特許第6689069号(P6689069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689069
(24)【登録日】2020年4月9日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】戸挟み検知装置及び引き戸装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/42 20150101AFI20200421BHJP
   E05F 15/632 20150101ALI20200421BHJP
   B61D 19/02 20060101ALI20200421BHJP
   B66B 13/26 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   E05F15/42
   E05F15/632
   B61D19/02 T
   B66B13/26 B
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-244802(P2015-244802)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-125340(P2016-125340A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-263798(P2014-263798)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩士
(72)【発明者】
【氏名】平野 幸一
【審査官】 藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−248826(JP,A)
【文献】 特開2001−055866(JP,A)
【文献】 特開2007−255092(JP,A)
【文献】 特開2011−148567(JP,A)
【文献】 実開昭55−157575(JP,U)
【文献】 米国特許第05280754(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00−15/79
B61D 19/02
B66B 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置であって、
前記引き戸の戸先に回動自在に設けられた回動体と、
前記回動体の回動を検出する回動検出手段と、
前記回動検出手段からの検出信号を受信した場合に、前記戸挟み状態が発生したと判定する戸挟み状態判定手段と、
を備え、
前記回動体は、前記戸先に沿って配置された回動軸を中心に回動し、前記引き戸の開方向にスライド移動自在であり、
前記回動体の前記スライド移動を検出するスライド移動検出手段を備え、
前記戸挟み状態判定手段は、前記引き戸が閉じた状態となる前に前記スライド移動検出手段からの検出信号を受信した場合に、前記戸挟み状態が発生したと判定することを特徴とする戸挟み検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の戸挟み検知装置と、
前記引き戸と、
前記引き戸の閉方向に存在する構造体と、
を備えることを特徴とする引き戸装置。
【請求項3】
前記回動体は、その側面が円筒面をなし、
前記構造体の前記回動体と対向する対向部分には、前記引き戸が閉じた状態において当該回動体の側面と嵌合する溝部が形成されていることを特徴とする請求項に記載の引き戸装置。
【請求項4】
前記回動体は、
前記溝部と嵌合する部位が露出するように構成され、
前記引き戸が閉じた状態において前記露出部位が前記対向部分に覆われた状態となることを特徴とする請求項に記載の引き戸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置及び当該戸挟み検知装置を備えた引き戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両やエレベータなどの出入口を開閉する引き戸装置において、引き戸が閉じる際に人体の一部や物(以下単に「物」という。)が挟まってしまう戸挟み状態の発生を検知するために、様々な戸挟み検知装置が提案されている。
具体的には、例えば、開方向に変位することによって車両の出入口を開くとともに、閉方向に変位することによって車両の出入口を閉じる戸板の戸先部、及び出入口を閉じたときに戸先部が対向する戸当たり部のうち少なくともいずれか一方に設けられ、密閉された内部空間に流体が封入される可撓性を有する緩衝体と、緩衝体の内部空間内の流体の圧力を検出する圧力検出手段と、内部空間の流体の検出圧力が予め定める圧力よりも大きいとき、戸挟み信号を出力する戸挟み判定手段とを含む戸挟み検知装置が提案されている(特許文献1参照)。
また、例えば、引き戸に用いられる戸挟み検知装置において、引き戸の閉方向に存在する物体に当接し、引き戸の閉方向とは反対方向に変位可能な物体当接部と、物体当接部の変位量に基づいて戸挟みを検知する戸挟み検知部と、を備え、物体当接部は、戸挟み検知部により戸挟みを検知した後もさらに変位する戸挟み検知装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−55138号公報
【特許文献2】特開2001−55866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、戸挟み状態には“乗客が車両等の外側にいる戸挟み状態”と“乗客が車両等の内側にいる戸挟み状態”とがある。
具体的には、例えば、乗客が車両等の外側にいる状態(すなわち車両等から降りている状態)で戸挟み状態が発生して、引き戸に挟まった物を引き抜くことができない場合、そのまま車両等が動くと当該乗客が車両等に引きずられて事故につながる虞がある。また、乗客が車両等の内側にいる状態(すなわち車両等に乗っている状態)で戸挟み状態が発生して、引き戸に挟まった物を引き抜くことができない場合、当該物が杖等の場合には、そのまま車両等が動くと当該物が車両等の外側にいる人等に接触して事故につながる虞がある。
【0005】
従来の戸挟み検知装置は、引き戸に挟まった物が引き戸を開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するように構成されている。具体的には、特許文献1記載の戸挟み検知装置は、引き戸に挟まった物が引き戸を開方向に押す力を、戸先部及び戸当たり部のうち少なくとも一方が受けた圧力に基づき検出して戸挟み状態の発生を検知するように構成されている。また、特許文献2記載の戸挟み検知装置は、引き戸に挟まった物が引き戸を開方向に押す力を、引き戸の閉方向とは反対方向に変位可能な物体当接部の変位量に基づき検出して戸挟み状態の発生を検知するように構成されている。
