点で好ましい。
【0021】
本発明に用いる基材には、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の各種澱粉や、紙力増強剤、アルキルケテンダイマー等の内添サイズ剤、外添サイズ剤、歩留向上剤等の添加薬品や、さらに調整可能な範囲で、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料を配合することができる。
【0022】
本発明に用いられる基材は、JIS P 8140に準拠した10秒コッブ吸水度が5〜20g/m
2であり、好ましくは10〜16g/m
2である。10秒コッブ吸水度が5g/m
2未満であると、昇華型捺染インク受容層と基材との密着性が悪くなり、部分的にインク受容層の薄い部分が発生し、インク受容層の連続被膜を保てない塗工欠陥を誘発する。10秒コッブ吸水度が20g/m
2を超えると、昇華型捺染インク受容層が基材に浸透し易くなり、部分的に深く浸透した箇所はインク受容層の連続被膜を保てない塗工欠陥を誘発する。
【0023】
昇華型捺染インク受容層は、少なくとも水溶性樹脂と、微細粒子Aと、微細粒子Bとを含有したインク受容層塗料からなり、基材上に形成されている。
【0024】
前記水溶性樹脂は、通常の塗料では主としてバインダーとして用いられるが、本発明においては、昇華型捺染インクの捕捉、吸収をする特性を併せ持っていることから、少なくともカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMCという)であるが、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、各種ケン化度のポリビニルアルコール(以下、PVAという)やそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種PVA誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子化合物が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択してCMCとともに用いることができる。
【0025】
本発明の特徴である、急速に昇華型捺染インクを吸収・乾燥させる性能を昇華型捺染インク受容層に発現させるために、水溶性樹脂として少なくともCMCが用いられるが、CMCの重合度又は分子量がこの性能に影響を与えることも考えられるので、所定の重合度、分子量のCMCを使用し、インク受容層塗料の塗工時に、温度をコントロールすることが好ましい。
【0026】
好適に用いられるCMCとしては、重合度が30〜80、重量平均分子量が6600〜18000のCMCが挙げられる。重合度が30〜80、重量平均分子量が6600〜18000のCMCは、粘性と作業性の点から、塗工欠陥の少ない昇華型捺染インク受容層を形成させ易く、またインク受容層塗料の塗工を容易にすることができる。重合度が30未満で、重量平均分子量が6600未満であると、CMCの粘性が低いため、インク受容層の塗工膜が千切れるような現象に繋がり、連続被膜に欠陥が生じ易いと考えられる。重合度が80よりも大きく、重量平均分子量が18000よりも大きいと、塗工工程での作業性が低下する恐れがある。例えば、CMCの粘性が高すぎて塗工が困難であったり、粘性を低下させるために固形分を少なくすると、乾燥負荷がかかったり、また粘性を低下させるために長時間高温で保持すると、皮膜形成に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0027】
また、例えばエーテル化度は0.5〜1.0程度のCMCを用いることができる。
【0028】
CMCの具体例としては、例えば、セロゲン5A、セロゲン7A(いずれも商品名、第一工業製薬(株)製、「セロゲン」は登録商標)、FINNFIX2、FINNFIX5(いずれも商品名、CP Kelco製、「FINNFIX」は登録商標)等が挙げられる。
【0029】
本発明では、前記のとおり、水溶性樹脂としてCMCとともにPVAを用いることもできる。PVAの中でも、特にケン化度が約87〜99mol%、さらには約98〜99mol%で、重合度が約1700以下、さらには約1000以下、特には500以下のPVAは、CMCとの相溶性が良好であり、昇華型捺染インクを昇華型捺染インク受容層に適宜残留させる効果がある。加えて、このようなPVAは、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子の分散性を向上させる効果もある。
【0030】
また、後述するように、微細粒子A及び微細粒子Bに対するCMCの量が多くなり過ぎると、CMCがこれら微細粒子を被覆してしまい、被転写物への転写捺染の際に転写ムラが生じ易くなるが、水溶性樹脂としてCMCとともにPVAを用いることにより、CMCの量を適宜低減させることができる。
【0031】
PVAの具体例としては、例えば、クラレポバールPVA110、クラレポバールPVA105(いずれも商品名、(株)クラレ製)等が挙げられる。
【0032】
前記インク受容層塗料に含有される微細粒子Aは、少なくとも平板結晶構造を有する無機微粒子である。
【0033】
インク受容層塗料には、前記水溶性樹脂に、平板結晶構造を有する無機微粒子が充填剤として組み合わせて含有されているので、印刷時の昇華型捺染インクの吸収・乾燥性が、例えば基材に含有される浸透剤との相乗効果によって大きく向上し、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、画像再現性、加熱転写時の耐熱性、転写後の被転写物表面での画像再現性や転写効率の点において、優れた特性を得ることができる。
【0034】
