特許第6689504号(P6689504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689504
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】多段変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/66 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   F16H3/66 Z
【請求項の数】7
【全頁数】75
(21)【出願番号】特願2016-49523(P2016-49523)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-166504(P2017-166504A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】502408872
【氏名又は名称】大窪 正博
(72)【発明者】
【氏名】大窪 正博
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/088900(WO,A1)
【文献】 特開2014−224547(JP,A)
【文献】 特開2015−190494(JP,A)
【文献】 特開2014−077535(JP,A)
【文献】 特開2015−183855(JP,A)
【文献】 特開2014−005917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンプル遊星ギアからなる第1サンギア(S1)、第1遊星キャリア(P1)、第1リングギア(R1)の構成要素を有した第1遊星ギア列(10)と、シンプル遊星ギアからなる第2サンギア(S2)、第2遊星キャリア(P2)、第2リングギア(R2)の構成要素を有した第2遊星ギア列(20)の、連結した第1サンギア(S1)と第2サンギア(S2)を第1構成要素とし、入力軸を第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に連結した第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、あるいは、前記入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第3ブレーキ(B3)で制動可能とした第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、第2遊星キャリア(P2)を出力軸に連結し、前記第1、第2、第3、第4構成要素を軸方向順に並べて配した共通の速度線図を有する主変速機構の第1構成要素に、
前記入力軸の回転と少なくとも前記入力軸の増速回転を含む複数の変速回転を選択的に入力可能とする、少なくとも2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む少なくとも4個の締結要素を有した前置変速機構を設け、
前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が少なくとも前進9速後進1速の変速段を得るようになした多段変速装置であって、
前記多段変速装置の変速機ケース内部に前記前置変速機構と主変速機構を軸方向順に配すると共に、前記入力軸を前記前置変速機構と主変速機構の回転中心部に一体として配し、前記変速機ケースの、前記前置変速機構側となる一端に設けた円筒部材の前記主変速機構側の内周端部で前記入力軸を軸支すると共に、前記変速機ケースのもう一端で前記入力軸を軸支するか、あるいは、前記変速機ケースのもう一端に軸支された前記出力軸で前記入力軸を軸支するようになし、
前記前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)を各摩擦部材が径方向に2段に重なるよう前記円筒部材の外周方向外側に回転自在に配して、前記円筒部材の外周から前記第1、第2クラッチ(C1、C2)に作動油を供給するようになし、
前記円筒部材の内周端部から前記主変速機構側の軸方向に、前記前置変速機構の少なくとも2個の遊星ギア列のうちの、多くとも1個の遊星ギア列、あるいは、2個の遊星ギア列を径方向に2階建てに重ねた1対の遊星ギア列を配するようになした多段変速装置。
【請求項2】
前記円筒部材の外周方向外側に前記入力軸と連結する筒状の入力連結部材(Y)を回転自在に配し、前記前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)に各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)を設け、前記入力連結部材(Y)と2連クラッチ連結部材(X)を一体に連結し、あるいは、前記入力連結部材(Y)の外周方向外側に前記2連クラッチ連結部材(X)を回転自在に配し、前記入力連結部材(Y)、あるいは、前記2連クラッチ連結部材(X)に前記第1、第2クラッチ(C1、C2)のサーボ機構となる油圧室を設け、前記円筒部材の外周から前記第1、第2クラッチ(C1、C2)の油圧室に前記入力連結部材(Y)を通して作動油を供給するようになした請求項1記載の多段変速装置。
【請求項3】
前記変速機ケースの軸方向中央部に前記変速機ケースと一体となる隔壁を設け、前記隔壁に軸支される出力カウンターギアを配し、前記出力カウンターギアを挟んで軸方向の一方側に前記主変速機構の第1遊星ギア列(10)を配し、もう一方側に前記主変速機構の第2遊星ギア列(20)と前記前置変速機構を配するようになした請求項1記載の多段変速装置。
【請求項4】
前記主変速機構の、前記入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に前記第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とした構成において、前記変速機ケースと一体となる隔壁に前記第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を連結可能にする前記第3クラッチ(C3)の作動油を供給する通路を設けるようになし、
あるいは、前記多段変速装置が4個のブレーキを有する構成において、前記隔壁に1個のブレーキのサーボ機構となる油圧室を設けるようになした請求項3記載の多段変速装置。
【請求項5】
少なくとも2個の遊星ギア列を有する前記前置変速機構の、どちらか一方の遊星ギア列の遊星キャリアが前記第1、第2クラッチ(C1、C2)で前記入力軸と他の構成要素に締結可能となる前記前置変速機構の構成において、
前記遊星キャリアの遊星ギアを軸支するサイド部材を前記第1、第2クラッチ(C1、C2)の2連クラッチ連結部材(X)と連結すると共に、前記サイド部材に前記第1、第2クラッチ(C1、C2)の少なくともどちらか一方のサーボ機構となる油圧室を設けるようになした請求項1記載の多段変速装置。
【請求項6】
前記前置変速機構は主前置変速機構と副前置変速機構からなり、
前記主前置変速機構は、D、E、Fの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個のシンプル遊星ギアの遊星キャリアとなる構成要素Eに前記入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能とすると共に、構成要素Eと構成要素D又はFを第2クラッチ(C2)で連結可能とし、構成要素Fと前記主変速機構の第1構成要素を連結し、構成要素Eを第2ブレーキ(B2)で制動可能とした第1主前置変速機構であり、あるいは、前記第1主前置変速機構の構成要素Dを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2主前置変速機構であり、
前記副前置変速機構は、A、B、Cの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個の遊星ギア列の構成要素Cに前記入力軸を連結して構成要素Aを第1ブレーキ(B1)で制動可能とした第1副前置変速機構であり、あるいは、A、B、C、Gの4個の構成要素を軸方向順に並べて配した2個の遊星ギア列からなる構成要素Aに前記入力軸を連結して構成要素Gを第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、構成要素Cを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2副前置変速機構であり、
前記第1主前置変速機構の構成要素Dと前記第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び前記第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより前記第1主前置変速機構の構成要素Fが、前記入力軸の回転と、前記入力軸の減速回転と、前記入力軸の増速回転と、0回転と、前記入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、前記第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、
あるいは、前記第2主前置変速機構の構成要素Dと前記第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び前記第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより前記第2主前置変速機構の構成要素Fが、前記入力軸の回転と、前記入力軸の減速回転と、前記入力軸の増速回転2種と、0回転と、前記入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、前記第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになし、
あるいは、前記第1主前置変速機構の構成要素Dと前記第2副前置変速機構の構成要素Bを連結し、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び前記第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより前記第1主前置変速機構の構成要素Fが、前記入力軸の回転と、前記入力軸の減速回転2種と、前記入力軸の増速回転2種と、0回転と、前記入力軸の逆回転2種と、の8種の回転を選択的に得るようになし、前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、前記第3構成要素が前進14速後進1速の変速段を得るようになした請求項5記載の多段変速装置。
【請求項7】
前記前置変速機構は、シンプル遊星ギアからなる第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)の構成要素を有した第3遊星ギア列(30)と、第4サンギア(S4)、第4遊星キャリア(P4)、第4リングギア(R4)の構成要素を有した第4遊星ギア列(40)の、第3サンギア(S3)を前記入力軸に連結し、第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)を第2クラッチ(C2)で連結可能にし、第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を連結し、第3遊星キャリア(P3)と前記入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能にすると共に第4リングギア(R4)を前記主変速機構の第1構成要素に連結し、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)で第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の連結を選択的に変更する変速機構であって、
第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び前記第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより前記主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、前記入力軸の回転と、前記入力軸の減速回転と、前記入力軸の増速回転と、0回転と、前記入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、前記第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、
あるいは、第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、連結した第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能とし、前記第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び前記第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより前記主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、前記入力軸の回転と、前記入力軸の減速回転2種と、前記入力軸の増速回転と、0回転と、前記入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、前記主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、前記第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになした請求項5記載の多段変速装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧クラッチ及びブレーキを用いて遊星ギアを制御する車両用自動変速機であるAT(Automatic Transmission)に関し、特にギアの噛み合い効率がよい前進9速段、及びそれを超える多段変速装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の遊星ギア列とクラッチやブレーキの締結要素を用いた多段変速装置にとって最も重要なことは変速比であり、一般的な車両では最低速段から次段へのギア比のステップ値が1.60前後、次段から最高速段へのギア比のステップ値が1.15前後と高速段に移行するに従って徐々にステップ値が小さくなる特性が望まれる。その結果、最低速段の変速比を最高速段の変速比で除した変速比巾(Gear Range)は、前進7速段であれば8、前進8速段であれば9、前進9速段であれば10、前進10速段であれば11程度が適切となる。
【0003】
既存のMT(Manual Transmission)では各変速段においてそれぞれ専用のカウンターギアが噛み合う構造となっているため、自由な変速比を得ることができるが、ATでは複数の変速段で同じ遊星ギア列に動力を通過させることが可能となるため、変速比の自由度は小さくなる。したがって、適切な変速比を設定するには一定個数の遊星ギア列と締結要素が必要となる。
【0004】
歴史を振り返ると、1960年代に乗用車用に普及した前進3速後進1速の3ATは、遊星ギア列が2列で締結要素が4個(クラッチ2個、ブレーキ2個)であったが、牽引特性向上のため1980年代に締結要素を1個(クラッチ)増やして5個としたた4ATが普及した。しかしながら、前進3速から4速段へのステップ値が大きすぎる難点があった。一方、牽引力を最重要視するトラック、バスでは遊星ギア列を1列増やして3列とし、締結要素が5個(クラッチ2個、ブレーキ3個)で理想的な変速比が得られる4ATを用いており、この4ATと同等の、3個の遊星ギア列と5個の締結要素(クラッチ2個、ブレーキ3個)で適切な変速比が得られる6ATとしたのが、1970年代に特開昭52−149562で考案されたGM(Allison)の6AT(Aタイプ)である。更に、特開平4−219553によるLepelletierの6AT(Bタイプ)と、US5,435,791によるMercedes−Benzの5AT(Cタイプ)へと繋がり、これらは3ATに次ぐ完成形のATということができる。つまり、適切な変速比が得られる5、6ATとするには、3個の遊星ギア列と5個の締結要素が必要ということになる。
【0005】
A、B、Cタイプのいずれも前進の減速段において、主変速機構(MAIN GEAR)の2個の遊星ギア列からなる4個の構成要素の主動側(駆動側)となる構成要素に入力軸の回転、あるいは、前置変速機構(FRONT GEAR)の1個の遊星ギア列と1個の締結要素から得られる入力軸の減速回転を選択的に入力する同じ方式であるが、入力する回転と変速方式に違いがあり、それにより特性に異なりが生じる。前進の減速段において、主変速機構の主動側となる構成要素に入力する回転を、Aタイプは入力軸の回転とし、Bタイプは入力軸の減速回転とし、Cタイプは入力軸の回転、及び入力軸の減速回転としたもので、A、Bタイプは主動側を固定し、受動側(制動側)を変えて変速を行う従来の3、4ATと同じ方式であるのに対し、Cタイプは受動側を固定し、主動側を変えて変速を行う方式である。
【0006】
近年、更なる燃費と走行性向上のため7、8ATが実用化されている。Cタイプ5ATをベースとした特開2000−266138に記載されたDaimlerのCタイプ7ATと、Bタイプ6ATをベースとした特開2001−182785(アイシン精機)に記載されたToyotaのBタイプ8ATと、特表2008−527267に記載されたZFのDタイプ8ATである。Dタイプとは、3個以上の遊星ギア列の互いの構成要素2箇所を連結し、連結部にクラッチを配して連結を変え変速する方式である。Cタイプ7ATはCタイプ5ATに遊星ギア列と締結要素(ブレーキ)を各々1個追加し、4個の遊星ギア列と6個の締結要素(クラッチ3個、ブレーキ3個)からなり、Bタイプ8ATはBタイプ6ATに締結要素(クラッチ)を1個追加し、3個の遊星ギア列と6個の締結要素(クラッチ4個、ブレーキ2個)からなり、Dタイプ8ATは4個の遊星ギア列と5個の締結要素(クラッチ3個、ブレーキ2個)からなる。最も重要となる変速比に関しては、B、Dタイプ8ATはギア比のステップ値が悪く、加えて、Gear Rangeも悪く、Bタイプ8ATが6.7、Dタイプ8ATが7.3と多少勝るが、8ATとして相応しい9程度よりかなり小さくなる。さすがに、B、Dタイプ8ATより1個多い遊星ギア列又は締結要素を用いた4個の遊星ギア列と6個の締結要素のCタイプ7ATはギア比のステップ値が理想的であるがGear Rangeが6程度と小さく適用車両が限定される。なお、遊星ギア列の構成要素間にクラッチを配するB、Dタイプ8ATは、入力軸と遊星ギア列の構成要素間にクラッチを配するA、Cタイプより構造が複雑になると同時に作動油の供給通路も複雑になり、単純に遊星ギア列や締結要素の数を減らすことがシンプル・コンパクトさに繋がるわけではないことに留意しなければならない。因みに、スケルトン図(模式図)ではクラッチは遊星ギア列より小さく見えるが実際の構造では遊星ギア列と同等、あるいはそれ以上の大きなスペースを必要とし、このクラッチの配置がシンプル・コンパクトさを左右する。これらB、Dタイプ8ATの他に、3個の遊星ギア列と6個の締結要素からなる8ATや、4個の遊星ギア列と5個の締結要素からなる8ATが数多く特許として提案されているが、全て8ATとして相応しいギア比が得られていなく、クラッチの配置が構造全体を複雑化する場合が多い。つまり、重量の小さな乗用車としては、Gear Rangeが9程度あれば十分で、ギア比のステップ値と変速機の重量及び伝達効率が適切ならば変速段数は7、8速(7,8AT)で十分であるが、現状の7、8ATではそれを満足できない状況にある。
【0007】
遊星ギア列や締結要素を少なくして変速段数を増やすと、クラッチで遊星ギア列の構成要素の連結を複数個所にわたり変えなければならず、連結部位が増えるのに加えクラッチの配置構造が複雑になるばかりか、同じ遊星ギア列の動力通過路を複雑に変える必要があるため必然的にステップ値が乱れ、噛み合い効率を悪くする可能性も高く変速性能を悪化させる。逆に、遊星ギア列や締結要素を増やしてもクラッチの配置や遊星ギア列の連結さえシンプルならそれほどコスト高とはならず、走行性能のよさや燃費向上によるランニングコスト低下の方がメリットを増す。
【0008】
そこで、ギア比の悪い8ATに遊星ギア列又は締結要素を1個加え、4個の遊星ギア列と6個の締結要素を用いた多段変速装置に相応しいギア比が得られる前進8速以上の多段速ATの検討が必要となる。当然、最も重要となる変速比以外に遊星ギアの噛み合い効率や摩擦部材の連れ回り損失も重要となり、搭載性に影響を及ぼす軽量化やコンパクトさも必然となる。なお、ATでは発進デバイスとしてトルク増幅作用のあるトルクコンバータが用いられているが、Gear Rangeが9程度ある変速装置ではトルク増幅の必要性はなく、モータジェネレータ(MG)も含めて別の手段の発進デバイスも考慮する必要がある。当然、原動機直結として効率を高める必要性があるため、遊星ギアの噛み合い効率がより一層の重要度を増し、これらを含めて多段変速装置の検討をしなければならない。なお、GVW(車両総重量)に比して原動機のパワーの小さな商用車は、パワーの大きな乗用車に比べより多くの変速段を必要とし、この商用車のことも考慮しなければならない。
【0009】
ところで、遊星ギアの噛み合い効率に関しては正しい理解がなされていないようで、多くの特許事例では効率には不可欠となる互いに噛み合う歯車の回転速度とトルクが考慮されず、リングギア(内歯)とピニオンギア(外歯)の噛み合い損失がピニオンギア(外歯)とサンギア(外歯)の噛み合い損失の半分にも満たないことが無視されたりして、遊星ギアの噛み合い効率の評価が不十分であるばかりか、間違ったりしている。因みに、特開2013−145016(本願出願人)に記載したように、実用化されたトヨタの8ATはこのクラスで遊星ギアの噛み合い効率が最も悪く、現在多くの特許が出願されている後述するトヨタ系列による「5−TYPE」10ATの遊星ギアの噛み合い効率も悪い。また、効率を最重視しなければならないハイブリッド車であるトヨタの2005年式のHEVには、エンジンと同軸に配される出力側のモータジェネレータ(MG)の遊星減速構造に、遊星ギアの噛み合い効率が悪くなる逆転減速機構が用いられている。「燃費を最重要視している」と謳っているトヨタでさえ、このような状態である。本願出願人は動力を伝達する互いに噛み合うギア間の伝達トルクと相対回転速度を求め、噛み合い損失を各々計算して合計し、各変速段の噛み合い効率を算出して評価している。なお、遊星ギアの噛み合いでは、動力が分散することや、リングギア(内歯)とピニオンギア(外歯)の噛み合い損失がピニオンギア(外歯)とサンギア(外歯)の噛み合い損失の半分にも満たないことで噛み合い効率が99%を超える変速段があり、MTよりギアの噛み合い効率がよくなる変速段が多く存在する。
【0010】
4個の遊星ギア列と6個の締結要素を用いた多段変速装置として近年2種類の9ATが実用化されている。何れも主変速機構の2個の遊星ギア列からなる4個の構成要素の主動側(駆動側)となる構成要素に変速回転を入力するCタイプで、2個の遊星ギア列と4個の締結要素からなる前置変速機構と2個の遊星ギア列と2個の締結要素からなる主変速機構の組み合わせからなる。先行して実用化されたC1タイプ9ATは、主変速機構の遊星ギア列が特開2000−266138に記載されたDaimlerのCタイプ7ATの主変速機構に、前置変速機構から、入力軸回転、入力軸の減速回転2種、0回転、入力軸の逆回転、の5種の回転を選択的に入力させたもので、ZFが特表2011−513662(ZF)をベースにFF用として9ATを実用化している。次に実用化されたC3タイプ9ATは、同じくDaimlerのCタイプ7ATの主変速機構の共通の速度線図上に第1から第4まで番号順に並べた2個の遊星ギア列(シンプソン遊星ギア列)の入出力構成要素を逆にした、前述のGM ALLISONの6ATの主変速機構の遊星ギア列を用いたもので、前置変速機構から、入力軸回転、入力軸の減速回転、入力軸の増速回転、0回転、入力軸の逆回転、の5種の回転を選択的に入力させたものである。この9ATはDaimlerが特許文献1をベースに実用化したものである。つまり、前置変速機構からの、1種の入力軸の減速回転で主変速機構は1種の減速回転と1種の増速回転を得ることができ、1種の入力軸の増速回転で2種の減速回転を得ることができるので、C1タイプ9ATは前置変速機構から2種の減速回転を主変速機構に入力させて2種の減速回転と2種の増速回転を得るのに対し、C3タイプ9ATは前置変速機構から1種の減速回転と1種の増速回転を主変速機構に入力させて3種の減速回転と1種の増速回転を得るようにしたものである。
【0011】
この2種類のC1、C3タイプ9ATはGear Rangeが9〜11程度に広くとれ、ギア比や遊星ギアの噛み合い効率も適切で完成形と成り得る多段変速機である。C1タイプ9ATとC3タイプ9ATを比較すると、C1タイプ9ATが入力軸回転の増速段が4段で減速段が4段となるのに対し、C3タイプ9ATが入力軸回転の増速段が3段で減速段が5段となり、C3タイプ9ATの方が使いやすい。但し、クラッチやブレーキの摩擦部材がもたらす連れまわり損失は減速比が大きくなるC3タイプ9ATの方が大きくなる。一方、C1タイプ9ATの前置変速機構は従来の3ATが使えることでC3タイプ9ATの前置変速機構よりシンプルな構造にできる。また、C1タイプ9ATの方が前置変速機構や主変速機構も用途により多様な遊星ギア列が採用でき、特開2013−145016(本願出願人)では4ATに匹敵するコンパクトな構造となるFF用9ATを提案している。なお、C3タイプ9ATにおける主変速機構の遊星ギア列は限定されるが、入出力の連結構造はC1タイプ9ATよりシンプルとなり遊星ギアの噛み合い効率もよくなる。この特許文献1によるC3タイプ9ATの2個の遊星ギア列と2個の締結要素からなる主変速機構を用いて前置変速機構を様々に変えた多段変速装置が提案されている。
【0012】
多くの提案はスケルトン図のみの提案であるが、一部構造に関する提案もある。この構造に関する提案や実用化されたDaimlerによるC3タイプ9ATでは、前置変速機構のクラッチの少なくとも1個が入力軸の周り(上部)に配され、2体化された入力軸から作動油が供給される複雑な構造となっている。なお、C3タイプ9ATは4個の遊星ギア列と6個(クラッチ3個、ブレーキ3個)の締結要素を用いた多段変速装置であり、単純に配列すると、軸方向にスペースが必要な遊星ギア列4個とクラッチ3個の計7個分が必要となり軸方向が長くなる。さらに、この変速形態では入力軸が前置変速機構と主変速機構の両方に連結されるため、変速装置の全幅にわたり回転中心部に入力軸を配さなければならなく、入力軸や入力軸の軸支間が長くなるのが避け難く、入力軸を二体化する等の対処をしなければならなくなる。また、これらの提案で共通に用いる主変速機構はシンプルな連結構造となるが、ブレーキが施される一方の遊星ギア列の浮遊されたリングギアにはスラスト方向の軸支が必要となり、スラスト軸受けをもう一方の遊星ギア列の間にとると軸方向が長くなるのでその反対側にとる方がよくなる。本願はこのC3タイプ9AT、及びC3タイプ9ATの主変速機構を用いて前置変速機構を様々に変えた、9ATを超える変速段を有する多段変速装置の種々の問題点を解決するためのFR用とFF用の多段変速装置の構造に関する提案である。本願の対象となる多段変速装置の多くは既に特許が出願されており、次の6種類(1〜6−TYPE)に分類できる。なお、実用化されているものや構造が記載されている特許は構造が明確であるが、スケルトン図のみの特許は構造が不明確なため、遊星ギア列やクラッチ・ブレーキの配置により推測される構造について記載する。
【0013】
<1−TYPE>「C3−1、9〜15AT」
特許文献2で本願出願人が提案した特許で、前置変速機構は、少なくとも1個の遊星ギア列からなる主前置変速機構と、主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の遊星ギア列からなる副前置変速機構と、少なくとも第1、第2クラッチ(C1、C2)を含めた複数の締結要素からなっている。特許文献2では9ATとAタイプ6ATを前置変速機構に用いた15ATの2種をFR用の実施例として掲載しているが、同じ形態の副前置変速機構を備えたCタイプ5ATやBタイプ6ATを前置変速機構に用いた13AT、14ATや、その他、10AT、11AT、の多彩な多段変速装置が可能となる。しかし、特許文献2にはFR用として本願の特許請求内容と一部重なる実施例が記載されているが、FF用としては提案していない。なお、特許文献2の15ATに用いた前置変速機構となるAタイプ6ATは、現状商品化されている4ATよりも軸方向がコンパクトになり、6ATとしても商品化できるパワートレンと構造である。このタイプの9ATではギア比や遊星ギアの噛み合い効率も適切であるが、それより変速段を増やすとギア比の連なりはあまりよくならない。
【0014】
<2−TYPE>「C3−2、9AT、11AT」
特許文献1を始めとして、DE102010063634(特表2014−500463)(ZF)、特開2013−199957(ジヤトコ、日産)、特開2013−199958(ジヤトコ、日産)、特開2013−199959(ジヤトコ、日産)で提案された特許で、前置変速機構は2個の遊星ギア列と少なくとも第1、第2クラッチ(C1、C2)を含めた4個の締結要素からなっており、前置変速機構は、2個の遊星ギア列の連結状態を第1、第2クラッチ(C1、C2)で変え、第1、第2クラッチ(C1、C2)以外の2個の締結要素を用いて一方の遊星ギア列から出力構成要素を有するもう一方の遊星ギア列に3種の回転を伝達して4種の回転を出力すると共に各々2個の構成要素を連結した4個の構成要素から1種の回転を出力することを可能とした変速形態となっている。これらの提案のなかでは特許文献1の提案がギア比や遊星ギアの噛み合い効率等が適切で、DaimlerがFR用としてC3タイプのオリジナルとなる9ATを実用化した。実用化された前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)はそれぞれ異なる軸方向の位置に配されており、第2クラッチ(C2)には入力軸内部に設けられた油穴から作動油が供給されるため構造が複雑となり、前置変速機構が軸方向に長くなっている。なお、FF用としては提案されていない。また、これらの特許には記載されていないが、連結した4個の構成要素の1個を1個追加となる第4ブレーキで制動可能にすればもう一種の入力軸の減速回転が得られ、本願提案の11AT(C3−2−2)となる。但し、11ATは第2クラッチ(C2)の容量をさらに大きくしなければ成立しないし、9ATよりギア比のステップ値は若干悪くなる。本願はこのDaimler提案の9ATと本願提案の11ATに関する構造提案である。
【0015】
<3−TYPE>「C3−3、C3−4、11AT」
前置変速機構は、4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む4個の締結要素に更にクラッチ又はブレーキを1個追加し、C3タイプ9ATに入力軸の減速回転を1個追加して出力可能としたものである。特許としてはブレーキを1個追加した構造(C3−3−2)の特開2015−161311(本田)の図1と、クラッチを1個追加した構造(C3−4−1)の特開2014−77535(HUNDAI)、特開2015−78763(HUNDAI)の図1が本願の対象となる。主変速機構の変速形態は(C3−2−2)の11ATと同じで、前置変速機構に入力軸の減速回転出力を1種追加したものである。但し、この前置変速機構は従来の4ATと同じであり、これらの特許例以外にもパワートレンは存在するが、特開2015−161311(本田)は特開2012−247057(HUNDAI)に抵触する可能性が高い。特開2015−161311(本田)の図1はFF用で出力ギアが前置変速機構と主変速機構の間に配されるため主変速機構のリングギアR3と遊星キャリアC4の間に配するクラッチの構造が複雑になることや、リングギアR4の、小径部でスラストニードルベアリングにより保持しなければならない保持機構が複雑となり軸方向を長くし、特開2014−77535(HUNDAI)と特開2015−78763(HUNDAI)の図1はFR用で前置変速機構の2個のクラッチは前置変速機構の反主変速機構側に配されるため入力軸が前置変速機構と主変速機構の4個の遊星ギア列とその他の部位を軸支することになり、振動防止のため入力軸の径を大きくしなければならなく重量増やコスト増を招く。なお、これらの特許では主変速機構のクラッチは入力軸と遊星キャリアの間に設けられているが、特許文献1によるC3タイプ9ATに用いられたリングギアR3と遊星キャリアC4の間に配するクラッチの方が、容量が小さくて済み、この構造を成立させるべきである。ギア比のステップ値の連なりは前述した「C3−2−2、11AT」と同じであり、9ATより悪くなるがGear Rangeは適切に取れ、遊星ギアの噛み合い効率も悪くはない。
【0016】
<4−TYPE>「C3―5、14AT」
前置変速機構は、1個の遊星ギア列からなる主前置変速機構と、主前置変速機構に2個のブレーキで入力軸の2種の減速回転速度を選択的に入力可能とする2個の遊星ギア列からなる副前置変速機構と、主前置変速機構を制御する第1、第2クラッチ(C1、C2)と1個のブレーキを含めた5個の締結要素からなっている。この前置変速機構の形態は「C3−1、9AT」と同じで、「C3−1、9AT」と同じ主前置変速機構と副前置変速機構に、各1個ブレーキと遊星ギア列を副前置変速機構に追加し2種の減速回転速度を主前置変速機構に入力可能とすることで、各2種の入力軸の増速回転、減速回転、逆回転と入力軸の回転及び0回転の8種の回転を主変速機構に入力させて14ATとしたものである。「C3−1、9AT」の遊星ギアの噛み合い効率は最高レベルであり、14ATも最高レベルの遊星ギアの噛み合い効率となる。但し、クラッチの容量を大きくしなければならない。この方式はまだ未公開であり、本願で特許出願とする。なお、この14ATに用いた前置変速機構は、現状商品化されている4ATよりも軸方向がコンパクトな5ATとなり、5ATとしても商品化できる形態である。
【0017】
<5−TYPE>「C4―1、10AT」
変速装置の減速段ではC3タイプと同じ変速形態を用いるが、増速段では変速形態が異なるので、「C4タイプ」とした。特許としてはUS20090054196(GM)を始めとして、特開2015−52377(AW)、特開2015−64042(アイシン精機)、特開2015−64099(AW、トヨタ)、特開2015−72061(AW)、特開2015−83853(アイシン精機)、特開2015−105721〜105726(AW)、特開2015−183855(GM)、とパワートレン及び構造に関して多くの提案がなされている。前置変速機構は、4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列と主変速機構の第1構成要素と連結可能とする第1、第2クラッチ(C1、C2)と主変速機構の第4構成要素と連結可能とする第4クラッチ(C4)と、遊星ギア列の一部を制動可能にするブレーキの4個の締結要素からなり、C3タイプ9ATと同じ数の4個の遊星ギア列と6個の締結要素で10ATと一段多い変速段を出している。しかしながら、Gear Rangeが8程度と小さくギア比のステップ値も前進3速から7速の間で等比級数となるのに加え、主変速機構の第4構成要素と前置変速機構を連結可能とする第4クラッチ(C4)の連結が構造を複雑にする。更に、多くの構造特許が出願されている特開2015−105721〜105726(AW)のパワートレンでは、前進3速段と前進5速段における遊星ギアの噛み合い効率が極端に悪くなる。また、多く提案されている全ての構造図では、第1、第2クラッチ(C1、C2)への作動油は変速機ケースから入力軸を通過しクラッチに供給されるため管路抵抗が大きくなるのに加えクラッチの構造を複雑にする。当然、入力軸には他にトルクコンバータへの供給油や潤滑油の油穴が必要となり、穴加工を可能とするため入力軸を二体化して複雑にしなければならなくなる。また、入力軸の軸支間が長くなるこの構造では軸支間における振動防止のため入力軸の径を大きくしなければならなく、入力軸の周りに通常の変速装置より多く配される増速回転部位の径を大きくしなければならず不利となる。FF用として特開2015−64099(AW、トヨタ)の図6、7、10のスケルトン図があり、主変速機構の外周部に出力ギアが配されているがこの遊星ギア列のリングギアとサンギアの歯数比は3.6と通常よりも大きく、出力ギアもそれ以上に大きくなり現実的ではない。前置変速機構と主変速機構が軸方向に順に並べていないため本願の対象とはならないが、特開2015−183793(AW、トヨタ)に主変速機構の2個の遊星ギア列の間に出力ギアが配されるFF用の配置が記載されているが、クラッチを4個も配さなければならないパワートレンで主変速機構の2個の遊星ギア列の間に出力ギアを軸支する例えば変速機と一体となる隔壁を設けると軸方向が長くなり成立が困難となる。