したがって、戸挟み状態の発生を確実に検知するために、引き戸に挟まった物が薄い物(服の裾、布製の鞄等)や細い物(傘の石突き、杖等)である場合でも当該物が引き戸を開方向に押す力を検出できるように検出精度を向上させると、戸挟み状態の発生を過剰に検知してしまって、列車やエレベータなどの運行を必要以上に妨げてしまうという問題がある。一方、戸挟み状態の発生を過剰に検知しないように検出精度を低下させると、薄い物や細い物が挟まった場合に戸挟み状態の発生を検知できないという問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置及び当該戸挟み検知装置を備えた引き戸装置において、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の戸挟み検知装置は、
引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置であって、
前記引き戸の戸先に回動自在に設けられた回動体と、
前記回動体の回動を検出する回動検出手段と、
前記回動検出手段からの検出信号を受信した場合に、前記戸挟み状態が発生したと判定する戸挟み状態判定手段と、
を備え、
前記回動体は、前記戸先に沿って配置された回動軸を中心に回動し、前記引き戸の開方向にスライド移動自在であり、
前記回動体の前記スライド移動を検出するスライド移動検出手段を備え、
前記戸挟み状態判定手段は、前記引き戸が閉じた状態となる前に前記スライド移動検出手段からの検出信号を受信した場合に、前記戸挟み状態が発生したと判定するように構成されている。
【0008】
したがって、引き戸に挟まった物が引き戸を開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するのではなく、引き戸に挟まった物が引っ張られたことに伴う変化を検出して戸挟み状態の発生を検知するので、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
またこのように、引き戸が閉じた状態となる前に、引き戸に挟まった物が引き戸を開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するように構成することによって、戸挟み状態発生の過剰検知を抑制しつつ、様々な事故を回避することが可能となる。
【0013】
また、本発明の引き戸装置は、
前記戸挟み検知装置と、
前記引き戸と、
前記引き戸の閉方向に存在する構造体と、
を備えるように構成されている。
【0014】
したがって、引き戸に挟まった物が引っ張られたことに伴う変化を検出して戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置を備えているので、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
【0017】
好ましくは、
前記回動体は、その側面が円筒面をなし、
前記構造体の前記回動体と対向する対向部分には、前記引き戸が閉じた状態において当該回動体の側面と嵌合する溝部が形成されているように構成することが可能である。
【0018】
このように構成することによって、回動体と対向部分とが面で接するので、戸挟み状態の発生を高精度に検知することができる。
【0019】
好ましくは、
前記回動体は、
前記溝部と嵌合する部位が露出するように構成され、
前記引き戸が閉じた状態において前記露出部位が前記対向部分に覆われた状態になるように構成することが可能である。
【0020】
このように構成することによって、引き戸が閉じた状態において回動体を対向部分で隠すことができるので、乗客等による回動体に対するいたずらを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の引き戸装置の一例を示す図である。
図2】第1実施形態の引き戸装置の構成の一例を示す図である。
図3】第1実施形態の戸挟み検知装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の戸挟み検知処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態の引き戸装置の構成の一例を示す図である。
図6】第2実施形態の戸挟み検知装置の構成の一例を示すブロック図である。
図7】第2実施形態の戸挟み検知処理の一例を示すフローチャートである。
図8】第3実施形態の引きずり検知処理の一例を示すフローチャートである。
図9】第3実施形態の引きずり検知処理の一変形例を示すフローチャートである。
図10】引き戸装置の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照しつつ、本発明にかかる戸挟み検知装置及び引き戸装置の実施形態について説明する。なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0024】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態の戸挟み検知装置20及び引き戸装置1について説明する。
【0025】
<引き戸装置>
図1は、本発明の引き戸装置1の一例を示す図である。
引き戸装置1は、鉄道車両に設置されており、左側の鉄道車両用ドア10L(以下「左側ドア10L」という。)及び右側の鉄道車両用ドア10R(以下「右側ドア10R」という。)と、戸挟み検知装置20と、を備えて構成される。
【0026】
左側ドア10L及び右側ドア10Rは、一つの出入口(乗降口)に対になって設けられており、それぞれが反対方向にスライド移動することによって開閉する。例えば、図1に示すドア10L,10Rは閉じた状態(以下「ドア閉状態」という。)となっているが、左側ドア10Lが左方向にスライド移動し、右側ドア10Rが右方向にスライド移動することによって、ドア10L,10Rは開いた状態(以下「ドア開状態」という。)となる。
すなわち、左側ドア10Lにおいては、左方向が開方向となり、右方向が閉方向となる。また、右側ドア10Rにおいては、右方向が開方向となり、左方向が閉方向となる。
【0027】
図2は、第1実施形態の引き戸装置1の構成の一例を示す図であって、図2(a)は正面図であり、図2(b),(c)は断面図である。