平板結晶構造を有する無機微粒子としては、例えば、親水性を有する二級クレーやデラミクレーが好適に用いられ、0.4〜2.3μmの範囲、好ましくは0.4〜1.4μmの範囲にメジアン径d50を有し、アスペクト比が5以上、好ましくは8〜80の無機微粒子を用いることにより、CMCの連続被膜の形成を妨げずに無機微粒子によるインクバリヤー層を形成することができる。メジアン径が0.4μm未満、アスペクト比が5未満の無機微粒子では、充分なインクバリヤー層を形成することができない。メジアン径が2.3μmを超える無機微粒子では、インク受容層塗料中での微粒子の沈降が容易に発生して流送性等のハンドリングが低下し、品質の安定を妨げる。なお、アスペクト比が80を超える無機微粒子では、粒子の分散濃度の低下によってインク受容層塗料の濃度も低下し、塗工後により多くの水分が奪われるために乾燥シワが生じ易くなる傾向があり、これを防ぐには、その使用量がより制限される恐れがある。
【0035】
なお、本発明においては、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子と、後述する微細粒子Bであるシリカ粒子とが、インク受容層塗料中に共存しているので、アスペクト比が比較的高い平板結晶構造を有する無機微粒子を使用することもできる。シリカ粒子が含有されていないインク受容層塗料では、平板結晶構造を有する無機微粒子によるインクのブロック効果が大き過ぎて、インク乾燥性が大きく低下する恐れがあるが、シリカ粒子を配合した場合は、該シリカ粒子によりインク吸収性が付与され、平板結晶構造を有する無機微粒子によるインクのブロック効果の過多はそれほど考慮しなくてもよい。
【0036】
なお、本発明に用いる微細粒子Aの粒子径は、少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散させた溶液について、コールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製、TA−II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定した。
【0037】
前記インク受容層塗料に含有される微細粒子Bは、少なくともシリカ粒子である。
【0038】
前記シリカ粒子としては、細孔容積の多い多孔性合成非晶質シリカ粒子であることが好ましい。このような合成非晶質シリカ粒子とは、ケイ酸のゲル化により、SiO
2の三次元構造を形成させた、多孔性、不定形微粒子であり、細孔径10〜2000オングストローム程度を有する。特にこのような合成非晶質シリカ粒子を用いることにより、被転写物の昇華型捺染インクの吸収性を向上させるとともに、昇華型捺染インクの被転写物への転写率も向上し、被転写物上の画像を一層鮮明にすることができる。
【0039】
前記合成非晶質シリカ粒子は、市販のものを好適に用いることができ、例えば、ミズカシルP−526、ミズカシルP−801、ミズカシルNP−8、ミズカシルP−802、ミズカシルP−802Y、ミズカシルC−212、ミズカシルP−73、ミズカシルP−78A、ミズカシルP−78F、ミズカシルP−87、ミズカシルP−705、ミズカシルP−707、ミズカシルP−707D、ミズカシルP−709、ミズカシルC−402、ミズカシルC−484(以上、水澤化学工業(株)製)、トクシールU、トクシールUR、トクシールGU、トクシールAL−1、トクシールGU−N、トクシールN、トクシールNR、トクシールPR、ソーレックス、ファインシールE−50、ファインシールT−32、ファインシールX−30、ファインシールX−37、ファインシールX−37B、ファインシールX−45、ファインシールX−60、ファインシールX−70、ファインシールRX−70、ファインシールA、ファインシールB(以上、OSCジャパン(株)製)、シペルナート、カープレックスFPS−101、カープレックスCS−7、カープレックス80、カープレックス80D、カープレックス67(以上、DSL.ジャパン(株)製)、サイリシア350、サイリシア445、(以上、富士シリシア化学(株)製)、ニップジェルAY−200、ニップジェルAY−6A3、ニップジェルAZ−200、ニップジェルAZ−6A0、ニップジェルBY−200、ニップジェルCX−200、ニップジェルCY−200、ニップシールE−150J、ニップシールE−220A、ニップシールE−200A(以上、東ソー・シリカ(株)製)等が挙げられる。
【0040】
前記シリカ粒子の平均粒子径は、2〜20μm、さらには4〜16μmであることが好ましい。平均粒子径が2〜20μmの微細なシリカ粒子を微細粒子Bとして用いることにより、より高品質な色再現性、画像再現性を得ることができる。
【0041】
さらに、平均粒子径が異なる少なくとも2種類のシリカ粒子を組み合わせて用いることが好ましく、特に、平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子と、平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子とを組み合わせ、微細粒子Bとして用いることが好ましい。このように平均粒子径が異なるシリカ粒子を併用することにより、昇華型捺染インクの乾燥性をさらに向上させることができる。
【0042】
平均粒子径が異なる少なくとも2種類のシリカ粒子を組み合わせて用いる場合、平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子と、平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子との割合(平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子/平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子)は、特に限定がないが、固形分の質量比で、10/90〜50/50であることが好ましい。このような割合とすることにより、より優れた昇華型捺染インクの乾燥性、昇華型インクジェット捺染転写紙における画像の再現性、被転写物における画像の再現性と、より高い昇華型捺染インクの転写効率とを得ることができる。