【0018】
<6−TYPE>「C5―1、10AT」
変速装置の逆転段でのみC3タイプと異なる変速形態を用いるので、「C5タイプ」とした。逆転段はDaimlerのUS5,435,791によるCタイプ5ATと特開2000−266138によるCタイプ7ATと同じで、主変速機構の第2構成要素を第4ブレーキ(B4)で制動可能として逆転段を設けたものである。前置変速機構は、4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む4個の締結要素からなっている。特許としては特開2015−161312(本田)の図1と特開2015−161313(本田)の図1が本願の対象となる。これらの特許例以外にもパワートレンは存在するが、特開2012−225506(HUNDAI)に同じ変速形態があり、一部特開2015−161313(本田)と同じ遊星ギア列がある。本願の対象となる主変速機構は第2構成要素に第4ブレーキ(B4)を配するためFF用にしか適用できない。特開2015−161312(本田)の図1と特開2015−161313(本田)の図1は「C3―3、11AT」と同じく出力ギアが前置変速機構と主変速機構の間に配されるためリングギアR4の、スラストニードルベアリングで保持しなければならない保持機構が複雑となり軸方向を長くする。なお、コンパクトになる要素のない遊星ギア列を軸方向に4個並べるこのスケルトン図では軸方向が長くなり過ぎでFF用に用いるのは困難となり、特開2015−161313(本田)の図4のように主変速機構の遊星ギア列の外周部に出力ギアを配置しなければならなくなるが、出力ギアや噛み合うカウンターギアの径を大きくしななければならず重量増や体積増を招き、狭いエンジンルーム内の配置に悪影響を及ぼす。唯一、特開2015−161313(本田)の前置変速機構の2個の遊星ギア列を2階建てにすることが可能でFF用に用いることが可能となるが、このパワートレンでは前進4速段における遊星ギアの噛み合い効率が極端に悪くなる。なお、Gear Rangeは適切に取れ、ギア比のステップ値の連なりは10ATのなかではよい方である。
【0019】
以上のことから4個の遊星ギア列と6個(クラッチ3個、ブレーキ3個)の締結要素を用いた<1−TYPE>「C3―1、9AT」と<2−TYPE>「C3―2、9AT」が最も重要となるギア比のステップ値の連なりやGear Range、及び遊星ギアの噛み合い効率がよいことがわかり、同じ個数の4個の遊星ギア列と6個(クラッチ4個、ブレーキ2個)の締結要素を用いた<5−TYPE>「C4―1、10AT」が最もギア比のステップ値の連なりやGear Range、及び遊星ギアの噛み合い効率が悪くなることがわかる。段落「0006」で述べた「乗用車としては、Gear Rangeが9程度あれば十分で、ギア比のステップ値と変速機の重量及び伝達効率が適切ならば変速段数は7、8速(7,8AT)で十分である。」ことより、この段階で「C3―1、9AT」と「C3―2、9AT」の方が「C4―1、10AT」より走行性能や燃費で優位となることがわかる。締結要素を1個増やした「11AT」に関しては乗用車としての必要性に疑問はあるが、コンパクトに配することができれば商用車には適切な変速装置になり得る。「11AT」は前置変速機構の減速回転を1個増やした<2−TYPE>「C3―2、11AT」や<3−TYPE>「C3―3、C3―4、11AT」の、増速段が4段となる「11AT」より、前置変速機構の増速回転を1個増やした<1−TYPE>「C3―1、11AT」の、増速段が3段となる「11AT」の方がよい。なお、締結要素を1個増やしたFF専用となる<6−TYPE>「C5―1」の「10AT」に関しては、前進4速段における遊星ギアの噛み合い効率が極端に悪くなるものの、シンプルな構造にできれば価値が出る。本願の目的の一つとして、効率のよいコンパクトなATの多段化の限界を見極めることがあり、更に多段化した<4−TYPE>「C3―5、14AT」や<1−TYPE>「C3−1、15AT」の検討も行う。「乗用車としては、変速段数は7、8速(7,8AT)で十分である。」と言ってはいるが、もし、Gear Rangeが6ATの3倍広くなる14ATや15ATを乗用車に用いることができるなら、エンジン回転が1000〜2000RPMでよいことになり、この仕様で燃料消費量のよいエンジンを開発できれば大きな変革をもたらすことになる。当然、トラック、バス等の商用車ではなお一層の変革をもたらす。
本願の主課題ではないが、上記6種類の多段変速装置に関し、既に判明しているギア比のステップ値の連なりやGear Rangeに加え、遊星ギアの噛み合い効率の算出ができていない現況において、本願で遊星ギアの噛み合い効率を算出し、構造を検討して総合的な評価をするものである。
【0020】
Daimlerが特許文献1をベースにFR用として実用化したC3タイプ9ATと同じ主変速機構を用いた本願の6種のパワートレンは、段落「0013」に示した本願出願人の提案した特許文献2による「C3−1、9〜15AT」と、段落「0016」に示した特許文献2に類似した「C3―5、14AT」を除いて、全て乗用車を対象に特許出願がなされたものである。トルクコンバータ(Wandler)を用いた車両用変速装置は元々Wandlerを開発したドイツで乗り合いバス(シティバス)用に実用化されたもので、その後米国のGMにより乗用車に用いられた。したがって、欧米ではシティバスの100%がAT化され、リターダを付けたATも普及している。トラック、バス等の運転者は所謂プロであり、一定の技能を必要とするが、人手不足や技量不足も含め運転ミスによる重大事故が多発している現状がある。近年、研究が進んでいる自動運転技術は重量の大きなトラック、バスほど安全上必要となり、今後、自動変速機のニーズがトラック、バスに広まることが予想される。トラック、バス等の商用車用ATとしては遊星ギア列や締結要素が増えても変速比巾(Gear Range)が変速段数に見あって広くとれ、軸方向がコンパクトになることが求められると共に、乗用車より負荷頻度が10倍厳しく耐久寿命も100万キロメートルと10倍必要な多段変速装置が求められる。その厳しさのため、供給メーカが世界でも数社しかなく、供給機種も不十分な状態である。本願出願人は商用車用ATとして特開2014−224547でC1、C2タイプ9〜12ATを提案し、特許文献2でC3タイプ9〜15ATを提案してきた。本願では全てを商用車用として意識しているが、具体的な構造図としては特に遊星ギアの噛み合い効率がよくなる段落「0016」に示した「C3―5、14AT」を対象にした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】DE102008055626(Daimler)
【特許文献2】特願2014−195316(本願出願人)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の第1の課題は、段落「0010」〜「0012」で説明したDaimlerが特許文献1をベースにFR用として実用化した、Gear Rangeが9〜11程度に広くとれ、ギア比や遊星ギアの噛み合い効率も適切な<2−TYPE>のC3タイプ9ATと、これと同じ主変速機構を用い、更にシンプルで性能も同等以上となる本願出願人が出願した特許文献2による<1−TYPE>のC3タイプ9ATに関し、一部特許文献2ではFR用として示しているが、FR及びFF仕様としてよりシンプルでコンパクトになる構造を提案するものである。
【0023】
本発明の第2の課題は、Daimlerと本願出願人が提案した特許文献1、2による<1、2−TYPE>のC3タイプ9ATをベースに更に多段化した遊星ギアの噛み合い効率のよい段落「0013」に示した<1−TYPE>の「11AT、15AT」、段落「0014」に示した<2−TYPE>の「11AT」、及び段落「0016」に示した<4−TYPE>の「14AT」を、FRのみならずFF仕様としてもコンパクトに成立させることである。
【0024】
本発明の第3の課題は、Daimlerの特許文献1による<2−TYPE>のC3タイプ9ATと同じ主変速機構を用いた、既に特許出願がなされている段落「0015」に示した<3−TYPE>の「C3−3、C3−4、11AT」、段落「0017」に示した<5−TYPE>の「C4―1、10AT」、及び段落「0018」に示した<6−TYPE>の「C5―1、10AT」の、少し欠点がある3種に関しても、シンプルでコンパクトになる構造を提案するものである。
【0025】
本発明の第4の課題は、まだパワートレンの特許出願がなされていない本願出願人が提案した特許文献2に類似した段落「0016」に示した<4−TYPE>の「C3―5、14AT」を、構造特許として出願するものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に係わる本発明は、C3タイプ9ATに用いられる主変速機構を用い、様々な前置変速機構と組み合わせた多段変速装置の共通となる構造に関するもので、第1〜第3の課題を解決するための手段であり、シンプル遊星ギアからなる第1サンギア(S1)、第1遊星キャリア(P1)、第1リングギア(R1)の構成要素を有した第1遊星ギア列(10)と、シンプル遊星ギアからなる第2サンギア(S2)、第2遊星キャリア(P2)、第2リングギア(R2)の構成要素を有した第2遊星ギア列(20)の、連結した第1サンギア(S1)と第2サンギア(S2)を第1構成要素とし、入力軸を第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に連結した第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、あるいは、入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第3ブレーキ(B3)で制動可能とした第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、第2遊星キャリア(P2)を出力軸に連結し、第1、第2、第3、第4構成要素を軸方向順に並べて配した共通の速度線図を有する主変速機構の第1構成要素に、入力軸の回転と少なくとも入力軸の増速回転を含む複数の変速回転を選択的に入力可能とする、少なくとも2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む少なくとも4個の締結要素を有した前置変速機構を設け、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が少なくとも前進9速後進1速の変速段を得るようになした多段変速装置であって、多段変速装置の変速機ケース内部に前置変速機構と主変速機構を軸方向順に配すると共に、入力軸を前置変速機構と主変速機構の回転中心部に一体として配し、変速機ケースの、前置変速機構側となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側の内周端部で入力軸を軸支すると共に、変速機ケースのもう一端で入力軸を軸支するか、あるいは、変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸を軸支するようになし、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)を各摩擦部材が径方向に2段に重なるよう円筒部材の外周方向外側に回転自在に配して、円筒部材の外周から第1、第2クラッチ(C1、C2)に作動油を供給するようになし、円筒部材の内周端部から主変速機構側の軸方向に、前置変速機構の少なくとも2個の遊星ギア列のうちの、多くとも1個の遊星ギア列、あるいは、2個の遊星ギア列を径方向に2階建てに重ねた1対の遊星ギア列を配するようになした。
【0027】
請求項2に係わる本発明は、様々な前置変速機構に共通して用いられる第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造と配置、及び作動油供給回路に関するもので、第1〜第3の課題を解決するための手段であり、円筒部材の外周方向外側に入力軸と連結する筒状の入力連結部材(Y)を回転自在に配し、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)に各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)を設け、入力連結部材(Y)と2連クラッチ連結部材(X)を一体に連結し、あるいは、入力連結部材(Y)の外周方向外側に2連クラッチ連結部材(X)を回転自在に配し、入力連結部材(Y)、あるいは、2連クラッチ連結部材(X)に第1、第2クラッチ(C1、C2)のサーボ機構となる油圧室を設け、円筒部材の外周から前記第1、第2クラッチ(C1、C2)の油圧室に入力連結部材(Y)を通して作動油を供給するようになした。
【0028】
請求項3に係わる本発明は、C3タイプ9ATに用いられる主変速機構を用い、様々な前置変速機構と組み合わせた多段変速装置のFF仕様となる配置構造に関するもので、第1〜第3の課題を解決するための手段であり、変速機ケースの軸方向中央部に変速機ケースと一体となる隔壁を設け、隔壁に軸支される出力カウンターギアを配し、出力カウンターギアを挟んで軸方向の一方側に主変速機構の第1遊星ギア列(10)を配し、もう一方側に主変速機構の第2遊星ギア列(20)と前置変速機構を配するようになした。
【0029】
請求項4に係わる本発明は、FF仕様となる請求項3における主変速機構の第3クラッチ(C3)への作動油供給回路と、多段変速装置が4個のブレーキを有する構成におけるブレーキの配置構造に関するもので、第1〜第3の課題を解決するための手段であり、主変速機構の、入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とした構成において、変速機ケースと一体となる隔壁に第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を連結可能にする第3クラッチ(C3)の作動油を供給する通路を設けるようになし、あるいは、多段変速装置が4個のブレーキを有する構成において、隔壁に1個のブレーキのサーボ機構となる油圧室を設けるようになした。
【0030】
請求項5に係わる本発明は、C3タイプ9ATとC3タイプ9ATをベースに更に多段化した遊星ギアの噛み合い効率のよい段落「0013」と段落「0014」に示した「11AT」、及び段落「0016」に示した「14AT」の前置変速機構を構成する第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造に関するもので、第1と第2の課題を解決するための手段であり、少なくとも2個の遊星ギア列を有する前置変速機構の、どちらか一方の遊星ギア列の遊星キャリアが第1、第2クラッチ(C1、C2)で入力軸と他の構成要素に締結可能となる構成において、遊星キャリアの遊星ギアを軸支するサイド部材を第1、第2クラッチ(C1、C2)の2連クラッチ連結部材(X)と連結すると共に、サイド部材に第1、第2クラッチ(C1、C2)の少なくともどちらか一方のサーボ機構となる油圧室を設けるようになした。
【0031】
請求項6に係わる本発明は、本願出願人が出願した特許文献2による「9AT」と段落「0013」に示した「11AT」、及び段落「0016」に示した「14AT」の前置変速機構のパワートレンに関するもので、第1と第2、及び第4の課題を解決するための手段であり、前置変速機構は主前置変速機構と副前置変速機構からなり、主前置変速機構は、D、E、Fの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個のシンプル遊星ギアの遊星キャリアとなる構成要素Eに入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能とすると共に、構成要素Eと構成要素D又はFを第2クラッチ(C2)で連結可能とし、構成要素Fと主変速機構の第1構成要素を連結し、構成要素Eを第2ブレーキ(B2)で制動可能とした第1主前置変速機構であり、あるいは、第1主前置変速機構の構成要素Dを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2主前置変速機構であり、副前置変速機構は、A、B、Cの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個の遊星ギア列の構成要素Cに入力軸を連結して構成要素Aを第1ブレーキ(B1)で制動可能とした第1副前置変速機構であり、あるいは、A、B、C、Gの4個の構成要素を軸方向順に並べて配した2個の遊星ギア列からなる構成要素Aに入力軸を連結して構成要素Gを第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、構成要素Cを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2副前置変速機構であり、第1主前置変速機構の構成要素Dと第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより第1主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第2主前置変速機構の構成要素Dと第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより第2主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転2種と、0回転と、入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第1主前置変速機構の構成要素Dと第2副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより第1主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転2種と、入力軸の増速回転2種と、0回転と、入力軸の逆回転2種と、の8種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進14速後進1速の変速段を得るようになした。
【0032】
請求項7に係わる本発明は、段落「0014」に示した特許文献1による「9AT」と本願提案の「11AT」の前置変速機構のパワートレンに関するもので、第1と第2の課題を解決するための手段であり、前置変速機構は、シンプル遊星ギアからなる第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)の構成要素を有した第3遊星ギア列(30)と、第4サンギア(S4)、第4遊星キャリア(P4)、第4リングギア(R4)の構成要素を有した第4遊星ギア列(40)の、第3サンギア(S3)を入力軸に連結し、第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)を第2クラッチ(C2)で連結可能にし、第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を連結し、第3遊星キャリア(P3)と入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能にすると共に第4リングギア(R4)を主変速機構の第1構成要素に連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)で第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の連結を選択的に変更する変速機構であって、第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、連結した第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能とし、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、入力軸の回転と、入力軸の減速回転2種と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになした。
【発明の効果】
【0033】
請求項1記載の構成では、シンプル遊星ギアからなる第1サンギア(S1)、第1遊星キャリア(P1)、第1リングギア(R1)の構成要素を有した第1遊星ギア列(10)と、シンプル遊星ギアからなる第2サンギア(S2)、第2遊星キャリア(P2)、第2リングギア(R2)の構成要素を有した第2遊星ギア列(20)の、連結した第1サンギア(S1)と第2サンギア(S2)を第1構成要素とし、入力軸を第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に連結した第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、あるいは、入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第3ブレーキ(B3)で制動可能とした第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、第2遊星キャリア(P2)を出力軸に連結し、第1、第2、第3、第4構成要素を軸方向順に並べて配した共通の速度線図を有する主変速機構の第1構成要素に、入力軸の回転と少なくとも入力軸の増速回転を含む複数の変速回転を選択的に入力可能とする、少なくとも2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む少なくとも4個の締結要素を有した前置変速機構を設け、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が少なくとも前進9速後進1速の変速段を得るようになした多段変速装置であって、多段変速装置の変速機ケース内部に前置変速機構と主変速機構を軸方向順に配すると共に、入力軸を前置変速機構と主変速機構の回転中心部に一体として配し、変速機ケースの、前置変速機構側となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側の内周端部で入力軸を軸支すると共に、変速機ケースのもう一端で入力軸を軸支するか、あるいは、変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸を軸支するようになし、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)を各摩擦部材が径方向に2段に重なるよう円筒部材の外周方向外側に回転自在に配して、円筒部材の外周から第1、第2クラッチ(C1、C2)に作動油を供給するようになし、円筒部材の内周端部から主変速機構側の軸方向に、前置変速機構の少なくとも2個の遊星ギア列のうちの、多くとも1個の遊星ギア列、あるいは、2個の遊星ギア列を径方向に2階建てに重ねた1対の遊星ギア列を配するようになしたので、シンプルでコンパクトな構造となる。特に入力軸が一体化できるのに加え、入力軸の軸支間が短くでき、入力軸はトルク容量分の太さより大きくする必要もなく入力軸の周りの部位の径も大きくならず軽量化できる。
【0034】
請求項2記載の構成では、円筒部材の外周方向外側に入力軸と連結する筒状の入力連結部材(Y)を回転自在に配し、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)に各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)を設け、入力連結部材(Y)と2連クラッチ連結部材(X)を一体に連結し、あるいは、入力連結部材(Y)の外周方向外側に2連クラッチ連結部材(X)を回転自在に配し、入力連結部材(Y)、あるいは、2連クラッチ連結部材(X)に第1、第2クラッチ(C1、C2)のサーボ機構となる油圧室を設け、円筒部材の外周から第1、第2クラッチ(C1、C2)の油圧室に入力連結部材(Y)を通して作動油を供給するようになしたので、第1、第2クラッチ(C1、C2)が軸方向にコンパクトに配され、第1、第2クラッチ(C1、C2)の油圧室への供給油路も短く管路抵抗が小さくなりクラッチ断接の応答性がよくなる。
【0035】
請求項3記載の構成では、変速機ケースの軸方向中央部に変速機ケースと一体となる隔壁を設け、隔壁に軸支される出力カウンターギアを配し、出力カウンターギアを挟んで軸方向の一方側に主変速機構の第1遊星ギア列(10)を配し、もう一方側に主変速機構の第2遊星ギア列(20)と前置変速機構を配するようになしたので、第2遊星ギア列(20)の軸方向に浮遊した第2リングギア(R2)の軸方向を保持するスラスト方向の軸受けを第2遊星ギア列(20)と前置変速機構の間にコンパクトに配することができると共に、出力カウンターギアを変速機ケースの軸方向中央部に配するFF仕様となる配置構造として、第1遊星ギア列(10)の出力構成要素となる第1リングギア(R1)と第2遊星ギア列(20)の出力構成要素となる第2遊星キャリア(P2)と出力カウンターギアとの連結もバランスよくコンパクトにできる。
【0036】
請求項4記載の構成では、主変速機構の、入力軸に連結した第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とすると共に第3クラッチ(C3)で連結可能にした第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とした構成において、変速機ケースと一体となる隔壁に第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を連結可能にする第3クラッチ(C3)の作動油を供給する通路を設けるようになし、あるいは、多段変速装置が4個のブレーキを有する構成において、隔壁に1個のブレーキのサーボ機構となる油圧室を設けるようになしたので、隔壁と第1遊星ギア列(10)の軸間に隔壁から作動油が供給される第3クラッチ(C3)をコンパクトに配することができる。また、隔壁にブレーキの油圧室を設けると軸方向がコンパクトになり、特に4個のブレーキを有する構成において効果が顕著になる。
【0037】
請求項5記載の構成では、少なくとも2個の遊星ギア列を有する前置変速機構の、どちらか一方の遊星ギア列の遊星キャリアが第1、第2クラッチ(C1、C2)で入力軸と他の構成要素に締結可能となる構成において、遊星キャリアの遊星ギアを軸支するサイド部材を第1、第2クラッチ(C1、C2)の2連クラッチ連結部材(X)と連結すると共に、サイド部材に第1、第2クラッチ(C1、C2)の少なくともどちらか一方のサーボ機構となる油圧室を設けるようになしたので、クラッチカバー部材を遊星キャリアの遊星ギアを軸支するサイド部材と共有することができ、シンプル、コンパクトになる。
【0038】
請求項6記載の構成では、前置変速機構は主前置変速機構と副前置変速機構からなり、主前置変速機構は、D、E、Fの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個のシンプル遊星ギアの遊星キャリアとなる構成要素Eに入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能とすると共に、構成要素Eと構成要素D又はFを第2クラッチ(C2)で連結可能とし、構成要素Fと主変速機構の第1構成要素を連結し、構成要素Eを第2ブレーキ(B2)で制動可能とした第1主前置変速機構であり、あるいは、第1主前置変速機構の構成要素Dを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2主前置変速機構であり、副前置変速機構は、A、B、Cの3個の構成要素を軸方向順に並べて配した1個の遊星ギア列の構成要素Cに入力軸を連結して構成要素Aを第1ブレーキ(B1)で制動可能とした第1副前置変速機構であり、あるいは、A、B、C、Gの4個の構成要素を軸方向順に並べて配した2個の遊星ギア列からなる構成要素Aに入力軸を連結して構成要素Gを第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、構成要素Cを第4ブレーキ(B4)で制動可能とした第2副前置変速機構であり、第1主前置変速機構の構成要素Dと第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより第1主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第2主前置変速機構の構成要素Dと第1副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより第2主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転2種と、0回転と、入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第1主前置変速機構の構成要素Dと第2副前置変速機構の構成要素Bを連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより第1主前置変速機構の構成要素Fが、入力軸の回転と、入力軸の減速回転2種と、入力軸の増速回転2種と、0回転と、入力軸の逆回転2種と、の8種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進14速後進1速の変速段を得るようになしたので、特許文献2による「9AT」がシンプルとなり、更に、第4ブレーキ(B4)を主前置変速機構に追加することで同じ変速形態の前進11速後進1速ができることや、1個の遊星ギア列と第4ブレーキ(B4)を副前置変速機構に追加することで同じ変速形態の前進14速後進1速の多段化ができ、いずれもシンプルな構造となる。
【0039】
請求項7記載の構成では、前置変速機構は、シンプル遊星ギアからなる第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)の構成要素を有した第3遊星ギア列(30)と、第4サンギア(S4)、第4遊星キャリア(P4)、第4リングギア(R4)の構成要素を有した第4遊星ギア列(40)の、第3サンギア(S3)を入力軸に連結し、第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)を第2クラッチ(C2)で連結可能にし、第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を連結し、第3遊星キャリア(P3)と入力軸を第1クラッチ(C1)で連結可能にすると共に第4リングギア(R4)を主変速機構の第1構成要素に連結し、第1、第2クラッチ(C1、C2)で第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の連結を選択的に変更する変速機構であって、第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2ブレーキ(B1、B2)の何れか2個を締結することにより主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、入力軸の回転と、入力軸の減速回転と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の5種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進9速後進1速の変速段を得るようになし、あるいは、第3遊星キャリア(P3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動可能とし、連結した第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能とし、第1、第2クラッチ(C1、C2)、及び第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個を締結することにより主変速機構の第1構成要素に連結した第4リングギア(R4)が、入力軸の回転と、入力軸の減速回転2種と、入力軸の増速回転と、0回転と、入力軸の逆回転と、の6種の回転を選択的に得るようになし、主変速機構の第1、第2及び第4構成要素の何れか2個の構成要素の回転を選択的に規制することにより、第3構成要素が前進11速後進1速の変速段を得るようになしたので、特許文献1による「9AT」がシンプルとなり、更に、第4ブレーキ(B4)を前置変速機構に追加することで同じ変速形態の前進11速後進1速ができ、本願提案の「11AT」がシンプルな構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】<1−TYPE>「C3−1−1、9AT」 本発明の特許文献2によるC3タイプ9ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図2】<1−TYPE>「C3−1−2、11AT」 本発明の特許文献2によるC3タイプ11ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図3】<1−TYPE>「C3−1−3、15AT」 本発明の特許文献2によるC3タイプ15ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図4】<2−TYPE>「C3−2−1、9AT」 本発明の特許文献1によるC3タイプ9ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図5】<2−TYPE>「C3−2−2、11AT」 本発明の特許文献1にブレーキ(B4)を加えたC3タイプ11ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図6】<3−TYPE>「C3−3−1、11AT」 本発明のC3タイプ11ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図7】<3−TYPE>「C3−3−2、11AT」 本発明の特開2015−161311(本田)と特開2012−247057(現代)によるC3タイプ11ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図8】<3−TYPE>「C3−4−1、11AT」 本発明の特開2014−77535(現代)によるC3タイプ11ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比を示す表。
図9】<4−TYPE>「C3−5−1、14AT」 本発明の特許文献2に類似した新しいパワートレンによるC3タイプ14ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図10】<4−TYPE>「C3−5−1、14AT」 「図9」におけるA、B、C、Gの4個の構成要素からなる副前置変速機構を形成する4種の遊星ギアの組み合わせを示す。
図11】<5−TYPE>「C4−1−1、10AT」 本発明のUS2009−0054196A1(GM)をベースとしたC4タイプ10ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比を示す表。
図12】<5−TYPE>「C4−1−2、10AT」 本発明の特開2015−105722(AW)によるC4タイプ10ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図13】<6−TYPE>「C5−1−1、10AT」 本発明の特開2015−161313(本田)と特開2012−2225506(現代)によるC5タイプ10ATの実施例を示す模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表。
図14】<1−TYPE>「C3−1−1、9AT、C3−1−2、11AT」 「図1」、「図2」の乗用車を対象としたFR仕様の構造図。
図15】<1−TYPE>「C3−1−3、15AT」 「図3」の乗用車を対象としたFR仕様の構造図。
図16】<2−TYPE>「C3−2−1、9AT」 「図4」の乗用車を対象としたFR仕様の構造図。
