(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689077
(24)【登録日】2020年4月9日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】エチレン分解剤
(51)【国際特許分類】
B01J 29/03 20060101AFI20200421BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20200421BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20200421BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20200421BHJP
F25D 23/00 20060101ALI20200421BHJP
A23L 3/358 20060101ALI20200421BHJP
A23B 7/14 20060101ALN20200421BHJP
【FI】
B01J29/03 A
B01J35/10 301F
B01J37/18
B01D53/86 280
F25D23/00 302Z
A23L3/358
!A23B7/14
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-253796(P2015-253796)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-113721(P2017-113721A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】笠間 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】横山 卓司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亘
(72)【発明者】
【氏名】柳野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】南部 宏暢
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−274924(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/037026(WO,A1)
【文献】
特開2013−039543(JP,A)
【文献】
特開2014−043381(JP,A)
【文献】
特開2007−185623(JP,A)
【文献】
特開2012−081458(JP,A)
【文献】
特開2012−055826(JP,A)
【文献】
特開2001−187343(JP,A)
【文献】
特開平07−016473(JP,A)
【文献】
FUKUOKA, Atsushi et al.,Preferential Oxidation of Carbon Monoxide Catalyzed by Platinum Nanoparticles in Mesoporous Silica,Journal of The American Chemical Society,2007年 7月31日,Vol.129, No.33,p.10120-10125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
A23L 3/358
A23B 7/14
B01D 53/86
F25D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、ロジウム、ルテニウム、およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属又は貴金属含有化合物を担持した多孔質シリカを含む、30℃以下の雰囲気下でエチレンを分解するためのエチレン分解剤の製造方法であって、前記多孔質シリカの平均細孔直径が0.5〜15nmであり、前記多孔質シリカの比表面積が300〜2000m2/gであり、前記多孔質シリカがメソポーラスシリカであり、製造工程において貴金属原料に対して水素を用いて還元処理する工程を有する、エチレン分解剤の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属又は貴金属含有化合物の含有量が0.1〜5質量%であり、前記貴金属又は貴金属含有化合物が、粒径が0.5〜25nmの粒子状である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記貴金属又は貴金属含有化合物が、粒径が1〜4nmの粒子状である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン分解剤が、X線回折において37°<2θ<42°の位置に回折ピークを有しない、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