【0043】
なお、本発明に用いる微細粒子Bの粒子径は、少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散させた溶液について、コールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製、TA−II型)にて、50μm又は200μmのアパチャーを用いて測定した。
【0044】
本発明の効果を奏する限り、微細粒子Aである前記平板結晶構造を有する無機微粒子や、微細粒子Bである前記シリカ粒子とともに、他の微細粒子を配合することが可能である。他の微細粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等のアルミナ水和物、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0045】
インク受容層塗料中、前記微細粒子Aと前記微細粒子Bとの割合(微細粒子A/微細粒子B)は、質量比で、15/85〜85/15であり、20/80〜80/20であることが好ましい。両者の割合が15/85未満であると、微細粒子Aの特性が充分に発揮されず、紙面のインク残留濃度が高くなり、画像の再現性が低下する。両者の割合が85/15を超えると、微細粒子Bの特性が充分に発揮されず、インク乾燥性の向上効果が不充分となり、また画像に濃淡ムラが生じる。
【0046】
インク受容層塗料中、前記CMCの量は、固形分で、前記微細粒子A100質量部に対して50質量部と前記微細粒子B100質量部に対して120質量部との合計以上、好ましくは微細粒子A100質量部に対して60質量部と微細粒子B100質量部に対して140質量部との合計以上で、かつ、微細粒子Aと微細粒子Bとの合計100質量部に対して400質量部以下、好ましくは360質量部以下である。CMCの量が前記合計未満であると、昇華型捺染インク受容層の表面強度が不充分となり、該インク受容層の剥離による紙面からの粉落ちが生じるほか、被転写物への転写捺染の際に、転写画像の濃度レベルが低下する。CMCの量が400質量部を超えると、CMCによって微細粒子A及び微細粒子Bが被覆され、これら微細粒子の特性が充分に発揮されず、被転写物への転写捺染の際に転写ムラが生じたりする。
【0047】
なお、インク受容層塗料中のCMCの量の下限値を決定する際に、微細粒子A100質量部に対して50質量部、好ましくは60質量部と設定しているのは、CMCが50質量部未満であると、CMCのみによる昇華型捺染インクの吸収・乾燥性が充分ではなく、インク吸収性の高い微細粒子との併用が必要とされることと、インク受容層塗料の濃度が低いためにバインダーとして機能するCMCが基材に吸収されてロスすることとを考慮しているからである。また、微細粒子B100質量部に対して120質量部、好ましくは140質量部と設定しているのは、CMCが120質量部未満であると、昇華型捺染インクの被転写物への転写効率が低下するとともに、昇華型インクジェット捺染転写紙における昇華型捺染インクの裏抜け問題が生じるからであり、また微細粒子Bであるシリカ粒子は、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子よりも多孔質であるので、該平板結晶構造を有する無機微粒子と比べて紙面からの粉落ちが生じ易いことを考慮している。
【0048】
水溶性樹脂としてCMCとともにPVAを用いる場合、インク受容層塗料中のPVAの量は、固形分で、微細粒子Aと微細粒子Bとの合計100質量部に対して80質量部以下、さらには50質量部以下であることが好ましい。PVAの量をこの範囲に調整することによって、より優れた昇華型捺染インクの吸収・乾燥性を達成することができる。PVAの量が80質量部を超えると、PVAによる被膜形成がCMCによる被膜形成を妨げる兆候が表れ、塗工欠陥を誘発する恐れがある。
【0049】
本発明の製造方法では、まず微細粒子Aの高濃度分散体を調製した後、これを希釈した希釈分散体に直ちに微細粒子Bを添加して、微細粒子A及び微細粒子Bの混合分散スラリーを調製し、これに水溶性樹脂を添加して混合し、インク受容層塗料を調製する。
【0050】
微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子を低濃度で分散させると、該平板結晶構造を有する無機微粒子の凝集状態を完全に壊すことができず、微細な状態になっていないため、昇華型捺染インクのブロック効果が低下してしまう。そこで、本発明では、平板結晶構造を有する無機微粒子を高濃度で分散させて該平板結晶構造を有する無機微粒子の凝集状態を完全に破壊し、充分に微細な状態としたものを希釈する。そして、これに微細粒子Bであるシリカ粒子を添加した混合分散スラリーも高濃度分散の状態を保てるように、微細粒子Bの添加量を設定する。
【0051】
微細粒子Aの高濃度分散体を調製するには、例えば、水を溶媒に用い、ピロリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩又はポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤を、微細粒子Aの特性に応じて適量加え、該溶媒と微細粒子Aとの割合(溶媒/微細粒子A)が、質量比で、好ましくは20/80〜45/55程度、さらに好ましくは25/75〜40/60程度となるように、微細粒子Aを添加して分散させる。微細粒子Aの分散には、例えば、通常の高速インペラー型の分散機を使用することができ、例えば、コーレス分散機、ハイスピードミキサー、ケディミル、スピードミル、ホモジナイザー等の湿式混合分散機等により、微細粒子Aの濃度が、好ましくは約55〜80%、さらに好ましくは約60〜75%の高濃度分散体が得られる。