図17】<3−TYPE>「C3−3−1、11AT」 「図6」の乗用車を対象としたFR仕様の構造図。
図18】<4−TYPE>「C3−5−1、14AT」 「図9」の商用車を対象としたFR仕様の構造図。
図19】<5−TYPE>「C4−1−2、10AT」 「図12」の乗用車を対象としたFR仕様の構造図。
図20】<1−TYPE>「C3−1−1、9AT」 「図1」の乗用車を対象としたFF仕様の構造図。
図21】<1−TYPE>「C3−1−2、11AT」 「図2」の乗用車を対象としたFF仕様の構造図。
図22】<2−TYPE>「C3−2−1、9AT」 「図4」の乗用車を対象としたFF仕様の構造図。
図23】<4−TYPE>「C3−5−1、14AT」 「図9」の乗用車を対象としたFF仕様の構造図。
図24】<6−TYPE>「C5−1−1、10AT」 「図13」の乗用車を対象としたFF仕様の構造図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は「1〜6−TYPE」の6種の多段変速機の構造に関するもので、図1図13はその代表的なパワートレンと性能を示している。図5の「2−TYPE」11ATと図9図10の「4−TYPE」14ATを除いて全て特許出願がなされており、図1図13の表に記入した変速比はそれらの特許に基づいたものであるが、実施例が異なるものや新しい実施例に関しては本願出願人が適切に創出したものである。なお、表の「GEAR EFF」は今まで算出できなかった遊星ギアの噛み合い効率を表し、多段変速機の性能を評価する重要項目である。遊星ギアの噛み合い損失は主に歯面のころがりとすべり損失であり通過動力に比例するため、噛み合う箇所一個一個の相対速度と伝達トルクを求め損失を計算して合計し効率としたものである。また、遊星ピニオンギアとリングギアの噛み合い損失は、インボリュート曲線部の歯面が同方向の形状で噛み合うため面圧が低くすべりも少なくなり、インボリュート曲線部の歯面が対抗して噛み合う遊星ピニオンギアとサンギアの40%程度とした。したがって、これらの図に表記したGEAR EFFは同じ方式で計算したものであり、正確に比較できる値である。図1図13の模式図は本願構造の特徴、及び遊星ギアと締結要素等の配置を示し、既に出願されている特許に記載された模式図とは異なる。本願の「請求項1、3」はこの模式図で表されるが、その他の請求項は図1図13の模式図に加え、模式図を構造図にした図14図23で表される。
【0042】
本発明の請求項1は、図10を除く図1図13の模式図と、図14図19のFR仕様の構造図と、図20図24のFF仕様の構造図に示され、請求項2は、図14図19のFR仕様の構造図と、図20図24のFF仕様の構造図に示され、請求項3と請求項4は、図20図24のFF仕様の構造図に示され、請求項5は、図14図16図18のFR仕様の構造図と、図20図23のFF仕様の構造図に示され、請求項6は、図1図2図9図10の模式図及び速度線図と、図14図18のFR仕様の構造図と、図20図21図23のFF仕様の構造図に示され、請求項7は、図4図5の模式図及び速度線図と、図16のFR仕様の構造図と、図22のFF仕様の構造図に示される。なお、図18の商用車を対象としたFR仕様の構造図は原動機のトルクを1000Nmとしてコンセプトしたもので、図18以外のFRとFF仕様の構造図は原動機のトルクを300Nmとして乗用車を対象にコンセプトしたものである。したがって、乗用車を対象にした構造図はTYPEによる大きさが比較できる。なお、本願は特に実用化として価値の高い「1−TYPE」と「2−TYPE」、及び「4−TYPE」に絞り、「請求項5、6、7」においてパワートレン及び構造を規定したものである。
【0043】
<1−TYPE>
段落「0013」で説明した多段変速機で、本願出願人が提案した特許文献2のパワートレンの変速形態を本願の発明とする構造にしたものである。本願の実施例としては、「C3−1−1、9AT」図1図14図20と「C3−1−2、11AT」図2、(図14)、図21と「C3−1−3、15AT」図3図15の3種を記載する。特許文献2では11ATとFF仕様のパワートレンは実施例として記載していない。また、特許文献2の実施例の一部は本願の特許請求範囲の構造も含むが、特許文献2の特許請求範囲は本願の特許請求範囲を含んでいなく、特にFF仕様に関しては何の請求もしていないので、本願で実施例を追加しその詳細を記載する。
【0044】
<1−TYPE>「C3−1−1、9AT」図1図14図20
図1は、C3タイプ9ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図1の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は主前置変速機構と副前置変速機構に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10構成要素(D、E、F)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0045】
図1の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。FR仕様の左図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、FF仕様の右図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。また、第3遊星ギア列(30)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、第4遊星ギア列(40)が主前置変速機構を構成する。なお、FF仕様の右図では、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸が軸支され、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側の第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の間に配され、円筒部材の内周端部から主変速機構側(MAIN GEAR)の軸方向に、前置変速機構(FRONT GEAR)の第4遊星ギア列(S4、P4、R4)が配される。
【0046】
図1の2種の模式図と速度線図において、MAIN GEAR(主変速機構)を構成する第1及び第2遊星ギア列(10、20)の第1及び第2サンギア(S1、S2)を第1構成要素とし、第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とし、第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)を第5、第6、第7構成要素(A、B、C)とし、主前置変速機構を構成する第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)、第4遊星キャリア(P4)、第4サンギア(S4)を第8、第9、第10構成要素(D、E、F)とする。
【0047】
ここで、、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素を構成する第1、第2サンギア(S1、S2)は連結されると共に第1連結部材(7)に連結され、第2構成要素を構成する第1遊星キャリア(P1)は入力軸に連結され、第3構成要素を構成する第2遊星キャリア(P2)は出力軸と連結されると共に第3クラッチ(C3)で第1リングギア(R1)と連結可能とされ、第4構成要素を構成する第2リングギア(R2)は第3ブレーキ(B3)で制動可能とされる。FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第5構成要素(A)を構成する第3サンギア(S3)は第1ブレーキ(B1)で制動可能とされ、第6構成要素(B)を構成する第3遊星キャリア(P3)は第2連結部材(8)に連結され、第7構成要素(C)は入力軸に連結され、主前置変速機構となる第8構成要素(D)を構成する第4リングギア(R)は第2連結部材(8)に連結され、第9構成要素(E)を構成する第4遊星キャリア(P4)は第1クラッチ(C1)で入力軸に連結可能とされると共に第2ブレーキ(B2)で制動可能とされ、第10構成要素(F)を構成する第4サンギア(S4)は第1連結部材(7)に連結され、第9構成要素(E)を構成する第4遊星キャリア(P4)と第8構成要素(D)を構成する第4リングギア(R)を第2クラッチ(C2)で連結可能とされる。なお、特許文献2では第4遊星ギア列(40)を一体化する第2クラッチ(C2)を、第9構成要素(E)を構成する第4遊星キャリア(P4)と第10構成要素(F)を構成する第4サンギア(S4)の連結に用いたが、本願ではシンプルな構造にするため、第4リングギア(R)に連結される第2連結部材(8)と第4遊星キャリア(P4)の連結に用いた。
【0048】
図1の表は各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)、及び遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示す。性能を示す変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)に関して、変速比の幅(RANGE)は9.86と9ATに相応しい値になり、変速比のステップ値(STEP)もほぼ適切となる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は前進1速(1st)98.4%と前進3速(3rd)98.2%を除いて99%を超える噛み合い効率の高さを示しており、性能面で従来の8ATよりかなり優れたものとなっている。各変速段における動力の流れ等の変速形態は既に特許文献2に示されているので説明は省略する。
【0049】
図14「C3−1−1、9AT、C3−1−2、11AT(FR)」は、図1の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとして乗用車用にコンセプト設計した構造図である。なお、後述する11ATを示す図2の第4ブレーキ(B4)の配置構造を参考として図14に表した。図14において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ(200a)を介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1は一体として配され、変速機ケース1の内部には左前方より、第3遊星ギア列(30)、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第4遊星ギア列(40)とそれらの外周に配された第1、第2ブレーキ(B1、B2)、あるいは、11ATとした場合用いる第4ブレーキ(B4)で構成される前置変速機構と、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第3クラッチ(C3)と第2遊星ギア列(20)の外周に摩擦部材が配される第3ブレーキ(B3)で構成される主変速機構が順に配される。
【0050】
変速機ケース1の前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ(200a)のホィールステータを固定する変速機内部方向に筒状に延材された円筒部材2bがボルトで締結される。円筒部材2bの両端の内周にはブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3aを軸支する。変速機ケース1の後部には、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支された出力軸3cが配され、出力軸3cの内周に配されたニードルローラコロ軸受け4dで入力軸3aを軸支する。ここで、一体となる入力軸3aは3点で軸支されたことになり、各軸支間の距離は短く入力軸3aは円周方向のアンバランスによる振動の影響を受けにくいため、トルク伝達容量に見合った小さな径でよく、入力軸3aの周りに配される部位の径も小さくでき変速機の軽量化に繋がる。
【0051】
円筒部材2bの外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)は入力軸3aの回転を減速して主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)に選択的に伝達する。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)は右側サイド部材の内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュ4jで円筒部材2bの外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4iで第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3サンギア(S3)の前方側には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周を通り変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として後方に延材される。第3リングギア(R3)は、入力連結部材(Y)に溶着された入力ハブに連結される。入力連結部材(Y)は円筒部材2bの後方で入力軸3aにスプライン連結され、円筒部材2bの外周に沿って円筒状に前方に延材されブシュ4cで円筒部材2bの外周に回転自在に保持される。また、入力連結部材(Y)の前方には第3リングギア(R3)に連結されるハブが溶着されると共に第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止するクラッチハブが溶着される。
【0052】
第3遊星ギア列(30)の後方の円筒部材2bの外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第4遊星キャリア(P4)と第4リングギア(R4)と連結する第2連結部材(8)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、後方端部には第4遊星ギア列(40)を構成する第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材が溶着される。2連クラッチ連結部材(X)の前方には2連クラッチ連結部材(X)の径方向内周と入力連結部材(Y)に溶着されたクラッチハブに配される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、第4遊星キャリア(P4)の左側左側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第2連結部材(8)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。2連クラッチ連結部材(X)と第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材の間には仕切り板により第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材の径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)の径方向上部に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と径方向下部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項6」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0053】
円筒部材2bと第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)が配される。第4遊星ギア列(40)は、5種類(11ATでは増速回転が1種多くなり6種類)の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。 第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として延材された後方でスプライン連結される。第4リングギア(R4)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第4遊星キャリア(P4)は左側サイド部材が第2クラッチ(C2)のクラッチカバーとなって2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、右側サイド部材が第4リングギア(R4)の外周に延材される。出力となる第4サンギア(S4)は内周で第1連結部材(7)にスプライン連結される。
【0054】
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とする。第3サンギア(S3)の前方に溶着された薄板状のブレーキハブが第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1の前方にボルトで固定された保持部材2aの油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0055】
第2ブレーキ(B2)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を制動可能とする。第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材は第4リングギア(R4)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形された第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止するスプラインが延材される第4リングギア(R4)の外周で係止され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが摩擦部材前方の変速機ケース1にリティニングリングで固定される。
【0056】
図14は9ATとなる図1のFR仕様の模式図の構造図であるが、このパワートレンの第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)を連結するて第2連結部材(8)を第4ブレーキ(B4)で制動可能にすれば後述する図2の11ATとなり、参考として第4ブレーキ(B4)の配置構造を示す。第2連結部材(8)の外周に成形されたスプラインに第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材が係止され、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形された第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止する延材されたスプラインに係止される。第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが第4ブレーキ(B4)の摩擦部材の後方に第2ブレーキ(B2)のブレーキケースと一体となり変速機ケース1にリティニングリングで固定される。なお、9ATを示す図1では第4ブレーキ(B4)は必要としない。
【0057】
第4遊星ギア列(40)の後方に配される第2遊星ギア列(20)は、前進1速(1st)から前進4速(4th)、及び後進(Rev1)に於いて、第1連結部材(7)と入力軸3aから第1遊星ギア列(10)を介して入力される回転を減速して出力する。第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、第1遊星ギア列(10)の第1サンギア(S1)と一体成形されてニードルローラコロ軸受け4hで入力軸3a外周に回転自在に配されると共に前方に第1連結部材(7)として延材され第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)とスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、右側サイド部材が出力軸3cに溶着され第1遊星ギア列(10)の外周部に配された出力ハブ9にスプライン連結されるまた、遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、左端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材の内周に延材され第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)との間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。第2リングギア(R2)の外周には第3ブレーキ(B3)の摩擦部材が係止されるが、両者の重心は第4遊星ギア列(40)の遊星ピニオンギアの幅内にあり、第2遊星キャリア(P2)で第2リングギア(R2)と摩擦部材のラジアル荷重を受けるので第2リングギア(R2)専用のラジアル軸受けは必要としない。
【0058】
第2遊星ギア列(20)の後方に配される第1遊星ギア列(10)は、前進4速(4th)から前進9速(9th)に於いて、第1連結部材(7)と入力軸3aから入力される回転を第1サンギア(S1)と第1遊星キャリア(P1)に入力し、第1リングギア(R1)より出力する。第2サンギア(S2)と一体成形される第1サンギア(S1)と噛み合う遊星ピニオンギアは第1遊星キャリア(P1)に支持され、右側サイド部材が入力軸3aとスプライン連結される。遊星ピニオンギアと噛み合う第1リングギア(R1)は第1遊星ギア列(10)の後方に配され内周でブシュ4gにより軸支されると共に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を係止するクラッチハブが溶着される。
【0059】
第3クラッチ(C3)は第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)と出力軸3cを連結可能とする。第3クラッチ(C3)のクラッチハブの外周に成形されたスプラインに第3クラッチ(C3)の一方の摩擦部材が係止され、出力軸3cに溶着された出力ハブ9の内周に成形されたスプラインに第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材が係止される。出力軸3cの前方には第3クラッチ(C3)のピストンとリターンスプリングが保持され、第3クラッチ(C3)の油圧サーボが形成される。出力軸3cは変速機ケース1の後部でニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支され、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eの間で変速機ケース1からシールリングで密閉された油路を介して第3クラッチ(C3)の作動油の供給を受ける。なお、出力軸3cのフランジ部外周にはパーキングギア6aが形成される。
【0060】
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止する。変速機ケース1の内周にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、出力軸3cのフランジ部後方の変速機ケース1には第3ブレーキ(B3)のピストンとリターンスプリングが保持され、第3ブレーキ(B3)の油圧サーボが形成される。第3ブレーキ(B3)のピストンは出力ハブ9の外周で第3ブレーキ(B3)の摩擦部材を押圧する。
【0061】
図1の遊星ギア列では第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の入力動力が径の大きなリングギアに入力されるのが特徴で、「荷重=トルク/半径」となることより第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の遊星ギアの負荷荷重が小さくなり歯巾を小さく設定でき、第1、第2クラッチ(C1、C2)を2階建てにすることと相まってFRONT GEAR(前置変速機構)をコンパクトにできる。さらに図14の構造図では「請求項1」に記載した各構成部位の配置や「請求項5」に記載した第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造で、特許文献2の図2に記載した構造より5%程度シンプル、コンパクトになる。なお、図14において、第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)のエンドプレートから冷却油を注入する構造は本願出願人が特開2009−236234で提案した構造であり、トルクコンバータを用いず原動機と入力軸を回転変動吸収ダンパで直結し、第1ブレーキ(B1)を滑らせて車両のクリープやスムースな発進を行うための発進デバイスとして用いることも可能で、例えばDCTに用いる発進デバイスとしての入力軸と同じトルク容量が必要となるクラッチより、発熱量が小さく冷却効果に優れたシンプルな構造となる。
【0062】
図20「C1−1−1、9AT(FF)」は、図1の乗用車に適したFF仕様の右図の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、全長が400mm程度となる。図20において、図の左側前方の図示しない原動機から流体伝導装置であるトルクコンバータ200aに動力が伝達され、変速装置の入力軸3に導かれる。変速装置全体を収めるハウジングは、前部のトルクコンバータケース1aと変速機本体となる変速機ケース1bと後部を閉ざすの変速機ケース1cとからなり、入力軸3と入力軸3と並行に配された中継軸17と出力軸を含んだディファレンシャル装置9とを軸支する母体となる。入力軸3は、前部の一端が保持部材2a、2bに配された軸受け4aで、後部の一端が変速機ケース1cに配された軸受け4bで軸支される。保持部材2a、2bは、乾式のトルクコンバータケース1aと湿式の変速機ケース1bを隔てる隔壁であり、トルクコンバータ200aを軸支し変速装置のチャージングポンプを保持する。中継軸17は、一端がトルクコンバータケース1aに配された軸受け4gで、もう一端が変速機ケース1bに配された軸受け4fで軸支され、入力軸3と同軸上の出力カウンターギア5と噛み合うカウンターギア6がスプラインで連結されると共に、出力軸を含んだディファレンシャル装置9に動力を伝達するピニオンギアが一体成形されている。また、出力軸部はディファレンシャル装置9のキャリアとなり、一端がトルクコンバータケース1aに配された軸受け4iで、もう一端が変速機ケース1bに配された軸受け4hで軸支され、ピニオンギアと一体の中継軸17と噛み合う大歯車18がボルトで締結されている。周知の如く、ディファレンシャル装置9はピニオンギアとサイドギアからなり、サイドギアには自動変速装置の出力軸が連結される。
【0063】
図20において、変速機ケース1bは、後方に変速機ケース1cがボルトにより締結されており、軸方向中央部にL字型の円筒形状の隔壁が変速機ケース1bに一体として設けられ、内周円筒部の外周にアンギュラ軸受け4eが背面合わせでネジにより固定され、出力カウンターギア5を軸支する。隔壁前方には、隔壁側から順に第3クラッチ(C3)と第1遊星ギア列(10)が配され、出力カウンターギア5の後方には、出力カウンターギア5側から順に第2遊星ギア列(20)と、第4遊星ギア列(40)、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第3遊星ギア列(30)が配される。第4遊星ギア列(40)と第1、第2クラッチ(C1、C2)と第3遊星ギア列(30)の外周には出力カウンターギア5側から順に第2ブレーキ(B2)と第1ブレーキ(B1)が配され前置変速機構を構成し、第2遊星ギア列(20)の外周には第3ブレーキ(B3)が配され第3クラッチ(C3)と第1遊星ギア列(10)と共に主変速機構を構成する。
【0064】
変速機の後部を閉ざすの変速機ケース1cは一体となる内周部が円筒状に前方に突き出ており、突き出た円筒部材の内周端部にはニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3を軸支する。そのため、入力軸3の軸支間が短くなり回転振動を抑えることができる。突き出た円筒部材の外周には右後方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)は入力軸3の回転を減速して主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)に選択的に伝達する。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)は左側サイド部材の内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュで変速機ケース1cの円筒部材の外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュで第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3サンギア(S3)の後方側には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周を通り第2連結部材(8)として後方に延材される。第3リングギア(R3)は、入力連結部材(Y)に溶着されると共に第1クラッチ(C1)の一方の摩擦部材を係止するクラッチハブにスプライン連結される。入力連結部材(Y)は変速機ケース1cの円筒部材の前方で入力軸3にスプライン連結され、円筒部材の外周に沿って円筒状に後方に延材されブシュで円筒部材の外周に回転自在に保持される。
【0065】
第3遊星ギア列(30)の前方の変速機ケース1cの円筒部材の外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第4遊星キャリア(P4)と第4リングギア(R4)と連結する第2連結部材(8)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、前方端部には第4遊星ギア列(40)を構成する第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材が溶着される。第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第2連結部材(8)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、2連クラッチ連結部材(X)と第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の間には仕切り板により径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路を通して変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。変速機ケース1cの円筒部材の外周からは入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して第2クラッチ(C2)のサーボ機構に作動油と油圧キャンセル油が供給される。2連クラッチ連結部材(X)の後方には、第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止するクラッチハブが入力連結部材(Y)に溶着され、その摩擦部材を押圧するサーボ機構となるクラッチカバーとピストンとリターンスプリングが入力連結部材(Y)に保持される。第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路から作動油と油圧キャンセル油が供給される。このFF仕様の第1クラッチ(C1)の入力連結部材(Y)に設けられたサーボ機構は、段落「0043」に記載したFR仕様の2連クラッチ連結部材(X)に設けられた第1クラッチ(C1)のサーボ機構と異なるが、第1クラッチ(C1)のサーボ機構はどちらに設けてもよい。また、第4遊星キャリア(P4)の右サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項6」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0066】
変速機ケース1cの円筒部材と第1、第2クラッチ(C1、C2)の前方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)が配される。第4遊星ギア列(40)は、5種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。 第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材と一体となる第2連結部材(8)として前方に延材されスプライン連結される。第4リングギア(R4)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第4遊星キャリア(P4)は右側サイド部材が第2クラッチ(C2)のクラッチカバーとなって2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、左側サイド部材が第4リングギア(R4)の外周に延材される。出力となる第4サンギア(S4)は内周で入力軸3の外周にブシュで軸支される第1連結部材(7)にスプライン連結される。
【0067】
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とする。第3サンギア(S3)の後方に溶着された薄板状のブレーキハブが第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1cの前方に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1cに形成された油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0068】
第2ブレーキ(B2)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を制動可能とする。、第4遊星ギア列(40)を構成する第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材は第4リングギア(R4)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bの内周に成形されたスプラインに係止される。第2ブレーキ(B2)の摩擦部材の前方の変速機ケース1bには第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースがリティニングリングで固定される。
【0069】
第4遊星ギア列(40)の前方に配される第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、第1連結部材(7)にスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、左側サイド部材が出力カウンターギア5にスプライン連結されリティニングリングで固定される。遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、右端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)まで延材され、第2サンギア(S2)と第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)及び第1連結部材(7)の間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。
【0070】
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止する。変速機ケース1bの内周にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、第3ブレーキ(B3)の摩擦部材の後方には第2ブレーキ(B2)のブレーキケースと一体となり第3ブレーキ(B3)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが配される。
【0071】