30℃以下の雰囲気下で、エチレンと請求項1〜4いずれか記載の製造方法で得られたエチレン分解剤とを接触させてエチレンを分解する、エチレンの分解方法。
【請求項6】
金、ロジウム、ルテニウム、およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属又は貴金属含有化合物を担持した多孔質シリカを含む、30℃以下の雰囲気下でエチレンを分解して植物の鮮度を保持する鮮度保持剤の製造方法であって、前記多孔質シリカの平均細孔直径が0.5〜15nmであり、前記多孔質シリカの比表面積が300〜2000m2/gであり、前記多孔質シリカがメソポーラスシリカであり、製造工程において貴金属原料に対して水素を用いて還元処理する工程を有する、鮮度保持剤の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属又は貴金属含有化合物の含有量が0.1〜5質量%であり、前記貴金属又は貴金属含有化合物が、粒径が0.5〜25nmの粒子状である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記貴金属又は貴金属含有化合物が、粒径が1〜4nmの粒子状である、請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
前記鮮度保持剤が、X線回折において37°<2θ<42°の位置に回折ピークを有しない、請求項6〜8いずれか記載の製造方法。
【請求項10】
30℃以下の雰囲気下で、エチレンと請求項6〜9いずれか記載の製造方法で得られた鮮度保持剤とを接触させてエチレンを分解する、植物の鮮度保持方法。
【請求項11】
請求項1〜4いずれか記載の製造方法で得られたエチレン分解剤、又は請求項6〜9いずれか記載の製造方法で得られた鮮度保持剤を備える、物品。
【請求項12】
袋、容器、フィルター、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナ、空調機、車両、船舶、又は航空機である、請求項11記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン分解剤、鮮度保持剤、及びこれらを備えた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンは、野菜、果実、花等の農産品にとって色づきや軟化といった成熟を促進する。このため、鮮度保持という観点ではエチレンは有害物質である。冷蔵冷凍庫や果物保存倉庫においてエチレンを除去することが鮮度保持のために重要である。
【0003】
エチレン除去の従来法としては、紫外線照射による直接分解、活性炭等の吸着剤による吸着除去、酸化チタンに代表される光触媒による除去等の方法が挙げられる。しかしながら、紫外線照射による直接分解では、紫外線発生装置が必要であり、電力を消費する。活性炭等による吸着除去では、エチレンを吸着させた後の吸着剤を回収・再生したりする作業が必要である。光触媒を利用してエチレンを分解する場合は、紫外光等の照射が必須となる。
【0004】
そこで、上記方法以外に、光照射を要さない触媒燃焼反応によるエチレンの分解が提案されている。特許文献1及び非特許文献1には、光照射を必要としないエチレン触媒燃焼反応のために、担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子(白金コロイド由来)とを担持した触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−229559号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】今中 信人、増井 敏行、寺田 麻子、今津 隼人、「Chemistry Letters」、2008年、第37巻、p.42−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に記載されている触媒は、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物という特殊な複合酸化物を必須の構成として含む。このため、触媒の性能や用途について種々展開するための改良や材料展開の余地が大きいとは言いがたい。
【0008】
また、従来の金属触媒によるエチレン分解は、100℃以上の高温下で行われるのが当業者の技術常識であり、日常生活での利用は実質不可能であると考えられている。
【0009】
こういった状況に鑑みて、本発明の課題は、エチレンの触媒分解反応に用いる触媒として、性状や性能等を制御し易く、入手や調製が容易であり、さらに低温での継続的な使用が可能なエチレン分解剤及び該分解剤を用いたエチレンの分解方法、植物の鮮度保持剤及び鮮度保持方法、並びにこれらを備えた物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
[1]30℃以下の雰囲気下でエチレンを分解するためのエチレン分解剤であって、金、ロジウム、ルテニウム、およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属又は貴金属含有化合物を担持した多孔質シリカを含む、エチレン分解剤、