右側ドア10Rの戸先には、当該戸先に回動自在に設けられた回動体21と、回動体21の回動を検出する回動検出器22と、が設けられており、左側ドア10Lの戸先には、回動体受部11が設けられている。
ドア10L,10Rの間に物が挟まってしまう戸挟み状態が発生した場合、乗客等は当該物を引き抜こうと当該物を引っ張る。回動体21は、右側ドア10Rの戸先に沿って配置された回動軸Xを中心に回動するように構成されており、当該物と接触しているため、当該物が引っ張られると、それに伴い回動する。したがって、回動体21の回動を検出することで、戸挟み状態の発生を検出することができる。
【0028】
ここで、戸挟み状態が発生した場合には、当該戸挟み状態が“乗客が車両等の内側にいる戸挟み状態”であるか“乗客が車両等の外側にいる戸挟み状態”であるかにかかわらず、乗客等は危険を察知して挟まった物を引き抜こうとするため、当該物が引っ張られる。したがって、挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出することで、戸挟み状態の発生を検知することができる。
また、回動体21が回動した場合にのみ戸挟み状態の発生を検知するため、戸挟み状態の発生を過剰に検知してしまうことを抑制することができる。
また、挟まった物が薄い物や細い物であっても、当該物を容易に引き抜くことができない場合には、当該物が引っ張られると、それに伴い回動体21は回動するため、戸挟み状態の発生を高感度に検知する(すなわち、挟まった物が薄い物や細い物であっても戸挟み状態の発生を検知する)ことができる。
さらに、このように、一方側の戸先(本実施形態では右側ドア10Rの戸先)には回動体21を回動自在に設け、他方側の戸先(本実施形態では左側ドア10Lの戸先)にはこの回動体21を受ける固定状態の回動体受部11を設けることにより、戸挟み状態が発生した際に、乗客等が挟まった物を引き抜きやすい構成となっている。
すなわち、固定状態の部材同士が戸先部分において当接している場合には、戸挟み状態が発生した際に、摩擦力が発生する中で挟まった物を引き抜かなければならないため、かなりの力が必要となるとともに、挟まった物が薄い布等である場合には引き抜こうとした際に当該物が引き裂かれてしまうおそれもある。この点、上記のように一方側を回転体21とすることにより、摩擦力が発生しにくく、乗客等が挟まった物を引っ張った際に、回転体21が回転して円滑に挟まった物を引き抜くことができ、容易に戸挟み状態を解消することができる。
【0029】
右側ドア10Rの戸先に設けられた回動体21は、硬質ゴム等からなるローラ部21aと、当該ローラ部21aの軸心に挿通され当該ローラ部21aと一体的に回動する軸部21bと、からなり、右側ドア10Rの戸先に沿って配設されている。すなわち、回動体21の側面は、円筒面をなしている。
右側ドア10Rの戸先には、回動体21を保護するための回動体保護部12が取り付けられており、回動体保護部12には、回動体21を支持するための回動体支持部13が取り付けられている。
【0030】
回動体支持部13は、図2(a)に示すように、ドア10L,10Rの高さ方向(上下方向)から見て略コ字状に形成されている。具体的には、回動体支持部13は、回動体21を上下から挟持する挟持部13aと、上下の挟持部13aを連結する連結部13bと、からなる。
上下の挟持部13aのうち下側の挟持部13aには、回動体21の軸部21bを挿入するための穴が設けられており、当該下側の挟持部13aは、回動体21を軸支している。
また、上下の挟持部13aのうち上側の挟持部13aには、回動検出器22が取り付けられており、当該上側の挟持部13aは、回動検出器22を介して回動体21を支持している。
【0031】
回動体保護部12は、図2(b)に示すように、ドア10L,10Rの厚さ方向から見て略コ字状に形成されており、その内面に、回動体支持部13の連結部13bが接合されている。
回動体21は、回動体支持部13によって回動自在に支持された状態、かつ、当該回動体21の側面の一部が露出した状態で、回動体保護部12内に収容されている。
なお、回動体保護部12の形状や大きさは図示例に限定されない。例えば回動体保護部12は、図示例よりもさらに回動体21における回動体受部11との接触側端部に向かって延在していてもよい。回動体保護部12が回動体21における回動体受部11との接触側端部に向かって延在している場合には、乗客等が回動体21に不用意に触れたりいたずらをするリスクを低減させることができる。
【0032】
右側ドア10Rの戸先に設けられた回動検出器22は、ロータリーエンコーダであり、回動体支持部13の上側の挟持部13aに、入力軸22aを下に向けた状態で固定されている。入力軸22aは回動体21の軸部21bと連結されており、回動体21が回動すると入力軸22aも回動する。すなわち、回動検出器22が、回動体21の回動を検出する回動検出手段をなす。
なお、回動検出器22は、ロータリーエンコーダに限定されるものではなく、回動体21の回動を検出可能であれば、適宜変更可能である。
【0033】
左側ドア10Lの戸先に設けられた回動体受部11は、硬質ゴム等からなり、当該戸先に沿って配設されている。回動体受部11には、ドア閉状態において回動体21の側面(具体的には、回動体21の側面のうち回動体保護部12から露出している露出部位)と嵌合する溝部11aが、当該戸先に沿って形成されている。したがって、図2(c)に示すように、ドア閉状態において、回動体21と回動体受部11とは面で接する。
【0034】
なお、回動体受部11を、相手側に向かって凹状に湾曲した形状ではなく、既存の鉄道車両用ドアの戸先ゴムと同様、相手側に向かって凸状に湾曲するように形成して、回動体21と回動体受部11とが線で接するように構成することも可能であるが、戸挟み状態の発生を高精度に検知する観点から、回動体21と回動体受部11とは面で接するように構成することが好ましい。
すなわち、回動体21と回動体受部11とが面で接する場合、線で接する場合に比べて、ドア10L,10Rの間に挟まった物と回動体21との接触面積が大きくなる。挟まった物と回動体21との接触面積が大きいほど、当該物を引っ張る力が効率よく回動体21に伝達されるため、回動体21と回動体受部11とが面で接する場合、線で接する場合に比べて、戸挟み状態の発生を高精度に検知することができる。
【0035】
さらに、回動体受部11の溝部11aは、ドア閉状態になると、図2(c)に示すように、回動体21の側面の露出部位が当該溝部11aに嵌まって回動体受部11に覆われた状態となるように構成されている。これにより、ドア閉状態において、回動体21を回動体受部11で隠すことができるので、乗客等による回動体21に対するいたずらを防止することができる。