第2遊星ギア列(20)の前方に配される出力カウンターギア5は、変速機ケース1bの軸方向中央部に配されたL字型の円筒形状の隔壁の円筒部の外周にネジにより固定された背面合わせのアンギュラ軸受け4eで軸支される。出力カウンターギア5の右外周には第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材がスプライン連結されリティニングリングで固定される。
【0072】
変速機ケース1bの軸方向中央部に配された隔壁の前方に配された第3クラッチ(C3)は、ピストンとリターンスプリングを保持して第3クラッチ(C3)の油圧サーボを形成するクラッチカバーの内周円筒部材が隔壁の内周内側を通り第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材の内周に延材され左側サイド部材にスプライン連結され、出力カウンターギア5に連結される。また、第3クラッチ(C3)のクラッチカバーの内周円筒部材は入力軸3の外周にブシュで軸支される第1連結部材(7)の外周にブシュで軸支されると共に、変速機ケース1bの隔壁の内周に開けられた油路からシールリングで密閉された油路を介して第3クラッチ(C3)の作動油の供給を受ける。第3クラッチ(C3)のクラッチカバーの外周プレートの内周にはスプラインが成形され第3クラッチ(C3)の一方の摩擦部材が係止され、第3クラッチ(C3)の前方に配された第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)に溶着されたクラッチハブの外周部のスプラインにはもう一方の摩擦部材が係止される。
【0073】
第3クラッチ(C3)の前方に配された第1遊星ギア列(10)は、第1遊星キャリア(P1)の左側サイド部材が第1サンギア(S1)の内周側に延材され入力軸3とスプライン連結され、第1サンギア(S1)が第3クラッチ(C3)の内周側で入力軸3の外周にブシュで軸支される第1連結部材(7)にスプライン連結される。第1リングギア(R1)は右側で第3クラッチ(C3)のクラッチハブに溶着され、クラッチハブは第1サンギア(S1)の外周にブシュで軸支される。第1リングギア(R1)と第1遊星ギア列(10)の外側に摩擦部材を係止する第3クラッチ(C3)のクラッチハブの重心は第1遊星ギア列(10)の遊星ピニオンギアの幅外となるため、専用のラジアル軸受けを必要とする。
【0074】
図20の構造では第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材を第2クラッチ(C2)の油圧室とする「請求項5」、「請求項6」の構造と、入力連結部材(Y)と2連クラッチ連結部材(X)の配置を規定した「請求項2」の構造と、第1、第2クラッチ(C1、C2)を各摩擦部材が径方向に2段に重なるよう円筒部材の外周方向外側に回転自在に配して円筒部材の外周から作動油を供給すると共に第3遊星ギア列(30)を配する「請求項1」の構造により前置変速機構をコンパクトにし、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)を出力カウンターギア5を挟んで配し、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を第2サンギア(S2)と第4サンギアの間においてスラストニードルベアリングで軸支する「請求項3」の構造と、隔壁から第3クラッチ(C3)の作動油を供給する「請求項4」の構造により主変速機構をコンパクトにして、FF様に成立させたものである。
【0075】
<1−TYPE>「C3−1−2、11AT」図2、(図14)、図21
図2は、C3タイプ11ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図2の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は主前置変速機構と副前置変速機構に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10構成要素(D、E、F)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。この配置形態は図1と全く同じである。
【0076】
図2の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。図1との違いは第8、9、10構成要素(D、E、F)を有する主前置変速機構のみであるため、主前置変速機構について説明する。図1では主前置変速機構を構成する第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)、第4遊星キャリア(P4)、第4サンギア(S4)を第8、第9、第10構成要素(D、E、F)としたのに対し、図2では主前置変速機構を構成する第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)、第4遊星キャリア(P4)、第4リングギア(R4)を第8、第9、第10構成要素(D、E、F)とし、第4サンギア(S4)と第4リングギア(R4)を入れ替えた構成とする。そして、第8構成要素(D)となる第4サンギア(S4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能とすることにより、図1より1個多い入力軸の増速回転を得たものである。当然、図14で参考として記載した第4リングギア(R4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能とした構造のように、図1の第8構成要素(D)となる第4リングギア(R4)を第4ブレーキ(B4)で制動可能としてもよい。
【0077】
特許文献2では第2クラッチ(C2)は第4遊星ギア列(40)を一体化する役目を担うため、第4遊星ギア列(40)を構成する3個の構成要素の何れか2個を第2クラッチ(C2)で連結すればよいことになる。第1クラッチ(C1)は第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)に入力軸を連結可能とし、第1、第2クラッチ(C1、C2)は2階建ての2連クラッチとすることより、第2クラッチ(C2)は第4遊星キャリア(P4)と第4リングギア(R4)を連結可能とした方がシンプル、コンパクトな構造となる。したがって、FRONT GEAR(前置変速機構)の配列はMAIN GEAR(主変速機構)側から順に図1では第4遊星ギア列(40)、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第3遊星ギア列(30)の順となったが、図2では第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)がMAIN GEAR(主変速機構)と連結するため、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)の順に配置される。第1、第2クラッチ(C1、C2)に作動油を供給する円筒部材は更にMAIN GEAR(主変速機構)の方に近づき、円筒部材の外周にはFRONT GEAR(前置変速機構)のすべての部位が配される。そして、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)の外周には第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)が配される。
【0078】
図2の、右図のFF仕様の模式図及び各遊星ギアの歯数比を示す表において、MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比は2.300で、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比は3.000となり図1の第1遊星ギア列(10)の歯数比3.000と第2遊星ギア列(20)の歯数比2.667とは大きく異なる。これは図1の9ATと図2の11ATの変速比を各々適切にするためであり、図2では第1遊星ギア列(10)の歯数比が2.300と小さいため第1リングギア(R1)の外径が小さくなる。そのため第1リングギア(R1)の外周に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができる。また、変速機ケースの中央部に配された隔壁の後方には第1、第2、第3、第4ブレーキ(B1、B2、B3、B4)が配されるため、出力カウンターギアを図1とは反対側の隔壁の前方側に配した。
【0079】
図2「C3−1−2、11AT」の変速比を示す表において、変速比は6.721〜0,615と前進の減速段が8段で増速段が3段となり、実用上問題のない変速比が得られる。しかしながら、変速比の幅(RANGE)は10.93と11ATとしては若干小さくなり、低速域から中速域にかけて変速比のステップ値(STEP)が少しクロスとなる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は図1「C3−1−1、9AT」より若干劣るものの、このクラスのATとしては最高レベルである。これは、図1「C3−1−1、9AT」に第4ブレーキ(B4)を付加しただけであり、変速形態は図1と全く同じとなるためである。
【0080】
段落「0006」で「重量の小さな乗用車としては、Gear Rangeが9程度あれば十分で、ギア比のステップ値と変速機の重量及び伝達効率が適切ならば変速段数は7、8速(7,8AT)で十分である」と説明したように、乗用車で特殊な用途以外は11ATを必要としなく、このギアトレンはトラック・バス等の商用車に向いている。
【0081】
図21「C1−1−2、11AT(FF)」は、図2のFF仕様の右図の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、全長は図20の9AT(FF)と変わらず、400mm程度となる。トルクコンバータ200aからの入力構造や出力カウンターギア5と噛み合うカウンターギア6を介してディファレンシャル装置9に出力する出力構造は図20と同じである。変速装置全体を収めるハウジングは、前部のトルクコンバータケース1aと変速機本体となる変速機ケース1bと後部を閉ざすの変速機ケース1cとからなり、変速機ケース1bの軸方向中央部に逆L字型の円筒形状の隔壁が一体として設けられ、内周円筒部の外周にアンギュラ軸受け4eが背面合わせでネジにより固定され、出力カウンターギア5を軸支する。隔壁の前方には、隔壁側から順に出力カウンターギア5と第3クラッチ(C3)と第1遊星ギア列(10)が配され、隔壁の後方には、隔壁側から順に第2遊星ギア列(20)と、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)が配される。第1、第2クラッチ(C1、C2)と第4遊星ギア列(40)と第3遊星ギア列(30)の外周には隔壁側から順に第2ブレーキ(B2)と第4ブレーキ(B4)と第1ブレーキ(B1)が配され前置変速機構を構成し、第2遊星ギア列(20)の外周には第3ブレーキ(B3)が配され第3クラッチ(C3)と第1遊星ギア列(10)と共に主変速機構を構成する。
【0082】
変速機の後部を閉ざすの変速機ケース1cは一体となる内周部が円筒状に前方に突き出ており、突き出た円筒部材の内周端部にはニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3を軸支する。そのため、入力軸3の軸支間が短くなり回転振動を抑えることができる。突き出た円筒部材の外周には右後方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。図20の9ATと比べ第4遊星ギア列(40)が円筒部材の外周に配されるため、その分、円筒部材は前方に突き出、入力軸3の軸支間を更に短くする。第3遊星ギア列(30)は入力軸3の回転を減速して主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)に選択的に伝達する。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)は左側サイド部材の内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュで変速機ケース1cの円筒部材の外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュで第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3サンギア(S3)の後方側には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周に第2連結部材(8)として延材される。第3リングギア(R3)は、入力連結部材(Y)に溶着される入力ハブにスプライン連結される。入力連結部材(Y)は変速機ケース1cの円筒部材の前方で入力軸3にスプライン連結され、円筒部材の外周に沿って円筒状に後方に延材されブシュで円筒部材の外周に回転自在に保持される。
【0083】
第3遊星ギア列(30)の前方に配される第4遊星ギア列(40)は、6種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)は内周で入力連結部材(Y)の外周にブシュで軸支され、第4ブレーキ(B4)のブレーキハブが溶着され、ブレーキハブは第3遊星ギア列(30)の外周に延材された第2連結部材(8)とスプライン連結すると共に第4ブレーキ(B4)の摩擦部材を係止する。第4サンギア(S4)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第4遊星キャリア(P4)は右側サイド部材が第4遊星ギア列(40)の外周に延材され、左側サイド部材が第2クラッチ(C2)のクラッチカバーとなって2連クラッチ連結部材(X)に溶着される。
【0084】
第4遊星ギア列(40)の前方の変速機ケース1cの円筒部材の外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第4遊星キャリア(P4)と第4リングギア(R4)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、後方端部には第4遊星ギア列(40)を構成する第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材が溶着される。第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第4リングギア(R4)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。2連クラッチ連結部材(X)の前方には、第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構となるクラッチカバーとピストンとリターンスプリングが入力連結部材(Y)の前方端にスプライン連結されるクラッチハブに保持される。第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路から作動油と油圧キャンセル油がこのクラッチハブに供給される。このFF仕様の第1クラッチ(C1)の入力連結部材(Y)に設けられたサーボ機構は、段落「0043」に記載したFR仕様の2連クラッチ連結部材(X)に設けられた第1クラッチ(C1)のサーボ機構と異なるが、第1クラッチ(C1)のサーボ機構はどちらに設けてもよいが、FF仕様としては図20図21のほうがコンパクトになる。また、第4遊星キャリア(P4)の左サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項6」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。また、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)には断面が逆L字型をした第1連結部材(7)がスプライン連結され、入力軸3の外周にブシュで回転自在に軸支される。
【0085】
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とする。第3サンギア(S3)の後方に溶着された薄板状のブレーキハブが第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1cの前方に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1cに形成された油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0086】
第4ブレーキ(B4)は、第1ブレーキ(B1)の前方に対抗して配され、第3遊星ギア列(30)の外周に配された第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材と第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)を連結する第2連結部材(8)を制動可能とする。第4サンギア(S4)の内周に溶着された第4ブレーキ(B4)のブレーキハブは第3遊星ギア列(30)の外周に延材された第2連結部材(8)とスプライン連結すると共に第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材を係止し、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1cの前方に成形されたスプラインに係止される。変速機ケース1bの後端には第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースがリティニングリングで固定される。
【0087】
第4ブレーキ(B4)の前方には第2ブレーキ(B2)が配され、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を制動可能とする。第4遊星ギア列(40)を構成する第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材は第4リングギア(R4)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bの内周に成形されたスプラインに係止される。第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースには、対抗して第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持される。
【0088】
第1連結部材(7)と第1、第2クラッチ(C1、C2)との前方には第2遊星ギア列(20)が配され、第2サンギア(S2)が入力軸3の外周に軸支される第1連結部材(7)にスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、左側サイド部材が変速機ケース1bと一体の逆L字型をした隔壁の内周側で第3クラッチ(C3)のクラッチカバーの内周円筒部材にスプライン連結される。遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、右端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第2サンギア(S2)方向に延材され、第2遊星キャリア(P2)の右側サイド部材と第1連結部材(7)の間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。
【0089】
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止する。変速機ケース1bの内周にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、第3ブレーキ(B3)の摩擦部材の前方には第2ブレーキ(B2)のブレーキケースと一体となり第3ブレーキ(B3)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが変速機ケース1bと一体の隔壁に保持される。
【0090】
変速機ケース1bと一体の隔壁の前方に配される出力カウンターギア5は、隔壁の円筒部の外周にネジにより固定された背面合わせのアンギュラ軸受け4eで軸支される。出力カウンターギア5の左外周には第3クラッチ(C3)のクラッチカバーと一体のスプラインハブが連結されリティニングリングで固定される。
【0091】
出力カウンターギア5の前方に配された第3クラッチ(C3)は、ピストンとリターンスプリングを保持して第3クラッチ(C3)の油圧サーボを形成するクラッチカバーの内周円筒部材が隔壁の内周内側を通り第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の内周に延材された左側サイド部材にスプライン連結されると共に、ブシュで第1連結部材(7)の外周に軸支され、変速機ケース1bの隔壁の内周に開けられた油路からシールリングで密閉された油路を介して第3クラッチ(C3)の作動油の供給を受ける。また、第3クラッチ(C3)のクラッチカバーの外周プレートが第3クラッチ(C3)の前方に配された第1遊星ギア列(10)の外周側に延材され、内周のスプラインで第3クラッチ(C3)の一方の摩擦部材が係止され、第3クラッチ(C3)の第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)の外周に形成されたスプラインにはもう一方の摩擦部材が係止される。第3クラッチ(C3)のピストンはクラッチカバーの外周部に配され、外周部まで延材されたクラッチの作動油とピストンの遠心油圧をキャンセルするキャンセラー油を仕切る仕切り板とキャンセラープレートの間を通り油が供給される。
【0092】
第3クラッチ(C3)の前方に配された第1遊星ギア列(10)は、第1遊星キャリア(P1)の左側サイド部材が第1サンギア(S1)の内周側に延材され入力軸3とスプライン連結され、第1サンギア(S1)が第3クラッチ(C3)の内周側で入力軸3の外周にブシュで軸支される第1連結部材(7)にスプライン連結される。第1リングギア(R1)は右側で第3クラッチ(C3)のクラッチハブに溶着され、クラッチハブは第1サンギア(S1)の外周にブシュで軸支される。
【0093】
図21の11ATの構造では図20の9ATの構造と比べ第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)に第3遊星ギア列(30)から動力が入力するため、第4リングギア(R4)に入力する図20の9ATの構造より歯面荷重が大きくなり歯幅を増やさなければならない。加えて、第4リングギア(R4)から第1連結部材(7)で動力を出力するため、第4サンギア(S4)から出力する図20の9ATの構造より第1連結部材(7)の板厚分軸方向が長くなる。しかしながら、第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比を小さくできるので、第1遊星ギア列(10)の外周側に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができ、第3クラッチ(C3)がコンパクトになる。その結果、図21の11ATと図20の9ATの構造の軸方向が同じとなる。特許請求項の内容は図20の9ATと同じとなるが、更に隔壁に第4ブレーキ(B4)の油圧室を設けた「請求項4」の構造が追加される。
【0094】
<1−TYPE>「C3−1−3、15AT」図3図15
図3は、C3タイプ15ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図3の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は主前置変速機構と副前置変速機構に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10、11構成要素(D、E、F、G)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。この配置形態は第11構成要素(G)が増えただけで、図1図2と全く同じである。
【0095】
図3の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。変速装置にはFR仕様における左図の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、2階建ての第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(50)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3、第4及び第5遊星ギア列(30、40、50)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。FF仕様の右図では各遊星ギアの配置が逆になる。また、第3遊星ギア列(30)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)が主前置変速機構を構成する。第1、第2、第3、第4、第5遊星ギア列(10、20、30、40、50)は、第1、第2、第3、第4、第5サンギア(S1、S2、S3、S4、S5)と、第1、第2、第3、第4、第5遊星キャリア(P1、P2、P3、P4、P5)と、第1、第2、第3、第4、第5リングギア(R1、R2、R3、R4、R5)とで構成される。変速形態は特許文献2に記載しているので省略する。図2のC3タイプ11ATと比較すると、図3図2に第5遊星ギア列(50)を増やしただけである。なお、FF仕様ではトルク増幅作用のあるトルクコンバータは15ATでは必要としないので、軸方向がトルクコンバータより20%程短くなる流体継ぎ手を用いた。
【0096】
図3の模式図は特許文献2の図3に記載した模式図とほとんど同じである。違いはFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)の連結だけである。特許文献2では第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)に入力軸が連結し第3サンギア(S3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とするのに対し、第3サンギア(S3)に入力軸が連結し第第3リングギア(R3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とするもので、第8構成要素(D)に伝達する減速回転を特許文献2より大きくした。なお、第1、第2、第3、第4、第5遊星ギア列(10、20、30、40、50)のリングギアとサンギアの歯数比は特許文献2と全く同じとしたが、本願では特許文献2より少しGear Rangeを小さくなるよう第3遊星ギア列(30)の連結を変えた。また、MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比は2.000で、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比は3.000となり、図2の11ATより第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比が更に小さく、図2同様、第1リングギア(R1)の外周に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができる。図3の左右のFR仕様とFF仕様の模式図では、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)と主前置変速機構を構成する2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)の軸間に2階建てとなる第1、第2クラッチ(C1、C2)が配され、変速機ケースの、前置変速機構側となる一端に設けた円筒部材の外周方向外側に第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)を配し、入力軸を軸支する円筒部材端部の主変速機構側に2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)を配した「請求項1」の構造が示される。図3の右のFF仕様の模式図では、出力カウンターギアを挟んでMAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)を配した「請求項3」の構造が示される。
【0097】
図3「C3−1−3、15AT」の変速比を示す表において、変速比は11.199〜0,604と前進の減速段が10段で増速段が5段となり、実用上問題のない変速比が得られる。変速比の幅(RANGE)は18.54と乗用車では比較対象がないほど大きくなるが、低速域から中速域にかけて変速比のステップ値(STEP)が少しクロスとなる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は変速比が1stの11.199で96.2%、2ndの7.064で97.4%と極端に悪くなるが、その他の変速段では98%を超え、特に増速段では99%を超えるため、総合的には最高レベルに近い効率となる。一般的には15ATのような多段変速機は3速発進をするため1st、2ndの効率の悪さは問題とならない。当然、図3のFF仕様の模式図のような15ATは乗用車に必要としないが、図2のC3タイプ11ATに第5遊星ギア列(50)を増やしただけであり、第5遊星ギア列(50)を第4遊星ギア列(40)の1階部に配したため、ギア幅が若干広くなるだけで、実質的に11ATの軸長と変わらなくなる。
したがって、原動機からの入力動力を300Nmとしてトルクコンバータを用いても全長が410mm前後となることが想像できる。トルクコンバータに変え流体継ぎ手を用いると400mm前後とC3タイプ9AT、11ATと変わらなくなる。図3は変速比や遊星ギアの噛み合い効率が適切で乗用車に搭載できる変速段数の限界を見極めるもので、前進15速までは可能と言える。
【0098】
図15「C1−1−3、15AT(FR)」は、図3のFR仕様の右図の模式図を原動機からの入力トルクを300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、全長が図14の9AT、11AT(FR)と1.5%程長くなるだけでほとんど変わらない。図15において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ(200a)を介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1は一体として配され、変速機ケース1の内部には左前方より、第3遊星ギア列(30)、第1、第2クラッチ(C1、C2)、2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)とそれらの外周に配された第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)で構成される前置変速機構と、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第1遊星ギア列(10)の外周に摩擦部材が配される第3クラッチ(C3)と第2遊星ギア列(20)の外周に摩擦部材が配される第3ブレーキ(B3)で構成される主変速機構が順に配される。
【0099】
変速機ケース1の前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ(200a)のホィールステータを固定する変速機内部方向に筒状に延材された円筒部材2bがボルトで締結される。円筒部材2bの両端の内周にはブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3aを軸支する。変速機ケース1の後部には、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支された出力軸3cが配され、出力軸3cの内周に配されたニードルローラコロ軸受け4dで入力軸3aを軸支する。ここで、一体となる入力軸3aは3点で軸支されたことになり、各軸支間の距離は短く入力軸3aは円周方向のアンバランスによる振動の影響を受けにくいため、トルク伝達容量に見合った小さな径でよく、入力軸3aの周りに配される部位の径も小さくでき変速機の軽量化に繋がる。
【0100】
円筒部材2bの外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)は入力軸3aの回転を減速して主前置変速機構となる第4、第5遊星ギア列(40、50)に選択的に伝達する。第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)は、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止されると共に内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュ4kを有する薄板状のブレーキハブが溶着され、円筒部材2bの外周に回転自在に保持される。第3遊星キャリア(P3)は、左側サイド部材が内周に筒状に延材され、内径に圧入されたブシュ4jで第3リングギア(R3)に溶着されたブレーキハブの外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4cで第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として後方に延材される。第3サンギア(S3)は、入力連結部材(Y)に溶着された第1、第2クラッチ(C1、C2)のクラッチカバーに溶着される。入力連結部材(Y)は円筒部材2bの後方で入力軸3aにスプライン連結され、円筒部材2bの外周に沿って円筒状に前方に延材されて第1、第2クラッチ(C1、C2)のクラッチカバーを介して第3サンギア(S3)に溶着され、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4cで回転自在に保持される。
【0101】
第3遊星ギア列(30)の後方の円筒部材2bの外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は入力軸3aと第5サンギア(S5)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)と一体になっており、第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。入力連結部材(Y)と溶着する第1、第2クラッチ(C1、C2)のクラッチカバーには第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。第1、第2クラッチ(C1、C2)のクラッチカバーと2連クラッチ連結部材(X)の間には仕切り板により径方向上部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0102】
円筒部材2bと第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)が配される。第4、第5遊星ギア列(40、50)は、8種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。一体化された第5遊星ギア列(50)の第5リングギア(R5)と第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)には、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の変速機ケース1の内側に沿って延材された第2連結部材(8)が第4サンギア(S4)にスプライン連結される。2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)の1階には第5遊星ギア列(50)が配され、第2クラッチ(C2)の一方の摩擦部材が外周スプラインに係止されるクラッチハブが溶着された第5サンギア(S5)がブシュ4iで入力軸3aの外周に回転自在に配される。なお、第2クラッチ(C2)のもう一方の摩擦部材は2連クラッチ連結部材(X)の内周スプラインに係止される。第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)は、左側サイド部材がブシュ4lで第5サンギア(S5)の外周に軸支され、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材と一体の第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)の右側サイド部材がブシュ4mで入力軸3aの外周に回転自在に配される。ここで、2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)の第4、第5遊星キャリア(P4、P5)は両サイドでしっかり軸支されたことになる。また、第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)の左側サイド部材には第1クラッチ(C1)の一方の摩擦部材が内周スプラインに係止されるクラッチハブがスプライン連結され、2連クラッチ連結部材(X)の外周スプラインには第1クラッチ(C1)のもう一方の摩擦部材が係止される。第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材には、第4遊星ギア列(40)の外周に延材される第2ブレーキ(B2)のブレーキハブが溶着され、出力となる第4リングギア(R4)には、後方の内周に第1連結部材(7)がスプライン連結される。第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の配置と構造は図14の11ATと同じである。