【0052】
次いで、前記高濃度分散体に所定の割合で溶媒を添加して希釈し、得られた希釈分散体に直ちに微細粒子Bを添加する。そして、前記微細粒子Aの分散に用いたものと同様の分散機を用いて微細粒子Bを分散させ、微細粒子A及び微細粒子Bの混合分散スラリーを調製する。その際、微細粒子Bの特性に応じて、該微細粒子Bの高濃度分散に適した分散剤を適量添加することが好ましい。
【0053】
このように調製した混合分散スラリーにおいて、微細粒子Aの濃度と微細粒子Bの濃度との比(微細粒子Aの濃度/微細粒子Bの濃度)は、すなわちインク受容層塗料中の微細粒子Aと微細粒子Bとの割合で、15/85〜85/15、好ましくは20/80〜80/20であり、混合分散スラリーにおける微細粒子Aと微細粒子Bとの混合濃度は、約20〜52%であることが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法に従って微細粒子Aと微細粒子Bとを混合分散させた混合分散スラリーでは、微細粒子B単独のスラリーよりも粒子沈降が遅くなり、例えば流送配管内やメッシュで異物除去の濾過をする際に詰まりのリスクが軽減され、ハンドリングが向上するという利点がある。これに加え、従来の方法のように、平板結晶構造を有する無機微粒子である微細粒子Aの高濃度分散スラリーとシリカ粒子である微細粒子Bの高濃度分散スラリーとを調製し、これらを混合して使用すると、両分散スラリーの残液が生じるのに対して、本発明の製造方法に従って混合分散スラリーを調製すると、比較的安価な微細粒子Aには残量が生じるが、比較的高価な微細粒子Bには残量が生じないので、充分に低コスト化を図ることができるという利点もある。
【0055】
次に、前記混合分散スラリーに水溶性樹脂を添加することで、微細粒子A及び微細粒子Bの分散状態を保ったまま塗料化することができ、20〜45℃程度にて混合してインク受容層塗料を調製する。
【0056】
なお、水溶性樹脂としてCMCとPVAとを併用してインク受容層塗料を調製する場合、混合分散スラリーに対して、CMCよりも先にPVAを添加することが、塗工欠陥がより少なくなる効果が得られるという点で好ましい。これは、理由は定かではないが、遊離しているPVA量が多いほど、CMCによる被膜形成の阻害が生じ易く、微細粒子に、CMCよりも先にPVAを接触させることで、微細粒子に捕捉されるPVA量がより多くなり、CMCによる被膜形成の阻害が少なくなっていると考えられる。
【0057】
かくして得られるインク受容層塗料の固形分濃度には特に限定がないが、主要成分であるCMCの特性から、連続被膜を形成するためには、固形分濃度は高く、粘性も高い高分子量の方が好ましいが、これらはインク受容層塗料の粘度を上げてしまい塗工作業性とは相反することとなるという点から、実用上10〜22%程度であることが好ましい。インク受容層塗料の固形分濃度が10%未満では、基材にインク受容層塗料が浸透し易くなり、連続被膜を得るためにはインク受容層塗料の塗工量を多くする必要があるが、乾燥に伴う水分量が多くなり過ぎて、乾燥シワが発生する傾向がある。その結果、紙の見栄えが低下するだけでなく、インク転写時の熱伝達が紙クセにより不均一になる恐れがある。インク受容層塗料の固形分濃度が22%を超えると、インク受容層塗料の粘度が高くなり、通常の塗工方式ではインク受容層塗料の塗工量をコントロールすることが困難になる。
【0058】
そして、前記基材に前記インク受容層塗料を塗工し、該基材上に昇華型捺染インク受容層を形成させることにより、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙を製造することができる。
【0059】
インク受容層塗料を塗工する際、その方法には特に限定がないが、本発明の効果を効率よく達成するには、前記のごとく調製したインク受容層塗料を、例えば、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター等の公知の塗工機を用いて塗工することができる。これらの中でも、エアーナイフコーターを用いることが、充填剤として作用する微細粒子A、微細粒子Bの存在によるストリーク発生の抑制や、紙表面への輪郭塗工による均一な昇華型捺染インク受容層の形成の点で好ましい。
【0060】
インク受容層塗料の塗工量(乾燥)は、2〜12g/m
2の範囲であり、3〜10g/m
2の範囲であることが好ましい。該インク受容層塗料には、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子とともに、微細粒子Bであるシリカ粒子が含まれており、シリカ粒子は、親水性を有する二級クレーやデラミクレーに代表される平板結晶構造を有する無機微粒子よりも嵩高なので、より少ない塗工量で、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙の品質を向上させることができる。インク受容層塗料の塗工量が2g/m
2未満では、昇華型捺染インクの基材への染み込みによるコックリング(波打ち)が生じたり、インク受容層塗料で完全に基材を被覆することが難しく、微細な未塗工部分、すなわちピンホールといった塗工欠陥が発生し、この部分を通じて昇華型捺染インクが基材まで浸透すると、昇華型捺染インク受容層より昇華型捺染インクが昇華し難くなるため、転写画像の白抜けを発生させる等、画像の再現性が低下する。インク受容層塗料の塗工量が12g/m