【0036】
<戸挟み検知装置>
図3は、第1実施形態の戸挟み検知装置20の構成の一例を示すブロック図である。
戸挟み検知装置20は、回動体21と、回動検出器22と、ドア間隔取得部23と、制御部24と、を備えて構成される。回動検出器22は、回動体21の回動を検出した場合に検出信号を制御部24に出力する。
【0037】
ドア間隔取得部23は、左側ドア10Lと右側ドア10Rとの間の距離、すなわちドア間隔D(図2(a)参照)に関するドア間隔情報を取得して制御部24に出力する。ドア間隔取得部23は、例えば、光波や超音波などを用いてドア間隔Dを計測することによってドア間隔情報を取得するものであってもよいし、ドア10L,10Rを開閉させるためのモータの回転数等に基づいてドア間隔Dを算出することによってドア間隔情報を取得するものであってもよい。
【0038】
制御部24は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えるコンピュータである。ROMには、各種データ及びプログラムが記憶されている。CPUが指定されたプログラムをROMから読み出してRAMに展開し、展開されたプログラムとCPUとの協働によって、制御部24が各種処理を行う。
【0039】
具体的には、制御部24は、戸挟み検知処理等を行う。
図4は、第1実施形態の戸挟み検知処理の一例を示すフローチャートである。制御部24は、ドア10L,10Rを閉めるために操作される“ドア閉スイッチ”が押下された場合に、当該戸挟み検知処理を実行する。
【0040】
制御部24は、まず、ドア間隔取得部23からのドア間隔情報に基づいて、ドア間隔Dが一定値(例えば2cm)以下になったか否かを判定する(ステップS1)。
ステップS1で、ドア間隔Dが一定値以下になっていないと判定した場合(ステップS1;No)には、ステップS1の処理を繰り返して行う。
一方、ステップS1で、ドア間隔Dが一定値以下になったと判定した場合(ステップS1;Yes)には、回動検出器22を有効とする(ステップS2)。
【0041】
次いで、制御部24は、回動検出器22が回動体21の回動を検出したか否かを判定する(ステップS3)。
ステップS3で、回動検出器22が回動体21の回動を検出したと判定した場合(ステップS3;Yes)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信した場合には、戸挟み状態が発生したと判定して、ドア再開扉指令信号を出力する(ステップS4)。これにより、ドア10L,10Rが再開扉するため、ステップS1の処理に戻る。
すなわち、制御部24が、回動検出手段(回動検出器22)からの検出信号を受信した場合に、戸挟み状態が発生したと判定する戸挟み状態判定手段をなす。
【0042】
一方、ステップS3で、回動検出器22が回動体21の回動を検出していないと判定した場合(ステップS3;No)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信していない場合には、ドア閉状態になったか否かを判定する(ステップS5)。
なお、ドア閉状態になったか否かは、ドア間隔取得部23からのドア間隔情報に基づいて判定することも可能であるし、既設のセンサ(ドア閉状態になったことを検出するためのセンサ)からの検出信号に基づいて判定することも可能である。
【0043】
ステップS5で、ドア閉状態になっていないと判定した場合(ステップS5;No)には、ステップS3の処理に戻る。ここで、“ドア閉スイッチ”が押下された後、ドア閉状態になるまで、ドア10L,10Rを閉方向へと移動させるためにドアモータが回転し続けるが、戸挟み状態等が発生してドアモータへの負荷が規定値を超える場合には、ドア再開扉指令信号が出力されて、ドア10L,10Rが再開扉するため、この場合には、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS5で、ドア閉状態になったと判定した場合(ステップS5;Yes)には、回動検出器22が回動体21の回動を検出したか否かを判定する(ステップS6)。
ここで、ドア10L,10Rは、既存の鉄道車両用ドアと同様、ドア10L,10Rの間に遊びが設けられていて、ドア閉状態になっても互いにぴたりと接しないように設計されている。したがって、ドア10L,10Rの間に挟まった物によっては、戸挟み状態が発生したままドア閉状態になる場合がある。したがって、ドア閉状態になったと判定した後も、一定時間の間、回動体21の回動を検出したか否か判定することで、戸挟み状態の発生を確実に検知することが可能となる。
【0044】
ステップS6で、回動検出器22が回動体21の回動を検出したと判定した場合(ステップS6;Yes)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信した場合には、戸挟み状態が発生したと判定し、ドア再開扉指令信号を出力して(ステップS4)、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS6で、回動検出器22が回動体21の回動を検出していないと判定した場合(ステップS6;No)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信していない場合には、ドア閉状態になってから一定時間(例えば2秒間)が経過したか否かを判定する(ステップS7)。
【0045】
ステップS7で、ドア閉状態になってから一定時間が経過していないと判定した場合(ステップS7;No)には、ステップS6の処理に戻る。
一方、ステップS7で、ドア閉状態になってから一定時間が経過したと判定した場合(ステップS7;Yes)には、回動検出器22を無効として(ステップS8)、発車許可信号を出力する(ステップS9)。これにより、鉄道車両の外装部に設置されている“側灯”が点灯状態から消灯状態に切り替わるとともに、列車の運転室に設置されている“パイロットランプ”が消灯状態から点灯状態に切り替わる。
【0046】
以上説明した第1実施形態の戸挟み検知装置20によれば、引き戸(右側ドア10R)が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置であって、引き戸の戸先に回動自在に設けられた回動体21と、回動体21の回動を検出する回動検出手段(回動検出器22)と、回動検出手段からの検出信号を受信した場合に、戸挟み状態が発生したと判定する戸挟み状態判定手段(制御部24)と、を備え、回動体21は、戸先に沿って配置された回動軸Xを中心に回動するように構成されている。
【0047】