【0103】
第4遊星ギア列(40)の後方に配される第2遊星ギア列(20)は、前進1速(1st)から前進7速(7th)、及び後進(Rev1)に於いて、第1連結部材(7)と入力軸3aから第1遊星ギア列(10)を介して入力される回転を減速して出力する。第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、第1遊星ギア列(10)の第1サンギア(S1)と一体成形されてニードルローラコロ軸受け4hで入力軸3a外周に回転自在に配されると共に前方で第1連結部材(7)にスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、右側サイド部材が出力軸3cに溶着され第1遊星ギア列(10)の外周部に配された出力ハブ9にスプライン連結される。また、遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、左端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第1連結部材(7)の内周に延材され第2遊星ギア列(20)の、第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材との間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。第2リングギア(R2)の外周には第3ブレーキ(B3)の摩擦部材が係止されるが、両者の重心は第4遊星ギア列(40)の遊星ピニオンギアの幅内にあり、第2遊星キャリア(P2)で第2リングギア(R2)と摩擦部材のラジアル荷重を受けるので第2リングギア(R2)専用のラジアル軸受けは必要としない。
【0104】
第2遊星ギア列(20)の後方に配される第1遊星ギア列(10)は、前進4速(7th)から前進9速(15th)において、第1連結部材(7)と入力軸3aから入力される回転を第1サンギア(S1)と第1遊星キャリア(P1)に入力し、第1リングギア(R1)より出力する。第2サンギア(S2)と一体成形される第1サンギア(S1)と噛み合う遊星ピニオンギアは第1遊星キャリア(P1)に支持され、右側サイド部材が入力軸3aとスプライン連結される。遊星ピニオンギアと噛み合う第1リングギア(R1)は第1遊星ギア列(10)の後方に配され内周でブシュ4gにより軸支されると共に外周に形成されたスプラインで第3クラッチ(C3)の摩擦部材を係止する。
【0105】
第3クラッチ(C3)は第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)と出力軸3cを連結可能とする。第1遊星ギア列(10)の外周に形成されたスプラインに第3クラッチ(C3)の一方の摩擦部材が係止され、出力軸3cに溶着された出力ハブ9の内周に成形されたスプラインに第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材が係止される。出力軸3cの前方には第3クラッチ(C3)のピストンとリターンスプリングが保持され、第3クラッチ(C3)の油圧サーボが形成される。出力軸3cは変速機ケース1の後部でニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支され、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eの間で変速機ケース1からシールリングで密閉された油路を介して第3クラッチ(C3)の作動油の供給を受ける。なお、出力軸3cのフランジ部外周にはパーキングギア6aが形成される。第3ブレーキ(B3の)配置と構造は図14と同じである。
【0106】
特許文献2の図4は原動機からの入力トルクを1000Nmとして商用車用にコンセプト設計した構造図で、商用車は乗用車と比べ負荷頻度の10倍厳しく、耐久寿命も10倍必要で、全く強度が違うものである。したがって、特許文献2の図4では2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)と第2遊星ギア列(20)のギア幅を極端に大きくしたが、本願の図15ではそれほど大きくしなくてもよい。しかしながら、図14の9AT、11ATよりは減速比が大きくなるのでギア幅を大きくした。それにより軸長は増えるが、第1遊星ギア列(10)の径が小さくできるので第3クラッチ(C3)の摩擦部材を第1遊星ギア列(10)の外周に配することができコンパクトになるため、全長は図14の9AT、11ATより僅かの1.5%長くなるだけで済む。なお、本願では特許文献2による「1−TYPE」の実施例として9AT、11AT、15ATの3種を記載したが、本願のAタイプ6ATをFRONT GEAR(前置変速機構)に用いた15ATより効率は悪くなるが、1種の変速回転を主前置変速機構に伝えるFRONT GEAR(前置変速機構)に、「段落4」に記載したBタイプ6ATやCタイプ5ATを用いても良い。なお、本願の15ATに用いたAタイプ6ATは、現状商品化されている4ATよりも軸方向がコンパクトになり、6ATとしても商品化できるパワートレンと構造である。
【0107】
<2−TYPE>
段落「0014」で説明した多段変速機で、Daimler提案の特許文献1のパワートレンを本願の発明とする構造に変更したものである。特許文献1のパワートレンはC3タイプ9ATでDaimlerにより実用化されており、実用化された各部位の配置は特許文献1の配置とは異なり、本願出願人が特許文献2の図6に記載した。Daimlerが提案した配置や実用化した配置はFR仕様のみであり、しかもシンプル、コンパクトにはならないため、本願の「C3−2−1、9AT」図4図16図22でFR仕様とFF仕様の構造を特許として請求し、その実施例を記載する。なお、特許文献1のパワートレンは9ATのみであるため、この9ATをベースとした11ATを「C3−2−2、11AT」図5で本願の実施例として記載する。
【0108】
<2−TYPE>「C3−2−1、9AT」図4図16図22
図4は、C3タイプ9ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図4の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は「1−TYPE」と対比させ、理解を簡略化させるため主前置変速機構と副前置変速機構に分けた。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第6、7、8構成要素(B、C、D)が配置され、第1構成要素と第6構成要素(B)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0109】
MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態は図1と同じであるため説明を省き、FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態について説明する。図4の速度線図において、副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)は第5構成要素(A)となる第3サンギア(S3)が入力軸に連結し、第6構成要素(B)となる第3遊星キャリア(P3)が第1ブレーキ(B1)で制動可能とされると共に第1クラッチ(C1)で入力軸に連結可能となり、更に主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)の出力構成要素となる第4リングギア(R4)に第2クラッチ(C2)で連結可能となり、第7構成要素(C)となる第3リングギア(R3)が第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)に連結し、第4サンギア(S4)が第2ブレーキ(B2)で制動可能となっている。ここで、副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)は、第1ブレーキ(B1)の締結で第4遊星キャリア(P4)に入力軸の逆回転を出力すると共に第2クラッチ(C2)の締結で第4リングギア(R4)に0回転を出力し、第1クラッチ(C1)の締結で第4遊星キャリア(P4)に入力軸の回転を出力すると共に第2クラッチ(C2)の締結で第4リングギア(R4)に入力軸の回転を出力する。つまり、副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)は主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)に入力軸の回転と逆回転と0回転の3種の回転を出力したことになる。更に主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)は、第4サンギア(S4)を第2ブレーキ(B2)で制動することにより、第3リングギア(R3)から第4遊星キャリア(P4)に出力された入力軸の回転と逆回転を増速して出力する。つまり、主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)は、入力軸の回転と逆回転と0回転と増速回転の4種の回転を出力することになる。更に第2クラッチ(C2)の締結で副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)は図4の速度線図が示す4個の構成要素(A、B、C、D)となり、第2ブレーキ(B2)で制動することにより入力軸の減速回転を得、合わせて5種の回転を出力することになる。
【0110】
図4の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。FR仕様の左図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、FF仕様の右図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。また、第3遊星ギア列(30)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、第4遊星ギア列(40)が主前置変速機構を構成する。なお、FF仕様の右図では、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸が軸支され、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側の第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の間に配され、円筒部材の内周端部から主変速機構側(MAIN GEAR)の軸方向に、前置変速機構(FRONT GEAR)の第4遊星ギア列(S4、P4、R4)が配される。
【0111】
図4の表はDaimlerが実用化した各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)、及び遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示す。性能を示す変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)に関して、変速比の幅(RANGE)は9.08と9ATとしては少し小さな値になり、変速比のステップ値(STEP)はほぼ適切となる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は前進1速(1st)98.1%と前進3速(3rd)98.6%を除いてほぼ図1と同じように99%を超える噛み合い効率の高さを示しており、性能面で従来の8ATよりかなり優れたものとなっている。
【0112】
図16「C3−2−1、9AT(FR)」は、図4の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとして乗用車用にコンセプト設計した構造図である。図16において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ(200a)を介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1は一体として配され、変速機ケース1の内部には左前方より、第3遊星ギア列(30)、第1、第2クラッチ(C1、C2)、第4遊星ギア列(40)とそれらの外周に配された第1、第2ブレーキ(B1、B2)で構成される前置変速機構と、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第3クラッチ(C3)と第2遊星ギア列(20)の外周に摩擦部材が配される第3ブレーキ(B3)で構成される主変速機構が順に配される。
【0113】
変速機ケース1の前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ(200a)のホィールステータを固定する変速機内部方向に筒状に延材された円筒部材2bがボルトで締結される。円筒部材2bの両端の内周にはブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3aを軸支する。変速機ケース1の後部には、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支された出力軸3cが配され、出力軸3cの内周に配されたニードルローラコロ軸受け4dで入力軸3aを軸支する。ここで、一体となる入力軸3aは3点で軸支されたことになり、各軸支間の距離は短く入力軸3aは円周方向のアンバランスによる振動の影響を受けにくいため、トルク伝達容量に見合った小さな径でよく、入力軸3aの周りに配される部位の径も小さくでき変速機の軽量化に繋がる。
【0114】
円筒部材2bの外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4cで円筒部材2bの外周に回転自在に保持され、円筒部材2bの後方で入力軸3aにスプライン連結され円筒部材2bの外周に沿って円筒状に前方に延材される入力連結部材(Y)が溶着される。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は内周で2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、左側サイド部材には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周に延材されて第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第3リングギア(R3)は、外周で変速機ケース1の内側に沿って後方に延材され第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)に溶着される連結部材がスプライン連結される。
【0115】
第3遊星ギア列(30)の後方の円筒部材2bの外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)とを連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、前方端部には第3遊星ギア列(30)を構成する第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材が溶着される。2連クラッチ連結部材(X)の後方内側には、2連クラッチ連結部材(X)の径方向内周と入力連結部材(Y)にスプライン連結されたクラッチハブに係止される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材には、2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第4リングギア(R4)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。2連クラッチ連結部材(X)と、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の間には仕切り板により第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)の径方向上部に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と径方向下部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項7」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0116】
円筒部材2bと第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)が配される。第4遊星ギア列(40)は、5種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材には、外周で変速機ケース1の内側に沿って第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周を通り第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)にスプライン連結される連結部材が溶着される。出力となる第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、前方の第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周に延材され第2クラッチ(C2)の摩擦部材を係止すると共に前方で第1連結部材(7)がスプライン連結され、第4遊星ギア列(40)の内周まで延材された第2遊星ギア列(20)と第1遊星ギア列(10)の一体化した第2サンギア(S2)と第1サンギア(S1)に第1連結部材(7)がスプライン連結される。第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材は第4遊星ギア列(40)の内周に延材されブシュ4iで第1連結部材(7)に軸支され、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)は内周のブシュ4jで延材された第2サンギア(S2)に軸支されると共に後方で第4遊星ギア列(40)の外周まで延材され第2ブレーキ(B2)の摩擦部材を係止するブレーキハブが溶着される。
【0117】
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を制動可能とする。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1の前方にボルトで固定された保持部材2aの油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0118】
第2ブレーキ(B2)は、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)を制動可能とする。第4サンギア(S4)の後部に溶着されたブレーキハブは第4リングギア(R4)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1の中央に成形されたスプラインに第4リングギア(R4)の外周で係止され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが摩擦部材前方の変速機ケース1にリティニングリングで固定される。なお、変速機ケース1の中央に成形されたスプラインは後方に延材され、第2遊星ギア列(20)の外周で第3ブレーキ(B3)の摩擦部材を係止する。
【0119】
第4遊星ギア列(40)の後方に配される主変速機構(MAIN GEAR)の構造は「1−TYPE」の図14と同じであるため説明を省略する。Daimlerが実用化した「2−TYPE」の9ATと本願の図16の9ATを比較すると、同じパワートレンでも部位の配置構造により本願の図16の9ATの方が15%程度コンパクトになり、その分軽量化される。また、図16の「2−TYPE」9ATと図14の「1−TYPE」9ATを比較すると、前置変速機構(FRONT GEAR)の第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の連結が異なるだけで、各部位の配置は同じとなる。但し、図14の「1−TYPE」9ATの第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)では径の大きなリングギアに動力が入力するため、歯面荷重がサンギアに入力する図16の「2−TYPE」9ATより小さくなりその分歯幅を小さくできる。したがって、変速機の全長は図14の「1−TYPE」9ATの方が図16の「2−TYPE」9ATより1%程度短くできるが、ほとんど同じと言ってよい。「1−TYPE」9ATと「2−TYPE」9ATの本願の構造は、実用化されたZFの「D−TYPE」8ATやTOYOTAの「B−TYPE」8ATと比べると、変速機の全長は同等以下となり、変速比は極めて優れたものとなる。遊星ギアの噛み合い効率はTOYOTAの「B−TYPE」8ATが極端に悪く、このクラス最高のZFの「D−TYPE」8ATに引けを取らない。
【0120】
図22「C3−2−1、9AT(FF)」は、図4の乗用車に適したFF仕様の右図の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、図20「C3−1−1、9AT(FF)」の全長が400mmを僅かに切るのに対し、僅かに超える程度となる。図20図22の違いは前置変速機構(FRONT GEAR)の第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の連結が異なるだけで、各部位の配置は同じとなり大差は出ない。したがって、図22の前置変速機構(FRONT GEAR)の構造について説明し、その他は省略する。FF仕様における図20の「1−TYPE」9ATと図22の「2−TYPE」9ATの構造図は、本願出願人が提案した特開2013−145016のC1タイプ9ATの構造図にはコンパクトさは及ばないものの、十分成立するものである。
【0121】
図22において、変速機の後部を閉ざすの変速機ケース1cは一体となる内周部が円筒状に前方に突き出ており、突き出た円筒部材の内周端部にはニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3を軸支する。そのため、入力軸3の軸支間が短くなり回転振動を抑えることができる。突き出た円筒部材の外周には右後方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュで変速機ケース1cの円筒部材の外周に回転自在に保持され、円筒部材の前方で入力軸3にスプライン連結され円筒部材2の外周に沿って円筒状に後方に延材される入力連結部材(Y)が溶着される。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材は内周で2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、右側サイド部材には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周に延材されて第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第3リングギア(R3)は、外周で変速機ケース1の内側に沿って前方に延材され第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)に溶着される連結部材がスプライン連結される。
【0122】
第3遊星ギア列(30)の前方の変速機ケース1cの円筒部材の外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3と第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第3遊星キャリア(P3)と第4リングギア(R4)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、後方端部には第3遊星ギア列(30)を構成する第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材が溶着される。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第4リングギア(R4)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、2連クラッチ連結部材(X)と第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の間には仕切り板により第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路を通して変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。2連クラッチ連結部材(X)の前方内側には、第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止するクラッチハブが入力連結部材(Y)にスプライン連結され、その摩擦部材を押圧するサーボ機構となるクラッチカバーとピストンとリターンスプリングが入力連結部材(Y)に保持される。第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、変速機ケース1cの円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路から作動油と油圧キャンセル油が供給される。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項7」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0123】
変速機ケース1cの円筒部材と第1、第2クラッチ(C1、C2)の前方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)が配される。第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材には、外周で変速機ケース1cの内側に沿って第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周を通り第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)にスプライン連結される連結部材が溶着される。出力となる第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、後方の第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周に延材され第2クラッチ(C2)の摩擦部材を係止すると共に後方で出力ハブがスプライン連結されて第4遊星ギア列(40)の内周まで延材され、入力軸3の外周にブシュで軸支された第1連結部材(7)とスプライン連結される。第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材は第4遊星ギア列(40)の内周に延材されブシュで出力ハブに軸支され、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)は内周のブシュ4で第1連結部材(7)に軸支されると共に前方で第4遊星ギア列(40)の外周まで延材され第2ブレーキ(B2)の摩擦部材を係止するブレーキハブが溶着される。
【0124】
第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材には薄板状のブレーキハブが溶着され、第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1cに成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1cの後方に成形された油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0125】
第4サンギア(S4)の前部に溶着されたブレーキハブは第4リングギア(R4)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bの後部にリティニングリングで固定されたブレーキケースのスプラインに係止され、ブレーキケースには第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持される。なお、ブレーキケースには対抗して第3ブレーキ(B3)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持される。
【0126】
<2−TYPE>「C3−2−2、11AT」図5
図5は、C3タイプ9ATを示す図4のFRONT GEAR(前置変速機構)の第7構成要素(C)を第4ブレーキ(B4)で制動可能として、更に大きな入力軸の減速回転をMAIN GEAR(主変速機構)に伝達可能にしたものである。したがって、MAIN GEAR(主変速機構)には入力軸の回転、入力軸の減速回転2種、入力軸の増速回転、0回転、逆回転の6種が伝達可能となる。つまり、図5より明らかなように、構成部位の配置としては図4の「2−TYPE」9ATの模式図に第4ブレーキ(B4)を追加しただけである。第7構成要素(C)は、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の連結部に第4ブレーキ(B4)を配するため、図2の「1−TYPE」11ATと同様にシンプル、コンパクトな構造になり得る。しかしながら、11ATとしてよい変速比を得るならMAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比を2.800と大きくし、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比を1.727と小さくしなければならない。したがって、第1遊星ギア列(10)の外径が多くくなり、図2の「1−TYPE」11ATのように第1遊星ギア列(10)の外周に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができなく、軸方向が長くなる。加えて減速比がより大きくなるため、第2クラッチ(C2)や第2遊星ギア列(20)の容量をアップしなければならず、更に軸長が長くなり、FF仕様には適さなくなる。変速比は7.317〜0.602と減速段が7段で増速段が4段となり、図2の「1−TYPE」11ATの前進の減速段が8段で増速段が3段の方がよいが、実用上問題はない。変速比の幅(RANGE)は12.24と図2の「1−TYPE」11ATの10.93より広くてよい。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は「1−TYPE」や「2−TYPE」の9ATより劣るものの、図2の「1−TYPE」11AT同様、このクラスのATとしては最高レベルである。総合的な判断としては、乗用車用としては図2の「1−TYPE」11ATの方が向いており、FR仕様として、商用車(Truck Bus)に適切なパワートレンと言える。なお、図5の「2−TYPE」11ATは模式図のみで構造図は記載していなく、FR仕様の構造は図16の「2−TYPE」9ATより十分想像でき、コンパクトな構造となる。
【0127】
<3−TYPE>
段落「0015」で説明した多段変速機で、従来から考えられていた遊星ギア列2個による4個の構成要素をクラッチ2個とブレーキ3個で制御した4AT、あるいは、遊星ギア列2個による4個の構成要素をクラッチ3個とブレーキ2個で制御した4ATをFRONT GEAR(前置変速機構)に用いた11ATである。FRONT GEAR(前置変速機構)からは図5の「2−TYPE」11ATと同じ入力軸の回転、入力軸の減速回転2種、入力軸の増速回転、0回転、逆回転の6種がMAIN GEAR(主変速機構)に伝達可能になる。なお、段落「0015」に記載したように数件の特許が模式図として出願されており、本願はこれらを最適な構造とする提案である。なお、このタイプでまだ特許出願されていない遊星ギア列もあるため、本願の「C3−3−1、11AT」図6図17、「C3−3−2、11AT」図7、「C3−4−1、11AT」図8でFR仕様とFF仕様の構造を特許として請求し、その実施例を記載する。なお、遊星ギア列2個による4個の構成要素を、図3の「1−TYPE」15ATで用いた「2階建てとなる第4、第5遊星ギア列(40、50)」が適用できれば「3−TYPE」はコンパクトになるが、2階建て方式はリングギアとサンギアの歯数比が制限され11ATとして適切な変速比が得られないため実施例には記載しなかった。
【0128】
<3−TYPE>「C3−3−1、11AT」図6図17
「C3−3、11AT」はFRONT GEAR(前置変速機構)に遊星ギア列2個による4個の構成要素をクラッチ2個とブレーキ3個で制御した4ATを用いたものである。図6は、2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図6の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)が配置され、第1構成要素と第7構成要素(C)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0129】
MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態は図1と同じであるため説明を省き、FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態について説明する。図6の速度線図において、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)と第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が連結されて第5構成要素(A)をなし、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)が連結されて第6構成要素(B)をなし、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)が第7構成要素(C)をなし、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)が第8構成要素(D)をなす。入力軸と第5、第6構成要素(A、B)が各々第1、第2クラッチ(C1、C2)で連結可能となり、第8、第5、第6構成要素(D、A、B)が各々第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)で制動可能となる。第1クラッチ(C1)と第1ブレーキ(B1)の締結で一番大きな入力軸の減速回転を出力し、第2クラッチ(C2)と第1ブレーキ(B1)の締結で次の入力軸の減速回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の回転を出力し、第2クラッチ(C2)と第2ブレーキ(B2)の締結で入力軸の増速回転を出力し、第1ブレーキ(B1)と第4ブレーキ(B4)の締結で0回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第4ブレーキ(B4)の締結で入力軸の逆回転を出力する。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)から入力軸の回転、入力軸の減速回転2種、入力軸の増速回転、0回転、逆回転の6種がMAIN GEAR(主変速機構)に入力可能になる。