2を超えると、昇華型捺染インクの印字、転写品質は塗工量の増加によってよくなるものの、熱転写時の熱伝達の際に、昇華型捺染インク受容層と基材とで、紙の縮みによる寸法変化度合が異なるために、カールや転写面の凹凸を生じる。これにより、布と紙との密着が不均一になり、転写濃度ムラを発生させる原因になる。また、部分的な塗工量の差異が大きくなるため、画像の再現性が低下する。
【0061】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、前記のとおり、基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されているものであるが、中でも、基材が広葉樹クラフトパルプを主成分として含むパルプからなり、基材の一方の面には、昇華型捺染インク受容層が形成されており、基材の他方の面には、水溶性樹脂を含有し、充填剤を含有しない樹脂組成物が、水溶性樹脂の固形分量が0.15〜3.5g/m
2となるように塗工されており、昇華型捺染インク受容層に含有されるCMCの15%溶液の、30℃における粘度が0.15〜1Pa・sであるものが、特に本発明の効果を大きく奏する。なお、前記主成分として含むとは、パルプ成分全量の50質量%以上を含むことをいう。
【0062】
基材の、昇華型捺染インク受容層が形成されていない側の面(裏面)に塗工される樹脂組成物は、昇華型捺染インク受容層を形成する際に用いられる水溶性樹脂と同様の水溶性樹脂を含有しているが、微細粒子A、微細粒子B等の充填剤を含有しない。これにより、特に少ない塗工量で水溶性樹脂による被膜を形成しやすいという効果が奏される。裏面の水溶性樹脂の被膜は、印字、転写時のカール防止だけに留まらず、昇華型捺染インクの裏面への抜けによる印字、転写時の設備の汚染を防止する効果もある。
【0063】
前記樹脂組成物は、水溶性樹脂の固形分量が0.15〜3.5g/m
2、さらには0.3〜2.5g/m
2となるように塗工されることが好ましい。これにより、水溶性樹脂の被膜形成によってインクの裏面への抜けによる印字、転写時の設備の汚染を防止する効果が充分に発現され、塗工量を多くし過ぎないことで必要以上に紙を硬くすることがなく、熱転写時の紙の縮みによるひずみから発生する紙面の凹凸やシワ入り傾向を防ぎ、転写濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0064】
また、昇華型捺染インク受容層に含有される、水溶性樹脂であるCMCについては、該CMCの15%溶液の、30℃における粘度が0.15〜1Pa・s、さらには0.2〜0.7Pa・sであることが好ましい。これにより、CMCの粘度が低いために、昇華型捺染インク受容層の塗工膜が千切れるといった現象を引き起こすことなく、連続被膜に欠陥が生じることがない。また逆に、CMCの粘度が高すぎて塗工が困難になり、粘度を低下させるために固形分を少なくすると、乾燥負荷がかかるほか、粘度を低下させるために長時間高温で保持すると、皮膜形成に悪影響を及ぼす恐れがある、といった点を回避することもできる。
【0065】
さらに、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙において、昇華型捺染インク受容層と基材との間にアンダー層が形成されており、該アンダー層が、昇華型捺染インク受容層の主要成分であるCMCを含有していることにより、特に本発明の効果が大きく奏される。
【0066】
昇華型捺染インク受容層と基材との間に、CMCが含有されたアンダー層が形成されていることにより、特に基材の表面と接する塗工直後の湿潤塗料の馴染みがよくなることで、より少ない塗工量でピンホールのない連続被膜が得られ易くなるという効果が奏される。
【0067】
アンダー層中のCMCの含有量には特に限定がないが、60〜100質量%程度であることが好ましい。
【0068】
なお、アンダー層を形成するためのアンダー層塗料には、CMCのほかに、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、各種ケン化度のPVAやそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種PVA誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子化合物といった成分が含有されていてもよく、アンダー層を設けることによる効果が阻害されない限り、特に限定はない。
【0069】
このように、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、特定の吸水度を有する基材上に、水溶性樹脂であるCMCと、充填剤である平板結晶構造を有する無機微粒子と、充填剤であるシリカ粒子とを特定の割合で含有するインク受容層塗料から、昇華型捺染インク受容層が形成されている。
【0070】
CMCは、平板結晶構造を有する無機微粒子及びシリカ粒子の接着剤としての役割を有し、ピンホールの遮断効果及びCMC自体の膨潤による昇華型捺染インクの捕捉効果を奏する。平板結晶構造を有する無機微粒子は、昇華型捺染インクの浸透遮断効果によって該昇華型捺染インクの紙残りを低減させ、転写画像の濃度を向上させる効果を奏する一方で、インク乾燥性には寄与せず、昇華型捺染インクの浸透を遮断するため、熱による昇華転写速度が高くなり、熱板と昇華型インクジェット捺染転写紙とを密着させる際に不均一な部分が生じると、転写画像の濃淡差を引き起こす場合がある。シリカ粒子は、昇華型捺染インクの捕捉効果が高く、インク乾燥性を向上させて、また昇華転写速度を低くすることで、熱の不均一な伝達により引き起こされる転写濃度の濃淡差を抑える一方、昇華型捺染インクの紙残り及び転写画像の濃度低下を引き起こす場合がある。したがって、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙に用いるインク受容層塗料では、CMC、平板結晶構造を有する無機微粒子及びシリカ粒子により、各々の効果が充分に発揮されるように、これら3つの成分が特定の割合で配合されている。