したがって、ドア10L,10Rの間に挟まった物がドア10L,10Rを開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するのではなく、ドア10L,10Rの間に挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出して戸挟み状態の発生を検知するので、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
すなわち、挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出することで、戸挟み状態の発生を検知することができる。
また、回動体21が回動した場合にのみ戸挟み状態の発生を検知するため、戸挟み状態の発生を過剰に検知してしまうことを抑制することができる。
また、挟まった物が薄い物や細い物であっても、当該物を容易に引き抜くことができない場合には、当該物が引っ張られると、それに伴い回動体21は回動するため、戸挟み状態の発生を高感度に検知することができる。
【0048】
以上説明した第1実施形態の引き戸装置1によれば、戸挟み検知装置20と、引き戸(右側ドア10R)と、引き戸の閉方向に存在する構造体(左側ドア10L)と、を備えるように構成されている。
【0049】
したがって、ドア10L,10Rの間に挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出して戸挟み状態の発生を検知する戸挟み検知装置20を備えているので、戸挟み状態発生の過剰検知の抑制と、戸挟み状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
【0050】
また、第1実施形態の引き戸装置1によれば、回動体21は、その側面が円筒面をなし、構造体(左側ドア10L)の回動体21と対向する対向部分(回動体受部11)には、引き戸が閉じた状態(ドア閉状態)において当該回動体21の側面と嵌合する溝部11aが形成されているように構成することが可能である。
【0051】
このように構成することによって、回動体21と対向部分(回動体受部11)とが面で接するので、戸挟み状態の発生を高精度に検知することができる。
【0052】
また、第1実施形態の引き戸装置1によれば、回動体21は、溝部11aと嵌合する部位が露出するように構成され、引き戸が閉じた状態(ドア閉状態)において露出部位が対向部分(回動体受部11)に覆われた状態となるように構成することが可能である。
【0053】
このように構成することによって、引き戸が閉じた状態(ドア閉状態)において回動体21を対向部分(回動体受部11)で隠すことができるので、乗客等による回動体21に対するいたずらを防止することができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の戸挟み検知装置20及び引き戸装置1について説明する。
第2実施形態の戸挟み検知装置20及び引き戸装置1は、回動体21の回動に加えて、回動体21のスライド移動を検出する点が、第1実施形態の戸挟み検知装置20及び引き戸装置1と異なる。したがって、以下、第1実施形態と同様の構成を有する部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0055】
図5は、第2実施形態の引き戸装置1の構成の一例を示す図であって、図5(a)は正面図であり、図5(b),(c)は断面図である。
第2実施形態の左側ドア10Lは、第1実施形態の左側ドア10Lと同様の構成を有する。
【0056】
第2実施形態の右側ドア10Rは、回動体21が、当該右側ドア10Rの開方向(右方向)にスライド移動自在である点が、第1実施形態の右側ドア10Rと異なる。
具体的には、第2実施形態において、回動体支持部13は、当該回動体支持部13を右側ドア10Rの閉方向(左方向)に付勢する付勢部材14を介して、回動体保護部12に取り付けられている。したがって、回動体支持部13は、当該回動体支持部13によって支持されている回動体21に付勢部材14の付勢力に抗する力が作用すると、図5(c)に示すように、回動体21とともに、右側ドア10Rの開方向(右方向)にスライド移動する。
ここで、右側ドア10Rには、回動体支持部13のスライド移動をガイドするガイド部(図示省略)が設けられており、付勢部材14の付勢力に抗する力が回動体21に対して均一に作用しなくても、回動体21及び回動体支持部13が右側ドア10Rの開方向(右方向)に平行移動するように構成されている。
【0057】
また、第2実施形態の右側ドア10Rは、回動体21のスライド移動を検出するスライド移動検出器25を備える点が、第1実施形態の右側ドア10Rと異なる。
なお、本実施形態では、スライド移動検出器25として、回動体21を支持する回動体支持部13の変位量を計測する接触式の変位計を用いたが、スライド移動検出器25は、これに限定されるものではなく、回動体21のスライド移動を検出可能であれば、適宜変更可能である。
【0058】
図6は、第2実施形態の戸挟み検知装置20の構成の一例を示すブロック図である。
第2実施形態の戸挟み検知装置20は、スライド移動検出器25を備えている点が、第1実施形態の戸挟み検知装置20と異なる。スライド移動検出器25は、回動体21のスライド移動を検出した場合に検出信号を制御部24に出力する。
【0059】
図7は、第2実施形態の戸挟み検知処理の一例を示すフローチャートである。制御部24は、ドア10L,10Rを閉めるために操作される“ドア閉スイッチ”が押下された場合に、当該戸挟み検知処理を実行する。
【0060】
制御部24は、まず、ドア間隔取得部23からのドア間隔情報に基づいて、ドア間隔Dが一定値(例えば2cm)以下になったか否かを判定する(ステップS1)。
ステップS1で、ドア間隔Dが一定値以下になっていないと判定した場合(ステップS1;No)には、ステップS1の処理を繰り返して行う。
一方、ステップS1で、ドア間隔Dが一定値以下になったと判定した場合(ステップS1;Yes)には、スライド移動検出器25を有効とする(ステップS11)。
【0061】
次いで、制御部24は、スライド移動検出器25が回動体21のスライド移動を検出したか否かを判定する(ステップS12)。
ステップS12で、スライド移動検出器25が回動体21のスライド移動を検出したと判定した場合(ステップS12;Yes)、すなわちスライド移動検出器25からの検出信号を受信した場合には、戸挟み状態が発生したと判定し、ドア再開扉指令信号を出力して(ステップS4)、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS12で、スライド移動検出器25が回動体21のスライド移動を検出していないと判定した場合(ステップS12;No)、すなわちスライド移動検出器25からの検出信号を受信していない場合には、ドア閉状態になったか否かを判定する(ステップS5)。