[2]30℃以下の雰囲気下で、エチレンと[1]記載のエチレン分解剤とを接触させてエチレンを分解する、エチレンの分解方法、
[3]30℃以下の雰囲気下で、エチレンを分解して植物の鮮度を保持する鮮度保持剤であって、金、ロジウム、ルテニウム、およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属又は貴金属含有化合物を担持した多孔質シリカを含む、鮮度保持剤、
[4]30℃以下の雰囲気下で、エチレンと[3]記載の鮮度保持剤とを接触させてエチレンを分解する、植物の鮮度保持方法、および
[5][1]記載のエチレン分解剤、又は[3]記載の植物の鮮度保持剤を備える、物品に関する。
【発明の効果】
【0011】
性状や性能等を制御し易く、入手や調製が容易であり、さらに低温での継続的な使用が可能な本発明のエチレン分解剤を用いることにより、効率よく、エチレンを分解することができる。また、本発明のエチレン分解剤を鮮度保持剤として用いることにより、植物の鮮度を長期にわたって保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各実施例で使用した担体および比較例のエチレン分解剤の粉末X線回折において0°<2θ<8°の位置の回折パターンを示すグラフである。
【
図2】各実施例、比較例のエチレン分解剤の粉末X線回折において30°<2θ<50°の位置の回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエチレン分解剤は、特定の貴金属又は貴金属含有化合物を担持した多孔質シリカを含むものである。
【0014】
本発明における多孔質シリカとは、多孔質構造を持つケイ素酸化物を主成分とする物質を意味する。
【0015】
多孔質シリカの平均細孔直径は、分解反応の進行を促進する観点から、0.5nm以上が好ましく、貴金属を粒子状で担持する観点から、15nm以下が好ましい。これらの観点から、多孔質シリカの平均細孔直径は、好ましくは0.5〜15nm、より好ましくは0.5〜10nmである。本発明において、多孔質シリカの平均細孔直径は、窒素吸脱着によるBJH法により算出することができる。
【0016】
多孔質シリカの比表面積は、貴金属等の担持量を高める観点から、300m
2/g以上が好ましく、製造が実現可能である観点から、2000m
2/g以下が好ましい。これらの観点から、多孔質シリカの比表面積は、好ましくは300〜2000m
2/g、より好ましくは600〜1500m
2/gである。本発明において、多孔質シリカの比表面積は、窒素吸脱着によるBET法により算出することができる。
【0017】
多孔質シリカの全細孔容積は、エチレンとの接触効率向上の観点から、0.4cm
3/g以上が好ましく、製造が実現可能である観点から、3.0cm
3/g以下が好ましい。これらの観点から、多孔質シリカの全細孔容積は、好ましくは0.4〜3.0cm
3/g、より好ましくは0.5〜1.5cm
3/gである。本発明において、多孔質シリカの全細孔容積は、窒素吸脱着によるBET法により算出することができる。
【0018】
さらに、多孔質シリカは、X線回折のd間隔が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有することが好ましい。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。従って、2.0nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が2.0nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。このように規則的に配列した細孔をもつ多孔質シリカを、本発明においては、メソポーラスシリカともいう。d間隔は、好ましくは2.0〜25.0nm、より好ましくは3.0〜20.0nmである。本発明において、多孔質シリカのX線回折パターンはX線源にCuKα線を用いた粉末X線回折装置により測定することができる。
【0019】
多孔質シリカの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次のようにして製造できる。まず、無機原料と有機原料を混合し、反応させることにより、有機物を鋳型としてそのまわりに無機物の骨格が形成された有機物と無機物の複合体を形成させる。次いで、得られた複合体から有機物を除去することにより、多孔質シリカが得られる。
【0020】
無機原料としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のアルコキシシラン、ケイ酸ソーダ、カネマイト(kanemite、NaHSi
2O
5・3H
2O)、シリカ、シリカ−金属複合酸化物等が挙げられる。これらの無機原料はシリケート骨格を形成する。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