【0071】
よって、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インクジェット印刷の際に、昇華型捺染インクの乾燥性に優れ、インク受容層の剥離による紙面からの粉落ちが少ないだけでなく、被転写物への転写捺染の際に、昇華型インクジェット捺染転写紙への昇華型捺染インクの残量が少なく、また昇華型捺染インクの昇華転写速度を適度に低くすることで、昇華転写機での熱の伝わり方の若干のバラツキによる転写画像への影響を生じ難くすることが可能であり、画像の再現性、転写画像の解像性、転写画像の濃度レベル、これらの均一性等の被転写物への転写効率にも優れている。
【0072】
次に、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、配合における部数は、固形分の部数である。
【0073】
各製造例、調製例、実施例及び比較例で用いた成分は、以下のとおりである。
【0074】
(1)クラフトパルプ
・LBKP
広葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF):530ml
・NBKP
針葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF):580ml
【0075】
(2)水溶性樹脂
・CMC
セロゲン5A(第一工業製薬(株)製)
・PVA
クラレポバールPVA105((株)クラレ製、ケン化度:98〜99mol%、
重合度:500)
【0076】
(3)微細粒子A
・粒子−A
平板結晶構造を有する無機微粒子
二級クレー(メジアン径d50:0.7μm、アスペクト比:8)
【0077】
(4)微細粒子B
・粒子−B1
合成非晶質シリカ粒子
カープレックス80(DSL.ジャパン(株)製、平均粒子径:15.0μm)
・粒子−B2
合成非晶質シリカ粒子
ファインシールX−37B(OSCジャパン(株)製、平均粒子径:3.7μm)
【0078】
製造例1(基材の製造)
LBKP 85質量%とNBKP 15質量%とを配合し、助剤として、クラフトパルプ全量100質量部に対して、カチオン化デンプンを0.8質量部、アルキルケテンダイマー(内添サイズ剤)を1.1質量部、アニオン変性ポリアクリルアマイドを0.3質量部添加して紙料を調製した。この紙料を抄紙機で抄紙し、坪量が100g/m
2、JIS P 8119に準拠したベック平滑度が100秒、JIS P 8140に準拠した10秒コッブ吸水度が10g/m
2のクラフト紙を製造した(以下、基材−1という)。
【0079】
製造例2〜4(基材の製造)
クラフト紙の10秒コッブ吸水度が表1に示す値となるように、アルキルケテンダイマー(内添サイズ剤)の量を調整したほかは、製造例1と同様にしてクラフト紙を製造した(以下、各々基材−2〜基材−4という)。表1に、各クラフト紙の坪量及びベック平滑度を併せて示す。
【0081】
調製例1(インク受容層塗料の調製)
水溶性樹脂としてCMCを、微細粒子Aとして粒子−Aを、微細粒子Bとして粒子−B1を、溶媒として水を用いた。水溶性樹脂(固形分)と微細粒子Aと微細粒子Bとの割合(水溶性樹脂:微細粒子A:微細粒子B)は、質量比で、200:75:25である。
【0082】
まず、水30質量部に対して粒子−Aの割合が70質量部となるように調整し、水に粒子−Aを添加して分散させ、70%の高濃度分散体を得た。次いで、該高濃度分散体45.0質量部に水44.5質量部を添加して希釈分散体を調製し、直ちに粒子−B1 10.5質量部を添加して分散させ、混合分散スラリーを調製した。得られた混合分散スラリー中、粒子−Aの濃度は31.5%、粒子−B1の濃度は10.5%、両者の混合濃度は42.0%であった。
【0083】
次に、前記混合分散スラリーにCMCを添加して混合し、固形分濃度が17.5%のインク受容層塗料を調製した(以下、塗料−1という)。
【0084】
調製例2〜6(インク受容層塗料の調製)
組成及び各成分の添加割合を表2に示すように変更したほかは、調製例1と同様にして、表3に示す固形分濃度を有するインク受容層塗料を調製した(以下、各々塗料−2〜塗料−6という)。
【0086】
比較調製例1(比較塗料の調製)
水溶性樹脂としてCMCを、微細粒子Aとして粒子−Aを、溶媒として水を用いた。水溶性樹脂(固形分)と微細粒子Aとの割合(水溶性樹脂:微細粒子A)は、質量比で、200:100である。
【0087】
まず、調製例1と同様にして、微細粒子Aの分散スラリーである希釈分散体を調製した。次に、該分散スラリーにCMCを添加して混合し、固形分濃度が18.0%の比較塗料を調製した(以下、比較塗料−1という)。
【0088】
比較調製例2〜3(比較塗料の調製)
組成を表4に示すように変更したほかは、比較調製例1と同様にして、表5に示す固形分濃度を有する比較塗料を調製した(以下、各々比較塗料−2〜比較塗料−3という)。
【0089】
比較調製例4(比較塗料の調製)
水溶性樹脂としてCMCを、微細粒子Bとして粒子−B1を、溶媒として水を用いた。水溶性樹脂(固形分)と微細粒子Bとの割合(水溶性樹脂:微細粒子B)は、質量比で、200:100である。
【0090】
まず、微細粒子Aの替わりに微細粒子Bを用いたほかは、比較調製例1と同様にして、微細粒子Bの分散スラリーである希釈分散体を調製した。次に、該分散スラリーにCMCを添加して混合し、固形分濃度が16.0%の比較塗料を調製した(以下、比較塗料−4という)。
