(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の床材は、床板の表面を構成する「小幅板」の乾燥収縮を、その裏面に、繊維方向が交差するように「木質板」を貼着することにより抑制するものであるから、床板の表面(すなわち、小幅板の表面)において木材の一部がはく離することを有効に抑制できるか否かは不明である。さらに、当該床材は少なくとも3層の構造をとるため、製造に相当のコストを要すると考えられ、体育館等において大量に使用する床板としては実用性に乏しい。すなわち、上記特許文献を鑑みても、床板の表面におけるはく離を抑制する技術の開発は、未だ十分にはなされているとはいえない。
【0006】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであって、表面における木材のはく離を抑制した木質床板およびその製造方法、並びに当該木質床板を備えた屋内運動施設を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いわゆる住宅用のフローリングは塗装済みの床板を張り込むのが一般的であるのに対して、屋内運動施設などの木製床は、無塗装または半塗装の床板を張った後、現場で仕上げ塗料を塗装する工法が採られている。これは、床板を張った後に競技用のコートラインを引くなど、施設に応じて表面塗装の態様を変える必要があるためである。仕上げ塗料には、高い密着性を有するポリウレタン樹脂塗料が用いられるのが一般である。
【0008】
本発明者らは、木製の床板がはく離する機序の一つに、
図1に示すものがあると考えた。すなわち、
図1の(a)に示すように、木製床の施工の際に、隣り合う木製の床板の隙間に仕上げ塗料が入り込み、硬化して塗膜3を形成する。これにより隣り合う床板が塗膜を挟んで強固に密着することとなる。一方で、木材は、環境の湿度に応じて水分を吸収して膨張したり、水分を放出して収縮したりする。したがって、木製床板は収縮する場合があるが、仕上げ塗料の塗膜と木材との間の密着力が木材繊維間の凝集力よりも大きいため、
図1の(b)に示すように、床板の収縮に伴って木材繊維間の凝集が破壊され、隣り合う床板の側面で亀裂が生じる。係る亀裂は、主として、木材繊維に並行となる床板の長手方向の側面において生じる。この亀裂により生じた細い断片がめくれ上がってはく離が生じる。はく離した木材の断片が毛羽立ったようにめくれ上がったものは「ささくれ」とも呼ばれ、負傷事故の原因になりやすいと考えられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、
図2に示すように、木質床板1の側面に、木材繊維間の凝集の破壊に先行して破壊ないし分離する低密着層2を形成することにより、木質床板1の亀裂、はく離ないしささくれを効果的に抑制できることを見出した。また、当該低密着層2を、木質床板1の側面に形成しつつ表面には形成しないことにより、表面における仕上げ塗料の密着不良を生じることなく、亀裂、はく離ないしささくれを抑制できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)本発明に係る木質床板は、側面の上部に低密着層が形成され、かつ、表面には低密着層が形成されていない木質床板である。
【0011】
(2)本発明に係る木質床板において、低密着層とは、木質床板の木材繊維間の凝集力と比較して、右記(i)〜(iii)の力の少なくともいずれかが小さい層である;(i)低密着層の保形力、(ii)低密着層と木質床板の木材との間の密着力、(iii)低密着層と仕上げ塗料の塗膜との間の密着力。
【0012】
(3)本発明に係る木質床板は、さね加工されたもので、低密着層が形成される側面の上部が、側面に形成された雄ざねまたは雌ざねの上部側面であってもよい。
【0013】
(4)本発明に係る木質床板は、相じゃくり加工されたもので、低密着層が形成される側面の上部が、側面に形成された表面側突出部または表面側切欠部の側端面であってもよい。
【0014】
(5)本発明に係る木質床板は、屋内運動施設用床板として好適に用いることができる。
【0015】
(6)本発明に係る木質床板において、低密着層は、ワックスを含有してなることが好ましい。
【0016】
(7)本発明に係る木質床板の製造方法は、低密着性コート剤を、木質床板の表面には塗装せずに、前記木質床板の側面の上部に塗装する工程を有する。
【0017】