【0062】
ステップS5で、ドア閉状態になっていないと判定した場合(ステップS5;No)には、ステップS12の処理に戻る。
一方、ステップS5で、ドア閉状態になったと判定した場合(ステップS5;Yes)には、スライド移動検出器25を無効とする(ステップS13)。
すなわち、制御部24は、引き戸が閉じた状態(ドア閉状態)となる前にスライド移動検出手段(スライド移動検出器25)からの検出信号を受信した場合に、戸挟み状態が発生したと判定するように構成されている。
【0063】
次いで、制御部24は、回動検出器22を有効として(ステップS2)、回動検出器22が回動体21の回動を検出したか否かを判定する(ステップS6)。
ステップS6で、回動検出器22が回動体21の回動を検出したと判定した場合(ステップS6;Yes)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信した場合には、戸挟み状態が発生したと判定し、ドア再開扉指令信号を出力して(ステップS4)、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS6で、回動検出器22が回動体21の回動を検出していないと判定した場合(ステップS6;No)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信していない場合には、ドア閉状態になってから一定時間(例えば2秒間)が経過したか否かを判定する(ステップS7)。
【0064】
ステップS7で、ドア閉状態になってから一定時間が経過していないと判定した場合(ステップS7;No)には、ステップS6の処理に戻る。
一方、ステップS7で、ドア閉状態になってから一定時間が経過したと判定した場合(ステップS7;Yes)には、回動検出器22を無効として(ステップS8)、発車許可信号を出力する(ステップS9)。
【0065】
以上説明した第2実施形態の戸挟み検知装置20によれば、回動体21は、引き戸(右側ドア10R)の開方向にスライド移動自在であり、回動体21のスライド移動を検出するスライド移動検出手段(スライド移動検出器25)を備え、戸挟み状態判定手段(制御部24)は、引き戸が閉じた状態(ドア閉状態)となる前にスライド移動検出手段からの検出信号を受信した場合に、戸挟み状態が発生したと判定するように構成されている。
【0066】
したがって、ドア閉状態となる前に、ドア10L,10Rの間に挟まった物がドア10L,10Rを開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するので、戸挟み状態発生の過剰検知を抑制しつつ、様々な事故を回避することが可能となる。
戸挟み状態が発生してドア閉状態となる前に回動体21がスライド移動した場合、そのままドア閉状態とするために無理やりドア10L,10Rを閉方向へと移動させると、挟まった物が損傷してしまう事故が発生する可能性がある。すなわち、ドア閉状態となる前に回動体21がスライド移動するような戸挟み状態は、怪我や破損などの事故につながる可能性が高い。ドア閉状態となった以降に回動体21がスライド移動するような戸挟み状態が発生した場合には、挟まった物が引っ張られる可能性が高く、挟まった物が引っ張られた場合には回動体21の回動が検出されるため、見逃すことはない。
よって、ドア10L,10Rの間に挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出して戸挟み状態の発生を検知することに加えて、ドア閉状態となる前にドア10L,10Rの間に挟まった物がドア10L,10Rを開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知することによって、戸挟み状態の発生を過剰に検知することを防止しつつ、引きずり事故や接触事故だけでなく、怪我や破損などの事故も回避することが可能となる。
【0067】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の引きずり検知装置及び引き戸装置1について説明する。
第3実施形態の引きずり検知装置は、第1実施形態の戸挟み検知装置20(図3参照)を、引きずり検知装置として機能させるものである。
第3実施形態の引きずり検知装置及び引き戸装置1は、第1実施形態と同様の構成を有し、制御部24(図3参照)による制御構成のみを異にするものである。
したがって、以下、第1実施形態と同様の構成を有する部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0068】
引きずり検知装置は、引き戸が閉じた後に回動検出手段(回動検出器22)からの検出信号を受信した場合に、引きずり状態が発生したと判定する引きずり状態判定手段を備えており、本実施形態では、制御部24(図3参照)が、この引きずり状態判定手段として機能する。
図8は、第3実施形態の引きずり検知処理の一例を示すフローチャートである。制御部24は、ドア10L,10Rを閉めるために操作される“ドア閉スイッチ”が押下された場合に、当該引きずり検知処理を実行する。
【0069】
なお、図8におけるステップS1からステップS7までの処理は、第1実施形態においてステップS1からステップS7(図4参照)として説明したものと同様であるため、図4と同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
本実施形態においては、ステップS7で、ドア閉状態になってから一定時間が経過したと判定した場合(ステップS7;Yes)には、制御部24は、発車許可信号を出力する(ステップS9)。これにより、鉄道車両の外装部に設置されている“側灯”が点灯状態から消灯状態に切り替わるとともに、列車の運転室に設置されている“パイロットランプ”が消灯状態から点灯状態に切り替わる。
【0070】
発車許可信号が出力されると、制御部24は、回動検出器22が回動体21の回動を検出したか否かを判定する(ステップS21)。
ステップS21で、回動検出器22が回動体21の回動を検出したと判定した場合(ステップS21;Yes)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信した場合には、制御部24は、引きずり状態等が発生したと判定する。