【0091】
比較調製例5〜8(比較塗料の調製)
組成を表4に示すように変更したほかは、比較調製例4と同様にして、表5に示す固形分濃度を有する比較塗料を調製した(以下、各々比較塗料−5〜比較塗料−8という)。
【0092】
なお、比較調製例5、6では、分散スラリーに対して、CMCよりも先にPVAを添加して比較塗料を調製した。
【0093】
比較調製例9〜12(比較塗料の調製)
組成及び各成分の添加割合を表4に示すように変更したほかは、調製例1と同様にして、表5に示す固形分濃度を有する比較塗料を調製した(以下、各々比較塗料−9〜比較塗料−12という)。
【0095】
実施例1(昇華型インクジェット捺染転写紙の製造)
エアーナイフコーターを用い、基材−1の片面に、塗工量(乾燥)が8g/m
2になるように塗料−1を塗工し、約130℃で乾燥して昇華型捺染インク受容層を形成させ、昇華型インクジェット捺染転写紙を製造した。
【0096】
実施例2〜6及び比較例1〜14(昇華型インクジェット捺染転写紙の製造)
基材及び塗料の種類を表6に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして、昇華型インクジェット捺染転写紙を製造した。
【0098】
試験例
得られた昇華型インクジェット捺染転写紙について、以下の方法に従って特性を調べた。その結果を表7に示す。
【0099】
なお、インクジェット記録評価は、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン(株)製、EP407A型)及び昇華型捺染インク((株)パワーシステム製、EPSON用昇華インクSU−110シリーズ)を用い、「普通紙+きれい」の設定モードにて各評価用の画像を印字した。また、被転写物には、ポリエステル布素材を使用した。画像の転写は、昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで印字した画像と、ポリエステル布素材とを密着させ、190℃で90秒間保持して熱転写することにより行った。
【0100】
(1)インク乾燥性
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで黒ベタ印字をした直後、印字面をテッシュペーパーで擦り、拭取った際に、紙面上のインクの伸びの有無を目視で確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:乾燥が非常に早く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが全くない。
4:乾燥が早く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが殆どない。
3:乾燥が若干遅く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが僅かに認められるが、実用上問題はない。
2:乾燥が遅く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが認められる。
1:乾燥が非常に遅く、装置汚れや印字部の汚れが認められ、拭取り後の紙面上でインクの伸びが長く、使用不可である。
【0101】
(2)インク残量
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで赤100%+黄100%のベタ印字を行い、190℃で90秒間保持してポリエステル布素材への熱転写を行った。その後、昇華型インクジェット捺染転写紙に残ったインクの濃度及び布素材への転写濃度を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:紙面にはインクがわずかに残っている程度であり、布素材への転写濃度も高い。
4:紙面にはインクが残っているが、布素材への転写濃度にはほとんど影響が見られない。
3:紙面に残っているインクは少し濃度が高いが、布素材への転写濃度は「評価4」と比較して少し低下が感じられる程度で、実用上問題はない。
2:紙面に残っているインクは濃度が高く、布素材への転写濃度も「評価3」と比較して大きく低下している。
1:紙面に残っているインクはかなり濃度が高く、布素材への転写濃度は単独で見ても明らかに低下している。
【0102】
(3)画像濃度再現性
デジタル画像の各昇華型インクジェット捺染転写紙紙面への画像濃度再現性を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:原版との濃度の差異が認められず、画像濃度再現性に優れている。
4:原版との濃度の差異が殆ど認められず、画像濃度再現性が良好である。
3:原版との濃度の差異が僅かに認められ、画像濃度再現性にやや劣るが、実用上問題はない。
2:原版との濃度の差異が多く認められ、画像濃度再現性に劣り、使用不可である。
1:原版との濃度の差異が著しく、画像濃度再現性が殆どなく、使用不可である。
【0103】
(4)画像濃淡ムラ
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで赤100%+黄100%のベタ印字を行い、昇華型インクジェット捺染転写紙とポリエステル布素材とフェルト基布とをこの順に重ね、フェルト基布には切れ込み傷を付けて熱伝達が不均一になり易い状態にしたうえで、190℃で15秒間保持して布素材への熱転写を行った。その後、フェルト基布の切れ込み傷に該当する位置での、布素材への転写画像の濃淡の有無を確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:切れ込み傷の影響は全く見られない。