(8)本発明に係る木質床板の製造方法において、低密着性コート剤は、ワックスまたはワックスを分散相として含有するコロイド溶液であることが好ましい。
【0018】
(9)本発明に係る屋内運動施設は、本発明に係る木質床板を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面における木材のはく離が抑制された木質床板が提供される。従って、木製床を有する施設における上述のような負傷事故の可能性を低減することができ、係る施設の安全性を高めることができる。
【0020】
また、本発明によれば、木材のはく離が抑制されるとともに、表面における仕上げ塗料の密着不良の懸念がない木質床板が提供される。従って、従来の木製床の施工手順に変更や工程の追加等を行う必要が無いため、安全で、かつ簡便に使用することができる木質床板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る木質床板1、木質床板の製造方法および屋内運動施設について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
本発明において「木質床板」とは、基材として木材を用いた床板、または、少なくとも表層材に木材を用いた床板をいう。
【0024】
本発明における木質床板1の各部の名称を
図3に示す。同図に示すように、床板として使用した時に、上側となる面を「表面」11、下側となる面を「裏面」12、地面に対して垂直となる四方の面をいずれも「側面」13という。すなわち、一の木質床板1において、側面13は、短手方向および長手方向のそれぞれに二面ずつ、計四面存在する。係る名称は、後述する実施例1〜3の試験木片についても同様に用いている。
【0025】
木質床板1の側面13は、
図3に示すように加工されていないものであってもよく、何らかの加工が施されたものであってもよい。側面13の加工としては、
図4に示すさね加工や、
図5に示す相じゃくり加工などを挙げることができ、本発明においては、これらいずれの加工が施されたものも好適に用いることができる。また、側面13の加工は、四つの側面13の全てに施されていてもよく、
図4および
図5に示すように長手方向のみや、短手方向のみ、あるいは四側面13のうちのいずれか一面以上に施されているものであってもよい。
【0026】
本発明に係る木質床板1は、側面13の上部に低密着層2が形成され、かつ、表面11には低密着層2が形成されていない木質床板である。ここで、「側面13の上部」とは、側面13において上方(表面11側)の部分をいう。
図2に示す木質床板1のはく離抑制機序に照らせば、側面13の少なくとも上部に低密着層が形成されていれば、木質床板1の表面11付近における亀裂ないしはく離を抑制できることは明白である。側面13の上部として、具体的には、例えば、側面13の上側1/2、上側1/3、上側1/4、上側1/5の範囲などを挙げることができる。また、低密着層2は、側面13の(上部を含め)全部に形成されていてもよい。
【0027】
低密着層2が形成される側面13は、少なくとも長手方向の側面13である。床板の亀裂ないしはく離は、木材の繊維方向(すなわち床板の長手方向)に沿って生じる場合が多いことから、長手方向の側面13に低密着層2を形成することにより、亀裂ないしはく離を効果的に抑制できる。ただし、低密着層2は、長手方向および短手方向のいずれもの側面13に形成してもよい。
【0028】
また、後述する実施例3で示すように、隣り合う側面13(換言すれば、隣りに配置されて互いに向かい合う側面13同士)の少なくとも一方に低密着層2が形成されていれば、充分なはく離抑制効果が得られる。従って、長手方向あるいは短手方向のそれぞれの二側面13のうち少なくとも一方に低密着層2が形成されていればよいが、長手方向あるいは短手方向の二側面13、あるいは四側面13すべてに低密着層2が形成されていてもよい。
【0029】
さね加工された木質床板1では、
図4に示すように、側面13に形成された雄ざね14または雌ざね15の上部側面16が、「側面13の上部」として例示される。すなわち、本発明に係る木質床板1がさね加工されたものである場合、低密着層2は、雄ざね14または雌ざね15の上部側面16に形成されることが好ましい。
【0030】
相じゃくり加工された木質床板1では、
図5に示すように、側面13に形成された表面11側突出部17または表面11側切欠部18の側端面19が、「側面13の上部」として例示される。すなわち、本発明に係る木質床板1が相じゃくり加工されたものである場合、低密着層2は、表面側突出部17または表面側切欠部18の側端面19に形成されることが好ましい。