すなわち、この場合、列車が発車した後に回動体21の回動が検出される状態が発生していることを意味している。具体的には、例えばホームに降りた乗客の荷物等が列車の戸先に挟まれて、これを引き抜こうとしていたり、乗客が荷物等を戸先に挟まれたまま発車した列車に引きずられているような状態が発生しているおそれがある。
このため、引きずり状態等が発生したと判定した場合には、制御部24は、当該状態を乗務員に報知する信号を出力して(ステップS22)、引きずり検知処理を終了する。この場合には、報知を受けた乗務員等により、列車を緊急停車させる手続等が取られる。
【0071】
一方、ステップS21で、回動検出器22が回動体21の回動を検出していないと判定した場合(ステップS21;No)、すなわち回動検出器22からの検出信号を受信していない場合には、発車許可信号の出力(ステップS9参照)から一定時間(例えば10秒間)が経過したか否かを判定する(ステップS23)。
乗客の荷物等が戸先に挟まれたまま列車が発車した場合でも、列車の発車から10秒間程度は荷物等を挟まれた乗客が列車と並走することが考えられる。乗客が並走している間は、挟まれた物を引き抜こうとする力がそれほど大きくかからないために回動体21があまり回動せず、回動が検出されない可能性がある。これに対して、10秒間程度経過して乗客が列車と並走できずに引きずり状態となると、荷物等が挟まれている戸先に大きな力が加わり、回動体21が検出可能な程度に大きく回動する。このようなプロセスを考慮して、本実施形態では、発車許可信号の出力から10秒間程度は回動検出器22が回動体21の回動を検出したか否かの判定を制御部24が継続するようになっている。
なお、「一定時間」は10秒間に限定されず、製品の仕様等により適宜設定される。
「一定時間」を長くすれば、それだけ引きずり状態の検知を長時間行うことができるが、引きずり状態が長時間継続していれば、引きずり検知装置による検知に頼らなくても駅員等の職員が引きずり状態に気づくと考えられる。他方で、回動検出器22を有効にした状態では乗客等のいたずらにより回動検出器22からの検出信号が出力されて、不必要な緊急停止等により列車の運行が阻害されるおそれがある。このため、「一定時間」は上記のような事情を考慮して適宜適切な時間が設定される。
【0072】
ステップS23で、発車許可信号の出力から一定時間が経過していないと判定した場合(ステップS23;No)には、ステップS21の処理に戻る。
一方、ステップS23で、発車許可信号の出力から一定時間が経過したと判定した場合(ステップS23;Yes)には、制御部24は、回動検出器22を無効として(ステップS24)、引きずり検知処理を終了する。
発車許可信号の出力から一定時間経過後に回動検出器22を無効とすることで、引きずり状態等は適切に検出可能であるとともに、列車走行中のいたずら等により、列車が不必要な緊急停止を余儀なくされる事態を防ぎ、安定した列車の運行を行うことができる。
【0073】
なお、ステップS23において判断される一定時間の経過は、発車許可信号の出力を起点にするものに限定されない。
例えば、発車許可信号の出力後、実際に列車のモータ等が駆動を開始した時点を起点として一定時間の経過を判断してもよい。
【0074】
以上説明した第3実施形態の引きずり検知装置(戸挟み検知装置20)によれば、引き戸(右側ドア10R)が閉じた後に引きずり状態の発生を検知する引きずり検知装置であって、引き戸の戸先に回動自在に設けられた回動体21と、回動体21の回動を検出する回動検出手段(回動検出器22)と、引き戸が閉じた後に回動検出手段からの検出信号を受信した場合に、引きずり状態が発生したと判定する引きずり状態判定手段(制御部24)と、を備え、回動体21は、戸先に沿って配置された回動軸Xを中心に回動するように構成されている。
【0075】
したがって、ドア10L,10Rの間に挟まった物がドア10L,10Rを開方向に押す力を検出して戸挟み状態の発生を検知するのではなく、ドア10L,10Rの間に挟まった物が引き戸(右側ドア10R)が閉じた後に引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出して引きずり状態の発生を検知するので、引きずり状態発生の過剰検知の抑制と、引きずり状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
すなわち、挟まった物が引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出することで、引きずり状態の発生を検知することができる。
また、回動体21が回動した場合にのみ引きずり状態の発生を検知するため、引きずり状態の発生を過剰に検知してしまうことを抑制することができる。
また、挟まった物が薄い物や細い物であっても、当該物を容易に引き抜くことができない場合には、当該物が引っ張られると、それに伴い回動体21は回動するため、引きずり状態の発生を高感度に検知することができる。
【0076】
なお、上記第3実施形態では、第1実施形態に示した構成の戸挟み検知装置20を引きずり検知装置として機能させる場合を例示したが、引きずり検知装置として機能させる戸挟み検知装置20はこれに限定されない。
例えば、第2実施形態に示したような、回動体21の回動に加えて、回動体21のスライド移動を検出する戸挟み検知装置20(図6参照)を引きずり検知装置として機能させてもよい。
この場合には、図9に示すように、回動体21のスライド移動の検出を行った後、回転体21の回動検出を行う。
なお、図9におけるステップS1からステップS7までの処理は、第2実施形態においてステップS1からステップS7(図7参照)として説明したものと同様であるため、図7と同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
また、図9におけるステップS9からステップS24までの処理は、第3実施形態においてステップS9からステップS24(図8参照)として説明したものと同様であるため、図8と同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
【0077】
回動体21の回動に加えて、回動体21のスライド移動を検出する第2実施形態における戸挟み検知装置20を引きずり検知装置として機能させた場合にも、第3実施形態において述べたのと同様に、ドア10L,10Rの間に挟まった物が引き戸(右側ドア10R)が閉じた後に引っ張られたことに伴う変化(回動体21の回動)を検出して引きずり状態の発生を検知するので、引きずり状態発生の過剰検知の抑制と、引きずり状態発生の高感度検知の実現と、を両立することができる。