鋳型として使用される有機原料は、特に限定されるものではないが、例えば界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム(好ましくはアルキル基の炭素数が8〜18のアルキルトリメチルアンモニウム)、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物又は水酸化物の他、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
無機原料と有機原料を混合する場合、適当な溶媒を用いることができる。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等が挙げられる。
【0023】
無機物と有機物の複合体の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、有機原料を溶媒に溶解後、無機原料を添加し、所定のpHに調製した後に、反応混合物を所定の温度に保持して縮重合反応を行う方法が挙げられる。縮重合反応の反応温度は使用する有機原料や無機原料の種類や濃度によって異なるが、通常0〜100℃程度が好ましく、より好ましくは35〜80℃である。
【0024】
縮重合反応の反応時間は、通常1〜24時間程度が好ましい。また、上記の縮重合反応は、静置状態、撹拌状態のいずれで行ってもよく、またそれらを組み合わせて行ってもよい。
【0025】
縮重合反応後に得られる複合体から有機原料を除去することによって、多孔質シリカが得られる。有機物と無機物の複合体からの有機物の除去は、400〜800℃で焼成する方法、水やアルコール等の溶媒で処理する方法等の方法により行うことができる。
【0026】
本発明において、多孔質シリカは、細孔容積の観点から、細孔が規則的に配列したメソポーラスシリカであることが好ましい。メソポーラスシリカは、例えば、珪酸ソーダを、界面活性剤を含む水溶液中に分散させ、加熱撹拌しながら塩酸を添加して分散液のpHを調整し、得られた固形生成物を洗浄・乾燥した後、400〜800℃程度で焼成することにより得られる。
【0027】
本発明において、多孔質シリカに担持される貴金属としては、金、ロジウム、ルテニウム、およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、低温でのエチレン分解活性の観点から、パラジウムが好ましい。多孔質シリカに担持される貴金属含有化合物としては、これらの貴金属を含有する、貴金属塩化物、貴金属酸化物、貴金属水酸化物、及び貴金属酸塩のほかに、異種の貴金属同士またはその他金属との合金等が挙げられる。
【0028】
本発明において、多孔質シリカに担持された貴金属又は貴金属含有化合物の粒子は、触媒活性の観点から、好ましくは0.5〜25nmであり、より好ましくは0.5〜15nmであり、さらに好ましくは0.5〜7nmであり、さらに好ましくは1〜4nmである。
【0029】
本発明のエチレン分解剤における貴金属又は貴金属含有化合物の含有量は、触媒活性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、製造コストの観点から、5質量%以下が好ましい。これらの観点から、貴金属又は貴金属含有化合物の含有量は、エチレン分解剤中、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%である。
【0030】
本発明において、多孔質シリカに担持された貴金属又は貴金属含有化合物は、X線回折において、回折角2θが37〜42°の位置にピークを有しないことが好ましい。上記位置のX線回折ピークは、担持された貴金属又は貴金属含有化合物粒子の(111面)に起因するピークであり、このピークが検出されないことは、粒子が微細であり、かつ粒子径がおおよそ5nmを超える大きな粒子が存在していないことを意味する。本発明において、エチレン分解剤のX線回折パターンはX線源にCuKα線を用いた粉末X線回折装置により測定することができる。
【0031】
多孔質シリカに貴金属又は貴金属含有化合物を担持させたエチレン分解剤は、例えば、貴金属原子を含む貴金属化合物、貴金属錯体等の貴金属原料と多孔質シリカとの混合物を還元することにより得られる。具体的には、例えば、貴金属原料を含む水溶液を調製し、多孔質シリカを含浸させ、乾燥した後、還元して、多孔質シリカに貴金属又は貴金属含有化合物を担持させたエチレン分解剤を得ることができる。
【0032】
貴金属の原料は、特に限定されるものではないが、例えば金属塩化物や金属酸塩、錯体化合物等が挙げられる。具体的には、金原料としては、塩化金、塩化金酸等が、ロジウム原料としては塩化ロジウム、硝酸ロジウム等が、ルテニウム原料としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム等が、パラジウム原料としては、塩化パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、酢酸パラジウム等が挙げられる。
【0033】