【0031】
本発明において、低密着層2とは、木質床板1の木材繊維間の凝集力と比較して、(i)低密着層2の保形力、(ii)低密着層2と木質床板1の木材との間の密着力、(iii)低密着層2と仕上げ塗料の塗膜3との間の密着力の(i)〜(iii)の少なくともいずれかが小さい層をいう。係る性質を有するため、低密着層2は、床板が収縮して隣り合う床板を引き離す方向に引張力が加わった場合には、木材繊維間の凝集の破壊に先行して破壊ないし分離する。
【0032】
なお、「木材繊維間の凝集力」とは、木材繊維の間に働く引力であって、木材が一定の形状を保つことができる素因となっている力をいう。すなわち、本発明において、木材繊維間の凝集力は、「木材の保形力」と交換可能に用いることもできる。
【0033】
すなわち、木質床板1の木材繊維間の凝集力および上記(i)〜(iii)の力のうちで、(i)の力が最も小さい場合は、当該引張力に対して、
図2(b)に示すように、低密着層2自体が破壊する。また、(ii)の力が最も小さい場合は、
図2(c)に示すように、低密着層2と木材との間が分離する。また、(iii)の力が最も小さい場合は、
図2(d)に示すように、低密着層2と仕上げ塗料の塗膜3との間が分離する。これらのいずれの態様であっても、結果として木材繊維間の凝集の破壊が抑制されることから、側面13に低密着層が存在することにより、木質床板1の表面11における亀裂ないしはく離を抑制することができる。
【0034】
なお、本発明において、仕上げ塗料とは、床板を使用場所に張った後、その現場で床板の表面に塗装される塗料をいう。仕上げ塗料は油性のものと水性のものとに大別され、ポリウレタン樹脂を塗膜の形成成分とするものが頻用される。本発明に係る仕上げ塗料の成分は特に限定されず、これらのいずれも用いることができる。
【0035】
以上のとおり、本発明では、上記木材繊維間の凝集力に比べて(i)〜(iii)の力が小さい性質を「低密着性」という。
【0036】
低密着層2は、低密着性を有する限りいかなる成分から構成されていてもよいが、その有効成分(低密着性を発揮する主因となる成分)として、具体的には、例えば、ワックス(ろう)やシリコーン、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。
【0037】
ここで、ワックスとは、一般に、常温で軟らかく滑らかな固体であり、水の沸点(100℃)より低い融点を持ち、加熱すると比較的低温で液体化する性質を有する、炭化水素、中性脂肪、高級脂肪酸、または、高級脂肪酸と一価もしくは二価の高級アルコールとのエステルをいう。ワックスは、動物、植物あるいは石油などの鉱物から精製して採取される天然ワックスと、化学合成により得られる合成ワックスとに大別され、具体的には、表1に示すような種々のワックスを例示することができる。
【0039】
これらの種々のワックスは、常温で軟らかく滑らかな固体であるというワックスの一般的性質に起因して、木質床板1に塗装すると、低密着性を備えた層を形成することができる。また、常温で個体であるため、木質床板1の側面13に塗装されたワックスは表面11に滲出することがなく、表面11に低密着層2を形成して仕上げ塗料の密着不良を引き起こすという懸念もない。従って、表1に示すようないずれのワックスを用いても、好適な低密着層2を形成することができる。
【0040】
本発明に係る木質床板1は、低密着層2を、木質床板1の表面11には形成せずに、その側面13の上部に形成することにより、つくることができる。低密着層2は低密着性コート剤を塗装することにより形成することができる。
【0041】
ここで、本発明において「低密着性コート剤」とは、木材に塗装するための固体または液体状のコート剤であって、それを木材に塗装すると、有効成分が木材繊維の内部にはほとんど浸透せずに塗装面において塗膜(層)を形成し、当該層が低密着性を有するものをいう。
【0042】
低密着性コート剤の有効成分としては、低密着層2の有効成分と同様に、ワックス(ろう)やシリコーン、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。低密着性コート剤は、溶媒や着色料(顔料)など、有効成分以外の成分を含むものであってよく、その形態も、固体状または液体状のいずれであってもよい。なお、この場合の液体状には、溶液の他、エマルション、フォーム、ゲル、サスペンジョンなどを含む。