【0130】
図6の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。ここで、MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比を3.000と大きくし、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比を2.222と小さくしなければよい変速比はとれない。したがって、第1遊星ギア列(10)の外径が大きくなり、図2の「1−TYPE」11ATのように第1遊星ギア列(10)の外周に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができなく、軸方向が長くなる。加えて減速比がより大きくなるため、第2遊星ギア列(20)の容量をアップしなければならず、更に軸長が長くなり、FF仕様には適さなくなるが、発進デバイスにトルクコンバータに換えて20%程度軸方向が短くなる流体継手を用いた。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータ(流体継手)を介して動力が変速装置の入力軸に入力される。FR仕様の左図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、FF仕様の右図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。なお、FF仕様の右図では、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸が軸支され、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側の前置変速機構(FRONT GEAR)の第4遊星ギア列(40)と主変速機構側(MAIN GEAR)の第2遊星ギア列(20)の間に配される。前置変速機構(FRONT GEAR)に配される3個の第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)は軸方向に近寄った構成要素を制動するため、「1−TYPE」や「2−TYPE」の11ATのように第3、第4遊星ギア列(30、40)と第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周に配置するのが困難となり、軸方向が長くなる。
【0131】
図6の表は本願出願人が11ATとして適切な変速比が得られるよう各遊星ギア列のリングギアとサンギアの歯数比を選定したもので、各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)、及び遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示す。性能を示す変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)に関して、変速比の幅(RANGE)は11.27となり、変速比のステップ値(STEP)も理想的ではないがほぼ適切となる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は前進1速(1st)97.2%と前進2速(3rd)97.7%を除いて優れた噛み合い効率となり、性能面で大きな問題はない。但し、「2−TYPE」11ATと同じく、減速段が7段で増速段が4段となり、「1−TYPE」11ATの前進の減速段が8段で増速段が3段の方がよい。
【0132】
図17「C3−3−1、11AT(FR)」は、図6の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとして乗用車用にコンセプト設計した構造図である。図17において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ(200a)を介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1は一体として配され、変速機ケース1の内部には左前方より、第2ブレーキ(B2)、第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第1、第2クラッチ(C1、C2)とそれらの外周に配された第1、第4ブレーキ(B1、B4)で構成される前置変速機構と、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第3クラッチ(C3)と第2遊星ギア列(20)の外周に摩擦部材が配される第3ブレーキ(B3)で構成される主変速機構が順に配される。
【0133】
変速機ケース1の前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ(200a)のホィールステータを固定する変速機内部方向に筒状に延材された円筒部材2bがボルトで締結される。円筒部材2bの両端の内周にはブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3aを軸支する。変速機ケース1の後部には、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支された出力軸3cが配され、出力軸3cの内周に配されたニードルローラコロ軸受け4dで入力軸3aを軸支する。ここで、一体となる入力軸3aは3点で軸支されたことになり、各軸支間の距離は短く入力軸3aは円周方向のアンバランスによる振動の影響を受けにくいため、トルク伝達容量に見合った小さな径でよく、入力軸3aの周りに配される部位の径も小さくでき変速機の軽量化に繋がる。
【0134】
円筒部材2bの外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の第2ブレーキ(B2)、第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)は、前方で第1ブレーキ(B1)のブレーキハブが溶着され第3遊星ギア列(30)の外周に延材されて第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止すると共に内周に圧入されたブシュ4jで第2ブレーキ(B2)のブレーキハブの外周に軸支される。第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の内周まで延材されてブシュ4jで第2ブレーキ(B2)のブレーキハブの外周に軸支され、第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材が第3遊星ギア列(30)の外周後方まで延材されて第4ブレーキ(B4)の摩擦部材を係止すると共に第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)にスプライン連結される。第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)は後方に連結部材が溶着され、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)にスプライン連結される。
【0135】
第3遊星ギア列(30)の後方には第4遊星ギア列(40)が配される。第4第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材は、外周で第3遊星ギア列(30)の外周後方まで延材された第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材にスプライン連結され、右側サイド部材は、内周に圧入されたブシュ4kで第4サンギア(S4)にスプライン連結される第1クラッチ(C1)のクラッチハブの外周に軸支されると共に外周後方に延材されて、第2クラッチ(C2)の摩擦部材を係止するクラッチハブが溶着される。第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)は、第3リングギア(R3)に溶着される連結部材に外周でスプライン連結されると共に内周で前方に延材される第2ブレーキ(B2)のブレーキハブと後方に延材される第1クラッチ(C1)のクラッチハブにスプライン連結され、第2ブレーキ(B2)のブレーキハブと第1クラッチ(C1)のクラッチハブは各々円筒部材2bの外周にブシュ4iとブシュ4cで軸支される。第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、外周で後方に延材される第1連結部材(7)がスプライン連結される。
【0136】
第4遊星ギア列(40)の後方の円筒部材2bの外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)と一体に形成され、入力連結部材(Y)は円筒部材2bの後方で入力軸3aにスプライン連結される。入力連結部材(Y)の後方にはクラッチカバーが溶着され外周前方には第3遊星キャリア(P3)のクラッチハブに係止される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、2連クラッチ連結部材(X)の前方内側には第4サンギア(S4)にスプライン連結されるクラッチハブに係止される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。2連クラッチ連結部材(X)とクラッチカバーの間には仕切り板により2クラッチ(C2)のサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。第1、第2クラッチ(C1、C2)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0137】
変速機ケース1の前方には第1ブレーキ(B1)と第2ブレーキ(B2)が第1ブレーキ(B1)を上部にして径方向に2段に配される。第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とし、第3サンギア(S3)の前方には第1ブレーキ(B1)のブレーキハブが溶着され第3遊星ギア列(30)の外周に延材されて一方の摩擦部材が係止され、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形されたスプラインに係止される。変速機ケース1の前方にボルトで固定された保持部材2aの2段となる外周側の油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0138】
第2ブレーキ(B2)は、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)に連結した第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)を制動可能とする。第4サンギア(S4)は、第3遊星ギア列(30)の前方まで延材される第2ブレーキ(B2)のブレーキハブに内周でスプライン連結され、第2ブレーキ(B2)のブレーキハブには第3遊星ギア列(30)の前方で一方の摩擦部材が係止され、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1にボルトで固定された保持部材2aに成形されたスプラインに係止される。保持部材2aの2段となる内周側の油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボが形成される。
【0139】
第4ブレーキ(B4)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)に連結した第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を制動可能とする。第3遊星ギア列(30)の外周後方まで延材された第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材には一方の摩擦部材が係止され、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形された第1ブレーキ(B1)の後方に延材されたスプラインに係止される。第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが摩擦部材後方の変速機ケース1にリティニングリングで固定される。
【0140】
図17に示した、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第3クラッチ(C3)と第2遊星ギア列(20)の外周に摩擦部材が配される第3ブレーキ(B3)で構成される主変速機構の配置構造は、図14の「1−TYPE」9ATや図16の「2−TYPE」9ATと同じであるため説明を省略するが、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比が2.222と小さいため、第2サンギア(S2)の径を大きくして第2サンギア(S2)の内周で第1連結部材(7)とスプライン連結する構造とした。
【0141】
図6の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとして乗用車用にコンセプト設計した図17「3−TYPE」11ATの構造図は、同じ原動機からの入力動力を300Nmとした図14の「1−TYPE」9AT、11ATや図15の「1−TYPE」15ATより変速機の全長が8〜10%程度長くなる。これは前置変速機構に用いた第3、第4遊星ギア列(30、40)の、2個の構成要素を連結する構造と、第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の配置構造によるものである。
【0142】
<3−TYPE>「C3−3−2、11AT」図7
図6と同じ変速形態のFRONT GEAR(前置変速機構)に遊星ギア列2個による4個の構成要素をクラッチ2個とブレーキ3個で制御した4ATを用いたもので、遊星ギア列2個の組み合わせが異なるもので、特開2015−161311(本田)と同じ組み合わせである。但し、特開2015−161311(本田)は、特開2012−247057(現代)と変速形態は同じで、特開2012−247057(現代)の図1図4から容易に想定できるものである。何れも、FF仕様の模式図が記載されているが、この配置では軸方向が長くなり過ぎで実用的ではない。なお、これらの特許と本願とは第3クラッチ(C3)の締結要素が異なるが、本願の方がクラッチの容量が小さくなる。図7は、C3タイプ11ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図7の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)が配置され、第1構成要素と第7構成要素(C)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0143】
MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態は図1と同じであるため説明を省き、FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態について説明する。図7の速度線図において、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)が第5構成要素(A)をなし、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)と第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)が連結されて第6構成要素(B)をなし、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)が連結されて第7構成要素(C)をなし、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が第8構成要素(D)をなす。入力軸と第5、第6構成要素(A、B)が各々第1、第2クラッチ(C1、C2)で連結可能となり、第8、第5、第6構成要素(D、A、B)が各々第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)で制動可能となる。第1クラッチ(C1)と第1ブレーキ(B1)の締結で一番大きな入力軸の減速回転を出力し、第2クラッチ(C2)と第1ブレーキ(B1)の締結で次の入力軸の減速回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の回転を出力し、第2クラッチ(C2)と第2ブレーキ(B2)の締結で入力軸の増速回転を出力し、第1ブレーキ(B1)と第4ブレーキ(B4)の締結で0回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第4ブレーキ(B4)の締結で入力軸の逆回転を出力する。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)から入力軸の回転、入力軸の減速回転2種、入力軸の増速回転、0回転、逆回転の6種がMAIN GEAR(主変速機構)に入力可能になる。
【0144】
図7の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。ここで、MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比を3.333と大きくし、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比を1.818と小さくしなければよい変速比はとれない。したがって、第1遊星ギア列(10)の外径が大きくなり、図2の「1−TYPE」11ATのように第1遊星ギア列(10)の外周に第3クラッチ(C3)の摩擦部材を配することができなく、軸方向が長くなる。加えて減速比がより大きくなるため、第2遊星ギア列(20)の容量をアップしなければならず、更に軸長が長くなり、FF仕様には適さなくなるが、発進デバイスにトルクコンバータに換えて20%程度軸方向が短くなる流体継手を用いた。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータ(流体継手)を介して動力が変速装置の入力軸に入力される。FR仕様の左図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、FF仕様の右図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列(30)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。なお、FF仕様の右図では、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸が軸支され、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側の前置変速機構(FRONT GEAR)の第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の間に配される。前置変速機構(FRONT GEAR)に配される3個の第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)は軸方向に近寄った構成要素を制動するが、第3、第4遊星ギア列(30、40)と第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周に配置した。
【0145】
図7の表に示した変速比は、ほぼ特開2015−161311(本田)と同じで、各遊星ギア列のリングギアとサンギアの歯数比は本願出願人が選定したもので、模式図は各遊星ギア列のリングギアとサンギアの歯数比を考慮して考案したものである。性能を示す変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)に関して、変速比の幅(RANGE)は11.07となり、変速比のステップ値(STEP)も理想的ではないが図6同様ほぼ適切となる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は図6より若干よくなり、性能面で大きな問題はない。但し、図6同様、減速段が7段で増速段が4段となり、「1−TYPE」11ATの前進の減速段が8段で増速段が3段の方がよい。
【0146】
図6図7の模式図と図7の構造図は、「3−TYPE」「C3−3、11AT」における、本願の「請求項1」と「請求項3」を表すものである。図7のFRONT GEAR(前置変速機構)に遊星ギア列2個による4個の構成要素の組み合わせは遊星ギアの噛み合い効率と軸長の面で図6より図7の方がよく、「3−TYPE」の「C3−3、11AT」方式の変速形態では図7がよい。しかしながら、乗用車用には「1−TYPE」11ATの方がよく、適用するには用途を考える必要がある。
【0147】
<3−TYPE>「C3−4−1、11AT」図8
FRONT GEAR(前置変速機構)に遊星ギア列2個による4個の構成要素をクラッチ3個とブレーキ2個で制御した4ATを用いた11ATである。FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態は図6図7の「C3−3、11AT」と異なるが一般的な4ATに実用化されており、同じような変速比が得られる。特開2014−77535(現代)で提案されているものはクラッチC1の締結要素が異なるが、本願では一般的な用い方をした。特開2014−77535(現代)の配置では軸方向が長くなり過ぎで実用的ではない。図8は、2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)を示したものである。図8の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)が配置され、第1構成要素と第6構成要素(B)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0148】
MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態は図1と同じであるため説明を省き、FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態について説明する。FRONT GEAR(前置変速機構)の4個の構成要素は図7と同じであり、入力軸と第5、第7、第8構成要素(A、C、D)が各々第1、第2、第4クラッチ(C1、C2、C4)で連結可能となり、第7、第8構成要素(C、D)が各々第1、第2ブレーキ(B1、B2)で制動可能となる。第1クラッチ(C1)と第1ブレーキ(B1)の締結で一番大きな入力軸の減速回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第2ブレーキ(B2)の締結で次の入力軸の減速回転を出力し、第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の回転を出力し、第2クラッチ(C2)と第2ブレーキ(B2)の締結で入力軸の増速回転を出力し、第1ブレーキ(B1)と第2ブレーキ(B2)の締結で0回転を出力し、第4クラッチ(C4)と第1ブレーキ(B1)の締結で入力軸の逆回転を出力する。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)から入力軸の回転、入力軸の減速回転2種、入力軸の増速回転、0回転、逆回転の6種がMAIN GEAR(主変速機構)に入力可能になる。
【0149】
図8の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。ここで、第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)のリングギアとサンギアの歯数比を図7と入れ換え、速度線図の構成要素A−B間の距離とC−D間の距離を逆にしたのが図8である。MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比は図7と同じにすると各遊星ギアの配列は第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)が図7とは逆になるだけである。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸を軸支し、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支する。第1、第2、第4クラッチ(C1、C2、C4)は、第2、第4クラッチ(C2、C4)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう配置されると共に第1クラッチ(C1)を軸方向に並べて、円筒部材の外周方向外側の前置変速機構の第4遊星ギア列(40)と第3遊星ギア列(30)の間に配される。前置変速機構に配される2個の第1、第2ブレーキ(B1、B2)は第4遊星ギア列(40)と第1、第2、第4クラッチ(C1、C2、C4)の外周に配される。前置変速機構にクラッチを3個配するため、「1−TYPE」や「2−TYPE」の11ATより軸方向が長くなる。
【0150】
図8の模式図は本願の「請求項1」と「請求項3」を表すものである。図8の表に示した変速比は図7と全く同じとなり、性能面で大きな問題はない。しかしながら、前置変速機構にクラッチを3個用いるため、コスト高で軸方向が長くなるため、参考として提案した実施例である。
【0151】
<4−TYPE>
段落「0016」で説明した多段変速機で、「1−TYPE」9ATに変速形態が類似している。「1−TYPE」9ATでは前置変速機構の主前置変速機構に副前置変速機構から1種の減速回転速度を入力可能としたが、「4−TYPE」では副前置変速機構から2種の減速回転速度を入力可能としたことが異なる。主前置変速機構の変速形態は同じであることより、「1−TYPE」9ATと同じ主前置変速機構と副前置変速機構に、各1個ブレーキと遊星ギア列を副前置変速機構に追加し2種の減速回転速度を主前置変速機構に入力可能とすることで、各2種の入力軸の増速回転、減速回転、逆回転と入力軸の回転及び0回転の8種の回転を主変速機構に入力させて14ATとしたものである。この方式はまだ未公開であり、本願の「C3−5−1、14AT」図9図18図23でFR仕様とFF仕様の構造を特許として「請求項6」で請求し、その実施例を記載する。なお、副前置変速機構に用いることのできる複数の遊星ギア列を図10に記載する。「4−TYPE」は14ATという乗用車では必要のない変速段を有するため、FR仕様の構造図となる図18は本願実施例では唯一トラック、バス用の商用車とした。FR仕様の乗用車用とした「1−TYPE」15ATの図15の構造図は、既に特許文献2でトラック、バス用にコンセプトしており、その他の乗用車用9AT〜11ATの1実施例と大きさを比較するため記載したものであり、「4−TYPE」14ATを乗用車用にコンセプトすると、大きさは「1−TYPE」15ATと同等以下となり、これら14AT、15ATは極めてコンパクトになる。なお、「1−TYPE」15ATはFF仕様としての構造図は記載しなかったので、「4−TYPE」14ATの乗用車用FF仕様の構造図を図23に記載する。
【0152】
<4−TYPE>「C3−5−1、14AT」図9図18図23
図9は、14ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図9の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、11構成要素(A、B、C、G)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10構成要素(D、E、F)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。この配置形態は図1と全く同じである。
【0153】
図9の2種の模式図は、左図が乗用車(Passenger Car)と商用車(Truck Bus)に適したFR仕様のギアトレンで、右図が乗用車(Passenger Car)に適したFF仕様のギアトレンである。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。FR仕様の左図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる2階建てとなる第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)と第3遊星ギア列、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、FF仕様の右図では、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第3遊星ギア列(30)と2階建てとなる第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3遊星ギア列(30)と2階建てとなる第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。また、2階建てとなる第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、第3遊星ギア列(30)が主前置変速機構を構成する。なお、FF仕様の右図では、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4、第5遊星ギア列(10、20、30、40、50)は、第1、第2、第3、第4、第5サンギア(S1、S2、S3、S4、S5)と、第1、第2、第3、第4、第5遊星キャリア(P1、P2、P3、P4、P5)と、第1、第2、第3、第4、第5リングギア(R1、R2、R3、R4、R5)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、FF仕様では変速機ケースのもう一端で入力軸が軸支され、FR仕様では変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側の2階建てとなる第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)と第3遊星ギア列(30)の間に配され、円筒部材の内周端部から主変速機構側(MAIN GEAR)の軸方向に、前置変速機構(FRONT GEAR)の第3遊星ギア列(30)が配される。
【0154】
図9の2種の模式図と速度線図において、MAIN GEAR(主変速機構)を構成する第1及び第2遊星ギア列(10、20)の第1及び第2サンギア(S1、S2)を第1構成要素とし、第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とし、第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第4遊星ギア列(40)の第1サンギア(S1)と第5遊星ギア列(50)の第5リングギア(R5)を第5構成要素(A)とし、第4、第5遊星ギア列(40、50)の第4、第5遊星キャリア(P4、P5)を第6構成要素(B)とし、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)を第7構成要素(C)とし、第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)を第11構成要素(G)とし、主前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)、第3遊星キャリア(P3)、第3サンギア(S3)を第8、第9、第10構成要素(D、E、F)とする。
【0155】
ここで、、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素を構成する第1、第2サンギア(S1、S2)は連結されると共に第1連結部材(7)に連結され、第2構成要素を構成する第1遊星キャリア(P1)は入力軸に連結され、第3構成要素を構成する第2遊星キャリア(P2)は出力軸と連結されると共に第3クラッチ(C3)で第1リングギア(R1)と連結可能とされ、第4構成要素を構成する第2リングギア(R2)は第3ブレーキ(B3)で制動可能とされる。FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第5構成要素(A)は入力軸に連結され、第6構成要素(B)は第2連結部材(8)に連結され、第7構成要素(C)は第4ブレーキ(B4)で制動可能とされ、第11構成要素(G)は第1ブレーキ(B1)で制動可能とされ、主前置変速機構となる第8構成要素(D)は第2連結部材(8)に連結され、第9構成要素(E)は第1クラッチ(C1)で入力軸に連結可能とされると共に第2ブレーキ(B2)で制動可能とされ、第10構成要素(F)は第1連結部材(7)に連結され、第8構成要素(D)と第9構成要素(E)は第2クラッチ(C2)で連結可能とされる。
【0156】
FRONT GEAR(前置変速機構)の変速形態について説明する。副前置変速機構を構成する第5、第6、第7、第11構成要素(A、B、C、G)の速度線図において、第1、第4ブレーキ(B1、B4)の何れか1個の締結により、入力軸の2種の減速回転が第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を介して主前置変速機構となる第8構成要素(D)に入力される。第8構成要素(D)に入力された減速回転は、主前置変速機構の第2クラッチ(C2)の締結で第3遊星ギア列(30)が一体となりそのまま出力され、第9構成要素(E)の第1クラッチ(C1)の締結で第10構成要素(F)が増速されて出力され、第9構成要素(E)の第2ブレーキ(B2)の締結で第10構成要素(F)が逆転されて出力され、合計3種の回転が第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を介してMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素に出力可能となる。副前置変速機構からは2種の減速回転が主前置変速機構に入力されるため合計6種の回転がMAIN GEAR(主変速機構)に出力可能となる。加えて、主前置変速機構の第2クラッチ(C2)の締結で第3遊星ギア列(30)が一体となるため、第1クラッチ(C1)及び第2ブレーキ(B2)の何れか1個の締結で入力軸の回転と0回転の2種がMAIN GEAR(主変速機構)に出力可能となる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)の第1、第2クラッチ(C1、C2)、第1、第2、第4ブレーキ(B1、B2、B4)の何れか2個の締結で、各2種の入力軸の増速回転、減速回転、逆回転と入力軸の回転及び0回転の8種の回転をMAIN GEAR(主変速機構)に出力可能となる。
【0157】
MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態は図1の「1−TYPE」9ATと同じであるため説明を省略する。図9の表は各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)、及び遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示す。図3に記載した「1−TYPE」15ATと比較すると、変速比の幅(RANGE)は18.40となり、「1−TYPE」15ATの18.54と同じとなり、変速比のステップ値(STEP)は若干よくなる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)もよくなるが、変速比(RATIO)が9.4〜0.511と「1−TYPE」15ATの11.199〜0.604と比べ高速側に振れあまりよくない。総合的な評価としては多段変速機として適切な変速比が得られ、遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)もよく、「1−TYPE」15AT同様、優れた性能を有した変速機と言える。