貴金属原料を含む水溶液に含浸した多孔質シリカを乾燥させるための温度条件は、特に限定されないが、50〜200℃程度が好ましい。
【0034】
還元方法としては、還元剤、熱、光等で処理する方法を用いることができ、貴金属原料が分解して貴金属粒子を生成する条件を適宜設定する。過度の処理は生成した貴金属粒子のシンタリングによる粒子径の増大の可能性があるため、適当な条件の設定が必要である。
【0035】
例えば、塩化金酸、塩化ロジウム、塩化パラジウム、塩化ルテニウムなどを用いた場合、還元剤として水素を使用し、100〜400℃の温度条件下で、処理することが好ましい。
【0036】
貴金属又は貴金属含有化合物は、これらが粒子成長により粗大な粒子となると触媒活性が低下するため、多孔質シリカの細孔外よりも細孔内に担持されていることが好ましい。細孔外に担持(付着)した貴金属又は貴金属粒子は、流水等により洗浄除去することができる。
【0037】
本発明のエチレン分解剤は、従来の金属触媒によるエチレン分解が、100℃以上の高温下で行われるのが当業者の技術常識であるのに対し、室温などの低温度域でも、エチレンの分解を持続することができる。
【0038】
そこで、本発明では、本発明のエチレン分解剤を用いたエチレンの分解方法として、酸素の存在下、30℃以下の雰囲気下で、エチレンと本発明のエチレン分解剤とを接触させて、エチレンを分解する方法を提供する。本発明のエチレン分解剤は前記エチレンの分解方法に用いるためのものである。
【0039】
なお、下記のエチレンの触媒の分解反応において、従来はアセトアルデヒド(CH
3CHO)や酢酸(CH
3COOH)までの分解が一般的であったが、本発明のエチレン分解剤では、二酸化炭素と水にまで分解することができる。
【0041】
本発明のエチレン分解剤は、前記の如く、従来エチレンの触媒燃焼反応による分解に用いられている触媒に比べて、低温度条件でもエチレンを分解することができる。
【0042】
本発明のエチレン分解剤を使用する温度条件は、30℃以下であり、さらには担持する貴金属のいずれにおいても25℃以下で使用することができる。例えば、金、ロジウムを用いる場合は、0〜25℃や、10〜25℃で使用することができる。ルテニウムを用いる場合は、10〜25℃で使用することができる。パラジウムを使用する場合は、25〜−20℃、さらには25〜−40℃でも使用することができる。
【0043】
エチレンは、果物、野菜、花等の様々な植物から放出されるものであり、放出されたエチレンは、植物の腐敗を促進する作用をもつ。また、冷蔵冷凍下で果物、野菜、花等の鮮度を保って保管や輸送を行う社会的要請は大きい。これに対し、本発明のエチレン分解剤は低温下でも、エチレンを効率よく分解することができるだけでなく、分解により生成した二酸化炭素により、植物の呼吸活動が抑制され、植物の老化が抑制される。従って、本発明のエチレン分解剤は、植物の鮮度保持剤として極めて有用である。
【0044】
よって、本発明は、本発明のエチレン分解剤を植物の鮮度保持剤として用いる方法、即ち、酸素の存在下、30℃以下の雰囲気下で、植物から放出されるエチレンと本発明の鮮度保持剤とを接触させて、エチレンを分解する、植物の鮮度保持方法をさらに提供する。本発明の植物の鮮度保持剤は前記鮮度保持方法に用いるためのものである。
【0045】
この植物の鮮度保持方法は、植物から放出されるエチレンの分解に用いる以外は、前記エチレンの分解方法と同様である。
【0046】
本発明のエチレン分解剤及び植物の鮮度保持剤は、特に植物の鮮度保持が要求される様々な物品に備えることができる。本発明のエチレン分解剤及び植物の鮮度保持剤を備えた物品の具体例としては、植物の保管又は輸送に用いられる物品、例えば、袋、容器、フィルター、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナ、空調機、車両、船舶、航空機等のものが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0048】
実施例1、2、4〜7
表1に示す担体と貴金属の組み合わせで、担体1.0gを50mLの水に懸濁させ、貴金属担持量が1.0質量%になるように貴金属源を含む水溶液(Au:[HAuCl
4・4H
2O aq.]、Rh:[RhCl
3・3H
2O aq.]、Pd:[PdCl
2 aq.])をそれぞれ滴下し、その水溶液を室温にて一晩撹拌した。エバポレータを用いて60℃に加熱して溶媒を留去し、得られた粉末を60℃で16〜18時間真空乾燥させ、水素ガスを、30mL/minで流通させながら、200℃で2時間の還元処理をすることによって担体に貴金属を担持させたエチレン分解剤を得た。
【0049】
実施例3
表1に示す担体1.0gを50mLの水に懸濁させ、ルテニウム担持量が1.0質量%になるように塩化ルテニウム水溶液[RuCl
3・nH
2O aq.]を滴下し、その水溶液を室温にて一晩撹拌した。エバポレータを用いて50℃に加熱して溶媒を留去し、得られた粉末を60℃で16〜18時間真空乾燥させ、水素ガスを、30mL/minで流通させながら、400℃で2時間の還元処理をすることによって担体にルテニウムを担持させたエチレン分解剤を得た。