【0043】
例えば、ワックスを有効成分とする場合は、固体状または液体状のワックスそのものや、ワックスを分散層として含有するコロイド溶液を、低密着性コート剤として用いることができる。なお、「ワックスを分散層として含有するコロイド溶液」とは、ワックスの微粒子を含有するエマルション、ゲル、サスペンジョンまたはフォームなどの液体をいう。
【0044】
塗装する手法は低密着性コート剤の態様に応じて適宜採用することができ、例えば、低密着性コート剤が液体状であれば、刷毛塗り、スプレー方式による噴射、ロールコーター、カーテンフローコーター、静電塗装、しごき塗りなどの手法により塗装することができる。また、低密着性コート剤が固体状であれば、当該固体を側面13の上部に押し当て、擦り付けるようにして動かすことにより塗装することができる。
【0045】
次に、本発明は、木質床板の製造方法を提供する。本発明に係る木質床板の製造方法は、低密着性コート剤を、木質床板1の表面11には塗装せずに、前記木質床板1の側面13の上部に塗装する工程を有する。本方法において、上述した本発明に係る木質床板1と同じまたは相当する発明特定事項については、再度の説明を省略する。
【0046】
最後に、本発明は、本発明に係る木質床板1を備えることを特徴とする屋内運動施設を提供する。本発明に係る屋内運動施設は、フローリング張りの際に本発明に係る木質床板1を並べて張ることによりつくることができる。すなわち、従来の床の設計・施工方法において、従来の床板に代えて本発明に係る木質床板1を用いることにより、本発明に係る屋内運動施設をつくることができる。スポーツ施設としての使用、清掃、維持管理等の使用方法も、従来の屋内運動施設と同様に行うことができる。
【0047】
すなわち、本発明に係る屋内運動施設は、本発明に係る木質床板1を備えることで床板のはく離が抑制されていることから、従来の木製の床板を備えた施設よりも安全性が高められている。また、本発明に係る屋内運動施設は、施工および維持管理を含めた使用に際して特段の工夫や変更ないし手間やコストを要するものではないため、従来の木製の床板を備えた施設と同様に施工および使用可能で、かつ、従来に比べて格段に安全性が高められている。
【0048】
なお、屋内運動施設は、屋内スポーツの用に供する屋根、床および壁を備えた施設をいい、具体的には、例えば、バスケットボール、バレーボール、テニス、バドミントン、ランニング、卓球等を行うための体育館や、剣道や柔道、なぎなた等を行うための武道場などを挙げることができる。
【0049】
以下、本発明に係る木質床板1、木質床板の製造方法および屋内運動施設について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0050】
本実施例においては、特段の記載がない限り%は質量百分率((w/w)%)を表す。
【0051】
<実施例1>木材のはく離抑制効果の検討
床板に用いられるものと同品質の試験木片(厚さ7mm、幅28.6mm、長さ300mm、長手方向が木材の繊維方向と一致しているもの)を用意した。試験木片の長手方向の一側面に、コーティングするための試験物質(市販の木材用撥水コート剤、成分:固形パラフィン1〜5%、アクリル樹脂30〜35%、水60〜69%、形態:エマルション)を刷毛で塗って塗装し、室温に48時間静置して乾燥させた。以下、試験物質を塗装した側面を「塗装側面」という。
【0052】
次に、両面テープを貼付した台板の上に、塗装側面が向かい合うように2枚の試験木片を並べて固定して、試験材を作成した。このとき、2枚の試験木片の間は0.1mmの隙間を空けた。この試験材を計10セット作成し、A1〜A10とした。また、比較対照として、塗装側面を有さない試験木片により同様の試験材を10セット作成し、D1〜D10とした。
【0053】
続いて、「フローリング張り標準仕様書」(一般社団法人日本フローリング工業会、平成27年3月1日発行)の[第9章 第7節 9.7.2 塗装、ライン引]に従って、試験材の表面に仕上げ塗料(二液型水性ポリウレタン樹脂塗料、商品名「ウレテイト水性二液」、大東ペイント)を80〜100g/m
2/回の塗布量で4回塗布した後、室温にて2週間養生した。
【0054】
試験材の台板を外して、