【0158】
図18「C3−5−1、14AT(FR)」は、図9の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を1000Nmとしてトラック、バス等の商用車用にコンセプト設計した構造図である。大型商用車の分野では世界では車両メーカとエンジンメーカ、及び変速機メーカが異なっているため、搭載や取り付けに関してはSAEで標準化されており、図18では変速機ケースにSAEのNO1Housingを用いた。この継ぎ手には、一般的にトルクコンバータが用いられるが、トルク増幅作用のないフルードカップリングやトルク変動を吸収するハイドロダンパ、あるいは、HEV用にモータジェネレータ等を用いてもよい。一体化されたメインケース1aの前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、チャージングポンプの左前方には乾式となる継ぎ手側と湿式となる変速機側を隔てる隔壁5aがメインケース1aに締結される。チャージングポンプは原動機から継ぎ手を介して直接ギアにより駆動され、このギアは図示しないPTO(Power Take Off)用のギアを駆動する。PTOは特装車には必須の作業用装置であり、原動機で直接駆動され、このような変速機にはPTO装置を装着可能としなけれはならない。保持部材2aは断面がL字形状をしており筒状の内周円筒部には筒状の保持部材2bが締結されており、保持部材2bの両端でニードルローラコロ軸受け4a、4bを保持し原動機から継ぎ手を介して動力が入力する入力軸3aを軸支する。またリアケース1bにはテーパコロ軸受け4f、4eが背面合わせで装着されており、出力軸3cを軸支する。変速機の回転中心部には、入力軸3aが配され、後端が出力軸3cの内周部に配されたニードルローラコロ軸受け4dで軸支される。ここで入力軸3aは3点で軸支されたことになる。
【0159】
保持部材2aの円筒部の外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる2階建ての第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。2階建ての第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)は入力軸3aの回転を選択的に2種類に減速して主前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)に伝達する。2階建ての第4遊星ギア列(40)、第5遊星ギア列(50)は第5遊星ギア列(50)が1階で第4遊星ギア列(40)が2階に配置され、第5リングギア(R5)と第1サンギア(S1)が一体となり、第5遊星キャリア(P5)と第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材が一体となってコンパクトに配される。、第5遊星キャリア(P5)の右側サイド部材は内周部が後方に延材されニードルローラコロ軸受け4jで保持部材2aの円筒部の外周に軸支され、第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材にメインケース1aの内周に沿って後方に延材される第2連結部材(8)が溶着される。第5遊星キャリア(P5)と第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の間の一体となる第5リングギア(R5)と第1サンギア(S1)には入力軸3aにスプライン連結された入力連結部材(Y)がスプライン連結される。第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)は内周に配されたニードルローラコロ軸受け4lで保持部材2aの円筒部の外周に軸支されると共に、第1ブレーキ(B1)のブレーキハブが2階の第4遊星ギア列(40)の外周まで延材されスプライン連結される。また、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は後方に延材され外周に第4ブレーキ(B4)の摩擦部材を係止するスプラインが形成されると共に、前方の内周でスラストニードルベアリングにより軸方向を規制するプレートがスプライン連結される。
【0160】
2階建てとなる第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(50)の後方の保持部材2aの円筒部外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第3遊星キャリア(P3)と第3リングギア(R3)と連結する第2連結部材(8)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、後方端部には第3遊星ギア列(30)を構成する第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材が溶着される。2連クラッチ連結部材(X)の前方には内周において入力連結部材(Y)と一体のクラッチハブに配される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第2連結部材(8)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。入力連結部材(Y)は保持部材2aの円筒部外周端部後方で入力軸3aにスプライン連結されると共に第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)の右側サイド部材の外周にブシュ4cで軸支される。2連クラッチ連結部材(X)と第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の間には仕切り板により第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)の径方向上部に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と径方向下部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項6」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0161】
保持部材2aの円筒部と第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)が配される。第3遊星ギア列(30)は、8種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。 第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材に溶着された第2連結部材(8)にスプライン連結される。第3リングギア(R3)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第3遊星キャリア(P3)は左側サイド部材が第2クラッチ(C2)のクラッチカバーとなって2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、右側サイド部材が第3リングギア(R3)の外周に延材される。出力となる第3サンギア(S3)は内周で第1連結部材(7)にスプライン連結される。ここで、この第1、第2クラッチ(C1、C2)と第3遊星ギア列(30)の構造は「1−TYPE」の図14「C3−1−1、9AT、C3−1−2、11AT(FR)」と同じである。
【0162】
第1ブレーキ(B1)は、第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)を制動可能とする。第5サンギア(S5)の前方に溶着された薄板状のブレーキハブが2階建ての第4遊星ギア列(40)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材はメインケース1aの前方に成形されたスプラインに係止され、メインケース1aの前方にボルトで固定された保持部材2aの油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0163】
第4ブレーキ(B4)は、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)を制動可能とする。第4リングギア(R4)の後方に延材さた外周スプラインには第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材が係止される。第4ブレーキ(B4)のもう一方の摩擦部材はメインケース1aの前方に成形された第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止する延材されたスプラインに係止され、第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが摩擦部材後方のメインケース1aにリティニングリングで固定される。
【0164】
第2ブレーキ(B2)は、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を制動可能とする。第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材は第3リングギア(R3)の外周に延材され、外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材はメインケース1aに成形されたスプラインに係止され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが第4ブレーキ(B4)の油圧サーボに対抗してが第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを保持するブレーキケースに配される。
【0165】
第3遊星ギア列(30)の後方に配される第2遊星ギア列(20)は、第2サンギア(S2)が第1遊星ギア列(10)の第1サンギア(S1)の内周まで延材されニードルローラコロ軸受け4hで入力軸3a外周に回転自在に配されると共に前方に第1連結部材(7)として延材され第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)とスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、右側サイド部材が出力軸3cにスプライン連結される第1遊星ギア列(10)の外周部に配された出力ハブ9にスプライン連結される。また、遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、左端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材の内周に延材され第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)との間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。第2リングギア(R2)の外周には第3ブレーキ(B3)の摩擦部材が係止されるが、両者の重心は第2遊星ギア列(20)の遊星ピニオンギアの幅内にあり、第2遊星キャリア(P2)で第2リングギア(R2)と摩擦部材のラジアル荷重を受けるので第2リングギア(R2)専用のラジアル軸受けは必要としない。
【0166】
第2遊星ギア列(20)の後方に配される第1遊星ギア列(10)は、第1サンギア(S1)が内周まで延材された第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)にスプライン連結される。第1サンギア(S1)と噛み合う遊星ピニオンギアは第1遊星キャリア(P1)に支持され、右側サイド部材が入力軸3aと第1サンギア(S1)の内周でスプライン連結される。遊星ピニオンギアと噛み合う第1リングギア(R1)は外周に第3クラッチの摩擦部材を係止するスプラインが形成されスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されるプレートが溶着される。
【0167】
第3クラッチ(C3)は第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)と出力軸3cを連結可能とする。第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)の外周に形成されたスプラインに一方の摩擦部材が係止され、出力ハブ9の内周に成形されたスプラインに第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材が係止される。なお、このスプラインには出力軸3cと第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の右側サイド部材が連結される。出力軸3cの前方には第3クラッチ(C3)のピストンとリターンスプリングが保持され、第3クラッチ(C3)の油圧サーボが形成される。出力軸3cはメインケース1aの後部で背面合わせとなるテーパコロ軸受け4e、4fで軸支され、両テーパコロ軸受けの間でメインケース1aからシールリングで密閉されたアダプタ5bの油路を介して第3クラッチ(C3)の作動油の供給を受ける。
【0168】
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止する。変速機ケース1の内周にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、出力軸3cのフランジ部後方のメインケース1aには第3ブレーキ(B3)のピストンとリターンスプリングが保持され、第3ブレーキ(B3)の油圧サーボが形成される。第3ブレーキ(B3)のピストンは出力ハブ9の外周で第3ブレーキ(B3)の摩擦部材を押圧する。なお、第3ブレーキ(B3)の容量は大きいため摩擦部材を押圧する油圧室の面積を大きくして大きな押圧力を出すと共に応答性をよくするため油圧室を2重とし、小さな面積の油圧室に油を供給するとき、大きな面積の油圧室が真空になりピストンの移動を妨げるのを防ぐため大きな面積の油圧室にチェックバルブを設けている。
【0169】
図18は原動機からの入力動力を1000Nmとしてトラック、バス等の商用車用にコンセプト設計した構造図であるため、大きさを比較するには特許文献2の図4に記載した同じ1000Nmとしてトラック、バス等の商用車用にコンセプト設計したC3−15ATと比較しなければならない。図18のC3−14ATでは第3遊星ギア列(30)と第5遊星ギア列(50)の入力動力が径の大きなリングギアに入力され、「荷重=トルク/半径」となることより第3遊星ギア列(30)と第5遊星ギア列(50)の遊星ギアの負荷荷重が小さくなり歯巾を小さく設定でき、「請求項4」に記載した第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造や減速比が小さくなることと相まってC3−15ATより5%程度軸方向がコンパクトになる。大型トラックは世界では一般的にトラクターが用いられておりトラクターヘッドには前進10〜16段のMTが用いられている。日本では10トン車と言われるカーゴトラックが多く用いられ、変速比の幅が10程度の前進7段のMTが主流となっている。したがって、本願の「1−TYPE」9AT、11ATで十分このカーゴトラックに対応できるが、9AT、11ATと比べそれほど大きくならない図18の変速比の幅が1.8倍も大きな14ATを用いると、エンジンの回転速度が1/1.8に小さくできる。加えて、ギア効率がMTより0.5〜1%もよいため、チャージングポンプのロスを考慮してもMTより燃費はよくなる。エンジンの制御はアクセルペダル開度の如何にかかわらずフルトルクの出るオールスピードガバナ制御のためチャージングポンプロスは1%未満となるからである。乗用車より自動運転が必要となる大型商用車にはATが必要となる。
【0170】
図23「C3−5−1、14AT(FF)」は、図9の右図のFF仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、全長は図20の9AT(FF)や図21の11AT(FF)とほとんど変わらず、400mmを少し超えた程度となる。第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、第3クラッチ(C3)、第3ブレーキ(B3)からなる主変速機構や、隔壁に軸支される出力カウンターギア5からの出力構造等は全て図21の11AT(FF)と同じであるため説明を省略する。
【0171】
変速機の後部を閉ざすの変速機ケース1cは一体となる内周部が円筒状に前方に突き出ており、突き出た円筒部材の内周端部にはニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3を軸支する。そのため、入力軸3の軸支間が短くなり回転振動を抑えることができる。突き出た円筒部材の外周には右後方よりFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる2階建ての第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(5)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配され、突き出た円筒部材と第1、第2クラッチ(C1、C2)の前方に第3遊星ギア列(30)が配される。2階建ての第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(5)は入力軸3の2種の減速回転を主前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)に選択的に伝達する。2階建ての1階に配された第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)は左側サイド部材の内周に筒状に延材された内径でニードルローラコロ軸受け4jにより変速機ケース1cの円筒部材の外周に回転自在に保持され、更に、第5サンギア(S5)は内周に圧入されたブシュ4lで変速機ケース1cの円筒部材の外周に回転自在に保持される。第5サンギア(S5)の後方側には薄板状のブレーキハブがスプライン連結され、2階建ての2階に配された第4遊星ギア列(40)の外周まで延材され第1ブレーキ(B1)の摩擦部材が係止される。第5遊星キャリア(P5)の右側サイド部材は第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材と一体となると共に第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材に前方に延材された第2連結部材(8)が溶着される。第5遊星キャリア(P5)と第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材の間の一体となる第5リングギア(R5)と第1サンギア(S1)には入力軸3にスプライン連結された入力連結部材(Y)がスプライン連結される。第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は外周に第4ブレーキ(B4)の摩擦部材を係止するスプラインが形成されると共に、後方の内周でスラストニードルベアリングにより軸方向を規制するプレートがスプライン連結される。
【0172】
2階建てとなる第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(50)の前方の円筒部材の外周端部には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3と第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は第3遊星キャリア(P3)と第3リングギア(R3)と連結する第2連結部材(8)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで回転自在に保持され、前方端部には第3遊星ギア列(30)を構成する第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材が溶着される。2連クラッチ連結部材(X)の後方には内周において入力連結部材(Y)と一体のクラッチハブに配される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材には2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第2連結部材(8)に配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。入力連結部材(Y)は変速機ケース1cの円筒部材の前方で入力軸3にスプライン連結されると共に第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)の左側サイド部材の外周にブシュ4cで軸支される。2連クラッチ連結部材(X)と第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の間には仕切り板により第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)の径方向上部に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と径方向下部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。また、第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の第2クラッチ(C2)のサーボ機構となる油圧室の遊星ピニオンギアの軸支部にはOリングが配され、油圧室を密閉する。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」と「請求項5」、「請求項6」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0173】
変速機ケース1cの円筒部材と第1、第2クラッチ(C1、C2)の前方にはFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)が配される。第3遊星ギア列(30)は、8種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。 第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材に溶着された第2連結部材(8)にスプライン連結される。第3リングギア(R3)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第3遊星キャリア(P3)は右側サイド部材が第2クラッチ(C2)のクラッチカバーとなって2連クラッチ連結部材(X)に溶着され、左側サイド部材には第3リングギア(R3)の外周に延材された第2ブレーキ(B2)のブレーキハブが溶着される。出力となる第3サンギア(S3)は内周で第1連結部材(7)にスプライン連結される。
【0174】
第1ブレーキ(B1)は、第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)を制動可能とする。第5サンギア(S5)の後方に溶着された薄板状のブレーキハブが2階建ての第4遊星ギア列(40)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1cに成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1cの後方に設けられた油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0175】
第4ブレーキ(B4)は、第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)を制動可能とする。第4リングギア(R4)の外周スプラインには第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材が係止される。第4ブレーキ(B4)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1cに成形された第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止する延材されたスプラインに係止され、第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが摩擦部材前方の変速機ケース1bにリティニングリングで固定される。
【0176】
第2ブレーキ(B2)は、第3遊星ギア列(40)の第3遊星キャリア(P3)を制動可能とする。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材には第3リングギア(R3)の外周に延材された第2ブレーキ(B2)のブレーキハブが溶着され、ブレーキハブの外周に成形されたスプラインに第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材が係止される。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bに成形されたスプラインに係止され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが第4ブレーキ(B4)の油圧サーボに対抗してが第4ブレーキ(B4)の油圧サーボを保持するブレーキケースに配される。
【0177】
図23の14AT(FF)の構造は、や図21の11AT(FF)とほとんど変わらず、図20の9AT(FF)も含めてFFとして成立する大きさである。通常、乗用車にこれだけ多段化された変速機は必要としないが、図23の14AT(FF)は変速比の幅が18.40で、6ATの3倍、9ATの2倍と既存の概念を離れた特性を持つ。したがって、エンジン回転が1000〜2000RPMでよいことになり、この仕様で燃料消費量のよいエンジンが開発できたなら大きな変革をもたらすことになる。
【0178】
図10は「4−TYPE」14ATにおける図9のFRONT GEAR(前置変速機構)の4個の構成要素A、B、C、Gからなる副前置変速機構の構成を示したものである。2個の遊星ギア列と2個の締結要素を用いて入力軸の減速回転を2種出力する方式はこの他にも多数存在し、どれを使ってもよい。「4−TYPE」は副前置変速機構で入力軸の減速回転を1種増やせば、主前置変速機構が3種増やした回転をMAIN GEAR(主変速機構)に出力でき、その結果、MAIN GEAR(主変速機構)には5種類の変速段が可能となる。つまり、「4−TYPE」19ATにすることも容易にでき、多段化し易い方式である。
【0179】
<5−TYPE>
段落「0017」で説明した多段変速機で、オリジナルな特許としてUS20090054196(GM)があり、本願の図11に記載する。変速形態はC3タイプをベースとして一部Bタイプ方式の変速形態を導入することで、C3タイプの9ATと同じ遊星ギア列と締結要素の数で変速段が1個多い10ATとしたものである。MAIN GEAR(主変速機構)の第1、第2遊星ギア列(10、20)と第3クラッチ(C3)、第3ブレーキ(B3)の配置構造は「1〜4−TYPE」と同じである。「5−TYPE」は9ATと同じ遊星ギア列と締結要素の数で変速段が1個多い10ATとしたことや、FRONT GEAR(前置変速機構)の組み合わせも多数あり、変速段も増速段が3段でバランスもよいこと等により、一見、優れて見える。C3タイプのATとして説明してきた「1〜4−TYPE」のATは、MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態が第3ブレーキ(B3)の締結状態と第3クラッチ(C3)の締結状態の2つの状態に区別でき、変速形態が変わる変態点が1個ということになる。これに対し、「5−TYPE」のATは、MAIN GEAR(主変速機構)の変速形態がB3ブレーキの締結状態とC3クラッチの締結状態の2つの状態の他にC1クラッチの締結状態ができ、変態点が2個ということになる。変態点により変速形態が変わるため変速比の連なりが悪化する可能性が増えるわけで、段落「0006」で述べたDタイプはこの例に当たり、よい変速比を得難い。FRONT GEAR(前置変速機構)は入力軸の回転とその増速から発進段が始まり、MAIN GEAR(主変速機構)は通常のATでは用いないリングギアとサンギアの大きな歯数比を用いて効率が悪化する大きな減速を行っている。変速機の低速段では大きなステップ値が望まれるため増速比も大きくなり効率も悪化する。因みにFRONT GEAR(前置変速機構)の2段目の大きな増速比は0.45で「1〜4−TYPE」の11AT、14AT、15ATで用いる2段目の大きな増速比(0.57)の1・25倍である。したがって、2段目の大きな増速比を用いる前進3速段と前進5速段ではギア効率が極端に悪化する。こうした大きな欠点があるにもかかわらず、アイシン精機、AW、トヨタがGMも含めて多くの特許を出願している。そこで、その中でも最も多い構造特許が出願されている特開2015−105721〜105726(AW)に関し、本願に適用した場合の引例を図12に示し、その構造図を図19に示す。
【0180】
<5−TYPE>「C4−1−1、10AT」図11
図11は、「5−TYPE」のオリジナルな特許であるUS20090054196(GM)10ATを、本願の構造を適用したFR仕様の模式図として示し、変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)を示したものである。なお、本願の第3クラッチ(C3)の作用位置はUS20090054196(GM)10ATと異なるが、本願の方が容量が小さくて済み、本願では全般に渡りこの方式を用いており、変速作用は同じである。図11の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)が配置され、第7構成要素(C)が第1連結部材(7)と第1クラッチ(C1)を介して第1構成要素と、第2連結部材(8)と第4クラッチ(C4)を介して第4構成要素に連結され、第8構成要素(D)が第1連結部材(7)と第2クラッチ(C2)を介して第1構成要素に連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0181】
図11のFR仕様の模式図において、図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第4遊星ギア列(40)、第3遊星ギア列、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケースの、前置変速機構側(FRONT GEAR)となる一端に設けた円筒部材の主変速機構側(MAIN GEAR)の内周端部で入力軸を軸支すると共に、変速機ケースのもう一端に軸支された出力軸で入力軸が軸支され、第1連結部材(7)に連結可能とする前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)が各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう第3遊星ギア列の後方の円筒部材の外周方向外側に配される。これは本願の「請求項1」による配置である。模式図でははっきりした効果がわからないが、後述する図19でその効果を説明する。
【0182】
FRONT GEAR(前置変速機構)の第5構成要素(A)は連結した第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の第3、第4サンギア(S3、S4)からなり、第6構成要素(B)は第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)からなり、第7構成要素(C)は連結した第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の第3リングギア(R3)と第4遊星キャリア(P4)からなり、第8構成要素(D)は第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)からなる。変速形態はオリジナルの特許に記載済であり詳細説明は省くが、速度線図において、FRONT GEAR(前置変速機構)の第6構成要素(B)が入力軸に連結しており第5構成要素(A)を第1ブレーキ(B1)で制動することにより、第7構成要素(C)が増速され、更に第8構成要素(D)が大きく増速され、の第1、第2クラッチ(C1、C2)によりMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素に選択的に伝達される。また、第1、第2クラッチ(C1、C2)の両方が締結することによりMAIN GEAR(主変速機構)の遊星ギア列は一体となり入力軸の回転は第1構成要素に選択的に伝達される。MAIN GEAR(主変速機構)の第3ブレーキ(B3)を締結することにより第1構成要素の3種の回転は更に大きく減速され、第3クラッチ(C3)を締結することにより第1構成要素の3種の回転は更に小さく減速され、6種の減速回転が第3構成要素から出力される。加えて、MAIN GEAR(主変速機構)の第3ブレーキ(B3)と第3クラッチ(C3)の2個の締結要素の締結により1種の減速回転が第3構成要素から出力可能となり、合わせて7種の減速回転が出力可能となる。ここまでの変速形態は「1〜4−TYPE」と同じである。増速段において、、FRONT GEAR(前置変速機構)の第7構成要素(C)とMAIN GEAR(主変速機構)の第4構成要素を第4クラッチ(C4)で連結可能とすることにより、第4構成要素に増速回転が入力され第3クラッチ(C3)の締結と第1、第2クラッチ(C1、C2)のそれぞれの締結により3種の増速回転が第3構成要素から出力可能となる。後進段はMAIN GEAR(主変速機構)の第4構成要素を第3ブレーキ(B3)で締結し、第4クラッチ(C4)の締結でFRONT GEAR(前置変速機構)の第7構成要素(C)を制動し第8構成要素(D)を逆転してMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素に伝達し、更に減速して第3構成要素から出力する。その結果前進10速段、後進1速段の10ATが生まれる。
【0183】
図11の表に記載した変速比はUS20090054196(GM)10ATに記載されている変速比である。変速比の幅(RANGE)は7.21と10ATとしては小さ過ぎで、前進3速段〜前進9速段までのステップ値が1.2の等比級数となり車両用変速機としてはよくない。これは変態点を2個持たせた変速形態によるもので、構成部位を少なくして変速段を増やしても性能が向上できなければ成果は得られない。本来ならFRONT GEAR(前置変速機構)に図3の「1−TYPE」15ATや図9の「4−TYPE」14ATに用いた最も遊星ギアの噛み合い効率がよくなる連結方法の2階建ての遊星ギア列を用いれば「5−TYPE」もコンパクトになり遊星ギアの噛み合い効率も多少はよくなるが、変速比が悪くなるため用いることができない。特開2015−183853(GM)の図2ではFRONT GEAR(前置変速機構)に2階建ての遊星ギア列を用いているが、遊星ギアの噛み合い効率が悪くなる採用し難い連結となっている。
【0184】
<5−TYPE>「C4−1−2、10AT」図12図19