4:切れ込み傷の深い部分で僅かに薄い残像が見られるが、傷の浅い部分では残像は見られない。
3:切れ込み傷の深い部分で形状がほぼ分かり、傷の浅い部分でも形状が薄らと確認できるが、実用上問題はない。
2:切れ込み傷の深い部分だけでなく、傷の浅い部分でも形状が分かる。
1:切れ込み傷が明らかな濃淡として現れ、傷の浅い部分でもはっきりと形状が分かる。
【0104】
(5)粉落ち
各昇華型インクジェット捺染転写紙の昇華型捺染インク受容層の表面に、粉の付着を判別し易い透明で巾15mm程度の市販のセロハンテープ(ニチバン(株)製、No.405)を、長さ5cm程度に渡って2kgローラーで1往復して圧着させた後、転写紙本体が破れてしまわない速さで引き剥がした。剥がしたセロハンテープの糊面を目視にて観察して塗料の粉が付着しているか否かを調べ、粉落ちを以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価「優」が実用レベルである。
(評価基準)
優:粉落ちが認められない。
劣:僅かでも粉落ちが認められる。
【0105】
(6)総合評価
以下の評価基準に基づいて総合評価した。
(評価基準)
○:前記(1)〜(5)において、全て実用レベルである。
×:前記(1)〜(5)において、実用レベルを満たさないものが1つでもある。
【0107】
実施例1〜6の昇華型インクジェット捺染転写紙は、10秒コッブ吸水度が5〜20g/m
2の基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されたものであり、この昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂であるCMCと、充填剤である平板結晶構造を有する無機微粒子と、充填剤であるシリカ粒子とを特定の割合で含有するインク受容層塗料から形成されている。
【0108】
したがって、実施例1〜6の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インクジェット印刷時のインク乾燥性に優れ、紙面からの粉落ちがないだけでなく、被転写物への転写捺染時の捺染転写紙へのインク残量が少なく、被転写物への転写濃度も高く、画像濃度再現性に優れ、画像濃淡ムラが小さい。すなわち、実施例1〜6の昇華型インクジェット捺染転写紙は、いずれも実用レベルを満足し得るもので、優れた特性を兼備している。
【0109】
これに対して、比較例1〜3の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Bが配合されていないインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性に劣り、画像濃淡ムラも大きい。また比較例3の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Aに対するCMCの配合量が少ないインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、紙面からの粉落ちも認められる。
【0110】
比較例4〜8の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Aが配合されていないインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、捺染転写紙へのインク残量が多いうえに、被転写物への転写濃度が低く、画像濃度再現性にも劣る。また比較例6の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Bに対するCMCの量が多いインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性にも劣る。さらに比較例8の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Bに対するCMCの量が少ないインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、紙面からの粉落ちも認められる。
【0111】
比較例9、10の昇華型インクジェット捺染転写紙は、微細粒子Aと微細粒子Bとの割合(微細粒子A/微細粒子B)が85/15を超える(比較例9)か、15/85未満(比較例10)のインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性に劣り、画像濃淡ムラも大きいか(比較例9)、捺染転写紙へのインク残量が多いうえに、被転写物への転写濃度が低く、画像濃度再現性にも劣る(比較例10)。
【0112】
比較例11の昇華型インクジェット捺染転写紙は、CMCの量が微細粒子Aと微細粒子Bとの合計量100質量部に対して400質量部を超えるインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性に劣り、画像濃淡ムラが大きい。
【0113】
比較例12の昇華型インクジェット捺染転写紙は、CMCの量が微細粒子A100質量部に対して50質量部と微細粒子B100質量部に対して120質量部との合計未満のインク受容層塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、紙面からの粉落ちが認められる。
【0114】
比較例13、14の昇華型インクジェット捺染転写紙は、基材の10秒コッブ吸水度が5g/m
2未満である(比較例13)か、20g/m
2を超える(比較例14)ので、インク残量が多く、被転写物への転写濃度も低く、画像濃度再現性に劣り、画像濃淡ムラが大きいか(比較例13)、インク乾燥性に劣り、インク残量が多く、被転写物への転写濃度も低く、画像濃度再現性に劣り、画像濃淡ムラが大きい(比較例14)。