図6の(a)および(b)に示す態様により引張試験を行った。同図に示すように、試験材のそれぞれの試験木片4の端部を、引張試験機(「4467型」、インストロン)の試験片掴み具5に把持させ、2枚の試験木片が分離するまで、1mm/分の速度で上方向に引っ張り、最大破壊荷重(キログラム重、kgf)を測定して平均値を算出した。また、試験木片の分離により生じた破断面6および表面における木材のはく離状況を目視にて観察し、下記の基準により評価して平均値を算出した。その結果を表2に示す。また、評価0〜3のそれぞれに該当した試験材の一例を
図7の写真に示す。
【0055】
[木材のはく離状況の評価基準]
評価0:破断面および表面のいずれにおいても木材のはく離が見られない。
評価1:破断面において軽微な毛羽立ちがある。
評価2:破断面において木材のはく離がある。
評価3:破断面から表面にかけて木材の破壊がある。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、最大破壊荷重の平均値は、A1〜A10の試験材では41.460kgfであったのに対して、D1〜D10の試験材では64.464kgfであった。すなわち、塗装側面を有する試験材の方が、塗装側面を有しない試験材と比較して最大破壊荷重が顕著に小さいことから、より小さい引張力で分離することが明らかになった。
【0058】
また、木材のはく離状況評価の平均値は、A1〜A10の試験材では0であったのに対して、D1〜D10の試験材では2.3であった。すなわち、塗装側面を有する試験材の方が、塗装側面を有しない試験材と比較して当該平均値が顕著に小さいことから、塗装側面の存在により木材のはく離が顕著に抑制されたことが明らかになった。
【0059】
これらの結果から、ワックスを分散相として含有するコロイド溶液を塗装することにより、木材繊維間の凝集の破壊に先行して破壊ないし分離する低密着層を形成できることが明かになった。また、木質床板の側面に低密着層を形成することにより、表面における木材のはく離を抑制できることが明らかになった。
【0060】
<実施例2>低密着層の成分の検討
実施例1に記載の方法により試験材を作成した。ただし、試験物質は、表3に示す試験物質1〜7を用いた。試験物質1〜3および5〜7は刷毛で塗ることにより、試験物質4はスプレー方式で噴射することにより、それぞれ塗装を行った。
【0061】
【表3】
【0062】
作成した試験材について実施例1に記載の方法により引張試験を行い、破断面を目視で観察して、試験物質の低密着性および表面滲出性を下記の基準により評価した。その結果を表4に示す。
[低密着性の評価基準]
有り:破断面および表面のいずれにおいても木材のはく離が見られない。
無し:破断面および表面の少なくともいずれかで木材のはく離が見られる。
[表面滲出性の評価基準]
有り:側面に塗布した試験物質が表面に滲み出ている。
無し:側面に塗布した試験物質が表面に滲み出ていない。
【0063】
【表4】
【0064】
表4に示すように、試験物質1および試験物質2は、試験物質の塗布により形成した塗膜に水分が残存している場合は低密着性を有したが、当該塗膜が完全に乾燥した場合は低密着性が無くなったため、評価は「やや有り」であった。また、当該塗膜において微生物繁殖の懸念があるため、木質床板の塗料としての使用には適さないことが明らかになった。
【0065】
次に、試験物質3、試験物質4および試験物質5は、低密着性は「やや有り」または「有り」であったものの、表面滲出性が大きかった。すなわち、木質床板の側面に塗布した場合に、表面において仕上げ塗料の密着不良を生じさせる懸念があることが明らかになった。
【0066】
一方、試験物質6および試験物質7は、低密着性が十分に有り、木材のはく離を効果的に抑制した。また、表面滲出性も無かった。
【0067】
これらの結果から、ワックスまたはワックスを分散相として含有するコロイド溶液が、低密着性が有り、かつ表面滲出性が無いことが明らかになった。すなわち、表面における仕上げ塗料の密着不良を生じさせることなく木材のはく離を抑制できる点で、木質床板の側面に形成する低密着層は、ワックスを含有してなるものが好ましいことが明らかになった。
【0068】
<実施例3>単面塗布の有効性の検討
実施例2の試験物質6および試験物質7について、実施例2と同様の試験を行った。ただし、試験材において向かい合う2枚の試験木片の長手方向側面において、塗装側面は一面だけとし、他の一面は試験物質を塗布しないものとした。
【0069】
引張試験を行って生じた破断面を目視で観察して低密着性を評価した。その結果、実施例2の結果と同程度に、十分な低密着性を有していた。この結果から、木質床板の長手方向の少なくとも一側面に低密着層を形成することにより、木材のはく離を抑制できることが明かになった。