図12は、「5−TYPE」の数あるFRONT GEAR(前置変速機構)の4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列の内、特開2015−105721〜特開2015−105726(AW)と、最も多く用いられているラビニョー遊星ギア列を用いたもので、出願されている構造特許と比較するために同じ歯数比のラビニョー遊星ギア列を用いて構造比較したものである。但し、「1〜4−TYPE」と比較するため、遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を算出し記載した。速度線図は図11と同じで、FRONT GEAR(前置変速機構)の第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)がラビニョー遊星ギア列に代わるだけである。FRONT GEAR(前置変速機構)のラビニョー遊星ギア列となる第3、第4遊星ギア列(30、40)の第5構成要素(A)は第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)からなり、第6構成要素(B)は第3、第4遊星ギア列(30、40)の共通の遊星キャリア(P)からなり、第7構成要素(C)は第3、第4遊星ギア列(30、40)の共通のリングギア(R)からなり、第8構成要素(D)は第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)からなる。ラビニョー遊星ギア列を用いるため多少コンパクトにはなるが、2階建てのようなコンパクトさではない。
【0185】
図12の2種の模式図は、左図がFR仕様のギアトレンで、右図がFF仕様のギアトレンである。左図のFR仕様の模式図は図11のFR仕様の模式図と第3、第4遊星ギア列(30、40)が変わっただけで配置は同じとなる。右図のFF仕様の模式図において、変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、ラビニョー遊星ギア列となる第3、第4遊星ギア列(30、40)が配される。変速機ケースの最後尾から円筒部材が内周に延材され、延材された円筒部材の先端の内周で入力軸が軸支される。延材された円筒部材の外周には後部からラビニョー遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配され、第1クラッチ(C1)の外周又は後方には第4クラッチ(C4)が配される。ここで、第1、第2、第4クラッチ(C1、C2、C4)には円筒部材の外周から作動油が供給される。これは本願の「請求項1」による配置であり、多少シンプル、コンパクトな配置となる。
【0186】
図12の表に記載した変速比は、計算上僅かな違いはあるが、特開2015−105721〜特開2015−105726(AW)に記載された変速比と同じである。ここで、第1遊星ギア列(10)のリングギアとサンギアの歯数比は3.610で、第2遊星ギア列(20)のリングギアとサンギアの歯数比は4.098と大きくなる。通常、歯数比を大きくとると遊星ギアの噛み合い効率が悪くなるため、車両用変速機ではこのように大きな歯数比はとらない。本願出願人が提案した「1、4−TYPE」では最大3.000の歯数比しかとっていない。これは、FRONT GEAR(前置変速機構)で大きく増速するためで、この大きく増速することも遊星ギアの噛み合い効率が悪くなる原因となる。したがって、FRONT GEAR(前置変速機構)で大きく増速してMAIN GEAR(主変速機構)で大きく減速する前進3速段の遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)が97.2%、前進5速段が97.8%と極端に悪くなる。その他の変速段はかなりよい方であるが、減速比が大きくなる発進段が悪いのは止むを得ない面があり、滑り発進のこともありカバーできるが、前進3速段や5速段が悪いのは燃費に影響する。変速比の幅(RANGE)は8.67と図11の7.21よりよいが、10ATとしては小さく、前進3速段〜前進9速段までのステップ値も1.25の等比級数となり車両用変速機としてはよくない。
【0187】
図19「C4−1−2、10AT(FR)」は、図12の左図のFR仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとして乗用車用にコンセプト設計した構造図である。図19において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ(200a)を介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1は一体として配され、変速機ケース1の内部には左前方より、ラビニョー遊星ギア列としての第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)とその外周に配された第1ブレーキ(B1)、第1、第2クラッチ(C1、C2)及び第4クラッチ(C4)で構成される前置変速機構と、第4クラッチ(C4)の外周に配される第3ブレーキ(B3)と隔壁及び第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)、第3クラッチ(C3)とで構成される主変速機構が順に配される。
【0188】
変速機ケース1の前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ(200a)のホィールステータを固定する変速機内部方向に筒状に延材された円筒部材2bがボルトで締結される。円筒部材2bの両端の内周にはブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3aを軸支する。変速機ケース1の後部には、ニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支された出力軸3cが配され、出力軸3cの内周に配されたニードルローラコロ軸受け4dで入力軸3aを軸支する。ここで、一体となる入力軸3aは3点で軸支されたことになり、各軸支間の距離は短く入力軸3aは円周方向のアンバランスによる振動の影響を受けにくいため、トルク伝達容量に見合った小さな径でよく、入力軸3aの周りに配される部位の径も小さくでき変速機の軽量化に繋がる。
【0189】
円筒部材2bの外周には左前方よりFRONT GEAR(前置変速機構)のラビニョー遊星ギア列としての第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。ラビニョー遊星ギア列は共通の遊星キャリア(P)に軸支されるロングピニオンギアとショートピニオンギアが噛み合っており、ロングピニオンギアには第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)と共通のリングギア(R)が噛み合い、ショートピニオンギアには第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が噛み合っている。第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)は、前方で第1ブレーキ(B1)のブレーキハブが溶着され第3遊星ギア列(30)の外周に延材されて第1ブレーキ(B1)の摩擦部材を係止すると共に内周に圧入されたブシュ4iで円筒部材2bの外周に軸支される。ロングピニオンギアの軸方向中央部から内周側に出された共通の遊星キャリア(P)は円筒部材2bの外周にブシュ4cで軸支される入力連結部材(Y)に溶着され、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)は後部に第2クラッチ(C2)のクラッチハブが溶着されて入力連結部材(Y)の外周にブシュ4kで軸支される。共通のリングギア(R)の外周には第1クラッチ(C1)のクラッチハブとなる第2連結部材(8)がスプライン連結される。
【0190】
ラビニョー遊星ギア列の後方の円筒部材2bの外周端部にはFRONT GEAR(前置変速機構)からMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素となる第1、第2遊星ギア列(10、20)の第1、第2サンギア(S1、S2)に連結する第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)の外周にブシュ4jで軸支される。入力連結部材(Y)は円筒部材2bの後方で入力軸3aにスプライン連結され、円筒部材2bの外周をラビニョー遊星ギア列の中央部まで延材され円筒部材2bの外周にブシュ4cで回転自在に軸支される。2連クラッチ連結部材(X)は後方のMAIN GEAR(主変速機構)と連結する第1連結部材(7)が一体成型されており、第1連結部材(7)は入力軸3aにニードルローラコロ軸受け4nで軸支される。また、2連クラッチ連結部材(X)の後方にはクラッチカバーが溶着され外周前方にはリングギア(R)にスプライン連結される第2連結部材(8)となるクラッチハブに係止される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、2連クラッチ連結部材(X)の前方内側には第4サンギア(S4)に溶着されたクラッチハブに係止される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。2連クラッチ連結部材(X)とクラッチカバーの間には仕切り板により2クラッチ(C2)のサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。第1、第2クラッチ(C1、C2)のサーボ機構には、円筒部材2bの外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。この第1、第2クラッチ(C1、C2)の構造は本願の「請求項2」であり、極めてシンプル、コンパクトとなり、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路も管路抵抗が小さくクラッチの応答性もよくなる。
【0191】
変速機ケース1の前方に配された第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とし、第3サンギア(S3)の前方には第1ブレーキ(B1)のブレーキハブが溶着されロングピニオンギアの外周に延材されて一方の摩擦部材が係止され、もう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形されたスプラインに係止される。変速機ケース1の前方にボルトで固定された保持部材2aの外周油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0192】
第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方にはラビニョー遊星ギア列の共通のリングギア(R)とMAIN GEAR(主変速機構)の第4構成要素となる第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)とを連結する第4クラッチ(C4)が配される。共通のリングギア(R)にスプライン連結される第2連結部材(8)は、第4クラッチ(C4)の一方の摩擦部材を係止するスプラインが形成されて第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方に延材され、2連クラッチ連結部材(X)と一体に形成された第1連結部材(7)の外周にブシュ4lと4mで軸支される。第2連結部材(8)の後方には第4クラッチ(C4)のクラッチカバーが配されて第4クラッチ(C4)のもう一方の摩擦部材を係止すると共に摩擦部を押圧するサーボ機構が配される。第4クラッチ(C4)のクラッチカバーの後方には変速機ケース1にリティニングリングで固定され、内周に延材された隔壁が配され、隔壁に設けられた油路からシールリングで密閉された油路を介して第4クラッチ(C4)の油圧サーボに油が供給される。また、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)にスプライン連結されたプレートが隔壁の内周側まで延材されて第1連結部材(7)の外周にブシュ4oで軸支されると共に、隔壁の内周側で第4クラッチ(C4)のクラッチカバーにスプライン連結される。
【0193】
隔壁の後方には第2遊星ギア列(20)が配される。第2遊星ギア列(20)はリングギアとサンギアの歯数比は4.098と大きくなるため、変速機ケース1の内周まで配される。第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動する第3ブレーキ(B3)は第4クラッチ(C4)のクラッチカバーの外周に配され、第2リングギア(R2)に連結するクラッチカバーには第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止し、変速機ケース1に形成されたスプラインでもう一方の摩擦部材を係止する。、隔壁の外周油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第3ブレーキ(B3)の油圧サーボが形成される。隔壁の内周側で第1、第2遊星ギア列(10、20)の一体となる第1、第2サンギア(S1、S2)が第1連結部材(7)にスプライン連結される。第1、第2遊星ギア列(10、20)と第3クラッチ(C3)及び出力軸3cの構造は図14「1−TYPE」9AT、図16「2−TYPE」9AT、17「3−TYPE」11ATと同じであるため説明を省略する。
【0194】
本願の図19と特開2015−105721〜105726(AW)を比較すると、特開2015−105721〜105726(AW)の方が、胴回りが大きくなる。これはクラッチ作動油油路を入力軸に設けるため、入力軸がに二体化して太くしなければならないためで重量増に繋がる。また、変速機ケースと入力軸との油路に関して、第1、第2クラッチ(C1、C2)への油路はシーツリングで密閉しなければならず、その分軸長が長くなる。当然管路抵抗も増え制御上不利となる。更に、この変速機は入力軸の増速回転を主に使うため内部の部品が通常の変速機より高回転をする。本願の図19ではその高回転部品の半分を変速機ケース1と一体となる円筒部材2bで軸支するのに対し、特開2015−105721〜105726(AW)では高回転部品の全てを入力軸で軸支している。したがって、振動を受けやすい。当然、本願の方がシンプルで低コストとなる。
【0195】
図19と特開2015−105721〜105726(AW)を比較すると本願の図19の方がメリットはあるが、入力トルクを同じ300Nmとした図19「5−TYPE」10ATとして、図14「1−TYPE」9AT、図15「1−TYPE」15AT、図16「2−TYPE」9AT、図17「3−TYPE」11ATと比較する。単純に変速機部の軸長を比較すると、図14「1−TYPE」9ATを基準として、図16「2−TYPE」9ATが2%、図15「1−TYPE」15ATが6%、図17「3−TYPE」11ATが20%、図19「5−TYPE」10ATが28%長くなる。「5−TYPE」10ATでは第4クラッチ(C4)の配置が軸方向を28%も長くし、、図17「3−TYPE」11ATではFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する2個の遊星ギア列と5個の締結要素の連結が軸方向を20%も長くする。これらの10ATや11ATより変速比の幅(RANGE)が倍広くとれる図15「1−TYPE」15ATは、FRONT GEAR(前置変速機構)を構成する部位が3個の遊星ギア列と5個の締結要素と多いが、連結がコンパクトとなるため逆に15〜20%も短くなる。
【0196】
<6−TYPE>
段落「0018」で説明した多段変速機で、Daimlerの特開2000−266138によるCタイプ7ATと同じ変速形態で、FRONT GEAR(前置変速機構)に2種の入力軸の減速回転以外に1種の増速回転を追加させたものであり、MAIN GEAR(主変速機構)の第2構成要素に第4ブレーキ(B4)を配するためFF用にしか適用できない。前置変速機構は、4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列と第1、第2クラッチ(C1、C2)を含む4個の締結要素からなっており、4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列の組み合わせは複数あり、先行している特開2012−225506(HUNDAI)や特開2015−161312(本田)、特開2015−161312(本田)があるが、遊星ギア列の配列が平行でFF仕様としては成立が困難となる。本願は2個の遊星ギア列の組み合わせを2階建てにし、出力ギアの配置に特徴を持たせてコンパクトにした実施例として図13図24を記載するものである。
【0197】
<6−TYPE>「C5−1−1、10AT」図13図24
図13は、C5タイプ10ATのFF仕様の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図13の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7、8構成要素(A、B、C、D)が配置され、第6構成要素(B)と第1構成要素)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
【0198】
図13のFF仕様の模式図において、図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。変速装置の左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第1遊星ギア列(10)、第2遊星ギア列(20)、2階建ての第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、2階建ての第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。なお、第1遊星ギア列(10)と第2遊星ギア列(20)の間に変速機ケースと一体となる隔壁に軸支される出力カウンターギアが配される。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。また、変速機ケース後方の2階建ての第3及び第4遊星ギア列(30、40)の後部に設けられた円筒部材の内周端部で入力軸を軸支すると共に、変速機ケースの前方のもう一端で入力軸を軸支する。前置変速機構の第1、第2クラッチ(C1、C2)は各摩擦部材を径方向に2段に重ねるよう円筒部材の外周方向外側に配される。
【0199】
図13の模式図と速度線図において、MAIN GEAR(主変速機構)を構成する第1及び第2遊星ギア列(10、20)は「1〜5−TYPE」で記載したものと同じとなるため、説明を省略する。
FRONT GEAR(前置変速機構)を構成する2階建ての第3及び第4遊星ギア列(30、40)は第4遊星ギア列(40)が1階で第3遊星ギア列(30)が2階に配される。第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)と第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)が一体となって第5構成要素(A)となり、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)と第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)が連結されて第6構成要素(B)となり、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)が第7構成要素(C)となり、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が第8構成要素(D)となる。
【0200】
ここで、、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素を構成する第1、第2サンギア(S1、S2)は連結されると共に第1連結部材(7)に連結され、第2構成要素を構成する第1遊星キャリア(P1)は入力軸に第3クラッチ(C3)で連結可能とされると共に第4ブレーキ(B4)で制動可能とされ、第3構成要素を構成する第2遊星キャリア(P2)と連結される第1リングギア(R1)は出力軸と連結され、第4構成要素を構成する第2リングギア(R2)は第3ブレーキ(B3)で制動可能とされる。FRONT GEAR(前置変速機構)の第5構成要素(A)を構成する一体となる第3サンギア(S3)と第4リングギア(R4)は第1クラッチ(C1)で入力軸に連結可能とされ、第6構成要素(B)を構成する連結された第3、第4遊星キャリア(P3、P4)は第1連結部材(7)に連結され、第7構成要素(C)を構成する第3リングギア(R3)は第2クラッチ(C2)で入力軸に連結可能とされると共に第1ブレーキ(B1)で制動可能とされ、第8構成要素(D)を構成する第4サンギア(S4)は第2ブレーキ(B2)で制動可能とされる。なお、MAIN GEAR(主変速機構)の第1遊星キャリア(P1)を第3クラッチ(C3)で入力軸に連結可能とする方式より「1〜5−TYPE」に記載したように、第2遊星キャリア(P2)と第1リングギア(R1)を第3クラッチ(C3)で連結可能とする方が第3クラッチ(C3)の容量が小さくて済むため有利となるが、「6−TYPE」では第1遊星キャリア(P1)を第4ブレーキ(B4)で制動可能としなければならないため、同じ第1遊星キャリア(P1)を第3クラッチ(C3)で入力軸に連結可能とした方が、構造がコンパクトになる。
【0201】
図13の表は各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)、及び遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示す。性能を示す変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)に関して、変速比の幅(RANGE)は7,833〜0.714の10.97と10ATに相応しい値になり、前進の減速段が7段で増速段が3段と適切な変速段がとれ、変速比のステップ値(STEP)もほぼ適切となる。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)に関しては、前進4速(4th)が97.3%と他の変速段と比べ極端に悪くなるのが性能的に大きな欠点となる。これはFRONT GEAR(前置変速機構)の変速において遊星ギアの噛み合い効率が悪くなるためであるが、「5−TYPE」のように前進3速(3rd)と前進5速(5th)の2箇所の中速段が悪いわけではなく、前進4速(4th)時以外の性能はよいため、実用化に関して図24で構造を検討した。各変速段における動力の流れ等の変速形態は既に特開2012−225506(HUNDAI)等の特許文献に示されているので説明は省略する。
【0202】
図24「C5−1−1、10AT(FF)」は、図13のFF仕様の模式図を原動機からの入力動力を300Nmとしてコンセプト設計した構造図で、全長は図20の9AT(FF)と同じで、400mm程度となる。トルクコンバータ200aからの入力構造や出力カウンターギア5と噛み合うカウンターギア6を介してディファレンシャル装置9に出力する出力構造は図20と同じである。変速装置全体を収めるハウジングは、前部のトルクコンバータケース1aと変速機本体となる変速機ケース1bと後部を閉ざすの変速機ケース1cとからなり、変速機ケース1bの軸方向中央部にL字型の円筒形状の隔壁が一体として設けられ、内周円筒部の外周にアンギュラ軸受け4eが背面合わせでネジにより固定され、出力カウンターギア5を軸支する。隔壁の前方には、隔壁側から順に第1遊星ギア列(10)と第3クラッチ(C3)が配され、隔壁の後方には、隔壁側から順に出力カウンターギア5と第2遊星ギア列(20)と、2階建ての第3、第4遊星ギア列(30、40)と第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周には第1ブレーキ(B1)が配され、2階建ての第3、第4遊星ギア列(30、40)の外周には第2ブレーキ(B2)が配され前置変速機構を構成し、第2遊星ギア列(20)の外周には第3ブレーキ(B3)が配され、隔壁前方の第1遊星ギア列(10)の外周には第4ブレーキ(B4)が配され主変速機構を構成する。
【0203】
変速機の後部を閉ざすの変速機ケース1cは一体となる内周部が円筒状に前方に突き出ており、突き出た円筒部材の内周端部にはニードルローラコロ軸受け4bが配され入力軸3を軸支する。突き出た円筒部材の外周には第1、第2クラッチ(C1、C2)が配される。第1クラッチ(C1)は、入力軸3と一体となる第3サンギア(S3)と第4リングギア(R4)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は入力軸3と第3リングギア(R3)を連結可能とする。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、各摩擦部材が同軸上で径方向に2段に重なる2連クラッチ連結部材(X)が入力連結部材(Y)と一体に形成され、入力連結部材(Y)が変速機ケース1cの内周に突き出た円筒部材の前方で入力軸3にスプライン連結され、円筒部材の外周に沿って後方に延材される。入力連結部材(Y)の後端にはクラッチカバーが溶着され、2連クラッチ連結部材(X)の径方向外周と第3リングギアと連結するクラッチハブに配される第2クラッチ(C2)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配され、2連クラッチ連結部材(X)の前方には2連クラッチ連結部材(X)の径方向内周と、一体となる第3サンギア(S3)と第4リングギア(R4)に連結するクラッチハブに配される第1クラッチ(C1)の摩擦部材を押圧するサーボ機構が配される。2連クラッチ連結部材(X)とクラッチカバーの間には仕切り板によりクラッチカバーの径方向上部に配されたサーボ機構に供給されるピストンの作動油と油圧キャンセル油の通路が形成される。2連クラッチ連結部材(X)の径方向上部に配された第2クラッチ(C2)のサーボ機構と径方向下部に配された第1クラッチ(C1)のサーボ機構には、変速機ケース1cの内周に突き出た円筒部材の外周から入力連結部材(Y)に設けられたピストンリングで密閉された油路を介して作動油と油圧キャンセル油が供給される。
【0204】
第1、第2クラッチ(C1、C2)の前方には2階建ての第3、第4遊星ギア列(30、40)が配される。2階建ての1階に配された第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)は右側サイド部材が入力軸3の外周にブシュで軸支されて第4サンギア(S4)の内周を通り前方の第2遊星ギア列(20)まで第1連結部材(7)として延材され第2サンギア(S2)にスプライン連結されると共に、左側サイド部材が2階に配された第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材と一体に形成される。第4サンギア(S4)は第2遊星ギア列(20)まで延材される第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の外周にブシュで軸支されると共に前方に第2ブレーキ(B2)の摩擦部材を係止する薄板状のブレーキハブが溶着される。第4リングギア(R4)は外周部が第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)と一体となり、後方でスプライン連結されたプレートが内周に延材されて入力軸3の外周にブシュ4xで軸支されると共に、第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止するクラッチハブがスプライン連結される。2階建ての2階に配された第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)には、内周で第1クラッチ(C1)のクラッチハブの外周にブシュ4yで軸支されると共に側面に第2クラッチ(C2)の摩擦部材を係止するクラッチハブが溶着されるプレートがスプライン連結される。
【0205】
第1、第2クラッチ(C1、C2)の外周に配される第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)を制動可能とする。第3リングギア(R3)にスプライン連結されるプレートに溶着された第2クラッチ(C2)のクラッチハブは内周で第2クラッチ(C2)の一方の摩擦部材を係止すると共に外周で第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材を係止する。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bの内周に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1cに形成された油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
【0206】
2階建ての第3、第4遊星ギア列(30、40)の外周に配される第2ブレーキ(B2)は、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)を制動可能とする。第4サンギア(S4)の前方に溶着されたブレーキハブは第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され第2ブレーキ(B2)の一方の摩擦部材を係止する。第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1bの内周に成形された1ブレーキ(B1)の延材されたスプラインに係止される。第2ブレーキ(B2)の摩擦部材の前方の変速機ケース1bには第2ブレーキ(B2)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースがリティニングリングで固定される。
【0207】
2階建ての第3、第4遊星ギア列(30、40)の前方に配される第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材と一体となる第1連結部材(7)に内周でスプライン連結される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、左側サイド部材が出力カウンターギア5にスプライン連結されリティニングリングで固定される。遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、右端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)まで延材され、第2サンギア(S2)と第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)に溶着されたブレーキハブの間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。
【0208】
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の一方の摩擦部材を係止する。変速機ケース1bの内周にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、第3ブレーキ(B3)の摩擦部材の後方には第2ブレーキ(B2)のブレーキケースと一体となり第3ブレーキ(B3)の油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持されるブレーキケースが配される。
【0209】
第2遊星ギア列(20)の前方に配される出力カウンターギア5は、変速機ケース1bの軸方向中央部に配されたL字型の円筒形状の隔壁の円筒部の外周にネジにより固定された背面合わせのアンギュラ軸受け4eで軸支される。出力カウンターギア5の右外周には第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材がスプライン連結されリティニングリングで固定される。
【0210】
変速機ケース1bの軸方向中央部に配された隔壁の前方に配された第1遊星ギア列(10)は、第1サンギア(S1)が入力軸3の外周にブシュで軸支され第2遊星ギア列(20)まで延材されて第2サンギア(S2)の内周にスプライン連結される。第1遊星キャリア(P1)は、左側サイド部材が第1リングギア(R1)の外周まで延材され、外周に形成されたスプラインの前方で第3クラッチ(C3)の一方の摩擦部材を係止すると共に後方で第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材を係止し、右側サイド部材が第1サンギア(S1)の延材部にブシュで軸支される。第1リングギア(R1)は、隔壁の内周部で第1サンギア(S1)の延材部にブシュで軸支され、第2遊星ギア列(20)の第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材にスプライン連結される連結部材にスプライン連結される。
【0211】
第1遊星ギア列(10)の前方に配される第3クラッチ(C3)は、入力軸3と第1遊星ギア列(10)の第1遊星キャリア(P1)を連結可能とする。入力軸3に溶着された第3クラッチ(C3)のクラッチカバーは、変速機ケース1a、1bにボルト締めされた保持部材2a、2bの内周後方に突き出た円筒部の外周と保持部材2a、2bの側面に沿って第1遊星ギア列(10)の外周まで延材され第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材を係止すると共に、油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングを保持する。保持部材2a、2bの円筒部外周からシールリングで密閉された油路を介して第3クラッチ(C3)の油圧サーボに作動油が供給される。
【0212】
第1遊星ギア列(10)の外周の第3クラッチ(C3)の後方に配される第4ブレーキ(B4)は、第1遊星ギア列(10)の第1遊星キャリア(P1)を制動可能とする。第3クラッチ(C3)の摩擦部材の後方の変速機ケース1bの内周には、対抗して第4ブレーキ(B4)のもう一方の摩擦部材が配され、変速機ケース1bと一体となる隔壁には油圧サーボを形成するピストンとリターンスプリングが保持される。
【0213】
「6−TYPE」10ATはFF仕様に限って成立するパワートレンであり、前進4速(4th)における遊星ギアの噛み合い効率が悪くなる欠点はあるものの、その他の変速段の効率や変速比等の性能はよく、本願のように前置変速機構の2個の遊星ギア列を2階建てにしたり、主変速機構の2個の遊星ギア列を、出力ギアを挟んで配したりすることで成立する可能性が高まる。
【0214】
本発明は4個の構成要素からなる2個の遊星ギア列を2個の締結要素で制御する同じ仕様の主変速機構に、「1〜6−TYPE」の6種の前置変速機構を組み合わせた構造に関するもので、本発明により従来の構造よりシンプル、コンパクトに配することができる。総合的にこの6種を評価すると、「1−TYPE」9ATと「2−TYPE」9ATが変速比(RATIO)、変速比のステップ値(STEP)、変速比の幅(RANGE)、遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)の性能面で最も優れており、本発明の構造により最もシンプル、コンパクトになる。その他の10〜11ATはそれぞれ欠点があり使い方に注意を要する。その中でも「5−TYPE」10ATは性能と構造面の両方に欠点があり、実用化には疑問がある。現在実用化されている8ATは性能と構造面の両方に欠点があり、「6−TYPE」10ATは効率面の欠点もあるが、これら8ATより優れているので実用化の可能性はある。11ATに関しては、「1−TYPE」9ATや「2−TYPE」9ATより変速比の幅(RANGE)が大きくとれるのでそれなりの価値はあるが、乗用車にはそれほどの幅(RANGE)は必要ではなく商用車(Truck Bus)に向いている。11ATを比較すると、商用車には軸方向がコンパクトになる方がよく、性能と構造面で「1−TYPE」11ATが最もよく、構造面で「2−TYPE」11ATとなり「3−TYPE」11ATは若干劣る。「1−TYPE」15ATと「4−TYPE」14ATは「5−TYPE」10ATや「3−TYPE」11ATよりかなりコンパクトにでき、FFとしても成立するもので、乗用車と商用車に関し原動機を含めて将来一大変革をなす可能性のあるATである。
【0215】
1、1a、1b、1c ケース
2a、2b 保持部材
3、3a 入力軸
3c 出力軸
4a〜4y 軸受け
7、8 連結部材
10、20、30、40、50 遊星ギア列
200a トルクコンバータ
C1、C2、C3、C4 クラッチ
B1、B2、B3、B4 ブレーキ
S1、S2、S3、S4、S5 サンギア
P1、P2、P3、P4、P5 遊星キャリア
R1、R2、R3、R4、R5 リングギア


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