すなわち、回動体21が回動した場合にのみ引きずり状態の発生を検知するため、引きずり状態の発生を過剰に検知してしまうことを抑制することができる。
また、挟まった物が薄い物や細い物であっても、当該物が引っ張られると回動体21は回動するため、引きずり状態の発生を高感度に検知することができる。
【0078】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。また、前述の実施形態の各構成を組み合わせて適用しても良い。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0079】
具体的には、第1実施形態から第3実施形態において、回動体21の構造等は、前述のものに限定されず、適宜変更可能である。
また、第1実施形態から第3実施形態において、回動検出器22の構造、配設位置、個数等は、前述のものに限定されず、適宜変更可能である。
また、第1実施形態から第3実施形態において、回動体21や回動検出器22を左側ドア10Lに設けて、回動体受部11を右側ドア10Rに設けてもよい。すなわち、左側ドア10Lを引き戸とし、右側ドア10Rを構造体としてもよい。
また、第2実施形態及び第3実施形態において、回動体21のスライド機構、スライド移動検出器25の構造、配置位置、個数等は、前述のものに限定されず、適宜変更可能である。
【0080】
また、第1実施形態及び第2施形態においては、回動体受部11が中実の部材である場合を例示したが、回動体受部11の構成はこれに限定されない。
例えば、図10(a)及び図10(b)に示すように、回動体受部15の内部であって回動体21との当接側に近い部分に、回動体受部15の長手方向に沿って空洞部15bを設けてもよい。
回動体受部15の内部に空洞部15bを設けることによって、回動体21が回動体受部15の溝部15aに当接した際に、空洞部15b部分の空気層が変形する(図10(b)参照)ことでクッションとなる。このため、回動体受部15を形成する材料が同じであっても空洞部15bがない場合と比較して回動体受部15を回動体21に対してより柔軟に密接させることができ、回動体21の回動をより高精度に検知することが可能となる。
そして、このように回動体受部15に柔軟性を持たせることによって、戸挟み状態が発生した際に、戸先に挟まれた物をより円滑に引き抜くことも可能となる。
なお、空洞部15bの形状や大きさは図示例に限定されない。
空洞部15bが大きいほど回動体受部15の柔軟性を向上させることができるが、他方で回動体受部15をめくり上げることが容易となるため、乗客等による回動体21に対するいたずらのリスクが高まる。
このため、製品の仕様等により回動体受部15に求められる柔軟性の程度に応じて適宜空洞部15bの形状や大きさを決定することが好ましい。
【0081】
また、第1実施形態及び第2施形態では、回動体受部11に溝部11aが設けられている場合を例示したが、回動体受部11に溝部11aが設けることは必須ではない。
例えば、図10(c)及び図10(d)に示すように、回動体受部16を既存の鉄道車両用ドアの戸先ゴムと同様、相手側に向かって凸状に湾曲するように形成し、回動体受部16の内部であって回動体21との当接側に近い部分に、回動体受部16の長手方向に沿って空洞部16aを設けてもよい。
この場合には、回動体受部16における回動体21との接触側の形状が凸状であっても、回動体21が回動体受部15に当接した際には、空洞部16a部分の空気層が変形する(図10(d)参照)ことで回動体受部16における回動体21との接触側が押し潰される。これにより、回動体受部16における回動体21との接触側が回動体21の表面形状に沿う凹状となり、回動体21と回動体受部16とを面で接触させることができる。
なお、この場合も、空洞部16aの形状や大きさは図示例に限定されない。
空洞部16aが大きいほど回動体受部16の柔軟性、回動体21が当接した際の変形性を向上させることができ、戸先に挟まれた物の引き抜きが容易となるが、他方で上記と同様に乗客等による回動体21に対するいたずらのリスクが高まる。
このため、製品の仕様等により回動体受部16に求められる柔軟性や変形具合の程度に応じて適宜空洞部16aの形状や大きさを決定することが好ましい。
【0082】
なお、回動体受部15に柔軟性を持たせる構成は、上記のように内部に空洞部15b,16aを設けるものに限定されず、回動体受部15を形成する材料として軟性の樹脂を用いる等、材質を調整することによって行ってもよい。
また、材質の調整と空洞部15b,16aの形成とを組み合わせて、回動体受部15の柔軟性をより細かく調整し、適正化を図ってもよい。
【0083】
また、引き戸装置1は、両開きの引き戸を備えるものに限定されず、片開きの引き戸を備えるものであってもよい。この場合、戸当たり部材が、引き戸の閉方向に存在する構造体をなす。
また、戸挟み検知装置20及び引きずり検知装置は、両開きの引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知したり、両開きの引き戸が閉じた後に引きずり状態の発生を検知するものに限定されず、片開きの引き戸が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知したり、片開きの引き戸が閉じた後に引きずり状態の発生を検知するものであってもよい。
【0084】
また、引き戸装置1は、鉄道車両に設置されるものに限定されず、例えば、プラットホームドア装置、エレベータ装置、自動ドア装置等に設置されていてもよい。
また、戸挟み検知装置20及び引きずり検知装置は、鉄道車両用ドアが閉じる際に戸挟み状態の発生を検知したり、鉄道車両用ドアが閉じた後に引きずり状態の発生を検知するものに限定されず、例えば、プラットホームドア装置、エレベータ装置、自動ドア装置等の可動部(ドア部)が閉じる際に戸挟み状態の発生を検知したり、これらの可動部(ドア部)が閉じた後に引きずり状態の発生を検知するものであってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 引き戸装置
10R 右側ドア(引き戸)
10L 左側ドア(構造体)
11 回動体受部(対向部分)
11a 溝部
20 戸挟み検知装置(引きずり検知装置)
21 回動体
22 回動検出器(回動検出手段)
24 制御部(戸挟み状態判定手段、引きずり状態判定手段)
25 スライド移動検出器(スライド移動検出手段)
X 回動軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10