【0050】
比較例1
シリカゲルに白金を5質量%担持させた市販の触媒を比較例1のエチレン分解剤としてそのまま用いた。
【0051】
各実施例で使用した担体の、窒素吸脱着測定より得られた吸着等温線を用いてBET法により比表面積(S
BET)及び全細孔容積(V
tot)を、BJH法により平均細孔直径(D
meso)を得た。結果を表1に示す。
【0052】
また、各実施例で使用した担体および比較例1のエチレン分解剤の粉末X線回折を行った。粉末X線回折の結果を
図1に示す。実施例1〜4で使用した担体のd間隔は、5.0nm、2.9nm、2.5nm、1.9nmに、実施例5、7で使用した担体は3.8nm、2.2nm、2.0nmに、実施例6で使用した担体は、10.2nm、5.9nm、5.1nmにそれぞれピークを有していた。また、比較例1のエチレン分解剤は、細孔構造に由来する明確なピークは確認されなかった。なお、X線回折の測定は、リガク製RINT‐2200 UltimaIIにて行った。具体的な測定条件を以下に示す。
X線源:CuKα、管電圧:40kV、管電流40mA、ステップ幅:0.02deg.、スキャンスピード:0.5deg./min.、発散スリット:開放、発散縦スリット:開放、散乱スリット:開放、受光スリット:0.6mm、単色化:グラファイト結晶モノクロメーター
【0053】
また、各実施例、比較例のエチレン分解剤に関して、それぞれ粉末X線回折、COパルス吸着及び窒素吸脱着測定を行った。具体的な測定条件は前記のとおりである。粉末X線回折より得られた37°<2θ<42°の位置にある回折ピークからシェラー式を用いて金属粒子径(結晶子径,D
M)を算出した。なお、37°<2θ<42°の位置にピークが観測されなかったものについては、COパルス吸着より金属粒子径(結晶子径,D
M)を算出した。また、担体と同様に、窒素吸脱着測定より得られた吸着等温線を用いてBET法により比表面積(S
BET)及び全細孔容積(V
tot)を、BJH法により平均細孔直径(D
meso)を得た。結果を表1に示す。粉末X線回折の結果を
図2に示す。
【0054】
いずれのエチレン分解剤も、貴金属担時前後で構造特性に大きな変化が見られなかった。また、
図2に示すように実施例1、7、比較例1のエチレン分解剤からは37°<2θ<42°の位置のXRDパターンから金属由来の回折ピークが観測され、実施例2〜6のエチレン分解剤からは37°<2θ<42°の位置に回折ピークは観測されなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
エチレン分解評価
試験例1 25℃でのエチレン分解試験
各実施例、比較例のエチレン分解剤を、2kNの圧力によって圧縮成型しふるい分けした。ふるい分けにより得られた顆粒状のエチレン分解剤(355〜500μm)1gをステンレス製反応容器に充填し,ヘリウム下(75mL/min.)で150℃、1時間の加熱処理をすることによってエチレン分解剤を活性化し、分解剤表面の吸着水を除去した。このように処理されたエチレン分解剤を用いて下記のエチレン分解試験を行った。106ppmのエチレンを含む反応ガス(エチレン濃度、約106ppm;酸素、20体積%;窒素、残部)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/東京ガラス器械株式会社製)に分解剤1gを投入し、25℃で20時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのエチレン濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定することによって、25℃でのエチレン分解活性を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
20時間反応後のヘッドスペースのガスを確認したところ、二酸化炭素及び水が検出された。これはエチレンが二酸化炭素と水に分解されていることを示している。
【0058】
試験例2 4℃でのエチレン分解試験
分解剤投入後に4℃で20時間静置した以外は、試験例1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
試験例3 −20℃でのエチレン分解試験
実施例4〜7と比較例1の分解剤投入後に−20℃で20時間静置した以外は、試験例1と同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表2より、多孔質シリカに貴金属又は貴金属含有化合物を担持させると、エチレンを低温で分解できることが分かる。また、実施例中、パラジウムを担持し、37°<2θ<42°の位置のXRDパターンから金属由来の回折ピークが観測されていない、実施例4〜6のエチレン分解剤が、低温でのエチレン分解活性により優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のエチレン分解剤は、野菜、果実等の植物から放出されるエチレンの分解に好適に用いられるものである。